fc2ブログ

集団の巨大化とネットワークの共進化

<ポイント>ヒトは,さまざまな文化とコミュニケーションの相互作用を複雑化させながら集団の規模を拡大し続ける性質をもち,それゆえ生じる必要と必然からサイクルを回し続ける。「定住化の罠」にとらわれた農民たちが礎となり「貧者の農耕サイクル」を繰り返して土地と人口を拡大する。集落を守るための「軍事力」,集団内をまとめ運営するための統率者と官僚組織,職人などの生産しない専門職を農業プラットフォームの上にのせ,法や税と宗教を整備し,技術を発展させ,交通ネットワークと情報貨幣ネットワークにより「情報」と「モノ」を循環させる集団が力を得て,周囲を飲み込んで規模拡大のサイクルを回してゆく。
________________________________________

1.1万年前になぜ農耕民が誕生したのか

小規模な狩猟採集民が農耕生活に移行し人口を巨大化していったのは,気候変動などにより定住生活に誘われそこからぬけだせなくなった「定住化の罠」にはまったためだった。

●気候変動と農耕コミュニティの形成【豊かな狩猟採集民】

1万5000年前までのヒトは,10~20人程度の小集団で獲物を追って移動する狩猟採集により生活していた。

最終氷期の1万4000年前頃,気候が湿潤になるにつれて,森や海・河川・湖が近く天然の動植物が豊富な地域に定住し,周囲の獲物と植物を採集するだけで十分な食料が手に入るゆたかで安定した定住型の狩猟採集生活を選択する集落が発生する

定住狩猟採集生活のメリット: 
・老人が置いていかれることがない 
・安全に出産できる 
・大きく専門的な道具を利用できる 
・食料を貯蔵できる

定住により食料を安定して確保でき,より多くの子供を養い,老人と子供の死亡率が減ることにより急激に人口が増えていく。おなじころナイル川流域や中東各地で栄養が豊富で大量に収穫できる野生の穀類=小麦が自生するようになり,定住生活との相乗効果によりさらに人口を増やす。やがて乾燥化により砂漠が広がり,麦の自生地を目指してますます狩猟採集民が集まるようになる。

●定住化の罠

1万3000年前ヴュルム氷期が終った直後に,北半球の氷床の溶解などにより亜氷期が発生する。人口過剰と天然資源の減少による食糧難という問題に直面した定住型の狩猟採集民は,すでに移動による狩猟採集のノウハウを失っていた。そして,穀物などの効率の良い植物の収穫量を増やす工夫に成功した集団=農耕民だけが生き残る

農耕民たちは栽培に有利な穀物や豆類を選別して収穫を増やし,それにともなって農耕民の人口を増し,栽培可能な地域を拡大していく。

1万1500年前,再び温暖化に転じると収穫量が増加して,人口増加に拍車がかかる。以降,農耕民はぬけだせない「貧者の農耕サイクル」を何千年ものあいだ繰り返すこととなる。

貧者の農耕サイクル: ①~④の繰り返し
①技術の改良による人口増加 
②人口過密にともなうギリギリの食生活 
③土地の荒廃による飢饉や病による人口減少 
④足りない労働力を増やすための人口増加

●「肥沃な三日月地帯」の形成と集落の巨大化

紀元前1万年前,後にメソポタミア文明のプラットフォームとなる「肥沃な三日月地帯」を形成する。

利便性の高い場所にヒトが集まり人口密度が高くなると,周囲との争いが頻発するようになる。そして周囲の狩猟採集民を追い出し,武装した盗賊から集落を守るための「軍事力」が必要となる。

大きな集団ほどより大きな「軍事力」を養うことができることから,しだいに集団の規模が大きくなっていく。集団の規模が大きくなると,集団内のもめごとをまとめ運営するための統率者と官僚組織=政治エリートが発生する。
やがて統率者と官僚組織が支配する仕組みを構築し,生産した食料を管理し,税金を課し,軍隊を動かすようになる。集団が都市となり巨大化するにつれて,それをささえる生産プラットフォームの治水・灌漑などの技術発展をうながし,それがさらなる集団の巨大化をすすめる。

農耕生産プラットフォームの上に自身では生産しない専門職をのせた集団が,周囲をとりこむ巨大化のサイクルを回してゆく

2.集落間の生存競争と専門分業ネットワーク


ヒトはコミュニケーションによりつながり,分業して助け合い仕事を効率化するコミュニティ=分業ネットワークの形成を生存戦略とする。


仕事が複雑化するにつれて分業がすすみ,コミュニケーションの技術と文化を編みだし,周囲の統合と専門分業のリズムをきざみながら巨大化してゆく。

●家族社会の形成 :440万年前~

無毛の顔と白目により表情をゆたかにして感情と情愛を交換するコミュニケーションにより,育児と採集を分業して助けあう家族を形成する。

●草原への進出と集団防衛 :370万年前~

やがて草原に進出したヒトは,複数の家族が集まって10人~数十人の集団で行動することにより,肉食獣などの危険から身を守り,生存をおびやかす出来事や攻撃に対応する。危険を知らせ協調して動くための発声が,連携して集団を守るために使われる。

●狩猟採集生活と部落 :180万年前~

狩猟採集生活が発達すると,長距離を走って獲物を追い詰めるための役割分担,木の実や根を集め,子を育て,食料を加工するなどの分業が組織化されて25~60人程度の血縁の集落をつくるようになる。

調停をおこなう長,火の保持,老人による知の口伝など男女の性別による水平分業と世代ごとの垂直分業によって構造化した集団は,ヒトの多様性を生かす互助的な組織をつくる。集団の規模が大きくなるにつれてより複雑な情報を交換するようになり,徐々に原始的な言葉と宗教が構築されていく

●農耕生活と集落間の生存競争 :1万年前~

農耕生活によって土地と人口密度を広げ食料を保存・貯蔵するようになると,略奪者や利害・思想の異なる近隣の集落との争いが頻発するようになる。相互不信が不安をうみ,安定をもとめる意識が約束事(法)を守らせる権力への従属をうむ。

●専門分業が集落を巨大化する

集落どうしの争い=集落を単位とする競争となり,より巨大で強力なものが他を飲み込み,パワーの均衡がとれるまで争いが続く。組織内の運用,外に向けた軍事力をより整えた集落が生存競争で生き残る

巨大集落を継続して運用するための条件:
・法と政治による組織運営 
・宗教による意識の統一,侵略戦争の大義名分の共有 
・効率的な分業 
・戦闘能力の強化・維持 
・食料生産プラットフォーム
 ➡非食料生産者を養う大多数の食料生産者と税の仕組み

大きな集落は周囲に征服戦争をしかけることによりさらに巨大化し,小規模な集落はより大きな集落にのみ込まれていく。

集団の規模が大きくなるにつれて,法を守らせるための首長,文字により組織を運用する書記などの官僚,征服戦争に宗教的な正当性を与える僧侶,征服・防衛をになう軍人,武器・防具などの製造技術を開発する加工職人などの食料生産に従事しない新たな職業に専門分業していく

貯蔵・蓄積された食料を非生産者たちに再分配する税収の仕組みをつくり,それを管理・支配するものに権力を与える。組織を管理する権力は軍事力をあやつりさらに権力を増す。

税収の予測や計算,予算の計画や執行のための「計数する言葉」,神を代弁する「神の言葉」,軍人に対する指令などの「戦の言葉」を記録・保存する「文字」が誕生する。職業の専門分業は新たな「語彙」とコミュニケーション手段と文化をつくり,複雑化する「言葉」の交換がさらなる職業の細分化を促進する

部族社会は,他の部族社会を征服・併合して首長社会となり,やがて国家,帝国へと巨大化してゆく。

3.古代都市を循環させる情報貨幣ネットワーク

集落から古代都市へと人口を広げたとき,人々の分業をつないだのは言葉や文字によるコミュニケーション,そして新たな収穫の分配の仕組みだった。

●集落の拡大と食糧の分配

ヒトが狩猟採集を家族から集落で協力しておこなうようになったとき,家族のために持ち帰る獲物は集落の共有するものとなる。やがて農耕生活により集落の規模が大きくなり分業が広がるようになると,首長が調停者となり作物を集め再配分する習慣,争いを避け友好を深めるための部族間での贈り物を授受する習慣がうまれる。

●都市国家をささえる情報貨幣ネットワーク

貨幣(金属,穀物,家畜,貝など)の用途は4つで説明されるが,時代や地域によりその比重は変化する。

貨幣の用途:
1)支払い
 債務の決済,税の支払い
2)保存・蓄積
 支払いの遅延,財力を示威,予備
3)尺度基準
 財・モノの数値化,共通に利用できる量的基準
4)交換
 モノと交換できることを保証

●古代エジプトの金

紀元前3000年,古代エジプトは世界の金産出の中心だったが「金は太陽神の肉体・生命のシンボル」であり,不滅の神々の象徴だった。王宮,神殿,神像,神の化身であるファラオの装身具,衣装,王座が金でおおわれ,金の蓄積が権威の象徴となる。やがてリング型の金がアジアとの交易に使われるようになるが,金貨として流通することはない

●古代都市の交易

紀元前3300年,ウルク都市国家群が陸路・海路を使ってインダスとの交易をはじめる。古代都市間の交易は商業的な利益をもとめるものではなく政治的な贈り物の物々交換であり,王により俸給で雇われた商人(後にタムカルムと呼ばれる身分型の交易者)が商取引を担当する

銅・銀・穀物が物々交換を仲介する尺度基準として利用され,特に価値が変化しにくい銀が遠隔交易で重宝される。宝石・装飾品のほかに木,石,金属(銅,錫,鉄)を受けとり,毛織物・油をおくる。

●古代都市の貨幣管理

ウルク都市国家群の各都市では王と神殿が銀を貯蔵し,貸借関係の記録を管理し,銀の重量基準により商品の価値,罰金,利子率,賃金を公示する。周辺地域から輸入した銀は都市内に流通することはなく,税金・関税・貢納・罰金・利子の支払いにあてられ,王・貴族・神殿によって消費・貯蔵される

●古代都市と市民生活

古代都市では首長・官僚・神殿が都市周辺の農民や都市内の職人から農業生産物・手工業製品を税・貢ぎ物として集め,職人や農民にその階級や働きに応じて生活必需品を再配分する。市民のための市,貨幣は存在しない

●自給自足する農耕民

都市をささえる農耕民は,その誕生から産業革命までのあいだ自給自足であり,税の支払い,馬・牛を含む道具の購入,借用,罰金のために作物を貨幣に交換して支払う。

●最初の硬貨

紀元前650年ごろ,貨幣を最初につくったリュディアのギュゲス王は,銀の計量のわずらわしさをなくすため金銀の自然合金エレクトロン硬貨をつくり,その携帯の容易性と保存性から兵士への支払いのために使う。兵士は硬貨を自身の生活のために使い,結果,硬貨は交換のためにも使われはじめる。

古代都市における貨幣は,遠隔交易における尺度基準,権力者の示威,税や兵への支払い代替するための道具,各地域の異なる政治・文明・文化とモノの価値基準の翻訳手段,言葉,文字などと同様のシンボル=情報であり,情報貨幣ネットワークの上に古代都市国内の分業,都市・国家間の分業を循環する血液であった

やがて,硬貨の発明が労働を価値に置換して蓄積し,時空間に広がる情報貨幣ネットワークの上で利益をうむ手段となるとき,市場,両替商の信用,硬貨の発行,貨幣の商品化による錬金術を次々と編み出すこととなる。

4.交通ネットワークとともに発展する都市

ヒトはモノと情報(知恵)を交換することにより分業する社会を形成する。ヒト,モノ,情報(知恵)の距離を短縮するインフラの発展とともに,社会構造は複雑化し,より高度な交換ネットワークを構築する。

●都市を循環させる「道」,情報通信のための「道」

農耕をきっかけとして,都市を中心としてヒト・モノ・情報(知恵)が交流する社会が構築される

官僚,軍人,職人そして彼らの食料が都市に集まる。都市内部の通路が市民の生活を循環させ,都市周辺地域からは農作物,木材,鉱物や税を徴収するための「道」が都市に向けてのびる。より遠くからより早く運搬するために家畜を使い車輪を開発し,「道路網の拡張と輸送技術の改良」というサイクルを繰り返して都市が巨大化していく

都市は近隣の都市から襲われる驚異に備えるための軍隊を保持し,戦争により周囲の都市を併合する必要にせまられる。生き残りをかけた都市は,道路網により物資を集めるだけでなく,すばやく情報をえるための「道」をつくる

紀元前6世紀ペルシア帝国は,王の命令と周囲からの報告を伝える通信ネットワークとして幹線道路「王の道」を整備した。土木工事により道を整え,馬を駅伝制によりすばやく移動させる最新の通信ネットワークだ。整備した「道」は都市周辺のヒト・モノの輸送も活性化する。そして,「道」を整え,ヒト・モノ・情報(知恵)の輸送技術を発展させた都市が周囲の都市を圧倒する

ユーラシア大陸の河川沿いに分散していた古代の農耕都市は,やがて4つの巨大帝国(ローマ,パルティア,クシャーナ,漢)に統合される。帝国内ではさらに道路網の整備がすすめられ,情報(知恵)を集めて治金や輸送の技術を開発し,統治の潤滑剤となる貨幣制度を広め,王と官僚のためにモノの流通を活発化していく。

●王が財宝を輸入するための交易路:シルクロード

中国,中東,ヨーロッパの巨大都市のあいだには,4000kmをこえる広大な草原地帯に遊牧民の騎馬国家が広がり,遠距離交易を妨げていた。

転換点となったのは,漢王朝の武帝(紀元前141年~紀元前87年)が派遣した調査部隊からの報告だった。ヨーロッパに向けて絹や鉄などを返礼品として輸出するだけで,貴重な金やガラス細工,美術品などの財宝が手にはいるというのだ。武帝は,財宝を手にいれるために,漢王朝とヨーロッパのあいだにある36の遊牧民都市国家と属国関係を結び,ラクダによるオアシスの移動経路=シルクロードをつなげる。途中経路のインドやアラビアで入手できる香辛料をヨーロッパに返礼品としておくり,遊牧民の所有する馬を漢王朝におくる。

4000km以上の距離を数年がかりで移動する交易は危険をともない,生活のための交易は割にあわず,王や大富豪,官僚たちが力を得るための宝物や贅沢品,原材料を手にいれるために交易が行われる。帝国をつなぐシルクロードによる疎なコミュニケーションは,徐々に文化,技術,宗教,そして病を伝搬していく。

やがて「オアシスの道」は草原と海に広がり,アフリカ大陸,ヨーロッパ,アジアを結ぶ複数のルートに広がっていく。

西暦100年ごろの陸海の交易ルート:
1)オアシスの道: シルクロード,乾燥地帯に連なるオアシス都市を結ぶルート
2)草原の道: モンゴル高原から西へカザフ草原,アラル海,カスピ海を通って黒海へ達するルート
3)海の道: 紅海・アラビア海ルート,地中海・インド洋ルート

●王権のためのグローバル交易とローカル・ネットワークに集約される国内産業

1300年以降,東ヨーロッパから中東にひろがるオスマン帝国によりインド洋航路を閉ざされ,中規模の国家が激しい闘いを繰り返していたヨーロッパ諸国は大西洋へと目を向ける。

1482年,ポルトガルは西アフリカ海岸に要塞をきずき,マリ帝国(西アフリカ)との交易を掌握,金,象牙,胡椒,奴隷と織物,武器を交換,砂糖のプランテーションを展開して突出した力をつける。1490年に探検家コロンブスがアメリカ大陸を発見,1498年にヴァスコ・ダ・ガマがインドに到達,1522年にマゼラン隊が世界周航を達成したことをきっかけとしてヨーロッパは世界初のグローバルな交易ネットワークを構築する

産業革命までのグローバル交易は,王権を維持し軍隊と土地を広げるために行われる。重商主義など,力のある国が輸出を輸入よりも多くするために高い関税により輸入制限をかけ,武力により不均衡貿易を強要するなど極端な貿易黒字を目指していた

この時期のグローバル交易は未熟だが,後のグローバリゼーションをささえる経済的な土台を構築する。

経済的な土台の構築:
・帆船による遠洋交易,航海術,砂糖と奴隷の三角貿易
・イスラムの商習慣,数学,地図作成
・製鉄と鋼の生産技術,活版印刷,農業技術
・火薬などの中国の先進的なイノベーション
・銀行,金融,市場

1700年にいたっても,海上の輸送は風力,陸の輸送は牛や馬を利用し搬送に多くの時間がかかることから,生産と市場は強く消費と結びつけられ都市とその周辺から形成されるローカル・ネットワークにヒト・モノ・情報(知恵)が集約されていた

________________________________________
【参考書籍】
[1] デヴィッド・クリスチャン, シンシア・ストークス・ブラウン, クレイグ・ベンジャミン(2016), "ビッグヒストリー われわれはどこから来て、どこへ行くのか :宇宙開闢から138億年の「人間」史", 長沼 毅監, 石井克弥, 竹田純子, 中川泉訳, 明石書店
[2] デヴィッド・クリスチャン監(2017), "ビッグヒストリー大図鑑 :宇宙と人類 138億年の物語", 秋山淑子, 竹田純子, 中川泉, 森富美子訳, 河出書房新社
[3] 松岡正剛(1996), "増補 情報の歴史", NTT出版
[4] ジャレド・ダイアモンド(2000), "銃・病原菌・鉄",倉骨彰訳 , 草思社
[5]青柳正規(2009), "人類文明の黎明と暮れ方", 講談社
[6]トーマス・ホッブズ(1970), "リヴァイアサン", 水田洋訳, 岩波文庫
[7] 湯浅赳男(1988), "文明の「血液」 :貨幣から見た世界史", 新評論
[8] ジョナサン・ウイリアムズ(1998), "図説 お金の歴史全書", 桂川潤訳, 東洋書林
[9] 吉沢英成(1994), "貨幣と象徴 :経済社会の原型を求めて", 筑摩書房[10] フェルナン・ブローデル(1985), "交換のはたらき --物質文明・経済・資本主義15-18世紀", 村上光彦訳, みすず書房
[11] リチャード・ボールドウィン(2018), "世界経済 大いなる収斂 :ITがもたらす新次元のグローバリゼーション", 遠藤直美訳, 日本経済新聞出版社[12] 宮崎正勝(2002), "モノの世界史 --刻み込まれた人類の歩み", 原書房

tag : フューチャーリテラシ,複雑系,ミクロ・マクロ・ネットワーク,社会,経済,産業革命,インフラグローバル交易,

経済危機に適応する資本主義社会

 アダム・スミスに始まった資本主義の時代を、大雑把に概観してみる。資本主義の歴史は、それをコントロールしようとする国の政策と、失敗、失敗に対する処方箋の繰り返しとなる。

●資本主義のベースをつくった

 :アダム・スミス「富国論」


 産業革命直後、重商主義の処方箋として「国を富ませる」仕組みを提案したのが、アダム・スミス「富国論(1776年)」だ。資本主義経済の出発点であり、以降の政策・思想のベースとなる。

「富国論」の与えた影響:
 ・自由競争による資源の再配分を基本とする
  国が手をださず、自由に競争すれば結果的に資源が最適に配分される
 ・「見えざる手」
  市場=マーケットで、個々人が利益を求めて利己的に行動しても、見えざる手によって導かれ、結果として経済がうまくまわっていく(需要と供給が交わったところで決まる)
 ・分業によって生産性を高められる
 ・国は最低限の公共施策を行えばいい
  国防、公共施設の整備(道路、災害対策など)、司法行政
 
 例1:賃金について
  企業が利益を上げるためには賃金を徹底的に下げたいが、労働者はより高い賃金の会社を選ぶので、需要と供給の折り合うところで賃金は決まる。

 例2:産業擁護は競争力を失うだけ
  農作物輸入への高い関税、輸出を行う企業への補助金は競争力を失わせる

 これを全面的に信用して運用すると、企業の独占や、大小のバブルが弾けてひどい目にあうのだが、その反省の歴史が経済学と政策の歴史となる。が、概ね「富国論」という理想をベースに、国によるコントロールの比重を調整した結果が現代に至る。各国で同じ施策におちついくかというと、比重のかけかたも様々という状況だ。


●資本主義の問題点と社会主義国の台頭

 :マルクス「資本論」


 「富国論」出版から91年後、工業先進国(イギリス、ドイツ、アメリカ)が資本主義でしのぎを削り、大量生産による供給過剰で10年単位で恐慌が発生し、そのたびに失業者が街にあふれ、安い賃金で長時間勤務を強要する超ブラック企業が生き残るというスパイラルにおちいる。行き過ぎた資本主義がどのようになるのかを示したのが、マルクス「資本論(1867年)」だ。

「資本論」の示した予言:
 経済の仕組み
  - 沢山の労働者が並行して分業すると効率がよく、競争を生み、生産効率が良くなる
  - お金の価値が下がると商品価値があがる、インフレとデフレ
 ・企業の激しい競争により
  - 効率化を求めて大規模化し、企業の数が減って、市場を独占する
  - 生産性を上げるために機械化し、失業者が増える
  - そしてワーキングプアが増える
   - 社会によって強制されない限り、労働者の健康と寿命に配慮することはない
   - 低賃金となり、少数精鋭だけが働き、労働時間が増える
  - 格差社会を生む
 ・資本主義は崩壊し、民主主義を獲得する
  独占と労働条件の悪化により、労働者革命が起こり、資本家の財産が剥奪される。
  

 この後、マルクスに影響を受けたロシア革命(1917年)により資本家をうちたおしてソビエト連邦共和国が、それに続き東欧諸国、中華人民共和国(1949年)が社会主義国となる。資本主義が成熟した後の革命でなかったため、後の社会主義崩壊につながったとも考えられている。
 資本主義各国は社会主義国が次々にできたことに危機感をもち、自国の労働者が革命を起こすのを恐れて、労働者の待遇を見直す政策をとるようになる。労働者の権利を守る法律の仕組みをつくり、規制を整備して、恐慌が起きないように失業者が減るように工夫する。


経済不況を救う「処方箋」

 :ケインズ「一般理論」


 1929年、資本主義各国が企業の自由競争にまかせた結果、アメリカで株の大暴落が起こり、それをきっかけに金融機関がつぎつぎに潰れる世界恐慌が発生する。金融機関相互のお金の流れが止まり、世界中が失業者で溢れる。各国は高い関税で輸入を差し止めて自国を守ろうとして世界の経済が止まり、やがて第二次世界大戦(1939-1945年)につながっていく。
 不況・恐慌への「処方箋」として書かれたのがケインズの「雇用、利子および貨幣の一般理論(1867年)」だ。その提案は、(今では当たり前となっているが)当時の常識をくつがえすもの衝撃を与える。

「一般理論」の処方箋(ケインズ・ショック): 
 ・前提:働きたくても働けない失業者がいる
 ・国が公共事業を投資して雇用を生み出す
  - 道路整備などの公共事業で、雇用が生まれるようなしくみをつくることで経済が回るようになる
  - 政府に資金がなければ赤字国債を発行してでも公共事業投資を優先する。そして、景気が良くなったときに、税金で赤字を返却すればいい。
  - 消費したいという欲求が高まれば、公共事業投資した数倍の経済効果が生まれる
 ・累進課税
  - 貯蓄を減らすように、お金持ちからより多くの税金をとる
 ・金利を下げる
  - 金利を下げて企業の新たな投資を増やすと、企業が新たな事業を始めるので雇用が増える
 ・「流動性の罠」
 金利をどんどん下げてほとんどゼロという状態にしても、企業の投資が伸びず、景気が回復しない状態となる可能性がある
 バブル崩壊後の日本
 ⇒グローバル社会では、国内に投資をせずに、海外投資にお金が流出してしまう

 これ以降、「大きな政府」とよばれる景気刺激策がとられるようになる。景気が悪くなると、景気対策として政府が赤字国債を発行し、公共事業などで支出を増やして経済を活性化させ、金利を下げて企業の投資を活性化させる。そして、累進課税と社会福祉で低所得の人たちにお金を回し、消費を活性化する。この逆の「国は景気が悪くなっても市場にまかせる」という政策は、「小さな政府」と呼ばれる。

ちなみにアメリカの政党政策は次のように分かれる。
・共和党: 小さな政府より(レーガン、ブッシュなど)
・民主党: 大きな政府より(クリントン、オバマなど)

 アメリカは、1929年当時は共和党で景気対策に積極的ではなかったが、民主党のルーズベルト大統領に代わり、ニューディール政策(1933年~)により大規模な公共事業を展開する。以降、20世紀初頭の交通網、電力網、通信網などのインフラ整備が雇用と需要と供給を生み、グローバル経済における競争力をつけて、工業先進国を高度成長時代の波へと乗せる。

 ケインズの処方箋にも課題があり、それが歪みとなって蓄積されていく。

ケインズ理論の副作用:
 ・インフレ傾向になる
 ・財政赤字が増え続ける
  政治家は人気を維持したい、「打ち出の小槌」を手放せず財政支出を止められなくなる
 ・公共投資の効果がなくなる
  建設会社が増えすぎて、定常状態となり、公共事業に支出しても効果がなくなってくる


●スタグフレーションと新自由主義
 :フリードマン「資本主義と自由」


 1970年代、変動相場制(1973年)、第一次オイルショック(1973年)、各企業がオフショアを模索し始めて資本主義が徐々に変わろうとしているとき。スタグフレーション(景気が後退しているのに物価が上昇)に苦しむアメリカ、福祉が充実する一方で国力が衰退したイギリスなどを背景に、ケインズは間違っているという考え=新自由主義が広まった。その処方箋となったのがフリードマン「資本主義と自由(1962年)」だ。背景にはサッチャーが傾倒したハイエクがいる。

新自由主義の処方箋:
 ・政府は国民の自由を尊重しよう
 ・マネタリズム
  世界の中を流れるお金の量さえコントロールしていれば経済はうまくいく
 ・政府がやるべきことは、国防と司法行政だけ
  - それでもやるべきことがあれば、地方自治体に任せたほうがいい
 ・こんなものいらない
  - 累進課税、今の社会保障制度、公的年金、輸出入制限、最低賃金
  - 民間の郵政事業禁止、公営道路
  - 各種規制(銀行、産業、産出、通信・放送)
 など

 すべてを実施すると、マルクスの時代にもどってしまいそうないきおいだ。それでも経済の閉塞状態を打開しようとしている資本主義国にとって、新自由主義の影響は大きい。サッチャー(1879年~)・レーガン(1981年~)革命、日本では中曽根内閣のNTT/JT(1985年)、JR(1987年)民営化、バブル(1990年)をはさんで橋本内閣の金融制度改革(1996年~)、小泉内閣の郵政民営化(2007年)や派遣労働の自由化(2003年)など政治に大きな変革をもたらした。


●リーマンショックと派遣切り


 2008年、アメリカの住宅バブルの崩壊とともにおきたサブプライム住宅ローン破綻にはじまり、それをもとにした派生商品の不安が金融機関相互のお金の流れを止め、投資会社のリーマン・ブラザースが経営破綻し、「小さな政府」をかかげる共和党政権がそれを救済しなかったために、さらに金融不安が広がり、世界を大混乱に陥れたリーマンショック。日本では、アメリカに製品を売れなくなった製造業が大規模な派遣切りを行う。小泉政権の派遣自由化により大量に雇用された派遣労働者が、大量の失業者となった。

 1970年代以降構築され続けた、非現実的な仮定のもとで演算する経済学が破綻した瞬間だった。そして恐慌に対処できるケインズが再び見直される。アダム・スミスからはじまった資本主義が大恐慌の教訓からケインズの「大きな政府」を生み、その安定が新自由主義による「小さな政府」の大改革を、行き過ぎた改革が再び恐慌を発生させケインズが見直される。寄せては返す波のように経済と政治がゆれ動く。

 そして現代。インターネットとともにグローバル経済がひろがり低所得国に製造拠点をうつし、Google、Amazonなどの国際IT産業が巨大化して国を単位として経済・政策を考えることが難しい時代となった。製造部門を引き受ける中国やインドが台頭し、先進諸国の製造部門が空洞化して貧富の格差が広がり、資本主義が終焉が叫ばれマルクスが再び見直される。国家が仮想化し、経済がバーチャル化する、我々は今、そんな時代の岐路に立っている

フューチャー・リテラシー:インデックス
交通・通信インフラとグローバル交易の共進化(後編):産業革命~現代

参考書籍:
[1] 池上彰(2013), "やさしい経済学1 :しくみがわかる", 日本経済新聞出版社
[2] 池上彰(2013), "やさしい経済学2 :ニュースがわかる", 日本経済新聞出版社
[3] 池上彰(2014), "世界を変えた10冊の本", 文藝春秋
[4] 池上彰(2017), "池上彰の講義の時間 高校生からわかる「資本論」", 集英社
[5]  J・M・ケインズ原著(1867), 山形浩生要約・翻訳(2015), "要約 ケインズ 雇用と利子とお金の一般理論", ポット出版

tag : フューチャーリテラシ,複雑系,メディア,未来,ミクロ・マクロ・ネットワーク,社会,経済

1万年前になぜ農耕民が誕生したのか

 小規模な狩猟採集民が農耕生活に移行し、人口を巨大化していったのは、気候変動などにより定住生活に誘われ、そこから抜け出せなくなった定住化と農耕の罠にはまったためだった。


●気候変動と農耕コミュニティの形成


【豊かな狩猟採集民】


 15000年前までのヒトは、020人程度の小集団で獲物を追って移動する狩猟採集により生活していた最終氷期の14000年前頃、気候が湿潤になるにつれて、森がそばにあり海・河川・湖が近く天然の動植物が豊富な地域に定住し、周囲の獲物と植物を採集するだけで十分な食料が手に入る豊かで安定した定住型の狩猟採集生活を選択する集落が発生する

 

定住生活のメリット:

 ・老人が置いていかれることがない

 ・安全に出産できる

 ・大きく専門的な道具を利用できる

 ・食料を貯蔵できる

 

 定住により、食料を安定して確保でき、より多くの子供を養い、老人と子供の死亡率が減り、急激に人口が増えていく。同時期に、ナイル流域や中東各地で栄養が豊富で短時間で大きな収穫が得られる野生の穀類=小麦が自生するようになり、定住生活との相乗効果によりさらに人口を増やす。やがて、サハラ・シリア・シナイが乾燥化し砂漠が広がり、パレスティナなどの麦自生地を目指してさらに狩猟採集民が集まることとなる。

 

【定住化の罠】


 13000年前ヴュルム氷期が終った直後に、北半球の氷床の溶解などにより亜氷期(ヤンガードリアス期)が発生する。人口過剰と天然資源の減少による食糧難という問題に直面した定住型の狩猟採集民はすでに移動による狩猟採集のノウハウを失っており、穀物などの効率の良い植物の収穫量を増やす工夫に成功した集団=農耕民だけが生き残る。農耕民は、栽培に有利な穀物や豆類を選別して育て、それが増え、収穫する農耕民の人口が増し、栽培可能な地域を広げるた。

 11500年前、再び温暖化に転じると収穫量が増加し、人口増加に拍車がかかる。以降、農耕民は、技術の改良による人口増加⇒人口過密に伴うギリギリの食生活⇒土地の荒廃による飢饉や病による人口減少⇒足りない労働力を増やすための人口増加、という抜け出せない貧しい生活サイクルを何千年ものあいだ繰り返すこととなる

 

【「肥沃な三日月地帯」の形成と集落の巨大化】


 紀元前1万年前に、後にメソポタミア文明を構築する「肥沃な三日月地帯」を形成する。

 

「肥沃な三日月地帯」のメリット:

 ・地中海性気候で、地形が起伏に富んでいるので野生種の種類が多い

 ・季節ごとの気候が変化に富んでいて、一年草の割合が多く、多様化している

 ・川が近く、低地で氾濫による栄養補給があり、灌漑ができる

 ・低地と高地のあいだで時期のずれた収穫ができる

 ・山羊、羊、豚など家畜化可能な哺乳類が豊富に生息する

 

 人口密度が高くなると周囲との争いが頻発するようになり、周囲の狩猟採集民を追い出し、武装した盗賊から集落を守るための「軍事力」が必要となる。大きな集団ほど、より大きな「軍事力」を養うことができることから、しだいに集団の規模が大きくなっていく。集団の規模が大きくなると、集団内のもめ事をまとめ、運営するための統率者と官僚組織=政治エリートが発生する。やがて統率者と官僚組織が支配する仕組みを構築し、生産した食料を管理し、税金を課し、軍隊を動かすようになる。集団が都市となり巨大化するにつれて、それをささえる生産プラットフォームの治水・灌漑などの技術発展をうながし、それがさらなる集団の巨大化を進める。

 農耕生産プラットフォームの上に、自身では生産しない専門職をのせた集団は、周囲を取り込む巨大化のサイクルを回してゆく


フューチャー・リテラシー:インデックス

ヒトと道具が紡ぐメタ進化 (future-seeds.net)


参考書籍:

[1] デヴィッド・クリスチャン, シンシア・ストークス・ブラウン, クレイグ・ベンジャミン(2016), "ビッグヒストリー われわれはどこから来て、どこへ行くのか :宇宙開闢から138億年の「人間」史", 長沼 毅監, 石井克弥, 竹田純子, 中川泉訳, 明石書店

[2] デイヴィッド・クリスチャン監(2017), "ビッグヒストリー大図鑑 :宇宙と人類 138億年の物語", 秋山淑子, 竹田純子, 中川泉, 森富美子訳, 河出書房新社 

[3] 松岡正剛(1996), "増補 情報の歴史", NTT出版

[4] ジャレド・ダイアモンド(2000), "銃・病原菌・鉄",倉骨彰訳 , 草思社

    - Jared Diamond(1997), "GUNS, GERMS, AND STEEL: The Fates of Human Societies", W.W.Norton & Company.


tag : フューチャーリテラシ,複雑系,メディア,ネット,未来,社会,ミクロ・マクロ・ネットワーク

プロフィール

佐藤基

Author:佐藤基
『フューチャー・リテラシー -- 過去・現在・未来、複雑系の未来を読み解く』
を執筆中。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
ブロとも一覧
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR