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ヒトと文化・メディアの共進化

<ポイント>ヒトの初期の歴史をたどることにより,ヒトがなぜ文化とメディア,集団とコミュニケーションを爆発的に発展させるのかという問いへのヒントをもとめる。放射線量の高いオルドヴァイ渓谷が類人猿の実験場となり,一夫一妻の選択がヒトへの道をつくる。「難産」と「二足歩行」という不利な進化が,集団とコミュニケーション能力を発展させて前頭葉を爆発的に拡大する。相互に依存し促進しあう「ヒトと文化・メディア(道具)」と「集団規模とコミュニケーション能力」の共進化サイクルが,「文化・メディア」の発展を驚異的なスピードで加速する。

1.「集団とコミュニケーション能力」の共進化へ

●人類進化の源泉,オルドヴァイ渓谷

今も続く進化のホットスポットのひとつ「アフリカ/グレート・リフト・バレー」。多くの哺乳類の進化をうながし,類人猿からヒトへの分岐は西リフト・バレーと東リフト・バレーに囲まれたオルドヴァイ渓谷にはじまる。

1000~500万年前,地下マントルの上昇によってアフリカ大陸を引き裂くように巨大なグレート・リフト・バレーの谷とそれを囲む高い火山がうまれ,そのいくつかから放射性元素を含むマグマが噴出する

ヒトの祖先たちは,溶岩由来の栄養に富む土壌で繁殖する熱帯雨林に惹かれてオルドヴァイ渓谷に集まり,気づくと周囲を谷と火山に囲まれて渓谷周辺にとどまることとなる。

地形の変化による湿潤な時代と半砂漠化した時代を繰り返し,放射能を含んだ火山の爆発の脅威にさらされ,ゆっくりとサバンナ化する環境変化とともに生活様式と身体を適応させていく。そして,オルドヴァイ渓谷周辺が人類進化の実験場となる

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ウィキペディア(Wikipedia)大地溝帯より
図3.1.1 オルドヴァイ渓谷

●集団とコミュニケーション能力の共進化

440万年前,サバンナ化によって果物の獲得量が減少する時代において,一人の妻と少人数の家族を養って子孫を残すという選択をしたラミダスのなかで,家族のために食物の採集能力をもったものたちが生き残る。

やがて,地面をこえる先にある森林から果物を採取するため,両手でかかえて果物を持ち帰るものたちがあらわれる。果物をかかえる移動を繰り返すうちに,足を使いより多くの食料を運ぶことができるものたちの子孫が増えて直立二足歩行を獲得する

370万年前,サバンナ化の進行とともに食料をもとめて草原に進出し,豆や草の種,葉や茎のほか,地中の根や球根,昆虫,動物の腐肉などさまざまな食べ物にチャレンジする。

草原に出ることで肉食獣に襲われる危険が増え,二足歩行で目立つにもかかわらず足が遅く戦うこともできない。ヒトの草原への進出は,複数の家族が集まって数十人の集団で行動するという,「集団とコミュニケーション能力」の共進化とともに100万年以上の長いときをかけて徐々に進められていく

2.残念な進化が前頭葉を拡大する

生物進化において,生き残る確率を高めた能力がプラットフォームとして残りその上にさまざまな能力を積みあげて,ときに辻褄あわせを繰り返しながら生き残ったものが今にいたる

ヒトの「直立二足歩行」は,サバンナ化する環境で家族を養うために優位だが,その選択がさまざまな課題をうむ。その典型的な課題が,他の哺乳類にはみられない「難産」だ。

「直立二足歩行」のために産道がS字に曲がり,歩くために発達した筋肉が出産のじゃまをして死の危険をおかす難産となる。脳容量の増加にともなう頭の巨大化が難産に拍車をかける。「難産」を避けるために,頭も体も未熟なうちに出産するようになり,親がいつまでも子供の面倒をみることで家族の絆がさらに強まり,長い期間をかけて学習できるようになる

両手で食料を運べるようになったことは,家族を養うために優位にはたらく。そして,見知らぬ食べ物を開拓する「好奇心」が優位となり,チームで協力して獲物を長距離で追い詰めるなどサバンナでの狩猟採集のテクニックを高め,さらに「直立二足歩行」を鍛えるものが優位となる。肉食などにより豊富な栄養を取得できるようになり,大量にエネルギーを消費する「脳」を成長させる。

「二足歩行」と「脳」の発達の優先が,サバンナにおいて脆弱すぎる身体をつくり,集団での狩りを余儀なくさせる。それを補うために高度なコミュニケーションを発達させ,その選択が「二足歩行」と「脳」を発達させる。

「二足歩行」は性器を隠してしまう。性器が隠れてしまうと発情期を検出しにくくなり,やがて発情期を喪失する。発情期がわからない状態でパートナーを探さなければならなくなり,双方の「コミュニケーション」によって交尾の意思表示ができたものが生き残る

「二足歩行」「栄養獲得」「集団形成」「コミュニケーション」「脳」の共進化サイクルがぐるぐると回った結果,「脳」をさらに巨大化していくこととなる

「脳容量」は,440万年前のラミダスが300ccでチンパンジーの400ccよりも少ない。さらに250万年かけて2倍に(ハビリス),次の100万年で3倍に(エレクトス),それからわずか80万年後の20万年前に現代人=ホモ・サピエンスが5倍の脳を獲得する。長い辻褄あわせの共進化サイクルをへて,脆弱な体を補う特殊な「脳」を獲得したのがヒトという動物だ

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図3.2.1 脳容量の変化

3.「ヒトと道具」の共進化

生命は環境変化に対処し,世代を超えて記憶する手段として「遺伝子」と「進化」の仕組みを構築した。そして,ヒトは環境変化に対処し,世代を超えて記憶する手段として「ヒトと道具」の共進化の仕組みを構築する。

●「脳」と「道具」の共進化

「好奇心」が新たな環境への進出をうながし,変化する環境に「道具」を使って適応する。「道具」は環境変化に適応する手段としてだけでなく,世代を超えて受け継ぐ記憶手段でもある。「道具」の利用方法は「道具」を介して大人から子供に受け継がれ,また「道具」を利用するものによって「再構築」「改良」される。

「道具」はヒトの能力を拡張するとともに,エネルギーを効率的に利用するために「身体」の進化をうながす。特に,「道具」をより良く活用し,新しい「道具」をうみだす「脳」の仕組みを獲得したものが,豊富な栄養を獲得して生存する。「脳」は生存のために有益な内外情報の統合・翻訳・編集・フィードバックのための「感情」,「知性と論理」,「愛情」,「創造と美意識」「記憶」を徐々に獲得し,「道具」を使って得たエネルギーがそれをささえる

「脳」が新たに獲得した脳力は,新たな「好奇心」をうみ行動領域を拡大し,新たな「道具」をうみだす。「愛情」・「感情」がそれを欲し,「創造と美意識」がそれを発想し,「知性と論理」がそれを構築し,それの利用方法を「記憶」する。「道具」と「脳」の共進化がやがて家族への愛情を深め,集団での狩りを効率化し,ついには宗教や音楽や会話によって団結力を高める。

●ヒトと道具が紡ぐメタ進化

・「石器」は「牙」をアウトソースする
「石器」は死体の皮を切り裂き,固い骨から滋養に富んだ骨髄を手にいれ,地中から炭水化物の豊富な芋を掘り,木の実を砕き,滋養に富んだ栄養の獲得を可能とする。

「石器」の利用は,「犬歯」を縮小し,手先の器用なもの,多彩な活用方法をうみだしたものを優位にした。

・「衣類」は「体毛」をアウトソースする
「衣類」は長距離走で獲物を追い詰める際の発汗のために縮小した「体毛」を補い,「服を着替える」ことにより寒暖変化への対応を可能とする。
「衣類」の利用は,巨大化した「脳」を冷却するために「体毛」を縮小し,太陽光の強弱に皮膚の色素で対応するものを優位にした。
・「火」は「消化器」をアウトソースする
「火」は繊維質で筋がある肉を柔らかくし,芋や実の加熱調理により食べる量を増やし,栄養を吸収しやすくする。有毒な植物の毒を消し,寄生虫や菌を退治し,肉食動物を遠ざけ,極寒の季節に暖を提供する魔法まで備えている。
「火」の利用は,犬歯と顎の筋肉と「消化器」を縮小し,毒や菌に対する抵抗力を弱め,吸収した豊富な栄養を使って周囲の環境変化にうまく対処できるよう「脳」を進化させたものを優位にする。
・「言葉」は「知性と論理」をアウトソースする
「言葉」は内外情報や「感情」,「愛情」,「創造と美意識」「知性と論理」「記憶」を統合・翻訳・編集・フィードバックし,対処を判断し,フィードバックするための手段を提供する。
「言葉」の利用は,「知性と論理」の思考様式をつくり,世代を超えて記憶し,大人から子供へ受け継がれ,また「言葉」を利用するものによって「再構築」し,他者とのコミュニケーションにより「改良」するものを優位にする。本能による瞬時の行動に割り込み遅延をもたらすが,舌,顎,喉頭,気道の利用をチューニングして「知性と論理」により適当な行動を選択し,「感情」,「愛情」,「創造と美意識」「記憶」そして「知性と論理」を「知性と論理」により適当にコントロールする「脳」を進化させたものを優位にした。

やがて「道具」は20万年前にホモ・サピエンスという器をつくる。6万年前にアフリカから世界各地に広がったそのとき,「道具」と「脳」の連鎖の爆発により想像力と創造力を開花した「ヒトと道具」の共進化は,互いに影響を与えあいながら,驚異的な適応速度を獲得し,現代,そして未来につながるメタ進化の道を紡いでゆく

4.「ヒトと文化・メディア」の共進化

集団内で技術や社会習慣などの文化・メディア(道具)を記憶・学習する能力を得たことがサルからヒトへの分岐点となる。老人の知恵や道具として維持し継承する文化・メディアの記憶は,集団としての新しい生命進化の手段となっていく

●「ヒトと文化・メディア」の共進化

ヒトが創造するものは道具・技術だけではない,調理方法や言語,獲物や脅威に対する知識,狩猟や調理などのノウハウ,集団を円滑に運用するための社会習慣や社会規範,宗教,芸術がある。これらの集団で獲得し継承するものを総称して「文化・メディア」と呼ぶこととする。

「文化・メディア」の対象: 道具,技術,知識,ノウハウ,社会習慣・規範,宗教,芸術など

ヒトと文化の遺伝子は,共進化の関係にある。例えば,調理とヒトについて考えてみよう。

調理の進化:
・石器を使って食材をきざむ
・消化しやすくなり
 ➡エネルギー獲得量が増加
 ➡歯,口,顎の筋肉,胃・腸が縮小
 ➡消化に要するエネルギー量が減少
・エネルギー獲得量が増える
 ➡処理能力の高い「脳」を維持
 ➡文化生成にかかわる「前頭葉」を中心に脳が拡大
・調理方法を工夫する ➡新しい調理方法を創造する
 ex. 加熱する,干す,挽く,水にさらす

この循環を繰り返すことにより,ヒトと調理は共進化する。

ヒトの進化が新しい文化・メディアをうみ,新しい文化・メディアがヒトの進化を促進する。

「ヒトと文化・メディア」共進化の例:

狩猟:
狩猟のための道具や技術➡扱う技能➡技能を獲得する脳力, 獲物の追跡➡追跡や長距離走のノウハウ➡長距離走のためのヒトの身体構造➡ランニングフォーム, 集団行動のルール➡ルールを守る感情, 水容器➡発汗作用による冷却➡水場探索ノウハウ, 動物行動に関する知識➡知識を学習・活用する脳➡若者の育成➡知識の伝承
社会規範:
先祖伝来の知恵に従う➡集団としての生存能力が向上➡生存に優位な規範を継承➡規範の整備, 制裁と報酬➡制裁による淘汰➡規範に従う・守る脳力(報酬系など)➡協力行動, 利他行動
コミュニケーション:
顔の無毛化と表情・白目と視線・身振り➡コミュニケーション脳力➡密な連携➡道具の製作・使い方の伝搬・質の向上➡道具の複雑化・高度化➡コミュニケーション手段の開拓・複雑化➡コミュニケーション脳力の成長・進化➡集団での狩り➡太鼓などの遠隔通信
脳力(前頭葉):
創造力・発明の必要➡便利な道具➡指先の進化➡道具の高度化➡模倣・学習・計画・記憶・論理➡学習の動機付け(報酬系), 道具の再構築➡推測・分析・論理, 道具へのアウトソース➡身体弱体化➡脳へのエネルギー増加➡新しい道具の創造
言語:
言語による集団運営➡言語を喋るための身体構造➡文化・メディアの複雑化➡語彙の増加・文法の複雑化➡言語学習脳力➡言語学習のための社会習慣➡覚えやすい語構造

●「集団の規模」と「コミュニケーション能力」

ヒトが文化・メディアを形成・維持するためには,「集団の規模」と「結びつきの強さ=集団のコミュニケーション能力」が必要条件となる。

石器の発明について考えてみよう。旧石器時代の初期に,鋭利なナイフのような石器をつくる大天才が1人いたとする。しかし,その技術を受け継ぐものがいなければ,うみだされた新石器はただの宝物でしかなく,壊れてしまえば技術は失われてしまう。

新しい技術文化・メディアが維持されるためには,
「技術を創造するもの➡その技術を代々受け継ぐもの➡その技術を代々使いこなすもの」が必要となる。

新しい文化・メディアを継承するために必要な人材:
・創造者: 新しい技術を創造するもの
・継承者: その技術を代々受け継ぐもの
・使用者: その技術を代々使いこなすもの

創造者・継承者・使用者が発生し,時空間上で出あう確率は「集団の規模が大きく,集団内でのコミュニケーション能力が高い」ほど高くなり,新しい文化・メディアをうみだし維持するために優位となる。

集団の規模が拡大するということは,その集団にヒトが集まり養える生存優位性があり,何より獲得・維持するエネルギー源が豊富に存在するということだ。

集団の拡大要因: 
生存に優位な道具・スキル・ノウハウを保有し続けること
・狩猟採集:
狩猟採集のための武器,狩猟採集知識・技術,チームワーク
・調理:
食料保存法,毒抜き,消化に良い調理法
・集団運用:
集団を円滑に運用するための規範・ルール,作業分担
・子育て:
一夫一妻,子育ての分担,育児ノウハウ
・知識の維持:
知恵のある族長・老人の優遇,熟練者による若者の育成

そして,集団の規模拡大の限界は,集団が保有する文化・メディア水準により得られる食料の量と集団の円滑な運営状況により決定される

集団の規模は,集団内のコミュニケーション能力が高く構成メンバー間の結びつきが強くなければ維持できない。集団のコミュニケーション能力もまた,構成メンバーの規模と密度に応じて言語・楽器・通信・交通などの文化・メディアの成長にともない進化する。



「集団の規模」と「コミュニケーション能力」が「ヒトと文化・メディア」の共進化サイクルを回し,
新たな「文化・メディア」が継承されて「集団の規模」と「コミュニケーション能力」を強化する。


●文化・メディア習得マシンとしての集団脳


文化・メディアが進化するためには,文化・メディアの記憶や学習のための習慣や感情が必要となる。これらは,集団のなかでどのようにしてうまれるのだろうか。

集団による文化・メディアの記憶と学習システム:
・記憶: 老人の知恵,文化・メディアの継承,モノによる記録・複製・読みだし
・学習: 育児・育成のための感情や習慣

日常生活に関するノウハウや生き残るための最小限の知恵は,集団の最小単位である家族を単位として記憶し,個人にきざまれ,次世代に継承する。

狩猟採集や調理などのスキルや習慣を習得,蓄積,整理する能力を向上したものは,より生き残りやすくなる。霊長類から受け継いだ支配者に従う心理や習慣をベースとして,生存に有利な脳力が選択され,積みあげられていく。

スキルや習慣を習得するための脳力:
・学ぶ側に必要な能力・習慣:
 - 手本にすべき相手を選択,模倣
 - 情報・知識を収集,活用
 - 論理的な理解,応用
 - 手本となるもの,リーダーに対する敬意の感情・習慣
 - 学ばなかった場合の失敗体験の記憶
・教える動機となる能力・習慣:
 - 誇り,ステータスに対する報酬感情
 - 教えるものに報酬を与える社会習慣の維持
  社会的な地位,手伝い,贈り物,名声など

これらを実行するための脳力を獲得したものが多い集団が生き残り,その繰り返しにより文化・メディアを記憶し学習するための能力や習慣を集団で獲得する。集団が保有する文化・メディアは集団毎に異なり,それを維持することが集団にとって有利となることから同族・民族意識がうまれる

こうした営みの繰り返しがヒトのライフサイクルにも影響を与える。

ヒトのライフサイクルの獲得:
・妊娠期:
 ➡体内で脳を拡大
 長い妊娠期間,妊婦を守る習慣
・幼児期: 
 ➡前頭葉が拡大
 脳の学習・拡大に集中し,身体の成長を遅らせる
・思春期: 
 ➡リスクよりも好奇心,絶縁皮膜で脳内に高速通信路を生成
 性的成熟期,身体を急速に成長,大人を見習いながら技術や知識を習得
・30代後半: 
 ➡脳内の高速通信路設置完了
 獲物をしとめる確率が最大,学習能力が低下,若者の育成
・老人:
 文化・メディアの伝承者として閉経後も寿命を延ばす

集団における文化・メディアの記憶を継承して再構築することにより,世代を超えて文化・メディアを継承し伝搬していく。

●加速する共進化サイクル

「ヒトと文化・メディア」,「集団規模とコミュニケーション能力」の相互作用が編む共進化のサイクルが集団に優位な文化・メディアをうみ,集団の規模を拡大し,新しい文化・メディアの創造がコミュニケーション能力を高め,文化・メディアとヒトの共進化を加速する。



相互に依存し促進しあう「ヒトと文化・メディア」と「集団規模とコミュニケーション能力」の共進化サイクルが,
「文化・メディア」の進化を驚異的なスピードで加速する。


●「文化・メディア」へのアウトソースによる高速進化


ヒトは能力や脳力を文化・メディアにアウトソースすることにより,集団のなかに時空間をこえて知識と知恵を記憶する。そして,外部環境に適応して集団を優位にした文化・メディアが,生存競争に勝利して後の世に伝えられる。

ヒトは遺伝子によらない,後天的な進化の手段を獲得した。文化・メディアを文化遺伝子(ミーム)として継承するヒトは,文化・メディアへの能力や脳力のアウトソースによって,10年,100年単位での急速な進化を可能とする。

集団規模拡大の壁の内側で,道具と調理法を工夫し,言語の語彙を増やし,文法を整備・複雑化して表現力を増し,知識を整理し,社会規範を整備し,宗教を広め,組織構造を整備してコミュニケーション・ネットワークを張り巡らせて次の共進化爆発のときをまつ。

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図3.4.1 集団における「ヒトと文化・メディア」の共進化


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【参考書籍】
[1] 丸山茂徳(2018), "地球史を読み解く", 放送大学教育振興会
[2] 丸山茂樹(2020),"最新 地球と生命の誕生と進化:[全地球史アトラス]ガイドブック", 清水書院
[3] ティス・ゴールドシュミット(1999), "ダーウィンの箱庭 ヴィクトリア湖", 草思社
[4] NHKスペシャル「人類誕生」制作班(2018), "NHK スペシャル 人類誕生", 馬場悠男監修, 学研プラス
[5] NHKスペシャル「人類誕生」制作班(2018), "大逆転! 奇跡の人類史", 馬場悠男, 海部陽介監修, NHK出版
[6] 松沢哲郎(2018), "分かち合う心の進化", 岩波書店
[7] 更科功(2019), "残酷な進化論 :なぜ私たちは「不完全」なのか", NHK出版
[8]デズモンド・モリス(1999), "裸のサル :動物学的人間像", 日高敏隆訳, 角川文庫
[9] アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社
[10] ジャレド・ダイアモンド(2015), "若い読者のための第三のチンパンジー :人間という動物の進化と未来", 秋山勝訳, 草思社
[11] リチャード・ランガム(2010), "火の賜物 :ヒトは料理で進化した", 依田卓巳訳, NTT出版株式会社
[12] ジョセフ・ヘンリック(2019), "文化がヒトを進化させた :人類の繁栄と<文化-遺伝子革命>", 今西康子, 白揚社
[13] リチャード・ドーキンス(2006), "利己的な遺伝子", 日高敏隆, 岸由二, 羽田節子, 垂水雄二訳, 紀伊国屋書店
[14] M.マクルーハン(1986), "グーテンベルクの銀河系 :哲学人間の形成", 森常治訳, みすず書房
[15] ジャレド・ダイアモンド(2000), "銃・病原菌・鉄",倉骨彰訳 , 草思社
[16] セザー・ヒダルゴ(2017), "情報と秩序 :原子から経済までの動かす根本原理を求めて", 千葉敏生訳, 早川書房
[17] アンドレ・ルロワ=グーラン(1973), "身ぶりと言葉", 荒木亨訳, 新潮社

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生命のネットワークと「脳」の共進化

<ポイント>生命のネットワークの歴史をたどることにより,ヒトにいたる根源的な性質を見きわめる。生命は,先祖が環境に適応するために獲得した連携ネットワークの性質・能力を遺伝子に記憶しプラットフォームとして引き継ぎ,その上に新たなネットワーク構造を積みあげる。38億年かけて進化したヒトにおいても,原初の単細胞の性質を忘れずに継承している。やがて生命は,後天的に外部環境に適応するためのネットワーク組織=「」をつくり,新たな共進化の構造を組み上げる。の歴史を読み解くことは、未来に向けたテクノロジーとの共進化のロードマップを読み解くことにつながる。

1.微生物のコミュニティ

38億年前,核のない単細胞の細菌(古細菌,真正細菌)が誕生した。最も単純な生命である細菌はコロニーをつくり,細菌間のコミュニケーションにより協調して環境に適応しながら生存競争を生きのびたのだった。

●細胞間での最初の情報交換=遺伝子交換

生命初のコミュニケーションは,細菌間での遺伝子の交換だ。細菌は,細胞分裂により増え続ける。細胞核が存在しないため,細菌間での遺伝子の交換が発生しやすく短期間に遺伝子が伝搬する。遺伝子の交換は細菌の接触による交換だけでなく,死によっても拡散する。群生するコロニーが遺伝子組み換えの実験場となり,1種類の細菌から膨大な種類の細菌を派生させる進化の原動力となる。

●細菌のコロニー内でのコミュニケーション

原初の細胞間での化学物質による情報交換は,栄養の乏しい場所でエネルギーを効率よく取得するために細菌のコロニーにおいて発生した。細菌の生存戦略は,ニッチな栄養源と場所を開拓し,他の細菌を抗生物質により抑制し,それを防ぐ防護壁(細胞壁,粘液性の皮膜)を構築することにある。戦略選択の繰り返しは,自律的に共生する複数種類の細菌による群生=コロニーの形成をうながす

初期のコロニーは,ある細菌の排泄物を別の生物が再利用ことにより発生する。これをつなげることによりエネルギー摂取の連鎖ができ,電子をやりとりする電子市場が構築される。例えば,メタン菌が水素と二酸化炭素からメタンを発生させ,別の菌がそのメタンを食べて二酸化炭素と水素を排出する。異なるコロニーどうしが闘いあうこともあるが長期的には均衡状態を探りあうことになる

二酸化炭素,メタン,二酸化硫黄,硫化水素,窒素などの生産-消費連鎖をつくるが,再利用の環を完璧に均衡することは難しく,電子市場の効率的な均衡を探索し続けることにより複雑化する。さらに,外部環境に適応した細菌からの遺伝子の供給により,コロニー全体が外部環境に適応するよう進化する。

●微生物の社会

現代の微生物のコロニーでは,微生物どうしで神経細胞のようなイオンチャネルによる電気信号伝達を利用してコミュニケーションをおこなっている。血管や神経路の代わりに浮遊する分子によって情報伝達することによりコロニー内の位置を把握し,周囲の環境の情報(浸透圧,pH,湿度など)を処理し,他の生物との競争に役立つ物質を合成してコロニーを防衛して,養分の再利用の効率を上げるように空間分布を修正する。微生物のコロニーとしては,腸内や口内フローラや,免疫や抗生物質に抵抗する細菌のバイオフィルムなどが知られている。

2.メッセージ物質のネットワークがヒトの身体をつくる

単細胞生物の化学物質によるコミュニケーション・ネットワークは,多細胞生物にも継承され,より複雑で自律分散で会話する細胞・臓器ネットワークとして進化した。

●胎児をつくる細胞間の自律分散ネットワーク

ヒトの身体は,たったひとつの受精卵が細胞分裂することにより形成される。細胞分裂して数が増えていくにつれて内側と外側の立体構造がつくられ,ついに最初の分化がおこる。1つの細胞が他の未分化の細胞に向けて,違う細胞に分化するようメッセージ物質(化学物質)を送るとつぎの分化がはじまる。

新しくできた細胞が他の細胞に向けてメッセージ物質を送るという相互作用の連鎖が,次々と発動して身体を形成する。やがて,神経と皮膚をつくる部分,消化器や肺をつくる部分,骨・筋肉・血液をつくる部分の3層構造ができる。

最初の臓器=心臓をつくりはじめると,形成途中の心臓からメッセージ物質を送って肝臓の細胞形成のきっかけをつくる。そして,形成途中の肝臓から心臓に向けて成熟を助けるメッセージ物質が送られる。

相互に同期をとりながらタイミングを合わせて成長し,血管をつくり,血管を伝って臓器どうしのメッセージ物質の伝達ネットワークが構築され,遠い臓器,近くの臓器で相互にコミュニケーションしながら,ヒトという身体を形づくっていく。

●臓器どうしの自律分散ネットワーク

ヒトの身体は,が集中制御をおこなうトップダウンの命令系統だけでなく,臓器どうしのコミュニケーションにより自律分散制御をおこなっている。血管が全身の細胞にメッセージ物質をブロードキャスト(一斉送信)する情報通信網となり,メッセージを受診した臓器や細胞はリツイートもするし炎上することもある

臓器間でかわされるメッセージ:
・心臓が疲れた
 心臓: 一斉メッセージ(心臓が疲れた!)
  ⇒腎臓: 尿を出して血圧を下げる
  ⇒血管: 血管を広げて,内側をきれいにして血液を流れやすくする
・血圧が低いかな?: 投票してね
 腎臓: 一斉メッセージ(血圧が低いんじゃないかな?)
  ⇒肝臓: 一斉メッセージ(いいね!)
  ⇒肺:  一斉メッセージ(いいね!)
  ⇒血管: 血管を収縮して血圧を下げる
・おなかがすいた: への要請
 胃:  一斉メッセージ(おなかがすいた!)
   個別メッセージ(成長ホルモンを出して!)
・運動をすると: 健康になる
 筋肉:
 一斉メッセージ(病気を防いで!)
 骨:  一斉メッセージ(若さを保って!)
・酸素がたりない:連鎖するメッセージ
 腎臓: 一斉メッセージ(酸素が足りない!)
  ⇒骨: 骨髄で赤血球を増産する
      一斉メッセージ(鉄が欲しい!)
   ⇒肝臓: 貯蔵していた鉄を放出
        一斉メッセージ(鉄の吸収抑制をゆるめて!)
    ⇒腸: 鉄分の吸収促進

体内の相互作用のネットワークは,細胞,臓器,共生細菌が多重に絡み合ったメタネットワークとフィードバックループを構築して動的に恒常性を保つ,それがヒトというネットワーク総合体だ。さらに,神経細胞は電気信号と化学物質を組み合わせた高速通信を行い,マイクロRNAを含む大量のメッセージ物質をパッケージにして送り届けるエクソソームという宅配便まで存在する。

3.五感と脳の共進化

6.3億年前,浅瀬の大陸棚が広がり大量の光と栄養塩と酸素が海中にあふれたとき,豊富な素材を活用して繁殖する生命たちの生存競争が新たなステージをむかえる。

●神経組織の誕生

6.3億年前のエディアカラ紀の大陸棚で,急増した太陽光と栄養塩を背景に光合成を行う微生物が大量増殖して酸素を急増させる。

豊富な素材を活用する多細胞生物の最初の戦略は,捕食されない大きな身体を得ることだ。大型化のためには,それを維持するエネルギーが必要となる。「多細胞組織」を使って「エネルギー獲得手段」を構築し,生産したエネルギーをもとにさらに大きな身体をつくる「大型化-エネルギー獲得手段」共進化サイクルがうまれる

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図2.3.1 「大型化-エネルギー獲得手段」の共進化 

「大型化-エネルギー獲得手段」共進化サイクルは,長い年月をかけてさまざまな戦略をうみ環境に適応して選択されてプラットフォーム化し,プラットフォームの上に新たな戦略を構築する。

スポンジのような海水と一体になる形態から,皮膚で外側と内側を分ける戦略への転換が新たな分岐点となる。皮膚を改造して,エネルギーを効率よく獲得する窪みをつくり繊毛により積極的にエサをとりこみ,外側と内側の収縮による移動手段を得る。

やがて,エサに反応して行動するために,「触覚センサー」の入力信号を「行動信号」に変換して「高速通信路=神経組織」により複数の「運動組織」に伝達する連携システムを構築し,新たな構造をボディプランとして改良を加え続ける神経系進化サイクルがうまれる。例えば,口の周辺の触覚を食べる行動につなげ,眼点を使って光を検知し,皮膚刺激に反応して退避する方向への収縮運動を誘発する。

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図2.3.2 「センサー」から「運動組織」への高速信号路

●肉食動物と淘汰圧が「脳」をつくる

カンブリア紀(5.41~4.95億年前)直前に起こった大型生物を捕食する肉食動物の登場が,生存戦略の大幅な変更を余儀なくさせる。

ふりそそぐ大量の光と大陸から流れてくる豊富な栄養塩をもとに,新たな進化を試みる生物たちの壮大な実験場=大陸棚が舞台となる

それまで数十種だった大型の生物がいっきに1万種以上に広がり,現代につながるボディプラン35門に属する生物だけが次の時代に生き残る壮絶な生存競争=「カンブリア爆発」が幕を開ける。

多くの種を絶滅させる淘汰圧は,生物の急激な進化をうながす。肉食動物の一方的な繁殖は,被捕食側を絶滅の危機に追い込む。そしてエサをたべつくしてしまえば肉食動物もまた絶滅してしまう。肉食動物の誕生がきっかけとなり,生態系全体を巻き込んで大幅な戦略変更と新たな均衡の模索がはじまる。

最新の技術を使って個別の部位を革新するだけでは,激しい生存競争を生きのびることはできない。複数の革新的な組織を効率よく連動させることに成功したものだけが,獲物を捕食し,捕食されない身体を獲得して生き残ることができる

膨大なボディプランの改造と生存競争を繰り返し,ついに複数の体組織を連動する「情報統合組織」として「神経集合体=脳」を口近くに形成する

新たなボディプランは「センサー」や「運動組織」の高度な連携を可能とし,さらに生物進化を加速する。そして,移動するエサや脅威をとらえる「眼」,高速に移動する「筋肉」をうみだしたとき大陸棚の軍拡競争がさらに激化する。

●「眼」と「脳」の共進化

あるとき,散在する光受容組織を集め,脳の一部を触覚から視覚に転用してつくりあげた「眼」による狩りがはじまる。最初に「狩りをする眼=鉱物の複眼」を獲得したのは節足動物であり,脊椎動物の祖先はもっぱら逃げるための戦略として「眼」を活用する。

「複眼」は移動するエサを識別するのに有利な構造だ。節足動物は,多数の「複眼」から得た膨大な視覚情報を統合して「移動するエサ情報」を構築し,それをもとに「追尾行動命令」を生成して高速通信路で「筋肉」に伝え,素早くエサを獲得することにより優位となる。

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図2.3.3 初期の「脳」の基本プラン


一方,被捕食動物は移動する物体を検知することよりも,最小限のエネルギーで巨大な生物の接近を明暗で検知して逃げることを優先する。皮膚全体に配置した数個の「点眼」を使って全方位から近づく脅威を検知し,海底や岩場への高速移動するための「脳」と「筋肉」の連携を得たものが生き残る。

カンブリア紀の動物たちは,さらに「神経組織」を改良,脂質による絶縁膜とナトリウムイオンによるデジタル高速通信網を整備し,カルシウムイオンによる終端制御や筋収縮により瞬時の行動を可能とする。「神経系」制御の高速化は俊敏な移動を可能として,追われる側に大きなプレッシャーをかける。

●「カメラ眼」と「空間情報(マップ)」の共進化

カンブリア紀(5.41~4.95億年前)からシルル紀(4.44~4.19億年前)をへてデボン紀(4.19~3.59億年前)に入るころ,脊椎動物の魚類が丈夫な顎と遺伝子重複により「カメラ眼」を手にいれて,活発な肉食をおこなうようになる。

「カメラ眼」は,レンズを使って鮮明な像をとらえる眼であり,海底の地形やエサ・脅威の正確な空間情報を取得可能となる。「カメラ眼」から入ってくる膨大な情報を使いこなすためには「脳」の進化も必要となる。「カメラ眼」と「脳」の共進化により,眼・耳・皮膚から得た情報を統合して「空間情報(マップ)」を形成し,より正確にエサ・脅威の情報を得て行動できるようになる

「カメラ眼」と「空間情報(マップ)」処理の共進化は眼を巨大化するとともに,それぞれの感覚からの入力情報を統合処理して「感情・本能」に変換し,刻々と変化する環境に素早く反応する即応連携シーケンスを構築する

脳の「感情・本能」による即応連携シーケンス:
1)視覚運動:眼を動かし,ピントを合わせ
2)感覚:対象の形や動きを認識してエサと脅威を区別し
3)注意:エサ・脅威に選択的に注意を向けて
4)感情:対象を評価,「喜び」や「恐れ」の感情に変換して,
5)統合行動:対象に身体を向けて,もしくは対象から避けるよう移動する

脳による即応連携シーケンスを構築した魚類は,「顎の強化-大型化」共進化サイクルを進め,節足動物を凌駕するようになる。

●「嗅覚」と「本能・記憶」の共進化

魚類が「嗅覚」を得たことが次の転換点となる。「嗅覚」はエサや脅威のまきちらした化学物資の痕跡を識別・記憶し,過去の記憶にもとづいて思い出し,その場所をエサ場としたり避けたりするために有効だ。

このため,嗅覚は他のセンサーとは異なるルートで脳と連携し,嗅覚とともに行動シーケンスを誘発する「感情・本能」と「記憶」をつかさどる脳の部位が共進化することで,より狡猾に生き残ることに成功する

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図2.3.4 脊椎動物の「脳」の基本構造

太古にうまれた「感情」は,ヒトの「意識」のベースとなり,同時に発生する五感・内感とその「相互作用」を評価し即時の対処をうながす即応装置として発動する


これにより,ヒトにつながる外部情報統合にかかわる脳のボディプランはおおむね完成した。以降,生活環境を陸上に移し,環境との相互作用により五感・内感の情報統合組織として大脳を発達させてゆくこととなる。

陸に上がった多細胞生物もまた,体内組織間の共進化を繰り返すことにより新たな連携ネットワークをつくり生存に有利なものをボディプラン=プラットフォームとして残し,その上に新たな仕組みを組み上げ,必要ならば別の用途に転用して体組織の複雑なネットワーク構造を編み上げてゆく

4.コミュニケーションするサルへの「脳」進化

生命が誕生して以降,急激な環境変化によりほとんどの生命が絶滅する大量絶滅が5回発生した。大災害が急激な進化を促進し,環境に適応した生物種が勢力図を書き換える。

●上陸にせまられる魚類

3億7000万年前の海洋生物の大量絶滅は海からの脱出=上陸を加速し,魚類から両生類への進化をうながす。使わなくなった浮き袋を肺に転用し,ヒレを手足に代える。

上陸して一気に広がる視界,匂い,音,そして地面の感触を活用したものが生き残る。陸環境に適応して,五感による空間情報形成と記憶・学習と感情・本能による情報の統合制御を徐々に複雑化・高度化し,多様な生命デザインを地上に広げる

●恐竜を避けて生きのびる哺乳類

2億5000万年前,生命史上最大の大量絶滅が発生する。太陽系が暗黒星雲と衝突したことをきっかけに発生した極寒期により動植物が絶滅し,続いて酸素濃度が大幅に低下する。ほとんどの生命が死滅し,大量の酸素に適応した肺をもつ哺乳類の祖先たちに大打撃を与える。

恐竜が低酸素濃度でも生きのび大繁殖したのは,現代の鳥に継承される常に新鮮な酸素で満たされ循環する肺構造を進化させていたからだ。残念ながら,哺乳類の肺は,酸素を吸う経路と吐き出す経路が同じ気管を共有しているため低酸素濃度に弱い。

恐竜が繁栄する時代,哺乳類の祖先は小型のトガリネズミのような外見の夜行性となり,肉食の恐竜たちを避けてかろうじて生きのびる。かつて,昼間の光のなかで視力を活用して構築した「空間情報(マップ)」の生成脳力は嗅覚に置き換えられ,匂いの記憶と明暗や触覚というわずかな情報からエサと脅威を感知する脳と五感と「記憶・感情」を研ぎ澄まして「空間イメージ」を組み立てる

●恐竜絶滅と哺乳類の広がり

6600万年前,再び起こった太陽系と暗黒星雲の衝突をきかっけとする極寒期により恐竜などの絶滅が進み,続く巨大隕石の落下が残ったものたちにとどめをさす。そしてわずかに生き残った生命にふりそそぐ宇宙線が,新たな種の進化を加速する。

大量絶滅の後に世界に広がる哺乳類の最大の特徴は,体内外での子育てと,環境変化に合わせて脳を拡張する柔軟性だ。子育てと脳を共進化させることにより,妊娠期間・育児期間が長くなるほど巨大化できる脳構造=大脳皮質のしわ・層構造を獲得する。

脳を巨大化して維持するためには生涯にわたる大量のエネルギー供給が必要となる。効率の良いエサの獲得・体内外育児の負担と,巨大な大脳を活用した賢い行動・体内コントロールがトレードオフとなり共進化し,あらゆる環境に適応して戦略を変えて苛烈な生存競争に生き残り広がっていく

脳をささえる体内機構も共進化する,赤血球の核を除いて脳へのエネルギー運搬を高効率化したのは哺乳類だけだ。学習能力と判断能力を強化し,出産後の環境に合わせて脳回路を編集して,忍び足で近づき俊敏に襲うもの,遠距離の脅威を感知してジャンプして逃げるもの,樹上で木々を飛び移るものなど賢い脳を活用してさまざまな環境に適応して広がっていく

●樹上で進化する霊長類

○フルカラー視覚がコミュニケーション能力を強化する
6300万年前,ゴンドワナ大陸が分裂し,南米大陸とアフリカ大陸,インド大陸などに分かれ,リフト帯で噴出する放射性マグマの活動が突然変異を誘発し,各大陸での個別の進化を加速してさまざまな生態をもつ生物が広がっていく。

温暖化が広葉樹を広げ,それに適応したサルの祖先が樹上での生活を選び,枝やエサをつかむ手を進化させる。樹上での生活は手足を器用にあやつり,果物の食べごろと腐敗を識別する必要があり,指先の触覚,視覚,嗅覚情報を統合して指・手足の繊細な制御を行うために「学習・判断・制御」脳力,センサー,手足を共進化させる。

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図2.4.1 「学習・判断・制御」する脳の獲得

4000万年前以降,何度も寒冷化と温暖化の波が繰り返す。寒冷化時には飢餓よる闘争が激化し,共同でエサ場を確保して脅威を排除するものたちが生き残る。より多数で連携した集団が優位となるが,そのためには個体を連携するための「コミュニケーション能力」が必要となる

個体数の増加が「コミュニケーション能力」の強化をうながし,声やジェスチャーによる「コミュニケーション能力」の強化が集団の規模を増やす。集団規模の限界をさぐる「集団規模-コミュニケーション能力」の共進化がはじまる

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図2.4.2 「集団規模-コミュニケーション能力」の共進化

3000万年前,樹上でより多くの新鮮な食料を獲得するために赤・橙の識別能力を加えてカラーの眼を獲得した旧世界サル=ヒトの祖先は,肌の色を識別できるようになり顔の肌を露出させて感情変化をよみとる新たな「コミュニケーション」手段を獲得する

○高精細視覚センサーが推論能力を高める
やがて,遠くに熟れた果実を発見し,飛び移る枝を見きわめるために網膜の一部に高精細なセンサーを搭載するサルがあらわれる。眼球とともに高精細視覚センサーを縦横に動かすことにより,注力した部分をはっきりと認識する。以降,高精細センサーの範囲を広げるのではなく,生きるために有効な情報をフィルタリングするために,立体視などとともに脳力により全体像を推論する「錯視」を強化する方向に進化したものが生き残っていく

高精細な視覚はより詳細に表情を認識することを可能とし,より繊細な「コミュニケーション」を可能とする。


「錯視」は脳の暗黙の推論能力を強化し,脳内に「仮想イメージ」と「仮想物語」をつくる脳力を構築して,コミュニケーション・社会行動などの統合制御を強化していく


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図4.4.3 仮想的なイメージと物語をつくる脳

シャープな視覚,両眼による立体視,フルカラー画像,そして錯視を得たサルは,高いコミュニケーション能力により集団を維持・運用し,推論により「仮想イメージ」と「仮想物語」を構築する賢いサルへと進化してゆく



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【参考書籍】
[1]ポール・G・フォーコウスキー(2015), "微生物が地球をつくった :生命40年億年の主人公", 松浦俊輔訳, 青土社
[2]ベンジャミン・マクファーランド(2017), “星屑から生まれた世界 :進化と元素をめぐる生命38億年史“, 渡辺正訳, 化学同人
[3]アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社
[4]中西直人編(2017), "微生物の驚異 :マイクロバイオームから多剤耐性まで:細菌も電気通信で会話", 別冊日経サイエンス, p47, 日系サイエンス
[5] 丸山優ニ; NHKスペシャル「人体」取材班(2019), "人体 神秘の巨大ネットワーク 臓器たちは語り合う", NHK出版
[6] 大隈典子(2017), "脳の誕生 :発生・発達・進化の謎を解く", ちくま書房
[7] 植田和貴(2021), "[日系BPムック] ダーウィンが来た! 生命大進化 :第1集 生き物の原型が作られた(古生代から中生代 三畳紀)", 日経ナショナルジオグラフィック社
[8] アンドリュー・パーカー(2006), "眼の誕生 :カンブリア紀大進化の謎を解く", 渡辺政隆, 今西康子訳, 草思社
[9] 坂井建夫, 久光正監修(2011), "ぜんぶわかる 脳の事典", 成美堂出版
[10] トッド・E・ファインバーグ, ジョン・M・マラット(2017), "意識の進化的起源 :カンブリア爆発で心は生まれた", 鈴木大地訳, 勁草書房
[11] 丸山茂徳(2018), "地球史を読み解く", 放送大学教育振興会
[12] 丸山茂樹(2020),"最新 地球と生命の誕生と進化:[全地球史アトラス]ガイドブック", 清水書院
[13] 大森聡一(2021), "改訂版 ダイナミックな地球", 放送大学教育振興

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集団、文化、ヒトの共進化

 集団内でノウハウや社会習慣などを文化として継承する能力を得たことがサルからヒトへの分岐点となる。文化を老人の知恵や道具として継承する文化の記憶は、集団としての新しい生命進化の手段となっていく。


●文化とヒトの共進化


 ヒトが創造するものは道具・技術だけではない、調理方法や言語、獲物や脅威に対する知識、狩猟や調理などのノウハウ、集団を円滑に運用するための社会習慣や社会規範、宗教、芸術があり、これらの集団で獲得し継承するものを総称して「文化」と呼ぶ。

 文化の対象: 道具、技術、知識、ノウハウ、社会習慣・規範、宗教、芸術

 文化とヒトの遺伝子は、共進化の関係にある。例えば、調理とヒトについて考えてみよう。

調理の進化:
・石器を使って食材を刻む
・消化しやすくなり
 ⇒エネルギー獲得量が増加
 ⇒歯、口、顎の筋肉、胃・腸が縮小
 ⇒消化に要するエネルギー量が減少
・エネルギー獲得量が増える
 ⇒処理能力の高い「脳」を維持
 ⇒文化生成にかかわる「前頭葉」を中心に脳が拡大
・調理方法を工夫する⇒新しい調理方法を創造する
 ex. 加熱する、干す、挽く、水にさらす

 この循環を繰り返すことにより、調理とヒトは共進化する。

ヒトの進化が新しい文化をうみ、新しい文化がヒトの進化を促進する。

「文化とヒトの共進化」の例:
・狩猟
 狩猟のための道具や技術⇒扱う技能⇒技能を獲得する脳、獲物の追跡⇒追跡や長距離走のノウハウ⇒長距離走のためのヒトの身体構造⇒ランニングフォーム、集団行動のルール⇒ルールを守る感情、水容器⇒発汗作用による冷却⇒水場探索ノウハウ、動物行動に関する知識⇒知識を学習・活用する脳⇒若者の育成⇒知識の伝承
・社会規範
 先祖伝来の知恵に従う⇒集団としての生存能力が向上⇒生存に優位な規範を継承⇒規範の整備、制裁と報酬⇒制裁による淘汰⇒規範に従う・守る脳力(報酬系など)⇒協力行動、利他行動
・コミュニケーション
  顔の無毛化と表情・白目と視線・身振り⇒コミュニケーション脳力⇒密な連携⇒道具の製作・使い方の伝搬・質の向上⇒道具の複雑化・高度化⇒コミュニケーション手段の開拓・複雑化⇒コミュニケーション脳力の成長・進化⇒集団での狩り⇒太鼓などの遠隔通信
・脳力(前頭葉)
  創造力・発明の動機⇒便利な道具⇒指先の進化⇒道具の高度化⇒模倣・学習・計画・記憶・論理⇒学習の動機付け(報酬系)、道具の再構築⇒推測・分析・論理、道具へのアウトソース⇒身体弱体化⇒脳へのエネルギー増加⇒新しい道具の創造
・言語
  言語による集団運営⇒言語を喋るための身体構造⇒文化の複雑化⇒語彙の増加・文法の複雑化⇒言語学習脳力⇒言語学習のための社会習慣⇒覚え易い言語構造


●集団の規模と結びつきの強さ

 ヒトが文化を形成するためには、「集団の規模」と「結びつきの強さ」が必要条件となる。

 石器の発明について考えてみよう。旧石器時代の初期に、鋭利なナイフのような石器を創る大天才が1人いたとする。しかし、その技術を受け継ぐものがいなければ、生み出された新石器はただの宝物でしかなく、壊れてしまえば技術は失われてしまう。新しい技術は、技術を創造するもの>その技術を代々受け継ぐもの>その技術を代々使いこなすものが必要となる。

新しい技術を継承するために必要な人材:
・創造者 新しい技術を創造するもの
・継承者 その技術を代々受け継ぐもの(再構築するものを含む)
・使用者 その技術を代々使いこなすもの


 創造者・継承者・使用者が発生し、時空間上で出合う確率は「集団の規模が大きく、集団内での結びつきが強い」ほど高くなり、新しい道具をうみだし維持するために優位となる。

 集団の規模が拡大するということは、その集団にヒトが集まり養える生存優位性があり、何より獲得・維持するエネルギー源が豊富に存在するということだ。

集団の拡大要因: 
 生存に優位な道具・スキル・ノウハウを保有し続けること
・狩猟採集
  狩猟採集のための武器、狩猟採集知識・技術、チームワーク
・調理
  食料保存法、毒抜き、消化に良い調理法
・集団運用
 集団を円滑に運用するための規範・ルール、作業分担
・子育て
 一夫一妻、子育ての分担、育児ノウハウ
・知識の維持
 知恵のある族長・老人の優遇、熟練者による若者の育成
 
 そして、集団の規模拡大の限界は、集団が保有する文化水準により得られる食料と集団の円滑な運営状況により決定される。

 集団の規模は、集団内のコミュニケーション能力が高く、構成メンバー間の結びつきが強くなければ維持することはできない。集団のコミュニケーション能力もまた、構成メンバーの規模と密度に応じて言語・楽器・通信・交通などの文化の成長にともない進化する。「集団の規模」と「結びつきの強さ」が、文化とヒトの共進化サイクルを回し、新しく生み出されて継承された文化が「集団の規模」と「結びつきの強さ」を強化する。


●文化習得マシンとしての集団脳


 文化が進化するためには、文化の記憶や学習のための習慣や感情が必要となる。これらは、集団のなかでどのようにしてうまれるのだろうか。

集団による文化の記憶と学習システム:
・記憶 老人の知恵、道具・規範による記録・複製・読みだし
・学習 育児・育成のための感情や習慣

 日常生活に関するノウハウ、生き残るための最小限の知恵は、集団の最小単位である家族を単位として記憶し、個人に刻まれ、次世代に継承する。

 集団のなかで狩猟採集や調理などのスキルや習慣を模倣し、習得、蓄積、整理する能力を向上したものは、より生き残りやすくなる。霊長類から受け継いだ支配者に従う心理や習慣をベースとして、生存に有利な脳力が選択され、口伝をとおして積み上げられていく。

スキルや習慣を模倣するための脳力:
・学ぶ側に必要な能力・習慣
 - 手本にすべき相手を選択、模倣
 - 情報・知識を収集、活用
 - 論理的な理解、応用
 - 手本となるもの、リーダーに対する敬意の感情・習慣
 - 学ばなかった場合の失敗体験の記憶
・教える動機となる能力・習慣
 - 誇り、ステータスに対する報酬感情
 - 教えるものに報酬を与える社会習慣の維持
  社会的な地位、手伝い、贈り物、名声など

 これらを実行するための脳力を獲得したものが多い集団が生き残り、その繰り返しにより文化を記憶し学習するための能力や習慣を集団で獲得する。集団がもつ文化は集団毎に異なり、それを維持することが集団にとって有利となることから同族・民族意識がうまれる。

 さらに、こうした営みの繰り返しがヒトのライフサイクルにも影響を与える。

ヒトのライフサイクル:
・妊娠期
 長い妊娠期間、体内で脳を拡大、妊婦を守る習慣
・幼児期 
 ⇒前頭葉が拡大
 脳の学習・拡大に集中し、身体の成長を遅らせる
・思春期 
 ⇒リスクよりも好奇心、絶縁皮膜で脳内に高速通信路を生成
  性的成熟期、身体を急速に成長、大人を見習いながら技術や知識を習得
・30代後半 
 ⇒脳内の高速通信路設置完了
 獲物をしとめる確率が最大、学習能力が低下、若者の育成
・老人
 閉経後も寿命を延ばす
 
 集団における文化の記憶が新たな遺伝子となり、学習により世代を超えて文化を継承し伝搬する。こうして、ヒトは社会を基盤とする後天的な文化の編集と修正による進化の手段を獲得した。


●加速する共進化サイクル

 文化とヒト、集団規模とコミュニケーションの相互作用が編む共進化のサイクルが集団に優位な文化をうみ、集団の規模を拡大し、新しい文化の創造がコミュニケーション能力を高め、文化とヒトの共進化を加速する。相互に「依存」し「促進」しあう、集団規模・コミュニケーション能力、文化、ヒトの共進化サイクルが驚異的なスピードで加速する。

文化とヒトの共進化

   集団における文化とヒトの共進化サイクル

 ヒトは集団のなかに知識と知恵を記憶することにより、集団で外部環境に即応して進化する手段を獲得した。集団規模を拡大し、コミュニケーション能力を高めた集団が優位な文化を創造・維持して生き残るが、獲得できる獲物の限界が壁となって立ちはだかる。

 集団規模拡大の壁の内側で、道具と調理法を工夫し、言語の語彙を増やし、文法を整備・複雑化して表現力を増し、知識を整理し、社会規範を整備し、宗教を広め、組織構造を整備してコミュニケーション・ネットワークを張り巡らせて次の共進化爆発のときをまつ。

フューチャー・リテラシー: インデックス

「脳」と「道具」の共進化 
ヒトと道具が紡ぐメタ進化 

参考書籍:
[1] ジョセフ・ヘンリック(2019), "文化がヒトを進化させた :人類の繁栄と<文化-遺伝子革命>", 今西康子, 白揚社
[2] リチャード・ドーキンス(2006), "利己的な遺伝子", 日高敏隆, 岸由二, 羽田節子, 垂水雄二訳, 紀伊国屋書店
    Richard Dawkins(1976/1989), "THE SELFISH GENE(30th anniversaty edition", Oxford University Press
[3] M.マクルーハン(1986), "グーテンベルクの銀河系 :哲学人間の形成", 森常治訳, みすず書房
    Marshall McLuhan(1962), "The Gutenberg Galaxy: The Making of Typographic Man", University of Toronto Press
[4] アンドレ・ルロワ=グーラン(1973), "身ぶりと言語", 荒木亨訳, 新潮社
    Andre Leroi-Gourhan(1964), "Le Geste et La Parole", Albin Michel

文化がヒトを進化させた―人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉 | ジョセフ・ヘンリック, 今西康子 |本 | 通販 | Amazon

利己的な遺伝子 40周年記念版 | リチャード・ドーキンス, 日髙敏隆, 岸 由二, 羽田節子, 垂水雄二 |本 | 通販 | Amazon

グーテンベルクの銀河系―活字人間の形成 | マーシャル マクルーハン, 森 常治 |本 | 通販 | Amazon

身ぶりと言葉 (ちくま学芸文庫) | アンドレ ルロワ=グーラン, Leroi‐Gourhan,Andr´e, 亨, 荒木 |本 | 通販 | Amazon




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コミュニケーションするサルへの脳進化

 生命が誕生して以降、急激な環境変化によりほとんどの生命が絶滅する大量絶滅が5回発生した。大災害が急激な進化を促進し、環境に適応した生物種が勢力図を書き換ていく。


●上陸にせまられる魚類

 3億7000万年前の海洋生物の大量絶滅は海からの脱出=上陸を加速し、魚類から両生類への進化をうながす。使わなくなった浮き袋を肺に転用し、ヒレを手足に代える。

 上陸して一気に広がる視界、匂い、音、そして地面の感触を活用したものが生き残る。陸環境に適応して、五感による空間情報形成と記憶・学習と感情・本能による情報の統合制御を徐々に複雑化・高度化し、多様な生命デザインが地上に広がる。


●恐竜を避けて生き延びる哺乳類

 2億5000万年前、生命史上最大の大量絶滅が発生する。太陽系が暗黒星雲と衝突したことをきっかけに発生した極寒期により動植物が絶滅し、続いて酸素濃度が大幅に低下する。ほとんどの生命が死滅し、大量の酸素に適応した肺をもつ哺乳類の祖先たちに大打撃を与える。

 恐竜が低酸素濃度でも生き延び大繁殖したのは、現代の鳥に継承される新鮮な酸素で満たされ循環する肺構造を進化させていたからだ。残念ながら、哺乳類の肺は、酸素を吸う経路と吐き出す経路が同じ気管を共有い、低酸素濃度に弱い。

 恐竜が繁栄する時代、哺乳類の祖先は小型のトガリネズミのような外見の夜行性となり、肉食の恐竜たちを避けてかろうじて生きのびる。かつて、昼間の光の中で視力を活用して構築した「空間情報(マップ)」の生成脳力は嗅覚に置き換えられ、匂いの記憶と明暗や触覚というわずかな情報からエサと脅威を感知する脳と五感と「記憶・感情」を研ぎ澄まして「空間イメージ」を組み立てる。


●恐竜絶滅と哺乳類の広がり

 6600万年前、再び起こった太陽系と暗黒星雲の衝突をきかっけとする極寒期により恐竜などの絶滅が進み、続く巨大隕石の落下が残ったものたちにとどめをさす。そしてわずかに生き残った生命にふりそそぐ宇宙線が、新たな種の進化を加速する。

 大量絶滅の後に世界に広がる哺乳類の最大の特徴は、体内外での子育てと、環境変化に合わせて脳を拡張する柔軟性だ。子育てと脳を共進化させることにより、妊娠期間・育児期間が長くなるほど巨大化できる脳構造=大脳皮質のしわ・層構造を獲得する

 脳を巨大化して維持するためには生涯にわたる大量のエネルギー供給が必要となり、効率の良いエサの獲得・体内外育児の負担と、巨大な大脳を活用した賢い行動・体内コントロールがトレードオフとなり共進化し、あらゆる環境に適応して戦略を変えて苛烈な生存競争に生き残り広がっていく。

 脳をささえる体内機構も共進化する、赤血球の核を除いて脳へのエネルギー運搬を高効率化したのも哺乳類だけだ。学習能力と判断能力を強化し、出産後の環境に合わせて脳回路を編集して、忍び足で近づき俊敏に襲うもの、遠距離の脅威を感知してジャンプして逃げるもの、樹上で木々を飛び移るものなど賢い脳を活用して様々な進化をとげる。


●樹上で進化する霊長類


○フルカラー視覚がコミュニケーション能力を強化する

 6300万年前、ゴンドワナ大陸が分裂し、南米大陸とアフリカ大陸、インド大陸などに分かれ、リフト帯で噴出する放射性マグマの活動が突然変異を誘発して、各大陸での個別の進化を加速して様々な生態をもつ生物が広がっていく。

 温暖化が広葉樹を広げ、それに適応したサルの祖先が樹上での生活を選び、枝やエサをつかむ手を進化させる。樹上での生活は手足を器用にあやつり、果物の食べごろと腐敗を識別する必要があり、指先の触覚、視覚、嗅覚情報を統合して指・手足の繊細な制御を行うために「学習・判断・制御」脳力、センサー、手足を共進化させる

大脳皮質の獲得

                     「学習・判断・制御」する脳の獲得


 4000万年前以降、何度も寒冷化と温暖化の波が繰り返し、寒冷化時には飢餓よる闘争が激化し、共同でエサ場を確保し脅威を排除するものが生き残る。より多数で連携した集団が優位となるが、そのためには個体を連携するための「コミュニケーション能力」が必要となる。個体数の増加が「コミュニケーション能力」の強化をうながし、声やジェスチャーによる「コミュニケーション能力」の強化が集団の規模を増やし、規模の限界をさぐる新たな共進化が始まる

集団形成の共進化
  集団形成とコミュニケーション能力の共進化


 3000万年前、樹上でより多くの新鮮な食料を獲得するために赤・橙の識別能力を加えてカラーの眼を獲得した旧世界サル・ヒトの祖先は、肌の色を識別できるようになり顔の肌を露出させて感情変化をよみとる新たな「コミュニケーション」手段を獲得する

○高精細視覚センサーが推論能力を高める

 やがて、遠くに熟れた果実をより早く発見し、飛び移る枝を見極めるために網膜の一部に高精細なセンサーを搭載する。眼球とともに高精細視覚センサーを縦横に動かすことにより、注力した部分をはっきりと認識することが可能となる。以降、高精細センサーの範囲を広げるのではなく、立体視などとともに脳力により全体像を推論する「錯視」を強化する方向に進化を進める

 高精細な視覚は、より詳細に表情を認識することを可能とし、繊細な「コミュニケーション」を可能とする。やがて「錯視」は立体視などとともに脳の暗黙の推論能力を強化し、脳内に「仮想イメージ」と「仮想物語」をつくる脳力を構築して、コミュニケーション・社会行動などの生活全般の統合制御を強化していく。

イメージする脳
     仮想的なイメージと物語をつくる脳

 シャープな視覚、両眼による立体視、フルカラー画像を得たサルは、高いコミュニケーション能力により集団を維持・運用し、推論により「仮想イメージ」と「仮想物語」を構築する賢いサルへと進化してゆく。

フューチャー・リテラシー:インデックス

五感と脳の共進化 (future-seeds.net)
生物の実験場となったカンブリア爆発はなぜ起こったのか 

参考書籍:
[1] 丸山茂樹(2020),"最新 地球と生命の誕生と進化:[全地球史アトラス]ガイドブック", 清水書院
[2] 丸山茂徳(2018), "地球史を読み解く", 放送大学教育振興会
[3] 坂井建夫, 久光正監修(2011), "ぜんぶわかる 脳の事典", 成美堂出版
[4] 大森聡一(2021), "改訂版 ダイナミックな地球", 放送大学教育振興会
[5] 大隈典子(2017), "脳の誕生 -- 発生・発達・進化の謎を解く", ちくま書房
[6] トッド・E・ファインバーグ, ジョン・M・マラット(2017), "意識の進化的起源 :カンブリア爆発で心は生まれた", 鈴木大地訳, 勁草書房
[7] ジョン・C・エックルス(1990), "脳の進化", 伊藤正男訳, 東京大学出版会

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tag : フューチャーリテラシ,複雑系,ミクロ・マクロ・ネットワーク,脳の進化,進化

五感と脳の共進化

 6.3億年前に浅瀬の大陸棚が広がり大量の光と栄養塩と酸素が海中にあふれたとき、豊富な素材を活用して繁殖する生命たちの生存競争が新たなステージをむかえる。

●神経組織の誕生


 6.3億年前のエディアカラ紀の大陸棚で、急増した太陽光と栄養塩を背景に光合成を行う微生物(シアノバクテリアなど)が大量増殖し酸素を急増させる。

 豊富な素材を活用する多細胞生物の最初の戦略は、捕食されない大きな身体を得ることだ。大型化のためには、それを維持するエネルギーが必要となる。「多細胞組織」を使って「エネルギー獲得手段」を構築し、生産したエネルギーをもとにさらに大きな身体をつくる共進化サイクルがうまれる

  大型化とエネルギー獲得手段の共進化
 
   大型化とエネルギー獲得手段の共進化  

 スポンジのような海水と一体になる形態から、皮膚で外側と内側を分ける戦略への転換があらたな分岐点となる。皮膚を改造して、エネルギーを効率よく獲得する窪みを作り繊毛により積極的にエサをとりこみ、外側と内側の収縮によるわずかな運動移動手段を構築する。

 やがて、エサに反応して行動するため、「触覚センサー」の入力信号を変換した「行動信号」を「高速通信路=神経組織」により複数の「運動組織」に伝達する連携システムを構築し、このあらたな構造をボディプランとして改良を加え続ける神経系進化サイクルがうまれる。例えば、口の周辺の触覚を食べる行動につなげ、眼点を使って光を検知し、皮膚刺激に反応して退避する方向への収縮運動を誘発する。

  「センサー」から「運動組織」への高速信号路

 「センサー」から「運動組織」への高速信号路

 神経系の誕生は、外部の環境から情報を選択的に収集して、神経系と生体システムを共進化させる新たな加速サイクルを構築していく。


●肉食動物と淘汰圧が「脳」をつくる


 カンブリア紀(5.41~4.95億年前)直前に起こった大型生物を捕食する肉食動物の登場が、生存戦略の大幅な変更のきっかけとなる。

 多くの種を絶滅させる淘汰圧は生物の急激な進化をうながす。肉食動物の一方的な繁殖は、被捕食側を絶滅の危機に追い込む。そしてエサをたべつくしてしまえば肉食動物もまた絶滅してしまう。肉食動物の誕生がきっかけとなり、生態系全体を巻き込んで大幅な戦略変更とあらたな均衡の模索が始まる。そして大陸棚は、豊富な材料をもとにあらたな進化を試みる生物たちの壮大な実験場となる

 最新の技術を使って個別の部位を革新するだけでは、激しい生存競争を生きのびることはできない。複数の革新的な組織を効率よく連動させることに成功したものだけが、獲物を捕食し、捕食されない身体を獲得して生き残ることができる。

 そしてついに、複数の体組織を連動する「情報統合組織」として「神経集合体=脳」を口近くに形成する。あらたなボディプランは「センサー」や「運動組織」の高度な連携を可能とし、さらに生物進化を加速する。そして、移動するエサや脅威をとらえる「眼」、高速に移動する「筋肉」を生み出したとき大陸棚の軍拡競争が激化する。

  「情報統合組織」としての「脳」

         初期の「脳」の基本プラン


●「眼」と「脳」の共進化

 あるとき、散在する光受容組織を集め、脳の一部を触覚から視覚に転用してつくりあげた「眼」による狩りが始まる。最初に「狩りをする眼=鉱物の複眼」を獲得したのは節足動物であり、脊椎動物の祖先はもっぱら逃げるための戦略として「眼」を活用する。

 「複眼」は移動するエサを識別するのに有利な構造だ。節足動物は、多数の「複眼」から得た膨大な視覚情報を統合して「移動するエサ情報」を構築し、それをもとに「追尾行動命令」を生成して高速通信路で「筋肉」に伝え、高速にエサを獲得することにより優位となる

 一方、被捕食動物は移動する物体を検知することよりも、最小限のエネルギーで巨大な生物の接近を明暗で検知して逃げることを優先する。皮膚全体に配置した数個の「点眼」を使って全方位から近づく脅威を検知し、海底や岩場への高速移動するための「脳」と「筋肉」の連携を得たものが生き残る。

 カンブリア紀の動物たちは、さらに「神経組織」を改良、脂質による絶縁膜とナトリウムイオンによるデジタル高速通信網を整備し、カルシウムイオンによる終端制御や筋収縮により瞬時の行動を可能とする。「神経系」制御の高速化は俊敏な移動を可能とし、追われる側に大きなプレッシャーをかける。


●「カメラ眼」と

「空間情報(マップ)」の共進化


 カンブリア紀(5.41~4.95億年前)からシルル紀(4.44~4.19億年前)をへてデボン紀(4.19~3.59億年前)に入るころ、脊椎動物の魚類が丈夫な顎と、遺伝子重複により「カメラ眼」を手にいれて、活発な肉食を行うようになる。「カメラ眼」は、レンズを使って鮮明な像をとらえる眼であり、海底の地形やエサ・脅威の正確な空間情報を取得可能となる。「カメラ眼」から入ってくる膨大な情報を使いこなすためには「脳」の進化も必要となる。「カメラ眼」と「脳」の共進化により、眼・耳・皮膚から得た情報を統合して「空間情報(マップ)」を形成し、より正確にエサ・脅威の情報を得て行動できるようになる。さらに「カメラ眼」と「空間情報(マップ)」処理の共進化は眼を巨大化するとともに、それぞれの感覚からの入力情報を統合処理して「感情・本能」に変換し、刻々と変化する環境に素早く反応する即応連携シーケンスを構築する

 脳の「感情・本能」による即応連携シーケンス:
  視覚運動: 眼を動かし、ピントを合わせ
  感覚: 対象の形や動きを認識してエサと脅威を区別し
  注意: エサ・脅威選択的に注意を向けて
  ・感情: 「喜び」や「恐れ」の感情に変換して、
  統合行動: 対象に身体を向けて移動する、もしくは対象から離れるよう移動する

 脳による即応連携シーケンスを構築した魚類は、顎の強化・大型化の共進化サイクルを進め、節足動物を凌駕するようになる。


●「嗅覚」と「本能・記憶」の共進化


 魚類が「嗅覚」を得たことが次の転換点となる。「嗅覚」はエサや脅威のまきちらした化学物資の痕跡を識別・記憶し、過去の記憶にもとづいて思い出し、その場所をエサ場としたり避けたりするために有効だ。このため、嗅覚は他のセンサーとは異なるルートで脳と連携し、嗅覚とともに行動シーケンスを誘発する「感情・本能」と「記憶」をつかさどる脳の部位が共進化することで、より狡猾に生き残ることに成功する
  
脊椎動物の脳の基本構造

        脊椎動物の「脳」の基本構造

 太古に生まれた感情」は、ヒトの「意識」のベースとなり、同時に発生する五感・内感とその「相互作用」を評価し即時の対処をうながす即応装置として最初に発動する。ヒトにつながる、外部情報統合にかかわる脳のボディプランは概ね完成した。これ以降、生活環境を陸上に移し、環境との相互作用により五感・内感の情報統合組織として大脳を発達させてゆくこととなる。

 多細胞生物は、体内組織間の共進化を繰り返すことによりあらたな連携構造をつくり、生存で有利であったものをボディプランとして残し、その上にあらたな仕組みを組み上げていく。いったん作られた仕組みを捨てずに残し、必要ならば別の用途に転用して体組織の複雑な連携構造を編み上げてゆく。


参考書籍:
[1] 植田和貴(2021), "[日系BPムック] ダーウィンが来た! 生命大進化 :第1集 生き物の原型が作られた(古生代から中生代 三畳紀)", 日経ナショナルジオグラフィック社
[2] アンドリュー・パーカー(2006), "眼の誕生  --カンブリア紀大進化の謎を解く", 渡辺政隆, 今西康子訳, 草思社
[3] 坂井建夫, 久光正監修(2011), "ぜんぶわかる 脳の事典", 成美堂出版
[4] 大隈典子(2017), "脳の誕生 -- 発生・発達・進化の謎を解く", ちくま書房
[5] トッド・E・ファインバーグ, ジョン・M・マラット(2017), "意識の進化的起源 :カンブリア爆発で心は生まれた", 鈴木大地訳, 勁草書房
[6] 丸山茂徳(2018), "地球史を読み解く", 放送大学教育振興会

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『フューチャー・リテラシー -- 過去・現在・未来、複雑系の未来を読み解く』
を執筆中。

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