ゲームという仮想世界(2)-- オンラインRPGという自由物語世界(1997年)

●とある冒険者の日々


 冒険者を夢見るエルフの少女がいた、名をClariceという。厳つい甲冑に身を固めた戦士たちが、鍛錬のために危険な地下のカタコンベに潜り戦っている中を、場違いな緑の布服と弓という軽装で死人(シビト)たちを狩っていた。なぜ重装をしないのかと問われると、汗臭くて重い甲冑が嫌いなのだという。

 いつものように狩りをしていると、呪文とともに突然ゲートが開き中から存在するはずのない上位死霊魔法使いリッチーが現れた。プレイヤー狩りをする盗賊たちの仕業だ。逃げ惑う戦士たち。喧噪の中突然黒い風がはしりぬけた。黒い甲冑に深紅のマントのその集団は、リッチーを切り捨てて走り抜けていった。団の名をScVScarlet colored Vampaireという、強い団があれば善悪の区別なく宣戦布告する、受けなければ汚く罵るマスターLapisはいかれていると評判だった。街でも安息が得られない戦争は2つの団どうしで行うのが普通だが、常に複数の団と敵対しているのが狂戦士集団ScVだ。その姿に魅了されてしまったClariceにとっては、その出会いがその後の人生を変える決定的なものとなった。


 その後、ScVを退役した居酒屋の主人との出会い。給仕をしつつ、そこで出会った友人と特訓を受ける日々。家を手に入れ、ホッキョクグマを飼い。大量発生したモンスターにやられそうになった時には、カタコンベで出会った名も知らぬ戦士たちが助けてくれた。ついにはScVに入団。チートを使う中国マフィアなどありとあらゆる強敵たちとの闘い、Yamato大戦とよばれるサーバ全体を巻き込む雌雄を決する死闘に勝利した後、ScVは姿を消した。


MMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)という自由物語世界


 1997年ゲーム界に激震を起こしたウルティマオンラインが登場した。リチャード・ギャリオットが、ファンタジーな世界での生活を実現することを夢見て提供し続けたRPGウルティマの剣と魔法の世界をプラットフォームとして、オンラインで接続して自由に生活できる環境をついに提供した。プレイヤーは、木こり、採掘、釣りなどの素材を売る一次産業、素材を加工して料理、武器防具、家具などとして販売する二次産業、需要と供給により価格が変動する商店を営むことができる。地下迷宮にはモンスターが存在し、アイテムを収集することもできる。システムで用意されたクエストなどなく、リアルな生活がそこにはある。あらかじめ職業を選択するという概念はなく、剣士となるか、魔法使いとなるか、生産者となるか、加工者となるかは関連する技能を繰り返し使うことにより鍛えるることにより選択する。1人で冒険することも、チームを結成して集団で商業や探検や戦争を行うことも可能だ。鍛えていなければ鹿にも勝てない現実、リアルな世界がまさにそこにある。100人を超える戦争では、集団戦ならではの戦法が編み出され、少数精鋭による奇襲の有効性を体感し、集団による用兵の難しさを実感する。そこにはコミュニケーションがあり社会がある。プレイヤーたちには、そこでの生活が学業や仕事の合間の数年間でしかなかったとしても、それぞれの濃い記憶と体験と物語が残るのだ。


フューチャー・リテラシー:インデックス

tag : フューチャーリテラシ、美意識、ネットワーク、未来、

ヒトを魅了するゲームという仮想世界:ロールプレイングゲーム

 ゲームは、人と人の知的コミュニケーションとイマジネーションのツールとして紀元前より深くかかわりを持ってきた。現代の花形、ロールプレイングゲームは、なぜヒトを魅了し続けるのだろうか。


ロールプレイングゲームという世界


 最も古い時代の遊戯盤は紀元前3000年頃のものが残されている。例えば、古代エジプトで遊ばれたツタンカーメンのゲーム盤として有名な「セネト」は、11で対戦する双六、バックギャモンのルーツであり、相手の移動を阻むことができることから、偶然だけではない戦略性がプレイヤーを魅了した[1]。そして、5000年後。


 競争、運、模倣、眩暈、努力、技能習得[2]といった遊びの要素を備える総合遊戯ロール・プレイングゲーム(RPGは、1974年に発売されたダンジョンズ&ドラゴンズ(D&Dを源流とする。ロール・プレイングを直訳すると「役割を演じる」となり、要するに「ごっこ遊び」を詳細にルール化したプラットフォーム上で遊ぶのがRPGだ。


 D&Dでは、指輪物語(ロードオブザリング/1954年に大きく影響を受けたファンタジーの世界で戦士、僧侶、盗賊、魔法使いなどの職業、人間、エルフ、ドワーフなどの種族を選び、能力を決め、キャラクターの名前をつけてごっこが始まる。コンピュータゲームのコンピュータ側を担当するのがマスター、ごっこを演じるのがプレイヤーで、4,6,8,10面ダイスを降りながら確率表をもとにシナリオを進める。80年代アメリカの少年たちを夢中にさせ、ETNetflixのストレンジャーシングスでその様子を垣間見ることができる。マスターは、シナリオから逸脱しすぎるとストーリーが破綻するため、プレイヤーをシナリオ上で動くよう自然な誘導が必要となる。どれだけ役になりきって演じられるかはプレイヤーの妄想力しだいだが、「神と英霊の名に命じるイグゾーダス」などと唱えるところを恥ずかしがり屋の日本人は「左のモンスターにファイアーアロー(炎の矢)をキャスト(詠唱)」という具合に淡々と進めることとなる。


 本家D&Dは日本の少年たちを魅了することはなかったが、ゲームマスターの煩雑な役割をコンピュータが行い、声を出して演じる必要がないコンピュータRPG(ゲーム機、スマホを含む)には夢中になった。古くはアメリカのウィザードリー(1981年)、ウルティマ(1981年)、日本ではドラゴンクエスト(1986年)、ファイナルファンタジー(1987年)が有名だ。ウィザードリー地下迷宮での探検を、ウルティマはファンタジー小説世界での生活を、ドラゴンクエストは漫画世界への参加を、ファイナルファンタジーは映画世界への参加を目指し、シナリオへの参加・インタラクションを提供した。


 コンピュータRPGは、フィクション世界の体験手段を読書からコンピュータ操作へと移行し、頭の中でのイマジネーション体験をディスプレイ描画との共体験へとシフトさせた。ソクラテスは、文字と書物を使うことを記憶力の喪失とし、書物を語り掛けても応えないもの、読者を選ばないものとして批判した。読書の物語がゲームの物語への急激に移行する過渡期に立つ現代、それを嘆き批判するのではなく、何を失い、何を得ることになるのかを見極める視点が必要となる


フューチャー・リテラシー:インデックス


参考書籍:

[1] 増川宏一(2006), "遊戯 :その歴史と研究の歩み", 法政大学出版局

[2] ロジェ・カイヨワ(1973), "遊びと人間", 多田道太郎・塚崎幹夫訳, 講談社学術文庫


tag : フューチャーリテラシ, 未来,, ネット, 複雑系, メディア, ゲーム, 仮想世界

【閑話休題】「脈動する宇宙」を「ミクロ・マクロ・ネットワーク」の視点で読み解く

 無限の多元宇宙(マルチバース)の中で138億年間続いたこの宇宙は、4つの相互作用の絶妙なバランスにより、停滞・霧散することなく複雑化しながら新たな構造をつくり続ける。


●ミクロ・マクロな宇宙のネットワーク


 陽子(+)と電子(-)が出合ってゼロにならず、水素をつくるだけでは終わらず、中性子を介して反発する複数の陽子をつなぎとめ、弾け散り、集まり、燃え、新たな元素を生成し、爆発し、さらに多くの元素をまき散らし、恒星を、惑星をつくり、ブラックホールとなり、銀河を銀河団の誕生と死と再生を繰り返す。安定することのない宇宙環境と、それに適応して均衡状態のバランスを探りながら新たな構造をつくり、永遠の均衡が存在しないがゆえに新たな均衡を模索し続ける。


 本書は、複雑系の過去・現在・未来を「ミクロ・マクロ・ネットワーク」というモデルを通して、物語として読み解く宇宙環境の変化への元素の適応をミクロ・マクロ・ネットワークの視点から整理すると3つの仕組みとして俯瞰できる。


宇宙環境適応の仕組み】

 ①ネットワーク適応:

  ③の相互作用の安定する均衡状態(ex.元素、恒星)をさぐる仕組み。

 ②ネットワーク構造の記憶・維持:

  均衡状態(ex.元素)を記憶し保持しようとする仕組み。

 ③ミクロ・マクロ相互作用:

  ①②で構築された均衡状態を構成単位(ex. 元素、恒星)とした、構成単位毎および宇宙環境との相互作用。


ミクロ・マクロ・ネットワーク(宇宙)


 宇宙の専門家ではない読者が、ビッグバンから銀河・惑星誕生までの仕組みを読み解くとき、宇宙の環境変化に対して、どのような相互作用が働き、どのようなエネルギーなどの均衡=安定状態をとり、またその状態はどのような環境において安定・不安定であるかという視点で探ると、様々な宇宙論の中からバランスの良いものを選び、理解し、物語を組みたてることができる。次々に浮かぶ疑問をそのまま放置しておかないことが肝心だ。調べてみると、それが以外と今ホットな話題だったりする。そして、誰か一人の言だけを信じず、なにかを直感したら、なぜそう思うのかをネットや他の書籍を散策して確認することだ。


例えば、

・電子はなぜ原子核の引力によって原子核に落ちないのか

・超新星爆発の際に恒星内でつくられた元素は破壊されてないのか

・地球にはなぜこれほど多くの元素が存在するのか。その存在比は宇宙において一定のものなのか

・生命が誕生するために適切な元素比はあるのか、あるとしたらなぜそれが地球に集まったのか

・60億年前に始まった宇宙の加速膨張と、46億年前の地球や生命誕生との関係は


 元素というプラットフォームを得て、地球という惑星をつくった宇宙は、地球を実験場として新たな相互作用を創造しながらメタな構造を次々とを組み立てていくことになる。


フューチャー・リテラシー:インデックス

tag : フューチャーリテラシ, 未来,, ネット, 複雑系, メディア, 宇宙

フューチャー・リテラシー:インデックス

-- 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」で複雑系の

             過去・現在・未来を読み解く --

 ・はじめに

 ・年表

前編:「相互作用」と「コミュニケーション」の歴史に学ぶ
一章 【範・縁】:「ミクロ・マクロ・ネットワーク」138億年

 物理世界では「相互作用」、生命世界では「コミュニケーション」が「個」を繋ぎ、ネットワークのパターンを描く。「ミクロ・マクロ・ネットワーク」の視点から、新たな関係の創造史を宇宙・生命・社会の視点で俯瞰する。

1.1 「宇宙」と「地球」の形成

 ●ビッグバンの冷却とともに徐々に形づくられる宇宙

 ●ファーストスターが銀河の種をまきちらした


 ●分子の製造工場「地球」


1.2 「生命」

 ●体内のネットワーク
  ・錯覚する脳

 ●道具との共進化への道
  人類進化の源泉、オルドヴァイ渓谷
  ・弱点だらけの草原進出
  ・残念な進化と脳の発達
  ・脳と道具の共進化
  ・ヒトと道具が紡ぐメタ進化
【閑話休題】「メディアとヒトの誕生」つらつらと考える

1.3 激動の波に適応する「社会・経済」

 ●産業革命はなぜ18世紀にイギリスで始まったのか
 ●交通・通信インフラとグローバル交易の共進化

1.4 ヒトと共進化する「メディアとネットワーク」

 ●「言葉」が変わると考え方も変わるということ

 ●社会と思考を激変させた「文字」

 ●研究は「文字」を書くことによってのみ成立する

 ●正確な計算を行う機械
  ・歯車で稼働する苦難のオートマタ
  ・エジソンの光がコンピュータとヒトの未来を灯す

 知的生産のための道具

 ●ゲームという仮想世界
  ・メタバース

後編:【ミクロ・マクロ・ネットワーク】で織る未来 

 「ひらめき」は未来を読み解く最初の一歩だ、その一歩を踏み出すからこそ未来が描かれてゆく。「ミクロ・マクロ・ネットワーク」で読み解く未来の散策法と具体例について示す。


二章 【型・編】:未来を読み解く散策法 

2.1 準備

 ●仮説推論と類推で紡ぐ「未来の物語」

 ●「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデル

2.2 アイデア・プロセッシング
 ●概要
●Step2: 情報散策
  ・本の散策

2.3 付録

 ●【閑話】何も考えない「閃き!」のとき
 ●【閑話】お勧めの10冊

【未整理】

三章 【顧・紡】:1990年から描く未来

 google、amazon、iPhoneが登場して、Web2.0と言う言葉が生まれて初めて気がつくのではなく、起業家たちが閃くのと同時かそれ以前に、誰もがコンセプトを生み出すことができる。
 1990年代に読み解いく未来、現代ではあたりまえとなったサービス・コンセプト例と発想の過程を紹介する。

3.1 商品として未来を具体化する

 3.1.2 気づきのあるネットワーク・サービス:AwarenessNet(1995年)/レコメンド

3.2 アイデアとプロトタイプで描く
 本節では、アイデアやプロトタイプについて、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルによる「コンセプト編集」に焦点をあてて例示する。

  3.2.1 動的に適応する仮想コンピュータ(1990年)/クラウド
  3.2.2 社会変化に適応するバーチャル・オフィス(1992年)/コ・ワーキング
  3.2.3 通信サービス・アシスタント(1994年)

四章 【活・織】:2020年から描く未来 

4.1 計画されている未来のコンセプト
 4.1.1 実世界と虚像が共進化する世界:ミラーワールド
 4.1.2 計画されている未来のアプリケーション
 4.1.3 ミラーワールドをけん引するメディア:スマートグラス

4.2 コミュニケーション・インフレーション 
 -- 「知」の断片化がもたらすヒトの「未来」--
 4.2.2 「情報世界」の景色をみる脳のアウトソース
 4.2.3 メタコンテンツの生産
 4.2.4 複雑系に対する思考のアウトソース
 4.2.5 マルチバース世界のプラットフォーム

五章 【環・綾】 螺旋:知の淵を渦巻く振り子



tag : フューチャーリテラシ, 未来, ネット, 複雑系, メディア, ミクロ・マクロ・ネットワーク

元素に富んだ岩石惑星「地球」誕生(45億6000万年前)

 豊富な元素を含む「地球」が誕生したのは、宇宙誕生から130億年の銀河の辺境で超新星爆発が発生したという絶妙なタイミングだったからだ。


●ナイスタイミングで誕生した太陽系[1]


 宇宙は、膨張が進みすぎれば銀河を形成する間もなく膨張し続け、逆に収縮に転じる速度が早ければつぶれてしまう。ビッグバン直後からやや減速しつつ膨張し続け、ファーストスター爆発の後、大量の銀河が誕生・衝突・統合を繰り返し、太陽系が存在する「おとめ座超銀河団」の「天の川銀河」を形成した。そして、銀河の統合により宇宙全体に広がっている銀河同士の距離が遠くなると「膨張する宇宙」と銀河の重力により「減速する力」の均衡点を超え、約60億年前から加速度的な膨張に転じた。そして、天の川銀河の辺境に、ウランまでの元素を集め、岩石惑星をそして生命を誕生させるためにちょうどいい塩梅の46億6700万年前というときに「太陽系」を生み出す。

 

●物質大循環と衝突の繰り返しが岩石惑星「地球」を形成[1][2][3]


 456700万年前が矮小銀河と衝突し、爆発的に星が形成される「スターバースト」の騒乱が渦状腕の近くに分布する「分子雲」に到達し、周囲にあった「星間物質」に濃淡をつくる。重力と恒星内の爆発の均衡のなかで「核融合反応」により高温で燃え輝き続ける恒星=太陽が誕生した。


 太陽を形成した「分子雲」は、水素(97%)やヘリウム(8.9%)を主成分とし、超新星爆発などによって生成された様々な物質(炭素、窒素、酸素、マグネシウム、ケイ素、鉄など:0.1)で構成されたガス状の集まりだ。「太陽」にその99.8%が吸収され、残りの0.2%が太陽を中心として「回転する力」と重力により「落下する力」の均衡により太陽への落下を免れ、太陽の周囲に高速に回転する環を形成する。太陽の近くでは、太陽の高温にさらされて水分が蒸発し、ドライな物質だけが残った。太陽風に吹き飛ばされた水分などの揮発成分は、火星と木星の間を境界線とする「スノーライン」の内側には水蒸気を、外側には氷や有機物などのより低温で安定な物質とともに残留した。


 円盤から垂直方向にエネルギーが放出され、徐々に回転を緩め、環の中心面に向かって固体分子(塵や氷)が「沈殿」する。沈殿した固体分子は乱流の中で静電気力や重力相互作用によって集積し合いながら大きくなり、数10Km程度の「微惑星」となって分離する。100億の「微惑星」どうしは、さらに衝突・合体を繰り返して巨大化し、同一軌道上の「微惑星」を取り込み終えると、太陽を中心として長期にわたり公転する「惑星」を形成する。


 太陽に近い軌道では、氷の粒子が蒸発したため微惑星が少なく小型化し「岩石惑星」を、木星の軌道よりも外側では大量の氷の粒子を集めて微惑星がぶつかり合い「太陽風」により飛ばされてきたガスを巻き込み巨大な「ガス惑星」を、天王星の外側の軌道では回転力が弱いため微惑星の衝突がほとんどおきず小さな「氷惑星」を形成する。そして、456000万年前、(32.1%)、酸素(30.1%)、シリコン(15.1%)、マグネシウム(13.9%)、硫黄(2.9%)、ニッケル(1.8%)、カルシウム(1.5%)、アルミニウム(1.4%)[4]、金銀プラチナなどの重金属、レアアース、ウランなどの元素で構成される岩石石惑星「地球」が誕生した。


 ウランまでの豊富な元素材料をそろえる地球は、分子の実験場として様々な物資を生み出してゆくこととなる。


フューチャー・リテラシー:インデックス


参考書籍:

[1] 佐藤勝彦(2015, "宇宙137億年の歴史 :佐藤勝彦最終講義", 角川学芸出版

[2] 吉岡一男(2017, "初歩からの宇宙の科学", 放送大学教育振興会

[3] 丸山茂樹(2020,"最新 地球と生命の誕生と進化:[全地球史アトラス]ガイドブック", 清水書院

[4] 英語版Wikipedia, "Earth", Earth - Wikipedia



tag : フューチャーリテラシ, 未来,, ネット, 複雑系, メディア, 宇宙, 地球

恒星の生と死の繰り返しのなかでつくられた豊富な元素 -- 鉄より重い元素をつくろう!

●恒星の生と死の繰り返しのなかでつくられた豊富な元素  -- 鉄より重い元素をつくろう!


 元素表の元素を生成するためには、巨大な恒星内の核融合よりも莫大なエネルギーが必要だ、離散融合を繰り返す宇宙は、さらなる元素生成の実験場を誕生させた。

 恒星の中での核融合反応が止まると、核融合による「膨張する力」と重力による「落下する力」の均衡がくずれ、鉄の層は中心部に向かって光速の2割ものスピードで落下しはじめる(重力崩壊)。中心部は超高圧のため鉄原子に電子が押し込められ、陽子が中性子に変わり(弱い相互作用)中性子のコアができる。中性子のコアに鉄の層が落下し跳ね返り、激しい高密度の衝撃波が発生する。さらに、中心部のコアの重力崩壊が進み、やがて回転する巨大なブラックホールとなり、周囲を巻き込みながらジェット流にのせて元素をまきちらす極超新星爆発をおこす。


 この極超新星爆発において、ケイ素層や酸素層下部では、衝撃波が通過するときの高温高密度下で鉄を中心とした元素を生成、重い原子核は大量に生成された中性子を捕獲し、さらに重い原子核となる。陽子と中性子の均衡がとれる数に達すると電子を放射して安定した元素となり(弱い相互作用)、さらに中性子を捕獲してより重い元素を生成し、鉄より重い元素を生成する連鎖が続く。このようにして元素表にあるさまざまな元素が巨大なブラックホールの周囲から、ジェット流にのって宇宙空間に広がった。


 ファーストスターのサイズは、ダークマターの密度の偏りにより異なり、先に示した太陽質量の40倍程度のものから、大きなものは短期間に6万倍にも巨大化し、その最後に超新星爆発とともに中心核からモンスターブラックホールを形成、さらに周囲の星間ガスをとりこみ、モンスターブラックホールどうしが合体し太陽質量の10億倍もの超巨大ブラックホールとなり、ファーストスターからまき散らされた元素=星間ガスをもとに数千億の恒星を生み出す銀河へと成長してゆく。

 銀河の中では、ばらまかれた星間ガスが集まってさまざまなサイズの恒星が誕生と死を繰り返す。コアが中性子星となり恒星表面に到達した衝撃波により超新星爆発をおこすもの、超新星爆発をおこさずゆっくりとした中性子核融合によりプラチナよりも重い元素を生成するもの、連星系による核爆発型の超新星爆発により炭素、酸素、ケイ素そして鉄を大量に生成するもの、中性子星の連星の衝突・合体により金やプラチナなどの重金属を大量に生成するものなど、現在に地球にある豊富な元素は恒星の生と死の振り子のリズムから徐々に生成されていったのだった。


フューチャー・リテラシー:インデックス


参考書籍:

[1] 佐藤勝彦(2015, "宇宙137億年の歴史 -佐藤勝彦 最終講義-", KADOKAWA

[2] 和南城伸也(2019, "なぞとき 宇宙と元素の歴史", 講談社

[3] 谷口義明(2019, "宇宙はなぜブラックホールを造ったのか", 光文社

[4] 谷口義明(2019), "宇宙の誕生と進化", 放送大学市教育振興会


tag : フューチャーリテラシ, 未来,, ネット, 複雑系, メディア, 宇宙

ファーストスターが銀河の種をまきちらした --- 鉄までの元素をつくろう!

●ファーストスター内部で鉄までの元素をつくろう!


 周期表の水素とヘリウム以外の元素はどのように創造されたのだろうか。水素(陽子1)、ヘリウム(陽子2)、順に陽子を足していけば水素をもとに他の元素をつくることができそうだが、お互いにプラスのため反発し合う陽子同士は近づくことができない(電磁気相互作用)。かの錬金術師たちが、どのように頑張っても他の元素から金をつくることができなかったわけだ。

 ところが恒星内において原子核が超高温・超高圧状態にさらされると、電子と原子がばらばらになり、陽子同士が衝突することができるようになる。陽子どうしがぶつかると陽子過剰となって陽子から陽電子(プラスの電荷)とニュートリノが飛び出して中性子となり(弱い相互作用)、陽子と中性子が結合することにより水素原子核(陽子1)⇒重水素原子核(陽子1+中性子1)⇒ヘリウム原子核(陽子2+中性子2)へと形を変えていく(強い相互作用)。いったん、ヘリウム原子核が構成されると、低温低圧状態にもどっても結合がほどかれ水素にもどることはない(強い相互作用)。恒星内の反応としては、水素からヘリウムへの核融合の期間がもっとも長い。

 恒星内の中心にヘリウムが蓄積され、さらに高温・高圧状態がすすむと、炭素、酸素、ネオン、マグネシウム、ケイ素、硫黄、カルシウムなどが連鎖的に生成される。より大きな元素番号へと核融合反応が進むにつれてエネルギーを放出しているため軽くなり結合力が強く働くようになる(強い相互作用)、一方で鉄よりも陽子が多くなると反発が強まり(電磁気相互作用)、最も安定した元素=鉄を生成したところで核融合反応が終了する。ファーストスターが誕生してから数百万年かけてようやく鉄(元素番号26)までの元素が創造することができた。


フューチャー・リテラシー:インデックス


参考書籍:

[1] 佐藤勝彦(2015), "宇宙137億年の歴史 :佐藤勝彦 最終講義-", KADOKAWA



tag : フューチャーリテラシ, 未来,, ネット, 複雑系, メディア, 宇宙

ファーストスターが銀河の種をまきちらした --- 水素のとヘリウムのネットワークが光をともす


●ファーストスターが宇宙空間に光りをもたらした


 今私たちがあるのは、初期の宇宙のわずかなゆらぎが水素とヘリウムのネットワーク=ファーストスターを編み出し、集散離合のリズムの中から今ある元素を生み出したからだ。


 水素とヘリウムで満たされた宇宙では銀河を作る材料もなく、薄いガスが静かにただ広がるだけのはずだった。しかし、実際には水素を超える大量のダークマターが宇宙に広がり、重力により影響を与え合っていた。

 「宇宙の晴れ上がり」から1億年の時をかけて、太陽質量の100万倍のダークマターの塊の重力に20万倍のガス(水素とヘリウム)が引き寄せられ、最初にあった密度の差が濃くなり編み目のような模様をつくりはじめる。

 さらに、密度の濃い部分では1000度の高温の乱流状態となり、分子同士が近接し、「電磁気相互作用」によって集まり、一部は化学反応により合体し、さらに「重力」による収縮が始まる。わずかに回転していた「分子雲」は、収縮にともない高速に回転する円盤となり、中央部は「重力」によりさらに中央に向かって落下を続ける。やがて、重力による「落下する力」と、落下のぶつかり合いがおこした熱による「膨張する力」が均衡し収縮が止まり、内部の熱により輝く「原始星」が誕生した。この時の大きさは太陽の直径の5倍、太陽質量の100分の1ほどと軽く、宇宙に初めてかすかな光りをともした。

 「原始星」へ向けて高速のガスが流れ込み続け、太陽質量の20の重さになったときに1500万度を超え、「核融合反応」を繰り返すようになり、太陽の10万倍もの明るさで輝き照らす。この光がまわりのガスを暖め、ガスが星にふりつもるのにブレーキがかかる。さらに7万年後太陽質量の42、表面温度10万度の高温で燃えさかったとき、核融合による大規模な爆発「膨張する力」と重力による「落下する力」が均衡し、ついにその成長を止めた。


フューチャー・リテラシー:インデックス


参考書籍:

[1] 佐藤勝彦(2015), "宇宙137億年の歴史 :佐藤勝彦 最終講義-", KADOKAWA

[2] 吉田直紀(2018, "地球一やさしい宇宙の話 :巨大ブラックホールの謎に挑む! - ", 小学館



tag : フューチャーリテラシ, 未来,, ネット, 複雑系, メディア, 宇宙

ビックバンの冷却とともに徐々に形づくられる宇宙(2) -- 初めての元素の作り方

 最初の元素が誕生するまでの宇宙はあまりに熱く、水素とヘリウムの原子核、光子と電子が激しく暴れる荒ぶる宇宙が広がっていた。


●水素とヘリウムの原子核が広がる暗黒の宇宙[1]


 ビックバンからおよそ3分後宇宙の温度が10億度に近づくにつれて陽子や中性子に作用する「強い相互作用」「弱い相互作用」の影響が強まり、ビックバン原子核合成がはじまり、水素とヘリウムの原子核が合成されはじめる。宇宙が急速に広がり冷えていき、それ以上の核合成が進む前に、水素の原子核(75%ヘリウムの原子核(25%(と極極微量のリチウムなど)だけが宇宙空間に広がる。このまま穏やかに広がっていけば、水素・ヘリウムガスが何百光年も広がった空間が宇宙となるはずだった。実際、最初の元素が誕生するまでは、原子核と電子が宇宙空間に散乱し光子が直進できない「宇宙の暗黒時代」とよばれる真っ暗な空間が広がっていた。暗黒の宇宙というと穏やかなイメージだが、今よりも狭い宇宙空間の中で光子と陽子、電子ぶつかり合う激しい運動を繰り返していた。


●原子の誕生とともに晴れ上がる宇宙[1]


 ビックバンの後、3000に冷えた38万年後、陽子と電子の運動がおだやかになり「電磁相互作用」が働くようになると、原子核+と電子-とがお互いに引きあい、最初の元素である水素原子とヘリウム原子が誕生する。元素といえば「すいへいりーべー」で覚えた周期表が思い浮かぶ。周期表に記載されている元素は最初から宇宙に存在していたわけではなく、ビックバンから38万年後の宇宙に広がる元素の99.9%が水素(75%)とヘリウム(25%)、と極々微量のリチウムなどしか存在しなかったということに驚く。現在の宇宙全体の元素の比率も大きく変わらず、99.9%は水素とヘリウムで満たされており、残りの0.1%に他の元素がひしめき合っている。原子が生成されるようになると、ようやく光子が直進できるようになり「宇宙の晴れ上がり」をむかえる。我々が137億年先に宇宙の光をみるとき、それはようやく直進しだした光子の光なのだ。


フューチャー・リテラシー:インデックス


参考文献:

[1] 佐藤勝彦(2015, "宇宙137億年の歴史 :佐藤勝彦 最終講義", 角川学芸出版



tag : フューチャーリテラシ, 未来,, ネット, 複雑系, メディア, 宇宙

ビックバンの冷却とともに徐々に形づくられる宇宙(1) -- 4つの相互作用の均衡が宇宙を作る

●ビッグバンとともに誕生した大元の4つの相互作用[1][2]

 138億年前、宇宙は超高温高密度のエネルギーの塊から一瞬にして体積が指数関数的に膨張し熱エネルギーが解放され、1000キロメートルほどの火の玉宇宙の膨張=「ビックバン」が始まる。膨張とともに冷えていくなかで、集合-分散を繰り返しながら少しずつ宇宙の物理法則とそのかたちを創っていく。ビッグバンの直後は1000兆度を超え超高温高圧であったため原子すら存在できなかったが、宇宙の膨張・冷却という環境変化とともに質量をもつ素粒子(陽子、中性子、電子)や重力・電磁気力などの相互作用がつくられた。

 本書でいう、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」のもとは4つの相互作用であり、138億年のときをかけて、宇宙を、星を、生命を、人間を、社会をつくりあげてゆくことになる。学生のころに習った「力」や「相互作用」は、この世界を説明するものとして存在したわけだが、宇宙誕生から歴史をひもとくと4つの相互作用によって集散を繰り返し、あるときは創造のもととなる環境を、あるときは互いに影響をおよぼす相互作用を、あるときは自身を構成する仕組を創りながら徐々に今ある世界を組み立てる。

 

●宇宙は4つの相互作用の均衡で創られている[1][2]

 我々の知覚する宇宙は宇宙創生の直後、宇宙の冷却とともに段階的に発生した4つの相互作用によって形成されている。4つの相互作用は、宇宙環境の中で物質が断片化、連結・再集合を繰り返すことにより、宇宙の構造そして生命をより複雑な仕組みへと導いていく。

 

1)重力相互作用(宇宙創生から10-44秒後)

 リンゴが落ちるときにはたらいている相互作用。あらゆる粒子にはたらくけれど力は非常に弱い、が、宇宙のマクロなレベルでは重力だけで語られる。「重力子」の交換により伝わる。無限遠まで作用して、距離の自乗に反比例し、質量に比例する。質量が極端に小さい原子、分子のレベルでは、ほとんど影響しない。

 

2)強い相互作用(宇宙創生から10-44秒後)

 陽子、中性子、原子核を形づくる相互作用。「グルーオン」の交換により伝わる。電磁気相互作用より強いが、原子核程度のきわめて狭い範囲にしか働かない。「強い相互作用」がなければ電荷がプラスの陽子どうしは反発して2つ以上の陽子が核内に存在することはできない。中性子が核内にあると「強い相互作用」の方が強く働くようになって2つ以上の(元素表の)陽子が核内に存在できるようになる(例えば、ヘリウムは陽子2+中性子2)。つまり、原子核は「電磁気相互作用」の反発力と「強い相互作用」の引力の均衡の上になりたっている。

 

3)弱い相互作用(宇宙創生から10-11秒後)

 原子核の種類を変えてしまう錬金術な相互作用、太陽のエネルギー、原水爆、原発、星の内部の核反応に関係する。「ウィーク・ボソン」の交換により伝わる。水素の原子核(電荷+1)からヘリウムの原子核(電荷+2)となるとき、逆に水素の原子核(電荷+1)=陽子が中性子(電荷0)となるときに働く。もちろん、この連鎖で水素が金となる際にも働く。この相互作用がなければ、周期表に記載される原子のバリエーションは存在しなかった。こうやってみると、陽子と中性子って状況により姿を変えるだけのものなんだなーと。だが、そう言ってしまうと、元素は皆水素になってしまうわけで。


4)電磁気相互作用(宇宙創生から10-11秒後)

 我々が普段経験する重力以外のすべてにはたらいている相互作用。地震、雷、磁石、化学反応、物を押して移動する、木を折る、ボールを投げる、飛行機が飛ぶ、そして電子と原子核を結びつけて原子をつくるときにはたらいている。「光子(フォトン)」の交換により伝わる。無限遠まで作用し、距離の自乗に反比例し、電荷の積に比例する。我々が体験できる重力以外のすべては、電磁気相互作用によっているという万能・ビックリな相互作用

 

フューチャー・リテラシー:インデックス


参考書籍:
[1] 佐藤勝彦(2015), "宇宙137億年の歴史 -佐藤勝彦 最終講義-", 角川学芸出版
[2] 吉田直紀(2018), "地球一やさしい宇宙の話 - 巨大ブラックホールの謎に挑む! - ", 小学館


tag : フューチャーリテラシ, 未来,, ネット, 複雑系, メディア, 宇宙

プロフィール

佐藤基

Author:佐藤基
『フューチャー・リテラシー -- 過去・現在・未来、複雑系の未来を読み解く』
を執筆中。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
ブロとも一覧
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR