fc2ブログ

資本主義社会の誕生と行きづまり

<ポイント>資本主義社会の誕生から現代までを概観することにより,次の「革新的な変化」に向けたヒントを得る。わずか250年前,封建社会が下準備を終えたタイミングで崩壊しペストの流行が機械自動化に有利にはたらいて,イギリスを起点とする産業革命と資本主義が世界に広がる。交通・通信インフラの進化がヒト・モノ・情報(知恵)の交換を高速化して,国を超えて企業を断片化する分業ネットワークを構築する。アダム・スミスにはじまった資本主義経済は,不安定な仕組みをコントロールしようとする国の政策と処方を繰り返し,次の「革新的な変化」にバトンをわたすためのネットワーク・プラットフォームを構築する。


1.産業革命はなぜ18世紀にイギリスではじまったのか

上下水道や舗装道路など高度な技術を利用していた古代ローマが産業革命をおこさず,18世紀のイギリスでなぜ産業革命という急激な変化がおこったのか。

奴隷などの安価な労働力を有する国々(古代ローマや18世紀のヨーロッパ諸国)は機械による自動化という発想がなかった。一方,18世紀に世界の中心となったイギリスは「高賃金の労働者」と「低コストのエネルギー(石炭)」を保有していたため,蒸気機関などを使った機械による自動化のメリットがあり,後に産業革命と呼ばれる急激な発展をとげることとなる

●「革新的変化」モデルの視点

環境に適応すべくさまざまなネットワークを広げるうちに超えることのできない【巨大な壁】につきあたる。【巨大な壁】の内側でネットワークは集散,拡大,刈り込みを繰り返しながら,環境変化に適応するための【ネットワーク・プラットフォーム】を形成する。あるとき発生した【急激な変化】をきっかけとして,プラットフォームをベースにネットワークの形を変え,【突破口】をとらえていっきに【巨大な壁】をつきやぶり爆発的な速度で新たなネットワークを形成しはじめて革新的変化が爆発する。

画像
「革新的な変化」のモデル

【巨大な壁】,【ネットワー・プラットフォーム】,【急激な変化】,【突破口】という視点で「産業革命」をとらえなおす

●17世紀にたちはだかる【巨大な壁】

17世紀までのヒトは,その発展とともに集団の規模と居住区域を広げて国家を形成し,より肥沃な土地を手にいれるための陣取り合戦を繰り返していた。土地の分配を基盤とする封建社会にとっての【巨大な壁】は,居住し繁殖するために有利な土地に限りがあることだった

農業からはじまった人の集まりが,内外の相互作用と集散を繰り返しながら部族・首長社会から国家へと巨大化し,限られた資産である土地や金銀にモノの価値を代替させる封建社会と重商主義をうみだす

人口を増やし戦争により領土を広げる時代において土地を分配する仕組みとしての封建制度は,社会的な平穏をささえ,財産と社会的特権を保護し,世代を超えた大量の富の蓄積を可能とし,貨幣経済との連携によりさまざまなネットワーク・プラットフォームを形成する。

●【巨大な壁】の内側で広がる【ネットワーク・プラットフォーム】

〇大陸をつなぐ交通ネットワーク
アジアからヨーロッパまでの南北の交易を東西につなぐシルクロード。15世紀以降の大航海時代をささえた海の道。主要な交通路を軸に都市と街をつなぐ支線を広げ,文化や商品,情報が大陸を縦横にかけめぐる。

異なる思想や文化をもつ国々の技術に着想を得て発明・改良を繰り返すことにより,アジア・中東・ヨーロッパ各国の文化・技術は加速度的な進化をとげる。

15世紀半ばから17世紀までの大航海時代をむかえ,市場の巨大化とグローバル化に拍車がかかり,交通ネットワークは巨大な富を信用取引によってうみだすプラットフォームとしての役割をになうこととなる

そして18世紀,イギリスとオランダとのあいだで繰り返し行われた海上での覇権争いが,第四次英蘭戦争によりイギリスがトップにたつことで決着する。

〇商業ネットワークをささえる階層・分業化
商業ネットワークは,生産と消費をつなぎ,経済の原動力となり,刺激,活力,革新,発見,成長をうながして階層・分業化をすすめつつ商取引のネットワークを巨大化させていく。

1)大多数を占める自給自足,それをつなぐ行商人のネットワーク
自給自足の生活をおくる農民は物々交換を基本としており,1万年をへてなお貧困で余剰資産を蓄えることが困難だった。わずかに発生した余剰資産を貨幣と交換し,税の支払いや「市」での買いだしにあてる。

2)「市」を中心とする市場経済ネットワーク
町や都市における「市」を中心に,輸送,保管,けん引,各種商人,高利貸し,卸売りなど新たな階層・分業をうみだし,「市」は生成,消滅,再生を繰り返しながら市場経済ネットワークを広げていく

「市」は売手と買手の競争原理がはたらく経済ネットワークを形成し,市民の需要を満たし,都市を拡大し,より大きな需要をつくりあげていく。そして,イギリスにおける「高賃金化」が「国民市場」を活性化させる。

3)「大市」,取引所から広がった資本主義ネットワーク
資本家たちは大市や取引所に大量の資本を投入して,軍隊や大都市の巨大な食料需要を賄うことによって大きな利益を蓄積していく。

大航海時代のグローバル交易が,広範囲な情報や知識,債券操作の技術を駆使した投機的な資本主義経済ネットワークを構築する。市場の独占権を得た資本家たちは,投資がさらなる収益をうむ新たな市場,新たな仕組みを探し続け,産業革命を推進するパワーを蓄え続ける。新たな投資先の不在が,資本家たちにとっての【巨大な壁】となる

〇膨大な利益をうむ錬金術,情報貨幣ネットワーク
異なる商品価値を仲介する必要からうみだされた貨幣は,重商主義をへて交換を大規模化し,交易で得た富を蓄積することにより世代を超えた大資本をうみだす手段として活躍する。

商人間のリスク回避のための信用取引が,海洋取引の保険が,「オランダ東インド会社」にはじまる株式会社への投資が,アムステルダム銀行,イングランド銀行などの巨大銀行の利子が膨大な富をうみだす情報貨幣ネットワーク上での取引を加速する

やがて産業革命後の世界に,生産性への投資が新たな利益をうむ仕組みもたらすこととなる。

〇書籍による読み書き,計算能力の向上,科学革命
18世紀の産業革命をささえる数々の発明は,15世紀の活版印刷の発明にはじまる。書籍の普及は,情報を流通し,市民の教育(文字の読み書き,計算,技能教育)を推進するきっかけとなり,中産階級の増加,徒弟制度などとの相互作用により開発・発明家をうみだす下地をつくる。

産業革命直前の17世紀に,ケプラー,ガリレオ,ニュートンなど科学革命とも呼ばれる科学の大きな変革があった。ひとつの発見・発明は続く発見・発明に連鎖する。デカルトの機械論的思想(1637年)にはじまり,ゲーリケの真空ポンプ(1650年),ボイルの法則(1660年),ホイヘンスの火薬を使った往復エンジン(1660年)そしてついに鉱山での配水のためのニューコメンの蒸気機関(1710年)をうみだすにいたり,以降数々の蒸気機関の発明が世界を変える。

〇情報通信ネットワークハブとしてのコーヒーハウス
初期の情報メディアとして大きな役割をはたしたのが17世紀末のロンドンやオックスフォードに大量発生したコーヒーハウスだ
。さまざまな人々が集まり,オーナーの「好み」により商売,政治,生活,ファッション,貿易,船舶,文学,ゴシップなどなどあらゆる情報が集められて交換される。

コーヒーハウスでかわされた会話をメンバーが編集して活用し,産業革命の進展とともに保険会社,株式会社,政党政治,新聞,広告,電信ネットワークなどへと発展してゆく。

〇統合ネットワーク・プラットフォームの構築
分配の基盤となる土地に限界が生じてもなお,封建制度を維持するためには領土を広げる必要があった。各国は,報酬となる土地がないままに戦い続け疲弊しつつ,ネットワーク・プラットフォームを広げ,次の時代にバトンをわたすときをまつ。

領土の限界という【巨大な壁】の内側であがきながら,封建制度,重商主義を基盤として
 交通ネットワークが商業ネットワークをささえ,
  商業ネットワークが情報貨幣ネットワークをささえ,
   初期の情報ネットワークが他のネットワークをつなぐ。

ネットワークどうしが相互作用しながら拡大して,産業革命をささえるネットワーク・プラットフォームを準備する

●産業革命の引き金となる黒死病,突破口となるイギリス

〇黒死病による人口減少
黒死病の蔓延はヨーロッパ人口の1/3を死に至らしめる。ヨーロッパの多くの地域では15世紀までに人口を回復しはじめていたが,イギリスでは16世紀半ばまできわめて低い状態を維持し続ける

〇人口減少によるロンドンの活性化と高賃金化
黒死病後にうみだされたイギリスの穀物用地の空き地をもとに,広大で肥沃な牧草地へと転換し,健康で毛の長い羊=新種毛織物をうみだす。17世紀ロンドンは,新種毛織物の海外航路での輸出により活気づき,高賃金にわく

黒死病で広がる空き地を集め農地を拡大し濃奴からヨーマン(独立自営農民)へと転身するなど,高賃金化の波が農地へもおしよせる。

〇中産階級(ブルジョワジー)の拡大と封建社会の崩壊
ロンドンの活性化が,貴族や大資本家たちと雇われ農民を含む労働者たちとの中間で大小の富を蓄積する中産階級(ブルジョワジー)を増加させる。彼らが主体となって,イギリスの名誉革命をおこして立憲民主主義を成立させる原動力となり,民主主義が「自由な取引」をおこなう資本主義をけん引する

〇安価なエネルギー:石炭への移行
都市の急激な拡大は森林の急激な消費をうながし,イギリスにおける木炭が高騰して15世紀には石炭価格の2倍となる。17世紀までにロンドンを中心とするエネルギー需要が激増し,急増する新築家屋における一般家庭のエネルギー源を石炭に転換していく。豊富な石炭への転換は,炭鉱からの無尽蔵で安価な燃料の供給を可能とし,イギリスにおけるエネルギーを極めて安価なものとする

●すべてが18世紀のイギリスに集約して爆発する

ペストという【急激な変化】【巨大な壁】をつきやぶるきっかけとなる。ペストからの復旧の遅れがイギリスの高賃金と石炭の低コスト化をうみ,それに続く自動機械の発明と導入のメリットを高め,自動機械による大量生産が資本家たちの新たな投資先となり,そして海上の覇権争いを制したイギリスが突破口】となってそれまでに構築したネットワーク・プラットフォームを統合して「産業革命」を世界に広げていく

「産業革命」後の主な変化:
1)機械化による工業自動化
 大量生産と資本主義経済➡資本の集中・格差拡大
2)価値が金からマネーへ
 情報金融商品の活性化➡物理的なマネーの仮想化➡繰り返す金融恐慌
3)世界規模の交通ネットワーク
 陸海・運河交通ネットワーク ➡飛行機による航空交通ネットワーク
4)グローバル資本主義
5)中央集権トップダウン型の会社組織
6)論理偏重思考の拡大

2.交通・通信インフラの発展とプロセス分業

産業革命以降,陸海の交通ネットワークが一変する。蒸気船が世界各地を結び,陸地を蒸気機関車が走り河川運河を蒸気船がつなぐことにより,大量・高速に運搬できる地球規模の物流と分業が加速する。

●物流の加速とグローバル交易による消費と生産の分離

物流の加速が国を超えるグローバル・ネットワークで生産地と消費地をつなげ,モノの生産を国単位で分業可能とする

生産が現地の消費に縛られないため,ある国が他の国よりも安く生産できれば優位となる。国を単位とする貿易競争により「得意なことのみをして,それ以外は貿易する」という棲み分けによる分業が加速する。特に製造規模の拡大=大量生産とノウハウや投資の積み重ねが生産性を高め,突出した収益を得られる製造業で先頭をきる国が他を圧倒するようになる。

工業先進国の所得拡大サイクル: ①~④の繰り返し
①工業先進国が工業の機械化をすすめる
②工業先進国の所得が大きくのびる
③工業先進国の産業が工業都市に集積する

 ➡生産効率を高め,モノの運搬が効率化され,
  ➡生産品のコストが低下する
 ➡コミュニケーションコストを削減し,
  ➡情報(知恵)を交換する場がつくられ,
   ➡新しいテクノロジーの誕生をうながす
 ➡都市へのヒトと企業の集約を促進し,巨大都市を形成していく
④企業の規模が拡大しより複雑な工程を取りいれやすくなる

激しい国際競争が勝者と敗者に分け,おなじ市場での企業の数を減じ,勝者が統合・吸収して規模を拡大して生産効率が高くなり国際的な格差を広げていく

●通信インフラとプロセス分業

蒸気機関をベースとする郵便事業がはじまり(1840年/英),電話が開通(1880年/米)すると国内(外)の情報(知恵)の移動距離がいっきに縮まる。そしてプロセスごとに専門特化して生産効率を高め,企業・組織間でのプロセス(設計,エンジニアリング,管理,品質管理,製造,物流など)分業がすすむ

1972年,Faxが国際規格とともに公衆回線を利用して広く利用されるようになると,情報を扱う部門の業務スピードがいっきに加速して時分割で複数のタスクを処理するようになる

1970年代,国際競争による企業の統合と生産性の効率化によるコストカットを限界まですすめた工業先進国企業は,通信インフラを利用した製造部門の一部を労働力コストが安い国(中国,インドなど)への分業=オフショアを模索する

1989年,商用インターネット(米)が情報(知恵)の循環を加速すると,調整コストが低下して製造業にオフショアの波が大きく広がる

オフショアによる新興国の所得拡大サイクル: ①~⑥の繰り返し
①新興国が工業先進国のグローバル・バリューチェーンに組み込まれる
 労働力が安く,治安,工業先進国との距離,インフラ整備など有利な条件をもつ国(中国,インド,ポーランドなど)が新興国となる
②国を単位とする格差がうまれる
 工業先進国からの情報(知恵)=ノウハウの移転により新興国はしだいに低賃金・高技術へとシフトし,とりのこされた低賃金・低技術国はグローバル・バリューチェーンに参加できなくなる
③新興国にノウハウが集まり生産拠点を集中的に拡大する
④急速に工業化した新興国の成長が加速する
⑤工業先進国の生産部門が空洞化する
⑥食料・原料輸出国が成長する

 新興国の急成長にともない,食料,資源の需要が高まる

近年までの国家の社会・経済・投資戦略は,そこに立地する企業を単位として計画・実行することができた。オフショアの拡大により企業戦略は必ずしも国の利益を優先するとは限らず,業務プロセスが分断・断片化して従業員が世界に散逸・分業して再編集され,国家戦略は断片化したプロセスを単位とするものへと複雑化していく。

交通・通信インフラの進化がヒト・モノ・情報(知恵)の交換を高速化して,作業を断片化,専門特化した分業ネットワークを構築する。分業ネットワークは,集落,国家,世界の空間と時間へと広がり,断片化したプロセスと労働を動的に再構築する。


ヒトの移動距離を短縮する次世代のインフラの進化は,ヒトの社会組織をより複雑な断片化・分業と再編集へと導いてゆく。


3.経済危機に適応変化し続ける資本主義経済

アダム・スミスにはじまった資本主義の歴史は,その不安定な仕組みをコントロールしようとする国の政策と,失敗に対する処方箋をつくることの繰り返しとして描かれる。

●資本主義のベースをつくった:アダム・スミス「富国論」

産業革命直後,重商主義の処方箋として「国を富ませる」仕組みを提案したのがアダム・スミス「富国論(1776年)」だ。資本主義経済の出発点であり,以降の政策・思想のベースとなる。

「富国論」の与えた影響:
1)自由競争による資源の再配分を基本とする

 国が手をださず,自由に競争すれば結果的に資源が最適に配分される
2)「見えざる手」
 市場=マーケットで個々人が利益をもとめて利己的に行動しても,見えざる手によって導かれて結果として経済がうまくまわっていく(需要と供給が交わったところで決まる)
3)分業によって生産性を高められる
4)国は最低限の公共施策をおこなえばいい

 国防,公共施設の整備(道路,災害対策など),司法行政

例1:適正な賃金の決定
企業が利益を上げるためには賃金を徹底的に下げたいが,労働者はより高い賃金の会社を選ぶので需要と供給の折りあうところで賃金が決定される。

例2:産業擁護は競争力を失うだけ
農作物輸入への高い関税,輸出をおこなう企業への補助金は競争力を失わせる。

「無限」空間を前提とした近代経済がはじまる。これを全面的に信用して運用すると,企業の独占や,大小のバブルが弾けてひどい目にあうのだが,その反省の歴史が経済学と政策の歴史となる。が,おおむね「富国論」という理想をベースに,国によるコントロール比重の調整を繰り返して現代にいたる。各国でおなじ施策におちつくかというと,長い年月をかけてなお比重のかけかたもさまざまだ。

●資本主義の課題と社会主義国の台頭:マルクス「資本論」

「富国論」の出版から91年後,工業先進国(イギリス,ドイツ,アメリカ)が資本主義でしのぎを削り,大量生産による供給過剰で10年単位で恐慌が発生し,そのたびに失業者が街にあふれ安い賃金で長時間勤務を強要する超ブラック企業が生き残るというスパイラルにおちいる。行き過ぎた資本主義の未来を指摘したのが,マルクス「資本論(1867年)」だ

「資本論」の示した「資本主義」の未来:
前提:経済の仕組み

・沢山の労働者が並行して分業すると効率がよく,競争をうみ,生産効率が良くなる
・お金の価値が下がると商品価値があがる➡インフレとデフレの発生
1)企業の激しい競争により格差が拡大する
・効率化をもとめて大規模化し,企業の数が減って市場を独占する
・生産性を上げるために機械化し,失業者が増える
・そしてワーキングプアが増える
・社会によって強制されない限り,労働者の健康と寿命に配慮しない
・低賃金となり,少数精鋭だけが働き労働時間が増える
・格差社会をうむ
2)資本主義は崩壊し,民主主義を獲得する
・独占と労働条件の悪化により労働者革命がおこり,資本家の財産が剥奪される。

この後,マルクスに影響を受けたロシア革命(1917年)により資本家をうちたおしてソビエト連邦共和国が,それに続き東欧諸国,中華人民共和国(1949年)が社会主義国となる。資本主義が成熟した後の革命でなかったため,後の社会主義崩壊につながったとも考えられている。

資本主義各国は社会主義国が次々にできたことに危機感をもち,自国の労働者が革命をおこすのを恐れて,労働者の待遇を見直す政策をとるようになる。労働者の権利を守る法律の仕組みをつくり,規制を整備して,恐慌がおきないように失業者を減らすための工夫をする。

●経済不況を救う「処方箋」:ケインズ「一般理論」

1929年,資本主義各国が企業の自由競争にまかせた結果,アメリカで株の大暴落がおこり金融機関がつぎつぎに倒産する世界恐慌が発生する。金融機関相互のお金の流れが止まり,世界中が失業者であふれる。各国は高い関税で輸入を差し止めて自国を守ろうとして世界の経済が止まり,やがて第二次世界大戦(1939-1945年)につながっていく。

不況・恐慌への「処方箋」として書かれたのがケインズの「雇用,利子および貨幣の一般理論(1867年)」だ。その提案は,(今では当たり前となっているが)当時の常識をくつがえす衝撃を与える。

「一般理論」の処方箋(ケインズ・ショック): 
前提:働きたくても働けない失業者がいる
1)国が公共事業を投資して雇用をうみ出す

・道路整備などの公共事業で,雇用がうまれるようなしくみをつくることで経済が循環するようになる
・政府に資金がなければ赤字国債を発行してでも公共事業投資を優先し,景気が良くなったときに税金で赤字を返却すればいい
・消費したいという欲求が高まれば,公共事業投資した数倍の経済効果がうまれる
2)累進課税
・貯蓄を減らすように,お金持ちからより多くの税金をとる
3)金利を下げる
・金利を下げて企業の新たな投資を増やすと,企業が新たな事業をはじめるので雇用が増える
4)「流動性の罠」の指摘
・金利をどんどん下げてほとんどゼロという状態にしても,企業の投資がのびず景気が回復しない状態となる可能性がある
➡投資が低下すると過剰貯蓄となり経済が衰退する
➡グローバル社会では国内に投資をせず海外投資にお金が流出する

これ以降,「大きな政府」と呼ばれる景気刺激策がとられるようになる。景気が悪くなると景気対策として政府が赤字国債を発行し,公共事業などで支出を増やして経済を活性化させ,金利を下げて企業の投資を活性化させる。そして累進課税と社会福祉で低所得の人たちにお金を回し,消費を活性化する。この逆の「国は景気が悪くなっても市場にまかせる」という政策は「小さな政府」と呼ばれる。

ちなみに,アメリカの政党政策は次のように分かれる。

アメリカの政党政策:
・共和党: 小さな政府より(レーガン,ブッシュなど)
・民主党: 大きな政府より(クリントン,オバマなど)

1929年当時のアメリカは共和党政権で景気対策に積極的ではなかったが,民主党のルーズベルト大統領に代わると大規模な公共事業を展開する(ニューディール政策,1933年~)。以降20世紀初頭の交通ネットワーク,電力網,通信ネットワークなどのインフラ整備が雇用と需要と供給をうみ,グローバル経済における競争力をつけて工業先進国を高度成長時代の波へとのせる。

ケインズの処方箋にも課題があり,それが歪みとなって蓄積されていく。

ケインズ理論の副作用:
1)インフレ傾向になる
2)財政赤字が増え続ける

 政治家は人気を維持したいため「打ち出の小槌」を手放せず財政支出を止められなくなる
3)公共投資の効果がなくなる
 建設会社が増えすぎて定常状態となり公共事業に支出しても効果がなくなってくる

●スタグフレーションと新自由主義:フリードマン「資本主義と自由」

1970年代,変動相場制(1973年),第一次オイルショック(1973年),そして各企業がオフショアを模索しはじめて資本主義が徐々に変わろうとしているとき。スタグフレーション(景気が後退しているのに物価が上昇)に苦しむアメリカの処方箋となったのがフリードマン「資本主義と自由(1962年)」だ。福祉を充実する一方で国力を衰退させたイギリスなどを背景に,ケインズは間違っているという考え=新自由主義が広まる。

新自由主義の処方箋:
1)政府は国民の自由を尊重しよう
2)マネタリズム

 世界を流れるお金の量さえコントロールしていれば経済はうまくいく
3)政府がやるべきことは国防と司法行政だけ
 それでもやるべきことがあれば,地方自治体にまかせたほうがいい
4)こんなものいらない
・累進課税,今の社会保障制度,公的年金,輸出入制限,最低賃金
・民間の郵政事業禁止,公営道路
・各種規制(銀行,産業,通信・放送)など

すべてを実施すると,マルクスの時代にもどってしまいそうないきおいだ。それでも経済の閉塞状態を打開しようする資本主義国にとって,新自由主義の影響は大きい。サッチャー(1879年~)・レーガン(1981年~)革命,日本では中曽根内閣のNTT/JT(1985年),JR(1987年)民営化,橋本内閣の金融制度改革(1996年~),小泉内閣の郵政民営化(2007年)や派遣労働の自由化(2003年)など政治に大きな変革をもたらす。

●リーマンショックと派遣切り

2008年,アメリカの住宅バブルの崩壊とともにおきたサブプライム住宅ローン破綻にはじまり,派生商品の不安が金融機関相互のお金の流れを止めて投資会社のリーマン・ブラザースが経営破綻し,「小さな政府」をかかげる共和党政権がそれを救済しなかったためさらに金融不安が広がり世界を大混乱に陥れたリーマンショックが発生する

日本では,アメリカに製品を売れなくなった製造業が大規模な派遣切りをおこない,小泉政権の派遣自由化により大量に雇用された派遣労働者が大量の失業者となる。

1970年代以降に構築され続けた,非現実的な仮定のもとで演算する経済学が破綻した瞬間だ。そして恐慌に対処できるケインズが再び見直される

アダム・スミスからはじまった資本主義が大恐慌の教訓からケインズの「大きな政府」をうみ,ゆきすぎた安定が新自由主義による「小さな政府」の大改革を,行き過ぎた改革が再び恐慌を発生させてケインズが見直される。寄せては返す波のように経済と政治がゆれ動く。

●資本主義の終焉へ

そして現代。インターネットとともにグローバル経済が広がり低所得国に製造拠点を分業し,Google,Amazonなどの国際IT産業が巨大化して国を単位として経済・政策を考えることが難しい時代となる。製造部門を引き受ける中国やインドが台頭し,先進諸国の製造部門が空洞化して貧富の格差が広がり,資本主義の終焉が叫ばれマルクスが再び見直される。

資本主義の未来への課題:
1)無限に経済を成長し続ける前提が崩れてきている
2)企業の大規模・独占により広がる格差
4)エネルギー消費を拡大し続ける ➡地球環境破壊
5)「お金」が「お金」をうむ金融マネーに極端に偏重
6)グローバル化とフラット化により先進諸国の収入が減衰
7)金利ゼロでも投資・消費せずに,貯蓄を増やし続ける企業・個人
➡ケインズの「流動性の罠」にはまった日本
8)株主偏重により短期の利益をもとめ,基礎研究部門投資が激減
9)出生率の低下

21世紀の今,グローバル市場でのマネーの奪い合いが限界となる【巨大な壁】を前にして,短期の利益をもとめ,実物投資空間を縮小して電子・金融空間に広がり,フラット化,格差拡大,貴族の代わりにマネーをためこむ企業と巨大資本にあえぐ資本主義社会。【巨大な壁】の内側で,インターネットとスマホが情報暴走を引きおこし,さまざまなメタネットワークサービスをプラットフォームとして展開した先に本格的な「情報革命」がおころうとしている


【参考書籍】
[1] フェルナン・ブローデル(2009), "歴史入門" , 金塚貞文訳, 中央文庫
[2] フェルナン・ブローデル(1985), "交換のはたらき :物質文明・経済・資本主義15-18世紀", 村上光彦訳, みすず書房
[3] フェルナン・ブローデル(1995), "世界時間 :物質文明・経済・資本主義15-18世", 村上光彦訳, みすず書房
[4] R.C.アレン(2017), "世界史のなかの産業革命 :資源・人的資本・グローバル経済",眞嶋史叙, 中野忠, 安元稔, 湯沢威訳 , 名古屋大学出版
[5] グレゴリー・クラーク(2009), "10万年の世界経済史", 久保恵美子訳, 日経BP
[6] 宮崎正勝(1019), "ユダヤ商人と貨幣・金融の世界史", 原書房
[7] 松岡正剛(2001), "知の編集工学", 朝日文庫
[8] リチャード・ボールドウィン(2018), "世界経済 大いなる収斂 :ITがもたらす新次元のグローバリゼーション", 遠藤直美訳, 日本経済新聞出版社
[9] 宮崎正勝(2002), "モノの世界史 :刻み込まれた人類の歩み", 原書房
[10] デヴィッド・クリスチャン, シンシア・ストークス, ブラウン,クレイグ・ベンジャミン(2016), "ビッグヒストリー :われわれはどこから来て,どこへ行くのか", 長沼毅日本語版監修, 石井克弥,竹田純子, 中川泉訳, 明石書店
[11] 松岡正剛監修, 編集工学研究所(1996), "増補 情報の歴史", NTT出版
[12] 池上彰(2013), "やさしい経済学1 :しくみがわかる", 日本経済新聞出版社
[13] 池上彰(2013), "やさしい経済学2 :ニュースがわかる", 日本経済新聞出版社
[14] 池上彰(2014), "世界を変えた10冊の本", 文藝春秋
[15] 池上彰(2017), "池上彰の講義の時間 高校生からわかる「資本論」", 集英社
[16] J・M・ケインズ原著(1867), 山形浩生要約・翻訳(2015), "要約 ケインズ 雇用と利子とお金の一般理論", ポット出版
[17] 水野和夫(2022), “次なる100年 :歴史の危機から学ぶこと”, 東洋経済新報社

tag : フューチャーリテラシ,ミクロ・マクロ・ネットワーク,社会,経済,社会史,経済史

ヒトと文化・メディアの共進化

<ポイント>ヒトの初期の歴史をたどることにより,ヒトがなぜ文化とメディア,集団とコミュニケーションを爆発的に発展させるのかという問いへのヒントをもとめる。放射線量の高いオルドヴァイ渓谷が類人猿の実験場となり,一夫一妻の選択がヒトへの道をつくる。「難産」と「二足歩行」という不利な進化が,集団とコミュニケーション能力を発展させて前頭葉を爆発的に拡大する。相互に依存し促進しあう「ヒトと文化・メディア(道具)」と「集団規模とコミュニケーション能力」の共進化サイクルが,「文化・メディア」の発展を驚異的なスピードで加速する。

1.「集団とコミュニケーション能力」の共進化へ

●人類進化の源泉,オルドヴァイ渓谷

今も続く進化のホットスポットのひとつ「アフリカ/グレート・リフト・バレー」。多くの哺乳類の進化をうながし,類人猿からヒトへの分岐は西リフト・バレーと東リフト・バレーに囲まれたオルドヴァイ渓谷にはじまる。

1000~500万年前,地下マントルの上昇によってアフリカ大陸を引き裂くように巨大なグレート・リフト・バレーの谷とそれを囲む高い火山がうまれ,そのいくつかから放射性元素を含むマグマが噴出する

ヒトの祖先たちは,溶岩由来の栄養に富む土壌で繁殖する熱帯雨林に惹かれてオルドヴァイ渓谷に集まり,気づくと周囲を谷と火山に囲まれて渓谷周辺にとどまることとなる。

地形の変化による湿潤な時代と半砂漠化した時代を繰り返し,放射能を含んだ火山の爆発の脅威にさらされ,ゆっくりとサバンナ化する環境変化とともに生活様式と身体を適応させていく。そして,オルドヴァイ渓谷周辺が人類進化の実験場となる

画像を拡大表示
ウィキペディア(Wikipedia)大地溝帯より
図3.1.1 オルドヴァイ渓谷

●集団とコミュニケーション能力の共進化

440万年前,サバンナ化によって果物の獲得量が減少する時代において,一人の妻と少人数の家族を養って子孫を残すという選択をしたラミダスのなかで,家族のために食物の採集能力をもったものたちが生き残る。

やがて,地面をこえる先にある森林から果物を採取するため,両手でかかえて果物を持ち帰るものたちがあらわれる。果物をかかえる移動を繰り返すうちに,足を使いより多くの食料を運ぶことができるものたちの子孫が増えて直立二足歩行を獲得する

370万年前,サバンナ化の進行とともに食料をもとめて草原に進出し,豆や草の種,葉や茎のほか,地中の根や球根,昆虫,動物の腐肉などさまざまな食べ物にチャレンジする。

草原に出ることで肉食獣に襲われる危険が増え,二足歩行で目立つにもかかわらず足が遅く戦うこともできない。ヒトの草原への進出は,複数の家族が集まって数十人の集団で行動するという,「集団とコミュニケーション能力」の共進化とともに100万年以上の長いときをかけて徐々に進められていく

2.残念な進化が前頭葉を拡大する

生物進化において,生き残る確率を高めた能力がプラットフォームとして残りその上にさまざまな能力を積みあげて,ときに辻褄あわせを繰り返しながら生き残ったものが今にいたる

ヒトの「直立二足歩行」は,サバンナ化する環境で家族を養うために優位だが,その選択がさまざまな課題をうむ。その典型的な課題が,他の哺乳類にはみられない「難産」だ。

「直立二足歩行」のために産道がS字に曲がり,歩くために発達した筋肉が出産のじゃまをして死の危険をおかす難産となる。脳容量の増加にともなう頭の巨大化が難産に拍車をかける。「難産」を避けるために,頭も体も未熟なうちに出産するようになり,親がいつまでも子供の面倒をみることで家族の絆がさらに強まり,長い期間をかけて学習できるようになる

両手で食料を運べるようになったことは,家族を養うために優位にはたらく。そして,見知らぬ食べ物を開拓する「好奇心」が優位となり,チームで協力して獲物を長距離で追い詰めるなどサバンナでの狩猟採集のテクニックを高め,さらに「直立二足歩行」を鍛えるものが優位となる。肉食などにより豊富な栄養を取得できるようになり,大量にエネルギーを消費する「脳」を成長させる。

「二足歩行」と「脳」の発達の優先が,サバンナにおいて脆弱すぎる身体をつくり,集団での狩りを余儀なくさせる。それを補うために高度なコミュニケーションを発達させ,その選択が「二足歩行」と「脳」を発達させる。

「二足歩行」は性器を隠してしまう。性器が隠れてしまうと発情期を検出しにくくなり,やがて発情期を喪失する。発情期がわからない状態でパートナーを探さなければならなくなり,双方の「コミュニケーション」によって交尾の意思表示ができたものが生き残る

「二足歩行」「栄養獲得」「集団形成」「コミュニケーション」「脳」の共進化サイクルがぐるぐると回った結果,「脳」をさらに巨大化していくこととなる

「脳容量」は,440万年前のラミダスが300ccでチンパンジーの400ccよりも少ない。さらに250万年かけて2倍に(ハビリス),次の100万年で3倍に(エレクトス),それからわずか80万年後の20万年前に現代人=ホモ・サピエンスが5倍の脳を獲得する。長い辻褄あわせの共進化サイクルをへて,脆弱な体を補う特殊な「脳」を獲得したのがヒトという動物だ

画像を拡大表示
図3.2.1 脳容量の変化

3.「ヒトと道具」の共進化

生命は環境変化に対処し,世代を超えて記憶する手段として「遺伝子」と「進化」の仕組みを構築した。そして,ヒトは環境変化に対処し,世代を超えて記憶する手段として「ヒトと道具」の共進化の仕組みを構築する。

●「脳」と「道具」の共進化

「好奇心」が新たな環境への進出をうながし,変化する環境に「道具」を使って適応する。「道具」は環境変化に適応する手段としてだけでなく,世代を超えて受け継ぐ記憶手段でもある。「道具」の利用方法は「道具」を介して大人から子供に受け継がれ,また「道具」を利用するものによって「再構築」「改良」される。

「道具」はヒトの能力を拡張するとともに,エネルギーを効率的に利用するために「身体」の進化をうながす。特に,「道具」をより良く活用し,新しい「道具」をうみだす「脳」の仕組みを獲得したものが,豊富な栄養を獲得して生存する。「脳」は生存のために有益な内外情報の統合・翻訳・編集・フィードバックのための「感情」,「知性と論理」,「愛情」,「創造と美意識」「記憶」を徐々に獲得し,「道具」を使って得たエネルギーがそれをささえる

「脳」が新たに獲得した脳力は,新たな「好奇心」をうみ行動領域を拡大し,新たな「道具」をうみだす。「愛情」・「感情」がそれを欲し,「創造と美意識」がそれを発想し,「知性と論理」がそれを構築し,それの利用方法を「記憶」する。「道具」と「脳」の共進化がやがて家族への愛情を深め,集団での狩りを効率化し,ついには宗教や音楽や会話によって団結力を高める。

●ヒトと道具が紡ぐメタ進化

・「石器」は「牙」をアウトソースする
「石器」は死体の皮を切り裂き,固い骨から滋養に富んだ骨髄を手にいれ,地中から炭水化物の豊富な芋を掘り,木の実を砕き,滋養に富んだ栄養の獲得を可能とする。

「石器」の利用は,「犬歯」を縮小し,手先の器用なもの,多彩な活用方法をうみだしたものを優位にした。

・「衣類」は「体毛」をアウトソースする
「衣類」は長距離走で獲物を追い詰める際の発汗のために縮小した「体毛」を補い,「服を着替える」ことにより寒暖変化への対応を可能とする。
「衣類」の利用は,巨大化した「脳」を冷却するために「体毛」を縮小し,太陽光の強弱に皮膚の色素で対応するものを優位にした。
・「火」は「消化器」をアウトソースする
「火」は繊維質で筋がある肉を柔らかくし,芋や実の加熱調理により食べる量を増やし,栄養を吸収しやすくする。有毒な植物の毒を消し,寄生虫や菌を退治し,肉食動物を遠ざけ,極寒の季節に暖を提供する魔法まで備えている。
「火」の利用は,犬歯と顎の筋肉と「消化器」を縮小し,毒や菌に対する抵抗力を弱め,吸収した豊富な栄養を使って周囲の環境変化にうまく対処できるよう「脳」を進化させたものを優位にする。
・「言葉」は「知性と論理」をアウトソースする
「言葉」は内外情報や「感情」,「愛情」,「創造と美意識」「知性と論理」「記憶」を統合・翻訳・編集・フィードバックし,対処を判断し,フィードバックするための手段を提供する。
「言葉」の利用は,「知性と論理」の思考様式をつくり,世代を超えて記憶し,大人から子供へ受け継がれ,また「言葉」を利用するものによって「再構築」し,他者とのコミュニケーションにより「改良」するものを優位にする。本能による瞬時の行動に割り込み遅延をもたらすが,舌,顎,喉頭,気道の利用をチューニングして「知性と論理」により適当な行動を選択し,「感情」,「愛情」,「創造と美意識」「記憶」そして「知性と論理」を「知性と論理」により適当にコントロールする「脳」を進化させたものを優位にした。

やがて「道具」は20万年前にホモ・サピエンスという器をつくる。6万年前にアフリカから世界各地に広がったそのとき,「道具」と「脳」の連鎖の爆発により想像力と創造力を開花した「ヒトと道具」の共進化は,互いに影響を与えあいながら,驚異的な適応速度を獲得し,現代,そして未来につながるメタ進化の道を紡いでゆく

4.「ヒトと文化・メディア」の共進化

集団内で技術や社会習慣などの文化・メディア(道具)を記憶・学習する能力を得たことがサルからヒトへの分岐点となる。老人の知恵や道具として維持し継承する文化・メディアの記憶は,集団としての新しい生命進化の手段となっていく

●「ヒトと文化・メディア」の共進化

ヒトが創造するものは道具・技術だけではない,調理方法や言語,獲物や脅威に対する知識,狩猟や調理などのノウハウ,集団を円滑に運用するための社会習慣や社会規範,宗教,芸術がある。これらの集団で獲得し継承するものを総称して「文化・メディア」と呼ぶこととする。

「文化・メディア」の対象: 道具,技術,知識,ノウハウ,社会習慣・規範,宗教,芸術など

ヒトと文化の遺伝子は,共進化の関係にある。例えば,調理とヒトについて考えてみよう。

調理の進化:
・石器を使って食材をきざむ
・消化しやすくなり
 ➡エネルギー獲得量が増加
 ➡歯,口,顎の筋肉,胃・腸が縮小
 ➡消化に要するエネルギー量が減少
・エネルギー獲得量が増える
 ➡処理能力の高い「脳」を維持
 ➡文化生成にかかわる「前頭葉」を中心に脳が拡大
・調理方法を工夫する ➡新しい調理方法を創造する
 ex. 加熱する,干す,挽く,水にさらす

この循環を繰り返すことにより,ヒトと調理は共進化する。

ヒトの進化が新しい文化・メディアをうみ,新しい文化・メディアがヒトの進化を促進する。

「ヒトと文化・メディア」共進化の例:

狩猟:
狩猟のための道具や技術➡扱う技能➡技能を獲得する脳力, 獲物の追跡➡追跡や長距離走のノウハウ➡長距離走のためのヒトの身体構造➡ランニングフォーム, 集団行動のルール➡ルールを守る感情, 水容器➡発汗作用による冷却➡水場探索ノウハウ, 動物行動に関する知識➡知識を学習・活用する脳➡若者の育成➡知識の伝承
社会規範:
先祖伝来の知恵に従う➡集団としての生存能力が向上➡生存に優位な規範を継承➡規範の整備, 制裁と報酬➡制裁による淘汰➡規範に従う・守る脳力(報酬系など)➡協力行動, 利他行動
コミュニケーション:
顔の無毛化と表情・白目と視線・身振り➡コミュニケーション脳力➡密な連携➡道具の製作・使い方の伝搬・質の向上➡道具の複雑化・高度化➡コミュニケーション手段の開拓・複雑化➡コミュニケーション脳力の成長・進化➡集団での狩り➡太鼓などの遠隔通信
脳力(前頭葉):
創造力・発明の必要➡便利な道具➡指先の進化➡道具の高度化➡模倣・学習・計画・記憶・論理➡学習の動機付け(報酬系), 道具の再構築➡推測・分析・論理, 道具へのアウトソース➡身体弱体化➡脳へのエネルギー増加➡新しい道具の創造
言語:
言語による集団運営➡言語を喋るための身体構造➡文化・メディアの複雑化➡語彙の増加・文法の複雑化➡言語学習脳力➡言語学習のための社会習慣➡覚えやすい語構造

●「集団の規模」と「コミュニケーション能力」

ヒトが文化・メディアを形成・維持するためには,「集団の規模」と「結びつきの強さ=集団のコミュニケーション能力」が必要条件となる。

石器の発明について考えてみよう。旧石器時代の初期に,鋭利なナイフのような石器をつくる大天才が1人いたとする。しかし,その技術を受け継ぐものがいなければ,うみだされた新石器はただの宝物でしかなく,壊れてしまえば技術は失われてしまう。

新しい技術文化・メディアが維持されるためには,
「技術を創造するもの➡その技術を代々受け継ぐもの➡その技術を代々使いこなすもの」が必要となる。

新しい文化・メディアを継承するために必要な人材:
・創造者: 新しい技術を創造するもの
・継承者: その技術を代々受け継ぐもの
・使用者: その技術を代々使いこなすもの

創造者・継承者・使用者が発生し,時空間上で出あう確率は「集団の規模が大きく,集団内でのコミュニケーション能力が高い」ほど高くなり,新しい文化・メディアをうみだし維持するために優位となる。

集団の規模が拡大するということは,その集団にヒトが集まり養える生存優位性があり,何より獲得・維持するエネルギー源が豊富に存在するということだ。

集団の拡大要因: 
生存に優位な道具・スキル・ノウハウを保有し続けること
・狩猟採集:
狩猟採集のための武器,狩猟採集知識・技術,チームワーク
・調理:
食料保存法,毒抜き,消化に良い調理法
・集団運用:
集団を円滑に運用するための規範・ルール,作業分担
・子育て:
一夫一妻,子育ての分担,育児ノウハウ
・知識の維持:
知恵のある族長・老人の優遇,熟練者による若者の育成

そして,集団の規模拡大の限界は,集団が保有する文化・メディア水準により得られる食料の量と集団の円滑な運営状況により決定される

集団の規模は,集団内のコミュニケーション能力が高く構成メンバー間の結びつきが強くなければ維持できない。集団のコミュニケーション能力もまた,構成メンバーの規模と密度に応じて言語・楽器・通信・交通などの文化・メディアの成長にともない進化する。



「集団の規模」と「コミュニケーション能力」が「ヒトと文化・メディア」の共進化サイクルを回し,
新たな「文化・メディア」が継承されて「集団の規模」と「コミュニケーション能力」を強化する。


●文化・メディア習得マシンとしての集団脳


文化・メディアが進化するためには,文化・メディアの記憶や学習のための習慣や感情が必要となる。これらは,集団のなかでどのようにしてうまれるのだろうか。

集団による文化・メディアの記憶と学習システム:
・記憶: 老人の知恵,文化・メディアの継承,モノによる記録・複製・読みだし
・学習: 育児・育成のための感情や習慣

日常生活に関するノウハウや生き残るための最小限の知恵は,集団の最小単位である家族を単位として記憶し,個人にきざまれ,次世代に継承する。

狩猟採集や調理などのスキルや習慣を習得,蓄積,整理する能力を向上したものは,より生き残りやすくなる。霊長類から受け継いだ支配者に従う心理や習慣をベースとして,生存に有利な脳力が選択され,積みあげられていく。

スキルや習慣を習得するための脳力:
・学ぶ側に必要な能力・習慣:
 - 手本にすべき相手を選択,模倣
 - 情報・知識を収集,活用
 - 論理的な理解,応用
 - 手本となるもの,リーダーに対する敬意の感情・習慣
 - 学ばなかった場合の失敗体験の記憶
・教える動機となる能力・習慣:
 - 誇り,ステータスに対する報酬感情
 - 教えるものに報酬を与える社会習慣の維持
  社会的な地位,手伝い,贈り物,名声など

これらを実行するための脳力を獲得したものが多い集団が生き残り,その繰り返しにより文化・メディアを記憶し学習するための能力や習慣を集団で獲得する。集団が保有する文化・メディアは集団毎に異なり,それを維持することが集団にとって有利となることから同族・民族意識がうまれる

こうした営みの繰り返しがヒトのライフサイクルにも影響を与える。

ヒトのライフサイクルの獲得:
・妊娠期:
 ➡体内で脳を拡大
 長い妊娠期間,妊婦を守る習慣
・幼児期: 
 ➡前頭葉が拡大
 脳の学習・拡大に集中し,身体の成長を遅らせる
・思春期: 
 ➡リスクよりも好奇心,絶縁皮膜で脳内に高速通信路を生成
 性的成熟期,身体を急速に成長,大人を見習いながら技術や知識を習得
・30代後半: 
 ➡脳内の高速通信路設置完了
 獲物をしとめる確率が最大,学習能力が低下,若者の育成
・老人:
 文化・メディアの伝承者として閉経後も寿命を延ばす

集団における文化・メディアの記憶を継承して再構築することにより,世代を超えて文化・メディアを継承し伝搬していく。

●加速する共進化サイクル

「ヒトと文化・メディア」,「集団規模とコミュニケーション能力」の相互作用が編む共進化のサイクルが集団に優位な文化・メディアをうみ,集団の規模を拡大し,新しい文化・メディアの創造がコミュニケーション能力を高め,文化・メディアとヒトの共進化を加速する。



相互に依存し促進しあう「ヒトと文化・メディア」と「集団規模とコミュニケーション能力」の共進化サイクルが,
「文化・メディア」の進化を驚異的なスピードで加速する。


●「文化・メディア」へのアウトソースによる高速進化


ヒトは能力や脳力を文化・メディアにアウトソースすることにより,集団のなかに時空間をこえて知識と知恵を記憶する。そして,外部環境に適応して集団を優位にした文化・メディアが,生存競争に勝利して後の世に伝えられる。

ヒトは遺伝子によらない,後天的な進化の手段を獲得した。文化・メディアを文化遺伝子(ミーム)として継承するヒトは,文化・メディアへの能力や脳力のアウトソースによって,10年,100年単位での急速な進化を可能とする。

集団規模拡大の壁の内側で,道具と調理法を工夫し,言語の語彙を増やし,文法を整備・複雑化して表現力を増し,知識を整理し,社会規範を整備し,宗教を広め,組織構造を整備してコミュニケーション・ネットワークを張り巡らせて次の共進化爆発のときをまつ。

画像を拡大表示
図3.4.1 集団における「ヒトと文化・メディア」の共進化


________________________________________

【参考書籍】
[1] 丸山茂徳(2018), "地球史を読み解く", 放送大学教育振興会
[2] 丸山茂樹(2020),"最新 地球と生命の誕生と進化:[全地球史アトラス]ガイドブック", 清水書院
[3] ティス・ゴールドシュミット(1999), "ダーウィンの箱庭 ヴィクトリア湖", 草思社
[4] NHKスペシャル「人類誕生」制作班(2018), "NHK スペシャル 人類誕生", 馬場悠男監修, 学研プラス
[5] NHKスペシャル「人類誕生」制作班(2018), "大逆転! 奇跡の人類史", 馬場悠男, 海部陽介監修, NHK出版
[6] 松沢哲郎(2018), "分かち合う心の進化", 岩波書店
[7] 更科功(2019), "残酷な進化論 :なぜ私たちは「不完全」なのか", NHK出版
[8]デズモンド・モリス(1999), "裸のサル :動物学的人間像", 日高敏隆訳, 角川文庫
[9] アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社
[10] ジャレド・ダイアモンド(2015), "若い読者のための第三のチンパンジー :人間という動物の進化と未来", 秋山勝訳, 草思社
[11] リチャード・ランガム(2010), "火の賜物 :ヒトは料理で進化した", 依田卓巳訳, NTT出版株式会社
[12] ジョセフ・ヘンリック(2019), "文化がヒトを進化させた :人類の繁栄と<文化-遺伝子革命>", 今西康子, 白揚社
[13] リチャード・ドーキンス(2006), "利己的な遺伝子", 日高敏隆, 岸由二, 羽田節子, 垂水雄二訳, 紀伊国屋書店
[14] M.マクルーハン(1986), "グーテンベルクの銀河系 :哲学人間の形成", 森常治訳, みすず書房
[15] ジャレド・ダイアモンド(2000), "銃・病原菌・鉄",倉骨彰訳 , 草思社
[16] セザー・ヒダルゴ(2017), "情報と秩序 :原子から経済までの動かす根本原理を求めて", 千葉敏生訳, 早川書房
[17] アンドレ・ルロワ=グーラン(1973), "身ぶりと言葉", 荒木亨訳, 新潮社

tag : フューチャーリテラシ,ミクロ・マクロ・ネットワーク,社会,未来を読み解く,人の歴史,人類史,人の進化,人と文化の共進化

生命のネットワークと「脳」の共進化

<ポイント>生命のネットワークの歴史をたどることにより,ヒトにいたる根源的な性質を見きわめる。生命は,先祖が環境に適応するために獲得した連携ネットワークの性質・能力を遺伝子に記憶しプラットフォームとして引き継ぎ,その上に新たなネットワーク構造を積みあげる。38億年かけて進化したヒトにおいても,原初の単細胞の性質を忘れずに継承している。やがて生命は,後天的に外部環境に適応するためのネットワーク組織=「」をつくり,新たな共進化の構造を組み上げる。の歴史を読み解くことは、未来に向けたテクノロジーとの共進化のロードマップを読み解くことにつながる。

1.微生物のコミュニティ

38億年前,核のない単細胞の細菌(古細菌,真正細菌)が誕生した。最も単純な生命である細菌はコロニーをつくり,細菌間のコミュニケーションにより協調して環境に適応しながら生存競争を生きのびたのだった。

●細胞間での最初の情報交換=遺伝子交換

生命初のコミュニケーションは,細菌間での遺伝子の交換だ。細菌は,細胞分裂により増え続ける。細胞核が存在しないため,細菌間での遺伝子の交換が発生しやすく短期間に遺伝子が伝搬する。遺伝子の交換は細菌の接触による交換だけでなく,死によっても拡散する。群生するコロニーが遺伝子組み換えの実験場となり,1種類の細菌から膨大な種類の細菌を派生させる進化の原動力となる。

●細菌のコロニー内でのコミュニケーション

原初の細胞間での化学物質による情報交換は,栄養の乏しい場所でエネルギーを効率よく取得するために細菌のコロニーにおいて発生した。細菌の生存戦略は,ニッチな栄養源と場所を開拓し,他の細菌を抗生物質により抑制し,それを防ぐ防護壁(細胞壁,粘液性の皮膜)を構築することにある。戦略選択の繰り返しは,自律的に共生する複数種類の細菌による群生=コロニーの形成をうながす

初期のコロニーは,ある細菌の排泄物を別の生物が再利用ことにより発生する。これをつなげることによりエネルギー摂取の連鎖ができ,電子をやりとりする電子市場が構築される。例えば,メタン菌が水素と二酸化炭素からメタンを発生させ,別の菌がそのメタンを食べて二酸化炭素と水素を排出する。異なるコロニーどうしが闘いあうこともあるが長期的には均衡状態を探りあうことになる

二酸化炭素,メタン,二酸化硫黄,硫化水素,窒素などの生産-消費連鎖をつくるが,再利用の環を完璧に均衡することは難しく,電子市場の効率的な均衡を探索し続けることにより複雑化する。さらに,外部環境に適応した細菌からの遺伝子の供給により,コロニー全体が外部環境に適応するよう進化する。

●微生物の社会

現代の微生物のコロニーでは,微生物どうしで神経細胞のようなイオンチャネルによる電気信号伝達を利用してコミュニケーションをおこなっている。血管や神経路の代わりに浮遊する分子によって情報伝達することによりコロニー内の位置を把握し,周囲の環境の情報(浸透圧,pH,湿度など)を処理し,他の生物との競争に役立つ物質を合成してコロニーを防衛して,養分の再利用の効率を上げるように空間分布を修正する。微生物のコロニーとしては,腸内や口内フローラや,免疫や抗生物質に抵抗する細菌のバイオフィルムなどが知られている。

2.メッセージ物質のネットワークがヒトの身体をつくる

単細胞生物の化学物質によるコミュニケーション・ネットワークは,多細胞生物にも継承され,より複雑で自律分散で会話する細胞・臓器ネットワークとして進化した。

●胎児をつくる細胞間の自律分散ネットワーク

ヒトの身体は,たったひとつの受精卵が細胞分裂することにより形成される。細胞分裂して数が増えていくにつれて内側と外側の立体構造がつくられ,ついに最初の分化がおこる。1つの細胞が他の未分化の細胞に向けて,違う細胞に分化するようメッセージ物質(化学物質)を送るとつぎの分化がはじまる。

新しくできた細胞が他の細胞に向けてメッセージ物質を送るという相互作用の連鎖が,次々と発動して身体を形成する。やがて,神経と皮膚をつくる部分,消化器や肺をつくる部分,骨・筋肉・血液をつくる部分の3層構造ができる。

最初の臓器=心臓をつくりはじめると,形成途中の心臓からメッセージ物質を送って肝臓の細胞形成のきっかけをつくる。そして,形成途中の肝臓から心臓に向けて成熟を助けるメッセージ物質が送られる。

相互に同期をとりながらタイミングを合わせて成長し,血管をつくり,血管を伝って臓器どうしのメッセージ物質の伝達ネットワークが構築され,遠い臓器,近くの臓器で相互にコミュニケーションしながら,ヒトという身体を形づくっていく。

●臓器どうしの自律分散ネットワーク

ヒトの身体は,が集中制御をおこなうトップダウンの命令系統だけでなく,臓器どうしのコミュニケーションにより自律分散制御をおこなっている。血管が全身の細胞にメッセージ物質をブロードキャスト(一斉送信)する情報通信網となり,メッセージを受診した臓器や細胞はリツイートもするし炎上することもある

臓器間でかわされるメッセージ:
・心臓が疲れた
 心臓: 一斉メッセージ(心臓が疲れた!)
  ⇒腎臓: 尿を出して血圧を下げる
  ⇒血管: 血管を広げて,内側をきれいにして血液を流れやすくする
・血圧が低いかな?: 投票してね
 腎臓: 一斉メッセージ(血圧が低いんじゃないかな?)
  ⇒肝臓: 一斉メッセージ(いいね!)
  ⇒肺:  一斉メッセージ(いいね!)
  ⇒血管: 血管を収縮して血圧を下げる
・おなかがすいた: への要請
 胃:  一斉メッセージ(おなかがすいた!)
   個別メッセージ(成長ホルモンを出して!)
・運動をすると: 健康になる
 筋肉:
 一斉メッセージ(病気を防いで!)
 骨:  一斉メッセージ(若さを保って!)
・酸素がたりない:連鎖するメッセージ
 腎臓: 一斉メッセージ(酸素が足りない!)
  ⇒骨: 骨髄で赤血球を増産する
      一斉メッセージ(鉄が欲しい!)
   ⇒肝臓: 貯蔵していた鉄を放出
        一斉メッセージ(鉄の吸収抑制をゆるめて!)
    ⇒腸: 鉄分の吸収促進

体内の相互作用のネットワークは,細胞,臓器,共生細菌が多重に絡み合ったメタネットワークとフィードバックループを構築して動的に恒常性を保つ,それがヒトというネットワーク総合体だ。さらに,神経細胞は電気信号と化学物質を組み合わせた高速通信を行い,マイクロRNAを含む大量のメッセージ物質をパッケージにして送り届けるエクソソームという宅配便まで存在する。

3.五感と脳の共進化

6.3億年前,浅瀬の大陸棚が広がり大量の光と栄養塩と酸素が海中にあふれたとき,豊富な素材を活用して繁殖する生命たちの生存競争が新たなステージをむかえる。

●神経組織の誕生

6.3億年前のエディアカラ紀の大陸棚で,急増した太陽光と栄養塩を背景に光合成を行う微生物が大量増殖して酸素を急増させる。

豊富な素材を活用する多細胞生物の最初の戦略は,捕食されない大きな身体を得ることだ。大型化のためには,それを維持するエネルギーが必要となる。「多細胞組織」を使って「エネルギー獲得手段」を構築し,生産したエネルギーをもとにさらに大きな身体をつくる「大型化-エネルギー獲得手段」共進化サイクルがうまれる

画像を拡大表示
図2.3.1 「大型化-エネルギー獲得手段」の共進化 

「大型化-エネルギー獲得手段」共進化サイクルは,長い年月をかけてさまざまな戦略をうみ環境に適応して選択されてプラットフォーム化し,プラットフォームの上に新たな戦略を構築する。

スポンジのような海水と一体になる形態から,皮膚で外側と内側を分ける戦略への転換が新たな分岐点となる。皮膚を改造して,エネルギーを効率よく獲得する窪みをつくり繊毛により積極的にエサをとりこみ,外側と内側の収縮による移動手段を得る。

やがて,エサに反応して行動するために,「触覚センサー」の入力信号を「行動信号」に変換して「高速通信路=神経組織」により複数の「運動組織」に伝達する連携システムを構築し,新たな構造をボディプランとして改良を加え続ける神経系進化サイクルがうまれる。例えば,口の周辺の触覚を食べる行動につなげ,眼点を使って光を検知し,皮膚刺激に反応して退避する方向への収縮運動を誘発する。

画像を拡大表示
図2.3.2 「センサー」から「運動組織」への高速信号路

●肉食動物と淘汰圧が「脳」をつくる

カンブリア紀(5.41~4.95億年前)直前に起こった大型生物を捕食する肉食動物の登場が,生存戦略の大幅な変更を余儀なくさせる。

ふりそそぐ大量の光と大陸から流れてくる豊富な栄養塩をもとに,新たな進化を試みる生物たちの壮大な実験場=大陸棚が舞台となる

それまで数十種だった大型の生物がいっきに1万種以上に広がり,現代につながるボディプラン35門に属する生物だけが次の時代に生き残る壮絶な生存競争=「カンブリア爆発」が幕を開ける。

多くの種を絶滅させる淘汰圧は,生物の急激な進化をうながす。肉食動物の一方的な繁殖は,被捕食側を絶滅の危機に追い込む。そしてエサをたべつくしてしまえば肉食動物もまた絶滅してしまう。肉食動物の誕生がきっかけとなり,生態系全体を巻き込んで大幅な戦略変更と新たな均衡の模索がはじまる。

最新の技術を使って個別の部位を革新するだけでは,激しい生存競争を生きのびることはできない。複数の革新的な組織を効率よく連動させることに成功したものだけが,獲物を捕食し,捕食されない身体を獲得して生き残ることができる

膨大なボディプランの改造と生存競争を繰り返し,ついに複数の体組織を連動する「情報統合組織」として「神経集合体=脳」を口近くに形成する

新たなボディプランは「センサー」や「運動組織」の高度な連携を可能とし,さらに生物進化を加速する。そして,移動するエサや脅威をとらえる「眼」,高速に移動する「筋肉」をうみだしたとき大陸棚の軍拡競争がさらに激化する。

●「眼」と「脳」の共進化

あるとき,散在する光受容組織を集め,脳の一部を触覚から視覚に転用してつくりあげた「眼」による狩りがはじまる。最初に「狩りをする眼=鉱物の複眼」を獲得したのは節足動物であり,脊椎動物の祖先はもっぱら逃げるための戦略として「眼」を活用する。

「複眼」は移動するエサを識別するのに有利な構造だ。節足動物は,多数の「複眼」から得た膨大な視覚情報を統合して「移動するエサ情報」を構築し,それをもとに「追尾行動命令」を生成して高速通信路で「筋肉」に伝え,素早くエサを獲得することにより優位となる。

画像を拡大表示
図2.3.3 初期の「脳」の基本プラン


一方,被捕食動物は移動する物体を検知することよりも,最小限のエネルギーで巨大な生物の接近を明暗で検知して逃げることを優先する。皮膚全体に配置した数個の「点眼」を使って全方位から近づく脅威を検知し,海底や岩場への高速移動するための「脳」と「筋肉」の連携を得たものが生き残る。

カンブリア紀の動物たちは,さらに「神経組織」を改良,脂質による絶縁膜とナトリウムイオンによるデジタル高速通信網を整備し,カルシウムイオンによる終端制御や筋収縮により瞬時の行動を可能とする。「神経系」制御の高速化は俊敏な移動を可能として,追われる側に大きなプレッシャーをかける。

●「カメラ眼」と「空間情報(マップ)」の共進化

カンブリア紀(5.41~4.95億年前)からシルル紀(4.44~4.19億年前)をへてデボン紀(4.19~3.59億年前)に入るころ,脊椎動物の魚類が丈夫な顎と遺伝子重複により「カメラ眼」を手にいれて,活発な肉食をおこなうようになる。

「カメラ眼」は,レンズを使って鮮明な像をとらえる眼であり,海底の地形やエサ・脅威の正確な空間情報を取得可能となる。「カメラ眼」から入ってくる膨大な情報を使いこなすためには「脳」の進化も必要となる。「カメラ眼」と「脳」の共進化により,眼・耳・皮膚から得た情報を統合して「空間情報(マップ)」を形成し,より正確にエサ・脅威の情報を得て行動できるようになる

「カメラ眼」と「空間情報(マップ)」処理の共進化は眼を巨大化するとともに,それぞれの感覚からの入力情報を統合処理して「感情・本能」に変換し,刻々と変化する環境に素早く反応する即応連携シーケンスを構築する

脳の「感情・本能」による即応連携シーケンス:
1)視覚運動:眼を動かし,ピントを合わせ
2)感覚:対象の形や動きを認識してエサと脅威を区別し
3)注意:エサ・脅威に選択的に注意を向けて
4)感情:対象を評価,「喜び」や「恐れ」の感情に変換して,
5)統合行動:対象に身体を向けて,もしくは対象から避けるよう移動する

脳による即応連携シーケンスを構築した魚類は,「顎の強化-大型化」共進化サイクルを進め,節足動物を凌駕するようになる。

●「嗅覚」と「本能・記憶」の共進化

魚類が「嗅覚」を得たことが次の転換点となる。「嗅覚」はエサや脅威のまきちらした化学物資の痕跡を識別・記憶し,過去の記憶にもとづいて思い出し,その場所をエサ場としたり避けたりするために有効だ。

このため,嗅覚は他のセンサーとは異なるルートで脳と連携し,嗅覚とともに行動シーケンスを誘発する「感情・本能」と「記憶」をつかさどる脳の部位が共進化することで,より狡猾に生き残ることに成功する

画像を拡大表示
図2.3.4 脊椎動物の「脳」の基本構造

太古にうまれた「感情」は,ヒトの「意識」のベースとなり,同時に発生する五感・内感とその「相互作用」を評価し即時の対処をうながす即応装置として発動する


これにより,ヒトにつながる外部情報統合にかかわる脳のボディプランはおおむね完成した。以降,生活環境を陸上に移し,環境との相互作用により五感・内感の情報統合組織として大脳を発達させてゆくこととなる。

陸に上がった多細胞生物もまた,体内組織間の共進化を繰り返すことにより新たな連携ネットワークをつくり生存に有利なものをボディプラン=プラットフォームとして残し,その上に新たな仕組みを組み上げ,必要ならば別の用途に転用して体組織の複雑なネットワーク構造を編み上げてゆく

4.コミュニケーションするサルへの「脳」進化

生命が誕生して以降,急激な環境変化によりほとんどの生命が絶滅する大量絶滅が5回発生した。大災害が急激な進化を促進し,環境に適応した生物種が勢力図を書き換える。

●上陸にせまられる魚類

3億7000万年前の海洋生物の大量絶滅は海からの脱出=上陸を加速し,魚類から両生類への進化をうながす。使わなくなった浮き袋を肺に転用し,ヒレを手足に代える。

上陸して一気に広がる視界,匂い,音,そして地面の感触を活用したものが生き残る。陸環境に適応して,五感による空間情報形成と記憶・学習と感情・本能による情報の統合制御を徐々に複雑化・高度化し,多様な生命デザインを地上に広げる

●恐竜を避けて生きのびる哺乳類

2億5000万年前,生命史上最大の大量絶滅が発生する。太陽系が暗黒星雲と衝突したことをきっかけに発生した極寒期により動植物が絶滅し,続いて酸素濃度が大幅に低下する。ほとんどの生命が死滅し,大量の酸素に適応した肺をもつ哺乳類の祖先たちに大打撃を与える。

恐竜が低酸素濃度でも生きのび大繁殖したのは,現代の鳥に継承される常に新鮮な酸素で満たされ循環する肺構造を進化させていたからだ。残念ながら,哺乳類の肺は,酸素を吸う経路と吐き出す経路が同じ気管を共有しているため低酸素濃度に弱い。

恐竜が繁栄する時代,哺乳類の祖先は小型のトガリネズミのような外見の夜行性となり,肉食の恐竜たちを避けてかろうじて生きのびる。かつて,昼間の光のなかで視力を活用して構築した「空間情報(マップ)」の生成脳力は嗅覚に置き換えられ,匂いの記憶と明暗や触覚というわずかな情報からエサと脅威を感知する脳と五感と「記憶・感情」を研ぎ澄まして「空間イメージ」を組み立てる

●恐竜絶滅と哺乳類の広がり

6600万年前,再び起こった太陽系と暗黒星雲の衝突をきかっけとする極寒期により恐竜などの絶滅が進み,続く巨大隕石の落下が残ったものたちにとどめをさす。そしてわずかに生き残った生命にふりそそぐ宇宙線が,新たな種の進化を加速する。

大量絶滅の後に世界に広がる哺乳類の最大の特徴は,体内外での子育てと,環境変化に合わせて脳を拡張する柔軟性だ。子育てと脳を共進化させることにより,妊娠期間・育児期間が長くなるほど巨大化できる脳構造=大脳皮質のしわ・層構造を獲得する。

脳を巨大化して維持するためには生涯にわたる大量のエネルギー供給が必要となる。効率の良いエサの獲得・体内外育児の負担と,巨大な大脳を活用した賢い行動・体内コントロールがトレードオフとなり共進化し,あらゆる環境に適応して戦略を変えて苛烈な生存競争に生き残り広がっていく

脳をささえる体内機構も共進化する,赤血球の核を除いて脳へのエネルギー運搬を高効率化したのは哺乳類だけだ。学習能力と判断能力を強化し,出産後の環境に合わせて脳回路を編集して,忍び足で近づき俊敏に襲うもの,遠距離の脅威を感知してジャンプして逃げるもの,樹上で木々を飛び移るものなど賢い脳を活用してさまざまな環境に適応して広がっていく

●樹上で進化する霊長類

○フルカラー視覚がコミュニケーション能力を強化する
6300万年前,ゴンドワナ大陸が分裂し,南米大陸とアフリカ大陸,インド大陸などに分かれ,リフト帯で噴出する放射性マグマの活動が突然変異を誘発し,各大陸での個別の進化を加速してさまざまな生態をもつ生物が広がっていく。

温暖化が広葉樹を広げ,それに適応したサルの祖先が樹上での生活を選び,枝やエサをつかむ手を進化させる。樹上での生活は手足を器用にあやつり,果物の食べごろと腐敗を識別する必要があり,指先の触覚,視覚,嗅覚情報を統合して指・手足の繊細な制御を行うために「学習・判断・制御」脳力,センサー,手足を共進化させる。

画像を拡大表示
図2.4.1 「学習・判断・制御」する脳の獲得

4000万年前以降,何度も寒冷化と温暖化の波が繰り返す。寒冷化時には飢餓よる闘争が激化し,共同でエサ場を確保して脅威を排除するものたちが生き残る。より多数で連携した集団が優位となるが,そのためには個体を連携するための「コミュニケーション能力」が必要となる

個体数の増加が「コミュニケーション能力」の強化をうながし,声やジェスチャーによる「コミュニケーション能力」の強化が集団の規模を増やす。集団規模の限界をさぐる「集団規模-コミュニケーション能力」の共進化がはじまる

画像を拡大表示
図2.4.2 「集団規模-コミュニケーション能力」の共進化

3000万年前,樹上でより多くの新鮮な食料を獲得するために赤・橙の識別能力を加えてカラーの眼を獲得した旧世界サル=ヒトの祖先は,肌の色を識別できるようになり顔の肌を露出させて感情変化をよみとる新たな「コミュニケーション」手段を獲得する

○高精細視覚センサーが推論能力を高める
やがて,遠くに熟れた果実を発見し,飛び移る枝を見きわめるために網膜の一部に高精細なセンサーを搭載するサルがあらわれる。眼球とともに高精細視覚センサーを縦横に動かすことにより,注力した部分をはっきりと認識する。以降,高精細センサーの範囲を広げるのではなく,生きるために有効な情報をフィルタリングするために,立体視などとともに脳力により全体像を推論する「錯視」を強化する方向に進化したものが生き残っていく

高精細な視覚はより詳細に表情を認識することを可能とし,より繊細な「コミュニケーション」を可能とする。


「錯視」は脳の暗黙の推論能力を強化し,脳内に「仮想イメージ」と「仮想物語」をつくる脳力を構築して,コミュニケーション・社会行動などの統合制御を強化していく


画像を拡大表示
図4.4.3 仮想的なイメージと物語をつくる脳

シャープな視覚,両眼による立体視,フルカラー画像,そして錯視を得たサルは,高いコミュニケーション能力により集団を維持・運用し,推論により「仮想イメージ」と「仮想物語」を構築する賢いサルへと進化してゆく



________________________________________
【参考書籍】
[1]ポール・G・フォーコウスキー(2015), "微生物が地球をつくった :生命40年億年の主人公", 松浦俊輔訳, 青土社
[2]ベンジャミン・マクファーランド(2017), “星屑から生まれた世界 :進化と元素をめぐる生命38億年史“, 渡辺正訳, 化学同人
[3]アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社
[4]中西直人編(2017), "微生物の驚異 :マイクロバイオームから多剤耐性まで:細菌も電気通信で会話", 別冊日経サイエンス, p47, 日系サイエンス
[5] 丸山優ニ; NHKスペシャル「人体」取材班(2019), "人体 神秘の巨大ネットワーク 臓器たちは語り合う", NHK出版
[6] 大隈典子(2017), "脳の誕生 :発生・発達・進化の謎を解く", ちくま書房
[7] 植田和貴(2021), "[日系BPムック] ダーウィンが来た! 生命大進化 :第1集 生き物の原型が作られた(古生代から中生代 三畳紀)", 日経ナショナルジオグラフィック社
[8] アンドリュー・パーカー(2006), "眼の誕生 :カンブリア紀大進化の謎を解く", 渡辺政隆, 今西康子訳, 草思社
[9] 坂井建夫, 久光正監修(2011), "ぜんぶわかる 脳の事典", 成美堂出版
[10] トッド・E・ファインバーグ, ジョン・M・マラット(2017), "意識の進化的起源 :カンブリア爆発で心は生まれた", 鈴木大地訳, 勁草書房
[11] 丸山茂徳(2018), "地球史を読み解く", 放送大学教育振興会
[12] 丸山茂樹(2020),"最新 地球と生命の誕生と進化:[全地球史アトラス]ガイドブック", 清水書院
[13] 大森聡一(2021), "改訂版 ダイナミックな地球", 放送大学教育振興

tag : フューチャーリテラシ,ミクロ・マクロ・ネットワーク,生命,複雑系,進化,

相互作用の連鎖の重なりが宇宙をつくる


1章 相互作用の連鎖の重なりが宇宙をつくる

<ポイント>本章では,初期のネットワーク形成とそのリズムの繰り返しを感じることに注目する。現代そして未来につながるネットワークの歴史は,より軽い元素の相互作用による原子ネットワークへの記憶と,元素の集団がつくる圧力の変化,離合集散による新たな元素の創造の繰り返しとして描かれる。やがて,さまざまな元素がでそろうタイミングと場所で誕生した地球が分子ネットワークの実験場となり,最初に岩石が集まり,次に水が加わると分子の相互作用の活性化により複雑な分子ネットワークの形成を加速して,ついに自己複製する高分子化合物を誕生させる。


1.ビッグバンとともに誕生した4つの相互作用

138億年前,宇宙は超高温高密度のエネルギーの塊から一瞬にして膨張して火の玉宇宙の膨張=「ビックバン」が始まる

膨張とともに冷えていくなかで,集合-分散を繰り返しながら少しずつ宇宙の物理法則とそのかたちをつくっていく。宇宙の膨張・冷却という環境変化とともに質量をもつ素粒子(陽子,中性子,電子)や重力・電磁気力などの相互作用がつくられる。

過去から未来に向けて連鎖するネットワークのもとは4つの相互作用であり,138億年のときをかけて宇宙を,星を,生命を,ヒトを,社会をつくりあげていく。

学生のころに習った「力」や「相互作用」は,この世界を説明するものとしてすでに存在していた。宇宙誕生からの歴史をひもとくと4つの相互作用によって集散を繰り返し,創造のもととなる環境を,互いに影響をおよぼす相互作用を,自身を構成する仕組みを創りながら徐々に世界を組み立てていく様子が見えてくる。

【解説】宇宙をつくる4つの相互作用
我々の知覚する宇宙は4つの相互作用によりネットワークを形成し,断片化,連結・再集合を繰り返すことにより,宇宙の構造をそして生命をより複雑な仕組みへと導いていく。

1)重力相互作用(宇宙創生から10-44秒後)
リンゴが落ちるときにはたらいている相互作用。あらゆる粒子にはたらくけれど力は非常に弱いが,マクロなレベルでは重力だけで語られる。質量に比例するので,極端に小さい原子や分子のレベルではほとんど影響しない。

2)強い相互作用(宇宙創生から10-44秒後)
陽子,中性子,原子核を形づくる相互作用。「電磁気相互作用」より強いが,原子核程度のきわめて狭い範囲にしか働かない。「強い相互作用」がなければ,2つ以上の陽子が核内に共存できない。つまり,原子核は「電磁気相互作用」の反発力と「強い相互作用」の引力の均衡の上になりたっている。

3)弱い相互作用(宇宙創生から10-11秒後)
原子核の種類を変えてしまう錬金術な相互作用。原水爆,原発,恒星内の核反応に関係する。水素の原子核=陽子からヘリウムの原子核,逆に中性子となるときに働く。「弱い相互作用」がなければ,周期表に記載される元素のバリエーションは存在しない,すべての元素のもとは水素ということ。

4)電磁気相互作用(宇宙創生から10-11秒後)
我々が普段経験する重力以外のすべてにはたらいている相互作用。地震,雷,磁石,化学反応,物を移動する,木を折る,ボールを投げる,そして電子と原子核を結びつけて原子をつくる。我々が体験できる重力以外のすべては,電磁気相互作用によっているという万能・ビックリな相互作用。

2.初めての元素の作り方

最初の元素が誕生するまでの宇宙はあまりに熱く,水素とヘリウムの原子核,光子と電子が激しく暴れる荒ぶる宇宙が広がる。

●水素とヘリウムの原子核が広がる暗黒の宇宙

ビックバンからおよそ3分後,宇宙の温度が10億度に近づくにつれて陽子や中性子に作用する「強い相互作用」「弱い相互作用」の影響が強まり水素とヘリウムの原子核が合成されはじめたころ,宇宙が急速に広がり冷えていきそれ以上の核合成が進む前に水素原子核(75%)とヘリウム原子核(25%)が宇宙空間に拡散する

この広がっていけば,ただ水素・ヘリウムガスが何百光年も穏やかに広がる空間が宇宙となるはずだった。しかし,光子が直進できない暗黒の宇宙の中で,光子と陽子と電子がぶつかり合う激しい運動を繰り返していた。

●初めての原子の誕生

ビックバンの後3000度に冷えた38万年後,陽子と電子の運動がおだやかになり「電磁相互作用」が働くようになると,原子核と電子とがお互いに引きあい,最初の元素である水素原子とヘリウム原子が誕生する。

元素といえば「すいへいりーべー」で覚えた周期表が思い浮かぶ。周期表記載されている元素は最初から宇宙に存在していたわけではなく,ビックバンから38万年後の宇宙に広がる水素とヘリウムをもとに生成されたのだ。原子の誕生とともに,ようやく光子が直進できるようになる。

3.鉄までの元素のつくり方

今私たちがあるのは,初期の宇宙のわずかなゆらぎが水素とヘリウムのネットワーク=ファーストスターを編みだし,離散集合のリズムをきざんで元素の連鎖をつくりだしたからだ

●ファーストスターのつくり方

水素とヘリウムで満たされた宇宙では銀河を作る材料もなく,薄いガスが静かに広がるだけのはずだった。しかし,実際には水素を超える大量のダークマターが宇宙に広がり,重力により影響を与え合っていた。

最初の原子から1億年の時をかけてダークマターの塊にガス(水素とヘリウム)が引き寄せられ,密度の差が濃くなり編み目模様をつくりはじめる。

密度の濃い部分は高温の乱流状態となり,分子どうしが近接して「電磁気相互作用」によって集まり「重力」による収縮が始まる。わずかに回転していた「分子雲」は収縮にともない高速に回転する円盤となり,中央部は「重力」により中央に向かって落下を続ける。やがて重力による「落下する力」と,落下のぶつかり合いがおこした熱による「膨張する力」が均衡して収縮が止まり,内部の熱により輝く「原始星」が誕生し宇宙にかすかな光りをともす

「原始星」へ向けて高速のガスが流れ込み続け,太陽質量の20倍の重さになったときに1500万度を超えて「核融合反応」を繰り返すようになり,太陽の10万倍もの明るさで輝く。この光がまわりのガスを暖め,星にふりつもるガスにブレーキがかかる。さらに7万年後,太陽質量の42倍,表面温度10万度の高温で燃えさかるとき,核融合による大規模な爆発による「膨張する力」と重力による「落下する力」が均衡し,ついにその成長を止めてファーストスターの輝きを宇宙に広げる

●ファーストスター内部で鉄までの元素をつくろう!

周期表の水素とヘリウム以外の元素はどのように創造されるのだろうか。

水素(陽子1),ヘリウム(陽子2),順に陽子を足していけば水素をもとに他の元素をつくることができそうだが,反発し合う陽子どうしは近づくことができない(電磁気相互作用)。かの錬金術師たちが,どのように頑張っても他の元素から金をつくることができなかったわけだ。

ところが恒星内において原子核が超高温・超高圧状態にさらされると,電子と原子がばらばらになり,陽子どうしが衝突できるようになる。陽子どうしがぶつかると陽子過剰となって陽子から陽電子とニュートリノが飛びだして中性子となり(弱い相互作用),陽子と中性子が結合することにより水素原子核(陽子1)⇒重水素原子核(陽子1+中性子1)⇒ヘリウム原子核(陽子2+中性子2)へと形を変えていく(強い相互作用)。いったん,ヘリウム原子核が構成されると,低温低圧状態にもどっても結合がほどかれて水素にもどることはない(強い相互作用)

恒星内の中心にヘリウムが蓄積され,さらに高温・高圧状態がすすむと,炭素,酸素,ネオン,マグネシウム,ケイ素,硫黄,カルシウムなどが連鎖的に生成される。より大きな元素番号へと核融合反応が進むにつれてエネルギーを放出して軽くなり結合力が強く働くようになる(強い相互作用)。一方で鉄よりも陽子が多くなると反発が強まり(電磁気相互作用)最も安定した元素=鉄を生成したところで核融合反応が終了する。ファーストスターが誕生してから数百万年かけてようやく鉄までの元素を創造することができた

鉄より重い元素を生成するためには,巨大な恒星内の核融合よりも莫大なエネルギーが必要だ。離散融合を繰り返す宇宙はさらなる元素生成の実験場を誕生させる

4.鉄より重い元素のつくり方

恒星の中での核融合反応が止まると,核融合による「膨張する力」と重力による「落下する力」の均衡がくずれ,鉄の層は中心部に向かって光速の2割ものスピードで落下しはじめる(重力崩壊)。中心部は超高圧のため鉄原子に電子が押し込められ,陽子が中性子に変わり(弱い相互作用)中性子のコアができる。中性子のコアに鉄の層が落下し跳ね返り,激しい高密度の衝撃波が発生する。さらに,中心部のコアの重力崩壊が進み,やがて回転する巨大なブラックホールとなり,周囲を巻き込みながらジェット流にのせて元素をまきちらす極超新星爆発をおこす

この極超新星爆発によってケイ素層や酸素層下部では,衝撃波が通過するときの高温高密度下で鉄を中心とした元素を生成し,重い原子核は大量に生成された中性子を捕獲してさらに重い原子核となる。陽子と中性子の均衡がとれる数に達すると電子を放射して安定した元素となり(弱い相互作用),さらに中性子を捕獲してより重い元素を生成し,鉄より重い元素を生成する連鎖が続く。このようにして元素表にあるさまざまな元素が巨大なブラックホールの周囲から,ジェット流にのって宇宙空間に広がる

ファーストスターのサイズはダークマターの密度の偏りにより異なり,大きなものは太陽質量の6万倍にも巨大化し,最後の超新星爆発とともに中心核からモンスターブラックホールを形成,さらにモンスターブラックホールどうしが合体して太陽質量の10億倍もの超巨大ブラックホールとなり,ファーストスターからまき散らされた元素=星間ガスをもとに数千億の恒星を生みだす「銀河」へと成長してゆく

「銀河」の中では,ばらまかれた星間ガスが集まってさまざまなサイズの恒星が誕生と死を繰り返す。コアが中性子星となり超新星爆発をおこすもの,ゆっくりとした中性子核融合によりプラチナよりも重い元素を生成するもの,中性子星の連星の衝突・合体により金やプラチナなどの重金属を大量に生成するものなど,地球にある豊富な元素が恒星の生と死の振り子のリズムによって徐々に生成されていく

5.元素に富んだ岩石惑星「地球」誕生(45億6000万年前)

豊富な元素を含む「地球」が誕生したのは,宇宙誕生から130億年の銀河の辺境で銀河の衝突が発生したという絶妙なタイミングだった。

●ナイスタイミングで誕生した太陽系

ビッグバン直後からやや減速しつつ膨張し続け,ファーストスターの爆発後に大量の「銀河」が誕生・衝突・統合を繰り返して「天の川銀河」を形成する。やがて,「銀河」の統合により宇宙全体に広がっている銀河どうしの距離が遠くなると宇宙の「膨張する力」と「銀河」の重力により「減速する力」の均衡点を超えて,約60億年前から加速度的な膨張に転じる。そして46億6700万年前,天の川銀河の辺境に生命を誕生させるためにちょうどいい塩梅の元素を集めた「太陽系」が誕生する

●物質大循環と衝突の繰り返しが岩石惑星「地球」を形成

46億6700万年前,「天の川銀河」が矮小銀河と衝突した衝撃波が「分子雲」に到達したことをきっかけに,「核融合反応」により高温で燃え輝き続ける恒星=太陽が誕生する

太陽を形成する「分子雲」は水素やヘリウムを主成分とし,超新星爆発などによって生成されたさまざまな物質(炭素,窒素,酸素,マグネシウム,ケイ素,鉄など)で構成されたガス状の集まりだ。その0.2%が太陽への落下を免れて,太陽の周囲に高速に回転する環を形成する。

円盤から垂直方向にエネルギーが放出されて,徐々に回転を緩め,環の中心面に向かって塵や氷が「沈殿」する。沈殿した塵や氷は乱流の中で「電磁気相互作用」や「重力相互作用」によって集積し合いながら大きくなり,数10Km程度の「微惑星」となって分離する。「微惑星」どうしが衝突・合体を繰り返して巨大化し,同一軌道上の「微惑星」を取り込み終えると太陽を中心として長期にわたり公転する「惑星」となる

太陽に近い軌道では,氷の粒子が蒸発したため微惑星が少なく小型化し「岩石惑星」を,木星の軌道よりも外側では大量の氷の粒子を集めて微惑星がぶつかり合い「太陽風」により飛ばされてきたガスを巻き込み巨大な「ガス惑星」を,天王星の外側の軌道では回転力が弱いため微惑星の衝突がほとんどおきず小さな「氷惑星」を形成する。そして,45億6000万年前に,鉄(32.1%),酸素(30.1%),シリコン(15.1%),マグネシウム(13.9%),硫黄(2.9%),ニッケル(1.8%),カルシウム(1.5%),アルミニウム(1.4%),金銀プラチナなどの重金属,レアアース,ウランなどの元素で構成される岩石石惑星「地球」が誕生する

ウランまでの豊富な元素材料をそろえる「地球」は,分子の実験場としてさまざまな物資を生みだしてゆくこととなる。

6.分子生成の連鎖が,循環する地球システムをつる

水のないドライな「地球」に降り注いだ大量のウェットな隕石がきっかけとなり,化学反応の連鎖がはじまる。分子生成の連鎖はやがて,循環するダイナミックな地球システムをつくっていく。

●ドライな岩石惑星「地球」と月の誕生

45億5000万年前,大気も水もない鉄とケイ酸塩を主成分とするドライな岩石惑星「地球」が誕生し,その直後の微惑星との衝突により月が生成され,やがて鉄などが重力で沈み込み表面を固い地核で覆われる。

●ウェットな隕石が降り注ぎ分子反応を加速する

43億7000万~42億年前,木星と土星の軌道移動の余波で水と炭素を含む大量の隕石が地球に降り注ぎ,地球は灼熱状態となる。地球が冷えてくると大量の二酸化炭素を含む酸性の雨(炭酸水)が降り注ぎ,還元状態の地表と激しく化学反応をおこし,地表の岩と結合してケイ酸塩が流れだし,硫酸,硝酸,塩酸などが溶け込んだ超酸性・超高塩分・重金属元素を大量に含んだ猛毒の海が誕生する。

●地球の急冷が地核の循環系をつくる

40億年前~38億年前,原始海洋が大気中の二酸化炭素を大量に吸収して,地球が急速に冷え始める。地球の冷却と原始海洋の増加の相互連鎖が加速し,1000度から130度までいっきに冷却する。

地球の冷却の影響で,海洋地核の下のマントルが上昇して裂け目(海嶺)をつくり吹きだしたマグマにより海洋地核を形成,マントルがプレートを押し上げプレートの自重で大陸地殻の下にプレートが沈み込むプレートテクトニクスによりプレートの循環が始まる。海中の溶岩がつくる含水鉱物は潤滑油として働くとともに,岩石が溶融する温度を極端に低下させて,酸性のマグマ(二酸化ケイ素)を生じ,地表へと上昇して地球特有の岩石=生命素材を含む花こう岩をつくる

●プレートテクトニクスが海を浄化

38億年前~35億年前,風化によって陸上から中性の砂や泥が海中に堆積して超酸性の海水と反応して中和し,海底の裂け目(海嶺)から噴出する熱水と岩石の反応により重金属鉱床となり,プレートテクトニクスによりマントルの地下深くに運ばれて重金属イオンが除去され,海がしだいに浄化されていく。海の浄化とともに,温泉や海嶺近くに自己複製する高分子ネットワーク(生命)が誕生する

●磁場バリアが太陽風から地上を守る

32億年前,鉄などの重い物質は重力によりコアを形成,プレートテクトニクスが原初大陸を破壊してコアの上部に運んだウランの発熱により液体化した金属がコアの周りを対流して地球磁場を発生させる。しだいに強くなる磁場がバリアとなり,ふりそそぐ宇宙線,太陽風,紫外線から地表を守る

海面に降り注ぐ太陽風や紫外線の減少にともない,海面近くの太陽光を使った光合成により海中の二酸化炭素を吸収し酸素を放出する生命=シアノバクテリアが誕生する

●冷却と秩序化の営みが循環する地球ネットワークを構築する

27億年前,海底の冷たいプレートがマントルに沈みこむことにより,地球がしだいに冷えていくとマントルの対流が激しくなり,地球磁場が急激に強くなる。有害な光線が減った海面近くでシアノバクテリアが大量発生して,海中の二酸化炭素を大量に消費し,放出した酸素が磁鉄鉱となり海中に大量に沈殿して黒い海は「青い海」へと変化する。


地球の冷却と秩序化の営みが,新たなプラットフォームとメタな秩序化の営みを生みだす


シアノバクテリアが地球上に大量の酸素をもたらし,酸素を呼吸する巨大生命を生み,オゾン層が宇宙線から地球を守り,生命が地上に広がる。プレートテクトニクスの活動が大陸を,そして超大陸をつくり,大陸移動,山の生成,火山,地震につながる地球システムの活動がスタートする。大陸の離合集散,風化の増減,雨の増減,生物死骸の地下への移動と火山噴火,生命と地球が相互に連鎖しあいながら地球システムの恒常性を形成して,酸素濃度と気温を一定の範囲に保つこととなる。



【参考書籍】

[1] 佐藤勝彦(2015), "宇宙137億年の歴史 :佐藤勝彦 最終講義", KADOKAWA
[2] 吉田直紀(2018), "地球一やさしい宇宙の話 :巨大ブラックホールの謎に挑む!", 小学館
[3] 和南城伸也(2019), "なぞとき 宇宙と元素の歴史", 講談社
[4] 谷口義明(2019), "宇宙はなぜブラックホールを造ったのか", 光文社
[5] 谷口義明(2019), "宇宙の誕生と進化", 放送大学市教育振興会
[6] 丸山茂樹(2020), "最新 地球と生命の誕生と進化 :[全地球史アトラス]ガイドブック", 清水書院
[7] 丸山茂徳, 磯崎行雄(1998), "生命と地球の歴史", 岩波書店
[8] 丸山茂徳(2018), "地球史を読み解く", 放送大学教育振興会
[9] デイヴィッド・クリスチャン監(2017), "ビッグヒストリー大図鑑 :宇宙と人類 138億年の物語", 秋山淑子, 竹田純子, 中川泉, 森富美子訳, 河出書房新社
[10] 大森聡一, 鳥海光弘(2016), "ダイナミックな地球", 放送大学教育振興会
[11] 森山茂(1998), "自己創成するガイア -- 生命と地球は強制によって進化する--", 学習研究社

tag : フューチャーリテラシ,ミクロ・マクロ・ネットワーク,歴史,宇宙誕生,地球誕生,書籍紹介

未来創造につながる「過去」からの連鎖:ダイジェスト

 『フューチャー・リテラシー -- エントロピーに抗う相互作用の歴史からヒトの未来を読み解く --』という書籍執筆のための記事の

『前編:「相互作用」と「コミュニケーション」の歴史
一章 【範・縁】:「ミクロ・マクロ・ネットワーク」138億年』
のダイジェスト

「未来」を読み解くために、なぜ過去の歴史を読み解く必要があるのだろう。

1)「未来」は「過去」からの流れの上にある


未来を読み解くときには現在の注目する事象と変化があり、それが起きた要因は過去に、そしてそれが未来へとつながる。可能性の未来を読み解くには、それにつながる過去からの道筋を読み解くことが近道となる。

2)ネットワークの基本的なパターンをつかむ

物理は化学の、化学は生命の、生命は社会のネットワークを構築してプラットフォームとなり、プラットフォームの上に新たなネットワークを構築する傾向がある。

近年のインターネットも、それが普及する段階でWebページのネットワークが構築され、その上にSNSのネットワークが、さら暗号通貨やメタバースのネットワークが構築されようとている。

そうしたネットワークの構築には特定のパターンがあり、それを活用することが未来を読み解く近道となる。

本書では、このネットワークのパターンを「ミクロ・マクロ・ネットワーク」としてモデル化し、チェック項目として活用できるようにする。

3)メタファーとして使う

よく似たパターンが繰り返されるので過去の事象を「メタファー(隠喩、喩え)」として活用すると、突破口となるアイデアが浮かびやすくなる。

それでは、ヒトにいたる過去から現在をふりかえってみよう。

過去を振り返るときは環境の変化と相互作用に着目して、なぜこのときに起こる必要があるのかという視点で統合的にとらえることが肝心だ。

そして、相互作用(コミュニケーション)によるネットワークの構築と、それをベースとするあらたなネットワークの構築の繰り返しに注目する。


1.1 「宇宙」と「地球」の形成

「宇宙」と「地球」のネットワーク形成と相互作用は、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」の基本的な特性を理解するのに役立つ。

宇宙創造における原子ネットワークの複雑化の繰り返しにより、周期表の元素が徐々につくられていく様子を概観しよう。

宇宙の歴史は、より軽い元素の相互作用による原子ネットワークへの記憶と、元素の集団がつくる圧力の変化、元素の創造の繰り返しとして描かれる。

●宇宙のネットワーク
4つの相互作用の均衡が宇宙をつくる
初めての元素の作り方
鉄までの元素の作り方
恒星の生と死の繰り返しのなかでつくられた豊富な元素


さまざまな元素が出そろうタイミングと場所で誕生した地球は、分子ネットワークの実験場となった。最初に岩石が集まり次に水が加わると、分子の相互作用が活性化して複雑な分子ネットワークの形成が加速する。

やがて高分子化合物が誕生すると、地球をより複雑なネットワーク循環システムへと変えていく。

●地球のネットワーク
元素に富んだ岩石惑星「地球」誕生(45億6000万年前)
分子生成の連鎖が、循環する地球システムをつった


1.2 「生命」、「脳」、「ヒト」

原初の異なる単細胞生物の集団が外部環境の変化に適応するためにつくった電子の市場が、神経ネットワークの発端となる。


脳の歴史を読み解くことは、未来に向けたテクノロジーと脳の共進化のロードマップを読み解くことにつながる。


単細胞のネットワークが絡み合って、多細胞の、臓器のネットワークを構築する。輝く大陸棚における軍拡競争がセンサーと神経回路ネットワークの共振化を加速して、環境変化に柔軟に適応する神経ネットワーク=脳を誕生させる。

●脳誕生への道
微生物のコミュニティ
メッセージ物質の相互作用ネットワークがヒトの身体をつくる
生物の実験場となったカンブリア爆発はなぜ起こったのか
五感と脳の共進化
コミュニケーションするサルへの脳進化


ヒトと文化、集団規模とコミュニケーション手段は相互に影響し合い、その複合的な共進化のサイクルがヒトを世界中に拡散し、さまざまな文明を誕生させる。


●文化との共進化への道
二足歩行という無謀な選択
残念な進化と脳の発達
脳と道具の共進化
集団、文化、ヒトの共進化


1.3 激動の波に適応する「社会・経済」


なぜ、産業革命があのタイミングで、イギリスで起こったのか?」という問いは、今起ころうとしている産業革命読み解くために役に立つ。


●国家の形成と産業革命
1万年前になぜ農耕民が誕生したのか
国家の形成に向けた、専門分業と集落間の生存競争
古代都市を循環させる貨幣情報ネットワーク
産業革命はなぜ18世紀にイギリスで始まったのか


★資本主義の閉塞が、新しい産業革命に向けたヒントとなる


●交通・通信インフラとグローバル交易の共進化
前編:古代~産業革命前
後編:産業革命~現代
経済危機に適応する資本主義社会

1.4 ヒトと共進化する「メディアとネットワーク」

 ジミーとベスが相互接続したDynabookで遊ぶ様子     
1972年、Alan Kay, A Personal Computer for Children of All Ages [picture of two kids sitting in the grass with Dynabooks] ©Alan Kay

★「声の言葉」から「書く言葉」「活版印刷」以降に起きた変化は、「文字を読まない」時代に何が起きるかのヒントとなる。


●「言葉」が変わると考え方も変わるということ
考えるってどういうこと?
「コミュニケーション」とともに進化する「言葉」
言葉使いとともに成長する「意識」

●社会と思考を激変させた「文字」
伝搬と記憶をアウトソースする文字
「文字」が古代社会を構築した

●研究は「文字」を書くことによってのみ成立する
「声の言葉」と「書く言葉」、哲学と数学の誕生
「書く言葉」で得たこと、失ったこと
活版印刷と近代的思考法の確立


★「正確な計算を行う機会」の時代に「知的生産のための道具」を生み出した人々の歴史は、未来の常識を生み出す先人たちの歩みだ。


●正確な計算を行う機械
苦悩の歯車コンピュータ
エジソンの光がコンピュータとヒトの未来を灯す

●知的生産のための道具
記憶の拡張装置Memex(メメックス)
ヒトとコンピュータの共生
MacとHyperCardが描いた小世界
【閑話】:ヒトと道具の共生って?メディア論おさらい


オンラインRPGにおけるヒトのふるまいは、未来のメタバース世界でのヒトのあり方のヒントとなる


 ●ヒトを魅了するゲームという仮想世界
 ・ロールプレイングゲームという仮想世界
 ・オンラインRPGという自由物語世界(1997年)

tag : フューチャーリテラシ,複雑系,歴史,ミクロ・マクロ・ネットワーク,

プロフィール

佐藤基

Author:佐藤基
『フューチャー・リテラシー -- 過去・現在・未来、複雑系の未来を読み解く』
を執筆中。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
ブロとも一覧
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR