フューチャー・リテラシー:インデックス

-- 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」で複雑系の

             過去・現在・未来を読み解く --

 ・はじめに

 ・年表

前編:「相互作用」と「コミュニケーション」の歴史に学ぶ
一章 【範・縁】:「ミクロ・マクロ・ネットワーク」138億年

 物理世界では「相互作用」、生命世界では「コミュニケーション」が「個」を繋ぎ、ネットワークのパターンを描く。「ミクロ・マクロ・ネットワーク」の視点から、新たな関係の創造史を宇宙・生命・社会の視点で俯瞰する。

1.1 「宇宙」と「地球」の形成

 ●ビッグバンの冷却とともに徐々に形づくられる宇宙

 ●ファーストスターが銀河の種をまきちらした


 ●分子の製造工場「地球」


1.2 「生命」

 ●体内のネットワーク
  ・錯覚する脳

 ●道具との共進化への道
  人類進化の源泉、オルドヴァイ渓谷
  ・弱点だらけの草原進出
  ・残念な進化と脳の発達
  ・脳と道具の共進化
  ・ヒトと道具が紡ぐメタ進化
【閑話休題】「メディアとヒトの誕生」つらつらと考える

1.3 激動の波に適応する「社会・経済」

 ●産業革命はなぜ18世紀にイギリスで始まったのか
 ●交通・通信インフラとグローバル交易の共進化

1.4 ヒトと共進化する「メディアとネットワーク」

 ●「言葉」が変わると考え方も変わるということ

 ●社会と思考を激変させた「文字」

 ●研究は「文字」を書くことによってのみ成立する

 ●正確な計算を行う機械
  ・歯車で稼働する苦難のオートマタ
  ・エジソンの光がコンピュータとヒトの未来を灯す

 知的生産のための道具

 ●ゲームという仮想世界
  ・メタバース

後編:【ミクロ・マクロ・ネットワーク】で織る未来 

 「ひらめき」は未来を読み解く最初の一歩だ、その一歩を踏み出すからこそ未来が描かれてゆく。「ミクロ・マクロ・ネットワーク」で読み解く未来の散策法と具体例について示す。


二章 【型・編】:未来を読み解く散策法 

2.1 準備

 ●仮説推論と類推で紡ぐ「未来の物語」

 ●「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデル

2.2 アイデア・プロセッシング
 ●概要
●Step2: 情報散策
  ・本の散策

2.3 付録

 ●【閑話】何も考えない「閃き!」のとき
 ●【閑話】お勧めの10冊

【未整理】

三章 【顧・紡】:1990年から描く未来

 google、amazon、iPhoneが登場して、Web2.0と言う言葉が生まれて初めて気がつくのではなく、起業家たちが閃くのと同時かそれ以前に、誰もがコンセプトを生み出すことができる。
 1990年代に読み解いく未来、現代ではあたりまえとなったサービス・コンセプト例と発想の過程を紹介する。

3.1 商品として未来を具体化する

 3.1.2 気づきのあるネットワーク・サービス:AwarenessNet(1995年)/レコメンド

3.2 アイデアとプロトタイプで描く
 本節では、アイデアやプロトタイプについて、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルによる「コンセプト編集」に焦点をあてて例示する。

  3.2.1 動的に適応する仮想コンピュータ(1990年)/クラウド
  3.2.2 社会変化に適応するバーチャル・オフィス(1992年)/コ・ワーキング
  3.2.3 通信サービス・アシスタント(1994年)

四章 【活・織】:2020年から描く未来 

4.1 計画されている未来のコンセプト
 4.1.1 実世界と虚像が共進化する世界:ミラーワールド
 4.1.2 計画されている未来のアプリケーション
 4.1.3 ミラーワールドをけん引するメディア:スマートグラス

4.2 コミュニケーション・インフレーション 
 -- 「知」の断片化がもたらすヒトの「未来」--
 4.2.3 メタコンテンツの生産
 4.2.4 複雑系に対する思考のアウトソース
 4.2.5 マルチバース世界のプラットフォーム

五章 【環・綾】 螺旋:知の淵を渦巻く振り子



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課題設定:ネットバカの未来を支援する

 白板にむかって文字を書こうとしたときに、小学生レベルの漢字が書けなくなった経験をしたことはないだろうか。紙の上で書かなくなった習慣が、あれほど訓練した漢字の記憶を消し去ってしまった。ヒトはメディアに能力をアウトソースするとともに、自身の能力を失い続けてきた。
 そして今、「書く言葉」と活版印刷が構築してきたシーケンシャルに熟考する論理的な思考を手放しつつある。


●浅い思考のモノたち


 いつの間にか長い文章を書いたり、読んだりすることが苦手となってしまった。長時間、文章を読むことに集中できないのだ。グーテンベルクが起点となった「深い読み」の習慣は、学校での学びの経験と、一部の知的生産者だけのものとなろうとしている。ネット中毒、スマホ中毒が「注意欠陥障害」を生み、ヒトを高速データ処理機械に変え、浅い思考のモノたちを大量生産している。

 老人たちは人類誕生から繰り返して「最近の若いものは」と言い続け、それでも若者たちは新しい時代を切り開いてきた。今何が変わり、次にどこに向かおうとしているのか。


●「書く言葉」の時代


○「声の言葉」から「書く言葉」への転換

 「声の言葉」から「書く言葉」への転換は、個人の記憶力と表現力を減衰させながら「言葉」のあり方と語彙を増やし、それを使うための思考法を変えた。

 自然環境を文字への置換と文字から脳内のイメージに置きかえるための努力が、ヒトの論理的思考を育てる。文字を書いていないときにも、曖昧性を排除して捨象し、シーケンシャルに論理的に書き留める回りくどい思考法を定着させ、新たな哲学・数学・科学を、教育制度を、新たな発見と創造を生み出し続ける。
 
 活版印刷が集団に空間と時間を超えて深く吟味して記憶する文化をつくり、集団で修正して編集するコミュニケーション能力を与える。

〇「情報世界」に「書く言葉」をうつす

 20世紀末には、融通の利かないコンピュータに語り掛ける言葉=プログラミングの言葉を構築する。人工的な共通言語は流行により複数登場するものの、世界中のプログラマが同じ言語を使って新しい文化を交換する。

 シーケンシャルに論理的かつ厳密な記述を要求する書く言葉の記憶は、その回りくどい記述方法がゆえに膨大なものとなり、それを扱うために分業に分業を重ね専業文化して文字の記憶を重ね続け、ついにコンピュータのネットワークを使って「情報世界」にそれをうつす。

 そしてヒトは、その膨大な記憶の波に溺れそうになりながら脳内ネットワークを再構築し続ける。誕生後まもなくふりそそぐ情報の嵐のなかで育つ新世代には、さらなる適応進化が始まっている。


●「情報世界」で生きる


○断片化するコンテンツと注意力


 1ショットのつぶやき、断片化された動画、表現未満のコンテンツが瞬間的なインパクトを求めて放出される。ワンクリックの「いいね!」、リツイート(引用再掲)が飛び交い。家族や友人に気が向いたときにショートメッセージとスタンプを交換し、感情のように即時性をもった言葉が「情報世界」をかけめぐる。

 高速に処理できるものを好んで選び、コンテンツのさらなる断片化を進め、ヒトの思考とコンテンツの断片化が互いに影響を与えながら変化する。感情のように即時性をもった言葉が「情報世界」をかけめぐる。

 ヒトのコミュニケーションは受け取ったメッセージに感情が先行し、やや遅れて論理的思考が解釈を重ねる。断片化したコンテンツの世界では、感情から思考に切り替わる瞬間に次のコンテンツに切り替わり、思考の欠片だけが残像として記憶される。

〇時を分割して高速に思考を切り替える(時分割マルチタスキング)

 TVを聞きながらYoutubeを眺め、TVを時々見て、オートでゲームをする。動画音楽を視聴しながら、テキストを書き、つど検索し、メールや挿入されるニュース・CMを眺め、相場を確認しながら、Lineの割り込みを処理する。テレビ、スマホ、PCやパッドを次々と切り替えて利用する。

 「情報世界」のサービスたちがヒトの有限時間を奪い合い、視聴覚を中心に情報の嵐が降り注ぐ。ヒトの脳はそれに応え、時を分割して切り替え、感情回路を使って瞬時に判断・選別して記憶し、極短時間の論理を働かせる。生態による時分割のマルチタスク処理だ。

 長いコンテンツを読む際にも、「情報世界」のコンテンツ散策と同様の速読法を使う。「F」字に読み飛ばして、直感で重点箇所を見きわめ断片化し、高速で浅い理解とともに探索を進める。

 常に作業の中断を、新しい情報の取得を求めるようになり、割り込みを積極的に受け容れ、短期にメディアとコンテンツを切り替えながら思考する。


●閑話:複雑系を読み解く思考法


 課題設定の前に、柔軟体操をしてみよう。

 100年後のヒトが脳力を外界にアウトソースして、どのような思考方法を得ようとしているのかを仮説してみる。現在獲得しようとしている思考法のベクトルを延長して、直感でヒトの思考の変化をとらえる。SFなどを参考にしてみるのもいいだろう。

現状:
 ヒトは、膨大な記憶を「情報世界」にアウトソースし、コンテンツを分節・断片化する時分割マルチタスク思考を獲得しようとしている。

100年後: 同時発生する複雑な情報を読み解く並列思考法の獲得
・関連する複数の情報を主観なくインプットして、瞑想により情報を整理して解を得る科学的な思考法が開発される。ディープラーニングのように、解に到達する道筋はわからず結果だけが導きだされる[4]。
・非リニアな文字に思考をアウトソースし、過去・現在・未来を同時に知覚して思考する。事象の逐次認識から同時認識へ[5]。
・複雑な因果関係に支配される事象を今おきていることとして読み解き、未来を予測しながら行動する[6]。

 未来の予測の正否は問題ではない。現状から直感してありそうな遠い未来を仮説してみると、現在との延長線をメタファーのような道具として利用できる。


●課題設定


 コンテンツを分節・断片化して時分割マルチタスクで瞬時に情報を選別し理解する、新しい時代のヒトの思考法とコミュニケーションを支援する道具を提案する。

○メタコンテンツ編集環境

 分節・断片化したコンテンツを統合・編集し、時分割マルチタスク思考活用する「メタコンテンツ編集環境」を提案する。

○メタコンテンツの単位コンテンツ

 「メタコンテンツ編集環境」の前提となる、扱いやすい「単位コンテンツ」のあり方を提案する。


参考書籍:
[1] ニコラス・G・カー(2010), "ネット・バカ :インターネットがわたしたちの脳にしていること", 篠儀直子, 青土社
[2] M.マクルーハン(1986), "グーテンベルクの銀河系 :哲学人間の形成", 森常治訳, みすず書房
    Marshall McLuhan(1962), "The Gutenberg Galaxy: The Making of Typographic Man", University of Toronto Press
[3] 石田英敬, 東浩紀(2019),"新記号論 :脳とメディアが出会うとき", ゲンロン
[4] 水樹和佳(1980), "樹魔", 集英社
[5] テッド・チャン(2003), "あなたの人生の物語", 浅倉久志他訳, 早川文庫
[6] 高野和明(2011), "ジェノサイド", 角川書店

Amazon.co.jp: ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること : ニコラス・G・カー, 篠儀直子: Japanese Books

Amazon.co.jp: グーテンベルクの銀河系―活字人間の形成 : マーシャル マクルーハン, 森 常治: Japanese Books

AmazonAmazon.co.jp: 新記号論 脳とメディアが出会うとき (ゲンロン叢書) : 石田 英敬, 東 浩紀: Japanese Books

Amazon.co.jp: 樹魔・伝説 eBook : 水樹 和佳子: Kindle Store

Amazon.co.jp : あなたの人生の物語

Amazon.co.jp: ジェノサイド : 高野 和明: Japanese Books






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コンテンツの社会:連想記憶を支援する情報流通サービス

 ヒトは通信網や交通網などのコミュニケーション手段を使ってコミュニケーション能力を高めることにより、集団の中からより良い文化を発見し、学び、創造し、時空を越えて普及して社会進化のサイクルを回す。情報世界においてヒトは、膨大なコンテンツ群の中から情報流通サービスというコミュニケーション手段を用いて「価値あるコンテンツ」を探し閲覧する。ヒトと文化の共進化のサイクルを次のステップに進めるあらたなコミュニケーション手段について考えてみよう。


●背景: ヒトの記憶と検索エンジン


 ヒトの記憶を単純化すると次のように表現できる。

  符号化⇒記憶⇒「検索ワード(イメージ)」により想起

 ヒトが何かを学び長期記憶にため込むことができる情報量には限界があり、辞書や百科事典はヒトの記憶力をアウトソースする。ヒトエンジンを使ってまだ学習していない膨大な情報を調査選別して集め、「検索ワード」で探し出せるようインデックスして書きためる。この単純な記憶のアウトソースは、ヒトの知識量とそのあり方激変させた。

 「情報世界」における検索エンジンの仕組みは、ヒトの記憶力をアウトソースする。ネットワークを駆け巡るソフトウェアボットとヒトエンジンを使って、膨大な玉石混合のコンテンツを評価選別して集め、「検索ワード」で探し出せるようリストアップする。この単純な記憶のアウトソースは、ヒトの知識量とそのあり方を激変させた。

 ヒトは、無数にあるコンテンツの中から必要なものを探索して、自身の記憶のように想起するという脳力を手に入れたのだ。

 「検索ワード」から得られるコンテンツは、そのワードを大量に含み、人気があるベストコンテンツにバイアスされ絡めとられていく。ヒトが持つ関連や連想の記憶をもとに、ロングテールと呼ばれる広範囲な、またはニッチな興味に対応するコンテンツを取得することが難しく、多くの価値あるコンテンツが生存競争に敗れ消えていく。
 

●お題


 ヒトの連想記憶をメタファーとして、「情報世界」におけるヒトのコミュニケーション能力(=情報探索能力)をたかめる道具(情報流通サービス)を提案する。


●材料・素材


○前提

・インターネットの通信速度とコンピュータの処理能力が大幅に高速化するが、それ以上にコンテンツ量が爆発的に増大する。

・「リアル世界」でのグローバル経済の拡大、各国所得の平準化、世帯収入の低下、基本的な生活のためのコストの低下、余暇の増加により「情報世界」への依存度がいっそう高まる。
・「情報世界」を中心とする知の貧富の格差が拡大する。

○想定するプラットフォーム

 とりあえずインターネット&Webを想定

○ヒトエンジン

 コンテンツを生産し、類似するコンテンツ間にリンクをはり、コンテンツの評価を行い、アクセス履歴を生産するなどのヒトによる駆動力(コミュニケーションによって借りることができる他者の力)をヒトエンジン呼ぶこととする。定型演算処理が得意な演算エンジン、パターン認識が得意なAIエンジンとともに「情報流通サービス」を支える駆動力となる。本節では特にヒトの連想力を活用する。

○距離をつくる

 コミュニケーションは、距離のある世界において成立する。歩いて相手に近づく、太鼓で遠くの仲間に危険を知らせる、相手を指定して電話で遠隔に通話する。
 「情報世界」のコンテンツは無限にフラットにそこにあり、距離のない世界に距離をつくるところからコミュニケーションが始まる。検索エンジンは、「検索ワード」を軸にコンテンツに距離をつくり、他からリンクされているもの、「検索ワード」を多く含むもの、アクセス数の多いものを近づける。


●コンセプト編集


○アイデアを言葉で表現する

 ・ネーム(呼称): コンテンツの社会と連想記憶
 ・クレーム(短文): 「情報世界」におけるヒトの営みにより変化するコンテンツ間のつながりにより連想記憶を表現し、それが描くコンテンツの社会をヒトの情報探索に活用する。

○着想:

■コンテンツの社会(見立て)
 コンテンツは、自身の生存のために関連する他のコンテンツとつながりたがる。ヒトのコンテンツを介したコミュニケーションにより、コンテンツ間につながりを形成して、強化・弱化しつつコンテンツグループを、やがてコンテンツの社会を構成していく。
 現状のコンテンツは非常にプリミティブな原始社会の段階にあり、コンテンツ間にはられたリンク、youtubeなどの舞台創造と閲覧の仕組み上のレコメンド、検索語にバイアスされたつながりに限定されている。

■連想記憶のモデル(知識のライン)[1]
 ミンスキーは、ヒトの心を役割をもつエージェントの集まりと見立て、記憶方法を知識ラインというモデルで表現した。
 ・学んだことの一つひとつを、初めて学んだエージェントたちに結びつけて覚えていると仮定する。
 ・何か良い考えが浮かんだり、問題を解決したり、あるいは忘れがたい経験をしたりすると、必ず、それを<表現する>ためのエージェント間のつながりの構造=知識ラインが活性化される。
 ・後になって、その知識ラインを活性化させると、その知識ラインに接続していたエージェントたちが活性化され、心の<状態>が、前に問題を解決したときや良い考えが浮かんだときと同じような<状態>になる。これによって、新しいが似たような問題は比較的楽に解けるようになる。
 ・複数の知識ラインを組み合わせることにより、新しい知識ラインを組み立てることもできる。

Kライン
   知識ラインのイメージ

 六角形はエージェントを表し、それぞれのつながりが知識ラインである。例えば「凧あげをする男の子」という入力(凧=kP, 男の子=kQ)に対して、「凧」「糸」「空」「赤い」、「子供」「男の子」「帽子」などのエージェントに知識ラインをつなげる。


○コンテンツの知識ラインとは?(6W1H)

・いつ(When): ヒトがコンテンツを連続して閲覧したときに
・どこで(Where): 情報空間で
・誰が(Who): コンテンツが
・誰と(Whom): (同じ興味で)連続して閲覧されたコンテンツたちと
・何をする(What): つながる
・なぜ(Why): 再び似た興味で閲覧されたときに思い出すために
・どのように(How): ヒトがコンテンツを閲覧するたびに、コンテンツ間のつながりを知識ラインとして記憶する

○「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルでコンセプトを表現する

コンテンツの知識ライン:
■構成要素
 ・ミクロ: コンテンツ(ヒトを含む)
 ・コミュニケーション: ヒトが(同じ興味で)連続して閲覧したコンテンツ間のつながり
 ・マクロ: 複数の「コンテンツ間のつながり」が描くコンテンツグループ
 ・メタ・ネットワーク: ヒトが(同じ興味で)連続してコンテンツグループを横断して閲覧した際にコンテンツグループ間のつながりを生成、「コンテンツグループ間のつながり」が描くネットワーク構造
 ・環境: リアル世界

■ネットワークの特性
 ・多次元性・多重所属: コンテンツは複数のコンテンツグループに同時に所属し、複数のヒトの興味に呼応して様々なコンテンツグループが多次元に形成される
 ・適応・動的特性: リアル世界のヒトの興味の変化に適応して、コンテンツグループが動的に変化する
 ・フィードバック・ループ: ヒトがコンテンツを閲覧するたびにコンテンツ間のつながりが変化しコンテンツグループを形成、コンテンツグループをヒトにフィードバックすることにより、ヒトの閲覧とコンテンツグループが互いに影響し合うフィードバック・ループを形成する
 ・可塑性と学習: コンテンツ間のつながりの記憶によりヒトの興味の変化を記憶し、コンテンツの一部の入力から関連するコンテンツグループの記憶を想起する
 ・恒常性・保守性: 似た興味のヒトの多数の閲覧にバイアスされ、コンテンツグループの構造を維持する力が働く
 

●コンセプトの具体化

(言葉で表現する)


 複数のヒトの連続するコンテンツ閲覧を「コンテンツ間のつながり=知識ライン」として記憶し、知識ラインをたどる間接的なコミュニケーション=連想による情報探索を可能とする情報流通サービス。


●技術具体化のヒント:


 連想レコメンデーション


○技術の大前提

 30年後に活躍する技術のもととなる技術は、「今」必ず存在する。

○技具体化のヒント

 既存のデータベースエンジンを利用せず、あらたな整合性などにこだわらず、専用の分散処理、並び替えの仕組みを構築する。


■H1. 連想レコメンデーション
・要件: 1つのコンテンツを指定して、指定コンテンツ閲覧しているヒトたちが連続して閲覧したコンテンツグループを提案する。
・課題: amazonなどが実施しているレコメンデーションを情報世界全体に適用することとなり、利用者の名寄せと膨大な演算が課題となる。
・着想: 地域・サービス単位などごとに区画分散して演算し短期記憶として速報、情報世界全体とのマージは多層のバックグラウンド処理により徐々に実施。区画毎にサービスが異なることを許容する緩さが肝要。名寄せはGoogleのように1強状態となれば問題にならないが、サービス単位毎に異なる識別子を付与してもサービスへの影響は少ない。
・残課題: リアル世界の変化に動的に適応させるためには、時間による忘却、思い出しの仕組みを工夫できると良い。

■H2. 複数コンテンツによる連想レコメンデーション
・要件: 2つないし複数のコンテンツを指定して、想起されたコンテンツグループの重みにより並び替えて提案する。1つを軸にする場合とは別次元の要望表現能力を得る。
・課題: H1に加えて、複数の組み合わせに対するコンテンツグループをマージする必要があり、要求を受けたときに演算する部分が残る。また、使いやすい条件指定方法が必要。
・着想: 想起されたコンテンツグループから優先順位をつけて紹介するためには、正の整数のみを使った高速並び替えアルゴリズムの活用がヒントとなる。

■H3. パーソナルボットに連想探索依頼
・要件: パーソナルボットに条件を指定して情報世界に放ち、コンテンツラインをたどってコンテンツグループを散策して集め、評価した結果を持って帰る。
・課題: H1、H2に加えて、閲覧側とサービス流通側の処理分担、連携インターフェースが必要。
・着想: 2000年前後に行われた「エージェント指向」の研究開発を掘り起こしてみるといい。
 

●サービス応用: 連想で考える


 連想レコメンデーションは、検索エンジンのようにWeb上で利用するだけではない。リアル世界、仮想世界と連携して、本や商品、建物や景色を指さして連想的に情報を散策する手段として生活に組み込まれるときに真価を発揮する。
 マイノリティ・リポートのよなアイデアプロセッシング環境で、コンテンツをぐりぐりいじりながら、これとこれと指定してグワーっと広げると知識ラインでつながれたコンテンツが湧き出すように表示される。広げたり閉じたり、また次のコンテンツを選んで知識ラインの連鎖をながめてみる。連想レコメンデーションは、ヒトの知識ラインと連携してコンテンツの連鎖を飛び歩く、次世代の知的生産のエンジンとなる。

マイノリティリポート

   映画:マイノリティリポート(2002)より

 「情報世界」におけるヒトとコンテンツの動的な相互作用は、連想記憶をアウトソースしてヒトとコンテンツの社会を構築する。そこにいたるコミュニケーションの進化の過程は、最新の脳モデル、経済社会モデルにヒントを求めると良い。ヒトの感情を励起して即応するしくみ、連想、類推、類型、イメージ生成、錯覚、ラベルと階層整理、言語文法の発生、自由競争、国家・政府、ヒトが進化の過程をへて構築してきた様々な編集の仕組みが糸口となる。やがて「情報世界」は意味ネットワークを構成し、コネクティブブレインとなり、ヒトとコンテンツの相互作用により単語のレベルではあらわれてこない様々な「見えない情報連鎖」をおこし、ヒトの思考をも情報世界にアウトソースして連携して思考方法をも変えてゆく。

➡ フューチャー・リテラシー: インデックス
➡ 集団、文化、ヒトの共進化 
➡ 課題設定:情報世界におけるヒトと文化の共進化

参考書籍:
[1] マーヴィン・ミンスキー(1990), "心の社会", 安西裕一郎訳, 産業図書
    Marvin Minsky(1985), "The Society of Mind", Simon & Schuster. Inc.
[2] 松岡正剛(2001), "知の編集工学", 朝日文庫

心の社会 | Marvin Minsky, マーヴィン・ミンスキー, 安西 祐一郎 |本 | 通販 | Amazon

知の編集工学 (朝日文庫 ま 21-1) | 松岡 正剛 |本 | 通販 | Amazon

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課題設定:情報世界におけるヒトと文化の共進化

 ヒトと文化の共進化が、コミュニケーション能力を高めコストを下げて、集団規模を拡大する。インターネットは、「リアル世界」の制約を取り払い、不特定多数とつながるためのコストと遅延をほぼゼロとし、物理的スペースと複製コストがゼロの製品=コンテンツを無料で獲得できる「情報世界」を生み出した。


●インターネットのあちら側

 =「情報世界」の現状をふりかえる


 インターネットとWebが世界をつなぎ、権威に依存せずに誰もがコンテンツを作成して公開し、人々の才能を広め継承するための新しいコミュニケーション手段となる。大量の玉石混合のコンテンツが世界のどこかで誕生し、リンクとキュレーター(コンテンツを紹介する人)が良質のコンテンツを発掘する羅針盤となり、誰もがWebの波に乗って散策をはじめる。

 「世界中の情報を組織化(オーガナイズ)し、それをあまねく誰からでもアクセスできるようにすること」を目指すGoogleの登場が、インターネット世界のコミュニケーションを一変させる。検索ワードをもとにコンテンツへワープして周囲を見回す探索法は、広大なコンテンツ空間の中で目的をもったコンテンツ間の移動を可能とする。

 やがて、WebをプラットフォームとするYoutube、Facebook、Blogなどの舞台創造と閲覧の仕組みとiPhoneなどの観劇装置を通して、世界の情報を受け取り、意識し、ネットワークにフィードバックして記憶する、知覚と脳のアウトソースが浸透する。


●「情報世界」の経済圏


 インターネットのこちら側を「リアル世界」、あちら側を「情報世界」として分離して、「情報世界」に着目してその特性を確認しよう。

○ヒトの欲求と「情報世界」


 ヒトは自身の能力を道具、文化としてアウトソースして集団で分業することにより、欲求を満たすためのコストを下げ、より多くの欲求を満足するよう行動する。自動化により製品コストが低下し、衣食住の欲求が満足できるようになると、他者との関わりの中で居場所を求め、自己表現し、承認されることを優先するようになる。「リアル世界」では学校や会社などの組織に所属することにより欲求のターゲットを絞ることができるが、そこから踏み出すことができない閉塞感や大きな壁に覆われる。

 「情報世界」の登場はヒトの生活圏をいっきに拡大する。ヒトの有限時間を自由に使い、「情報世界」の中で様々なヒトと出会い、自己を表現し、認められるチャンスを得るための新天地がひろがる。「情報世界」における労働(=コンテンツの作成、評価、アクセス)には、固有のギブ・アンド・テイクの関係がある。唯一の消費財は、ヒトの有限時間だ。


○「情報世界」における産業構造:


 「情報世界」の産業を概観すると、無償のボランティアによる共産社会などではない価値交換の構造がみえてくる。

・一次産業: 情報の生産
 対価:アクセス数、より高い評価
 - コンテンツの生産
  Webページ、ブログ、音楽、映像、画像、ゲーム、広告、電子書籍など
 - コンテンツ間のつながり(リンク)の生産
 - コンテンツ閲覧履歴の生産

・二次産業: 加工情報の編集
 対価:アクセス数、より高い評価
 - 引用、加工・編集による二次コンテンツの製造
 - 興味をまとめ、良質のコンテンツを紹介するコンテンツの製造(キュレーターなど)

・三次産業: 情報流通サービスの提供
 対価:閲覧時間と閲覧履歴
 - コンテンツ、二次コンテンツの提案(検索、レコメンド等)

 「情報世界」の消費者は、自身の欲求を満足させるためにヒトの有限時間を支払い、興味のあるものを探し、閲覧する。

○価値の交換


 「情報の生産者」と「加工情報の編集者」はコンテンツを提供し、より良いコンテンツを提供したものが、より多くのアクセスや評価(いいね、★など)を対価として受け取る。

 「情報世界」の住民=閲覧者は、ヒトの限られた時間を割り当てる価値のある閲覧体験を常に探索する。情報流通サービス(Googleなど)は閲覧者が有限の時間を割り当てる「価値あるコンテンツ」の候補を提案し、閲覧者は興味を持ったコンテンツを閲覧することにより価値の交換を行う。

 ヒトが探索する行為を「情報世界」にアウトソースした結果、頭の中に隠れていた探索者たちの足跡(=閲覧履歴)をたどることができるようになり、それがあらたな価値を生みだすこととなる。情報流通サービスは、コンテンツ間のリンク、コンテンツの評価(★、いいね)、アクセス数などを集めてコンテンツを評価するために演算し、閲覧者の履歴から興味を推定して「価値あるコンテンツ」のリストを提案する。

人と情報流通サービス

    ヒトと流通サービスの共進化

 広大な「情報世界」における、コンテンツを介して市場化された価値交換のコミュニケーションは、動的に変化し脈動するネットワークと文化の構造を描きだす。


●集団とコミュニケーション

 、ヒトとコンテンツの共進化


 新しい道具によるコミュニケーションが、次の世代のリテラシー(表現能力)を育成する。インターネットでつながる大規模な集団とあふれる大量のコンテンツが、確率的に優れた才能をうみ、優れたコンテンツや発明を生産する。

 コミュニケーションツール(検索エンジンなど)が、価値あるコンテンツの発見と普及を促進し、淘汰圧がコンテンツをふるいにかけ、新しい文化の記憶・伝搬・学習をうながしていく。

 大規模な集団が確率的に生み出す多くの才能と、それを広め継承するためのコミュニケーション手段により文化とヒトの進化のサイクルが回り、そのサイクルが新しいコミュニケーション手段をうみ、集団規模を拡大するという共進化のサイクルが回り始める。「情報世界」におけるヒトと文化の営みは、かつてない規模の集団とコミュニケーションを発展させていく。

 ヒトは知識やノウハウをコンテンツにパッケージして文化として伝搬、継承する。情報空間の住人の間でかわされるコンテンツを介したコミュニケーションが、文化の伝搬、継承を促進する。ヒトの思考は成長過程におけるコンテンツの閲覧に影響を受けて変化し、ヒトの思考の変化が生成するコンテンツに影響を与えて共進化する。この遺伝子によらない進化の概念をドーキンスは文化的遺伝子=ミームと名づた

 ヒトの集団がコンテンツを生成し、情報流通サービスというコミュニケーション手段を用いて「価値あるコンテンツ」を発見する。コンテンツやそのネットワークに集団で蓄積する知識やノウハウが「情報世界」の経済活動の多様性を生み、淘汰圧により洗練される。コンテンツとヒトの思考、集団規模とコミュニケーションの相互作用が編む共進化のサイクルが「価値あるコンテンツ」をうみ、集団の規模を拡大し、新しい流通サービスの創造がコミュニケーション能力を高め、コンテンツとヒトの思考の共進化を加速する。

文化とヒトの共進化

 ヒト、文化、集団、コミュニケーションの共進化


●課題設定


 「情報世界」におけるコミュニケーション、コンテンツ、ヒト、集団形成を支援し、共進化のサイクルを加速する道具のコンセプトを描くための課題を設定する。

コンテンツの社会: あらたな情報流通サービス
 ヒトの脳をメタファーとして、「情報世界」におけるヒトのコミュニケーション能力(=情報探索能力)をたかめる道具について考える。

○メタコンテンツの生産
 「情報世界」はヒトをどのように進化させつつあるのかという視点から、自己表現する手段としてのコンテンツと道具について考える。

○複雑系に対する思考のアウトソース
 「情報世界」に適応するヒトの思考脳力の変化と、それを高めるためのアウトソースについて考える。

○マルチバース世界のプラットフォーム
 「リアル世界」、「情報世界」、「仮想世界」、多元化する世界で同時に生活するヒトの未来を支援するプラットフォームについて考える。

 以降の節では、「リアル世界」のすべてがインターネットにつながりつつある現代から、その延長線にある30年後の未来、そこにいたる共進化サイクルを促進する道具のコンセプトを具体化する。

⇒ フューチャー・リテラシー:インデックス

⇒ 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデル解説(アイデア整理のテンプレート)
 ⇒ アイデア・プロセッシング実施方法(1):課題設定・情報散策 

⇒ 集団、文化、ヒトの共進化 (future-seeds.net)

参考書籍:
[1] 梅田望夫(2006), "ウェブ進化論 :本当の大変化はこれから始まる", 筑摩書房
[2] ジョセフ・ヘンリック(2019), "文化がヒトを進化させた :人類の繁栄と<文化-遺伝子革命>", 今西康子, 白揚社
[3] A.H.マズロー(1987), "改訂新版 人間性の心理学", 小口忠彦訳, 産業能率大学出版部
    Abraham Harold Maslow(1954), "Motivation and Personality (Second Edition)", Harper & Row, Publishers, Inc.
[4] リチャード・ドーキンス(2006), "利己的な遺伝子 :40周年記念版 ", 日高敏隆, 岸由二, 羽田節子, 垂水雄二訳, 紀伊国屋書店
    Richard Dawkins(1976/1989), "THE SELFISH GENE(30th anniversaty edition", Oxford University Pressq

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集団、文化、ヒトの共進化

 集団内でノウハウや社会習慣などを文化として継承する能力を得たことがサルからヒトへの分岐点となる。文化を老人の知恵や道具として継承する文化の記憶は、集団としての新しい生命進化の手段となっていく。


●文化とヒトの共進化


 ヒトが創造するものは道具・技術だけではない、調理方法や言語、獲物や脅威に対する知識、狩猟や調理などのノウハウ、集団を円滑に運用するための社会習慣や社会規範、宗教、芸術があり、これらの集団で獲得し継承するものを総称して「文化」と呼ぶ。

 文化の対象: 道具、技術、知識、ノウハウ、社会習慣・規範、宗教、芸術

 文化とヒトの遺伝子は、共進化の関係にある。例えば、調理とヒトについて考えてみよう。

調理の進化:
・石器を使って食材を刻む
・消化しやすくなり
 ⇒エネルギー獲得量が増加
 ⇒歯、口、顎の筋肉、胃・腸が縮小
 ⇒消化に要するエネルギー量が減少
・エネルギー獲得量が増える
 ⇒処理能力の高い「脳」を維持
 ⇒文化生成にかかわる「前頭葉」を中心に脳が拡大
・調理方法を工夫する⇒新しい調理方法を創造する
 ex. 加熱する、干す、挽く、水にさらす

 この循環を繰り返すことにより、調理とヒトは共進化する。

ヒトの進化が新しい文化をうみ、新しい文化がヒトの進化を促進する。

「文化とヒトの共進化」の例:
・狩猟
 狩猟のための道具や技術⇒扱う技能⇒技能を獲得する脳、獲物の追跡⇒追跡や長距離走のノウハウ⇒長距離走のためのヒトの身体構造⇒ランニングフォーム、集団行動のルール⇒ルールを守る感情、水容器⇒発汗作用による冷却⇒水場探索ノウハウ、動物行動に関する知識⇒知識を学習・活用する脳⇒若者の育成⇒知識の伝承
・社会規範
 先祖伝来の知恵に従う⇒集団としての生存能力が向上⇒生存に優位な規範を継承⇒規範の整備、制裁と報酬⇒制裁による淘汰⇒規範に従う・守る脳力(報酬系など)⇒協力行動、利他行動
・コミュニケーション
  顔の無毛化と表情・白目と視線・身振り⇒コミュニケーション脳力⇒密な連携⇒道具の製作・使い方の伝搬・質の向上⇒道具の複雑化・高度化⇒コミュニケーション手段の開拓・複雑化⇒コミュニケーション脳力の成長・進化⇒集団での狩り⇒太鼓などの遠隔通信
・脳力(前頭葉)
  創造力・発明の動機⇒便利な道具⇒指先の進化⇒道具の高度化⇒模倣・学習・計画・記憶・論理⇒学習の動機付け(報酬系)、道具の再構築⇒推測・分析・論理、道具へのアウトソース⇒身体弱体化⇒脳へのエネルギー増加⇒新しい道具の創造
・言語
  言語による集団運営⇒言語を喋るための身体構造⇒文化の複雑化⇒語彙の増加・文法の複雑化⇒言語学習脳力⇒言語学習のための社会習慣⇒覚え易い言語構造


●集団の規模と結びつきの強さ

 ヒトが文化を形成するためには、「集団の規模」と「結びつきの強さ」が必要条件となる。

 石器の発明について考えてみよう。旧石器時代の初期に、鋭利なナイフのような石器を創る大天才が1人いたとする。しかし、その技術を受け継ぐものがいなければ、生み出された新石器はただの宝物でしかなく、壊れてしまえば技術は失われてしまう。新しい技術は、技術を創造するもの>その技術を代々受け継ぐもの>その技術を代々使いこなすものが必要となる。

新しい技術を継承するために必要な人材:
・創造者 新しい技術を創造するもの
・継承者 その技術を代々受け継ぐもの(再構築するものを含む)
・使用者 その技術を代々使いこなすもの


 創造者・継承者・使用者が発生し、時空間上で出合う確率は「集団の規模が大きく、集団内での結びつきが強い」ほど高くなり、新しい道具をうみだし維持するために優位となる。

 集団の規模が拡大するということは、その集団にヒトが集まり養える生存優位性があり、何より獲得・維持するエネルギー源が豊富に存在するということだ。

集団の拡大要因: 
 生存に優位な道具・スキル・ノウハウを保有し続けること
・狩猟採集
  狩猟採集のための武器、狩猟採集知識・技術、チームワーク
・調理
  食料保存法、毒抜き、消化に良い調理法
・集団運用
 集団を円滑に運用するための規範・ルール、作業分担
・子育て
 一夫一妻、子育ての分担、育児ノウハウ
・知識の維持
 知恵のある族長・老人の優遇、熟練者による若者の育成
 
 そして、集団の規模拡大の限界は、集団が保有する文化水準により得られる食料と集団の円滑な運営状況により決定される。

 集団の規模は、集団内のコミュニケーション能力が高く、構成メンバー間の結びつきが強くなければ維持することはできない。集団のコミュニケーション能力もまた、構成メンバーの規模と密度に応じて言語・楽器・通信・交通などの文化の成長にともない進化する。「集団の規模」と「結びつきの強さ」が、文化とヒトの共進化サイクルを回し、新しく生み出されて継承された文化が「集団の規模」と「結びつきの強さ」を強化する。


●文化習得マシンとしての集団脳


 文化が進化するためには、文化の記憶や学習のための習慣や感情が必要となる。これらは、集団のなかでどのようにしてうまれるのだろうか。

集団による文化の記憶と学習システム:
・記憶 老人の知恵、道具・規範による記録・複製・読みだし
・学習 育児・育成のための感情や習慣

 日常生活に関するノウハウ、生き残るための最小限の知恵は、集団の最小単位である家族を単位として記憶し、個人に刻まれ、次世代に継承する。

 集団のなかで狩猟採集や調理などのスキルや習慣を模倣し、習得、蓄積、整理する能力を向上したものは、より生き残りやすくなる。霊長類から受け継いだ支配者に従う心理や習慣をベースとして、生存に有利な脳力が選択され、口伝をとおして積み上げられていく。

スキルや習慣を模倣するための脳力:
・学ぶ側に必要な能力・習慣
 - 手本にすべき相手を選択、模倣
 - 情報・知識を収集、活用
 - 論理的な理解、応用
 - 手本となるもの、リーダーに対する敬意の感情・習慣
 - 学ばなかった場合の失敗体験の記憶
・教える動機となる能力・習慣
 - 誇り、ステータスに対する報酬感情
 - 教えるものに報酬を与える社会習慣の維持
  社会的な地位、手伝い、贈り物、名声など

 これらを実行するための脳力を獲得したものが多い集団が生き残り、その繰り返しにより文化を記憶し学習するための能力や習慣を集団で獲得する。集団がもつ文化は集団毎に異なり、それを維持することが集団にとって有利となることから同族・民族意識がうまれる。

 さらに、こうした営みの繰り返しがヒトのライフサイクルにも影響を与える。

ヒトのライフサイクル:
・妊娠期
 長い妊娠期間、体内で脳を拡大、妊婦を守る習慣
・幼児期 
 ⇒前頭葉が拡大
 脳の学習・拡大に集中し、身体の成長を遅らせる
・思春期 
 ⇒リスクよりも好奇心、絶縁皮膜で脳内に高速通信路を生成
  性的成熟期、身体を急速に成長、大人を見習いながら技術や知識を習得
・30代後半 
 ⇒脳内の高速通信路設置完了
 獲物をしとめる確率が最大、学習能力が低下、若者の育成
・老人
 閉経後も寿命を延ばす
 
 集団における文化の記憶が新たな遺伝子となり、学習により世代を超えて文化を継承し伝搬する。こうして、ヒトは社会を基盤とする後天的な文化の編集と修正による進化の手段を獲得した。


●加速する共進化サイクル

 文化とヒト、集団規模とコミュニケーションの相互作用が編む共進化のサイクルが集団に優位な文化をうみ、集団の規模を拡大し、新しい文化の創造がコミュニケーション能力を高め、文化とヒトの共進化を加速する。相互に「依存」し「促進」しあう、集団規模・コミュニケーション能力、文化、ヒトの共進化サイクルが驚異的なスピードで加速する。

文化とヒトの共進化

   集団における文化とヒトの共進化サイクル

 ヒトは集団のなかに知識と知恵を記憶することにより、集団で外部環境に即応して進化する手段を獲得した。集団規模を拡大し、コミュニケーション能力を高めた集団が優位な文化を創造・維持して生き残るが、獲得できる獲物の限界が壁となって立ちはだかる。

 集団規模拡大の壁の内側で、道具と調理法を工夫し、言語の語彙を増やし、文法を整備・複雑化して表現力を増し、知識を整理し、社会規範を整備し、宗教を広め、組織構造を整備してコミュニケーション・ネットワークを張り巡らせて次の共進化爆発のときをまつ。

フューチャー・リテラシー: インデックス

「脳」と「道具」の共進化 
ヒトと道具が紡ぐメタ進化 

参考書籍:
[1] ジョセフ・ヘンリック(2019), "文化がヒトを進化させた :人類の繁栄と<文化-遺伝子革命>", 今西康子, 白揚社
[2] リチャード・ドーキンス(2006), "利己的な遺伝子", 日高敏隆, 岸由二, 羽田節子, 垂水雄二訳, 紀伊国屋書店
    Richard Dawkins(1976/1989), "THE SELFISH GENE(30th anniversaty edition", Oxford University Press
[3] M.マクルーハン(1986), "グーテンベルクの銀河系 :哲学人間の形成", 森常治訳, みすず書房
    Marshall McLuhan(1962), "The Gutenberg Galaxy: The Making of Typographic Man", University of Toronto Press
[4] アンドレ・ルロワ=グーラン(1973), "身ぶりと言語", 荒木亨訳, 新潮社
    Andre Leroi-Gourhan(1964), "Le Geste et La Parole", Albin Michel

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コミュニケーションするサルへの脳進化

 生命が誕生して以降、急激な環境変化によりほとんどの生命が絶滅する大量絶滅が5回発生した。大災害が急激な進化を促進し、環境に適応した生物種が勢力図を書き換ていく。


●上陸にせまられる魚類

 3億7000万年前の海洋生物の大量絶滅は海からの脱出=上陸を加速し、魚類から両生類への進化をうながす。使わなくなった浮き袋を肺に転用し、ヒレを手足に代える。

 上陸して一気に広がる視界、匂い、音、そして地面の感触を活用したものが生き残る。陸環境に適応して、五感による空間情報形成と記憶・学習と感情・本能による情報の統合制御を徐々に複雑化・高度化し、多様な生命デザインが地上に広がる。


●恐竜を避けて生き延びる哺乳類

 2億5000万年前、生命史上最大の大量絶滅が発生する。太陽系が暗黒星雲と衝突したことをきっかけに発生した極寒期により動植物が絶滅し、続いて酸素濃度が大幅に低下する。ほとんどの生命が死滅し、大量の酸素に適応した肺をもつ哺乳類の祖先たちに大打撃を与える。

 恐竜が低酸素濃度でも生き延び大繁殖したのは、現代の鳥に継承される新鮮な酸素で満たされ循環する肺構造を進化させていたからだ。残念ながら、哺乳類の肺は、酸素を吸う経路と吐き出す経路が同じ気管を共有い、低酸素濃度に弱い。

 恐竜が繁栄する時代、哺乳類の祖先は小型のトガリネズミのような外見の夜行性となり、肉食の恐竜たちを避けてかろうじて生きのびる。かつて、昼間の光の中で視力を活用して構築した「空間情報(マップ)」の生成脳力は嗅覚に置き換えられ、匂いの記憶と明暗や触覚というわずかな情報からエサと脅威を感知する脳と五感と「記憶・感情」を研ぎ澄まして「空間イメージ」を組み立てる。


●恐竜絶滅と哺乳類の広がり

 6600万年前、再び起こった太陽系と暗黒星雲の衝突をきかっけとする極寒期により恐竜などの絶滅が進み、続く巨大隕石の落下が残ったものたちにとどめをさす。そしてわずかに生き残った生命にふりそそぐ宇宙線が、新たな種の進化を加速する。

 大量絶滅の後に世界に広がる哺乳類の最大の特徴は、体内外での子育てと、環境変化に合わせて脳を拡張する柔軟性だ。子育てと脳を共進化させることにより、妊娠期間・育児期間が長くなるほど巨大化できる脳構造=大脳皮質のしわ・層構造を獲得する

 脳を巨大化して維持するためには生涯にわたる大量のエネルギー供給が必要となり、効率の良いエサの獲得・体内外育児の負担と、巨大な大脳を活用した賢い行動・体内コントロールがトレードオフとなり共進化し、あらゆる環境に適応して戦略を変えて苛烈な生存競争に生き残り広がっていく。

 脳をささえる体内機構も共進化する、赤血球の核を除いて脳へのエネルギー運搬を高効率化したのも哺乳類だけだ。学習能力と判断能力を強化し、出産後の環境に合わせて脳回路を編集して、忍び足で近づき俊敏に襲うもの、遠距離の脅威を感知してジャンプして逃げるもの、樹上で木々を飛び移るものなど賢い脳を活用して様々な進化をとげる。


●樹上で進化する霊長類


○フルカラー視覚がコミュニケーション能力を強化する

 6300万年前、ゴンドワナ大陸が分裂し、南米大陸とアフリカ大陸、インド大陸などに分かれ、リフト帯で噴出する放射性マグマの活動が突然変異を誘発して、各大陸での個別の進化を加速して様々な生態をもつ生物が広がっていく。

 温暖化が広葉樹を広げ、それに適応したサルの祖先が樹上での生活を選び、枝やエサをつかむ手を進化させる。樹上での生活は手足を器用にあやつり、果物の食べごろと腐敗を識別する必要があり、指先の触覚、視覚、嗅覚情報を統合して指・手足の繊細な制御を行うために「学習・判断・制御」脳力、センサー、手足を共進化させる

大脳皮質の獲得

                     「学習・判断・制御」する脳の獲得


 4000万年前以降、何度も寒冷化と温暖化の波が繰り返し、寒冷化時には飢餓よる闘争が激化し、共同でエサ場を確保し脅威を排除するものが生き残る。より多数で連携した集団が優位となるが、そのためには個体を連携するための「コミュニケーション能力」が必要となる。個体数の増加が「コミュニケーション能力」の強化をうながし、声やジェスチャーによる「コミュニケーション能力」の強化が集団の規模を増やし、規模の限界をさぐる新たな共進化が始まる

集団形成の共進化
  集団形成とコミュニケーション能力の共進化


 3000万年前、樹上でより多くの新鮮な食料を獲得するために赤・橙の識別能力を加えてカラーの眼を獲得した旧世界サル・ヒトの祖先は、肌の色を識別できるようになり顔の肌を露出させて感情変化をよみとる新たな「コミュニケーション」手段を獲得する

○高精細視覚センサーが推論能力を高める

 やがて、遠くに熟れた果実をより早く発見し、飛び移る枝を見極めるために網膜の一部に高精細なセンサーを搭載する。眼球とともに高精細視覚センサーを縦横に動かすことにより、注力した部分をはっきりと認識することが可能となる。以降、高精細センサーの範囲を広げるのではなく、立体視などとともに脳力により全体像を推論する「錯視」を強化する方向に進化を進める

 高精細な視覚は、より詳細に表情を認識することを可能とし、繊細な「コミュニケーション」を可能とする。やがて「錯視」は立体視などとともに脳の暗黙の推論能力を強化し、脳内に「仮想イメージ」と「仮想物語」をつくる脳力を構築して、コミュニケーション・社会行動などの生活全般の統合制御を強化していく。

イメージする脳
     仮想的なイメージと物語をつくる脳

 シャープな視覚、両眼による立体視、フルカラー画像を得たサルは、高いコミュニケーション能力により集団を維持・運用し、推論により「仮想イメージ」と「仮想物語」を構築する賢いサルへと進化してゆく。

フューチャー・リテラシー:インデックス

五感と脳の共進化 (future-seeds.net)
生物の実験場となったカンブリア爆発はなぜ起こったのか 

参考書籍:
[1] 丸山茂樹(2020),"最新 地球と生命の誕生と進化:[全地球史アトラス]ガイドブック", 清水書院
[2] 丸山茂徳(2018), "地球史を読み解く", 放送大学教育振興会
[3] 坂井建夫, 久光正監修(2011), "ぜんぶわかる 脳の事典", 成美堂出版
[4] 大森聡一(2021), "改訂版 ダイナミックな地球", 放送大学教育振興会
[5] 大隈典子(2017), "脳の誕生 -- 発生・発達・進化の謎を解く", ちくま書房
[6] トッド・E・ファインバーグ, ジョン・M・マラット(2017), "意識の進化的起源 :カンブリア爆発で心は生まれた", 鈴木大地訳, 勁草書房
[7] ジョン・C・エックルス(1990), "脳の進化", 伊藤正男訳, 東京大学出版会

最新 地球と生命の誕生と進化 (GEOペディア) | 丸山茂徳 |本 | 通販 | Amazon

地球史を読み解く (放送大学大学院教材) | 丸山 茂徳 |本 | 通販 | Amazon

ぜんぶわかる脳の事典―部位別・機能別にわかりやすくビジュアル解説 | 坂井 建雄, 久光 正 |本 | 通販 | Amazon

ダイナミックな地球 (放送大学教材) | 大森聡一 |本 | 通販 | Amazon
脳の誕生 ──発生・発達・進化の謎を解く (ちくま新書) | 大隅典子 | 医学・薬学 | Kindleストア | Amazon

意識の進化的起源: カンブリア爆発で心は生まれた | ファインバーグ,トッド・E., マラット,ジョン・M., Feinberg,Todd E., Mallatt,Jon M., 大地, 鈴木 |本 | 通販 | Amazon

脳の進化 | ジョン・C. エックルス, 正男, 伊藤 |本 | 通販 | Amazon


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五感と脳の共進化

 6.3億年前に浅瀬の大陸棚が広がり大量の光と栄養塩と酸素が海中にあふれたとき、豊富な素材を活用して繁殖する生命たちの生存競争が新たなステージをむかえる。

●神経組織の誕生


 6.3億年前のエディアカラ紀の大陸棚で、急増した太陽光と栄養塩を背景に光合成を行う微生物(シアノバクテリアなど)が大量増殖し酸素を急増させる。

 豊富な素材を活用する多細胞生物の最初の戦略は、捕食されない大きな身体を得ることだ。大型化のためには、それを維持するエネルギーが必要となる。「多細胞組織」を使って「エネルギー獲得手段」を構築し、生産したエネルギーをもとにさらに大きな身体をつくる共進化サイクルがうまれる

  大型化とエネルギー獲得手段の共進化
 
   大型化とエネルギー獲得手段の共進化  

 スポンジのような海水と一体になる形態から、皮膚で外側と内側を分ける戦略への転換があらたな分岐点となる。皮膚を改造して、エネルギーを効率よく獲得する窪みを作り繊毛により積極的にエサをとりこみ、外側と内側の収縮によるわずかな運動移動手段を構築する。

 やがて、エサに反応して行動するため、「触覚センサー」の入力信号を変換した「行動信号」を「高速通信路=神経組織」により複数の「運動組織」に伝達する連携システムを構築し、このあらたな構造をボディプランとして改良を加え続ける神経系進化サイクルがうまれる。例えば、口の周辺の触覚を食べる行動につなげ、眼点を使って光を検知し、皮膚刺激に反応して退避する方向への収縮運動を誘発する。

  「センサー」から「運動組織」への高速信号路

 「センサー」から「運動組織」への高速信号路

 神経系の誕生は、外部の環境から情報を選択的に収集して、神経系と生体システムを共進化させる新たな加速サイクルを構築していく。


●肉食動物と淘汰圧が「脳」をつくる


 カンブリア紀(5.41~4.95億年前)直前に起こった大型生物を捕食する肉食動物の登場が、生存戦略の大幅な変更のきっかけとなる。

 多くの種を絶滅させる淘汰圧は生物の急激な進化をうながす。肉食動物の一方的な繁殖は、被捕食側を絶滅の危機に追い込む。そしてエサをたべつくしてしまえば肉食動物もまた絶滅してしまう。肉食動物の誕生がきっかけとなり、生態系全体を巻き込んで大幅な戦略変更とあらたな均衡の模索が始まる。そして大陸棚は、豊富な材料をもとにあらたな進化を試みる生物たちの壮大な実験場となる

 最新の技術を使って個別の部位を革新するだけでは、激しい生存競争を生きのびることはできない。複数の革新的な組織を効率よく連動させることに成功したものだけが、獲物を捕食し、捕食されない身体を獲得して生き残ることができる。

 そしてついに、複数の体組織を連動する「情報統合組織」として「神経集合体=脳」を口近くに形成する。あらたなボディプランは「センサー」や「運動組織」の高度な連携を可能とし、さらに生物進化を加速する。そして、移動するエサや脅威をとらえる「眼」、高速に移動する「筋肉」を生み出したとき大陸棚の軍拡競争が激化する。

  「情報統合組織」としての「脳」

         初期の「脳」の基本プラン


●「眼」と「脳」の共進化

 あるとき、散在する光受容組織を集め、脳の一部を触覚から視覚に転用してつくりあげた「眼」による狩りが始まる。最初に「狩りをする眼=鉱物の複眼」を獲得したのは節足動物であり、脊椎動物の祖先はもっぱら逃げるための戦略として「眼」を活用する。

 「複眼」は移動するエサを識別するのに有利な構造だ。節足動物は、多数の「複眼」から得た膨大な視覚情報を統合して「移動するエサ情報」を構築し、それをもとに「追尾行動命令」を生成して高速通信路で「筋肉」に伝え、高速にエサを獲得することにより優位となる

 一方、被捕食動物は移動する物体を検知することよりも、最小限のエネルギーで巨大な生物の接近を明暗で検知して逃げることを優先する。皮膚全体に配置した数個の「点眼」を使って全方位から近づく脅威を検知し、海底や岩場への高速移動するための「脳」と「筋肉」の連携を得たものが生き残る。

 カンブリア紀の動物たちは、さらに「神経組織」を改良、脂質による絶縁膜とナトリウムイオンによるデジタル高速通信網を整備し、カルシウムイオンによる終端制御や筋収縮により瞬時の行動を可能とする。「神経系」制御の高速化は俊敏な移動を可能とし、追われる側に大きなプレッシャーをかける。


●「カメラ眼」と

「空間情報(マップ)」の共進化


 カンブリア紀(5.41~4.95億年前)からシルル紀(4.44~4.19億年前)をへてデボン紀(4.19~3.59億年前)に入るころ、脊椎動物の魚類が丈夫な顎と、遺伝子重複により「カメラ眼」を手にいれて、活発な肉食を行うようになる。「カメラ眼」は、レンズを使って鮮明な像をとらえる眼であり、海底の地形やエサ・脅威の正確な空間情報を取得可能となる。「カメラ眼」から入ってくる膨大な情報を使いこなすためには「脳」の進化も必要となる。「カメラ眼」と「脳」の共進化により、眼・耳・皮膚から得た情報を統合して「空間情報(マップ)」を形成し、より正確にエサ・脅威の情報を得て行動できるようになる。さらに「カメラ眼」と「空間情報(マップ)」処理の共進化は眼を巨大化するとともに、それぞれの感覚からの入力情報を統合処理して「感情・本能」に変換し、刻々と変化する環境に素早く反応する即応連携シーケンスを構築する

 脳の「感情・本能」による即応連携シーケンス:
  視覚運動: 眼を動かし、ピントを合わせ
  感覚: 対象の形や動きを認識してエサと脅威を区別し
  注意: エサ・脅威選択的に注意を向けて
  ・感情: 「喜び」や「恐れ」の感情に変換して、
  統合行動: 対象に身体を向けて移動する、もしくは対象から離れるよう移動する

 脳による即応連携シーケンスを構築した魚類は、顎の強化・大型化の共進化サイクルを進め、節足動物を凌駕するようになる。


●「嗅覚」と「本能・記憶」の共進化


 魚類が「嗅覚」を得たことが次の転換点となる。「嗅覚」はエサや脅威のまきちらした化学物資の痕跡を識別・記憶し、過去の記憶にもとづいて思い出し、その場所をエサ場としたり避けたりするために有効だ。このため、嗅覚は他のセンサーとは異なるルートで脳と連携し、嗅覚とともに行動シーケンスを誘発する「感情・本能」と「記憶」をつかさどる脳の部位が共進化することで、より狡猾に生き残ることに成功する
  
脊椎動物の脳の基本構造

        脊椎動物の「脳」の基本構造

 太古に生まれた感情」は、ヒトの「意識」のベースとなり、同時に発生する五感・内感とその「相互作用」を評価し即時の対処をうながす即応装置として最初に発動する。ヒトにつながる、外部情報統合にかかわる脳のボディプランは概ね完成した。これ以降、生活環境を陸上に移し、環境との相互作用により五感・内感の情報統合組織として大脳を発達させてゆくこととなる。

 多細胞生物は、体内組織間の共進化を繰り返すことによりあらたな連携構造をつくり、生存で有利であったものをボディプランとして残し、その上にあらたな仕組みを組み上げていく。いったん作られた仕組みを捨てずに残し、必要ならば別の用途に転用して体組織の複雑な連携構造を編み上げてゆく。


参考書籍:
[1] 植田和貴(2021), "[日系BPムック] ダーウィンが来た! 生命大進化 :第1集 生き物の原型が作られた(古生代から中生代 三畳紀)", 日経ナショナルジオグラフィック社
[2] アンドリュー・パーカー(2006), "眼の誕生  --カンブリア紀大進化の謎を解く", 渡辺政隆, 今西康子訳, 草思社
[3] 坂井建夫, 久光正監修(2011), "ぜんぶわかる 脳の事典", 成美堂出版
[4] 大隈典子(2017), "脳の誕生 -- 発生・発達・進化の謎を解く", ちくま書房
[5] トッド・E・ファインバーグ, ジョン・M・マラット(2017), "意識の進化的起源 :カンブリア爆発で心は生まれた", 鈴木大地訳, 勁草書房
[6] 丸山茂徳(2018), "地球史を読み解く", 放送大学教育振興会

ダーウィンが来た! 生命大進化 第1集 生き物の原型が作られた(古生代~中生代 三畳紀) (日経BPムック) | 植田 和貴, ナショナル ジオグラフィック |本 | 通販 | Amazon

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く | アンドリュー・パーカー, 渡辺 政隆, 今西 康子 |本 | 通販 | Amazon


脳の誕生 ──発生・発達・進化の謎を解く (ちくま新書) | 大隅典子 | 医学・薬学 | Kindleストア | Amazon

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意識の進化的起源: カンブリア爆発で心は生まれた | ファインバーグ,トッド・E., マラット,ジョン・M., Feinberg,Todd E., Mallatt,Jon M., 大地, 鈴木 |本 | 通販 | Amazon




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メッセージ物質の相互作用ネットワークがヒトの身体をつくる

 単細胞の微生物の化学物質によるコミュニケーション・ネットワークは、多細胞生物にも継承され、より複雑で自律分散で会話する細胞・臓器ネットワークとして進化した。

●胎児をつくる細胞間の自律分散ネットワーク


 ヒトの身体は、たった一つの受精卵が細胞分裂することにより形成される。2個、4個、8個と細胞分裂して数が増えていくにつれて内側と外側の立体構造がつくられ、ついに最初の1つの分化が起こる。1つの細胞が他の未分化の細胞に向けて、違う細胞に分化するようメッセージ物質(化学物質)を送ると、つぎの分化が始まる。新しくできた細胞が他の細胞に向けてメッセージ物質を送るという相互作用の連鎖が、次々と発動して身体を形成する。やがて、神経と皮膚をつくる部分、消化器や肺をつくる部分、骨・筋肉・血液をつくる部分の3層構造ができる。

 最初の臓器=心臓をつくりはじめると、形成途中の心臓からメッセージ物質を送って肝臓の細胞形成のきっかけをつくる。そして、形成途中の肝臓から心臓に向けて成熟を助けるメッセージ物質が送られる。相互に同期をとりながらタイミングを合わせて成長し、血管をつくり、血管を伝って臓器どうしのメッセージ物質の伝達ネットワークが構築され、遠い臓器、近くの臓器で相互にコミュニケーションしながら、ヒトという身体を形づくっていく


●臓器どうしの自律分散ネットワーク


 ヒトの身体は、脳が集中制御を行うトップダウンの命令系統だけでなく、臓器どうしのコミュニケーションにより自律分散制御を行っている。血管が全身の細胞にメッセージ物質をブロードキャスト(一斉送信)する情報通信網となり、メッセージを受診した臓器や細胞はリツイートもするし炎上することもある。

臓器間でかわされるメッセージ:
・心臓が疲れた
 心臓: 一斉メッセージ(心臓が疲れた!)
  ⇒腎臓: 尿を出して血圧を下げる
  ⇒血管: 血管を広げて、内側をきれいにして血液を流れやすくする

・血圧が低いかな?: 投票してね
 腎臓: 一斉メッセージ(血圧が低いんじゃないかな?)
  ⇒肝臓: 一斉メッセージ(いいね!)
  ⇒肺:  一斉メッセージ(いいね!)
  ⇒血管: 血管を収縮して血圧を下げる

・脂肪が多い
 脂肪: 一斉メッセージ(脂肪が多いよ!)
  ⇒脳: 食欲がないな~

・おなかがすいた: 脳への要請
 胃:  一斉メッセージ(おなかがすいた!)
  ⇒脳: 個別メッセージ(成長ホルモンを出して!)

・運動をすると: 健康になる
 筋肉: 一斉メッセージ(病気を防いで!)
 骨:  一斉メッセージ(若さを保って!)

・酸素がたりない:連鎖するメッセージ
 腎臓: 一斉メッセージ(酸素が足りない!)
  ⇒骨: 骨髄で赤血球を増産する
      一斉メッセージ(鉄が欲しい!)
   ⇒肝臓: 貯蔵していた鉄を放出
        一斉メッセージ(鉄の吸収抑制をゆるめて!)
    ⇒腸: 鉄分の吸収促進

 細胞内にもメッセージネットワークがあり、細胞外と接触する部分が細胞どうしのメッセージネットワークを、臓器と臓器、臓器と細胞、そして腸内の共生細菌とのメッセージ交換によりコントロールされることもある。体内の相互作用のネットワークは、多重に絡み合ったメタネットワークとフィードバックループを構築して動的並行により恒常性をたもつ、それがヒトというネットワーク総合体だ。さらに、神経細胞は電気信号と化学物質を組み合わせた高速通信を行い、マイクロRNAを含む大量のメッセージ物質をパッケージにして送り届けるエクソソームという宅配便まで存在する。

フューチャー・リテラシー:インデックス
微生物のコミュニティ


参考書籍:
[1] 丸山優ニ; NHKスペシャル「人体」取材班(2019), "人体 神秘の巨大ネットワーク 臓器たちは語り合う", NHK出版
[2] 大隈典子(2017), "脳の誕生 -- 発生・発達・進化の謎を解く", ちくま書房

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経済危機に適応する資本主義社会

 アダム・スミスに始まった資本主義の時代を、大雑把に概観してみる。資本主義の歴史は、それをコントロールしようとする国の政策と、失敗、失敗に対する処方箋の繰り返しとなる。

●資本主義のベースをつくった

 :アダム・スミス「富国論」


 産業革命直後、重商主義の処方箋として「国を富ませる」仕組みを提案したのが、アダム・スミス「富国論(1776年)」だ。資本主義経済の出発点であり、以降の政策・思想のベースとなる。

「富国論」の与えた影響:
 ・自由競争による資源の再配分を基本とする
  国が手をださず、自由に競争すれば結果的に資源が最適に配分される
 ・「見えざる手」
  市場=マーケットで、個々人が利益を求めて利己的に行動しても、見えざる手によって導かれ、結果として経済がうまくまわっていく(需要と供給が交わったところで決まる)
 ・分業によって生産性を高められる
 ・国は最低限の公共施策を行えばいい
  国防、公共施設の整備(道路、災害対策など)、司法行政
 
 例1:賃金について
  企業が利益を上げるためには賃金を徹底的に下げたいが、労働者はより高い賃金の会社を選ぶので、需要と供給の折り合うところで賃金は決まる。

 例2:産業擁護は競争力を失うだけ
  農作物輸入への高い関税、輸出を行う企業への補助金は競争力を失わせる

 これを全面的に信用して運用すると、企業の独占や、大小のバブルが弾けてひどい目にあうのだが、その反省の歴史が経済学と政策の歴史となる。が、概ね「富国論」という理想をベースに、国によるコントロールの比重を調整した結果が現代に至る。各国で同じ施策におちついくかというと、比重のかけかたも様々という状況だ。


●資本主義の問題点と社会主義国の台頭

 :マルクス「資本論」


 「富国論」出版から91年後、工業先進国(イギリス、ドイツ、アメリカ)が資本主義でしのぎを削り、大量生産による供給過剰で10年単位で恐慌が発生し、そのたびに失業者が街にあふれ、安い賃金で長時間勤務を強要する超ブラック企業が生き残るというスパイラルにおちいる。行き過ぎた資本主義がどのようになるのかを示したのが、マルクス「資本論(1867年)」だ。

「資本論」の示した予言:
 経済の仕組み
  - 沢山の労働者が並行して分業すると効率がよく、競争を生み、生産効率が良くなる
  - お金の価値が下がると商品価値があがる、インフレとデフレ
 ・企業の激しい競争により
  - 効率化を求めて大規模化し、企業の数が減って、市場を独占する
  - 生産性を上げるために機械化し、失業者が増える
  - そしてワーキングプアが増える
   - 社会によって強制されない限り、労働者の健康と寿命に配慮することはない
   - 低賃金となり、少数精鋭だけが働き、労働時間が増える
  - 格差社会を生む
 ・資本主義は崩壊し、民主主義を獲得する
  独占と労働条件の悪化により、労働者革命が起こり、資本家の財産が剥奪される。
  

 この後、マルクスに影響を受けたロシア革命(1917年)により資本家をうちたおしてソビエト連邦共和国が、それに続き東欧諸国、中華人民共和国(1949年)が社会主義国となる。資本主義が成熟した後の革命でなかったため、後の社会主義崩壊につながったとも考えられている。
 資本主義各国は社会主義国が次々にできたことに危機感をもち、自国の労働者が革命を起こすのを恐れて、労働者の待遇を見直す政策をとるようになる。労働者の権利を守る法律の仕組みをつくり、規制を整備して、恐慌が起きないように失業者が減るように工夫する。


経済不況を救う「処方箋」

 :ケインズ「一般理論」


 1929年、資本主義各国が企業の自由競争にまかせた結果、アメリカで株の大暴落が起こり、それをきっかけに金融機関がつぎつぎに潰れる世界恐慌が発生する。金融機関相互のお金の流れが止まり、世界中が失業者で溢れる。各国は高い関税で輸入を差し止めて自国を守ろうとして世界の経済が止まり、やがて第二次世界大戦(1939-1945年)につながっていく。
 不況・恐慌への「処方箋」として書かれたのがケインズの「雇用、利子および貨幣の一般理論(1867年)」だ。その提案は、(今では当たり前となっているが)当時の常識をくつがえすもの衝撃を与える。

「一般理論」の処方箋(ケインズ・ショック): 
 ・前提:働きたくても働けない失業者がいる
 ・国が公共事業を投資して雇用を生み出す
  - 道路整備などの公共事業で、雇用が生まれるようなしくみをつくることで経済が回るようになる
  - 政府に資金がなければ赤字国債を発行してでも公共事業投資を優先する。そして、景気が良くなったときに、税金で赤字を返却すればいい。
  - 消費したいという欲求が高まれば、公共事業投資した数倍の経済効果が生まれる
 ・累進課税
  - 貯蓄を減らすように、お金持ちからより多くの税金をとる
 ・金利を下げる
  - 金利を下げて企業の新たな投資を増やすと、企業が新たな事業を始めるので雇用が増える
 ・「流動性の罠」
 金利をどんどん下げてほとんどゼロという状態にしても、企業の投資が伸びず、景気が回復しない状態となる可能性がある
 バブル崩壊後の日本
 ⇒グローバル社会では、国内に投資をせずに、海外投資にお金が流出してしまう

 これ以降、「大きな政府」とよばれる景気刺激策がとられるようになる。景気が悪くなると、景気対策として政府が赤字国債を発行し、公共事業などで支出を増やして経済を活性化させ、金利を下げて企業の投資を活性化させる。そして、累進課税と社会福祉で低所得の人たちにお金を回し、消費を活性化する。この逆の「国は景気が悪くなっても市場にまかせる」という政策は、「小さな政府」と呼ばれる。

ちなみにアメリカの政党政策は次のように分かれる。
・共和党: 小さな政府より(レーガン、ブッシュなど)
・民主党: 大きな政府より(クリントン、オバマなど)

 アメリカは、1929年当時は共和党で景気対策に積極的ではなかったが、民主党のルーズベルト大統領に代わり、ニューディール政策(1933年~)により大規模な公共事業を展開する。以降、20世紀初頭の交通網、電力網、通信網などのインフラ整備が雇用と需要と供給を生み、グローバル経済における競争力をつけて、工業先進国を高度成長時代の波へと乗せる。

 ケインズの処方箋にも課題があり、それが歪みとなって蓄積されていく。

ケインズ理論の副作用:
 ・インフレ傾向になる
 ・財政赤字が増え続ける
  政治家は人気を維持したい、「打ち出の小槌」を手放せず財政支出を止められなくなる
 ・公共投資の効果がなくなる
  建設会社が増えすぎて、定常状態となり、公共事業に支出しても効果がなくなってくる


●スタグフレーションと新自由主義
 :フリードマン「資本主義と自由」


 1970年代、変動相場制(1973年)、第一次オイルショック(1973年)、各企業がオフショアを模索し始めて資本主義が徐々に変わろうとしているとき。スタグフレーション(景気が後退しているのに物価が上昇)に苦しむアメリカ、福祉が充実する一方で国力が衰退したイギリスなどを背景に、ケインズは間違っているという考え=新自由主義が広まった。その処方箋となったのがフリードマン「資本主義と自由(1962年)」だ。背景にはサッチャーが傾倒したハイエクがいる。

新自由主義の処方箋:
 ・政府は国民の自由を尊重しよう
 ・マネタリズム
  世界の中を流れるお金の量さえコントロールしていれば経済はうまくいく
 ・政府がやるべきことは、国防と司法行政だけ
  - それでもやるべきことがあれば、地方自治体に任せたほうがいい
 ・こんなものいらない
  - 累進課税、今の社会保障制度、公的年金、輸出入制限、最低賃金
  - 民間の郵政事業禁止、公営道路
  - 各種規制(銀行、産業、産出、通信・放送)
 など

 すべてを実施すると、マルクスの時代にもどってしまいそうないきおいだ。それでも経済の閉塞状態を打開しようとしている資本主義国にとって、新自由主義の影響は大きい。サッチャー(1879年~)・レーガン(1981年~)革命、日本では中曽根内閣のNTT/JT(1985年)、JR(1987年)民営化、バブル(1990年)をはさんで橋本内閣の金融制度改革(1996年~)、小泉内閣の郵政民営化(2007年)や派遣労働の自由化(2003年)など政治に大きな変革をもたらした。


●リーマンショックと派遣切り


 2008年、アメリカの住宅バブルの崩壊とともにおきたサブプライム住宅ローン破綻にはじまり、それをもとにした派生商品の不安が金融機関相互のお金の流れを止め、投資会社のリーマン・ブラザースが経営破綻し、「小さな政府」をかかげる共和党政権がそれを救済しなかったために、さらに金融不安が広がり、世界を大混乱に陥れたリーマンショック。日本では、アメリカに製品を売れなくなった製造業が大規模な派遣切りを行う。小泉政権の派遣自由化により大量に雇用された派遣労働者が、大量の失業者となった。

 1970年代以降構築され続けた、非現実的な仮定のもとで演算する経済学が破綻した瞬間だった。そして恐慌に対処できるケインズが再び見直される。アダム・スミスからはじまった資本主義が大恐慌の教訓からケインズの「大きな政府」を生み、その安定が新自由主義による「小さな政府」の大改革を、行き過ぎた改革が再び恐慌を発生させケインズが見直される。寄せては返す波のように経済と政治がゆれ動く。

 そして現代。インターネットとともにグローバル経済がひろがり低所得国に製造拠点をうつし、Google、Amazonなどの国際IT産業が巨大化して国を単位として経済・政策を考えることが難しい時代となった。製造部門を引き受ける中国やインドが台頭し、先進諸国の製造部門が空洞化して貧富の格差が広がり、資本主義が終焉が叫ばれマルクスが再び見直される。国家が仮想化し、経済がバーチャル化する、我々は今、そんな時代の岐路に立っている

フューチャー・リテラシー:インデックス
交通・通信インフラとグローバル交易の共進化(後編):産業革命~現代

参考書籍:
[1] 池上彰(2013), "やさしい経済学1 :しくみがわかる", 日本経済新聞出版社
[2] 池上彰(2013), "やさしい経済学2 :ニュースがわかる", 日本経済新聞出版社
[3] 池上彰(2014), "世界を変えた10冊の本", 文藝春秋
[4] 池上彰(2017), "池上彰の講義の時間 高校生からわかる「資本論」", 集英社
[5]  J・M・ケインズ原著(1867), 山形浩生要約・翻訳(2015), "要約 ケインズ 雇用と利子とお金の一般理論", ポット出版

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交通・通信インフラとグローバル交易の共進化(後編):産業革命~現代

  ヒトはモノと情報(知恵)を交換することにより分業する社会を形成する。ヒト、モノ、情報(知恵)の距離を短縮するインフラの発展とともに、社会構造は複雑化し、より高度な交換ネットワークを構築する。
前編:古代~産業革命以前
⇒後編:産業革命~現代

●世界規模の物流の高速化とグローバル交易

による消費と生産の分離


 フルトンが乗客を乗せた蒸気船の試運転に成功し(1807年)、スチーブンソンが蒸気機関車鉄道を開通(1825年)して以降、陸海の交通網が一変する。蒸気船が世界各地を結び、陸地を蒸気機関車が走り河川運河を蒸気船がつなぐことにより、大量・高速に運搬できる地球規模の物流が加速する。物流の加速は、国を超えるグローバル・ネットワークで生産地と消費地をつなげ、モノの生産を国を単位として分業可能とする

 グローバル交易の進展は、生産が現地の消費に縛られなくなり、各国の生産が分岐し、企業と国を単位とする貿易競争が始まる。ある国が他の国よりも安く生産できれば優位となり、国を単位とする貿易競争により「得意なことして、それ以外は貿易する」という棲み分けによる分業が加速する。特に製造規模の拡大=大量生産、ノウハウや投資の積み重ねが生産性を高め、突出した収益を得られる製造業で先頭をきった国が他を圧倒するようになる。

工業先進国の所得拡大サイクル:
 1)工業先進国(イギリス、アメリカ、ドイツ)が工業の機械化を進める
 2)工業先進国の所得が大きく伸びる
 3)工業先進国の産業が工業都市に集積する
  ⇒生産効率を高め、コミュニケーションコストを削減し、情報(知恵)を交換する場がつくられ、モノの運搬が効率化され、生産品のコストが低下する。
 4)企業の規模が拡大し、より複雑な工程を取り入れやすくなる。

 都市への製造業の集約は、モノの流通を効率的にするだけでなく、情報(知恵)の交換を促進して新しいテクノロジーの誕生をうながす。そのサイクルが工業先進国において都市へのヒトと企業の集約を促進し、巨大都市を形成していく。

 激しい国際競争が勝者と敗者に分け、同じ市場での企業の数を減じ、勝者は統合・吸収して規模を拡大し、生産効率が高くなり国際的な格差を広げていく


●通信インフラとプロセス分業


 蒸気機関をベースとして郵便事業が始まり(1840年/英)、電話が開通(1880年/米)すると国内(外)の情報(知恵)の移動距離がいっきに縮まり、プロセス毎に専門特化して生産効率を高める企業・組織間でのプロセス(設計、エンジニアリング、管理、品質管理、製造、物流など)分業が進む。
 Faxが国際規格とともに公衆回線を利用して広く利用されるようになると(1972年)、情報を扱う部門の業務スピードがいっきに加速し、時分割で複数のタスクを処理するようになる。

 1970年、国際競争による企業の統合と生産性の効率化によるコストカットを限界まですすめた工業先進国企業は、通信インフラを利用した製造部門の一部を労働力コストが安い国(中国、インドなど)への分業=オフショアを模索する
 商用インターネット(1989年、米)が情報(知恵)の循環を加速すると、調整コストが低下し、製造業のオフショアの波が大きく広がる。

オフショアによる新興国の所得拡大サイクル:
 1)労働力が安く、治安、工業先進国との距離、インフラ整備など有利な条件を持つ国(中国、インド、ポーランドなど)=新興国が、工業先進国のグローバル・バリューチェーンに組み込まれる。
 2)工業先進国からの情報(知恵)=ノウハウの移転により、新興国はしだいに低賃金・高技術へとシフトし、とりのこされた低賃金・低技術国はグローバル・バリューチェーンに参加できなくなり、格差が生まれる。
 3)新興国にノウハウが集まり、生産拠点を集中的に拡大する。
 4)急速に工業化した新興国の成長が加速する。
 5)工業先進国の生産部門が空洞化する。
 6)新興国の急成長に伴い、食料、資源の需要が高まり食料・原料輸出国が成長する。

 近年まで、国家の社会・経済・投資戦略は、そこに立地する企業を単位として計画・実行することができた。オフショアの拡大により、企業戦略は必ずしも国の利益を優先するとは限らず、国家戦略は断片化したプロセスを単位とするものへと複雑化していく


GDP推移

                                       各国の実質GDPの推移
 University of Groningen, Maddison Project Database 2020
(https://www.rug.nl/ggdc/historicaldevelopment/maddison/releases/maddison-project-database-2020?lang=en)

 交通・通信インフラの進化が、ヒト・モノ・情報(知恵)の交換を高速化し、作業を断片化、専門特化した分業ネットワークを構築する。分業ネットワークは、集落、国家、世界へと広がり、断片化したプロセスを動的に再編集する。ヒトの移動距離を短縮する次世代のインフラの進化は、ヒトの社会組織をより複雑に再編成してゆくこととなる




参考書籍:
[1] リチャード・ボールドウィン(2018), "世界経済 大いなる収斂 :ITがもたらす新次元のグローバリゼーション", 遠藤直美訳, 日本経済新聞出版社
[2] 宮崎正勝(2002), "モノの世界史 --刻み込まれた人類の歩み", 原書房
[3] デヴィッド・クリスチャン, シンシア・ストークス, ブラウン、クレイグ・ベンジャミン(2016), "ビッグヒストリー --われわれはどこから来て、どこへ行くのか--", 長沼毅日本語版監修, 石井克弥,竹田純子, 中川泉訳,  明石書店
[4] 松岡正剛監修, 編集工学研究所(1996), "増補 情報の歴史", NTT出版

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交通・通信インフラとグローバル交易の共進化(前編):古代~産業革命以前

 ヒトはモノと情報(知恵)を交換することにより分業する社会を形成する。ヒト、モノ、情報(知恵)の距離を短縮するインフラの発展とともに、社会構造は複雑化し、より高度な交換ネットワークを構築する。

前編:古代~産業革命以前

●都市を循環させる「道」、情報通信のための

「道」


 農耕を始めたことにより、都市を中心としてヒト・モノ・情報(知恵)が交流する社会が構築される。官僚、軍人、諸君、そして彼らの食料が都市に集まる。都市内部の通路が市民の生活を循環させ、都市周辺地域からは農作物、木材、鉱物や税を徴収するための「道」が都市に向けてのびる。より遠くから、より早く運搬するために家畜を使い車輪を開発し、道路網の拡張-輸送技術の改良というサイクルを繰り返して都市が巨大化していく

 都市は近隣の都市から襲われる驚異に備えるための軍隊を保持し、戦争により周囲の都市を併合する必要に迫られる。生き残りをかけた都市は、道路網により物資を集めるだけでなく、すばやく情報をえるための「道」をつくる。紀元前6世紀ペルシア帝国は、王の命令と周囲からの報告を伝える通信網として幹線道路「王の道」を整備した。土木工事により道を整え、馬を駅伝制によりすばやく移動させる最新の通信網だ。整備した「道」は都市周辺のヒト・モノの輸送も活性化する。そして、「道」を整え、ヒト・モノ・情報(知恵)の輸送技術を発展させた都市が周囲の都市を圧倒する

 ユーラシア大陸の河川沿いに分散していた古代の農耕都市は、やがて4つの巨大帝国(ローマ、パルティア、クシャーナ、漢)に統合される。帝国内ではさらに道路網の整備を進め、情報(知恵)を集めて治金や輸送の技術を開発し、統治の潤滑剤となる貨幣制度を広め、王と官僚のためにモノの流通を活発化していく。


●王が財宝を輸入するための交易路

:シルクロード


 中国、中東、ヨーロッパの巨大都市の間には、4000kmを越える広大な草原地帯に遊牧民の騎馬国家が広がり、遠距離交易を妨げていた。

 転換点となったのは、漢王朝の武帝(紀元前141年~紀元前87年)が派遣した調査部隊からの報告だった。ヨーロッパに向けて絹や鉄などを返礼品として輸出するだけで、貴重な金やガラス細工、美術品などの財宝が手に入というのだ。武帝は、財宝を手にいれるために、漢王朝とヨーロッパの間にある36の遊牧民都市国家と属国関係を結び、ラクダによるオアシスの移動経路=シルクロードをつなげる。途中経路のインドやアラビアで入手できる香辛料はヨーロッパに返礼品として贈り、遊牧民の所有する馬は漢王朝に送る。

 4000km以上の距離を数年がかりで移動する交易は危険を伴い、生活のための交易は割に合わず、王や大富豪、官僚たちが力を得るための宝物や贅沢品、原材料を手に入れるために交易が行われる。帝国をつなぐシルクロードによる疎なコミュニケーションは、徐々に文化、技術、宗教、そして病を伝搬していく。

 やがて「オアシスの道」は草原と海に広がり、アフリカ大陸、ヨーロッパ、アジアを結ぶ複数のルートに広がっていく。

西暦100年ごろの陸海の交易ルート:
 ・オアシスの道(シルクロード、乾燥地帯に連なるオアシス都市を結ぶルート)
 ・草原の道(モンゴル高原から西へカザフ草原、アラル海、カスピ海を通って、黒海へ達するルート)
 ・海の道(紅海・アラビア海ルート、地中海・インド洋ルート)


●王権のためのグローバル交易と

ローカル・ネットワークに集約される国内産業


 1300年以降、東ヨーロッパから中東にひろがるオスマン帝国によりインド洋航路を閉ざされ、中規模の国家が激しい闘いを繰り返していたヨーロッパ諸国は大西洋へと目を向ける。

 1482年、ポルトガルは西アフリカ海岸に要塞を築き、マリ帝国(西アフリカ)との交易を掌握、金、象牙、胡椒、奴隷と織物、武器を交換、砂糖のプランテーションを展開して突出した力をつける。さらに、大西洋からインドに到達できると考える探検家=コロンブスに投資し、1490年にアメリカ大陸を発見。続く1498年にヴァスコ・ダ・ガマがインドに到達、1522年にマゼラン隊が世界周航を達成したことをきっかけとしてヨーロッパは世界初のグローバルな交易ネットワークを構築する

 産業革命までのグローバル交易は、王権を維持し軍隊と土地を広げるために行われる。重商主義など、力のある国が輸出を輸入よりも多くするために高い関税により輸入制限をかけ、武力により不均衡貿易を強要するなど極端な貿易黒字を目指す

 この時期のグローバル交易は未熟だが、後のグローバリゼーションを支える経済的な土台を構築する。

経済的な土台の構築:
 ・帆船による遠洋交易、航海術、砂糖と奴隷の三角貿易
 ・イスラムの商習慣、数学、地図作成
 ・製鉄と鋼の生産技術、活版印刷、農業技術
 ・火薬などの中国の先進的なイノベーション
 ・銀行、金融、市場

 1700年にいたっても、海上の輸送は風力、陸の輸送は牛や馬で搬送に多くの時間がかかることから、生産と市場は強く消費と結びつけられ、都市とその周辺から形成されるローカル・ネットワークにヒト・モノ・情報(知恵)が集約されていた

フューチャー・リテラシー:インデックス

国家形成に向けた専門分業と集落間の生存競争
古代都市を循環させる貨幣情報ネットワーク
交通・通信インフラとグローバル交易(後編):産業革命~現代 

参考書籍:
[1] リチャード・ボールドウィン(2018), "世界経済 大いなる収斂 :ITがもたらす新次元のグローバリゼーション", 遠藤直美訳, 日本経済新聞出版社
[2] 宮崎正勝(2002), "モノの世界史 --刻み込まれた人類の歩み", 原書房
[3] デヴィッド・クリスチャン, シンシア・ストークス, ブラウン、クレイグ・ベンジャミン(2016), "ビッグヒストリー --われわれはどこから来て、どこへ行くのか--", 長沼毅日本語版監修, 石井克弥,竹田純子, 中川泉訳,  明石書店
[4] 松岡正剛監修, 編集工学研究所(1996), "増補 情報の歴史", NTT出版


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【閑話】パーソナル・アシスタントの一里塚: ナリッジナビゲータ

 1987年、Appleは当時のCEOジョン・スカリーが作成した著書をもとに、自社が目指すパーソナルコンピュータの未来を示すプロモーションビデオ「ナリッジナビゲータ(KnowledgeNavigator)」を公開した。筆者がこのビデオを観たのは、1992年ごろで、こんな時代が近づいているとワクワクしたのを覚えている。Appleが提供したHyperCardやMachintalk(音声合成)はその布石だったし、その後のiPadやSiriにつながる技術や製品を着実に実現してきた。




 開くとすぐに起動するノートサイズのパソコン、口パクする蝶ネクタイをつけたアシスタントが常駐し、音声認識で要望を聞き、流暢な音声合成で応答、音声とタッチパネルで操作する。ビデオ中で、大学教授のマイケル・ブラッドフォードが、友人のジル・ギルバート教授とアシスタントを介してコミュニケーションしている。


●「ナリッジナビゲータ」から抜粋


登場人物:
 教授: マイケル・ブラッドフォード教授
 KN: ナリッジナビゲータ・アシスタント
 ジル: ジル・ギルバート教授

教授:「前期からの講義ノートを見せてくれ」
教授:「まだ読んでいない最近の論文を出してくれ」
KN:「専門誌からですか?」

KN:多くの論文の中から、友人の論文をレコメンドして自動的に要約を読み上げる。

教授:「ジルに連絡してくれ」
KN:「連絡しましたが、ただいま席をはずしています」
  「先生から電話があったというメッセージは残しておきました」

教授:「フレゼン博士とかいった人が、5年ほど前、ジルの論文に反対していた論文を発表していたと思ったが」
KN:「~大学のフレミング博士です」と言って、該当する論文を紹介する。
その後、教授は論文中のデータ部分の表示を依頼

ブラジルの過去30年間の森林伐採率のマップ動画表示を依頼し、
ジルが、過去20年間のサハラ地域のシミュレーションを見せる。
教授が両方のデータをリンクして、その変化を同期して動画表示する。
さらに森林伐採量を年間10万エーカーに減らして影響を確認する。

KN:「先生のお話中にお母さんから「バースデーケーキを忘れずに』という電話がありました。」


●ナリッジナビゲータの前提となる技術


1)アシスタントとの対話による情報検索:①④

 アシスタントと対話しながら、情報を探し絞り込む。

 バックにある技術:
 ・連続する対話での情報絞込
 ・すでにアクセスした情報を把握
 ・曖昧検索
 ・情報の要約との情報マッチング

 スマートスピーカーには、まだこのレベルの絞り込みができる機能はない。有料アドオンでいいのでぜひ提供してもらいたいものだ。できれば音声で読み上げるのではなく、iPadやPCと連動して情報を表示もしてもらいたい。

2)情報のレコメンド:②

 いくつもある論文の中から、興味があるだろうものを自動的にレコメンドする。

 バックにある技術:
 過去に教授が読んだ論文を記憶して、同じジャンルの論文に絞り込み、以下の優先順でレコメンドする。
 ・過去に注目していた著者が書いた最近の論文をレコメンド
 ・過去に注目していた論文を読んでいる人達が最近注目した論文

3)データ表示とデータ比較:④⑤

 論文に記述されているグラフから元となるデータを得るのは難題だ。Webを自在にあやつる現代でも、論文は「紙」メディアに依存しているからだ。
 さらに、異なる場所で作成されたデータ群と、誰かが作成したシミュレーションを連結したり値を変えてみたりということは、技術的には難しくないにもかかわらずなかなか浸透しない。
 複数の学会が協力して、論文や公開情報のデータのフォーマットを統一する有用性に気づくことだけで実現できるはずだ。

 バックにある技術:
  ・データフォーマットの標準化 (特に論文、技術情報)
  ・ウェブなどでの標準フォーマット・データの連係表示機能

4)アシスタントを仲介するコミュニケーション:③⑥

 ヒトとヒトのコミュニケーションをアシスタントが仲介する方法は、2つ考えられる。

 バックにある技術:
 ・アシスタントどうしでのメッセージ交換
  ③でアシスタントは、ジルのアシスタントに向けて自動的に、「不在だったので電話をかけなおして欲しい」旨を伝言する。ヒトが伝言メッセージを残すコストを省略できる。

 ・第三者の音声を理解し、要約して伝える
  ⑥でアシスタントは、母親からの電話にバックグラウンドで応答、音声認識、要約を記憶し、教授の時間が空いたときに伝える。教授は、母親のメッセージを直接聞くことなく、アシスタントからの要約だけ聞くことができる。

  アシスタントによるコミュニケーションの仲介は、星新一の「肩の上の秘書」で登場する
 インコ・アシスタントが秀逸だ[1]。時間の無駄遣いに本人たちが気づいていないのがオチだ。
  営業:「~社のものだ。電気グモを買え」
  営業インコ:(商品の丁寧な長い説明)
  顧客インコ:「自動式の孫の手を買え、と言っています」
  顧客:「いらないわ」
  顧客インコ:「すばらしい~、とてもそんな高級品をそなえるほどの余裕が、ございませんもの」

 論文の検索でもそうだが、ナリッジナビゲータ・アシスタントはしばしば先読みして行動し、バックグラウンドで音声応対もこなす。ヒトは、マルチタスクでジョブをこなすことはできないが、アシスタントがサポートしてくれれば、ある程度マルチタスクを扱えるようになるだろう

 SiriやAlexaは、まだパーソナル・アシスタントの入り口でしかない。今後はヒトの時間をいかに圧縮できるかが課題であり、「ナリッジナビゲータ」は今後もその一里塚を示し、向かうべき方向をナビゲートするだろう。

参考書籍:
[1] 星新一(1971), "ボッコちゃん", 新潮文庫

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ミラーワールドをけん引するメディア:スマートグラス

 本節では、次節で「未来を読み解く」ためのベースとして、各企業などで計画されている未来について紹介する。

4.1 計画されている未来のコンセプト
実世界と虚像が共進化する世界:ミラーワールド
計画されている未来サービス
ミラーワールドをけん引するメディア:スマートグラス

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 未来の変化は、電話、ラジオ、TV、コンピュータ、インターネット、iPhoneがそうであったように、時代を変えるインパクトを持ったメディアとヒトとの共進化が引き金となる。当初は、ごくわずかな利用者しか注目せず、周囲のほとんどの人たちにはなぜそれを欲しがるのか理解できない。ところが一旦普及すると、手足と同じように手放せない存在となる

 そして、

      「未来を変えるヒントは必ず今ここにある」


 バーチャル世界と実世界を繋げるメディアとして、「今ここにある」のメディアはAR・VR機能を備えたメガネ、スマートグラス(AR/VRメガネ)だ。スマートグラスを、iPhoneのように常備するようになったとき、時代が大きく動き出す。

スマートグラスnorth-focal
          Googleが買収を決めたNorth社のFocals
    (https://www.digitaltrends.com/smartglasses-reviews/north-focals-review/#/6)


●携帯メディアの振り返り



 我々は、すでに忘れてしまっているが、iPhoneの発売から数年間は一部のマニアのデバイスであり、大多数がスマホを使いたいとは考えていなかった。iPhoneにつながる携帯メディアの略歴をふりかえってみよう。

・情報端末を持って歩きたい: ノートPC (東芝DynaBook, 1989年)
・いつでもどこでもコミュニケーション: 携帯電話(DoCoMo設立, 1991年)
・手帳代わりのメモや手帳: 電子手帳(ZAURUS, 1994年)

 1986年には7.7kgほどのMac Plusを専用リュックに入れて移動していた。仕事でノートPCを使うようになったのは、1997年ごろからだ。
 携帯電話は、無線通話だけでなくi-modeによる情報検索(1999年)、写メ(2002年)、GPS(2007年に搭載義務化)を合わせた統合携帯マシンとなった。方向音痴の筆者にとって、GPSはまさに手放せない存在だとなった。
 電子手帳の歴史は古いが、手帳として欲しいと思ったのはappleのnewton(1993年)からであり、初めて手にしたのはZAURUS(1994年)からだった。
 携帯音楽はウォークマン(1979年)がルーツであり、iPod(2001年)、iPod touchとiPhone(2007年)へと至る。iPodの成功がなければiPhoneが生まれることはなかったかもしれない。
 さらに、最近気軽に使われているTV電話(ビデオ通話)は、「2001年宇宙の旅(1958年)」で強烈な印象を残し、1970年の万国博覧会で多くの人たちが体験したが、電話会社が何度もトライするも普及のきざしはいっさいなかったのだ。

○iPhoneを使うきっかけ


 筆者と妻を例に、iPhoneを使うきっかけを例示してみよう。

■筆者(2009年、iPhoneが日本に上陸した翌年)
 電話、メールやGPS地図は携帯で十分だったし、重くなる、お財布携帯が使えないというデメリットがあったが、何よりWebを今ここで利用できること、電子手帳として使え、沢山あるCDをいっきに整理できる総合端末を持ち歩けるというのが魅力だった。

■妻(2014年)
 このころからスマホが一般層に広がり、従来の携帯を淘汰し始める。妻の初期のモチベーションは、なんといっても娘とLineができること。2020年からApple Watchも使いこなしている。

 新しいメディアを使うきっかけは様々だが、そこから思わぬ世界に牽引していく。スマホの普及は、人々の生活を一変させたのだ。


●スマートグラス(AR・VRグラス)の

ブレークスルーを考える


 2013年にGoogleグラスが開発者用に発売されてから、消費者向けの発売は未定のままだ。現在ARグラスが苦戦してい様子は、電子手帳のそれを想起させる。

 障壁となっているのは、メガネをかけているだけで撮影できてしまうプライバシー問題だが、現在のスマホのように撮影時には音を出すなどいずれ突破できるだろう。大多数が必要だと思っていないというのは、たいした問題ではない。

 マニアが使う初期段階では、Apple Watchの需要を取り込み、スマホと連携できるタイプをAppleやGoogleが発売する時がきっかけとなる。重量は、今のメガネと変わらず、必要な時にメガネにオーバーレイして表示する。

スマートグラスの初期スペック:
 ・AR/VR表示
 ・ジョギング中の健康情報AR表示などApple Watchの拡張機能を搭載し、音楽を聴くことができる
 ・現在位置を地図ARで確認、方角を矢印で表示する
 ・全国の建物や観光地のAR情報と、ポケGOのようなゲーム、室内の家電やスマートスピーカとの連動をキラーアプリとして標準搭載する

 すでにスマートリングが発売されているので、軽量化に課題はない。

スマートリング機能:
 ・スマホの着信通知の取得
 ・通話、音声アシスタント
 ・スマホの操作
 ・健康管理機能(心拍数、体温、睡眠段階、呼吸数など)
 ・キャッシュレス決済
 ・鍵の開閉

 さらに大きなブレークスルーとなるのは、近視・乱視・遠視、ブルーライトカット、サングラスといったメガネ機能をソフトウェアで自由に変更・調節できるうようになる時だ。網膜照射レーザー(QDレーザー社など)にも期待したい。  


●今考えられているバーチャル世界


 バーチャル応用サービスは、電脳コイル、マイノリティ・リポート、アイアンマン、レディ・プレイヤー1のようなSF世界を目指す。専門分野では、AR/VRゴーグルが先行して利用される。

電脳コイルNetflix
          ARグラス電脳コイル(Netflixより)
          (https://www.netflix.com/jp/title/81299264)

屋内でのAR/VRゲーム、eスポーツが牽引して次々と応用範囲が広がっていく。

・屋外:
 - 建物、バス停、景色に重ねてAR情報と広告を表示
 - ジョギング中にコース、心拍数や代謝、歩数や距離を確認
・医療:
 - バーチャル空間上での創薬、スクリーニング
 - 手術中にホログラムなどサポート情報を表示
・研究、教育:
 - バーチャル実験、シミュレーション
 - 病院、家からの遠隔通学
・ディスプレイ:
 バーチャル空間上でTV、映画、PCディスプレイ、書籍を表示
・体験、冒険:
 - 旅行、家具配置、ファッション・化粧品の試用
 - 宇宙空間、深海、秘境を探検
・生体機能拡張:
 - 顕微鏡、望遠鏡、超高速、超低速、俯瞰
・技術者育成:
 - 習熟者による新人教育
・遠隔オフィス:
 - 3次元TV会議、多地点オフィス連結


●クリティカルマスを突破すると、

 別次元の使い方が創造される


 従来なかったメディアの登場は、人とメディアの共進化により、人々の生活を考えてもいなかった方向に牽引し、世界中の時空間距離をいっきに圧縮、ゼロ距離社会を誕生させる。スマートグラスは、ヒトの空間という概念を変えてしまうのだ。
 例えば、皆が見ている映像をつなげ合わせて、リアルタイムの全方位3D空間をつくり、高速3Dストリートビューで実際に歩いているように海外を散歩できる。そのまま、店に入って現地価格で購入できる。今見ている景色の夜景や、紅葉を観るタイムシフトも可能となる。
 全世界中のすれ違う人と、自動翻訳で会話もできる。そんな度胸がない人に向けて、Lineのようにショートメッセージでの会話。その場所で行ったパフォーマンスを、設置して、世界中で共有する動画メッセージなど新しいコミュニケーションが次々と誕生する。

 スマートグラスの普及は、デジタルツインと実世界をつなげ、スマートグラスのバーチャル・ネットワークが新しい時代のインフラとなり、その上に新たなメタコミュニケーション・ネットワークを複合的に構築してゆくこととなる。ヒトが瞬時にそこに存在できる、ゼロ距離社会が誕生する。




参考書籍:
[1] ケヴィン・ケリー(2019), "Mirror World :デジタルツインへようこそ", 松島倫明訳, Wired, Vol.33
 参考:https://wired.jp/special/2019/mirrorworld-next-big-platform/
[2] 川口信明(2020), "2060 未来創造の白地図 :人類史上最高にエキサイティングな冒険が始まる", 技術評論社

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計画されている未来サービス

 本節では、次節で「未来を読み解く」ためのベースとして、各企業などで計画されている未来について紹介する。

4.1 計画されている未来のコンセプト
実世界と虚像が共進化する世界:ミラーワールド
計画されている未来サービス
ミラーワールドをけん引するメディア:スマートグラス

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 ヒト、クルマ、ロボット、都市、工場、家、家電、家具、産業(交通・クルマ、輸送・物流、金融、製造、医療、不動産・建設、小売、エネルギー、農林水産業)がミラーワールドに組み込まれていく。計画されている未来サービスの例を示し、それがもたらす変化を概観する。

ミラーワールド小2

         ミラーワールドとサービスネットワーク


●スマートシティ


 スマートシティはトヨタが静岡で実験都市を建設するなど、すでに具体化が進みつつある。今、スマートシティは人流や交通流をデジタル化し、サービスネットワークにフィードバックして動的適応し続ける未来サービスの提供を目指す。



         Toyota: Woven Cityイメージビデオ



○人流・交通流をリアルタイムにフィードバックする


 都市の建物や道路の上でヒト、クルマ、ロボットが移動し、ヒトの購入、観覧などの行動が常にモニタリングされる。リアルタイムの移動・行動、環境変化を把握し、次の移動先を予測して、店舗、ヒト、モノにフィードバックする。

街:
・熱環境変化と人流に合わせて、快適性(風、日陰、放水など)をコントロール

店舗:
・冷暖房の効率化
・顧客の誘導、接客準備、商品のレコメンド
・店舗への「いいね!」、需要予測

ヒト:
・ウェアラブルデバイスとの連携で、ヒトの興味や体調似合わせて、店舗紹介、喫茶店での休息、自販機、図書館、涼しい場所などをレコメンド

クルマ:
・ヒト、クルマの流量に合わせて、信号制御、制限速度を動的に変更
・イベント地域、車線数、車道と歩道を動的に変更

広告:
・デジタルサイネージ、掲示板での広告・情報提供

○環境情報をもとに快適性をコントロールする


・街の環境情報(をもとに): 大気質、CO2排出量、熱環境(土地の機構、気温、湿度、気流、熱放射、地表面温度など)
・快適性コントロール: 風、日陰、放水、植物・断熱材・熱伝導などを設置・制御
・交通制御: 交通流の制限、迂回路の案内

○移動手段を連携する


・自宅から目的地までの移動手段をつなげる
 無人バス・タクシー、シェアリングカー、レンタカー、既存の交通手段を連携・連動して、自宅付近に呼び出し、目的地まで効率の良い移動を提案、予約 
⇒クルマの個人所有を減少

○都市情報把握、シミュレーションにより都市をマネジメントする


・生活と都市環境での人流、交通流を観測し都市計画、観光戦略に反映
・物流の効率化
 

○災害に備える


・災害対策の事前シミュレーション
・災害時の動的状況をフィードバックし、避難誘導

○複数の都市で分業する


 隣接する異質な都市インタフェースの正規化・標準化によりネットワーク接続し、生活、教育、仕事、娯楽、研究を連携

分業都市の例:
・コンパクトシティ(行政や学校も含めた生活環境をコンパクトに近接)
・研究、ベンチャー企業などのクリエイティブ・クラスター
・巨大生産拠点
・自然や季候など快適性を重視した都市
・娯楽・テーマパーク など


●スマートファーム


 スマートファームは、労働力をロボットに代え、環境情報や農作物・畜産物の状況をリアルタイムに把握し、農作業にフィードバックする遠隔管理システムを構築しつつある。さらに、作物の育成から宅配までの一貫したサプライチェーン・コントロールを目指す。

○大規模植物工場をロボットで遠隔運用する


・ロボット工場ネットワーク:
 ネットワークでつながりあった規格化された屋内外ロボット工場でプロのノウハウと育成データを分析・共用して誰でも無農薬で熟して、味が良く、栄養豊富な作物を育成
・遠隔コントロール:
 ドローン、ロボットで遠隔監視、遠隔制御で、栄養、環境(温度、湿度、炭酸ガス)、土壌(灌水、栄養、菌)、病気、作物の播種、移植、収穫、出荷調整まで一貫して管理
・流通・調理の連携:
 食材宅配、ロボット調理器、プロのレシピと連携して流通から調理完成までの流れを連結
・ノウハウ共有ネットワーク:
 さらにノウハウ共有ネットが発展すると、環境条件に合わせて最適な飼育方法を調整する最適条件コントロール、絵を描くように品種改良


●ロボットへの分業


 今後、AIの名のもとにさまざまなサイズのロボットが陸海空そして体内まで進出、ヒトの一部や全部のルーティーンを学習、代替してサポートし、労働人口の減少、高齢化する社会を支えるインフラとなっていく。

メルティン

          メルティンMMI (https://www.meltin.jp/news/168/

・パーソナル・ワークボット:
 - 個人用の安価な作業ロボット
 - 農作業、安価な試作・製造、ロボットとの共同作業

・ウェアラブル・ロボット:
 - スポーツコーチング、eスポーツ
 - 高齢者、障がい者サポート、義手・義足、搬送支援、自動走行車椅子

・サポート:
 - 介護、家政婦、医療(手術、遠隔手術)

・ナノ・ロボット:
 - 体内で健康状態を監視・記録、遠隔診断、体内回診、予兆医療、緊急通知

・遠隔分身ロボット:
 - 海外旅行、遠隔勤務、遠隔作業、宇宙・深海作業、病院から通学
 

 計画されている未来サービスの一例を列挙した。スマートシティ、スマートファーム、スマートファクトリー、スマートオフィス、スマートホームなどの各分野において、ヒトの活動をロボットやサービスに分業し、その利用履歴を収集、分析・解析してサービスにフィードバックする情報循環、動的適応制御が、今後の共通する傾向となってゆく


実世界と虚像が共進化する世界:ミラーワールド
ミラーワールドをけん引するメディア:スマートグラス 

参考書籍:
[1] ケヴィン・ケリー(2019), "Mirror World :デジタルツインへようこそ", 松島倫明訳, Wired, Vol.33
 参考:https://wired.jp/special/2019/mirrorworld-next-big-platform/
[2] 川口信明(2020), "2060 未来創造の白地図 :人類史上最高にエキサイティングな冒険が始まる", 技術評論社

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実世界と虚像が共進化する世界:ミラーワールド

 本節では、次節で「未来を読み解く」ためのベースとして、各企業などで計画されている未来について紹介する。

4.1 計画されている未来のコンセプト
実世界と虚像が共進化する世界:ミラーワールド
計画されている未来サービス
ミラーワールドをけん引するメディア:スマートグラス

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 Google検索、iPhone、Google Earth、 ストリートビュー、ポケモンGOが示した道筋の延長に、今後数十年の壮大な未来が計画されている。超高速ネットワークの上に多層に重なって広がるバーチャル・ネットワークをベースとして、実空間におおいかぶさり巨大に広がるamazonモデル。大量のサービス支援を通して、ヒトとモノ、モノとモノをつなぎ、あらゆる行動履歴をトレースして、分析・モデル化した情報を実生活に循環させる。 

 現実世界とデジタルツインが情報とメタ情報を循環し、相互に影響を与え合いながら動的に適応、変化し続ける。

●社会環境の変化と影響


超グローバル化とフラット化:
 グローバル世界からの人材参入が、大国資本主義を脅かす。仮想世界が現実世界の大規模な分断・分散化を促し、世界規模・国家規模でフラットなネットワークでつながる社会を広げる。

超高齢化:
 先進国の高齢化による労働人口の不足が、動的に適応する柔軟な組織へと企業のあり方を変える。10数人程度の小さなチームが動的に連携する企業、複数のチャネルで社会につながる個人、共同組合で助け合う企業なき労働形態など多様なコ・ワーキングが世界を変えてゆく。

バーチャル化:
 グローバル化とフラット化、コ・ワーキングの浸透により、物理的な実態を持たないバーチャル国家、バーチャル企業が誕生し、物理とバーチャルの両方に拠点を持つ、マルチチャネル型のワーカー、生活スタイルが国家、企業、地域社会という概念の見直しを迫る。

※コ・ワーキング:
 事務所スペース、会議室、打ち合わせスペースなどを共有しながら独立した仕事を行う共働ワークスタイルを指す。一般的なオフィス環境とは異なり、コワーキングを行う人々は同一の団体には雇われていないことが多い。
 ウィキペディア(2021/5/21)より
  https://ja.wikipedia.org/wiki/コワーキング


●ミラーワールドとデジタルツイン


ミラーワールド小
       
                     ミラーワールドの構成イメージ

 書籍や商店だけでなく、ホーム、教育、都市、マネーや企業、国家までも巻き込んで、リアルとデジタルが混在する世界が構築されようとしている。現実世界にあるすべてのヒト、場所、モノをデジタル世界=デジタルツイン(デジタルの双子)に投影するミラーワールドでは、合わせ鏡のように現実世界とデジタルツインが相互作用し、爆発的なスピードで共進化を繰り返す。  
 今後、生まれる様々な用途向けのサービス -- 交通、輸送・物流、金融、製造、医療、不動産・建設、小売、農林水産業、エネルギーなどのあらゆる産業支援、人びとの生活支援 -- がネットワークで接続・連携していく。「サービスネットワーク」を通して相互に情報交換・融合・複製し、連携・協調・組み合わせて編集しながら、「分析・モデル化ネットワーク」によりデジタル情報に変化して現実世界をデジタルツインに取り込み、「情報抽出ネットワーク」によりデジタルツインから各サービス毎の用途に応じて情報を選別して抽出し、現実世界にフィードバックする


●ミラーワールドにおけるフィードバックループ


 当初、ミラーワールドはモデルサービルや新規ビジネスとして、個別に構築される。現実世界に向けたサービスネットワークが利用者やモノの情報を収集し、デジタルツインに記憶し、デジタルツインから必要な情報を引き出し、サービスネットワークを通して利用者への支援を通してフィードバックされる。サービスの利用と、それを通した情報のフィードバックループが、現実世界とデジタルツインの共進化をうながす

ミラーワールド
  
   ミラーワールド:現実世界とデジタルツインが共進化する世界


○収集する: デジタルツインへの情報収集


 現実世界からデジタルツインへの情報収集は、多様なサービスのネットワークを経由して集められる。

サービスネットワーク例:
・各種産業やインフラ、危機管理のために配置される監視カメラやセンサーのネットワーク
・金融・株式・経済指標などの経済情報ネットワーク
・ウェアラブルデバイス情報ネットワーク(ヒトの位置、健康管理、写真・動画)
・電子製品と家電のネットワーク
・自走カーを含む、支援ロボットとロボット連携のネットワーク
・環境情報(気温、湿度、騒音、....)ネットワーク
など

 現実世界をそのままデジタル化しても、情報量が膨大すぎてサービスにフィードバックして活用することはできない。現実世界の情報は、その用途毎に分析・モデル化ネットワークによりモデリング、デジタル情報化してデジタルツインへ送り込まれる。

分析・モデル化ネットワークでのモデリング例:
 ・統計処理、特徴量を圧縮
 ・シミュレーション
 ・イメージ化、パターン認識
 ・機械学習
 ・ヒトの利用傾向として圧縮(ヒトとヒト、ヒトとモノの距離など)

 デジタルツインは、モデル間でかわされる相互作用(情報交換、相互演算)により、より複合的なものへと変わっていく。



○記憶する: デジタルツインへの記憶


 現実世界にあるものすべての場所(地図、道路、建物、部屋、...)やモノ、ヒトが情報化され、デジタル情報としてデジタルツインに投影される。

デジタルツインへの記憶の例:
・地形、植生、道路、建物、部屋、家具や家電の配置などの3次元地図
・リアルタイムのヒトやクルマ、ロボットの移動、移動先の予測
・リアルタイムの環境情報(天気、気温、気圧、湿度、CO2濃度、...)
・社会、経済状況
など

○引き出す: デジタルツインからの情報の引き出し


 デジタルツインの記憶はサービス毎にあつかいやすく加工されるが、それでも膨大な量を扱わなければならない。膨大なデジタルツインの記憶から、目的に応じて情報を選別して引き出す技術が、用途毎に構築される。

情報抽出ネットワークによる情報の選別例:
・検索、フィルタリング
・マッチング
・レコメンド


○支援する: 未来サービスとサービス連携


 未来サービスは、当初は用途毎に個々に発生するが、互いに情報交換・連携することにより統合サービスへと変わっていく。

・リアルタイムに情報を提供・予報する
 各地の気象、災害情報の提供と予報

・自動化する、ロボット化する
 スマートシティ、スマートファーム、スマートファクトリー、スマートオフィス、スマートホーム、スマートカー

・ロボットでサポートする
 医療、高齢者、障がい者、遠隔分身、ナノロボット

・シミュレートする
 都市デザイン・予測、社会生活デザイン・予測、実験、創薬

・バーチャルとリアルを連携する
 職業訓練、手術補助、創薬、実験、旅行、リアルに重ねてAR情報表示

・ウェアラブルで健康を管理する、ライフログを記録する

 ミラーワールドは、個別の目的で徐々に構築され、しだいに相互連携して浸透する。

 ・モデル都市、自動運転カー
 ・情報・商品売買プラットフォーム
 ・スマートホーム、ウェアラブルデバイス
 ・スマートファーム、スマートファクトリーなどの作業自動化と遠隔管理
 ・スマートオフィス、コ・ワーキング

 分断されていた各サービスの協調と競合を共進化させるエコシステム、共通基盤プラットフォーム、相互インタフェースの規定と連携がブレークスルーとなり、ある瞬間を境にミラーワールドが現実世界と切り離せない存在となってゆく



参考書籍:
[1] ケヴィン・ケリー(2019), "Mirror World :デジタルツインへようこそ", 松島倫明訳, Wired, Vol.33
 参考:https://wired.jp/special/2019/mirrorworld-next-big-platform/
[2] 川口信明(2020), "2060 未来創造の白地図 :人類史上最高にエキサイティングな冒険が始まる", 技術評論社
[3] リンダ・グラットン(2012), "ワーク・シフト :孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉", 池村千秋訳, プレジデント社

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【閑話】今ここにあるSF世界:M氏の休日(2021年)

 ヒトは変化をすぐに自然なものとして受け入れ、適応し、その存在をあたりまえのものとして認知する。数十年前にはありえなかった「今ここにあるSF世界」をあらためて体験してみよう。
 

●目覚め

 

 「朝だよ、おきて~

 

 休日の朝、スマホから聞こえる妻の声アラームで目覚めるリビングのシャッターは、起きる前に自動的に開いて、明かりがもれている。今朝は晴れだ。

 

 布団でまどろみ、服を着ている間に、スケジュールとニュースを、アシスタントに聞く。

 

(スケジュールはいつもアシスタントに入力してもらって、読み出しはアシスタントとスマホを使い分けている)

 

●体操と散歩

 

 アシスタントにラジオ体操を流してもらい軽い準備運動をして、その後ルーチンの体操をする。

 

 体操の後は散歩だ。散歩中の歩数やカロリー消費の目標値がメータ表示されるので、毎日続けるモチベーションになる。散歩後には健康情報を確認できる。

 

(座って作業をし続けると、注意されるのも助かっている。)

 

 散歩中にアイデアを思いつくことが多いので、音声認識でメモをPCに共有する。

 

●書店とコーヒーショップ

 

 散歩中に書店による。amazonからのレコメンドも助かるが、その場で見わたし、手にとる書籍の散策には別の発見がある。持ち帰るのが重いので、書店はもっぱら散策用のショーウィンドウとなっている。気に入った本を見つけると、スマホからPCに共有し、評価を確認する。書店もショーウィンドウ需要をとりこんだビジネスモデルを考える時期にあるのだと思う。

 

 書店の後は、いつものコーヒー店でビッグサイズのブレンドをワンモアで2つ買う。スマホの会員アプリを使いキャッシュレスで購入すると、自動的にポイントがたまる。そういえば、Suicaのようにワンタッチで商品を購入ようになってから、現金を持ち歩かなくなった。

 

●お掃除タイム

 

 帰宅後は、それぞれの分担でお掃除タイム。妻は1階でアシスタントにお気に入りのミュージシャンの音楽をかけてもらっている。僕の担当は2階。寝室兼書斎はアシスタントの指示で掃除ロボットを依頼して、他の部屋を掃除している間に終わったことをスマホで確認する。

 

 (アシスタントから、「風呂入れ」を指示できるようにしようとして失敗した。誰でも簡単に洗濯、風呂、家電をアシスタントに依頼できるようになって欲しいな~)

 

●鑑賞タイム

 

 最近はTVをみる機会が減った。CMがなく、番組を提案し、好きな番組を選んで観られるビデオオンデマンドが便利だからだ。しかもハイビジョン&サラウンドでドラマや映画を鑑賞できる。4Kも利用できるが、我が家の画面サイズではそこまでの画質は必要ない。サラウンドのための複数のオーディオ機器の操作は、アシスタントにやってもらう。

 

●読書タイム

 

 本を読むのが好きなので、活字中毒というほどではないが、毎日なにがしかの本を手にとる。

 そういえば、本の購入数が圧倒的に増えた。amazonのレコメンドで欲しい本が簡単に見つかるようになり、電子書籍ならばその場で、リアル書籍ならば翌日に届く。完全にamazonの術中だが、不快感はない。読者の書評も様々な意見があり、読前に本の内容を把握するのに非常に助かる。

 

 電子書籍とリアル書籍は、用途に応じて使い分けているが、辞書、文字検索、コピペができる電子書籍が非常に便利だ。マーカーやタグを設定できるので、後から再読する際の助けになる。かつては、漢字の読み方を調べるために、画数を数えて漢字辞書で探すのに四苦八苦した、難しい漢字ほど画数が多いのだ。

 リアル書籍でもスマホの文字認識を使えば似たようなことができる。わからない言葉は、辞書で探すよりもアシスタントに聞いた方が速いこともある。

 

●夕暮れどき

 

 リビングのシャッターは自動で閉まるが、電灯はアシスタントに指示しなければいならない。それでも「おやすみなさい」と声をかければ、いっきに消灯してくれるのは助かる。

 

 夕食の食材は、週に数日分サブスクをお試し中。メニューをスマホで選ぶだけで届き、ある程度の栄養バランスがとれて、なにより食材の調達が楽になる。そのうち調理は3Dプリント、レシピはネットでという時代になるんだろう。

 
●就寝時

 

 寝る前は、ブルーライトを避けるため30分程度ジャズを聴きながら、リアル書籍を読む。寝ている間の音楽は快眠の妨げになるので、就寝後10分で音楽が止まるようセット。


オヤスミナサイ

 

●まだまだある便利生活


・ネット振込

 銀行振込で銀行に足を運ぶことはなくなった。銀行は平日にしかやってないから大変だったのだ。

・アシストカー: 高速道路で一定の速度と車間を保ってくれるアシスト機能。

・音声で自動翻訳

 海外旅行程度ならば、どこの国でも困らない。

Web百科事典ウィキペディア

 根拠を示しているものが多く査読もある。場合によっては専門書や教科書よりも信頼できる。

・家に居ながら、スペインの道を通ってサグラダファミリアを周回して観光する

・情報散策にWebは必須

 仮説を思いつくとWebに意見を聞き、当たりをつけてから本を探す。読後も、Webで別の意見を確認するようにしている。専門外の書籍を、これだけ高効率で探し当てるなんてことは、以前には考えられなかった。

・手術をするロボット:ダヴィンチ

・3Dプリントでつくる: 家、工業製品


 ここから先の「計画されている未来」は、「今ここにあるSF」の延長線上で描かれていく。次章では、未来を読み解く前提として「計画されている未来」を概観する。


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曖昧な要望に応える通信サービスアシスタント(1994年)

第三章 1990年から観た未来
 本章では「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルとアイデア・プロセッシングのサンプルとして、1990年代に読み解いた未来(現代ではあたりまえとなったサービス・コンセプト)を例として紹介する。
 今あるコミュニケーション、ネットワークをベースとして次のメタ・コミュニケーション、メタ・ネットワークを問い続けることにより、次の時代のサービスに気づくことができる。

3.2 アイデアとプロトタイプで描いたもの
 本節では、商品化にいたらなかったアイデアやプロトタイプについて、「コンセプト編集」に焦点をあてて例示する。
曖昧な要望に応える通信サービスコンサル(1994年)

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●背景:


 日本で初めてのインターネット・サービス・プロバイダーがサービスを開始した2年後の1994年。通信サービスが複雑化するに伴い、通信サービスを利用することが難しい時代となっていく。このため、利用者の曖昧なサービス要求を理解して、通信サービスの提案や操作補助を行うインテリジェントなアシスタントのサポートが必要となる。

●お題: 

 ⇒到達フェーズ:プロトタイプ開発

 通信サービスへの利用者の曖昧な要求を獲得し、提案する


○前提: ヒトの要望は曖昧


 ヒトは、知識不足であることや、言葉の欠落、矛盾、誤りなどさまざまな理由により、自分自身が何を望んでいるのかをうまく表現できないことが多い。

○通信サービスとは:


 通信機能によって、人のコミュニケーションにかかわるエネルギー消費を効率化するサービス

 例えば電話では:

  通話: 「遠距離のコミュニケーション」の効率化
  電話の転送: 「通話のかけなおし」の効率化
  住所録からの発信: 「通話相手の電話番号を探し、入力する行為」の効率化


●言葉で表現する


○アイデアを言葉で表現する


 ・ネーム(呼称): 通信サービス・アシスタント
 ・クレーム(短文): 「通信サービス・アシスタント」は、通信サービスの利用状況をウォッチして、利用者毎に最適な通信サービスの利用や操作を推論して提案する。

○「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルでコンセプトを表現する


■構成要素: 
【技術・社会的背景】
 ・経済のグローバル化、環境変化への即応要求に応える通信サービスの急激な発展と提供、それにともなう通信サービス利用の複雑化

【ミクロなコミュニケーション】 
 ヒトとヒトの通信サービスを介したコミュニケーション

【通信サービスの利用環境】
 社会環境の変化、ユーザ要望の多様化、経済のグローバル化に適応する企業・オフィス環境

【メタ・コミュニケーション】
 通信サービス利用履歴、提案結果をもとに推論ベース群が推定する利用エネルギーを最適化した「理想通信サービス利用ネットワーク」

【フィードバック・ループ、動的適応】
 利用者の「通信サービス利用履歴」、「通信サービス提案要望」、「提案履歴」、それにもとづいて「推論ベース群」が構築する「理想通信サービス利用ネットワーク」イメージ、それにもとづく「通信サービスの提案」、複数の「推論ベース群」の重みづけの調整。

■ネットワークの特性: 
【利用者の通信サービスへの動的な多重帰属】
 通信サービスコンサルの提案により、通信サービスの利用が促進され、各利用者の通信サービスの利用が動的に変化

【通信サービス提案のための記憶】
・短期記憶: 各利用者の通信サービス利用状態
長期記憶: 
 - 通信サービス利用履歴
 - 利用者間距離(同じ通信サービスを利用しているほど近い)
論理記憶:
 - ルールベース
  要求とサービスの対応を重みつきルールで記憶
 - 類似ベース
  通信サービスの利用方法が似ている利用者群を常時分別
 - ニューラルネット
  利用してもらえた通信サービスの提案パターンをニューラルネットにより学習
    
【サービス提案の固定化と変異要素】
 要求に対するルールベースが学習により固定化してしまう可能性があり、変異要素を入れるなど工夫が必要


●サービス・イメージ


1)顧客要望推定
 次の3つの要素を演算した結果を「顧客要望」とする
 ①ユーザ要求入力、②現在の通信サービス利用状態、③通信サービス利用履歴

2)通信サービス提案ロジック
 通信サービス提案は、次の3つの推論ベース群のうちマッチ度の高い論理を適用する。マッチ度は各推論毎に通信サービス提案のヒット率をもとに強化学習。「推論統括」がコントロール。

 (1)ルールベース
  要求とサービスの対応を重みつきルールで記述、通信サービス提供者が初期値を入力、提案結果によるルールを修正
 (2)類似ベース
  通信サービスの利用パターンが似た利用者群をもとに提案、現代のレコメンドエンジンに近いロジック
 (3)ニューラルネット
  提案により利用してもらえた通信サービスをニューラルネットにより学習、未成熟な分野のため参考ロジックとする

3)通信サービス・アシスタントのマンマシン・インタフェース
 - 6W1Hなどの単語選択入力
 - 日本語音声合成
 - 発話表情ができるアバター

通信アシスタントイメージ

      通信サービス・アシスタントのサービスイメージ


●現代の類似サービス:


 iコンシェルにはじまり、スマートフォン操作のSiri、ホームコントロールのアレクサ、ドコモのしゃべってコンシェルなど。他、ミラーワールド、AI、指令AI。

フューチャー・リテラシー :インデックス
「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデル解説

tag : フューチャーリテラシ, 複雑系, メディア, 未来, ミクロ・マクロ・ネットワーク, 発想法, 未来予測

社会変化に適応するバーチャル・オフィス(1992年)/コ・ワーキング

第三章 1990年から観た未来
 本章では「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルとアイデア・プロセッシングのサンプルとして、1990年代に読み解いた未来(現代ではあたりまえとなったサービス・コンセプト)を例として紹介する。
 今あるコミュニケーション、ネットワークをベースとして次のメタ・コミュニケーション、メタ・ネットワークを問い続けることにより、次の時代のサービスに気づくことができる。

3.2 アイデアとプロトタイプで描いたもの
 本節では、商品化にいたらなかったアイデアやプロトタイプについて、「コンセプト編集」に焦点をあてて例示する。
動的に適応する仮想コンピュータ(1990年)
社会変化に適応するバーチャル・オフィス(1992年)
曖昧な要望に応える通信サービスコンサル(1994年)

------------------------------------------------------

●背景:


 携帯電話の人口普及率が1.4%[1]、日本で初めてインターネット・サービス・プロバイダがサービスを開始した1992年。インターネットの利用は大学や研究機関がほとんどで、静止画を扱うにも四苦八苦していた時代。


●お題: 

 ⇒到達フェーズ:社内資料

・未来のオフィス像を描く

  オフィス研究を行っていたチームメンバーの各研究を統合して未来に向けた指針を示す。


●言葉で表現する:


○アイデアを言葉で表現する


 ・ネーム(呼称): バーチャル・オフィス
 ・クレーム(短文): 低成長時代において、社会環境の急激な変化や多目的化に自己組織的に適応する「動的企業組織」として「バーチャル・オフィス・モデル」を提案する。

※バーチャル・オフィス 社会環境の変化に対応して、動的に編成して、自由に組み替えできるオフィスのイメージ呼称

〇バーチャル・オフィスの変遷


・Step1: 分散オフィス
・Step2: 協調オフィス
Step3: 自律分散型オフィス(自己組織化オフィス)
・Step4: ボーダレスオフィス
 会社の壁を取り払い、異業務/異業種のオフィス業務を動的に連携することにより社会変化や多様化する要求に対応する。

ここでは、Step3:自律分散型オフィスについて紹介する。

○「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルでコンセプトを表現する


■構成要素:
【技術・社会的背景】
 バブル崩壊を契機にデフレが長期に続く低経済成長時代、ネットワークの高速化(当面は1Mビット/秒をターゲット)  
 ・経済成長の頭を抑えつけられた状態での企業経営は、極端な企業成長が期待できない
 ・衣食住の基本欲求が満たされた顧客は、顧客それぞれの多様な嗜好で商品を選択する

【動的に変化する環境】
 - 顧客要望: 少量多品種な要望
 - 多目的化: 顧客要望の多様化に伴う企業内部での多目的化
 - 激しい製品交替: 激しい競争、新製品や新技術導入のテンポが速く、ライフサイクルが短い
 - 巨大な経済リスク: ブラックマンデー、バブル崩壊のような急激な経済環境の変化

【ミクロなコミュニケーション】
 ネットワーク(電話網、メール、TV会議、蓄積型の情報サービス)を利用して多地点・異時間・多人数で行われる、分業のための情報の交換

【企業内のマクロな構造】 動的組織、散逸的組織構造
 ・散層的組織構造: 部課など縦割りでない権利を分散化した平坦な組織構造 
  - 必要に応じてバーチャル・チームを柔軟に編成
  - 1人の社員が複数のバーチャル・チームに多重所属
 ・時空間分散組織:
  - 国内はもちろん、24時間の時差を活用して世界中分散・分業する組織編成
 ・企業内企業、企業内ベンチャー

【メタ・ネットワーク組織】 
 社会環境変化や、顧客要望の変化に呼応して、組織横断的に動的構築されるバーチャル組織・チームなどのメタ組織
 ・ネットワーク分業: それぞれが自律性をたもちながらも密接な相互作用にある分業
 ・伸縮的分業: 問題状況に応じてしくみを替える分業
 
【フィードバック・ループ】
 環境から社員へ、トップから社員へ、社員からトップへと循環する情報ループと、それをもとに動的・自律的に適応行動する社員
 ・社外環境、顧客の動的情報を社員に提供
 ・トップからの緩いビジョン提示、各社員が現状認識可能な情報の提供
 ・散層的組織やバーチャル・チームの運営情報を集約してトップで収集
 ・散逸的組織やバーチャル・チームの作業情報を編成・チーム内で循環
 ・(電子、リアルな)ティールームによるフリーな情報交換
  
■ネットワークの特性:
【社員・情報の多次元性・多重所属】
 組織編成/解体を積極的に実行、個人が複数のチームや組織に仮想的に所属・参加、それにともなう各種情報のハイパーリンクによる多次元性と多重所属

【動的に適応する企業】
 ・個々の社員が各種情報を取り入れて自律的・動的に行動
 ・企業をとりまく社会環境の変化に社内グループが動的に柔軟に変化するバーチャル組織、バーチャル・チームを編成して対応

【動的に適応する企業における学習】
 環境変化に動的に適応する組織には、各社員が参照できる記憶能力が必要となる
 ・トップのビジョン
 ・社会環境、企業環境の状況を共有
 ・バーチャル・チームのリアルタイムな運営情報、作業情報

【企業の恒常性・保守性】
 企業として存続するラインを維持しつつ、恒常性・保守性をくずす方向へ誘導

【企業変革のための変異要素】
 動的適応のための特異人材のプール、即応体制


●サービス・イメージリスト


 導き出したサービス・コンセプト例を列挙する。
バーチャルオフィス

     バーチャル・オフィスのイメージ

1)物理的な制約(空間、時間)をとりはらう
 時空間を意識せずにアクセスできる通信手段を提供する。

 1-1)空間接続
  メインオフィス、サテライトオフィス、ホームオフィス、移動オフィスの空間的制約をとりのぞく。
 ・高臨場感接続: 大画面スクリーンでサテライト・オフィスをメイン・オフィスに接続、小スクリーンでホームオフィスや移動オフィスを常時接続、瞬間接続可能で「声掛け」することもできる。
 ・多地点ビデオ会議、テンポラリTV会議

 1-2)時差接続
  世界各地での時差を積極的に活用し、24時間のシフト分業を可能とする。
 ・蓄積型コミュニケーション: チャット対話の併用、早送り巻き戻し可能なビデオ会議・通話
 ・エージェント・代理コミュニケーション: 会議代行出席、代理発表、不在時スケジュール調整/業務指示、ノウハウ提供
  ※現代:インターネットによる接続、社内チャット、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)

 1-3)空間・時差接続共通
 ・社員状態表示: 在籍、打ち合わせ中、ビジー、接客中など
 ・フレックスタイム・シフトタイム管理
   ※現代:グループウェア・サービスなど

2)グループを組み替え支援
 個人/グループの自律性を保ちながら、組織編成やバーチャル・チームを自由に組み替えできる。
 ・動的組織・グループ編成支援: 電話帳、権限管理、一時参加、グループ編成・個人テンプレート
 ・デスク・フリー: 個人机の廃止、共用端末を個人IDカードでマイ・デスクトップで立ち上げ
 ・協調型共有ファイル: 世界をまたがる時空間ロケーション・バーチャル・チームの多重所属、権限管理
 ※現代:グループウェア・サービス、無線LAN接続など

3)情報のフィード・バックループ
 社内情報のフィードバック・ループを形成して外部環境変化への動的適応能力と社員の自律的行動を促進
 ミクロ・マクロ情報共有:
  ・ビジョン共有: トップや組織のビジョンを随時確認
  ・社員用戦略情報共有: 企業や組織・チームのリアルタイムな運営情報を社員が確認
  ・作業状況共有: 個人・チームのリアルタイムな作業状況を経営トップ・管理者・社員で共有
  ・ノウハウ共有: 組織横断的なノウハウの共有ボード
 ※現代:グループウェア・サービス、ナリッジ・ベース、掲示板、社内Wikiなど

4)動的適応性の強化
  個人/グループの自律性を保ちながら、動的でかつ柔軟性のある組織を構成する。

 ・動的情報システム: 外部環境や組織の状況変化に合わせて、臨機応変に情報構成を変更できる情報システム
 ・多次元情報エディティング&ファイリング: データ/処理/リンクを単位とした分散情報のリンク関係を編集して、自由に情報を組み替えるリンクベースのデータ管理
  - フレキシブル情報ビュー: 所属や目的、権限に応じてデータ・アクセス・ビューを自由に切り替えてデータ参照
  - 仮想コネクションメール: データを手元においたままリンク情報だけを送受信
  - 関連情報協調: スケジュール、勤務票、コミュニケーション状態、出張、会議室管理などを連携
  ※現代:社内用Wikiなど

5)創発性の強化
 ・人材プール: 特殊な才能のある人材がをピックアップした仮想チームを編成、必要に応じてテンポラリに実チームにアサイン、または支援
 ・企業内企業、社内ベンチャー: バーチャル・チーム管理にて実現


●現代


 バブル崩壊以降デフレ経済が続き、ワークライフバランスなど、個人生活を大切し、健康に生きることが活力のあるオフィスとして見直されている。会社単位の異業種連携共同体も一部で実施され、ノマドワーカなど企業に所属しない選択も増えてきつつあり、あらためて動的組織論が注目されている[5]
 コロナ禍の時代、ホームオフィスやコワーキングスペースの設置など想定していたコンセプトは個別に具体化され導入されてきているが、組織を超える情報を積極的に連携するフィードバックループ、例えば「工場の現場の場面情報が重役会の場面と結び付き、マーケティングの場面情報が研究開発の場面と連結される」など、すべてを有機的に連携することの意義を理解し、具体化するにはやや時間がかかっている。

参考情報:
[1] 移動体通信(携帯電話・PHS)の年度別人口普及率と契約数の推移
https://www.soumu.go.jp/soutsu/tokai/tool/tokeisiryo/idoutai_nenbetu.html

参考書籍:
[2]  今井賢一, 金子郁容(1988), "ネットワーク組織論", 岩波書店
[3] 北矢行男(1985), "ホロニック・カンパニー", TBSブリタニカ
[4] 今井賢一, 金子郁容(1986), "ネットワーキングへの招待", 中央新書
[5] フレデリック・ラルー(2018), "ティール組織 :マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現", 鈴木立哉訳,  嘉村賢州解説

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動的に適応する仮想コンピュータ(1990年)/クラウド

第三章 1990年から観た未来

  本章では「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルとアイデア・プロセッシングのサンプルとして、1990年代に読み解いた未来(現代ではあたりまえとなったサービス・コンセプト)を例として紹介する。
 今あるコミュニケーション、ネットワークをベースとして次のメタ・コミュニケーション、メタ・ネットワークを問い続けることにより、次の時代のサービスに気づくことができる。

3.2 アイデアとプロトタイプで描いたもの

 本節では、商品化にいたらなかったアイデアやプロトタイプについて、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルによる「コンセプト編集」に焦点をあてて例示する。

動的に適応する仮想コンピュータ(1990年)
社会変化に適応するバーチャル・オフィス(1992年)

------------------------------------------------------

●背景:


  仮想マシン・スーパーバイザーのデファクトであるVMware社が発足する8年前、国内のインターネット・サービスが開始される2年前。オフィスで利用されているコンピュータが、ネットワークに繋がっていないスタンドアローンのデスクトップPCが主流だった1990年10月、バブルが最後の雄たけびをあげた
 研究所では、充分に高速化されたネットワークでのキラー・サービスを模索していた。メインで研究されていたのはビデオオンデマンド(動画配信)やテレビ会議だったが、本当にそれだけなのか?例えば、コンピュータがあの小さい箱におさまったままでいるとは考え難い、それではどのように進化していくのだろうか。

●お題:


 「ネットワークが高速化した未来のオフィス・コンピュータ」についてアイデア企画を考える
  ⇒到達フェーズ: ジャスト・アイデア

 ブラックマンデー、バブル最後の株価の乱高下、これからのオフィスは環境変化に動的に適応しなければならないと直感した。
 とりあえずコンピュータを分散ネットワークにつながれるリソース(メモリ、ディスク、CPU)としてとらえなおしてみる。コンピュータ・ボード上のCPU、メモリ、ストレージをつなぐBUSをネットワークに置き換えることをイメージする。

●コンセプト編集


○アイデアを言葉で表現する


 ・ネーム(呼称): コネクティブ・コンピュータ
 ・クレーム(短文): 人員や用途、社会変化に柔軟に適応できる巨大な仮想コンピュータネットワーク

○「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルでコンセプトを表現する


■構成要素: 
【技術・社会背景(将来)】
 社会: 急激な社会・経済変化に動的に適応するオフィス
 技術(将来): パソコンボード並の速度のネットワーク接続、ロケーションを横断する社内ローカル・ネットワーク構築、コンピュータの高速化

【環境変化】
 社員の増減、リソースの追加(解放)、一時的な演算の必要(経済予測など)

【ミクロなコミュニケーション】
 実コンピュータのリソース(メモリ、ディスク、CPU)を連携して、リソース・プールを形成するためのコミュニケーション

【ミクロなネットワーク】
 m台の実コンピュータが相互につながった実ネットワーク

【メタ・ネットワーク】
 リソース・プールをもとに編集再構築されたn台の仮想コンピュータ間の仮想ネットワーク

■ネットワークの特性:
【可塑性・学習】
  人員変化、などによりリソース・プールからの最大割当量を配分して設定

【フィードバック・ループ、動的適応】
 仮想コンピュータの利用状況、実リソースの残量を常に把握し、刻刻と変化する状況に最適化してリソース・プールから仮想コンピュータにリソースを割り当て

【多次元性・多重所属】
 実リソースは、仮想コンピュータへの多重所属させ動的に割り当て

【恒常性・保守性】
 一部の実コンピュータが故障しても、仮想コンピュータは問題なく動作する

●サービス・イメージ:


 実コンピュータをネットワークで接続し、ミドルウェアでリソース(CPU、メモリ、ストレージ)をプール=リソース・プールして、必要に応じてリソースを割り付ける仮想コンピュータ&仮想ネットワーク。次のようなメリットを提供するようミドルウェアを構築する。
 ・リソース利用の効率化⇒低コスト化
  リソース利用の最大値を決めて、利用状況によりリソースを割り当て
 ・リソースの追加が容易
  ⇒必要な追加リソースを搭載した実コンピュータを適当なタイミングで追加
  ⇒人員数の変化に柔軟に対応
 ・急な演算の必要、過負荷へのリソース割り当て
 ・実コンピュータが故障しても、仮想コンピュータの利用に影響がない

※ミドルウェア: 
 仮想コンピュータへの実リソースの割り当てを動的行う中間層。現代のハイパーバイザーに相当

仮想コンピュータ

            仮想コンピュータのイメージ

●現代の類似サービス:


 仮想コンピュータを実現・管理するハイパーバイザー(VMwareなど)が利用される。現代では、主にノートPCにドキュメントを置かないなどのセキュリティ対策、災害対策のための地域分散配置、クラウドで活用されている。


 普段から、技術、社会・経済、道具の変化に注力していると、ふとしたタイミングで線でつながり立体化して次の変化の方向性が見える瞬間がある。今回はリーマンショック、バブル末期、オフィスにおけるパソコン利用、ネットワークの高速化がそれだった。



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パーソナル通信アシスタント: CardTerm with Mackun(1988年)

第三章 1990年から観た未来

  本章では「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルとアイデア・プロセッシングのサンプルとして、1990年代に読み解いた未来(現代ではあたりまえとなったサービス・コンセプト)を例として紹介する。
 今あるコミュニケーション、ネットワークをベースとして次のメタ・コミュニケーション、メタ・ネットワークを問い続けることにより、次の時代のサービスに気づくことができる。

3.1 商品として具体化したもの

・パーソナル通信アシスタント: CardTerm with Mackun(1988年)
気づきのあるネットワーク・サービス:AwarenessNet(1995年)
------------------------------------------------------

 Windows95が発売される7年前、パソコンのマンマシン・インタフェースがUnixのようにコマンドラインだった1988年。Mac PlusとHyperCardから「思考のためのコンピュータ」の新しい風を感じて衝撃を受けていたとき、HyperCardスタック・ウェア・コンテストが開催された。
 人とコンピュータの共生

----------
用語:
Mackun(マックン): パソコンを擬人化したアシスタントの呼称
HyperCard: Machintoshに標準搭載されたマルチメディア・オーサリング環境
スタック(・ウェア): HyperCardで作成されたファイル
----------

●お題(テーマ):MacLife誌にて


 HyperCardを利用したスタック・ウェア・コンテストで優勝を狙う
 ⇒到達フェーズ: 日本最初期のオープンソース&シェアウェア販売

CardTerm.jpg

Mackun2.jpg


〇背景(1988年):


■通信環境

  日本で本格的にインターネットが利用される7年前の1988年末、通信速度は現在の1万分の1以下であり、携帯電話はまだ普及していない。通信サービスといえばパソコンからテキストで書き込むメールと掲示板だった。

■HyperCardスタック・ウェア・コンテスト

 MacLife誌において、第一回HyperCardスタック・ウェア・コンテストが開催された。優勝商品は、100万円以上する高嶺の花Macintosh IIだ。HyperCardは1.4章でも紹介した、Apple社のMachintosh上で標準で搭載される開発・実行環境。Webブラウザのような画面に、簡易データベースや画像・音声つきの絵本/百科事典などを素人でも簡単に作ることができ、人とコンピュータとの新しいコミュニケーションの未来を垣間見させてくれるマルチメディア・オーサリング環境だ。ネットワーク通信機能機能は搭載されていないので、通常は1人で利用する。
MacとHyperCardが描いた小世界


〇環境条件


■現状把握

・パソコンへの入力: マウス、キーボード
・パソコンからの出力: ディスプレイ
・マンマシン・インタフェース: 
 - デスクトップ: デスクトップ・メタファー
 - HyperCard: カード・メタファー(カード、ボタン、フィールド)
・ネットワーク・サービス:
 パソコン通信サービス(メール、掲示板:現代の2chやMixi)

■競合相手の予測

 HyperCardが得意とするのは、インタラクティブなマルチメディアアプリやカード型のデータベースであり、次のような応募が予想される。

 ・音声、画像を含むマルチメディア百科辞典
 ・アドベンチャーゲーム、動くインタラクティブ絵本
 ・教材: クリックすると変化するインタラクティブ教材
 ・自分用データベース: CD、本の所有管理など


〇着想:作戦


 皆と同じジャンルで群を抜くのは難しい。パーソナル・メディアの針をちょっと先に動かして「人がコンピュータと共生するコミュニケーション環境の未来を描く」ことにした。


〇「ミクロ・マクロ・ネットワーク」で考えてみる


・「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルで、アイデアの不確かな部分を確認する。
⇒省略


〇アイデアを言葉で表現する:


 ・クレーム(短文): 人のパートナーとしてアシスタント=Mackunが支援してくれる生活
 ・ネーム(呼称): ウィズ・マックン(with Mackun)

Mackun(マックン): パソコンを擬人化したアシスタントの呼称

-----------------------------------------------

●コンセプト編集


〇6W1Hで表現する


・いつWhen: 日々の生活
・どこでWhere: 家で
・誰がWho: 人が
・誰にWhom: マックンに
・何を(する)What: 依頼する
・なぜWhy: 手伝って欲しいから
・どのようにHow: 音声で


〇曖昧な言葉、キーワードを明確にする


いつWhen: 日々の生活
 日々の生活といっても、当時は携帯がないのでパソコンに向かっているときや、パソコンと同じ部屋にいるときということになる。

 筆者のパソコンの用途(1988年):
  ・パソコン通信(メール、掲示板)の利用
  ・HyperCardでの作品作成
  ・Actaというアイデア・プロセッサでアイデア収集と編集
  ・ゲーム

何を(する)What: 依頼する
 具体的に依頼したい内容は?
 ・朝起こしてもらう
 ・届いているメールの読み上げ
 ・掲示板に掲載されている内容の読み上げ
 ・カップラーメンの時間など指定した時間が経過したら教えてくれる
 ・プログラミングや作品づくり、アイデア整理の支援。。。。は難しいか?

どのようにHow: 音声で
 「音声認識」技術はまだ未熟なため、今回のコンテストでは「音声合成」のみを使う。
 依頼方法は、キーボードやマウスでトリガーをかけることになるが、連続する動作シーケンスをあらかじめ簡単に「依頼」しておけるようにしたい。


〇「ミクロ・マクロ・ネットワーク」でコンセプトを具体化する


■構成要素:


【ミクロなコミュニケーション】
 ・人がマックンに操作シーケンスを依頼し、マックンが自動操作&音声応答する

【ミクロなネットワーク】
 ・操作シーケンスによってつながる人・マックン・操作の連鎖
 ・マックンを介したパソコン通信ネットワーク
 ⇒マックンの手足はパソコン内から、ネットワークへと伸びていく

【人とマックンの周囲の環境】
 ・人の生活環境、パソコン通信(メール、掲示板)

【メタ・ネットワーク】
 ・人の生活シーケンスをマックンが統合して紡ぐ「新生活」
 ・マックンたちのコミュニケーション・ネットワーク

【Machintoshで使える技術】
 ・英語の音声合成、HyperCardおよび他言語による追加関数

■ネットワークの特性:


【人の生活の多次元性・多重所属】
 ・ヒトの人は複数(通常生活、仕事、趣味など)の生活シーケンスに多重所属する

【フィードバック・ループ、学習、動的適応】
 ・生活シーケンスのサポートをマックンに依頼し、マックンが日常のルーティーンを学習、生活サポートを繰り返すことにより徐々に「新生活」を充実させていく


〇派生アイデア・メモ


・マックンが秘書となって、アイデア整理を手伝ってくれるメモ帳・ノート
・マックンどうしがコミュニケーションして、スケジュール調整や制御シーケンスの有効活用などの情報交換を行うアシスタント・ネットワーク


〇コンセプトを簡単な文章で表現する


 気分は2001年宇宙の旅のHAL!
 「朝、Mackunの声で目覚め、起床とともに届いたメールやスケジュールを読み上げる、Mackunとともにある日常」


〇コンセプト・シナリオ 


()はボタンなどでの操作

 マックン: 「朝です起きて下さい!」
 私: (眠い目をこすりながら目覚めると)
 マックン: 「メールが届いています、読み上げますか?」
 私: (OK)
 マックン: 。。。メールの内容を読み上げる。。。

 マックン: 「今日のスケジュールを読み上げますか?」
 私: (OK)
 マックン: 「今日は、10時に眼科に行く予定です」

 私: (掲示板を読み上げてもらえるかな)
 マックン: (パソコン通信に接続&ログイン)⇒(掲示板を読み上げる。。)


-----------------------------------------------

●応募作品の具体化


〇作成するツール


 次の3つのツールをCardTermとして統合して搭載。

1)カード型パソコン通信環境:CardTerm
 複数のカードを作成・管理、各カードからパソコン通信にアクセスでき、メールや掲示板の表示内容をそのままカードとして保存・管理できる。パソコン通信への自動接続&ログイン機能を搭載。
 ターミナル関数を自作してHyperCardに追加。

2)日本語を読み上げる:Mackun
 漢字、ひらがな、カナ、数字、英語を識別して音声で読み上げる。応募作品は、連続する漢字を音読み、単独の漢字を訓読みするシンプルなもの。CardTermに、「記入したテキスト」「メール」「掲示板」などの読み上げを搭載する。
 英語の音声合成MacinTalkの音素変換をベースに日本語音声合成を自作。HyperCardに追加。英語音素だとアメリカ的カタコト読みになるのはご愛嬌。

3)操作シーケンス記録・再生スケジューラ:OperationRecorder
 録音機のメタファーで、「人の操作」を読み取り、プログラムに変換して記録と再生をすることにより、日常のルーティーンを自動プログラムする。
 記録中の「操作」をHyperCardのプログラムとして記録、後から「操作」を再生できる。ボタンのクリックや、テキストの記入、音をならす、Mackunで日本語でしゃべるなど。再生スケジュールを指定できるので、「オートログイン」「オートダイヤル」「目覚まし」や「メールの自動ダウンロードと読み上げ」「タイマー」を標準搭載。


〇その後


「HyperCard with Makun」がコンテストで優勝
・漢字辞書を追加、登録機能と1万語の辞書を搭載してシェアウェア販売
・MacPower誌コンテストにアイデア・プロセッシング・ノート「HyperNote with Makun」で優勝
・最近までPICやRadberryPiで、音声機能やリモコン機能を搭載してホームコントロールを自作していたが、ついにアレクサに置きかえた。いつか、音声でチェスができるようにしたい。


●現代の類似サービス


 現代のサービスで表現すると、音声認識は搭載していないが次のようになる。
・アレクサ+RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)+カード型通信環境

フューチャー・リテラシー:インデックス 

気づきのあるネットワーク・サービス:アイデア編集
気づきのあるネットワーク・サービス:コンセプトの具体化
気づきのあるネットワーク・サービス:ビジネスの具体化

参考:
[1] "日本語ハイパーカード スタックウェア・コンテスト グランプリ発表!", MAC LIFE No.11, 1989

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【閑話】アイデア・プロセッシングのためのツール

 筆者が使っているツールを中心に、アイデア・プロセッシングのためのツールを紹介します。

 アイデア発想本などの多くは、今でも「紙のカード」や「紙の手帳」を利用する方法を推奨しています。紙に手で書くメリットも捨てがたいのですが、自分の書いたノートでも大量に情報を蓄積すれば他人のものとなり、どう工夫してみても「紙のメディア」では探し出すのに限界がある。そこで、「全文検索」ができるノートツールを中心にツールを組み立てることになります

アイデアツール
   アイデア・プロセッシング環境


●「ノート」ツール


 まずは、アイデア・プロセッシングの中心となる「ノート」ツール。

 マイクロソフトのOneNoteか、アウトライン・プロセッサを使ってみて選ぶといいでしょう。OneNoteが使いやすくお薦めで、アウトライン・プロセッサならばDynalistあたりがWindows、Apple、iPhone、Webと連携できて使いやすい
 「全文検索」できることは当然として、配下の階層ごとドラックで気軽に移動できるのがいい。表示をタブで切り替えたり、マルチウィンドウで表示したり、リビングではiPadで修正することもできます。

 筆者は、Linux系のpukiWikiベースの「growi」というツールをdocker-composeの上で使っている。ちょっとマニアックなの構成なのでLinux大丈夫という方しかお勧めはしません。wikiを個人で使いたい方ならばgrowiがいいでしょう。仮想マシンを使ってwindows上でも立ち上げることができます。

 growiのサンプル画面

■growiの気に入ってるところ:
 ◎ドキュメントをタグとして使える
  - 階層表現用のタグがなくドキュメントの下に何層にも階層をつくれるのが重宝しています
 ◎lsxプラグインを使うと階層一覧を何列も表示できる
  - OneNoteやアウトライン・ツールだと1列の表示だけ
 ・全文検索が高速で、データ量を気にせずに使える
  - ビジネス用の検索エンジンelasticsearchを使っている
 ・ページ内の階層表現をテキスト形式(Markdown)で記述できる
 ・Webで編集できる
 ・階層の一括移動もとりあえずできる(後述)

■growiの使いにくいところ:
 ・階層をドラッグで移動できない
 ・バックアップ方法がちょっと面倒

階層一覧
 
               「growi」で階層を表形式で表示


●「メモ」ツール


 筆者がメモするのは、「寝ている時」や「目覚めた時」や「散歩中」が多いので、スマホ(筆者はiPhone)で片手で操作できるのが必須です。

 最近まで、「音声認識+ノート」でメモしていたのですが、あとからコピペしてパソコンと共有する必要があるので最近は「ショートカット」で登録して、音声認識で直接OneNoteに送っています。

音声認識⇒アプリ(OneNote)ショートカットの設定方法(iPhone):
 ・「ショートカット」を起動
 ・「新規ショートカット」で「アクションを追加」
 ・「音声」で検索して、「テキストを音声入力」
   - 「表示を増やす」⇒「聞き取り停止」は「タップ時」を選択。
 ・「+」で「共有」⇒「機能拡張で共有」を選び。
 ・「...」ボタンを押して、「ホーム画面に追加」でホームにショートカットアイコンを置く。


●紙か電子書籍か


 本を購入するときに「紙の書籍」か「電子書籍」は一長一短あって悩むところ、時には両方購入する場合もあります。

■「紙の書籍」のメリット:
 ・書き込みができる

■「電子書籍」のメリット(Kindle):
 ・検索ができる
 ・コピペができる(回数制限あり)
 ・電子辞書で簡単に「意味」や「読み」を確認できる
 

●OCRツール


 「紙の書籍」からの切り貼りは、次のいずれかの手段を使っていて、「紙の書籍」からの誤入力率はいずれの方法でも大差はない。近年のOCRツールや音声認識の精度の高さには驚かされます。

■本からの切り貼り手段:
 ・手入力
 ・スマホのOCRツール
  - カメラで写真をとるように入力できる
  - 認識率が非常に高いTextScan(100円/月)を利用、写真をとるような操作が快適
 ・音声メモ
 ・Kindleからコピペ(回数制限あり)


●画像共有


 iPhoneで撮影した画像を共有するのはGoogleドライブでも、Dropboxでもなんでもいいのですが、筆者はGoogleドライブを経由するか、OneNoteに直接貼りつけています。


 以上です。便利なツールが次々と発表されるので、随時ためしてみるといいでしょう。



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アイデア・プロセッシング実施方法(5):シナリオ・物語編集

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アイデア・プロセッシング:
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Step2: 情報散策
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アイデア・プロセッシング用語解説:
・情報素材: 段落などのを単位とする文章で文節、区分けしたテキスト。1枚の画像。1枚の絵。
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 これまで集めた「情報素材」を文章化することにより、直感に従って集め、関係性に注目してグループ化したアイデアの素材から、関係の意味や性質を論理的にとらえなおし、矛盾や誤りを見直すことができる。さらに、自身が着目することの理解が深まり、「情報素材」の捉え方を変え、そして文章化に苦労した部分にこそ新しい発想のチャンスがある。


●4-1)「情報素材」を文章にする

・アウトプット: 文章化した情報素材

・インプット: グループ編集した情報素材

 図、絵、テキストを用いて小規模な文と文脈を具体化するフェーズ。シナリオ、物語として記述することにより、アイデアを整理し、アウトプット可能な「情報素材」を生成する。

〇なぜ文章化するのか


 Step3までは、発想を広げるこをと優先してきた。Step4では、「言葉として記述」することにより論理的な矛盾を排除する。

○どこから文章化するのか


 文章化のきっかけは、アイデアやコンセプトの提案、業務提案や論文化、書籍化、もしくはblogへの執筆などの具体的なアウトプットを求めるときだろう。文章化に着手する初端は、それぞれの経験上気になっている具体化の「肝」となる部分、そこを明らかにしておかなければ先に進めないという手がかりから先にとりかかるといい。

○短い文章にまとめる


 Step3でグループ編集した「情報素材」をみなおし、100~200文字程度の文章にまとめる。前後の段落と連携し「起承転結」を意識して文章化する、図や絵を用いる、表を追加するなど工夫するのもいいだろう。

○続いて、文章化に着手するのはどこか


 ある部分について文章化した後、新たな手がかりをもとめるより先に文章化した段落と関係の深い周囲の「情報素材」からとりかかると、次のステップに進むための足がかりができる。


●4-2)アイデア編集

・インプット:文書化した情報素材
・アウトプット: アイデアのクレーム(短文)、ネーム(呼称)


 「情報素材」をもとに、アイデアを形成するフェーズ。背景、テーマ、材料・素材を書き出し、着想を「ミクロ・マクロ・ネットワーク」で整理して、クレーム(短文)とネーム(呼称)を生成する。

○課題設定

 与えられている課題、Step1で設定した課題をもとに1文で記述

○背景

 課題の置かれている周囲の環境、なぜその課題が設定されたのか、競合相手など

○材料・素材

 利用できる技術・サービス、想定している動作条件、環境条件、プラットフォームなど

○着想

 「課題」「背景」「材料・素材」を並べてみて思いつくアイデアの出発点、手がかり、実現したいイメージなど

○「ミクロ・マクロ・ネットワーク」で考えてみる

 「着想」を具体化するため「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルで記述してみる。曖昧な部分、欠落箇所は今後の課題であり、とりあえずそのままにしておく。

「ミクロ・マクロ・ネットワーク」の構成要素と特性:
 ・構成要素: ミクロ、コミュニケーション、ネットワーク、マクロ、メタ・ネットワーク、環境、技術・社会背景
 ・特性: 多元性・多重所属、フィードバック・ループ、適応・動的特性、自省作用・創造作用、可塑性・学習、恒常性・保守性、変異要素

○言葉で表現する

 やりたいことをクレーム(短文)とネーム(呼称)で表現する。


●4-3)コンセプト編集

・アウトプット: コンセプトの説明文
 4-2)アイデア編集の「クレーム(短文」と「ネーム(呼称)」を起点に、コンセプトを具体化するフェーズ。6W1Hで表現して曖昧な言葉を具体化し、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」で表現してコンセプトを簡単な文章としてまとめる。

○6W1Hで表現する

 コンセプトを6W1Hで表現し、具体化する。

・いつWhen:
・どこでWhere:
・誰がWho:
・誰にWhom:
・何を(する)What:
・なぜWhy:
・どのようにHow:

○曖昧な言葉、キーワードを明確にする

 6W1Hで使用した曖昧な言葉、キーワードのうち曖昧なものを文章で解説する。
  

○派生アイデアメモ

 派生的に思いついた、新しいアイデア、コンセプトのメモを記録しておく。

○コンセプトの具体化

 曖昧なキーワードを、具体的なアルゴリズムや定量表現で定義する。

○「ミクロ・マクロ・ネットワーク」で具体化する

 コンセプトを「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルで具体化し、チェックする。曖昧な部分、欠落箇所は極力のこさず、必要ならば課題として明記する。

「ミクロ・マクロ・ネットワーク」の構成要素と特性:
 ・構成要素: ミクロ、コミュニケーション、ネットワーク、マクロ、メタ・ネットワーク、環境、技術・社会背景
 ・特性: 多元性・多重所属、フィードバック・ループ、適応・動的特性、自省作用・創造作用、可塑性・学習、恒常性・保守性、変異要素

○コンセプトを簡単な文章で表現する。

 技術やビジネスの具体化につなげられるよう、コンセプトを簡潔な文章で表現する。

 本書がターゲットとするのはアイデアを創出し、コンセプトとして具体化する「コンセプト編集」までだ。たしかに、新しいコンセプトを生み出すことは、全行程のほんの数パーセントにすぎない。技術の具体化、商品化、商品販売のために、周囲を巻き込み、予算と人員を確保してプロジェクトを推進するという大きな海原がこれから先に控えている。それでも、霧の中で航海するには舵取りもままならない、数十年先の未来に羅針盤を向けとて現在のコンセプトを見定めることが肝要なのだ。

 この後、アイデア・プロセッシングの具体例として、1990年代から現代までと、現代から30年後の未来を読み解くサンプルを例示していく。




参考書籍:
[1] 川喜多二郎, "発想法 -- 創造性開発のために --", 中央公論新社, 1976(改)
[2] 梅棹忠夫(1969), "知的生産の技術", 岩波書店
[3] 外山滋比古(1986), "思考の整理学", 筑摩書房
[4] 松岡正剛(2001), "知の編集工学", 朝日文庫

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アイデア・プロセッシング実施方法(4):グループ編集、離合集散、分類と階層化

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アイデア・プロセッシング:
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Step2: 情報散策
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アイデア・プロセッシング用語解説:
・ノート: ノートツール
・ページ: ノートツール上のページ、分類の単位
・階層構造: アウトライン構造、分類を階層的に表示
・情報素材: 段落などのを単位とする文章で文節、区分けしたテキスト。1枚の画像。1枚の絵。
・1行見出し: グループ、情報素材、分類を1文で表現したタイトル。
 ※「内容」の意味のエッセンスをとらえて圧縮し、できるだけ柔らかい言葉で表現する、過度に抽象化しないこと。
・内容: 「1行見出し」に配置した「情報素材」群
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 情報があふれる近代において、無から突然新しい発想を創造するということはほとんどなく、すでに存在する「情報素材」を結びつけることによって新しい発想が生まれる。つまり、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」ということだ[1]。
 ここでは、アイデアを発想するための下準備として、収集した「情報素材」を編集するための方法について示す。直感思考と論理思考を行き来しながら進めることが肝要だ。

Step3: グループ編集:離合集散、分類と階層化

・インプット: 情報素材
・アウトプット: 分類・階層化した情報素材
 ページ・情報素材を編集して分類・階層化するフェーズ。関係の近いページ・情報素材を集め、グループ化し、「1行見出し」と「概要」をつけて分類、階層化、俯瞰して再編集する。

〇ノートにおける階層表現


 「ノートツール」のページやページ内テキストでの階層構造とは、次のように大中小分類などの階層(アウトライン)で配置することだ。

ページ、ページ内テキストの階層構造の例:

大分類AAA
中分類BBB
小分類CCC
中分類DDD
小分類EEE
大分類FFF
中分類GGG

○二次情報から意味を生み出す、情報をつなぐ、関係づける、離合集散を繰り返す


0)基本方針

・情報をして語らせ、グルーピングを繰り返す
 - 自由にサイクルを行き来しながら繰り返し、情報をして語らせ、情報やグループ間の関係を相互作用させることによりしだいに形づくっていく。必要以上に収束させず、発散的に、ヒトの無意識のフィルタリング能力である「暗黙知」と「美意識」、「類推」と「連想」、アブダクション(仮説推論)を活躍させる。
 - 情報が語ることを聞き、情報自身に編集させ、動的な関係と相互作用を発見的に見出だし、意味を生み出すリズムを繰り返す。
・グルーピングのタイミング
 - スクラップする都度や1週間毎などの定期的な編集タイミングを決めて自分のリズムをつくる。適宜実施していいが、ためすぎると編集が負担になる、情報収集の負担にならない自分のリズムをつくるといい。
・情報素材を移動せずに、リンクやコピーを活用してもいい
 - 必要ならばコンテンツ間でリンクをはってもいいし、いっそのこと同じ文章をコピペてするのもいいだろう。

1)グルーピングと分類・階層化

 「情報素材」の関係を見極め、グループをつくり、分類と階層化を行う。

1-1)小グループをつくり、1行見出しと概説をつける
・関係の近い情報素材(ページ、情報素材)を集め、その集団に関係の意味を要約して仮の「1行見出し」をつける。この「関係の近い」とは「属性の分類」だけでなく「類似」や「類推」なども含まれる多面的な関係としてとらえる
・むりやりどこかのグループに入れようとせず、はみだしたものは中大グループに入れればよい。

2-2)中グループをつくり、1行見出しと概説をつける
・関係の近い小グループを集めて中グループをつくり、1行見出しと概説をつけ、階層構造(アウトライン)とする。
・むりやりどこかのグループに入れようとせず、はみだしたものは大グループに入れればよい。

1-3)大グループをつくり、1行見出しと概説をつける
・関係の近い中グループを集めて大グループをつくり、1行見出しと概説をつけ、階層構造(アウトライン)とする。
・ツールが許すなら、必要に応じてさらに階層を深くしてもいい。

1-4)整理
・大中小、上下、親子、部分集合などでグループ化し、階層構造で関係づけ再整理する。
・複数のグループに所属する情報素材や小グループがある場合には、リンクやコピーにより多重所属させる。
・このグループがどのようなメッセージを発しているかを見極め、特徴やアイデアなどの気づきなどを追記する。自分の意見には末尾に(自)などのタグを付ける
・アイデア、参考書籍、用語、未分類、宿題、雑記、その他、バックアップ、ゴミ箱などの分類をつくっておく。最初の書き出しを「参考書籍」や「雑記」とし、編集を加える際には「バックアップ」にコピーを残し、いらなくなったページは「ゴミ箱」に保管しおくなど運用を工夫する。

2)新たに発生した関係に気づき、再編集

 1)で分類・階層化したグループを横断的に、俯瞰的に眺めることにより再編集する。
 ・新たな関係に気づく
 ・新たな発想を思いつく
  ⇒1行見出しだけでもいいので書き出して、1)のグループに編成する。
  ⇒自分の発想、意見には「1行見出し」や「内容」記述の末尾に(自)などのタグをつけて区別する。
  ⇒見いだした「新たな関係」や「新たな発想」が新たな構造を生み出す原動力となる。1)で無理やり収束させようとせず、相互作用を働かせ関係を動的に編集する。

3)定期的なみなおし

・書き込んだ内容を1週間、1か月程度でもう一度見返してみると、すでに他人の意見になっていたり、つまらない内容だったということもある。何を意味しているのか、なぜかを問い直し、内容を修正し、「ゴミ箱」などを含め分類の見直しをする。

4)俯瞰する

 ある程度グルーピング・分類・階層化を繰り返していると、全体や部分の傾向が見えてくる。その発する特徴・特性をとらえ、ページ間の関係、ページ内の情報素材やグループの関係を俯瞰し、類似、類推、連想、新たな課題・仮説設定を試みる。


 脳と外部のノートを連携し、情報を意味的な単位に文節し、親近感のあるものを発見してグルーピングして、構造性を殺さない「1行見出し」を選び、時空間的関係と相互作用から意味ネットワークを動的に構築して読み解き、その意味するところに気づき仮説を生み出す能力を総合的に活用して編集する。

 ここまでの編集プロセスを物語に喩えてみよう。読み解く対象は物語の「世界」を、ページは「各シーン」を、情報素材は「キャラクター」を、情報素材の関係は「キャラクター間のコミュニケーション」を、ページ内、ページの並びは「ストーリー」を、そして貴方が「語り手」となり物語を紡ぎだす。




参考書籍:
[1] ジェームズ・W・ヤング(1988), "アイデアのつくり方", 今井茂雄訳, 阪急コミュニケーションズ
[2] 川喜多二郎, "発想法 -- 創造性開発のために --", 中央公論新社, 1976(改)
[3] 梅棹忠夫(1969), "知的生産の技術", 岩波書店
[4] 外山滋比古(1986), "思考の整理学", 筑摩書房
[5] 松岡正剛(2001), "知の編集工学", 朝日文庫


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アイデア・プロセッシング実施方法(3):本に意見を求める読書

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アイデア・プロセッシング:
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Step2: 情報散策
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 未来を読み解くとき、基礎知識として多くの本を読むことは避けられない。大量の書籍の中から良書を探し、効率よく読み進めるためには読書のテクニックが必要となる。

Step2: 情報散策


●本に意見を求める読書


○効率よく本を読むということ


 読書は「始めから終わりまでじっくりと読む」、「何度も読み返す」ことが必要だという考え方がある。本と向き合い、著者の伝えたい内容を理解するために、自身の中で熟成するために必要なプロセスだ。

 一方で、世の中に大量の本が存在し、良書も悪書も混在している状況で、まずは数をこなすことから始めみるのは悪くない。そして、時間がなくてなかなか本を読むことができない方に、本によって読み方を変える読書をお勧めしたい。最初から最後まで熟読しなお何度も読み返す本もあれば、必要な部分を参考意見として流し読みする本がある。途中でダメだと思えば「つん読」や「捨読」に回してしまっていい。自分なりの強弱をつけて、取捨選択する読書だ。

 読む姿勢を変えてみることも必要だ。「自身の問いと仮説をもって主体的に本に意見を求め、考えを掘り下げることを目的とする」読書では、主体的に「問い」や「仮説」をたて、意見、解説、反論を求めて著者と議論を繰り返し、「気になる」情報を積極的に収集して、自身の思考を拡張する

 本の読み方を、「読前」「読中」「読後」「再読」という4つのフェーズに分けて解説する。「読前」で本の内容の仮説をたて、「読中」で議論を繰り返し、「読後」にふりかえり切り貼りしてノートに落とし込み、ときをおいて「再読」する。

○「読前」フェーズ (拾い読み、下読み、読書エネルギーの最小化)


 「読前」は、本の概要をつかみ「読後に得られるもの」の仮説を描いて、「読中」の読み方に強弱をつけてテンポ良く読み進めるためのフェーズだ。面倒なようだが、全体的な読書のスピードと理解が圧倒的に変わってくる。さらに、amazonの書評を拾い読んでおくのも、複数の感想・要約によってポイントがつかめるのでお勧めしたい。

1)時間: 30分以内

2)目的: 著者との間に関係を築く、「読中」に向けた感覚をつかむ

3)視点
・自分
 - 自分が期待する内容、何をつかみたいと思っているかを探索
 - 面白そうだと思った目次やキーワードを確認
・著者
 - 著者が執筆した狙いや動機を推測
 - 何について書いたものであるか、構成、部分とのつながり(ネットワーク)を把握

4)組織的な拾い読み
・タイトル、目次
 - 大見出し、中、小の順に確認する
 - 本の構造と概要、関係を把握する

・索引
 - キーワード、専門用語を確認する

・まえがき、あとがき、各章の最初や最後
 - 気になった部分を拾い読む

5)気になった部分をノートに記入
・キーワード: 内容を代表する言葉
・補足: 「キーワード」の言い換え・補足、概要説明
・連想: 自分の解釈から生じる新たな言葉・概念・連想(末尾に「(自)」などの記号をつけておく)

6)仮説を描く: 「読後に得られるもの」の仮説を書き出しておく


○「読中」フェーズ


  「読前」に全体の構成を理解しているのでサクサクと読み通せる。

1)時間: 30分~1時間(徐々に30分に近づくように)、熟読する場合でも数時間で終わらせる。

2)ざっと一読
・好みと直感でテキストを選び、ざっと一読
・気になったテキストにマーカー、キーワードに○、重要な段落の上に横線を記入
・メモを記入; 重要なポイントの要約、疑問、思いついたこと、意見、用語説明など
・「読み返し方」を決める
 - つん読: 「読前」で中断
 - 速読: 流し読み、必要なポイントを切り貼る(30~1時間)
 - 抜読: 重要な個所を熟読
 - 熟読: 全体を熟読

3)読み返し
・ラインやメモ、目次を羅針盤にして読み返す
・重要なテキストや図をノートに切り貼る(必要なら数ページにわたるボリュームでもいい)
・構造(見出し、概説)をつかみノートに記述する
・キーワードの理解を深め説明、補足、意見をノートに記述する
・自身で追加してノートに記述する
 - 疑問、分かったこと、意見
 - 類推する、連想する、仮説をたてる
・6W1H+Rをノートに記述する
 - Where,When:どのような環境や背景か、発生条件はなにか、いつ、どこで
 - Who:誰が、何が
 -  Whom:誰に、何に
 - What:何を(する)
 - Why:なぜ
 - How:どのように
 - Result:どうなるのか、どうなったか
                
4)あえて寄り道をする
 本を読んでいると、何かを思いついたり、他の本が気になったりすることがある。そういうときは我慢せずに、寄り道を積極的にすると発想が広がる。

○ 「読後」フェーズ


 「読中」を振り返り、気がついたことをノートにメモする。

1)時間: 適宜

2)読前・読後比較
 「読前」の仮説を振り返り、自分の問題意識を読前、読後で比較する。

3)自分のテーマへの置き換え
・アナロジーによる連想、似たものを探す
・自分のテーマを振り返り、得られたことをノートに記述する
・他の本との関係を俯瞰し、必要に応じてリンク、コピーを付け加える
・新たに生まれたアイデアの断片の周辺に範囲を広げ、もしくは深くもぐるため、情報探索範囲を横に、縦に、斜めに広げ収集する

4)書籍情報の記録
 読んだ本は、引用書式で記録しておく。
    ex. 著者名(出版年), "タイトル", 翻訳者, 出版社

5)新たな「本の散策」へ
・ 関連する本を探す
・ 新たな疑問、新たな仮説をたてて、新たな「本の散策」へ

○「再読」フェーズ


 読んでいるときの状況や得られた知識によって、まったく違った感想、示唆が得られることが多い。都度、再読し、ノートを再整理するといい。

・1ヵ月、半年、1年後に読み返す
・何回も読み返す
 自分のテーマに重要な影響を与える本は何回も読み直すことが多い。特に含蓄の深い本は、再読のたびに見え方が変わってくる。本書でいえば、「銃・鉄・病原菌」「グーテンベルクの銀河系」「進化の意外な順序」「知の編集工学」などがそれだ。

 本の読み方を工夫することにより、本の散策を効率化するだけでなく、理解を深め、そしてなにより本に興味がわいてくる。本書を執筆するにあたり、「本を読む本[1]」、「探究型読書[2]」を再確認すること、特に「読前」フェーズを見直すことが非常に役にたった。面倒でも、できるところから少しづつトライしてみることをお勧めしたい。




参考書籍:
[1] M.J.アドラー, C.V.ドーレン(1997), "本を読む本", 外山滋比古, 槇未知子訳, 講談社
[2] 編集工学研究(2020), "探究型読書", インプレス
[3] 松岡正剛(2001), "知の編集工学", 朝日文庫


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アイデア・プロセッシング実施方法(2):情報散策における「本の探し方」

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アイデア・プロセッシング:
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Step2: 情報散策
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 未来を読み解くとき、異なる知識をベースにして「類推」と「連想」、「アブダクション(仮説推論)」により仮説を設定して読み解いていく。アスリートにおける基礎体力と同様に、「知識」・「暗黙知」の質と量をバランス良く鍛え続けることが必要となる。そのための手段が「書く言葉」である本との対話だ。

Step2: 情報散策


●本の散策


 「本の散策」では、「著者の意図を理解し、知識を吸収する」のではなく、自身の問いと仮説をもって主体的に本に意見を求め、考えを掘り下げることを目的とする。本書では、複雑な世界に対応するヒトの能力を「ヒトエンジン」と呼び、ヒトエンジンを活用する方法の一つが「本の散策」だ。何かそこにヒントがあると直感した本を手にとり、「発見」のための触媒として本を利用し、積極的にヒトエンジンを活用する。

○「本」における「ヒトエンジン」の活用


 個人で取得できる知識には限界がある、そうかといって自分だけの調査チームを編成することや、おかかえのシンクタンクを用意することは難しい「本」には、筆写や編集チームがついやしたデータ収集、編集、構成の時間、ヒトエンジンのフィルタを通して体型づけられた情報がつめこまれている。自身の表現能力よりも、著者が悩んで選び出した言葉の方が適切で分かりやすい場合も多い。表現したいもの、実現したいものを見極め、それを具体化するためならば他人の力を積極的に利用する。それにより、限られた時間の中で自分の限界を大きく広げることが可能となる。

 「本の散策」で得た知識や知恵や発想を「ノート」にスクラップすることにより、仮想的にヒトエンジン・チームを編成して、複数の視点で議論させたり意見を聞くことが可能となる。「本を散策」している時々の視点、立場を切り替えて、分身をつくり意見を交わす。

ヒトエンジンを活用する「本の散策」:

・著者の言葉や考え方を借りながら、自分の中にある問題意識を発見する
・著者の言葉や思考を「仮の器」として使わせてもらう
・自身の仮説に対する意見を求める

○本の探し方


 過去から現在までの様々な分野の本に、広く編集的に意見を求める。個々の専門分野はもちろんだが物理や生命などの自然科学、社会・経済、未来予測や複雑系の捉え方(ときに哲学、宗教、芸術)などの幅広いジャンルに意見を求めるといい

 「何か気になる」、「好みだ」、「ピン!とくる」という直感をもとに、本を散策し選んでいく

1)手にとって確認する
 本を散策する際には、実際に手にとって確認できる図書館や書店を利用できるといい。図書館にない場合でも、大抵は市内・県内のネットワークから取り寄せてくれるので活用したい。

2)散策するための軸をたてる
 積極的に自分で「本の散策」の「軸」をたてて、その周辺を探る

 ・「問い」を探る
  教科書では、見逃しがちなテーマにあえて「なぜ」と問うてみる。

  例えば:
   - なぜ、共産主義よりも資本主義の方が経済的に優位にたてたのか
   - なぜ、農業は1万年前というタイミングで始まったのか
   - なぜ、産業革命は18世紀イギリスから発生したのか

 ・「ルーツ」を探る
  何かをテーマとして定め、それが起きたもととなる歴史を探る。

  例えば:
   - 知的生産性のためのコンピュータのルーツ
   - ヒトと道具・メディアとの関係のルーツ

 ・「仮説」を探る
  自身で「仮説」をたて、それを補強し、解説し、反証して広げてくれる本を探る。

  例えば:
   - 産業革命の背景には、「大きな壁」、壁の内側で広がる「ネットワーク」、「急激な変化」と「突破口」となる要因があったのではないか。

3)キュレーターに聴く
 本を探すときには、ヒトエンジンのフィルタをぜひ活用したい

 ・気に入った本の参考書籍
 ・Webページ
  - 千夜千冊、松岡正剛の千夜千冊 (isis.ne.jp)
  - Wikipediaの参考文献
  - 自分が良書であると思う本を紹介しているWebページ
 ・amazonのお勧め、書評
  - あなたへのおすすめタイトル、この商品に関連する商品
  - amazonの書評内での別本の紹介
 ・推薦本
  気に入った著者のお勧め本など、紹介者の概説などを参考に

  例えば:
   - 本書の「お勧めの10冊」
   - 池上彰の「世界を変えた10冊の本」

4)自身の直感に聞く
 ある程度、本を読み込んでいくと、タイトル、概要や目次を見るだけで、自分が探している本かどうかということが直感で分かるようになってくる。そうなればしめたもので、自分の感性に従ってピン!とくるものを泳ぐように散策できる。

5)評価を参考にする
 amazonの商品説明、書評を事前に確認しておくと参考になる。

 ・書評は★5つが必ずしもいいわけではないが3.5以下で良書に出会える確率は低い、また★3や★1~2の書評を参考になぜ低評価をするのかを確認する。
 ・可能ならば、学術的にどのような欠陥があるか、どのように期待外れだったか確認しておくといい。




参考書籍:
[1] M.J.アドラー, C.V.ドーレン(1997), "本を読む本", 外山滋比古, 槇未知子訳, 講談社
[2] 編集工学研究(2020), "探究型読書", インプレス
[3] 松岡正剛(2001), "知の編集工学", 朝日文庫

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アイデア・プロセッシング実施方法(1):課題設定・情報散策

 ここから、5回にわたって、アイデア・プロセッシング実施方法の詳細について解説する。

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アイデア・プロセッシング:
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Step2: 情報散策
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アイデア・プロセッシング用語解説:
・ノート: ノートツール
・ページ: ノートツール上のページ、分類の単位
・階層構造: アウトライン構造、分類を階層的に表示
・情報素材: 段落などのを単位とする文章で文節、区分けしたテキスト。1枚の画像。1枚の絵。
・1行見出し: グループ、情報素材、分類を1文で表現したタイトル。
 ※「内容」の意味のエッセンスをとらえて圧縮し、できるだけ柔らかい言葉で表現する、過度に抽象化しないこと。
・内容: 「1行見出し」に配置した「情報素材」群
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 「課題」を自身で設定する場合には、今何を優先して考えるべきか、日ごろ気になっていることなど、問題を整理することから始まる。すでに「課題」が与えられている場合でも、さらにブレークダウンするための「課題」の見直しが必要となる。

●Step1: 課題抽出・課題設定


⇒アウトプット:課題

 創造的に「課題」を設定するフェーズ。「何か問題を感じる」ことを始点として、「課題候補」を書き出し、編集して「仮課題」を設定し、最後に上位課題がないかを確認した後に「課題」を設定する。

〇直感的に「感じる」ことを探す


 本書における「課題設定」は、未来を読み解くためのとっかかりとなるスタート地点を決めることだ。例えば、「情報資本主義が現代の資本主義に置き換わる時代の職業について考える」という課題を設定するときに、この段階で、なぜそれを解決しなければならないのかといった問題解決型の理由を掘り下げて問う必要はない。直感的に何かを解決したいと「感じる」ことに重点をおく

○課題抽出・課題設定の進め方


1)「なにか問題を感じる」ことが始点となる
 「感じている」ことにヒントがあり、課題探索のためにその「感性」を使って情報を散策して、何かを「感じた」こと、それに関係がありそうな「課題候補」を収集する

2)課題候補を書き出す
 「1行見出し」+「内容」を1セットとして、1ページ内に書きだす。

3)課題候補を編集して「仮課題」を設定する
 ・列挙した「課題候補」の関係図(テキスト、図、絵)をつくり、「仮課題」を設定する
 ・「課題候補」の編集が複雑な場合にはStep3の方法を適用する。

4)設定した「仮課題」の上位課題を確認する⇒「課題設定」
 「仮課題」の上位課題を確認し、適切な「課題」を設定する。
  ex. レンガを積む→壁を作る→大聖堂を作る

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 常にアンテナを張りながら情報収集するための「情報散策」が、新しいアイデアやコンセプトを具体化するための下地となる。まずは、メモやノートに整理する、本の散策をする習慣づくりが必要となる。

●Step2: 情報散策


・アウトプット: 情報素材
 情報を散策して、「情報素材」を生成するフェーズ。書籍などの情報を散策し、メモ・書籍などから情報を収集、文節・区分けして「情報素材」を生成する

○閃き!のメモを習慣化する


 ヒトは普段から考えている課題や問題への対処について、頻繁に閃いたり気がついたりを繰り返しているが、すぐに活用できないイメージは言葉にする前に消えてしまう。限られた脳の容量を有効活用するための能力だが、メモに外部記憶する習慣はアブダクション(仮説推論)を活用する機会を大幅に増やす

 スマホの「メモアプリ」を利用して、いつでも(人と話しているとき、業務中、目覚めた時、散歩時、読書時、テレビを見ている時など)、気になったこと、思いついたことをメモに記録する。メモの種類はテキストだけではない、音声、写真、手書きの絵など、その発想にあった楽な手段を使えばいい。

 メモに記録するメリットは、すぐに忘れるられるということだ。書いたメモは、時間をおいて、その日のうちにノートに書き写す。この時に、すばらしいと思っていたメモが大した意味を持たないこともある、それならそれで捨ててしまってもいいし、とりあえず書きとめておいてもいい。

 メモを記録する際には、後で役に立つかどうか、誤字や文章化を意識せずとりあえず放り込んでおく。筆者は、スマホの音声認識を使って片手で操作し、文字を確認することなくOneNoteで即座にパソコンと共有している。なるべくメモの手間を減らして、習慣化することだ。

○ノートに「情報素材」を収集する

 
 設定した課題に関係あるかもしれない情報を多面的な角度から、なんとなく関心をひくもの、直感でピンとくるものを、新しい発想を広げるように拡散的に、また広げた発想を補強するように情報を散策して収集して、「情報素材」としてノートに記録する。

□ノートに収集する「情報素材」例:


 ・メモ
 ・書籍、Webページなどからの切り貼り、要約
  ⇒「本の散策」については後述
 ・自分の意見、気づき、アイデアなど
 ・後から検討したいテーマ

□ノートへの記録方法:

 1ページを分類の単位とし、ページ内に「情報素材」を記録する。

1)ページ作成
 新しくページを作成して記入。分類の粒度にこだわらず作成する。
 ⇒「1行見出し、概要、内容」を1セットで記入

2)ページ内への記入
 すでに作成してあるページ内に記入
 ⇒「1行見出し、概要、内容」を1セットで記入

3)「情報素材」の記入要領
・情報収集の段階では、ページ・ページ内の階層・分類にこだわらず適当に配置する。
・文字数を特に気にする必要はない。
・後から考えたいと思うテーマは、「ページ」に「1行見出し」だけをつけて作成しておく。
自分の意見、アイデアなどは末尾に(自)などのタグを付け、後から区別・検索できるようにする
・情報素材の文節化・区分けする
 後から編集しやすいよう、段落などの意味のある情報素材を単位として、文節化・区分けする。




参考書籍:
[1] 川喜多二郎, "発想法 -- 創造性開発のために --", 中央公論新社, 1976(改)
[2] 梅棹忠夫(1969), "知的生産の技術", 岩波書店
[3] 外山滋比古(1986), "思考の整理学", 筑摩書房
[4] 松岡正剛(2001), "知の編集工学", 朝日文庫

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アイデア・プロセッシング:概要

 アイデア・プロセッシングは、「情報素材」からアイデアを得るための手続き、「脳の外化」であり、脳の外に記述したテキストやコンテキスト、構造を含めて脳の一部として連携し、思考をまとめるプロセス
 「脳」は「断片化された情報」と関連するものどうしを関係づけし、「意味ネットワーク」を構築する基本的な機構をもつ。このヒトエンジンの能力を活用して、情報を関連づけ、編集することにより「意味ネットワーク」を構築し、アイデアを整理する。このプロセスを通じて我々の脳は、情報間に関係とパターン=妥当な道筋 を見出す。時にそれらは論理的な帰結であり、エネルギーを最小化する最短路であり、仮説を、そして妥当な解であるという「閃き」をもたらす。
 

●ビジョンドリブンな思考法


 アイデア・プロセッシングは、理想状態(仮説)を先にうみだすビジョンドリブンな思考法だ

例えばiPhoneを創造するとき:

 「数年後には、誰もが片手に携帯端末のような手軽さで、情報端末を使っている」

というビジョン(仮説)が先に立ち、皆が情報端末を持つような時代には、どのような生活をしているのかを考える。

 問題解決型のアプローチや論理的な思考プロセスに慣れている人ほど、ビジョンが生み出される理由を問わずにはいられない。どんなに不安でも、論理的な問いや、現在からの積み上げ式の思考をいったん捨てることが肝心で、問題の積み上げでは見えてこないジャンプする発想が必要だ。ヒトには未来のビジョンを見通す能力がある、目隠しをして論理だけで進むよりも、先にゴールがわかっている方がより短距離を選んで進むことができるのだらから。

●アイデア・プロセッシングの原則


 ・アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない[1]
 ・30年未来、新しいサービスのもととなる技術は今ここに必ずある

●準備するツール


 アイデア・プロセッシングの手法を開拓してきた先人たちが、大きなカードを持ち歩いてまで解決したかった情報の整理と検索。現代では、全文検索でページを串刺しして散策できる「ノートツール」、思いついた時にすぐパソコンの「ノートツール」とメモを共有するスマホの「メモツール」、電子的な切り貼りを可能とするスマホの「OCRツール」で、脳と外部記憶との連携を実現することができる。

1)メモツール
・スマホなど常時持ち歩き、すぐにメモをできること
・メモをすぐにパソコンと連動できること
・音声認識で入力できるとよい

2)ノートツール
・全ページにわたっての全文検索ができること
・パソコン上で利用でき、OneNoteやアウトラインプロセッサなど、ページやページ内での階層構造(アウトライン)を表現できること
・下位階層ごとまとめて移動できること
 ex. 大項目をドラッグして移動すると、その下の中小項目もいっしょに移動する
・スマホやiPadなどと連動できること

3)OCRスキャナ
・必要に応じて書籍などから文字をスキャンしてテキスト化してできること
・手軽さからスマホアプリがよい
・スキャンしたテキストをノートにコピペできること

4)画像共有
・Googleドライブなど、スマホで撮った写真を手軽にパソコンに共有できること

●アイデア・プロセッシングの進め方


 アイデア・プロセッシングでは情報の収集、分解、再構築というStepによりアイデアの形をつくっていく。特に、Step2とStep3は順番に進めるのではなく、ユーザニーズは?、収益性は?といった問題解決型のしがらみに縛られず、自由に泳ぎ、行き来し、しだいに形づくっていく。
 適当なタイミングで具体化が必要となることから、Step4と5を通して具体的なアウトプットに繋げていけばいい。
 余裕を残し、常にアイデア・プロセッシングを回すことが肝要だ。
 
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アイデア・プロセッシング用語解説:
・ノート: ノートツール
・ページ: ノートツール上のページ、分類の単位
・階層構造: アウトライン構造、分類を階層的に表示
・情報素材: 段落などのを単位とする文章で文節、区分けしたテキスト。1枚の画像。1枚の絵。
・1行見出し: グループ、情報素材、分類を1文で表現したタイトル。
 ※「内容」の意味のエッセンスをとらえて圧縮し、できるだけ柔らかい言葉で表現する、過度に抽象化しないこと。
・内容: 「1行見出し」に配置した「情報素材」群
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Step1: 課題抽出・課題設定

・アウトプット: 課題
 創造的に「課題」を設定するフェーズ。「何か問題を感じる」ことを始点として、「課題候補」を書き出し、編集して「仮課題」を設定し、最後に上位課題がないかを検討してた後に「課題」を設定する。

Step2: 情報散策

 ⇒アウトプット: 情報素材
 情報を散策して、「情報素材」を生成するフェーズ。書籍などの情報を散策し、メモ・書籍などから情報を収集、文節・区分けして「情報素材」を生成する。
 

Step3: グループ編集、離合集散、分類と階層化

 ⇒アウトプット: 分類・階層化した情報素材
 ページ・情報素材を編集して分類・階層化するフェーズ。関係の近いページ・情報素材を集め、グループ化し、「1行見出し」と「概要」をつけて分類、階層化、俯瞰して再編集する。

Step4: シナリオ・物語編集

4-1)「情報素材」を言葉にする

 ⇒アウトプット: 文章化した情報素材
 図、絵、テキストを用いて小規模な文と文脈を具体化するフェーズ。文章として記述することにより、アイデアを整理し、論理的に意味を持つ「情報素材」を生成する。

4-2)アイデア編集

 ⇒アウトプット: アイデアのクレーム(短文)、ネーム(呼称)
 「情報素材」をもとに、アイデアを形成するフェーズ。背景、テーマ、材料・素材を書き出し、着想を「ミクロ・マクロ・ネットワーク」で整理して、クレーム(短文)とネーム(呼称)を生成する。

4-3)コンセプト編集

 ⇒アウトプット: コンセプトの説明文
 アイデアの「クレーム(短文」と「ネーム(呼称)」を起点にコンセプトを具体化するフェーズ。6W1Hで表現し、曖昧な言葉を具体化し、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」で表現して、コンセプトのクレーム(短文)としてまとめる。

Step5: ビジネス展開

・アウトプット: 製品開発企画書、販売可能な製品
 製品の特徴となる技術・エンジンやビジネスモデルの具体化、投資計画としてマーケティング分析、投資対効果の算出、保守運用計画、撤退条件、予算の獲得、プロトタイプ開発、製品の開発、試行運用、販売などを行うフェーズ。

 常にメモを記録し、情報散策してノートに記録し、編集することを自然に繰り返すようになるといい。本書ではStep4までを扱う。



参考書籍:
[1] ジェームズ・W・ヤング(1988), "アイデアのつくり方", 今井茂雄訳, 阪急コミュニケーションズ
[2] 川喜多二郎(1976), "発想法 改版 -- 創造性開発のために --", 中央公論新社
[3] 梅棹忠夫(1969), "知的生産の技術", 岩波書店
[4] 外山滋比古(1986), "思考の整理学", 筑摩書房
[5] 松岡正剛(2001), "知の編集工学", 朝日文庫


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アイデア・プロセッシング:
Step1: 課題抽出・課題設定
Step2: 情報散策
・情報散策
・本の探し方
・本に意見を求める読書
Step3: グループ編集:情報の素材化、分類と階層化
Step4: シナリオ・物語編集
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産業革命はなぜ18世紀にイギリスで始まったのか【後編】:情報ネットワーク・黒死病・イギリス

 領土の限界という【巨大な壁】の内側であがきながら、封建制度、重商主義を基盤とする交通ネットワークが商業ネットワークを、商業ネットワークが情報貨幣ネットワークを支え、初期の情報ネットワークが各ネットワークをつなぎ、相互作用しながら拡大して、産業革命を支える統合ネットワーク・プラットフォームを準備する


●壁の内側で広がる情報ネットワーク


〇膨大な利益を生む錬金術、情報貨幣ネットワーク


 異なる商品価値を仲介する必要から生み出された貨幣は、重商主義を経て交換を大規模化し、交易で得た富を蓄積することにより世代を超えた大資本を生み出す手段として活躍する。商人間の信用取引が海洋取引の保険が、「オランダ東インド会社」に始まる株式会社への投資が、アムステルダム銀行、イングランド銀行などの巨大銀行の利子が膨大な富を生み出す貨幣情報ネットワーク上での取引を加速させる。さらに、産業革命においては、生産性への投資が新たな利益を生む仕組みを構築することになる。


〇書籍を介した情報ネットワークによる読み書き、計算能力の向上、科学革命


 18世紀の産業革命をささえる数々の発明は、15世紀の活版印刷の発明に始まる。活版印刷は、書籍を安価に手に入れられるものとする。書籍の普及は、情報を流通し、市民の教育(文字の読み書き、計算、技能教育)を推進するきっかけとなり、中産階級の増加、徒弟制度などとの相互作用により開発・発明家を生み出す下地をつくる。

 産業革命直前の17世紀に、ケプラー、ガリレオ、ニュートンなど科学革命とも呼ばれる科学の大きな変革があった。ひとつの発見・発明は続く発見・発明に連鎖する。たとえば、デカルトの機械論的思想(1637年)に始まり、ゲーリケの真空ポンプ(1650年)、ボイルの法則(1660年)、ホイヘンスの火薬を使った往復エンジン(1660年)そしてついには、鉱山での配水のためのニューコメンの蒸気機関(1710年)を生み出すに至り、以降数々の蒸気機関の発明が世界を変える。


〇情報通信ネットワークハブとしてのコーヒーハウス


 初期の情報メディアとして大きな役割をはたしたのが17世紀末のロンドンやオックスフォードに大量発生したコーヒーハウスだ。そこにはさまざまな人々が集まり、オーナーの「好み」により商売、政治、生活、ファッション、貿易、船舶、文学、ゴシップなどなどあらゆる情報が集められ、交換される。コーヒーハウスで交わされた会話をメンバーが編集して活用し、産業革命の進展とともに保険会社、株式会社、政党政治、新聞、広告、電信ネットワークなどへと発展してゆく


 分配の基盤となる土地に限界が生じてもなお、封建制度を維持するためには領土を広げる必要があった。各国は、報酬となる土地がないままに戦いつづけ疲弊しつつ、ネットワーク・プラットフォームを広げ、次の時代にバトンを渡すときを待っていた


●【急激な変化】黒死病・【突破口】イギリス


〇黒死病による人口減少


 黒死病によりヨーロッパの人口の1/3を死に至らしめる。ヨーロッパの多くの地域では、15世紀までに人口は回復し始めていたが、イギリスでは16世紀半ばまで人口は極めて低い状態を維持したままだった


〇人口減少によるロンドンの活性化と高賃金化


 黒死病後に生み出されたイギリスの穀物用地の空き地をもとに、広大で肥沃な牧草地へと転換し、健康で毛の長い羊=新種毛織物を生み出す。17世紀ロンドンは、新種毛織物の海外航路での輸出により活気づき、高賃金にわいた。農民たちは、黒死病で空き地となった空き地を集め農地を拡大し、濃奴からヨーマン(独立自営農民)へと転身するなど、高賃金化の波が農地へもおしよせる


〇中産階級(ブルジョワジー)の拡大と封建社会の崩壊、民主主義の成立


 ロンドンの活性化が、貴族や大資本家たちと、雇われ農民を含む労働者たちとの中間で大小の富を蓄積する中産階級(ブルジョワジー)を増加させる。彼らは、市民革命の主体となり、イギリスの名誉革命が立憲民主主義を成立させる原動力となり、民主主義が「自由な取引」を行う資本主義をけん引する


〇安価なエネルギー:石炭への移行


 都市の急激な拡大は森林の急激な消費を促し、イギリスにおける木炭は高騰し15世紀には石炭価格の2倍となる。17世紀までにロンドンを中心とするエネルギー需要は激増し、急増する新築家屋では家庭で石炭を利用できるようになっていく。豊富な石炭への転換は、炭鉱からの無尽蔵で安価な燃料を供給を可能とし、イギリスにおけるエネルギーを極めて安価なものとした


●18世紀のイギリスに集約して爆発する


 ペストという【急激な変化】が【巨大な壁】をつきやぶるきっかけとなる。ペストからの復旧の遅れがイギリスの高賃金と石炭の低コスト化を生み、それに続く自動機械の発明と導入のメリットを高め、自動機械による大量生産が資本家たちの新たな投資先となり、そして海上の覇権争いを制したイギリスが【突破口】となり統合ネットワーク・プラットフォーム上で産業革命のスパイラルを回してゆく


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 産業革命を調査するにつれ、今日と17世紀が重なって見えてくる。グローバル化に資本主義が喘ぎ、インターネットとiPhoneが情報暴走と読書離れを引き起こした。大きな壁の内側で様々なネットワークを広げ何を準備し、脳の変化の先でどのような革新的な時代を迎えようとしているのか。



参考書籍:

[1] フェルナン・ブローデル(2009), "歴史入門" , 金塚貞文訳, 中央文庫

Fernand Braudel(1988), "LA DYNAMIQUE DU CAPITALISME", Flammarion

[2] フェルナン・ブローデル(1985), "交換のはたらき --物質文明・経済・資本主義15-18世紀", 村上光彦訳, みすず書房

Fernand Braudel(1979), "LA Civilisation materielle, economie et capitalisme, XVe-XVIIIe siecle, Tome 2 : Les Jeux de L'ecghange", Armand Colin

[3] フェルナン・ブローデル(1995), "世界時間 --物質文明・経済・資本主義15-18世紀Ⅲ", 村上光彦訳, みすず書房

Fernand Braudel(1979), "LA Civilisation materielle, economie et capitalisme, XVe-XVIIIe siecle, Tome 3 :Le Temps du Monde", Armand Colin

[4] R.C.アレン(2017), "世界史のなかの産業革命 - 資源・人的資本・グローバル経済 - ",眞嶋史叙, 中野忠, 安元稔, 湯沢威訳 , 名古屋大学出版

Rovert C. Allen(2009), "The British Industrial Revolution in Global Perspective", Cambridge University Press

[5] グレゴリー・クラーク(2009), "10万年の世界経済史", 久保恵美子訳, 日経BP

Gregory Clark(2007), "A Farewell to ALMS", Princeton University Press

Johon H.Ratey Md(2001), "A User's Guide to the Brain", Vintage

[6] 宮崎正勝(1019), "ユダヤ商人と貨幣・金融の世界史", 原書房

[7] 松岡正剛(2001), "知の編集工学", 朝日文庫


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産業革命はなぜ18世紀にイギリスで始まったのか【前編】:封建社会の壁と交通・経済のネットワーク

 上下水道や舗装道路など進んだ技術を利用していた古代ローマが産業革命を起こさず、18世紀のイギリスでなぜ産業革命という急激な変化が起こったのだろう

 

 古代ローマや18世紀のヨーロッパ諸国においても奴隷などの安価な労働力を有する国々は、機械による自動化という発想すらなかった。一方、18世紀の世界の中心だったイギリスは「高賃金の労働者」と「低コストのエネルギー(石炭)」を保有していたため、蒸気機関などを使った機械による自動化のメリットがあり、後に産業革命と呼ばれる急激な発展をとげることとなる


●革新的変化の視点

 

 環境に適応すべくさまざまなネットワークを広げるうちに超えることのできない巨大な壁】につきあたる。巨大な壁】内側でネットワークは集散、拡大、刈り込みを繰り返しながら、環境変化に適応しながらネットワーク・プラットフォーム】を形成する。あるとき発生した【急激な変化】をきっかけとして、プラットフォームをベースにネットワークの形を変え、【突破口】を捉えいっきに【巨大な壁】をつきやぶり爆発的な速度で新たなネットワークを形成し始め革新的変化が爆発する 


 【巨大な壁】、【ネットワー・プラットフォーム】、【急激な変化】、【突破口】という視点で産業革命をとらえなおす。



●17世紀にたちはだかる【巨大な壁】


  17世紀までヒトは、その発展とともに集団の規模と居住区域を広げ、国家を形成しより肥沃な土地を手に入れるための陣取り合戦を繰り返していた。土地の分配を基盤とする封建社会にとっての【巨大な壁】は、居住し、繁殖するために有利な土地に限りがあることだった

 

封建制度が資本主義への基盤をつく

 

 農業から始まった人の集まりが、内外の相互作用と集散を繰り返しながら部族、首長社会から国家へと巨大化し、限られた資産である土地や金銀にモノの価値を代替させる封建社会重商主義を生み出した

 

 人口を増やし戦争により領土を広げる時代において、土地を分配する仕組みとしての封建制度は、社会的な平穏を支え、財産と社会的特権を保護し、世代を超えた大量の富の蓄積を可能とし、貨幣経済との連携によりさまざまなネットワーク・基盤プラットフォームを形成する


●壁の内側で広がる交通・経済ネットワーク


 交通ネットワーク

 

 アジアからヨーロッパまでの南北の交易を東西につなぐシルクロード15世紀以降の大航海時代をささえた海の道。主要な交通路を軸に、都市と街を繋ぐ支線をひろげ、文化や商品、情報が大陸を縦横にかけめぐった。異なる思想や文化をもつ国々の技術に着想をえて発明・改良を繰り返すことにより、アジア・中東・ヨーロッパ各国の文化・技術は加速度的な進化をとげ

 

 さらに、15世紀半ばから17世紀までの大航海時代を迎え、市場の巨大化、グローバル化に拍車がかかり、交通ネットワークは巨大な富を信用取引によって生み出す基盤プラットフォームとしての役割を担うこととな。イギリスとオランダとの間で繰り返し行われた海上での覇権争いは、18世紀の第四次英蘭戦争によりイギリスがトップに立つことで決着する

 

商業ネットワーク

 

 商業ネットワークは、生産と消費をつなぎ、経済の原動力となり、刺激、活力、革新、発見、成長をうながし、階層・分業化を進めつつ商取引のネットワークを巨大化させていく

 

1)農民など大多数を占める自給自足、それをつなぐ行商人のネットワーク

 自給自足の生活をおくる農民は物々交換を基本としており、1万年を経てなお貧困で余剰資産を蓄えることが困難だった。わずかに発生した余剰資産を貨幣と交換し、税の支払いや「市」での買い出しにあてる

 

2)「市」を中心とする市場経済ネットワーク

 町や都市における「市」を中心に、輸送、保管、牽引、各種商人、高利貸し、卸売りなど新たな階層化・分業を生み出し、「市」は生成、消滅、再生を繰り返しながら、市場経済ネットワークを広げていった。「市」は売手と買手の競争原理が働く経済ネットワークを形成し、市民の需要を満たし、都市を拡大し、そしてより大きな需要をつくりあげていそして、イギリスにおける「高賃金化」「国民市場」を活性化させ

 
3)大市、取引所から広がった資本主義ネットワーク

 資本家たちは大市や取引所に大量の資本を投入して、軍隊や大都市の巨大な食料需要を賄うことによって大きな利益を蓄積してい。大航海時代を迎え、グローバルな交易において、広範囲な情報や知識、債券操作の技術を駆使した投機的な資本主義経済ネットワークを構築する。市場の独占権を得た資本家たちは、投資がさらなる収益を生む新たな市場、新たな仕組みを探し続け、産業革命を推進するパワーを蓄え続け新たな投資先の不在が、資本家たちにとっての巨大な壁】となる


フューチャー・リテラシー:インデックス 
産業革命はなぜ18世紀にイギリスで始まったのか【後編】:情報ネットワーク・黒死病・イギリス

参考書籍:
[1] フェルナン・ブローデル(2009), "歴史入門" , 金塚貞文訳, 中央文庫
Fernand Braudel(1988), "LA DYNAMIQUE DU CAPITALISME", Flammarion
[2] フェルナン・ブローデル(1985), "交換のはたらき --物質文明・経済・資本主義15-18世紀", 村上光彦訳, みすず書房
Fernand Braudel(1979), "LA Civilisation materielle, economie et capitalisme, XVe-XVIIIe siecle, Tome 2 : Les Jeux de L'ecghange", Armand Colin
[3] フェルナン・ブローデル(1995), "世界時間 --物質文明・経済・資本主義15-18世紀Ⅲ", 村上光彦訳, みすず書房
Fernand Braudel(1979), "LA Civilisation materielle, economie et capitalisme, XVe-XVIIIe siecle, Tome 3 :Le Temps du Monde", Armand Colin
[4] R.C.アレン(2017), "世界史のなかの産業革命 - 資源・人的資本・グローバル経済 - ",眞嶋史叙, 中野忠, 安元稔, 湯沢威訳 , 名古屋大学出版
Rovert C. Allen(2009), "The British Industrial Revolution in Global Perspective", Cambridge University Press

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未来を読み解くための類推

 「類推」とは、「類似」にもとづく思考であり、知っていることを知らないことに「喩えて」考えることだ。それ以前には全く気づかれることのなかった構造が創発する認知メカニズムであり、創造的活動の源泉となる。

●類推


 類推を形式的に説明すると次のようになる。

「類推」は「対象」と「類似したもの」の持つ要素を、「対象」に「対応づける(写像する)」認知活動である

 そして、脳内での「類推」のプロセスは次のように進められる。

 類推のプロセス:
 1.ターゲット(喩えられるモノ)の表現: ターゲットの問題を理解する
 2.ベース(喩えるもの)の検索: ターゲットと類似するベースを長期記憶から検索する
 3.対応づけ(写像): ベースとターゲットの要素の対応づけ
 4.正当化: 行われた「対応づけ」の妥当性の検証
 5.学習: 必要に応じてターゲットとベースの対応づけを学習

 「類推」は、ヒトの生活のさまざまな場面で、経験を再利用することにより、新たな知識の獲得や発見、仮説の生成、物事の再吟味などにおいて、強力なパワーを持つメカニズムだ。喩えて「対応づけ」られる「ターゲット」の理解、解決、学習で利用され、文学、哲学、科学などの学問、教育、法律、政治、ビジネスなどの社会生活の中でも用いられる。

●「喩え」て考える


 「アナロジーとメタファー」は、学問としては修辞学に分類されるが、本書では、「類推」において「喩えて」考える際の、喩え方として扱う。

 ヒトは「未知」のものを発見したときに、足りない「語彙」を補うために「類似」を探し「喩え」により理解する


〇「アナロジー」で喩える


 「アナロジー」は直接喩えることで、「AはBのように~だ」という具合に使う。AとBの構成要素と対応関係が明確な場合に使い、よく私たちが使う「喩え」はアナロジーで、似たものどうしを見比べて、連想により考えを深める。例えば、電流と水流のアナロジーでは次のように対応づけられる。

電流は水流のように流れる:
 A:水源、貯水、水流、水圧、水力、漏水
 B:電源、蓄電、電流、電圧、電力、漏電

 「アナロジー」の組み立てるときの思考を追うと次のようになる。 

アナロジー構築のステップ:[1]
 1.何かと何かが「似てる」と思う
 2.(似ているものの構造を)「借りてくる」
 3.(借りてきた構造を)「当てはめる」

 「似ている」と思うにも、「借りてくる」ためにもそれぞれの知識がベースとなる。「当てはめる」際に、すべての要素が具体的に対応づけられるときもあれば、一部だけ対応することもある。例えば、『植物が水を吸い上げる水流を電流に対応させると何になるだろう?』と連想を続けていくと対応関係がゆらぐ一方で「イメージ」がふくらみ、新しい発想を生み出すこともある。

〇「メタファー」で喩える


 「メタファー」は暗喩であり「イメージ」との対応で喩える。「人生とは旅だ」という喩えで「旅」は具体的な何かをさすのではなく、「旅」にいだく「イメージ」を共有する。

【メタファーの種類】[2]
1.発言の装飾としてのメタファー
 「人生とは旅だ」と言うとイメージが膨らんで含意があり、格好いいよねという言い回し。
2.言語の先取りとしての不正確な思考形式としてのメタファー
 言葉=論理として意識する前に不確かなままに「イメージ」を膨らませておく考え方。
3.絶対的メタファー
 「イメージ」のまま言葉=論理にもどさずに、思考を続けていく考え方。

 普段使っている言葉はすでに知っていることしか表現できない、アイデア発想のためには「言語の先取りとしてのメタファー」や「絶対的なメタファー」を飼い慣らすことが有効だ。「喩え」を道具として「未知の未来」を読み解くときに、「絶対的メタファー」のまま「イメージ」を膨らませ、言葉=論理におとして「実体」を与え、「メタファー」と「アナロジー」と「実体」とのあいだを行き来し散策しながら考えをまとめることで、飛躍的に発想を広げることができる

〇連想

 
 「類推」に似たものとして「連想」がある、「連想」は複数のカテゴリーを意識せずに渡り歩く。

 例えば、「カレー」からの連想は、次のようになる。
  ・ハンバーグ、スパゲティ: 子供の好きなモノ
  ・シチュー、肉じゃが: 煮込み料理
  ・人参、ジャガイモ: 食材
  ・インド人、ターバン: インド料理、昔見たCM

 ヒトは、「連想」により、一瞬にして知識の中からカテゴリーを意識せずに関連するモノを検索する能力がある。

〇ヒトエンジンの活用


 ヒトは、経験の中から、導き出すときに都合のいい特徴だけ抜き出してくるフィルタリング能力をもっている。この曖昧さを発揮するのが生活の場であり、曖昧性を排除しようとするのが数学や科学だ。フューチャーリテラシーでは、ヒトエンジンのフィルタリング能力を積極的に活用して未来を読み解き、後に科学的なロジカル思考によりその道筋を確かなものとする。(後者は、本書の主題ではなく、ビジネス本なりですでに習得している、もしくは習得することを前提とする)

 「未知の未来」を読み解く際に「喩え」や「連想」は強力な道具となる。「喩え」の能力が実世界で生存戦略として選択される前提には、ヒトが住む世界が類推可能なほど同じリズムを刻んでいるということだ

 「フューチャー・リテラシー」は「未来」を読書に喩えてイメージする試みであり、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルは喩えて考えるためののためのガイドライン(補助器具)、前編は過去の物語を「イメージ」に落とし込み「喩え」の語彙を増やすためのサンプル、そして「ミクロ・マクロ・ネットワーク」に喩えて「驚くべき事実」と「仮説」を設定して未来を読み解く。本書そのものが「喩え」で構築している。


参考書籍:
[1] 鈴木宏昭(2020), "類似と思考 改訂版", 筑摩書房
[2] 松岡正剛(2019), "先夜千冊エディション 編集力", 角川ソフィア文庫


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未来を読み解くためのアブダクション(仮説推論)

 ヒトの脳は、意識下で様々な判断を行い行動している、アブダクション(仮説推論)を用いて未来を読み解く際に役立つのが、ヒトの「美意識」と「ヒラメキ」そして「暗黙知」だ。

●美意識とヒラメキ、アブダクション(仮説推論)


 アブダクションの「仮説」を設定する際には、次のような条件を意識するといいだろう[1][2]

 1)「もっともらしさ」(plausibility)
  ぴったりくる、うまくあてはまりそう、似合っている、いい具合だ
 2)「検証的可能性」(verifiability)
  証明もしくは反証しやすいこと
 3)「取り扱い単純性」(simplicity)
  単純なものを選ぶこと
 4)「思考の経済性」(economy)
  3)に関連して、思考の複雑性をとりのぞくこと

 そして、ちょうどいい「仮説」を思いついたときに、「気持ちがいい」「すっきりした!」「単純で美しい!」と思える瞬間がおとずれ、ヒラメキの警笛が鳴る。

 この条件判断に、ヒトの美しいと感じる感情、「美意識」が活躍する。

 ヒトは「感情」を利用して、言葉に翻訳していては間に合わない事象に対して、意識する前に瞬時に判断して行動することができる[3]。この「感情」という即応装置の一つが「美しい」と感じる能力であり、自然が発する諸法則を発見する即応装置として働き[4]、自然のなかで様々な色が交じり合う風景、昆虫や鉱物の模様、さらにヒトが表現する芸術(絵画・音楽・文芸など)が奏でる旋律の中に「美しさ」を見出す。

 さらに、芸術作品だけでなく、多くの研究者や技術者、プログラマー、学生たちが、新しい発想や道筋を得た時に「美しい」と感じる「ヒラメキ」の瞬間を、すっきり!、Ahaなどの感嘆とともに体験しており[5]、「暗黙知」を活用して正しさを「直感」する能力にも関係する。「美意識」の基準は、時代や地域、文化などの周囲の環境に影響を受け、適応し、変化と安定を繰り返している。

●ヒラメキを誘発する暗黙知


「暗黙知」とは、

「経験的に使っている知識だが簡単に言葉で説明できない知識」[6]

と定義される。

 社内でドキュメント化されておらず社員に共有されていない技能を「暗黙知」と表現し、マニュアルを作成することにより「形式知」とするといった表現で使われる。

「暗黙知」は、その活用方法から次のように分類される。

【暗黙知の分類】

 1.身体知
  例えば、顔の識別、自転車の運転
 2.経験知(ノウハウ)
  例えば、職業的な技術の習得
 3.発明を促す知識

 一般に、暗黙知=経験値ととらえる傾向にあるが、本書ではマイケル・ポランニーが主題とする「発明を促す知識」としての「暗黙知」に着目する[7]

 ポランニーによると、問題の探究における3つの段階に「暗黙知」が活用されるという。

【問題の探求における3つの段階】

(1)問題を妥当に認識する  ⇒仮説の問題設定
(2)問題解決の道筋を見出す ⇒仮説までの道筋の導出
(3)発見の正当性を感知する ⇒美意識、仮説設定

 未来を読み解くための問題設定、「仮説設定」において発見の正当性を感知する「美意識」、「仮説」に至る道筋を見出す際に「暗黙知」が活用される

●未来を読み解くためのアブダクション(仮説推論)


 「未来を読み解く」ときにアブダクション(仮説推論)が有効だが、未来の事象であるため「驚くべき事実C」が不確かな場合がほとんどだ。このため、解くべき課題に含まれる「ゆきずまり」に気づき、おや?と思う「意外性」や「例外性」を早めに発見して「驚くべき事実」として設定するアプローチをとることとなる。

【未来を読み解くためのアブダクション】

・現状のゆきずまり: 解くべき課題に含まれる「ゆきずまり」
・驚くべき事実C: 未来の事実を発見的に設定
・仮説H: 「仮説H」が真であれば「事実C」が当然のこととなる仮説

例えば、スマートフォンを片手に利用する未来を30年前に読み解くときに、

 現状のゆきずまり:パソコンは便利な知的生産のための装置だが机の上に拘束されている
 驚くべき事実C:30年後には片手でパソコンを持ち歩いて使っている。
 仮説H:そのような端末は、メモ帳サイズで、軽量で、パソコンで使える様々なアプリケーションを片手で操作できる端末に違いない。

という具合に、「事実C」を発見的に設定する。

 アブダクションは、帰納と違い「われわれが直接に観察したこととは違う種類の何ものか」を推論でき、「飛躍」がある。一方で、「仮説H」を設定する際に誤りをおかしやすい。「仮説」を設定し、ある程度具体化した段階で、「仮説」がどのぐらい経験的な観測にあてはまるかを帰納し、適当なタイミングで「仮説」と「帰納」の間を演繹的な実証説明で論理立てアプローチが必要だ。

●未来を読み解くための美意識と暗黙知


 「未来を読み解く」ために1)命題を設定する、2)命題に含まれる「驚くべき事実C」を導出する、3)「仮説」を設定する、4)「仮説」への道筋を導出するときに美しいと感じる能力=「美意識」が活躍する。「美意識」は、個人においては「暗黙知」というイメージの集合をもとに直感的な分類装置=発見的評価フィルタとして機能し、「美しさ」の基準を共有する集団においては新たな発想を受け容れその有用性を選別するための保守的評価フィルタとして機能する。

 「仮説」を設定し「美しい」と感じる能力を有効に活用するためには、その前提となる「暗黙知」の質と量を増やす必要がある。業務における技術、マーケティング、企画立案などに関する専門知識は大前提だが、テーマとは少し距離のありそうな本、自然科学や社会組織・経済(ときに哲学、芸術、宗教)などのテーマでピン!とくる、何かひっかかる書籍からの知識の収集が広い発想の基盤となる。書籍の散策については後述する。


参考書籍:
[1] 米盛裕二(2007), "アブダクション - 仮説と発見の論理", 頸草書房
[2] 松岡正剛(2019), "先夜千冊エディション 編集力", 角川ソフィア文庫
[3] アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社
[4] ロジェ・カイヨワ(1972), "自然と美学 --形体・美・芸術--", 山口三夫訳, 法政大学出版局
    "Roger Caillois(1962), "Esthetique generalisee", Gallimard
[5] アーサー・ケストラー(1967), "創造活動の理論", 吉村鎮夫訳, ラティス
    Arthur Koestler(1964), "The Act of Creation", Hutchinson 
[7] マイケル・ポランニー(2003), "暗黙知の次元", 高橋勇夫, ちくま文芸文庫
    Michael Polanyi(1966), "The Tacit Dimension", London, Routledge

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仮説推論と類推で紡ぐ「未来の物語」:仮説推論という考え方

 ヒトは、生存確率を高めるための戦略として複雑な世界から収集した情報を統合して「イメージ」として記憶し、認知できないものを想像して行動する能力を獲得した。より多くの経験を記憶したものの生存が有利になるが、記憶の、検索の、判断の経済性、エネルギー最小化の戦略が生死を分けた。

 大脳皮質は司令塔となるが、そこに統合され「イメージ」する情報は「氷山の一角」であり、大半の情報は「暗黙知」として意識されることなく処理され、脳内にバーチャルな「イメージ世界」をつくり解釈する。例えば、目に向かって何かが飛んできたときに、まず目をつむり、後から何が起きたかを「推論」し行動を決定する。「類推」や「喩え」も常時行われている意識外の情報圧縮操作だ。情報を「イメージ」として圧縮して記憶し、検索と判断を即時に行うために獲得した能力が「仮説設定」と「類推」だ[1]

●仮説設定による推論


〇思考のための前処理:カテゴリー分け


 ヒトは、「思考」のエネルギーを最小化するための前処理として、性質や構造的に似たものを探し「カテゴリー分け」して考慮すべき情報の範囲を限定し、思考をより確実なものへと絞り込む。「カテゴリー分け」は、対象が持つ特徴を一つ以上取り除くということであり、対象となるモノの特徴を見失うことにもつながるため、複数のカテゴリーを使い分けるなどの工夫が必要となる。

〇推論


 「推論」は、ヒトの思考を論理学的として定式化した考え方であり、

「既知の事柄を元にして未知の事柄について予想し、論じる事」

と定義される。「推論」には、演繹、帰納、アブダクション(仮説推論)がある。

ヒトの「思考」は、次のようにモデル化できる。

 思考: 推論⇒問題解決⇒意思決定

 ヒトが実生活で思考する際には明確に演繹、帰納、アブダクション(仮説推論)に区別しているわけではなく、状況に応じて、使い分け、混合して使い、行き来しながら意識することなく利用している。

【演繹】


 段階的で、分析的で、三段論法のように「ロジックの連鎖により順序だてていく推論」であり、論理的な帰結を示すのみで新しい仮説を生み出すことはない。「演繹」は与えられた観察データを説明するための論理を形成する方法であり、最初の前提となる定理に間違いがないことが前提となる。

 ヒトが純粋に「演繹」で考える場面は希であり、大抵は不確実な状況にもとづいて「思考」を行わなければならない。不確実なものに出会った時、カテゴリー分けを行い、これをもとに「推論」を進め、不確実性が全て取り払われたときに、推論ははじめて「演繹」可能となる。つまり演繹は「推論」の特殊ケースということだ。

【帰納】

 「複数の事例から一般的法則を引き出す方法」であり、事実にないものを生み出すことはできない。「帰納」は観察データにもとづいて一般化をするための方法で、ロジックの中から外に広がっていこうとする推論だが、ある特定の時空間だけなりたつ法則もあり極所解におちいりやすい。

 ヒトの経験に基づく行動は、帰納にもとづくといえる。

【アブダクション(仮説推論)】

 新しい仮説を設定する新たな発見の論理であり、「驚くべき事実C」を説明できる「仮説H」を導出する推論

次のような例では、

 「ある化石がいくつも発見された。それは魚の化石であったが、発見場所はかなりの内陸地だった(驚くべき事実C)。この現象を説明するためには、この陸地がかつて海洋であったと仮説するしかない(仮説H)。」

 「仮説H」が真であれば「事実C」が当然のこととなる、という方向に考えて「事実C」から「仮説H」を導出している。「仮説H」から「事実C」にもどってくるように推論を重ねるということだ。

 「アブダクション」は、複雑な自然のなかでヒトが生きていくために獲得した「未知の事実から仮説をたてて推測する」能力を活用する推論であり、科学者はもちろん、ビジネスにおいても、演繹や帰納を用いる際にも、「仮説」をたてながら思考をすすめる行為を自然に行っている。そして、Aha!、エウレカ、天啓を得た!という、発明のヒラメキ瞬間にもアブダクティブな思考が働いている。

フューチャー・リテラシー:インデックス 
未来を読み解くアブダクション(仮説推論)
未来を読み解く類推

参考書籍:
[1] アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社
[2] 米盛裕二(2007), "アブダクション - 仮説と発見の論理", 頸草書房
[3] 松岡正剛(2019), "先夜千冊エディション 編集力", 角川ソフィア文庫

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気づきのあるネットワーク・サービス:ビジネスの具体化

 コンセプトもとに、収益性のあるビジネスを見定め、商品を具体化する。


コンセプト:
 アクセス数や購買数で定義した「距離」をもとに、「友人候補」「お勧めの商品(Webページ)」「お勧めの人」を紹介するネットワークサービス。

●Step3: ビジネスの具体化


●ビジネスモデルの作成


 開発・現場への営業期間を早急に収益化できるプランが必要であるため、ネット通販でのレコメンデーション(商品紹介)エンジンを軸に、その他のビジネスに展開するビジネスシナリオを構築し、投資にみあう収益があげられるかを検証する。
(実際には投資計画としてマーケティング分析、5年間の投資対効果の算出、保守運用計画、撤退条件などの稟議、予算の獲得を行うが割愛)

1)ターゲティングCM: 顧客を識別して興味のある広告を表示するエンジンとして販売
 ※現代のGoogleの検索広告(AddSense)や街角広告(ディジタル・サイネージ)と同様
2)マーケティング分析ツール: 顧客の興味を分析するためのツールとして販売
3)ビジネス支援: 販促ツールなど
・商品紹介: レコメンデーション・エンジンとして販売、
 ※ネット通販だけでなくスーパー、CDショップ、レンタルショップなど実店舗も視野に、顧客に合わせた商品を提案する。
・検索エンジン補助ツール: 
 - Webページを閲覧している時に関連ページを紹介
 - 検索のキーワードの代わりに複数のWebページを指定して、関連ページを絞り込み
・友人紹介: (SNSが普及していなかった時代だったので見合わせ)

Webレコメンドイメージ
               おすすめ商品の紹介イメージ[2]


●商用化:

〇商用化エンジン開発:


・スペック
 - 100万人、100万商品、1000万履歴で複数アクセスに対してリアルタイムにレスポンス
・超高速ソートアルゴリズム
 前述のスペックを満足するため、2回のループで距離ソーティングできるアルゴリズムを搭載
・高アクセス・ノイズカット
 アクセス履歴のべき乗特性を利用して、人気の商品を自動抽出してノイズとしてカット
 ※「アナ雪」のように皆が購入する商品はあえて紹介する必要がない、今でいうロングテール商品を提案できる。

○反対意見:


 第三者に意見をもらい、ビジネス計画に問題がないかを検証する。これまでにないビジネスを展開する際には反対がつきものでありここで挫けてしまうのは禁物だが、真摯に問題点と向き合うチャンスでもある。

・アクセス履歴を利用するのはプライバシー侵害であるためビジネス化するのは問題がある
 ⇒現代: やりすぎて問題になっているが、当時よりはるかに敷居は低い。人の習慣は変えられるものなので最初からくじけてはいけない。
・サイトの最高アクセス数が1万人であるのに100万人を想定するのはオーバースペック
 ⇒現代: ネット通販は数千万人を超えている。当時で100万はあり得ない数字だったが、1億人の未来を視野に入れていたので、そのギャップに苦労した。

○派生サービス:


 ビジネスとして具体化していくときには、ビジネスモデルや機能をぐーっと絞り込んでいくことになる。一方で、それが普及するような未来には別の展開が見えてくる。

■行動履歴統合ベース・サービスの提供コンセプト(1997年):
・インターネットを多くの人が普通に利用するようになった将来、ネットとリアルを横断した大量の「人の行動履歴」を取得可能という未曽有の世界が構築される。
・行動履歴を活用するビジネスは、プライバシー問題だけでなく一部の企業が独占して全世界に展開される危険がある
行動履歴データをネット/リアルを横断で皆が活用できるよう、安全安心に共有/取引できる場として、公共性をもった「行動履歴統合ベース」の構築が急務
・「行動履歴」というと積分的な分析に目がいきがちだが、瞬時にデータを取得できる将来には「微分行動」の把握と次の行動の予測という視点も必要となってくる(1999年)。

全国行動履歴統合ベース


 全国行動履歴統合ベース・サービスのイメージ


〇サービスの試行運用:


 1998年にポータルサイト上でおこなった試行運用サービス「MagicPocket」は、キーワードで検索した結果から「おすすめページのリスト」を表示する。1年間の試行運用を終えて終了。
 複数のページを選んで絞り込んだり、紹介されたページからさらに「おすすめページリスト」を表示して、どんどん関連ページをたどったりできるので、キーワード検索にはないワクワク体験ができる。特に3つ興味のあるものを選んで、それらを見ている人たちが何を見ているのかという散策方法が秀逸だということがわかる。それなりにリピータもいたのだが継続はされなかった。Googleは、別のアプローチで動的に変化するWebページへのアクセスをもとに、検索エンジンを実現している。

〇商用化(顛末):


 通販サイトはもちろんコンビニなどの実店舗への営業も含めて全国を回り、ICタグを使ってスーパのカゴに商品を入れたとたんに他の商品をお薦めするデモがTVKで紹介されたが、通販サイトなど数本しか売れなかった。

●現代の類似サービス:


・SNSの友達紹介
・amazonやNetflixの「よく一緒に購入されている商品」、購買履歴からの「おすすめ商品」
・GAFA、Netflixはもちろん、ホームコントロール、スマートカー、スマートシティ、ゲーム、バーチャル、通信などあらゆる分野のビジネスが行動履歴を重要な資本財として奪い合いしのぎを削っている。
・周囲の人の会話に気づくという意味では、FacebookやLineグループなどのSNSでの他人の会話もある。

●まとめ:


 AwarenessNetは、知り合いどうしがコミュニケーションするという、電話網の偏在したコミュニケーションを疑問視し、興味の近いものどうしが知り合うというコミュニケーションの拡大を予見することろから出発した。インターネットは人々のコミュニケーションを促すだけでなく、情報や商品とのつながりも拡大すると考えたところから発想はさらに広がる。

 購買も含むアクセス情報空間はN次元に人の興味がからみあう魅惑的な宇宙を形成する。AwarenessNetは、人と情報、人と商品、人と人をミクロな単位とし、相互コミュニケーションを「距離」という値に置換する。その時々の人の興味により「距離」は変化し、動的な「距離」が形成するN次元な「距離」に置換されたコミュニケーションが、マクロな「興味のコミュニケーション集団」を形成し、情報として記憶される。レコメンデーション(興味の紹介)は、興味の視点と、関連情報の提示によるフィードバック・ループを形成するきっかけとなる。「ヒト」がその時々の興味に合わせて複数の「人」「情報」「商品」に注目(指定)すると、そのコミュニケーション関係が変化し、「興味のコミュニケーション集団」の形を変え、「興味の情報空間」が動的に変化する

 AwarenessNetは、興味のコミュニケーションを疑似写像する場を提供することにより、観察可能な「動的に変化する市場(場)」という人類史上初めての領域に踏み込んだとも言えるだろう。商品としてのとしてのAwarenessNetは広大な構想の暫定解だった。後に示す「行動履歴プラットフォーム」「情報を3次元に写像する:InfoLead」とセットとらえると面白い未来が見えてくる。


気づきのあるネットワーク・サービス:アイデアの整理
気づきのあるネットワーク・サービス:コンセプトの具体化
気づきのあるネットワーク・サービス:ビジネスの具体化


参考文献:
[1] 市川裕介(2000), "~ECサイトのパーソナライズ化とサービスレベルの向上でOne-to-Oneマーケティングを実現~ :純国産のパーソナライズエンジンAwarenessNet", ITmediaエンタープライズ, 2000年12月19日
~ECサイトのパーソナライズ化とサービスレベルの向上で   One-to-Oneマーケティングを実現!~:【特集】One-to-Oneマーケティングツール(3/5 ページ) - ITmedia エンタープライズ[2] 高木浩則, 市川裕介, 木原洋一(2003), "書籍ECサイトにおけるレコメンデーションシステム", NTT技術ジャーナル, 2003.11, p30-33
jn200311030.pdf (ntt.co.jp)

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気づきのあるネットワーク・サービス:コンセプトの具体化

 クレーム(短文)とネーム(呼称)をもとに、文章としてコンセプトを具体化していく。

Step2:コンセプト編集


●言葉で表現する:


○アイデアを言葉で表現する


クレーム(短文): 通話している時に周囲いる人に気づくことができるネットワークサービス
ネーム(呼称): AwarenessNet(気づきのあるネットワーク)

○6W1Hで表現する


気づきのあるネットワーク(AwarenessNet)とは何か
いつ(When): (知人を指定して)電話で話している時に ⇒「電話をした後に」に訂正
どこで(Where): 通話空間で
誰が(Who): 私が
誰に(Whom): 知人や興味が同じ人に
何をする(What): 話しをする、気づく
なぜ(Why): 新たな出会いのため
どのように(How): 周囲を見渡し近くにいる人を探して

○曖昧な言葉をより明確にする


いつ(When): (知人を指定して)電話で話している時に
 ⇒電話をしている時に気づいても、かけなおせるわけではないので、「電話をした後に」に訂正

なぜ(Why): 新たな出会いのため
 新たに出会って嬉しいのはどのような人か?
 ⇒自分の電話メモに記載されていない知人
 ⇒興味が同じ人

どのように(How): 周囲を見渡し近くにいる人を探して
 近くにいる人の定義は何か?
 ⇒自分の「知人」との重なりが大きいほど近い
 ⇒自分の「興味」との重なりが大きいほど近い

○派生アイデアメモ:


 この段階で思いつく別のサービスやキーワードがあれば、将来役立つかもしれないのでアイデアメモに残しておく。
・現実世界で道を歩いているときに、近くの知り合いを表示
・通話中に通話相手との関係をもとに、知人や同じ興味の人を表示、同時接続

●コンセプトの具体化:

 興味を学習し、興味をフィードバックするメタネットワーク


〇「高速ネットワーク」上での生活はどう変化するのか

通信速度が1Mビット/秒となった時代は生活空間の一部をネットワーク上に移動する。誰もがネットワークにより生活(通話、購入、閲覧)する時代を想定。
・AwarenessNetの出会いの対象も「通話」だけでなく、「購入」「閲覧」も含めて考える。


○「興味」の定義

 サービスの利用者を基点として、距離が近い「ヒト」「モノ」は「興味」が近い。

○「距離」の定義

 AwarenessNetの肝となる「近さ=距離」をどのように求めるのかを具体化する。

1) 友人候補との距離:

・「通話回数が多い通話相手=友人」は、通話回数順に距離が近い。
・他者と友人と比較し、「同じ友人と通話をしている人=友人候補」のうち友人の重なりの多い順に距離が近い。
※現代ならFacebookの「友達かも?」と同様

2.同じ興味の人との距離:

・自分が購入しいる「商品リスト」の中で、「同じ商品を買っている人=興味が同じ人」のうち商品の重なりが多い順に距離が近い。
・Webページの閲覧でも同様。

3.おすすめ商品との距離:

・2)の『「興味が同じ人」が買っている商品=おすすめ商品」』のうち「興味が同じ人」の重なりが多い順に距離が近い。
※2)の「商品リスト」を単品にすると、現代のamazonの「よく一緒に購入されている商品」と同様

○「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルでコンセプトを表現する


■構成要素:
 ・ミクロ: 人、商品、Webページ
 ・コミュニケーション: 通話、購入、閲覧
 ・マクロ: 興味ネットワークにより形成される多重集団
  - 通話:友人の集団
  - 購入:同じ興味の集団
  - Webページ:同じ興味の集団
 ・メタ・ネットワーク: 電話、インターネットをベースにしたメタネットワーク=興味のネットワーク
 ・環境: 興味(アクセス履歴)によって形成される新たな社会・経済
 ・技術・社会背景: 通信速度が1Mビット/秒、誰もがネットワークにより生活(通話、購入、閲覧)する時代を想定。

■ネットワークの特性:
 ・多次元性・多重所属: 人は無数に興味属性を持ち、複数の興味ネットワークにつながっている
 ・フィードバック・ループ: 「通話、購入、閲覧」と「おすすめ紹介」のフィードバックループ
 ・適応・動的特性: 
  - 「通話、購入、閲覧」によって変化する「おすすめ紹介」
  - 「おすすめ紹介」によって変化する「興味の集団」
  ⇒動的に変化する交友関係(商品、Webページを含む)
 ・可塑性と学習: 
  興味を学習し、興味をフィードバックする動的な学習ネットワーク
  - アクセス履歴として形成されるネットワーク関係
  - 興味によって形成されるメタネットワーク
 ・恒常性・保守性:
  新しいサービスとして具体化する際に留意すべき項目
  - 通話履歴のサービス利用に対する反発
  - 通話している周囲の情報をフィードバックすることのわずらわしさ
   ⇒新サービスの利用者に新しいメリットをもたらす必要がある



●コンセプトのまとめ:


 アクセス数や購買数で定義した「距離」をもとに、「友人候補」「お勧めの商品(Webページ)」「お勧めの人」を紹介するネットワークサービス。

協調フィルタリングのイメージ
          AwarenessNetのサービスイメージ[2]


気づきのあるネットワーク・サービス:アイデアの整理
気づきのあるネットワーク・サービス:コンセプトの具体化
気づきのあるネットワーク・サービス:ビジネスの具体化

参考文献:
[1] 市川裕介(2000), "~ECサイトのパーソナライズ化とサービスレベルの向上でOne-to-Oneマーケティングを実現~ :純国産のパーソナライズエンジンAwarenessNet", ITmediaエンタープライズ, 2000年12月19日

[2] 高木浩則, 市川裕介, 木原洋一(2003), "書籍ECサイトにおけるレコメンデーションシステム", NTT技術ジャーナル, 2003.11, p30-33
jn200311030.pdf (ntt.co.jp)

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気づきのあるネットワーク・サービス:アイデア編集

第三章 1990年から観た未来

  本章では「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルとアイデア・プロセッシングのサンプルとして、1990年代に読み解いた未来(現代ではあたりまえとなったサービス・コンセプト)を例として紹介する。
 今あるコミュニケーション、ネットワークをベースとして次のメタ・コミュニケーション、メタ・ネットワークを問い続けることにより、次の時代のサービスに気づくことができる。
 

3.1 商品として具体化したもの

パーソナル通信エージェント: CardTerm with Mackun(1988年)
・気づきのあるネットワーク・サービス:AwarenessNet(1995年)

———————————————————————————————-

 インターネット普及前夜の1990年代に未来を読み解き商用化まで展開した事例について3Stepに分けて紹介する。漠然としたイメージを具体化していく際に、当初のイメージから形をかえることが多い、それはアイデアが現実環境に適応していく過程として自然な変化である。

Step1:アイデアの整理
Step2:コンセプトの具体化
Step3:ビジネスの具体化

Step1:アイデア編集



●背景(1995年):


○環境条件

  楽天が発足する5年前、googleが発足する2年前の1995年、通信速度は現在の1万分の1にもみたない、個人や企業の情報発信がこれほど大量となるとは想定できず、Webページへのアクセスも1万件もあればヒットサイトだった。通販やCMがネットでビジネスになるかはまだ皆半信半疑、新聞やTVを超えるのは夢物語だった時代。
 研究所では、通信速度が1Mビット/秒となる光回線を各家庭に配線するという(当事としては)とんでもない目標にむけ、電話に代る通信サービスはどのような変化を迎えるのかを模索していた。

○他の研究動向


・多地点臨場感TV会議、ビデオオンデマンド(Netflixの原型)など高速=動画という発想に注意が向けられている。医療用のレントゲンなどを利用した遠隔医療も考えられているが、1M程度ではまだ実用的ではない。
・オフィス電話や一般の電話交換はすでにディジタル化されていて、1Mビットとなった際にはインターネット上での電話通信も想定する必要がある。


●お題(テーマ): NTT研究所にて

 ⇒最終到達フェーズ: レコメンデーション・エンジンの商品販売
 通信速度は、1Mビット/秒(現在の1000分の1)となり、インターネット普及した将来、電話に代る新しいコミュニケーションサービスを創る。


●材料・素材:


 ○現状把握


・インターネットの通信速度は、早くても128kbpsが限界。
・利用者は極一部のコアユーザのみ。サイトのアクセス数は最大でも1万人に届かない。
・ネット通販のサイトはamazonなど一部で運用されはじめたが普及するかどうか怪しい。
・サイト毎のアクセス数が多くても1万人程度なため、ネット広告の有効性を疑問視する意見が多い。
・企業からの情報発信もされているがあまり閲覧されていない。

○想定するプラットフォーム


・とりあえず電話網を想定


●着想:


○電話における「バーチャルなリアル」とは?


 「バーチャル・リアリティ」をやりたいという声が出発点だった。電話ネットワークにおける「バーチャルなリアル」とは何なのか。現実に置き換えてみて足りない視点はないか、我々は電話網を使って遠隔で世界中の指定した人と通話できているが、それは現実空間のように周囲の雰囲気は伝わってこない。

○「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルで考えてみる


 ネットワークのつながり:
 ・ミクロ: 人
 ・コミュニケーション: 指定した相手との通話による情報交換
 ・マクロ: 交換機によって繋がった通話(線)の集まり
 ・メタ・ネットワーク: 電話網をプラットフォームとした、メタな通話とは何か? 
 ・環境: ?電話をしている時の周囲の環境ってなんだろう?
 ・技術・社会的背景: 通信速度が1Mビット/秒となった時代に人々の生活はどうなるのだろうか?

 メタな通話への問い:
 ・多次元性・多重所属: 個人が多重に所属する交友関係は電話帳だけで表現できているのか?
 ・フィードバック・ループ: メタ通話におけるフィードバック・ループとは?
 ・適応・動的特性: 
  - その時々に繋がる通話が動的に変化しているが、動的に変化する周囲の交友関係、興味は表現できているのか? 
 ・可塑性と学習: 
  - 動的な繋がりを記憶して活用できていない。通話履歴を記憶して学習して応用できないか?
  - 動的に変化する人の交友関係、興味を学習できるメタ通話とは?
 ・恒常性・保守性:
  - 通話履歴のサービス利用に対する反発
  - 通話している周囲の情報をフィードバックすることのわずらわしさ

※メタな通話: 電話網の上で実現されるより高次元の通話


●言葉で表現する:


○やりたいことをクレーム(短文)とネーム(呼称)で表現する


 電話における通話では、既知の指定した相手とだけし話しをすることしかできない。現実世界では、知り合いが近くを通れば声をかけたり、子供と遊んでいる姿、仲の良い老夫婦などとの出会いがある。電話による通話はリアルではなく、不自然なコミュニケーションだということに気づく。近くにいる人と出会うことはできないか?それが次の発想の分岐点となる。

 ネーム(呼称): AwarenessNet(アウェアネスネット: 気づきのあるネットワーク)
 クレーム(短文): 通話している時に周囲いる人に気づくことができるネットワークサービス

周囲のひとたち
 周囲の人たちと出会う、気づきのあるネットワーク

フューチャー・リテラシー :インデックス
ミクロ・マクロ・ネットワークの解説

気づきのあるネットワーク・サービス:アイデアの整理
気づきのあるネットワーク・サービス:コンセプトの具体化
気づきのあるネットワーク・サービス:ビジネスの具体化

参考文献:
[1] 市川裕介(2000), "~ECサイトのパーソナライズ化とサービスレベルの向上でOne-to-Oneマーケティングを実現~ :純国産のパーソナライズエンジンAwarenessNet", ITmediaエンタープライズ, 2000年12月19日

[2] 高木浩則, 市川裕介, 木原洋一(2003), "書籍ECサイトにおけるレコメンデーションシステム", NTT技術ジャーナル, 2003.11, p30-33
jn200311030.pdf (ntt.co.jp)

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【閑話】未来を読み解くということ

 本書では、最終的に2060年の未来を読み解きたいと考えている。そのために何をすればいいかについて記述していきたいと思う。そんなことより、今何をすべきか、今顧客に提案するにはどうしたらいいかが問題なんだという方も多いだろう。未来を読み解くということは、2つの意味で、現代を読み解くということに通じる

【未来を読みとくことで、現在すべきことを見極める】
・未来に何が起こるのかを見据えて、現状を分析し、線で結ぶと数年先の未来に向けた方向性が明確になる
・時代の変化を先取りすることで、競合他者(社)に先んじる、準備をすることができる

●新しいビジネス・技術を創造するということ


 研究や開発をやっていると、「誰もやっていなくて、儲かるビジネスを創れ」という命が下ることがある。裏にはさらに、その提案が「社内のトップが皆賛成する」ものというオマケがついてくる。いやいや、それって「皆が賛同」している時点で誰もが思いつくよね。と。

「課題解決形の提案」がうまくいく例もあるだろう、それは「課題が明確」なビジネスであり、そこには競合他社がひしめき合って、投資をして、営業をして、戦国時代さながらのフィールドとなっている。もちろん本道として、そこを攻めていくことも大切だ。

 高度成長時代に技術と大量生産を背景にした手法から、少量多品種への転換して、これからは「シーズではなくてニーズ、顧客志向」だとか、「モノではなくコト」などとうたわれたがなかなかうまくいかない。現状分析が足りなくて遅れてるというのは論外として、大抵の場合は提案する側も、使う側も何が足りないのかがわからないのだ。また、闇雲に「新しいイノベーション」を求める姿勢も、ニッチな重箱の隅をつつきがちになる。

ここは、
自分が「面白い」「楽になる」「自然」と思える未来は何か
という創造の原点に立ちかえり、

アイデアというものは大概
・誰もが「すばらしい!」と合意するアイデアはすでに実施されている ⇒くじけない
・本当にすばらしいアイデアならば、同じことを考えている仲間がかならずいる ⇒仲間を探そう
・30年後に普及している技術は、今ここにある ⇒周囲を見回そう
というものだということを再認識することから始めてみよう。

そして本書ではさらに、
「ミクロ・マクロ・ネットワーク」という、過去から未来に至る韻律を読み取って、環境変化に適応する動的ネットワークの視点で、今後実現されていく道筋は何か?を見極める方法を提案したい。

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「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデル解説(アイデア整理のテンプレート)

  今回は、「未来を読み解く」ために、筆者が使っている思考モデルである、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルを解説する。



 まず、「部分」があり、それらが相互に作用しあって「全体」の情報が作られ、それが再び「部分」に影響をあたえる。部分と全体との創発的な関係を通じて自在に変化しつつ、全体の秩序を形成してゆく。

●「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルの各要素と特性


◯概要説明


 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」は、未来の物語を読み解く際のアイデア整理において「喩え」て連想するためのガイドラインであり、チェックリストだ。すべてを網羅する必要はなく、臨機応変に適用してもらえればいい。生物進化や経済、脳に「喩え」て考えてみるのもいいだろう。すでに存在するコミュニケーションをベースとして、足りないコミュニケーションやメタ・コミュニケーションを創造するチェックリストとして活躍する。あまり細かいことは気にせずに、何だか違うかもと思っても、ムリヤリでいいので当てはめてみるといい。なんとかうめているうちに、新しい発想が生まれ、抜けているところに気がつくことができる。

 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」の構成要素とネットワーク特性について、「細胞と人」を例に概説する。

■構成要素:
・ミクロ: 細胞
・コミュニケーション: 細胞間の情報伝達
・ネットワーク: 細胞間のつながり
・マクロ: 人
・メタ・ネットワーク: 臓器のネットワーク、人間社会
・環境: 人間のおかれている外部環境(自然、社会など)
・技術・社会背景: 5万年前にホモ・サピエンスが誕生 

■ネットワークの特性:
・多次元性・多重所属: 地域社会、企業、趣味などさまざまな組織に多重所属
・フィードバック・ループ: 気温など外部環境情報、体温などの内部情報を取得して、動的に適応するなど。
・適応・動的適応: 気温の変化への動的適応、「発汗」「毛穴の収縮」「ふるえ」など
・可塑性・学習: 脳による記憶と学習により後天的に習得する適応能力など
・恒常性・保守性: 内部環境を維持する傾向。体温、血糖、免疫など
・変異要素: 「猿人からの突然変異でヒトが誕生した」など

ミクロ・マクロ・ネットワーク(会社)

       会社における「ミクロ・マクロ・ネットワーク」の例


○詳細説明



 モデルを扱うには詳細な定義が必要という方に向けて、構成要素とネットワーク特性の詳細説明を行う。あまり定義や矛盾にこだわらず、喩えとして必要な時に参照して欲しい。


1.構成要素


1)個、部分(ミクロ):  


・コミュニケーションをする基本単位、コミュニケーションの主体。
まずは、誰かが(何かが)、誰かと(何かと)、つながりって話したがっているというところから始める。
・「個、部分」は個別の状態をもち、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」のなかで、独自の判断にもつづいて「情報」を取得し、発信し、状態を変化させる。
・同種、異種、捕食、上下、受益関係など、互いに異なるものを含む。

 ex. 人、細胞、生物、細菌、免疫細胞
 ex. 身体、組織、企業、国、生物のコロニー、種族

2)コミュニケーション(リンク):  


・二つ以上の「個、部分」や「全体」が情報や物を交換して、互いに影響を及ぼしあうこと。
・物理現象においては「相互作用」、生命においては「コミュニケーション」。
・検討中のモデルは、どのような手段を用いて「コミュニケーション」しているのかを考える。

 ex. 電話で話すこと、Youtubeの動画を介した間接的なコミュニケーション
 ex. 血液にホルモン情報を流すことによる内臓間のコミュニケーション
 ex. 企業間のコミュニケーション

※参考:
 コミュニケーションには、「強いつながり」、「弱いつながり」、「柔らかいつながり」、「直接的なつながりと、間接的なつながり」がある。

3)ミクロ・ネットワーク(略称:ネットワーク):  


・二つ以上の「個、部分」が互いにコミュニケーションをとる経路、つながり、情報交換のためのインフラ。
・個の集団におけるコミュニケーションの密度もあわせて考える。

 ex. インフラ(電話網、交通網、鉄道網、インターネット)
 ex. インフラを構成する交換機、電線、道路、サービスエリア、鉄道、駅、光ケーブル、ルータ、コンピュータなどの総体。
 ex. 宅配・郵便のネットワーク、物流などのインフラを利用したサービス

※参考:
 電話網、交通網、血流に「喩え」るとイメージしやすい。 
 現代のネットワークは動的に変化するものとしてとらえるとよい。ネットワークが使いやすくなるということは質的変化をともない、「個、部分」と「全体」の関係を再構築し、「個、部分」や「全体」のあり方を変える。

4)全体(マクロ):  


・「個、部分」のネットワークを利用したコミュニケーションにより形成される全体秩序、全体構造。
・「全体」は、全体秩序、全体構造を動的に変化する状態として保持する。
・ミクロで安定するシステム(ミクロ・ネットワーク)が、マクロレベルで観測できる性質を示す。

 ex. 人のネットワークによって形成された企業、社会・経済。
 ex. 細胞のネットワークによって形成された人

※参考:
「全体」の境界は固定的なものではなく、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」により常に再定義されるものとしてとらえるとよい。「部分」の性質の単純な総和にとどまらない性質が、「全体」の性質として現れる。複雑系ではこれを「創発」と呼ぶ。

5)メタ・ネットワーク(マクロ・ネットワーク):


・ミクロ・ネットワークをベースに構築される、マクロレベルのコミュニケーションのためのネットワーク。
・次の「ミクロ・マクロ・ネットワーク」構築のためのプラットフォームとなる。
 ex. 組織ネットワーク、企業ネットワーク

6)環境:

  
・「ミクロ・マクロ・ネットワーク」が置かれている周囲の環境。
・「個、部分」と「全体」をとりまく外的な状況であり、「個、部分」と「全体」に「環境」に関する情報を提供する。

 ex. 企業、社会、経済、地球
 ex. 企業状況、社会状況、経済状況、地球環境
 ex. 周囲の気温、湿度、季節、空気

※参考:
 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」が適応する対象、進化モデルにおける環境、時間・空間的に変化する文脈であり、「個、部分」や「全体」の状態変化、ネットワークの変化を「環境」情報として取り込む情報統合の「場」。ミクロ・ネットワークによって形成される「場の情報」もしくは「雰囲気」をフィードバック情報として提供する。

7)技術・社会的背景:


・「ミクロ・マクロ・ネットワーク」でアイデアを整理する際の前提となる技術・社会的背景(技術、インフラ、政治・経済・歴史的な流れ)を想定。


3.特性

 
「ミクロ・マクロ・ネットワーク」を構築する際に、考慮すべき動的特性について解説する。

(1)多次元性、多重所属:  


 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」は、非常に単純化したモデルである。現実には、「個、部分」が、n次元空間で時間軸のつながりをもち、複数のネットワークに多重に所属する。

・n次元ネットワーク

 しばしば、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」は、n次元空間のネットワークを形成する。

・時間軸

 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」は、動的に変化する「環境」に適応するため、常にエネルギーが最小となる均衡状態(安定状態)を模索し続ける動的な状態変化としてとらえられる。

・複数のネットワークへの所属

 しばしば、「個、部分」は複数の「ミクロ・マクロ・ネットワーク」に多重に所属する。

 ex. 同じ興味の人どうしをネットワークでつなぐと、人は複数の興味のネットワークに所属することとなる。

※参考:
 AとB,Cが近い関係にあるが、B,Cは非常に遠い関係にあるというように、「部分」間の関係の遠近は自由に設定することができる。
     ミクロ・マクロ・ネットワーク(多重所属)

        複数のネットワークへの多重所属



(2)フィードバック・ループ:  


「個、部分」と「全体」の間での情報のフィードバック・ループ。「個、部分」が主体的に行動する際に、「全体」の雰囲気や共通意識などのマクロ情報を常に察知しながら自らの行動を調整する。

 ex. 社会情勢に合わせて経営方針をたてる
 ex. 「環境」の変化に適応し、種を生存させるよう進化する
 ex. 「市場」は、情報を保存しフィードバックする「環境」としての側面と、価値の調整プロセス(市場機構)としての側面がある

※参考:
 フィードバック・ループを効率的に運用するためには、「全体」は「個、部分」に対して自身の状態を参照するための「情報交換の場」を設定することが有効である。

ミクロ・マクロ・ネットワーク(フィードバック)

        会社における情報のフィードバック・ループの例



(3)適応・動的特性:


 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」は、外部の「環境」変化に対して、エネルギーを最小化する動的均衡状態を探り、ネットワークを変更し、「個、部分」と「全体」の状態、ネットワークの接続関係を動的サイクルで調整し続ける。

 ex. 需要と共有のバランスを探る経済活動、環境変化への生物進化による適応

※参考:
 環境の変化が緩やかであり、ミクロ・ネットワークの状態が安定してきているならば、ネットワークの変化は緩やかなものとなる。急激な環境変化は、急激なネットワークの再構築を促す。

(4)可塑性・学習(ネットワークの記憶):  


 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」には、環境への適応に向けた変化をその可塑性により学習し、時空間を越えて継承する。

 - 「個、部分」と「全体」の状態
 - ミクロ・ネットワーク、マクロ・ネットワークの接続関係
 - 「全体」に集約された、「ミクロ・ネットワーク」の雰囲気や共通認識など統合情報

 ex. 脳の記憶、遺伝子の記憶、文化の遺伝子ミーム、道具と脳の共進化

(5)恒常性・保守性(ホメオスタシス):  


 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」が「環境」に対する現状での最適解となる均衡状態に到達するときに、「環境」の変化に対して「ミクロ・マクロ・ネットワーク」の状態を維持しようとする性質。恒常性・保守性を越える大きなエネルギーがネットワークに与えられて時に、新たな状態を創発する。

 ex. 体温維持、地球環境の恒常性

※参考:
 強力に安定したネットワークは、強いエネルギーを与えなければ次の状態に変化することはない。急激な環境変化は、安定したネットワークの保守性の臨界点を超えさせ、爆発的なネットワークの組換えを誘発し、新しいマクロな状態を創発する。
 技術ベースの製品やサービスを市場で「成功」させるための「壁(キャズム)」という表現がある。混沌とした混ざり合いの中で、新しいシステムが出現と消滅を繰り返したすえに、複数の環境変化要因が加えられた際に大転換が発生し、「キャズムを越え」て新しいシステムが急速に優位となるが、古いシステムも残り続ける。

(7)変異要素:


 急激な環境変化に適応するためには、ネットワークの一部に変異要素を発生させることにより、ネットワークの動的適応を促進する効果が期待できる。

ex. 特異エキスパート人材集団のプールと、必要とする組織・チームへの即時アサイン、支援体制の構築

4.革新的変化の視点


 環境に適応すべくさまざまなネットワークを広げるうちに超えることのできない【巨大な壁】につきあたるときがある。例えば、かぎられた空間内に大量の個体が増殖し続け、ついに飽和状態を迎えたときそれが起こる。【巨大な壁】の内側で膨大なエネルギー・活力をため込みながら、突破口を探しながら変化し続けている。【巨大な壁】の内側でネットワークは集散、拡大、刈り込みを繰り返しながら、環境変化に適応しながらさまざまな【ネットワーク・プラットフォーム】を多重に構築し続ける。そして、あるとき発生した【急激な変化・大災害をきっかけとして、プラットフォームをベースにネットワークの形を変え、【突破口】を捉えていっきに【巨大な壁】をつきやぶり爆発的な速度で新たなネットワークを形成し始め、革新的変化が爆発する
 ex. 生命誕生、カンブリア爆発、産業革命

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 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」は、部分(要素)に還元ようというのではなく、その関係性や動的特性、適応性に着目し、意味を読み取り、全体としてどのように環境に適応するのかという動的コミュニケーションに着目する。ネットワークに記憶し、集団に広め、ミクロとマクロのフィードバック・ループのサイクルが回るようになった時、そのネットワークはプラットフォームとして確立し、次の世代に向けた新しいステップを踏み出すことができるようになる。


参考書籍:
[1] 今井賢一, 金子郁容(1988), "ネットワーク組織論", 岩波書店

 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」は、今井賢一・金子郁容の「ネットワーク組織論』で提唱された「ミクロ・マクロ・ループ」に着想を得て、1992年から修正しつつ利用しているモデルだ。本書における流動的で不安定な関係性のなかで、周囲環境に動的に適応する組織に関する考察は、現代でも十分に役に立つ内容であり、中古で安価に入手できるので一読されることをお勧めしたい。

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ミクロ・マクロ・ネットワーク: トマトは誰とどんな話しをしたいのか?

 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」は、未来のサービスや技術を読み解くときに「喩え」て考える際に利用するモデルだ。「トマト」への適用事例で使い方を概観する。

 「トマト」生産は今後どのように変わっていくのだろうか、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」を使ったコンセプト発案の例を簡単に紹介する。アウトプットはサービス・コンセプトだ。

 

●トマトは誰とどんな話しをしたいのか?

トマトネットワーク


【ミクロなコミュニケーション】

 トマトは誰と話しをしたいのか?
 ・同じ畑の仲間のトマト
 ・野菜たち
 ・生産者、消費者
  - 生産者からの水・肥料やり、その時刻
 ・ドローン、ロボット
 

【どんな内容を話すのか?】

 n次元のつながり、時間軸、複数ネットワークを考慮する。
 ・トマトの健康状態: 害虫、病気、腐敗、傷、葉の色
 ・トマトの栄養状態: 硝酸イオン濃度、窒素栄養状態
 ・トマトのうま味指標: 糖度、糖酸比
 ・トマトの栄養素含有量: リコピン、グルタミン酸、リノール酸、ポリフェノール、他
 ・トマトから生産者へ: 寒い、苦しい、他
 

【トマトの置かれている環境】

 トマトのおかれている状況、周囲の環境。
 ・ビニールハウス内の環境:
  - 大気; 温度、湿度、炭酸ガス濃度、酸素濃度
  - 土壌の状態; 灌水、栄養、菌土
 ・ビニールハウス外の環境:
  - 天候、季節
  - 害虫、病気
 ・販売関連:
  - 販売ルート、ターゲット顧客
  - 全国のトマト生産量
  - 市場状況、経済状況、国内情勢、グローバル情勢
 

【マクロ:トマトが集まると】

 トマトのコミュニケーションから出現するものを俯瞰。
 
 ・トマトが植えられているビニールハウス
 ・生産者が管理する他のビニールハウス
 ・地域・全国のビニールハウス
 ・トマトがつくる国、経済、進化に「喩え」てみる
 

【メタ・ネットワーク】

 ・トマトの品質・特性のコミュニケーション
 ・トマトの育成ノウハウのネットワーク
 ・トマトの植付け、生産、宅配、調理家電、レシピ連携
 ・ビニールハウスのネットワーク
 ・トマトの品種群のネットワーク
 ・トマト生産地のネットワーク
 

【フィードバック・ループ、動的特性】

 ビニールハウス、生産者、消費者の動的な情報を集約して各々にフィードバックし、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」に動的に適応。
 最適な育成方法、出荷状況、品種改良のための情報共有、分析結果の共有によるノウハウ情報のフィードバック・ループを形成し、環境条件、顧客要望の変化に動的に適応。
 

【技術的背景】

・使えそうな技術:
 - 通信装:WiFi、ブルートゥース、インターネット、携帯
 - マイクロコンピュータ: 各種スモールPCボード
・道具・機械(詳細な調査要):
 - 防雨、防湿、防寒
 - ビニールハウス管理システム
 - ドローン、カメラ搭載ロボット
 - AI、ビッグデータ分析ソフト
 - インターネットに接続された調理家電

【社会的背景】

・人口減少
自動化コストが小規模農家には高額
  

●サービス・コンセプト例

  「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルから導く、サービス・コンセプトを例示する。

1)生産管理自動化、遠隔管理(生産者向け)
 - 複数の生産者が集まり集中管理センターを設け、トマトのビニールハウスの状況変化をモニタして、リアルタイムに酸素濃度、二酸化炭素濃度、温度、湿度をコントロールする。
 - 調査要:トマトの健康状況をリアルタイムに検査する技術、遠隔コントロールできる環境条件
 
2)ロボット、ドローンにより観察、作業の自動化(生産者向け)
 - 規格化された栽培ロボットネットワークによるノウハウの共有、集団学習
 
3)ノウハウネットワーク(生産者や品種改良者向け)
 - 全国のビニールハウスの出荷履歴、トマトの品質(健康、品質、旨味、栄養素)などと連動して、最適な環境コントロール条件をフィードバック。生産者間で共有、分析した結果を共有する。
 - 出荷情報:製品品質のサンプリング調査・葉による品質調査、販売状況(価格、出荷数、など)
 
4)仮想的な生存競争の導入(品種改良者向け)
 品質や人気、購買力が高い「トマト」が生き残れるという仮想的な生存競争を設定し、生き残った「トマト」のグループのフィードバック・ループ、AI分析、品種改良の自動化
 
5)顧客とのコミュニケーション(顧客向け)
 顧客(個人・スーパー)の満足状況をモニタし、顧客毎に適当な「トマト」を提案、生産情報とともにおすすめ度をスマートフォンに表示

6)生産から調理までのワンストップ化
 トマト生産をロボット制御工場化し、植付け⇒生産⇒収穫・出荷⇒宅配⇒調理家電までの流れ、支払いをワンストップ化、ネットによるコントロールの他、顧客の好み(価格x品質)、調理のレシピなどのユーザ向けのノウハウもサポート

7)プラットフォーム化⇒バーチャル化(顧客向け)
 - バーチャル家庭菜園:
 遠隔で栽培するトマトを決め、栽培方法を相談・指定しながら育て、収穫する。自分では育てないが、育てた気分を味わいつつ、新鮮なトマトをゲット(購入)できる。
 - ゲーム内収穫:
 ゲーム内で収穫すると実物が送付される。育てる過程すらバイパスして、ゲーム感覚で育てた気になって、トマトを収穫(購入)する。
 - バーチャル販売:
 バーチャル世界で収穫したトマトを、バーチャルで取引して実際のトマトを販売する。


 ミクロ・マクロ・ネットワーク」で考えるということは、情報の流れを明確にし、記憶・学習し、循環させて環境変化に動的に適応させるシステムを組む方法を考えるということだ。新しいサービス・コンセプトは、既存のネットワークをプラットフォームとして利用し、メタ・ネットワークを構築する方向に進んでいく。

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【閑話】後編『ミクロ・マクロ・ネットワーク】で織る未来』サマリー

 これからしばらく、過去編をお休みして、しばらく後編の『【ミクロ・マクロ・ネットワーク】で織る未来』について書いていきます。三章、四章の実例では、筆写の専門分野のコンピュータネットワークサービスやコミュニケーションサービスについて例示します。

 

後編のサマリーです。

 

二章 【型・編】:未来を読み解く散策法

 「未来を読み解く」ための散策方法について記述します。


 前半のビッグヒストリーから一転して、「未来を読み解く」へとステージをうつします。商品開発では、「アイデアの創出」⇒「コンセプト整理」⇒「プロトタイプ開発」⇒「商品開発」⇒「商品販売」⇒「販売の継続」へとステップアップする毎にコストも期間もかかり、また周囲を巻き込みながら予算や人員を獲得してゆかなければならず、成功者となるのはごく一握りとなります。より良いものであるほど競合相手が同時に発生し、ステップを上がるにつれて選択と絞り込みが行われるということです。一方で、多くの人々は、初期の闘いに参戦せずに、成功者の後からニッチの領域で闘いをくりひろげています。後編の主題は、より先んじて「未来を読み解く」ことにより、より早く先頭を走る、もしくは未来の動向予測をふまえ先んじて準備・行動することにあります

 

 この方法を使えばすぐに「未来を読み解ける」わけでも、短期で解決する発想法を提示するわけでもない、地道な努力が前提となる。ある特定の分野に絞るのではなく、より広い視野で材料を集め、整理し、思考を組み立て、読み解くための方法について提案します。

 

2.1 ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデル


 未来を読み解く際に利用する「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルとは何かについて説明。個々のパーツを定義していくと面倒な感じになりますが、さらっと流してもらって、実際には臨機応変に適用することになります。使い方については、三章以降の実例で感覚をつかんでもらいます。

 

2.2 フィールドワークと情報編集


 実際にフィールドワーク(野外調査)をしてもいいですが、ここでは専門分野にこだわらない書籍などの散策もフィールドワークとしています。マクルーハンの時代(1986年)から書籍などの印刷情報爆発が指摘されていますが、インターネットの時代になって指数関数的に増大しています。国会図書館の所蔵数は4492点、書籍だけで1154万点、読み切れません。新規のアイデアや考え方と思っていても、大抵のことは先人の知恵として執筆されているわけです。研究でも、ビジネスでもそうですが、オリジナリティを追求するあまり、ともすると専門分野にとらわれ視野が狭くなりがち。先人の知恵である書籍には筆写の歴史がつまっており、書籍化することで世間の荒波にもまれている。これを活用しないのは時間の無駄。インターネットの時代である今日、ネット情報も併用しつつ先人の知恵=ヒューマンエンジンを使って、材料を集め、整理し、思考を組み立て、物語として読み解いていく編集方法を提案します。


 筆写が普段から実践してきた方法に近いものを書籍に求めると、ありますね、KJ法で有名な川喜田二郎の「発想法」、これを主軸にして、松岡正剛の「知の編集工学」、梅棹忠夫の「知的生産の技術」、外山滋比古の「思考の整理学」などを参考にまとめます。

 第三の推論法「アブダクション」や「非意識」・「暗黙知の活用」、「メタファー」や「アナロジー」なども組み込んでいく予定。

 

2.3 アイデアプロセッシングの道具


 かつてはカードにまとめる技法が情報編集を行うために便利でしたが、なんといっても全文検索で串刺しにできるコンピュータが便利。アイデアプロセッシングの道具としてコンピュータアプリケーション、携帯との連携を中心にどのようなものが必要となるかについて、要件と自分が使っている環境を紹介。筆写が使っていないアプリケーションについてもバリエーションとして紹介したいと考えています。

 

三章 【顧・紡】:1990年から観た未来

  ここでは、1990年代に考えて製品化、プロトタイプ、ジャストアイデアについてミクロ・マクロ・ネットワークとの対応を例示します。日本で初めてインターネットサービスプロバイダーがサービスを開始したのが1992年、インターネット利用が定着する以前から直後の話となります。


CardTerm with Mackun(シェアウェア)・1988

・情報オブジェクトとメタ情報(プリプロトタイプ)・1989

・リソース変化に適応する仮想巨大コンピュータ(ジャストアイデア)・1990

・自律分散するバーチャルオフィス(構想)・1992

・曖昧なヒトの要求を獲得して提案する(プリプロトタイプ)・1994

・モノとマネーを仮想化するゲーム環境(ジャストアイデア)・1995

・近くにいるヒトに気づきを与えるレコメンドエンジン(製品販売)・1995

・行動履歴プラットホーム(プロトタイプ)・1996

【閑話】情報空間を3次元に写像する・1999

 

四章 【活・織】:2020年から描く未来

 いよいよ現代から未来の読み解きにとりかかります。


4.1 計画されている「未来の種」


 10年後、30年後としてすでに計画されているものを紹介します。インターネットやAIのおかげで、SF的なものが全部できる気になっていて、結構沢山あるものをどうまとめるか悩みます。しかし、これをベースに次を考えなければいけないので。

 

4.2 コミュニケーション・インフレーション 

 -- 「知」の断片化がもたらすヒトの「未来」--


 未来を具体的に読み解いてみます。まだあまり考えていないけれどなんとかなるかな~と直感。超未来のゴールとしては、高野和明の「ジェノサイド」やテッド・チャン「あなたの人生の物語(映画:メッセージの原作)」のように複雑系を思考できるヒトの進化があるとして、そのための30年後ってどうなるのか?というのがあります。

 ここに入る前に、過去編で「神経と脳」「錯覚と推論」「資本主義」あたりにもどります。


五章 【環・綾】 螺旋:知の淵を渦巻く振り子


 螺旋というのは当初からタイトルだけおいてあります。最後に書いておかなければならないことがあるように直感するからです。暗黙知と形式知、ミクロとマクロ、非線形コンテンツの螺旋をグルグルと回します。

 

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●生物の実験場となったカンブリア爆発はなぜ起こったのか

 宇宙と地球と生命の相互作用が大量絶滅と突然変異のうねりをつくり、数十種だった大型の生物がいっきに1万種以上に広がる「カンブリア爆発」が起こった。

 

●急激な生命進化の3つのパターン

 

 急激な環境変化に伴う生命進化には3つのパターンがある[1]

 

 1)それまでに繁栄していた生物を一掃する大量絶滅

 2)大陸の分裂に伴う遺伝子変異による進化(冠進化)

 3)大陸の衝突で出会った同一種間での交雑による進化(茎進化)

 

 カンブリア紀直前の1.5億年間に3つのパターンのすべてが絡み合う急激な環境変化が微生物を襲った。

 

76億年前: 全球凍結と超大陸の分裂が引き金となる生命の大進化

 

全球凍結

 銀河衝突による超新星爆発の影響で磁場が弱体化し、大量に降り注いだ放射能の影響で地球全体が凍りつき(全球凍結)大量絶滅を引き起こす。

 極寒期と極暑期の繰り返しが、光合成を行うシアノバクテリアの大量絶滅と大繁殖の波をつくり、酸素濃度を乱高下させながら現代の値(大気の20%)に近づいていく。

 

超大陸ロディニアが分裂

 放射性マグマ地溝帯の周辺に生命の素材となるリン酸塩の鉱床が発生し、突然変異した生物を量産する。この影響はカンブリア爆発の直前まで続き、分裂した各大陸で種の多様化が進む。

 

●浅い海に巨大生物の楽園が誕生

 

 全休凍結が終了した直後に、酸素の増加による酸化や浅瀬が増えたことにともなって豪雨や風化浸食が促進され、大陸から海中へ生命の栄養塩が大量に流れ込む。

 

6.3億年前:巨大多細胞生物

 カイメンなど、単細胞真核生物の100万倍の多細胞生物が現れる。

 

5.85.5億年前:エディアカラ動植物群

 ディッキンソニアなどのエディアカラ動植物群が現れる。その多くは海水を濾過してバクテリアを捕食、群内に捕食者がいないため「エディアカラの楽園」と呼ばれる。


●小氷河期と超大陸の形成が生物の大爆発を加速

 

5.8億年前: 小氷河期
5.4億年前: 大陸が集まり超大陸ゴンドワナを形成

 

 小氷河期が終わるとともに、大陸から海中へ生命の栄養塩が大量に流れ込み、超大陸の形成がそれを加速する。

 - 大陸辺縁地下のマントルの温度低下により、海水(含水鉱物)がマントル深部へ運ばれるようになり、海水量が低下し陸地と大陸棚を広げ、

 - 異なる大陸が合体した部分で近縁種間での交雑が進む

 

5.4億年前: カンブリア爆発

 大陸棚の大量の太陽光のもとに自らエネルギーやタンパク質合成する光合成生物を獲物として、エネルギーや生体物質を搾取する草食動物の誕生が軍拡競争の始まりとなる。草食動物は、植物よりも多くのエネルギーを必要とするため、より多くの餌を確保する「移動能力」と「口」や「内臓」を進化させたのが最初のブレークスルーとなる。

 

 草食動物は、植物よりも多くのエネルギーとタンパク質を保持するため、これを餌とする肉食動物という戦略が生まれる。肉食動物は、移動する草食動物を捕獲するためにより性能の高い「移動速度」が必要となり、それを維持するためにより多くのエネルギーを獲得する「牙」や、太陽光を利用して獲物を探す「眼」を進化させたのが次のブレークスルーとなる。そして、肉食動物間でも捕食競争が発生し、軍拡競争がよりいっそう激化する。

 

 草食動物は少量のエネルギーを使う防衛戦略を生み出す。移動する影を感知して敵の襲来から逃げる「眼」や、地下に逃げ込む短距離の「瞬発移動能力」だ。肉食動物も捕食されないための強固な殻」をまとい、そのエネルギーを稼ぐための「高速移動能力」と殻を食い破るための「強力な牙」を得る。

 アノマロカリス

図. アノマロカリス

(ウィッキペディア:https://ja.wikipedia.org/wiki/アノマロカリス)


 1.5億年の間に起きた、宇宙放射線、全球凍結、酸素の乱高下と急増、超大陸分裂と新たな超大陸形成という環境変化の連鎖が、大量絶滅と爆発的な生物進化のうねりを生んだ。新たに広がった大陸棚は、生物の軍拡競争、眼・筋肉・武器と鎧の工夫を強要し、現代に続く動物グループの系統を網羅することとなる。これ以降の時代、獲得した構造をプラットフォームとして改造しながら環境変化に適応変化してゆくこととなる。


フューチャー・リテラシー:インデックス

生物の実験場となったカンブリア爆発はなぜ起こったのか


参考書籍:

[1] 丸山茂樹(2020),"最新 地球と生命の誕生と進化:[全地球史アトラス]ガイドブック", 清水

書院

[2] 山下美紀, いとうみちろう(2017), "地球のあゆみえほん :46億年のれきし", 丸山茂徳監, PHP

[3] NHKスペシャル「生命大躍進」政策班(2015), "教養・文化シリーズ NHKスペシャル 生命大躍進", NHK出版


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●微生物のコミュニティ

 38億年前、核のない単細胞の原核生物=細菌(古細菌真正細菌)が誕生した。最も単純な生命である細菌はコロニーをつくり、細菌間のコミュニケーションにより協調して環境に適応しながら生存競争を生きのびたのだった。

 

●細胞間での最初の情報交換=遺伝子交換

 

 生命初のコミュニケーションは、細胞間での遺伝子の交換だ。細菌は、細胞分裂により増え続ける。細胞核が存在しないため、細菌間での遺伝子の交換が発生しやすく短期間に遺伝子が伝搬する。遺伝子の交換は、細菌の接合による交換だけでなく、死によっても拡散する。突然変異で生き残ったものと遺伝子交換が発生しやすく、群生するコロニーが原初生態系における遺伝子組み換えの実験場となり1種類の細菌から膨大な種類の細菌を派生させる進化の原動力となる。

 

●細菌のコロニー内でのコミュニケーション


 原初の細胞間での化学物質による情報交換は、栄養の乏しい場所でエネルギーを効率よく取得すための細菌のコロニーにおいて発生した。細菌の生存戦略は、ニッチな栄養源となる無機質と場所を開拓し、他の細菌を抗生物質により抑制し、それを防ぐ防護壁(細胞壁、粘液性の皮膜)を構築することにある。戦略選択の繰り返しは、自律的に複数種類の細菌による群生=コロニーを形成することとなる。初期のコロニーは、ある細菌の排泄物を別の生物が再利用ことにより発生する。これをつなげることによりエネルギー摂取の連鎖ができ、電子をやりとりする電子市場が構築される。例えば、メタン菌が水素と二酸化炭素からメタンを発生させ、別の菌がそのメタンを食べて二酸化炭素と水素を排出する。硫黄と水素で回るサイクルもある。異なるコロニーどうしが闘いあうこともあるが長期的には均衡状態を探り合うことになる。

 

 二酸化炭素、メタン、二酸化硫黄、硫化水素、窒素などの生産―消費連鎖をつくるが、再利用の環を完璧に均衡することは難しく、電子市場の効率性的な均衡を探索し続けることにより複雑化する。細菌のコロニーが複雑化するにつれて、細菌の進化により多様な無機質を養分として摂取するようになり、外部環境に適応した細菌からの遺伝子の供給により、コロニー全体が外部環境変化に適応するよう進化する(進化したものが生き残る)。

 

微生物の社会[4]

 

 現代の微生物コロニーでは、微生物どうしで神経細胞が行っているようなイオンチャネルによる電気信号伝達を利用してコミュニケーションを行っている。血管や神経路の代わりに浮遊する分子によって情報伝達することにより、コロニー内の位置を把握し、周囲の環境の情報(浸透圧、pH、湿度など)を処理し、他の生物との競争に役立つ物質を合成してコロニーを防衛し、養分の再利用の効率を上げるように空間分布を修正する。微生物コロニーとしては、腸内フローラや口内フローラ、免疫や抗生物質に抵抗する細菌のバイオフィルムなどが知られている。微生物のコロニーは微生物間の相互作用のネットワークにより、最小のエネルギーで均衡を保ち続ける。

 

●粘菌集団による知的行動[5]

 

 粘菌は単細胞真核生物(アメーバ)だ。細胞性粘菌は、飢餓状態になると化学物質を放出して、それを合図として集合してキノコのような形の集合体となり、胞子を放出して拡散する。

 真正粘菌のモジホコリは、個々には独立している細胞が集合して1個体として探索行動を行う多核細胞のアメーバ状となり、細胞質の管のネットワークを通じて栄養を行きわたらせる。迷路の入口と出口にエサを配置して、粘菌を分散して配置すると、迷路全体に広がった後、効率の悪い経路や行き止まりに伸ばした体を引き上げ、最短距離となる経路だけを結ぶ1本の太い管を残す。関東の地図上36か所にエサを配置して東京に粘菌を配置する実験では、最終的に関東の鉄道網に近い形となったという。

 

 原初に発生した細菌コロニー内での化学物質による情報交換は、多細胞生物として巨大化していく過程で、体内細胞間での連携、血管や神経細胞を利用した情報交換へと受け継がれ進化してゆく。


 


フューチャー・リテラシー:インデックス

考えるって、どういうこと?


参考書籍:

[1]ポール・G・フォーコウスキー(2015), "微生物が地球をつくった -- 生命40年億年の主人公", 松浦俊輔訳, 青土社

[2]ベンジャミン・マクファーランド(2017), “星屑から生まれた世界 --進化と元素をめぐる生命38億年史--“, 渡辺正訳, 化学同人

[3]アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社

[4]中西直人編(2017), "微生物の驚異 :マイクロバイオームから多剤耐性まで :細菌も電気通信で”会話”", 別冊日経サイエンス, p47, 日系サイエンス

[5]川上新一監(2017), "粘菌 知性のはじまりとそのサイエンス : 特徴から研究の歴史、動画撮影法、アート、人工知能への応用まで", 誠文堂新光社


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分子生成の連鎖が、循環する地球システムをつくった

 水のないドライな地球に降り注いだ大量のウェットな隕石がきっかけとなり、化学反応の連鎖がはじまる。分子生成の連鎖はやがて、循環するダイナミックな地球システムをつくってゆく。

 

●ドライな岩石惑星「地球」と月の誕生:455000万年前


 大気も水ない鉄とケイ酸塩を主成分とするドライな岩石惑星「地球」が誕生、その直後の微惑星との衝突により月が生成される。鉄などが重力で沈み込み表面を固い地核で覆われるが、重力的に安定した均衡状態となり磁場は発生ていない

 

●ドライな地球にウェットな隕石が降り注ぐ:437000万~42億年前

 

 木星と土星の軌道移動をきっかけとして、火星よりも外側から水と炭素を含む大量の隕石が降り注ぎ、再び灼熱状態となる。大気は二酸化炭素が80%程度で他にメタン、一酸化炭素、窒素で構成。地球が冷えてくると大量の二酸化炭素を含む酸性の雨(炭酸水)が降り注ぎ、還元状態の地表と激しく化学反応をおこし、地表の岩と結合してケイ酸塩が流れだし、硫酸、硝酸、塩酸などが溶け込んだ超酸性・超高塩分・重金属元素を大量に含んだ猛毒の海が誕生する

 

●地球の急冷、プレートテクトニクス、花こう岩:40億年前~38億年前


 原始海洋が大気中の二酸化炭素を大量に吸収し、地球が急速に冷える。地球の冷却と原始海洋の増加の相互連鎖が加速し、1000度から130度までいっきに冷却する。

 

 地球の冷却の影響で、海洋地核の下のマントルが上昇して裂け目(海嶺)をつくり、吹き出したマグマにより海洋地核を形成、マントルがプレートを押し上げ、プレートの自重で大陸地殻の下にプレートが沈み込むプレートテクトニクスによりプレートの循環が始まる。海中の溶岩がつくる含水鉱物は潤滑油として働くとともに、岩石が溶融する温度を極端に低下させ、酸性のマグマ(二酸化ケイ素)を生じ、地表へと上昇して地球特有の岩石=生命素材をふくむ花こう岩をつくる。

 

●プレートテクトニクスが海を浄化:38億年前~35億年前

 

 風化によって陸上から中性の砂や泥が海中に堆積し超酸性の海水と反応して中和し、海底の裂け目(海嶺)から噴出する熱水と岩石の反応により重金属鉱床となり、プレートテクトニクスによりマントルの地下深くに運ばれて重金属イオンが除去され、海がしだいに浄化されていく。海の浄化とともに、温泉や海嶺近くに自己複製する高分子ネットワーク(生命)が誕生する。

 

●磁場バリアが太陽風から地上を守る:32億年前

 

 鉄などの重い物質は重力によりコアを形成、プレートテクトニクスが原初大陸を破壊してコアの上部に運んだウランの発熱により液体化した金属がコアの周りを対流し、地球磁場を発生させる。しだいに強くなる磁場がバリアとなり、ふりそそぐ宇宙線、太陽風、紫外線から地表を守る

 海面に降り注ぐ太陽風や紫外線の減少にともない、海面近くの太陽光を使った光合成により海中の二酸化炭素を吸収し酸素を放出する生命=シアノバクテリアが誕生する。

 

●磁場が急激に強くなり、シアノバクテリア大量発生:27億年前


 海底の冷たいプレートがマントルに沈みこむことにより、地球がしだいに冷えていくとマントルの対流が激しくなり、地球磁場が急激に強くなる。有害な光線が減った海面近くでシアノバクテリアが大量発生する。海中の二酸化炭素を大量に消費し、放出した酸素が磁鉄鉱となり海中に大量に沈殿する、黒い海は「青い海」へと変化19億年前まで大量に沈殿した鉄が産業革命以降に活躍する。

 

 冷却と秩序化の営みが、新たなプラットフォームとメタな秩序化の営みを生みだす。シアノバクテリアが地球上に大量の酸素をもたらし、酸素を呼吸する巨大生命を生み、オゾン層が宇宙線から地球を守り、生命が地上に広がる。プレートテクトニクスの活動が大陸を、そして超大陸をつくり、大陸移動、山の生成、火山、地震につながる地球システムの活動がスタートする。大陸の離合集散、風化の増減、雨の増減、生物死骸の地下への移動と火山噴火が、生命と地球が相互に連鎖しあいながら地球システムの恒常性を形成、酸素濃度と気温を一定の範囲に保つこととなる


フューチャー・リテラシー:インデックス
元素に富んだ岩石惑星「地球」誕生

参考書籍:

[1] 丸山茂樹(2020),"最新 地球と生命の誕生と進化:[全地球史アトラス]ガイドブック", 清水書院

[2] 丸山茂徳, 磯崎行雄(1998), "生命と地球の歴史", 岩波書店

[3] 丸山茂徳(2018), "地球史を読み解く", 放送大学教育振興会

[4] デイヴィッド・クリスチャン監(2017), "ビッグヒストリー大図鑑 :宇宙と人類 138億年の物語", 秋山淑子, 竹田純子, 中川泉, 森富美子訳, 河出書房新社

[5] 大森聡一, 鳥海光弘(2016), "ダイナミックな地球", 放送大学教育振興会

[6] 森山茂(1998), "自己創成するガイア -- 生命と地球は強制によって進化する--", 学習研究社


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古代都市を循環させる貨幣情報ネットワーク

 集落から古代都市へと人口を広げたとき、人々の分業をつないだのは言葉や文字によるコミュニケーション、そして新たな収穫の分配の仕組みだった。

●集落の拡大と食糧の分配


 ヒトが狩猟採集を家族から集落で協力して行うようになったとき、家族のために持ち帰る獲物は集落の共有するものとなった。やがて農耕生活により集落の規模が大きくなり分業が広がるようになると、首長が調停者となり作物を集め再配分する習慣、争いを避け友好を深めるための部族間での贈り物を授受する習慣が生まれる。
 

●都市国家を支える貨幣情報ネットワーク


 貨幣(金属、穀物、家畜、貝など)の用途は4つで説明されるが、時代や地域によりその比重は異なる。
 
 貨幣の用途:
 1)支払い
  債務の決済、税の支払い
 2)保存・蓄積
  支払いの遅延、財力を示威、予備
 3)尺度基準
  財・モノの数値化、共通に利用できる量的基準
 4)交換
  モノと交換できることを保証
 

【古代エジプトの金】

 紀元前3000年、古代エジプトは世界の金産出の中心だったが「金は太陽神の肉体・生命のシンボル」であり、不滅の神々の象徴だった。王宮、神殿、神像、神の化身であるファラオの装身具、衣装、王座が金でおおわれ、金の蓄積が権威の象徴となる。やがてリング型の金がアジアとの交易に使われるようになるが、金貨として流通することはない。
 

古代都市の交易】

 紀元前3300年、ウルク都市国家群が陸路・海路を使ったインダスとの交易が行われる。古代都市間の交易は、商業的な利益を求めるものではなく、政治的な贈り物の物々交換であり、王により俸給で雇われた商人(後にタムカルムと呼ばれる身分型の交易者)が商取引を担当する。物々交換を仲介するものとして、銅・銀・穀物が尺度基準として利用され、特に価値が変化しにくい銀が遠隔交易では重宝される。宝石・装飾品の他に木、石、金属(銅、錫、鉄)を受け、毛織物・油を贈る。
 

古代都市の貨幣管理】

 ウルク都市国家群の各都市では、王と神殿が銀を貯蔵し、貸借関係の記録を管理し、銀の重量基準により商品の価値、罰金、利子率、賃金を公示したが、周辺地域から輸入した銀は都市内に流通することはなく、税金・関税・貢納・罰金・利子の支払いに充てられ、王・貴族・神殿によって消費・貯蔵される
 

古代都市と市民生活】

 古代都市では首長・官僚・神殿が都市周辺の農民や都市内の職人から農業生産物・手工業製品を税・貢ぎ物として集め、職人や農民にその階級や働きに応じて生活必需品を再配分する。市民のための市、貨幣は存在しなかった。
 

【自給自足する農耕民】

 都市をささえる農耕民は、その誕生から産業革命までのあいだ自給自足であり、税の支払い、馬・牛を含む道具の購入、借用、罰金のために作物を貨幣に交換して支払う
 

【最初の硬貨】

 紀元前650年ごろ、貨幣を最初につくったリュディアのギュゲス王は、銀の計量のわずらわしさをなくすため金銀の自然合金エレクトロン硬貨をつくり、その携帯の容易性と保存性から兵士への支払いのために使う。兵士は硬貨を自身の生活のために使い、結果、硬貨は交換のためにも使われ始める
 
 古代都市における貨幣は、遠隔交易における尺度基準、権力者の示威、税や兵への支払い代替するための道具、各地域の異なる政治・文明・文化とモノの価値基準の翻訳手段、言葉、文字などと同様のシンボル=情報であり、貨幣情報ネットワークの上に古代都市国内の分業、都市・国家間の分業を循環する血液であった
 
 やがて、硬貨の発明が労働を価値に置換して蓄積し、時空間に広がる貨幣情報ネットワークの上で利益を生む手段となったとき、市場、両替商の信用、硬貨の発行、貨幣の商品化による錬金術を次々と編み出すこととなる。
 
 そして、スミソニアン協定、プラザ合意をへて、電子マネー、ブロックチェーンへと貨幣の仮想化が進み、ますます実体の希薄なモノへと姿と価値をかえてゆく。

フューチャー・リテラシー:インデックス

参考書籍:
[1] 湯浅赳男(1988), "文明の「血液」 :貨幣から見た世界史", 新評論
[2] ジョナサン・ウイリアムズ(1998), "図説 お金の歴史全書", 桂川潤訳, 東洋書林
[3] 吉沢英成(1994), "貨幣と象徴 :経済社会の原型を求めて", 筑摩書房
[4] フェルナン・ブローデル(1985), "交換のはたらき --物質文明・経済・資本主義15-18世紀", 村上光彦訳, みすず書房
Fernand Braudel(1979), "LA Civilisation materielle, economie et capitalisme, XVe-XVIIIe siecle, Tome 2 : Les Jeux de L'ecghange", Armand Colin
[5] デイヴィッド・クリスチャン監(2017), "ビッグヒストリー大図鑑 :宇宙と人類 138億年の物語", 秋山淑子, 竹田純子, 中川泉, 森富美子訳, 河出書房新社
[6] 松岡正剛監修, 編集工学研究所(1996), "増補 情報の歴史", NTT出版


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国家形成に向けた専門分業と集落間の生存競争

 ヒトはコミュニケーションによりつながり、分業して助け合い仕事を効率化するコミュニティ=分業ネットワークの形成を生存戦略とする。仕事が複雑化するにつれて分業が進み、コミュニケーションの技術と文化を編みだし、周囲の統合と専門分業のリズムを刻みながら巨大化してゆく。


家族社会の形成 :440万年前~


 無毛の顔と白目により表情をゆたかにして感情と情愛を交換するコミュニケーションにより、育児と採集を分業して助け合う家族を形成する。


草原への進出と集団防衛 :370万年前~

 

 やがて草原に進出したヒトは、複数の家族が集まって10人~数十人の集団で行動することにより、肉食獣などの危険から身を守り、生存をおびやかす出来事や攻撃に対応する。危険を知らせ協調して動くための発声が、連携して集団を守るために使われる


●狩猟採集生活と部落 :180万年前~

 

 狩猟採集生活が発達すると、長距離を走って獲物を追い詰めるための役割分担、木の実や根を集め、子を育て、食料を加工するなどの分業が組織化され、25~60人程度の血縁の集落をつくるようになる。調停を行う長、火の保持、老人の知の口伝など男女の性別による水平分業と世代毎の垂直分業によって構造化した集団は、ヒトの多様性を生かす互助的な組織をつくる。集団の規模が大きくなるにつれて、より複雑な情報を交換するようになり、徐々に原始的な言葉と宗教が構築されていく。


農耕生活と集落間の生存競争 :1万年前~


 農耕生活によって土地と人口密度を広げ食料を保存・貯蔵するようになると、略奪者や利害・思想の異なる近隣の集落との争いが頻発するようになる。相互不信が不安を生み、安定を求める意識が約束事(法)を守らせる権力への従属を生む

 

 集落どうしの争いが、集落を単位とする競争となり、より巨大で強力なものが他を飲み込み、パワーの均衡がとれるまで争いが続く組織内の運用、外に向けた軍事力をより整えた集落が生存競争で生き残る

 

【巨大集落を継続して運用するための条件】

 ・法と政治による組織運営

 ・宗教による意識の統一、侵略戦争の大義名分の共有

 ・効率的な分業

 ・戦闘能力の強化・維持

 ・食料生産プラットフォーム

  非食料生産者を養う大多数の食料生産者と税の仕組み

 

 大きな集落は周囲に征服戦争をしかけることによりさらに巨大化し、小規模な集落はより大きな集落にのみ込まれていく。さらに集団の規模が大きくなるにつれて、法を守らせるための首長、文字により組織を運用する書記などの官僚、征服戦争に宗教的な正当性を与える僧侶、征服・防衛をになう軍人、武器・防具などの製造技術を開発する加工職人などの食料生産に従事しない新たな職業に専門分業する。貯蔵・蓄積された食料を非生産者たちに再分配する仕組みは、やがて税収の仕組みをつくり、それを管理・支配するものに権力を与える。組織を管理する権力は、軍事力を操りさらに権力を増す。

 

 税収の予測や計算、予算の計画や執行のための「計数する言葉」、神の言葉を代弁する「神の言葉」、軍人に対する指令などの「戦の言葉」を記録・保存する「文字が誕生する。職業の専門分業は、新たな「語彙」とコミュニケーション手段と文化をつくり、言葉の交換がさらなる職業の細分化を促進する

 

 部族社会は、他の部族社会を征服・併合して首長社会となり、やがて国家、帝国へと巨大化してゆく。

 

フューチャー・リテラシー:インデックス


参考書籍:

[1]デヴィッド・クリスチャン, シンシア・ストークス, ブラウン、クレイグ・ベンジャミン(2016), "ビッグヒストリー --われわれはどこから来て、どこへ行くのか--", 長沼毅日本語版監修, 石井克弥,竹田純子, 中川泉訳, 明石書店

[2]ジャレド・ダイアモンド(2000), "銃・病原菌・鉄",倉骨彰訳 , 草思社

    - Jared Diamond(1997), "GUNS, GERMS, AND STEEL: The Fates of Human Societies", W.W.Norton & Company.

[3]青柳正規(2009), "人類文明の黎明と暮れ方", 講談社

[4]トーマス・ホッブズ(1970), "リヴァイアサン", 水田洋訳, 岩波文庫

    - Thmas Hobbes(1651), "Leviathan or the matter, forme and power of a common-wealth ecclesiasticall and civil"



 

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【閑話】:喩えて考える:「メタファー」と「アナロジー」

 ヒトは「未知」のものを発見したときに、足りない「語彙」を補うために「類似」を探し「喩え」により理解する。

 

●喩えるということ


 「未知の未来」を読み解く際に「喩え」は強力な道具となる。「フューチャー・リテラシー」は「未来」を読書に喩えてイメージする試みで、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルはメタファー構築のためのガイドライン(補助器具)前編は過去の物語を「イメージ」に落とし込むための読書だ。本書そのものが「喩え」でできている。

 

 「喩え」には、「アナロジー(類推・直喩)」「メタファー(暗喩)」があると考えたところで、ちょっとした迷路に迷い込んでしまったので整理。どちらも、じっと見つめすぎると焦点が合わなくなってくる。

 

●「アナロジー」で喩える


 「アナロジー」は直接喩えることで、「ABのように~だ」という具合に使う。ABの構成要素と対応関係が明確な場合に使い、よく私たちが使う「喩え」はアナロジーで、似たものどうしを見比べて、連想により考えを深める。例えば、電流と水流のアナロジーでは次のように対応づけられる。

 

【電流は水流のように流れる】

 A:水源、貯水、水流、水圧、水力、漏水

 B:電源、蓄電、電流、電圧、電力、漏電

 

 「アナロジー」の組み立てるときの思考を追うと次のようになる。

 

【アナロジー構築のステップ】[1]

 1.何かと何かが「似てる」と思う

 2.(似ているものの構造を)「借りてくる」

 3.(借りてきた構造を)「当てはめる」

 

 「似ている」と思うにも、「借りてくる」ためにもそれぞれの知識がベースとなる。「当てはめる」際に、すべての要素が具体的に対応づけられるときもあれば、一部だけ対応することもある。例えば、『植物が水を吸い上げる水流を電流に対応させると何になるだろう?』と連想を続けていくと対応関係がゆらぐ一方で「イメージ」がふくらみ、新しい発想を生み出すこともある。


●「メタファー」で喩える


 「メタファー」は暗喩であり「イメージ」との対応で喩える。「人生とは旅だ」という喩えで「旅」は具体的な何かをさすのではなく、「旅」にいだく「イメージ」を共有する。

 

【メタファーの種類】[2]

 1.発言の装飾としてのメタファー

  「人生とは旅だ」と言うとイメージが膨らんで含意があり、格好いいよねという言い回し。

 2.言語の先取りとしての不正確な思考形式としてのメタファー

  言葉=論理として意識する前に不確かなままに「イメージ」を膨らませておく考え方。

 3.絶対的メタファー

  「イメージ」のまま言葉=論理にもどさずに、思考を続けていく考え方。

 

 通常の言葉はすでに知っていることしか表現できない、アイデア発想のためには「言語の先取りとしてのメタファー」や「絶対的なメタファー」を飼い慣らすことが有効だ。「喩え」を道具として「未知の未来」を読み解くときに、「絶対的メタファー」のまま「イメージ」を膨らませ、言葉=論理におとして「実体」を与え、「メタファー」と「アナロジー」と「実体」とのあいだを行き来し散策しながら考えをまとめることで、飛躍的に発想を広げることができる。

 

●喩えの罠

 「喩え」に頼りすぎると、誤った解釈に陥る危険がある。「社会を進化」のメタファーとしてとらえることが人種差別を生んだり、「ソフトウェア開発を建築」のメタファーとしてとらえることが工数問題を生んだりするのはメタファーの誤用だとも言われている。「喩え」は論拠にはなり得ないので、あくまでも発想を展開するための道具として扱うようにしたい。


[1] 安藤昭子(2020), "才能をひらく編集工学 :世界の見方を変える10の思考法", Discover

[2] ハンス・ブルーメンベルク(2005), "世界の読解可能性", 山本尤, 伊藤秀一訳, 法政大学出版局

    - Hans Blumenverg(1981), "Die Lesbarkeit Der Welt", Suhrkamp Verlag



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1万年前になぜ農耕民が誕生したのか

 小規模な狩猟採集民が農耕生活に移行し、人口を巨大化していったのは、気候変動などにより定住生活に誘われ、そこから抜け出せなくなった定住化と農耕の罠にはまったためだった。


●気候変動と農耕コミュニティの形成


【豊かな狩猟採集民】


 15000年前までのヒトは、020人程度の小集団で獲物を追って移動する狩猟採集により生活していた最終氷期の14000年前頃、気候が湿潤になるにつれて、森がそばにあり海・河川・湖が近く天然の動植物が豊富な地域に定住し、周囲の獲物と植物を採集するだけで十分な食料が手に入る豊かで安定した定住型の狩猟採集生活を選択する集落が発生する

 

定住生活のメリット:

 ・老人が置いていかれることがない

 ・安全に出産できる

 ・大きく専門的な道具を利用できる

 ・食料を貯蔵できる

 

 定住により、食料を安定して確保でき、より多くの子供を養い、老人と子供の死亡率が減り、急激に人口が増えていく。同時期に、ナイル流域や中東各地で栄養が豊富で短時間で大きな収穫が得られる野生の穀類=小麦が自生するようになり、定住生活との相乗効果によりさらに人口を増やす。やがて、サハラ・シリア・シナイが乾燥化し砂漠が広がり、パレスティナなどの麦自生地を目指してさらに狩猟採集民が集まることとなる。

 

【定住化の罠】


 13000年前ヴュルム氷期が終った直後に、北半球の氷床の溶解などにより亜氷期(ヤンガードリアス期)が発生する。人口過剰と天然資源の減少による食糧難という問題に直面した定住型の狩猟採集民はすでに移動による狩猟採集のノウハウを失っており、穀物などの効率の良い植物の収穫量を増やす工夫に成功した集団=農耕民だけが生き残る。農耕民は、栽培に有利な穀物や豆類を選別して育て、それが増え、収穫する農耕民の人口が増し、栽培可能な地域を広げるた。

 11500年前、再び温暖化に転じると収穫量が増加し、人口増加に拍車がかかる。以降、農耕民は、技術の改良による人口増加⇒人口過密に伴うギリギリの食生活⇒土地の荒廃による飢饉や病による人口減少⇒足りない労働力を増やすための人口増加、という抜け出せない貧しい生活サイクルを何千年ものあいだ繰り返すこととなる

 

【「肥沃な三日月地帯」の形成と集落の巨大化】


 紀元前1万年前に、後にメソポタミア文明を構築する「肥沃な三日月地帯」を形成する。

 

「肥沃な三日月地帯」のメリット:

 ・地中海性気候で、地形が起伏に富んでいるので野生種の種類が多い

 ・季節ごとの気候が変化に富んでいて、一年草の割合が多く、多様化している

 ・川が近く、低地で氾濫による栄養補給があり、灌漑ができる

 ・低地と高地のあいだで時期のずれた収穫ができる

 ・山羊、羊、豚など家畜化可能な哺乳類が豊富に生息する

 

 人口密度が高くなると周囲との争いが頻発するようになり、周囲の狩猟採集民を追い出し、武装した盗賊から集落を守るための「軍事力」が必要となる。大きな集団ほど、より大きな「軍事力」を養うことができることから、しだいに集団の規模が大きくなっていく。集団の規模が大きくなると、集団内のもめ事をまとめ、運営するための統率者と官僚組織=政治エリートが発生する。やがて統率者と官僚組織が支配する仕組みを構築し、生産した食料を管理し、税金を課し、軍隊を動かすようになる。集団が都市となり巨大化するにつれて、それをささえる生産プラットフォームの治水・灌漑などの技術発展をうながし、それがさらなる集団の巨大化を進める。

 農耕生産プラットフォームの上に、自身では生産しない専門職をのせた集団は、周囲を取り込む巨大化のサイクルを回してゆく


フューチャー・リテラシー:インデックス

ヒトと道具が紡ぐメタ進化 (future-seeds.net)


参考書籍:

[1] デヴィッド・クリスチャン, シンシア・ストークス・ブラウン, クレイグ・ベンジャミン(2016), "ビッグヒストリー われわれはどこから来て、どこへ行くのか :宇宙開闢から138億年の「人間」史", 長沼 毅監, 石井克弥, 竹田純子, 中川泉訳, 明石書店

[2] デイヴィッド・クリスチャン監(2017), "ビッグヒストリー大図鑑 :宇宙と人類 138億年の物語", 秋山淑子, 竹田純子, 中川泉, 森富美子訳, 河出書房新社 

[3] 松岡正剛(1996), "増補 情報の歴史", NTT出版

[4] ジャレド・ダイアモンド(2000), "銃・病原菌・鉄",倉骨彰訳 , 草思社

    - Jared Diamond(1997), "GUNS, GERMS, AND STEEL: The Fates of Human Societies", W.W.Norton & Company.


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【閑話】:ヒトと道具の共生って?メディア論おさらい

●ヒトと道具の共生って?メディア論おさらい、未来へ続く


 ヒトと道具の共進化がヒトを進化の枝から分岐させ、脳と道具(メディア)の共進化」「言葉と脳の共進化」がヒトの「思考」を変化させる「ヒトと道具(言葉)の共進化」は「文化」をつくる。世代を超えて「文化」を伝える遺伝子としてミームを提唱したドーキンスの着眼点に今更ながらに唸る。[3]

 

整理してみよう


ヒトと道具の共進化

 ・ヒトは環境変化に「道具」を発明・改良して適応する。

 ・「道具」は「文化」を形成し、世代を越えて伝えられる。

 ・「道具」は、利用の学習により「脳」の思考方法に変化を与える。思考方法の変化も世代を超えて伝えられる。

 ・「道具」によって変化した「思考」によって、新たな「道具」を生み出し、「道具」と「脳」はフィードバック・ループを形成して「共進化」する

 

脳と言葉の共進化

 ・「言葉」は「脳」内で意識や論理的な思考を行うときに使う。だから、「言葉」の語彙と文法は、直接「思考」に影響を与える。

 ・「言葉」による「思考」は、非意識や暗黙知にも影響を与えて、記憶・想起される。

 ・ヒトは環境変化に合わせて「言葉」を改良し、ヒトと「言葉」はフィードバック・ループを形成して「共進化」する

 

声の言葉と書く言葉[4][5]

 ・「声の言葉」は、聴衆を対象とし、周囲の環境に影響を受け、発するとすぐに消えてしまい、保存することができない。このため、記憶に残り、語りついでいくための工夫がこらされた。アーティスティックで演劇的な手法だ。

 ・「書く言葉」は、アルファベットの誕生と、活版印刷の発明により急速に広まり「読む言葉」の文化を退け、「思考」方法を急速に変化させる。

 ・黙読は、論理的、要素還元的、記述的な思考方法を植えつけ、近代の科学や数学などを発展させた。

 ・一方で、暗唱的な「記憶」能力、美意識による「直感」、論理的に記述しがたいアーティストとしてのバランス感覚を弱体化させる。

 

 ヒトとコンピュータの共生を推進した、リックライダーエンゲルバートアラン・ケイ「ヒトとコンピュータの共進化」「道具と思考の相互作用」を十分に認識していて[6]、さらにアラン・ケイはコンピュータ時代の「書く言葉」が「プログラムのようなもの」になるとさえ考えていた[7]

 

 生まれた時からテレビを見て育ち、インターネットやゲームに時間を費やして、本を読まない(読めない)ヒトが急激に増加している[8]。つづく未来がどのようなものになるのかについては、未来編でいっしょに考えてみたい。

 

フューチャー・リテラシー:インデックス

「脳」と「道具」の共進化

ヒトと道具が紡ぐメタ進化

「言葉」使いとともに成長する「意識」

「声の言葉」と「書く言葉」、哲学と数学の誕生

ヒトとコンピュータの共生


参考書籍:

[1] M.マクルーハン(1986), "グーテンベルクの銀河系 :哲学人間の形成", 森常治訳, みすず書房
- Marshall McLuhan(1962), "The Gutenberg Galaxy: The Making of Typographic Man", University of Toronto Press
[2] アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社
- Antonio Damasio(2018), "The Strange Order of Things: Life, Feeling, and the Making of Cultures", Pantheon
[3] リチャード・ドーキンス(2006), "利己的な遺伝子", 日高敏隆, 岸由二, 羽田節子, 垂水雄二訳, 紀伊国屋書店
- Richard Dawkins(1976/1989), "THE SELFISH GENE(30th anniversaty edition", Oxford University Press
[4] ウォルター・J・オング(1991), "声の文化と文字の文化", 桜井直文, 林仁正寛, 糟谷啓介訳, 藤原書店
[5] エリック・A・ハヴロク(1997), "プラトン序説", 村岡晋一訳, 新書館
[6] 西垣通(1997), "思想としてのパソコン", NTT出版
[7] アラン・ケイ(1992), "アラン・ケイ", 浜野保樹監修, 鶴岡雄二訳, アスキー出版局
[8] ニコラス・G・カー(2010), "ネット・バカ :インターネットがわたしたちの脳にしていること", 篠儀直子, 青土社
- Nicholus Carr(2010), "The Shallows :What the Internet Is Doing Our Brains", W W Norton & Co Inc


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知的生産のための道具(3):MacとHyperCardの描いた小世界

 それは、未来につながる「新しい言葉」の始まり、言語を描くためのキャンパスだった。


●MachintoshとHyperCardの描いた小世界


 2人のアーティスト、スティーブン・ジョブズビル・アトキンソンらの手によりAltoを道標としたMachintoshが(1865年)、ハードディスクを搭載したパーソナル・コンピュータMachintosh Plusが発売され(1986年)、さらにマルチメディア・オーサリング環境HyperCardが搭載される(1987年)。

 

Machintoshの小世界】

 ヒトは、複雑な世界で生きるために新しい事象に出会うと、アナロジーで理解・学習し、世界もそれに応える。Machintoshデスクトップ・メタファーもまた、何をすればいいかを我々に語りかける。常識が通用する一貫したメタファーで表現されるオブジェクトを縦横にリンクする仮想世界、それがMachintoshだ。ワープロ、ペイント、ドローを標準搭載し、それ以降開発されるアプリケーションもすべて一貫した思想・操作で提供された。

 

 <常識が通用する、全部がつながる>

 ・ドキュメントはフォルダに束ねられるし、文字も絵も図形も全部ドキュメント。ドキュメントを開けば、アプリケーションなんて指定しなくても読み書きできる。机の上に複数のドキュメントを開きっぱなしに置いておける。

 ・ドキュメントもフォルダもゴミ箱に捨てられる、ゴミ箱中はゴミの日に空にするまで残っている。

 ・プリンタは、アイコンをSystemフォルダに入れるだけで使えるようになる、ファイルをプリンタの上に重ねれば印刷できる。

 ・ワープロで書いたテキストも、他のアプリケーションで書いた絵も、図形もハサミで切って貼り付ければいい。音声だって動画だって同じだ。

 ・ちょっと現実にはない魔法もある。Undo(やり直し)だ。間違えたら1回だけ時をもどせる。

 

 オブジェクト仮想世界のメタファーは、マンマシン・インタフェースだけではない。アプリケーションもオペレーティング・システムもオブジェクトと、オブジェクトの間の相互作用で表現される。


                   280px-Macintosh822014.jpg

  ウィキペディア(Wikipedia) "Macintosh plus"(2020,12/12)より


HyperCardの小世界】

 HyperCardは、アラン・ケイの考えたコンピュータ・リテラシ-(読み書き能力)のメタファー[1]パパートの小世界(マイクロ・ワールド[2])、テッド・ネルソンハイパーテキスト[3]を誰でも使えるシンプルな形で具現化したマルチメディア・オーサリング環境だ。カードの上にフィールドやボタンを配置し、カード間をリンクでつなぎ、カード・フィールド・ボタンに直接HyperTalk言語で動作を記述する。

 

 音や音楽、絵を描き、テキストを記述する。クリックすれば動き出す絵本、百科事典、アドベンチャー・ゲーム、教科書を触ったその日から創作できる。初心者が自由に扱える簡易性だけでなく、オブジェクト指向、他言語で関数を拡張、HyperTalk自身をHyperTalkで書き換えて実行するなどプログラミング・プロフェッショナルも唸らせる魅力があった。

 

 主婦、学生、教師、デザイナー、ミュージシャン、漫画家、サラリーマンそして子供たち、プログラムを経験したことがない人たちが、自分たちの生活を楽しむために作品を手作りするMacLife誌がHyperCard発売の数ヶ月後に開催したコンテストでは、音声ロボット&通信環境、幼児向けゲーム&動く絵本、家計簿、易、妊娠知恵袋、絵描き歌絵本、迷宮探検ゲーム、科学実験教材、シンセサイザーコントローラ、算数教材、医療外来会計、本と料理のデータ帳など多彩な作品の応募があった。

 Hypercardコンテスト

"スタックウェア・コンテスト応募作品より", MAC LIFE No.11, p71


 Machintoshは、複雑系の世界をメタファーで表現できる、「表描文字※1とそれを描く(かく)ための最初の環境だった。そして、デスクトップ・メタファーが残り、オブジェクト指向は複雑なJavaの世界に、HyperCardはプログラムが困難なWeb世界に呑み込まれていった。


※1.「表描文字」:「表意文字」からの造語。詳細は未来編で。


参考書籍:
[1] アラン・ケイ(1992), "アラン・ケイ", 浜野保樹監修, 鶴岡雄二訳, アスキー出版局
[2] シーモア・パパート(1982), "マインドストーム :子供, コンピュータ, そして強力なアイデア", 奥村貴世子, 未来社
    - Seymour Papert(1980), "Mindstorms :Children, Computers, and Powerfull Ideas", Basic Books, Inc
[3] テッド・ネルソン(1994), "リテラリーマシン :ハイパーテキスト原論",竹内郁夫, 斉藤康己監訳, ハイテクノロジ―・コミュニケーションズ訳 , アスキー出版局

    - Theodor Holm Nelson(1987), "Literary Machines", Published by author


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知的生産のための道具(2):ヒトとコンピュータの共生

 ディスプレイとキーボードをつないで「コンピュータと対話する」ことが笑われる時代に「ヒトとコンピュータの共生」の実現に向けたチャレンジはじまる。


●ヒトとコンピュータの共生[1]


 ソ連のスプートニック号打ち上げ成功(1957年)を契機に、1958年NASA(アメリカ航空宇宙局)とARPA(アメリカ国防高等研究計画局)が設立され、アメリカの科学技術を大きく加速する。ARPAには、リックライダー(1962年)、エンゲルバート(1962年)、アランケイ(1966年)らが集結し、タイムシェアリング、グラフィックス、人工知能サイバネティックスオペレーティング・システム、プログラム言語、インターネットを生み出していく。
 
 ・リックライダー「ヒト・チームとコンピュータのリアルタイムな共生」を語り(1960年)[2-2]
 ・コージブスキーウォーフ「言語と相互に影響し合うヒトの思考」の提起に続き、マクルーハン「ヒトの五感と脳内の相互作用に与えるメディアの影響」を(1962年)[3]エンゲルバート「ヒトの知能・思考と相互作用・共進化する人間知性増強(オーグメンテーション)のためのコンピュータ環境」を思索する(1962年)[2-3]
 ・サザーランドがライトペンで操作するグラフィカル・ユーザ・インタフェースオブジェクト指向プログラミング、アイデア・オーサリング・システムを搭載し、コンピュータとの試行錯誤対話の先駆けとなるSketchpadを創り(1963)、
 ・エンゲルバートが「グループ全体知性の増強」のためのマシンNLS(oN-Line System)で、マルチウィンドウ、ビットマップ画面、ハイパーメディア、画面共有会議、キーボードとマウスで自在に情報空間を駆け巡るメディアショーで聴衆を魅了し(1968年)、
 ・パパートが子供たちが自発的に問題を考えて解くためのプログラム言語:Logo(1867年)で動くメタファー=タートル(小型ロボットとカーソル)を用いた教育実験を行う。
 
 アラン・ケイは、Sketchpadの開発チームで学び、先駆者たちの思想を吸収し、パパートの子供のためのプログラム教育に衝撃を受けて、鉛筆のように誰でもすぐに使える万能シミュレータ=メタメディアの開発を構想アルダスの小型本(1494年)のように子供でも気軽に持ち運べるダイナミックな本=コンピュータ作品の執筆環境としてダイナブックを考案する[5-1]。ゼロックスのパロアルト研究所で、その思想をAltoに受け継ぎ、オーバーラップ型ウィンドウ、高解像ビットマップ・ディスプレイデスクトップ・メタファーをマウスとキーボードで操作し、オブジェクト指向プログラミング環境SmallTalkによりコンピュータ・リテラシーが何であるかを示した(1973年)[5]
 
    ジミーとベスが相互接続したDynabookで遊ぶ様子
    1972年、Alan Kay, A Personal Computer for Children of All Ages [picture of two kids sitting in the grass with Dynabooks] ©Alan Kay

 そして、Altoを見学した2人のアーティスト、スティーブン・ジョブズビル・アトキンソンらの手により、Lisaをへて、Macintoshとして結実し、ついに「知的生産のための道具」が世に普及することとなる。

年表:

参考書籍:
[1] ハワード・ラインゴールド(2006), "新・思考のための道具 :知性を拡張するためのテクノロジー --その歴史と未来", 栗田昭平監修, 青木真美訳, パーソナルメディア
    - Howard Rheingole(2000), "Tools fot Thought revised edition :The History and Future of Mind-Expanding Technology", MIT Press
[2] 西垣通(1997), "思想としてのパソコン", NTT出版
 [2-2] J・C・リックライダー(1960), "ヒトとコンピュータの共生(Man-Computer Symbiosis)", 西垣通訳, NTT出版
  原文:Man-Computer Symbiosis (mit.edu)
 [2-3] ダグラス・C・エンゲルバート(1962), "ヒトの知能を補強増大させるための概念フレームワーク(A Conceptual Framework For The Augmentation Of Man's Intellect)", 西垣通訳, NTT出版
  原文:https://www.dougengelbart.org/content/view/382/
[3] M.マクルーハン(1986), "グーテンベルクの銀河系 :哲学人間の形成", 森常治訳, みすず書房
    - Marshall McLuhan(1962), "The Gutenberg Galaxy: The Making of Typographic Man", University of Toronto Press
[4] シーモア・パパート(1982), "マインドストーム :子供, コンピュータ, そして強力なアイデア", 奥村貴世子, 未来社
    - Seymour Papert(1980), "Mindstorms :Children, Computers, and Powerfull Ideas", Basic Books, Inc
[5] アラン・ケイ(1992), "アラン・ケイ", 浜野保樹監修, 鶴岡雄二訳, アスキー出版局
 [5-1] アラン・ケイ, アデル・ゴールドバーグ(1977), "パーソナル・ダイナミック・メディア", 浜野保樹監修, 鶴岡雄二訳, アスキー出版局
  原文:26-kay-4web (newmediareader.com)

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「ミクロ・マクロ・ネットワーク」のリズムで「過去の物語」を読み解く

 前編(過去編)は、ミクロ・マクロ・ネットワーク」のリズムで未来を読み解く「イメージ」を構築できるよう、過去を物語りとして読み解きます。


●「ミクロ・マクロ・ネットワーク」のリズム


 過去・現在・未来を読み解き、物語の構築に使う道具がミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルです。

 ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルとはどういうものでしょう。「細胞(ミクロ)」の動的ネットワークが集まって「人間(マクロ)」を構成し、「人間」のまわりには「地球環境」や「社会環境」などの「環境」があってその影響を受けて生活をしています。その「人間(ミクロ)」もまた動的ネットワークをつくって「社会、経済(マクロ)」を構成している。同様な視点で、原子、分子、生命、脳、メディア、社会、経済をとらえ直してみると、より小さいネットワークが「ベース(プラットフォーム)」となって、より大きなネットワークをつくって「複雑化」していく、そして次の「複雑化」のフェーズに入る直前に「大きなストレス」が溜って雪崩がおきるという「リズム」を繰り返していることが分かります。

ミクロ・マクロ・ネットワーク2

図1. ミクロ・マクロ・ネットワークのイメージ


ヒトネットワーク

図2.ヒト・ネットワークのイメージ


●「均衡状態」と「適応変化」


 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」では、周囲の「環境」が大きく変化しネットワークに「ストレス」がかかると、最もエネルギーを少なく維持できる「均衡状態」となるよう「ネットワーク構造」を「適応変化」させます。一旦、「均衡状態」にネットワークが落ち着くとその状態を「記憶」し、わずかな環境変化ではネットワーク構造を変えない「維持する力(保守性)」が働くようになります。この「均衡状態」・「記憶」・「維持する力」⇒「大きなストレス」⇒「適応変化」が、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」の「複雑化」の「リズム」を刻みます。

 恒星や超新星爆発での原子の誕生、生命進化、社会の構造変化、メディアとヒト(脳)の共進化などです。

 

●「プラットフォーム」の上に新たなネットワークをつくる


 環境変化の度合いによりますが、通常、一旦構築してしまった「ミクロ・ネットワーク」の状態を維持して「プラットフォーム」とし、それをプラットフォームとして「マクロ・ネットワーク」が「適応変化」する傾向があります。

 例えば、光合成生物が誕生して酸素が増えるという急激な「ストレス」がかかり、窒素などを呼吸していた嫌気性生物は猛毒の酸素に囲まれ絶滅の危機に瀕します。絶滅の直前にあった嫌気性生物は、呼吸によりエネルギーを得るという「プラットフォーム」を維持しつつ、酸素によりエネルギーを得る仕組みに細胞のネットワーク構造を「適応変化」させることにより新たな「均衡状態」をつくり、酸素により膨大なエネルギーを生産できるようになった生命が多細胞生物などのあらたな「複雑化」の道のりを歩むことになります。

 

●前編執筆にあたって


 前編では、過去の物語を「ミクロ・マクロ・ネットワーク」のモデルの視点で再編集することにより、

 ・「ミクロ・マクロ・ネットワーク」の営みを理解する

 ・「韻」・「リズム」を自分なりに体感する

ことを狙っています。脳内に未来を読み解くための「イメージ」を構築するためです。

 全部を読まなければ理解できないというわけではないので、気になったテーマについて参考書籍を深掘りし、広げてみるというのも良いかと思います。

 

 前編を執筆するにあたって同じリズムで理解するため、以下を執筆方針としています。

 ・縦横ネットワークを記述

 部分(ミクロ)の相互作用(コミュニケーション)、それによって生じたマクロな実体・事象、それを発生させた環境条件や環境変化(ストレス)について時間軸のシナリオ、それが次の時代に与える影響を記述。

 ・冗長な表現を避ける

 「~と思う、考える」「~と言われている」「~という仮説がある」といった表現を排除。

(大抵は、解明困難な事象をテーマにしているので、過去に遡るほど仮説の度合いが強くなる)

 ・独立したコンテンツ

 把握しやすいように時間軸に沿って記述するが、どの順序で読んでも良いように1000文字前後の単位で完結。


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佐藤基

Author:佐藤基
『フューチャー・リテラシー -- 過去・現在・未来、複雑系の未来を読み解く』
を執筆中。

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