交通・通信インフラとグローバル交易の共進化(後編):産業革命~現代

  ヒトはモノと情報(知恵)を交換することにより分業する社会を形成する。ヒト、モノ、情報(知恵)の距離を短縮するインフラの発展とともに、社会構造は複雑化し、より高度な交換ネットワークを構築する。
前編:古代~産業革命以前
⇒後編:産業革命~現代

●世界規模の物流の高速化とグローバル交易

による消費と生産の分離


 フルトンが乗客を乗せた蒸気船の試運転に成功し(1807年)、スチーブンソンが蒸気機関車鉄道を開通(1825年)して以降、陸海の交通網が一変する。蒸気船が世界各地を結び、陸地を蒸気機関車が走り河川運河を蒸気船がつなぐことにより、大量・高速に運搬できる地球規模の物流が加速する。物流の加速は、国を超えるグローバル・ネットワークで生産地と消費地をつなげ、モノの生産を国を単位として分業可能とする
 グローバル交易の進展は、現地の生産が現地の消費に縛られなくなり各国の生産が分岐し、商品=企業=国を単位とする貿易競争の鐘を鳴らす。ある国が他の国よりも安く生産できれば優位となる、国を単位とする貿易競争により「得意なことして、それ以外は貿易する」という棲み分けによる分業が加速する。特に製造規模の拡大=大量生産、ノウハウや投資の積み重ねが生産性を高め、突出した収益を得られる製造業で先頭をきった国が他を圧倒するようになる。

工業先進国の所得拡大サイクル:
 1)工業先進国(イギリス、アメリカ、ドイツ)が工業の機械化を進める
 2)工業先進国の所得が大きく伸びる
 3)工業先進国の産業が工業都市に集積する
  ⇒生産効率を高め、コミュニケーションコストを削減し、情報(知恵)を交換する場がつくられ、モノの運搬が効率化され、生産品のコストが低下する。
 4)企業の規模が拡大し、より複雑な工程を取り入れやすくなる。

 都市への製造業の集約は、モノの流通を効率的にするだけでなく、情報(知恵)の交換を促進し新しいテクノロジーの誕生を促す。そのサイクルが工業先進国において都市へのヒトと企業の集約を促進し、巨大都市を形成していく。

 激しい国際競争が勝者と敗者に分け、同じ市場での企業の数を減じ、勝者は統合・吸収して規模を拡大し、生産効率が高くなり国際的な格差を広げていく


●通信インフラとプロセス分業


 蒸気機関をベースとして郵便事業が始まり(1840年/英)、電話が開通(1880年/米)すると国内(外)の情報(知恵)の移動距離がいっきに縮まり、プロセス毎に専門特化して生産効率を高める企業・組織間でのプロセス(設計、エンジニアリング、管理、品質管理、製造、物流など)分業が進む。
 Faxが国際規格とともに公衆回線を利用して広く利用されるようになると(1972年)、情報を扱う部門の業務スピードがいっきに加速し、時分割で複数のタスクを処理するようになる。

 1970年、国際競争による企業の統合と生産性の効率化によるコストカットを限界まですすめた工業先進国企業は、通信インフラを利用した製造部門の一部を労働力コストが安い国(中国、インドなど)への分業=オフショアを模索する
 商用インターネット(1989年、米)が情報(知恵)の循環を加速すると、調整コストが低下し、製造業のオフショアの波が大きく広がる。

オフショアによる新興国の所得拡大サイクル:
 1)労働力が安く、治安、工業先進国との距離、インフラ整備など有利な条件を持つ国(中国、インド、ポーランドなど)=新興国が、工業先進国のグローバル・バリューチェーンに組み込まれる。
 2)工業先進国からの情報(知恵)=ノウハウの移転により、新興国はしだいに低賃金・高技術へとシフトし、とりのこされた低賃金・低技術国はグローバル・バリューチェーンに参加できなくなり、格差が生まれる。
 3)新興国にノウハウが集まり、生産拠点を集中的に拡大する。
 4)急速に工業化した新興国の成長が加速する。
 5)工業先進国の生産部門が空洞化する。
 6)新興国の急成長に伴い、食料、資源の需要が高まり食料・原料輸出国が成長する。

 近年まで、国家の社会・経済・投資戦略は、そこに立地する企業を単位として計画・実行することができた。オフショアの拡大により、企業戦略は必ずしも国の利益を優先するとは限らず、国家戦略は断片化したプロセスを単位とするものへと複雑化していく


GDP推移

                                       各国の実質GDPの推移
 University of Groningen, Maddison Project Database 2020
(https://www.rug.nl/ggdc/historicaldevelopment/maddison/releases/maddison-project-database-2020?lang=en)

 交通・通信インフラの進化が、ヒト・モノ・情報(知恵)の交換を高速化し、作業を断片化、専門特化した分業ネットワークを構築する。分業ネットワークは、集落、国家、世界へと広がり、断片化したプロセスを動的に再編集する。ヒトの移動距離を短縮する次世代のインフラの進化は、ヒトの社会組織をより複雑に再編成してゆくこととなる




参考書籍:
[1] リチャード・ボールドウィン(2018), "世界経済 大いなる収斂 :ITがもたらす新次元のグローバリゼーション", 遠藤直美訳, 日本経済新聞出版社
[2] 宮崎正勝(2002), "モノの世界史 --刻み込まれた人類の歩み", 原書房
[3] デヴィッド・クリスチャン, シンシア・ストークス, ブラウン、クレイグ・ベンジャミン(2016), "ビッグヒストリー --われわれはどこから来て、どこへ行くのか--", 長沼毅日本語版監修, 石井克弥,竹田純子, 中川泉訳,  明石書店
[4] 松岡正剛監修, 編集工学研究所(1996), "増補 情報の歴史", NTT出版

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交通・通信インフラとグローバル交易の共進化(前編):古代~産業革命以前

 ヒトはモノと情報(知恵)を交換することにより分業する社会を形成する。ヒト、モノ、情報(知恵)の距離を短縮するインフラの発展とともに、社会構造は複雑化し、より高度な交換ネットワークを構築する。

前編:古代~産業革命以前

●都市を循環させる「道」、情報通信のための

「道」


 農耕を始めたことにより、都市を中心としてヒト・モノ・情報(知恵)が交流する社会が構築される。官僚、軍人、諸君、そして彼らの食料が都市に集まる。都市内部の通路が市民の生活を循環させ、都市周辺地域からは農作物、木材、鉱物や税を徴収するための「道」が都市に向けてのびる。より遠くから、より早く運搬するために家畜を使い車輪を開発し、道路網の拡張-輸送技術の改良というサイクルを繰り返して都市が巨大化していく
 都市は近隣の都市から襲われる驚異に備えるための軍隊を保持し、戦争により周囲の都市を併合する必要に迫られる。生き残りをかけた都市は、道路網により物資を集めるだけでなく、すばやく情報をえるための「道」をつくる。紀元前6世紀ペルシア帝国は、王の命令と周囲からの報告を伝える通信網として幹線道路「王の道」を整備した。土木工事により道を整え、馬を駅伝制によりすばやく移動させる最新の通信網だ。整備した「道」は都市周辺のヒト・モノの輸送も活性化する。そして、「道」を整え、ヒト・モノ・情報(知恵)の輸送技術を発展させた都市が周囲の都市を圧倒する

 ユーラシア大陸の河川沿いに分散していた古代の農耕都市は、やがて4つの巨大帝国(ローマ、パルティア、クシャーナ、漢)に統合される。帝国内ではさらに道路網の整備を進め、情報(知恵)を集めて治金や輸送の技術を開発し、統治の潤滑剤となる貨幣制度を広め、王と官僚のためにモノの流通を活発化していく。


●王が財宝を輸入するための交易路

:シルクロード


 中国、中東、ヨーロッパの巨大都市の間には、4000kmを越える広大な草原地帯に遊牧民の騎馬国家が広がり、遠距離交易を妨げていた。

 転換点となったのは、漢王朝の武帝(紀元前141年~紀元前87年)が派遣した調査部隊からの報告だった。ヨーロッパに向けて絹や鉄などを返礼品として輸出するだけで、貴重な金やガラス細工、美術品などの財宝が手に入というのだ。武帝は、財宝を手にいれるために、漢王朝とヨーロッパの間にある36の遊牧民都市国家と属国関係を結び、ラクダによるオアシスの移動経路=シルクロードをつなげる。途中経路のインドやアラビアで入手できる香辛料はヨーロッパに返礼品として贈り、遊牧民の所有する馬は漢王朝に送る。

 4000km以上の距離を数年がかりで移動する交易は危険を伴い、生活のための交易は割に合わず、王や大富豪、官僚たちが力を得るための宝物や贅沢品、原材料を手に入れるために交易が行われる。帝国をつなぐシルクロードによる疎なコミュニケーションは、徐々に文化、技術、宗教、そして病を伝搬していく。

 やがて「オアシスの道」は草原と海に広がり、アフリカ大陸、ヨーロッパ、アジアを結ぶ複数のルートに広っていく。

西暦100年ごろの陸海の交易ルート:
 ・オアシスの道(シルクロード、乾燥地帯に連なるオアシス都市を結ぶルート)
 ・草原の道(モンゴル高原から西へカザフ草原、アラル海、カスピ海を通って、黒海へ達するルート)
 ・海の道(紅海・アラビア海ルート、地中海・インド洋ルート)


●王権のためのグローバル交易と

ローカル・ネットワークに集約される国内産業


 1300年以降、東ヨーロッパから中東にひろがるオスマン帝国によりインド洋航路を閉ざされ、中規模の国家が激しい闘いを繰り返していたヨーロッパ諸国は大西洋へと目を向ける。

 1482年、ポルトガルは西アフリカ海岸に要塞を築き、マリ帝国(西アフリカ)との交易を掌握、金、象牙、胡椒、奴隷と織物、武器を交換、砂糖のプランテーションを展開して突出した力をつける。さらに、大西洋からインドに到達できると考える探検家=コロンブスに投資し、1490年にアメリカ大陸を発見。続く1498年にヴァスコ・ダ・ガマがインドに到達、1522年にマゼラン隊が世界周航を達成したことをきっかけとしてヨーロッパは世界初のグローバルな交易ネットワークを構築する

 産業革命までのグローバル交易は、王権を維持し軍隊と土地を広げるために行われる。重商主義など、力のある国が輸出を輸入よりも多くするために高い関税により輸入制限をかけ、武力により不均衡貿易を強要するなど極端な貿易黒字を目指す

 この時期のグローバル交易は未熟だが、後のグローバリゼーションを支える経済的な土台を構築する。

経済的な土台の構築:
 ・帆船による遠洋交易、航海術、砂糖と奴隷の三角貿易
 ・イスラムの商習慣、数学、地図作成
 ・製鉄と鋼の生産技術、活版印刷、農業技術
 ・火薬などの中国の先進的なイノベーション
 ・銀行、金融、市場

 1700年にいたっても、海上の輸送は風力、陸の輸送は牛や馬で搬送に多くの時間がかかることから、生産と市場は強く消費と結びつけられ、都市とその周辺から形成されるローカル・ネットワークにヒト・モノ・情報(知恵)が集約される

フューチャー・リテラシー:インデックス

国家形成に向けた専門分業と集落間の生存競争
古代都市を循環させる貨幣情報ネットワーク
交通・通信インフラとグローバル交易(後編):産業革命~現代 

参考書籍:
[1] リチャード・ボールドウィン(2018), "世界経済 大いなる収斂 :ITがもたらす新次元のグローバリゼーション", 遠藤直美訳, 日本経済新聞出版社
[2] 宮崎正勝(2002), "モノの世界史 --刻み込まれた人類の歩み", 原書房
[3] デヴィッド・クリスチャン, シンシア・ストークス, ブラウン、クレイグ・ベンジャミン(2016), "ビッグヒストリー --われわれはどこから来て、どこへ行くのか--", 長沼毅日本語版監修, 石井克弥,竹田純子, 中川泉訳,  明石書店
[4] 松岡正剛監修, 編集工学研究所(1996), "増補 情報の歴史", NTT出版


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産業革命はなぜ18世紀にイギリスで始まったのか【後編】:情報ネットワーク・黒死病・イギリス

 領土の限界という【巨大な壁】の内側であがきながら、封建制度、重商主義を基盤とする交通ネットワークが商業ネットワークを、商業ネットワークが情報貨幣ネットワークを支え、初期の情報ネットワークが各ネットワークをつなぎ、相互作用しながら拡大して、産業革命を支える統合ネットワーク・プラットフォームを準備する


●壁の内側で広がる情報ネットワーク


〇膨大な利益を生む錬金術、情報貨幣ネットワーク


 異なる商品価値を仲介する必要から生み出された貨幣は、重商主義を経て交換を大規模化し、交易で得た富を蓄積することにより世代を超えた大資本を生み出す手段として活躍する。商人間の信用取引が海洋取引の保険が、「オランダ東インド会社」に始まる株式会社への投資が、アムステルダム銀行、イングランド銀行などの巨大銀行の利子が膨大な富を生み出す貨幣情報ネットワーク上での取引を加速させる。さらに、産業革命においては、生産性への投資が新たな利益を生む仕組みを構築することになる。


〇書籍を介した情報ネットワークによる読み書き、計算能力の向上、科学革命


 18世紀の産業革命をささえる数々の発明は、15世紀の活版印刷の発明に始まる。活版印刷は、書籍を安価に手に入れられるものとする。書籍の普及は、情報を流通し、市民の教育(文字の読み書き、計算、技能教育)を推進するきっかけとなり、中産階級の増加、徒弟制度などとの相互作用により開発・発明家を生み出す下地をつくる。

 産業革命直前の17世紀に、ケプラー、ガリレオ、ニュートンなど科学革命とも呼ばれる科学の大きな変革があった。ひとつの発見・発明は続く発見・発明に連鎖する。たとえば、デカルトの機械論的思想(1637年)に始まり、ゲーリケの真空ポンプ(1650年)、ボイルの法則(1660年)、ホイヘンスの火薬を使った往復エンジン(1660年)そしてついには、鉱山での配水のためのニューコメンの蒸気機関(1710年)を生み出すに至り、以降数々の蒸気機関の発明が世界を変える。


〇情報通信ネットワークハブとしてのコーヒーハウス


 初期の情報メディアとして大きな役割をはたしたのが17世紀末のロンドンやオックスフォードに大量発生したコーヒーハウスだ。そこにはさまざまな人々が集まり、オーナーの「好み」により商売、政治、生活、ファッション、貿易、船舶、文学、ゴシップなどなどあらゆる情報が集められ、交換される。コーヒーハウスで交わされた会話をメンバーが編集して活用し、産業革命の進展とともに保険会社、株式会社、政党政治、新聞、広告、電信ネットワークなどへと発展してゆく


 分配の基盤となる土地に限界が生じてもなお、封建制度を維持するためには領土を広げる必要があった。各国は、報酬となる土地がないままに戦いつづけ疲弊しつつ、ネットワーク・プラットフォームを広げ、次の時代にバトンを渡すときを待っていた


●【急激な変化】黒死病・【突破口】イギリス


〇黒死病による人口減少


 黒死病によりヨーロッパの人口の1/3を死に至らしめる。ヨーロッパの多くの地域では、15世紀までに人口は回復し始めていたが、イギリスでは16世紀半ばまで人口は極めて低い状態を維持したままだった


〇人口減少によるロンドンの活性化と高賃金化


 黒死病後に生み出されたイギリスの穀物用地の空き地をもとに、広大で肥沃な牧草地へと転換し、健康で毛の長い羊=新種毛織物を生み出す。17世紀ロンドンは、新種毛織物の海外航路での輸出により活気づき、高賃金にわいた。農民たちは、黒死病で空き地となった空き地を集め農地を拡大し、濃奴からヨーマン(独立自営農民)へと転身するなど、高賃金化の波が農地へもおしよせる


〇中産階級(ブルジョワジー)の拡大と封建社会の崩壊、民主主義の成立


 ロンドンの活性化が、貴族や大資本家たちと、雇われ農民を含む労働者たちとの中間で大小の富を蓄積する中産階級(ブルジョワジー)を増加させる。彼らは、市民革命の主体となり、イギリスの名誉革命が立憲民主主義を成立させる原動力となり、民主主義が「自由な取引」を行う資本主義をけん引する


〇安価なエネルギー:石炭への移行


 都市の急激な拡大は森林の急激な消費を促し、イギリスにおける木炭は高騰し15世紀には石炭価格の2倍となる。17世紀までにロンドンを中心とするエネルギー需要は激増し、急増する新築家屋では家庭で石炭を利用できるようになっていく。豊富な石炭への転換は、炭鉱からの無尽蔵で安価な燃料を供給を可能とし、イギリスにおけるエネルギーを極めて安価なものとした


●18世紀のイギリスに集約して爆発する


 ペストという【急激な変化】が【巨大な壁】をつきやぶるきっかけとなる。ペストからの復旧の遅れがイギリスの高賃金と石炭の低コスト化を生み、それに続く自動機械の発明と導入のメリットを高め、自動機械による大量生産が資本家たちの新たな投資先となり、そして海上の覇権争いを制したイギリスが【突破口】となり統合ネットワーク・プラットフォーム上で産業革命のスパイラルを回してゆく


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 産業革命を調査するにつれ、今日と17世紀が重なって見えてくる。グローバル化に資本主義が喘ぎ、インターネットとiPhoneが情報暴走と読書離れを引き起こした。大きな壁の内側で様々なネットワークを広げ何を準備し、脳の変化の先でどのような革新的な時代を迎えようとしているのか。



参考書籍:

[1] フェルナン・ブローデル(2009), "歴史入門" , 金塚貞文訳, 中央文庫

Fernand Braudel(1988), "LA DYNAMIQUE DU CAPITALISME", Flammarion

[2] フェルナン・ブローデル(1985), "交換のはたらき --物質文明・経済・資本主義15-18世紀", 村上光彦訳, みすず書房

Fernand Braudel(1979), "LA Civilisation materielle, economie et capitalisme, XVe-XVIIIe siecle, Tome 2 : Les Jeux de L'ecghange", Armand Colin

[3] フェルナン・ブローデル(1995), "世界時間 --物質文明・経済・資本主義15-18世紀Ⅲ", 村上光彦訳, みすず書房

Fernand Braudel(1979), "LA Civilisation materielle, economie et capitalisme, XVe-XVIIIe siecle, Tome 3 :Le Temps du Monde", Armand Colin

[4] R.C.アレン(2017), "世界史のなかの産業革命 - 資源・人的資本・グローバル経済 - ",眞嶋史叙, 中野忠, 安元稔, 湯沢威訳 , 名古屋大学出版

Rovert C. Allen(2009), "The British Industrial Revolution in Global Perspective", Cambridge University Press

[5] グレゴリー・クラーク(2009), "10万年の世界経済史", 久保恵美子訳, 日経BP

Gregory Clark(2007), "A Farewell to ALMS", Princeton University Press

Johon H.Ratey Md(2001), "A User's Guide to the Brain", Vintage

[6] 宮崎正勝(1019), "ユダヤ商人と貨幣・金融の世界史", 原書房

[7] 松岡正剛(2001), "知の編集工学", 朝日文庫


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産業革命はなぜ18世紀にイギリスで始まったのか【前編】:封建社会の壁と交通・経済のネットワーク

 上下水道や舗装道路など進んだ技術を利用していた古代ローマが産業革命を起こさず、18世紀のイギリスでなぜ産業革命という急激な変化が起こったのだろう

 

 古代ローマや18世紀のヨーロッパ諸国においても奴隷などの安価な労働力を有する国々は、機械による自動化という発想すらなかった。一方、18世紀の世界の中心だったイギリスは「高賃金の労働者」と「低コストのエネルギー(石炭)」を保有していたため、蒸気機関などを使った機械による自動化のメリットがあり、後に産業革命と呼ばれる急激な発展をとげることとなる


●革新的変化の視点

 

 環境に適応すべくさまざまなネットワークを広げるうちに超えることのできない巨大な壁】につきあたる。巨大な壁】内側でネットワークは集散、拡大、刈り込みを繰り返しながら、環境変化に適応しながらネットワーク・プラットフォーム】を形成する。あるとき発生した【急激な変化】をきっかけとして、プラットフォームをベースにネットワークの形を変え、【突破口】を捉えいっきに【巨大な壁】をつきやぶり爆発的な速度で新たなネットワークを形成し始め革新的変化が爆発する 


 【巨大な壁】、【ネットワー・プラットフォーム】、【急激な変化】、【突破口】という視点で産業革命をとらえなおす。



●17世紀にたちはだかる【巨大な壁】


  17世紀までヒトは、その発展とともに集団の規模と居住区域を広げ、国家を形成しより肥沃な土地を手に入れるための陣取り合戦を繰り返していた。土地の分配を基盤とする封建社会にとっての【巨大な壁】は、居住し、繁殖するために有利な土地に限りがあることだった

 

封建制度が資本主義への基盤をつく

 

 農業から始まった人の集まりが、内外の相互作用と集散を繰り返しながら部族、首長社会から国家へと巨大化し、限られた資産である土地や金銀にモノの価値を代替させる封建社会重商主義を生み出した

 

 人口を増やし戦争により領土を広げる時代において、土地を分配する仕組みとしての封建制度は、社会的な平穏を支え、財産と社会的特権を保護し、世代を超えた大量の富の蓄積を可能とし、貨幣経済との連携によりさまざまなネットワーク・基盤プラットフォームを形成する


●壁の内側で広がる交通・経済ネットワーク


 交通ネットワーク

 

 アジアからヨーロッパまでの南北の交易を東西につなぐシルクロード15世紀以降の大航海時代をささえた海の道。主要な交通路を軸に、都市と街を繋ぐ支線をひろげ、文化や商品、情報が大陸を縦横にかけめぐった。異なる思想や文化をもつ国々の技術に着想をえて発明・改良を繰り返すことにより、アジア・中東・ヨーロッパ各国の文化・技術は加速度的な進化をとげ

 

 さらに、15世紀半ばから17世紀までの大航海時代を迎え、市場の巨大化、グローバル化に拍車がかかり、交通ネットワークは巨大な富を信用取引によって生み出す基盤プラットフォームとしての役割を担うこととな。イギリスとオランダとの間で繰り返し行われた海上での覇権争いは、18世紀の第四次英蘭戦争によりイギリスがトップに立つことで決着する

 

商業ネットワーク

 

 商業ネットワークは、生産と消費をつなぎ、経済の原動力となり、刺激、活力、革新、発見、成長をうながし、階層・分業化を進めつつ商取引のネットワークを巨大化させていく

 

1)農民など大多数を占める自給自足、それをつなぐ行商人のネットワーク

 自給自足の生活をおくる農民は物々交換を基本としており、1万年を経てなお貧困で余剰資産を蓄えることが困難だった。わずかに発生した余剰資産を貨幣と交換し、税の支払いや「市」での買い出しにあてる

 

2)「市」を中心とする市場経済ネットワーク

 町や都市における「市」を中心に、輸送、保管、牽引、各種商人、高利貸し、卸売りなど新たな階層化・分業を生み出し、「市」は生成、消滅、再生を繰り返しながら、市場経済ネットワークを広げていった。「市」は売手と買手の競争原理が働く経済ネットワークを形成し、市民の需要を満たし、都市を拡大し、そしてより大きな需要をつくりあげていそして、イギリスにおける「高賃金化」「国民市場」を活性化させ

 
3)大市、取引所から広がった資本主義ネットワーク

 資本家たちは大市や取引所に大量の資本を投入して、軍隊や大都市の巨大な食料需要を賄うことによって大きな利益を蓄積してい。大航海時代を迎え、グローバルな交易において、広範囲な情報や知識、債券操作の技術を駆使した投機的な資本主義経済ネットワークを構築する。市場の独占権を得た資本家たちは、投資がさらなる収益を生む新たな市場、新たな仕組みを探し続け、産業革命を推進するパワーを蓄え続け新たな投資先の不在が、資本家たちにとっての巨大な壁】となる


フューチャー・リテラシー:インデックス 
産業革命はなぜ18世紀にイギリスで始まったのか【後編】:情報ネットワーク・黒死病・イギリス

参考書籍:
[1] フェルナン・ブローデル(2009), "歴史入門" , 金塚貞文訳, 中央文庫
Fernand Braudel(1988), "LA DYNAMIQUE DU CAPITALISME", Flammarion
[2] フェルナン・ブローデル(1985), "交換のはたらき --物質文明・経済・資本主義15-18世紀", 村上光彦訳, みすず書房
Fernand Braudel(1979), "LA Civilisation materielle, economie et capitalisme, XVe-XVIIIe siecle, Tome 2 : Les Jeux de L'ecghange", Armand Colin
[3] フェルナン・ブローデル(1995), "世界時間 --物質文明・経済・資本主義15-18世紀Ⅲ", 村上光彦訳, みすず書房
Fernand Braudel(1979), "LA Civilisation materielle, economie et capitalisme, XVe-XVIIIe siecle, Tome 3 :Le Temps du Monde", Armand Colin
[4] R.C.アレン(2017), "世界史のなかの産業革命 - 資源・人的資本・グローバル経済 - ",眞嶋史叙, 中野忠, 安元稔, 湯沢威訳 , 名古屋大学出版
Rovert C. Allen(2009), "The British Industrial Revolution in Global Perspective", Cambridge University Press

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古代都市を循環させる貨幣情報ネットワーク

 集落から古代都市へと人口を広げたとき、人々の分業をつないだのは言葉や文字によるコミュニケーション、そして新たな収穫の分配の仕組みだった。

●集落の拡大と食糧の分配


 ヒトが狩猟採集を家族から集落で協力して行うようになったとき、家族のために持ち帰る獲物は集落の共有するものとなった。やがて農耕生活により集落の規模が大きくなり分業が広がるようになると、首長が調停者となり作物を集め再配分する習慣、争いを避け友好を深めるための部族間での贈り物を授受する習慣が生まれる。
 

●都市国家を支える貨幣情報ネットワーク


 貨幣(金属、穀物、家畜、貝など)の用途は4つで説明されるが、時代や地域によりその比重は異なる。
 
 貨幣の用途:
 1)支払い
  債務の決済、税の支払い
 2)保存・蓄積
  支払いの遅延、財力を示威、予備
 3)尺度基準
  財・モノの数値化、共通に利用できる量的基準
 4)交換
  モノと交換できることを保証
 

【古代エジプトの金】

 紀元前3000年、古代エジプトは世界の金産出の中心だったが「金は太陽神の肉体・生命のシンボル」であり、不滅の神々の象徴だった。王宮、神殿、神像、神の化身であるファラオの装身具、衣装、王座が金でおおわれ、金の蓄積が権威の象徴となる。やがてリング型の金がアジアとの交易に使われるようになるが、金貨として流通することはない。
 

古代都市の交易】

 紀元前3300年、ウルク都市国家群が陸路・海路を使ったインダスとの交易が行われる。古代都市間の交易は、商業的な利益を求めるものではなく、政治的な贈り物の物々交換であり、王により俸給で雇われた商人(後にタムカルムと呼ばれる身分型の交易者)が商取引を担当する。物々交換を仲介するものとして、銅・銀・穀物が尺度基準として利用され、特に価値が変化しにくい銀が遠隔交易では重宝される。宝石・装飾品の他に木、石、金属(銅、錫、鉄)を受け、毛織物・油を贈る。
 

古代都市の貨幣管理】

 ウルク都市国家群の各都市では、王と神殿が銀を貯蔵し、貸借関係の記録を管理し、銀の重量基準により商品の価値、罰金、利子率、賃金を公示したが、周辺地域から輸入した銀は都市内に流通することはなく、税金・関税・貢納・罰金・利子の支払いに充てられ、王・貴族・神殿によって消費・貯蔵される
 

古代都市と市民生活】

 古代都市では首長・官僚・神殿が都市周辺の農民や都市内の職人から農業生産物・手工業製品を税・貢ぎ物として集め、職人や農民にその階級や働きに応じて生活必需品を再配分する。市民のための市、貨幣は存在しなかった。
 

【自給自足する農耕民】

 都市をささえる農耕民は、その誕生から産業革命までのあいだ自給自足であり、税の支払い、馬・牛を含む道具の購入、借用、罰金のために作物を貨幣に交換して支払う
 

【最初の硬貨】

 紀元前650年ごろ、貨幣を最初につくったリュディアのギュゲス王は、銀の計量のわずらわしさをなくすため金銀の自然合金エレクトロン硬貨をつくり、その携帯の容易性と保存性から兵士への支払いのために使う。兵士は硬貨を自身の生活のために使い、結果、硬貨は交換のためにも使われ始める
 
 古代都市における貨幣は、遠隔交易における尺度基準、権力者の示威、税や兵への支払い代替するための道具、各地域の異なる政治・文明・文化とモノの価値基準の翻訳手段、言葉、文字などと同様のシンボル=情報であり、貨幣情報ネットワークの上に古代都市国内の分業、都市・国家間の分業を循環する血液であった
 
 やがて、硬貨の発明が労働を価値に置換して蓄積し、時空間に広がる貨幣情報ネットワークの上で利益を生む手段となったとき、市場、両替商の信用、硬貨の発行、貨幣の商品化による錬金術を次々と編み出すこととなる。
 
 そして、スミソニアン協定、プラザ合意をへて、電子マネー、ブロックチェーンへと貨幣の仮想化が進み、ますます実体の希薄なモノへと姿と価値をかえてゆく。

フューチャー・リテラシー:インデックス

参考書籍:
[1] 湯浅赳男(1988), "文明の「血液」 :貨幣から見た世界史", 新評論
[2] ジョナサン・ウイリアムズ(1998), "図説 お金の歴史全書", 桂川潤訳, 東洋書林
[3] 吉沢英成(1994), "貨幣と象徴 :経済社会の原型を求めて", 筑摩書房
[4] フェルナン・ブローデル(1985), "交換のはたらき --物質文明・経済・資本主義15-18世紀", 村上光彦訳, みすず書房
Fernand Braudel(1979), "LA Civilisation materielle, economie et capitalisme, XVe-XVIIIe siecle, Tome 2 : Les Jeux de L'ecghange", Armand Colin
[5] デイヴィッド・クリスチャン監(2017), "ビッグヒストリー大図鑑 :宇宙と人類 138億年の物語", 秋山淑子, 竹田純子, 中川泉, 森富美子訳, 河出書房新社
[6] 松岡正剛監修, 編集工学研究所(1996), "増補 情報の歴史", NTT出版


tag : フューチャーリテラシ, 複雑系, メディア, ネット, 未来, 社会, 貨幣, 古代都市

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Author:佐藤基
『フューチャー・リテラシー -- 過去・現在・未来、複雑系の未来を読み解く』
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