【閑話】:喩えて考える:「メタファー」と「アナロジー」

 ヒトは「未知」のものを発見したときに、足りない「語彙」を補うために「類似」を探し「喩え」により理解する。

 

●喩えるということ


 「未知の未来」を読み解く際に「喩え」は強力な道具となる。「フューチャー・リテラシー」は「未来」を読書に喩えてイメージする試みで、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルはメタファー構築のためのガイドライン(補助器具)前編は過去の物語を「イメージ」に落とし込むための読書だ。本書そのものが「喩え」でできている。

 

 「喩え」には、「アナロジー(類推・直喩)」「メタファー(暗喩)」があると考えたところで、ちょっとした迷路に迷い込んでしまったので整理。どちらも、じっと見つめすぎると焦点が合わなくなってくる。

 

●「アナロジー」で喩える


 「アナロジー」は直接喩えることで、「ABのように~だ」という具合に使う。ABの構成要素と対応関係が明確な場合に使い、よく私たちが使う「喩え」はアナロジーで、似たものどうしを見比べて、連想により考えを深める。例えば、電流と水流のアナロジーでは次のように対応づけられる。

 

【電流は水流のように流れる】

 A:水源、貯水、水流、水圧、水力、漏水

 B:電源、蓄電、電流、電圧、電力、漏電

 

 「アナロジー」の組み立てるときの思考を追うと次のようになる。

 

【アナロジー構築のステップ】[1]

 1.何かと何かが「似てる」と思う

 2.(似ているものの構造を)「借りてくる」

 3.(借りてきた構造を)「当てはめる」

 

 「似ている」と思うにも、「借りてくる」ためにもそれぞれの知識がベースとなる。「当てはめる」際に、すべての要素が具体的に対応づけられるときもあれば、一部だけ対応することもある。例えば、『植物が水を吸い上げる水流を電流に対応させると何になるだろう?』と連想を続けていくと対応関係がゆらぐ一方で「イメージ」がふくらみ、新しい発想を生み出すこともある。


●「メタファー」で喩える


 「メタファー」は暗喩であり「イメージ」との対応で喩える。「人生とは旅だ」という喩えで「旅」は具体的な何かをさすのではなく、「旅」にいだく「イメージ」を共有する。

 

【メタファーの種類】[2]

 1.発言の装飾としてのメタファー

  「人生とは旅だ」と言うとイメージが膨らんで含意があり、格好いいよねという言い回し。

 2.言語の先取りとしての不正確な思考形式としてのメタファー

  言葉=論理として意識する前に不確かなままに「イメージ」を膨らませておく考え方。

 3.絶対的メタファー

  「イメージ」のまま言葉=論理にもどさずに、思考を続けていく考え方。

 

 通常の言葉はすでに知っていることしか表現できない、アイデア発想のためには「言語の先取りとしてのメタファー」や「絶対的なメタファー」を飼い慣らすことが有効だ。「喩え」を道具として「未知の未来」を読み解くときに、「絶対的メタファー」のまま「イメージ」を膨らませ、言葉=論理におとして「実体」を与え、「メタファー」と「アナロジー」と「実体」とのあいだを行き来し散策しながら考えをまとめることで、飛躍的に発想を広げることができる。

 

●喩えの罠

 「喩え」に頼りすぎると、誤った解釈に陥る危険がある。「社会を進化」のメタファーとしてとらえることが人種差別を生んだり、「ソフトウェア開発を建築」のメタファーとしてとらえることが工数問題を生んだりするのはメタファーの誤用だとも言われている。「喩え」は論拠にはなり得ないので、あくまでも発想を展開するための道具として扱うようにしたい。


[1] 安藤昭子(2020), "才能をひらく編集工学 :世界の見方を変える10の思考法", Discover

[2] ハンス・ブルーメンベルク(2005), "世界の読解可能性", 山本尤, 伊藤秀一訳, 法政大学出版局

    - Hans Blumenverg(1981), "Die Lesbarkeit Der Welt", Suhrkamp Verlag



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1万年前になぜ農耕民が誕生したのか

 小規模な狩猟採集民が農耕生活に移行し、人口を巨大化していったのは、気候変動などにより定住生活に誘われ、そこから抜け出せなくなった定住化と農耕の罠にはまったためだった。


●気候変動と農耕コミュニティの形成


【豊かな狩猟採集民】


 15000年前までのヒトは、020人程度の小集団で獲物を追って移動する狩猟採集により生活していた最終氷期の14000年前頃、気候が湿潤になるにつれて、森がそばにあり海・河川・湖が近く天然の動植物が豊富な地域に定住し、周囲の獲物と植物を採集するだけで十分な食料が手に入る豊かで安定した定住型の狩猟採集生活を選択する集落が発生する

 

定住生活のメリット:

 ・老人が置いていかれることがない

 ・安全に出産できる

 ・大きく専門的な道具を利用できる

 ・食料を貯蔵できる

 

 定住により、食料を安定して確保でき、より多くの子供を養い、老人と子供の死亡率が減り、急激に人口が増えていく。同時期に、ナイル流域や中東各地で栄養が豊富で短時間で大きな収穫が得られる野生の穀類=小麦が自生するようになり、定住生活との相乗効果によりさらに人口を増やす。やがて、サハラ・シリア・シナイが乾燥化し砂漠が広がり、パレスティナなどの麦自生地を目指してさらに狩猟採集民が集まることとなる。

 

【定住化の罠】


 13000年前ヴュルム氷期が終った直後に、北半球の氷床の溶解などにより亜氷期(ヤンガードリアス期)が発生する。人口過剰と天然資源の減少による食糧難という問題に直面した定住型の狩猟採集民はすでに移動による狩猟採集のノウハウを失っており、穀物などの効率の良い植物の収穫量を増やす工夫に成功した集団=農耕民だけが生き残る。農耕民は、栽培に有利な穀物や豆類を選別して育て、それが増え、収穫する農耕民の人口が増し、栽培可能な地域を広げるた。

 11500年前、再び温暖化に転じると収穫量が増加し、人口増加に拍車がかかる。以降、農耕民は、技術の改良による人口増加⇒人口過密に伴うギリギリの食生活⇒土地の荒廃による飢饉や病による人口減少⇒足りない労働力を増やすための人口増加、という抜け出せない貧しい生活サイクルを何千年ものあいだ繰り返すこととなる

 

【「肥沃な三日月地帯」の形成と集落の巨大化】


 紀元前1万年前に、後にメソポタミア文明を構築する「肥沃な三日月地帯」を形成する。

 

「肥沃な三日月地帯」のメリット:

 ・地中海性気候で、地形が起伏に富んでいるので野生種の種類が多い

 ・季節ごとの気候が変化に富んでいて、一年草の割合が多く、多様化している

 ・川が近く、低地で氾濫による栄養補給があり、灌漑ができる

 ・低地と高地のあいだで時期のずれた収穫ができる

 ・山羊、羊、豚など家畜化可能な哺乳類が豊富に生息する

 

 人口密度が高くなると周囲との争いが頻発するようになり、周囲の狩猟採集民を追い出し、武装した盗賊から集落を守るための「軍事力」が必要となる。大きな集団ほど、より大きな「軍事力」を養うことができることから、しだいに集団の規模が大きくなっていく。集団の規模が大きくなると、集団内のもめ事をまとめ、運営するための統率者と官僚組織=政治エリートが発生する。やがて統率者と官僚組織が支配する仕組みを構築し、生産した食料を管理し、税金を課し、軍隊を動かすようになる。集団が都市となり巨大化するにつれて、それをささえる生産プラットフォームの治水・灌漑などの技術発展をうながし、それがさらなる集団の巨大化を進める。

 農耕生産プラットフォームの上に、自身では生産しない専門職をのせた集団は、周囲を取り込む巨大化のサイクルを回してゆく


フューチャー・リテラシー:インデックス

ヒトと道具が紡ぐメタ進化 (future-seeds.net)


参考書籍:

[1] デヴィッド・クリスチャン, シンシア・ストークス・ブラウン, クレイグ・ベンジャミン(2016), "ビッグヒストリー われわれはどこから来て、どこへ行くのか :宇宙開闢から138億年の「人間」史", 長沼 毅監, 石井克弥, 竹田純子, 中川泉訳, 明石書店

[2] デイヴィッド・クリスチャン監(2017), "ビッグヒストリー大図鑑 :宇宙と人類 138億年の物語", 秋山淑子, 竹田純子, 中川泉, 森富美子訳, 河出書房新社 

[3] 松岡正剛(1996), "増補 情報の歴史", NTT出版

[4] ジャレド・ダイアモンド(2000), "銃・病原菌・鉄",倉骨彰訳 , 草思社

    - Jared Diamond(1997), "GUNS, GERMS, AND STEEL: The Fates of Human Societies", W.W.Norton & Company.


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【閑話】:ヒトと道具の共生って?メディア論おさらい

●ヒトと道具の共生って?メディア論おさらい、未来へ続く


 ヒトと道具の共進化がヒトを進化の枝から分岐させ、脳と道具(メディア)の共進化」「言葉と脳の共進化」がヒトの「思考」を変化させる「ヒトと道具(言葉)の共進化」は「文化」をつくる。世代を超えて「文化」を伝える遺伝子としてミームを提唱したドーキンスの着眼点に今更ながらに唸る。[3]

 

整理してみよう


ヒトと道具の共進化

 ・ヒトは環境変化に「道具」を発明・改良して適応する。

 ・「道具」は「文化」を形成し、世代を越えて伝えられる。

 ・「道具」は、利用の学習により「脳」の思考方法に変化を与える。思考方法の変化も世代を超えて伝えられる。

 ・「道具」によって変化した「思考」によって、新たな「道具」を生み出し、「道具」と「脳」はフィードバック・ループを形成して「共進化」する

 

脳と言葉の共進化

 ・「言葉」は「脳」内で意識や論理的な思考を行うときに使う。だから、「言葉」の語彙と文法は、直接「思考」に影響を与える。

 ・「言葉」による「思考」は、非意識や暗黙知にも影響を与えて、記憶・想起される。

 ・ヒトは環境変化に合わせて「言葉」を改良し、ヒトと「言葉」はフィードバック・ループを形成して「共進化」する

 

声の言葉と書く言葉[4][5]

 ・「声の言葉」は、聴衆を対象とし、周囲の環境に影響を受け、発するとすぐに消えてしまい、保存することができない。このため、記憶に残り、語りついでいくための工夫がこらされた。アーティスティックで演劇的な手法だ。

 ・「書く言葉」は、アルファベットの誕生と、活版印刷の発明により急速に広まり「読む言葉」の文化を退け、「思考」方法を急速に変化させる。

 ・黙読は、論理的、要素還元的、記述的な思考方法を植えつけ、近代の科学や数学などを発展させた。

 ・一方で、暗唱的な「記憶」能力、美意識による「直感」、論理的に記述しがたいアーティストとしてのバランス感覚を弱体化させる。

 

 ヒトとコンピュータの共生を推進した、リックライダーエンゲルバートアラン・ケイ「ヒトとコンピュータの共進化」「道具と思考の相互作用」を十分に認識していて[6]、さらにアラン・ケイはコンピュータ時代の「書く言葉」が「プログラムのようなもの」になるとさえ考えていた[7]

 

 生まれた時からテレビを見て育ち、インターネットやゲームに時間を費やして、本を読まない(読めない)ヒトが急激に増加している[8]。つづく未来がどのようなものになるのかについては、未来編でいっしょに考えてみたい。

 

フューチャー・リテラシー:インデックス

「脳」と「道具」の共進化

ヒトと道具が紡ぐメタ進化

「言葉」使いとともに成長する「意識」

「声の言葉」と「書く言葉」、哲学と数学の誕生

ヒトとコンピュータの共生


参考書籍:

[1] M.マクルーハン(1986), "グーテンベルクの銀河系 :哲学人間の形成", 森常治訳, みすず書房
- Marshall McLuhan(1962), "The Gutenberg Galaxy: The Making of Typographic Man", University of Toronto Press
[2] アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社
- Antonio Damasio(2018), "The Strange Order of Things: Life, Feeling, and the Making of Cultures", Pantheon
[3] リチャード・ドーキンス(2006), "利己的な遺伝子", 日高敏隆, 岸由二, 羽田節子, 垂水雄二訳, 紀伊国屋書店
- Richard Dawkins(1976/1989), "THE SELFISH GENE(30th anniversaty edition", Oxford University Press
[4] ウォルター・J・オング(1991), "声の文化と文字の文化", 桜井直文, 林仁正寛, 糟谷啓介訳, 藤原書店
[5] エリック・A・ハヴロク(1997), "プラトン序説", 村岡晋一訳, 新書館
[6] 西垣通(1997), "思想としてのパソコン", NTT出版
[7] アラン・ケイ(1992), "アラン・ケイ", 浜野保樹監修, 鶴岡雄二訳, アスキー出版局
[8] ニコラス・G・カー(2010), "ネット・バカ :インターネットがわたしたちの脳にしていること", 篠儀直子, 青土社
- Nicholus Carr(2010), "The Shallows :What the Internet Is Doing Our Brains", W W Norton & Co Inc


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知的生産のための道具(3):MacとHyperCardの描いた小世界

 それは、未来につながる「新しい言葉」の始まり、言語を描くためのキャンパスだった。


●MachintoshとHyperCardの描いた小世界


 2人のアーティスト、スティーブン・ジョブズビル・アトキンソンらの手によりAltoを道標としたMachintoshが(1865年)、ハードディスクを搭載したパーソナル・コンピュータMachintosh Plusが発売され(1986年)、さらにマルチメディア・オーサリング環境HyperCardが搭載される(1987年)。

 

Machintoshの小世界】

 ヒトは、複雑な世界で生きるために新しい事象に出会うと、アナロジーで理解・学習し、世界もそれに応える。Machintoshデスクトップ・メタファーもまた、何をすればいいかを我々に語りかける。常識が通用する一貫したメタファーで表現されるオブジェクトを縦横にリンクする仮想世界、それがMachintoshだ。ワープロ、ペイント、ドローを標準搭載し、それ以降開発されるアプリケーションもすべて一貫した思想・操作で提供された。

 

 <常識が通用する、全部がつながる>

 ・ドキュメントはフォルダに束ねられるし、文字も絵も図形も全部ドキュメント。ドキュメントを開けば、アプリケーションなんて指定しなくても読み書きできる。机の上に複数のドキュメントを開きっぱなしに置いておける。

 ・ドキュメントもフォルダもゴミ箱に捨てられる、ゴミ箱中はゴミの日に空にするまで残っている。

 ・プリンタは、アイコンをSystemフォルダに入れるだけで使えるようになる、ファイルをプリンタの上に重ねれば印刷できる。

 ・ワープロで書いたテキストも、他のアプリケーションで書いた絵も、図形もハサミで切って貼り付ければいい。音声だって動画だって同じだ。

 ・ちょっと現実にはない魔法もある。Undo(やり直し)だ。間違えたら1回だけ時をもどせる。

 

 オブジェクト仮想世界のメタファーは、マンマシン・インタフェースだけではない。アプリケーションもオペレーティング・システムもオブジェクトと、オブジェクトの間の相互作用で表現される。


                   280px-Macintosh822014.jpg

  ウィキペディア(Wikipedia) "Macintosh plus"(2020,12/12)より


HyperCardの小世界】

 HyperCardは、アラン・ケイの考えたコンピュータ・リテラシ-(読み書き能力)のメタファー[1]パパートの小世界(マイクロ・ワールド[2])、テッド・ネルソンハイパーテキスト[3]を誰でも使えるシンプルな形で具現化したマルチメディア・オーサリング環境だ。カードの上にフィールドやボタンを配置し、カード間をリンクでつなぎ、カード・フィールド・ボタンに直接HyperTalk言語で動作を記述する。

 

 音や音楽、絵を描き、テキストを記述する。クリックすれば動き出す絵本、百科事典、アドベンチャー・ゲーム、教科書を触ったその日から創作できる。初心者が自由に扱える簡易性だけでなく、オブジェクト指向、他言語で関数を拡張、HyperTalk自身をHyperTalkで書き換えて実行するなどプログラミング・プロフェッショナルも唸らせる魅力があった。

 

 主婦、学生、教師、デザイナー、ミュージシャン、漫画家、サラリーマンそして子供たち、プログラムを経験したことがない人たちが、自分たちの生活を楽しむために作品を手作りするMacLife誌がHyperCard発売の数ヶ月後に開催したコンテストでは、音声ロボット&通信環境、幼児向けゲーム&動く絵本、家計簿、易、妊娠知恵袋、絵描き歌絵本、迷宮探検ゲーム、科学実験教材、シンセサイザーコントローラ、算数教材、医療外来会計、本と料理のデータ帳など多彩な作品の応募があった。

 Hypercardコンテスト

"スタックウェア・コンテスト応募作品より", MAC LIFE No.11, p71


 Machintoshは、複雑系の世界をメタファーで表現できる、「表描文字※1とそれを描く(かく)ための最初の環境だった。そして、デスクトップ・メタファーが残り、オブジェクト指向は複雑なJavaの世界に、HyperCardはプログラムが困難なWeb世界に呑み込まれていった。


※1.「表描文字」:「表意文字」からの造語。詳細は未来編で。


参考書籍:
[1] アラン・ケイ(1992), "アラン・ケイ", 浜野保樹監修, 鶴岡雄二訳, アスキー出版局
[2] シーモア・パパート(1982), "マインドストーム :子供, コンピュータ, そして強力なアイデア", 奥村貴世子, 未来社
    - Seymour Papert(1980), "Mindstorms :Children, Computers, and Powerfull Ideas", Basic Books, Inc
[3] テッド・ネルソン(1994), "リテラリーマシン :ハイパーテキスト原論",竹内郁夫, 斉藤康己監訳, ハイテクノロジ―・コミュニケーションズ訳 , アスキー出版局

    - Theodor Holm Nelson(1987), "Literary Machines", Published by author


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知的生産のための道具(2):ヒトとコンピュータの共生

 ディスプレイとキーボードをつないで「コンピュータと対話する」ことが笑われる時代に「ヒトとコンピュータの共生」の実現に向けたチャレンジはじまる。


●ヒトとコンピュータの共生[1]


 ソ連のスプートニック号打ち上げ成功(1957年)を契機に、1958年NASA(アメリカ航空宇宙局)とARPA(アメリカ国防高等研究計画局)が設立され、アメリカの科学技術を大きく加速する。ARPAには、リックライダー(1962年)、エンゲルバート(1962年)、アランケイ(1966年)らが集結し、タイムシェアリング、グラフィックス、人工知能サイバネティックスオペレーティング・システム、プログラム言語、インターネットを生み出していく。
 
 ・リックライダー「ヒト・チームとコンピュータのリアルタイムな共生」を語り(1960年)[2-2]
 ・コージブスキーウォーフ「言語と相互に影響し合うヒトの思考」の提起に続き、マクルーハン「ヒトの五感と脳内の相互作用に与えるメディアの影響」を(1962年)[3]エンゲルバート「ヒトの知能・思考と相互作用・共進化する人間知性増強(オーグメンテーション)のためのコンピュータ環境」を思索する(1962年)[2-3]
 ・サザーランドがライトペンで操作するグラフィカル・ユーザ・インタフェースオブジェクト指向プログラミング、アイデア・オーサリング・システムを搭載し、コンピュータとの試行錯誤対話の先駆けとなるSketchpadを創り(1963)、
 ・エンゲルバートが「グループ全体知性の増強」のためのマシンNLS(oN-Line System)で、マルチウィンドウ、ビットマップ画面、ハイパーメディア、画面共有会議、キーボードとマウスで自在に情報空間を駆け巡るメディアショーで聴衆を魅了し(1968年)、
 ・パパートが子供たちが自発的に問題を考えて解くためのプログラム言語:Logo(1867年)で動くメタファー=タートル(小型ロボットとカーソル)を用いた教育実験を行う。
 
 アラン・ケイは、Sketchpadの開発チームで学び、先駆者たちの思想を吸収し、パパートの子供のためのプログラム教育に衝撃を受けて、鉛筆のように誰でもすぐに使える万能シミュレータ=メタメディアの開発を構想アルダスの小型本(1494年)のように子供でも気軽に持ち運べるダイナミックな本=コンピュータ作品の執筆環境としてダイナブックを考案する[5-1]。ゼロックスのパロアルト研究所で、その思想をAltoに受け継ぎ、オーバーラップ型ウィンドウ、高解像ビットマップ・ディスプレイデスクトップ・メタファーをマウスとキーボードで操作し、オブジェクト指向プログラミング環境SmallTalkによりコンピュータ・リテラシーが何であるかを示した(1973年)[5]
 
    ジミーとベスが相互接続したDynabookで遊ぶ様子
    1972年、Alan Kay, A Personal Computer for Children of All Ages [picture of two kids sitting in the grass with Dynabooks] ©Alan Kay

 そして、Altoを見学した2人のアーティスト、スティーブン・ジョブズビル・アトキンソンらの手により、Lisaをへて、Macintoshとして結実し、ついに「知的生産のための道具」が世に普及することとなる。

年表:

参考書籍:
[1] ハワード・ラインゴールド(2006), "新・思考のための道具 :知性を拡張するためのテクノロジー --その歴史と未来", 栗田昭平監修, 青木真美訳, パーソナルメディア
    - Howard Rheingole(2000), "Tools fot Thought revised edition :The History and Future of Mind-Expanding Technology", MIT Press
[2] 西垣通(1997), "思想としてのパソコン", NTT出版
 [2-2] J・C・リックライダー(1960), "ヒトとコンピュータの共生(Man-Computer Symbiosis)", 西垣通訳, NTT出版
  原文:Man-Computer Symbiosis (mit.edu)
 [2-3] ダグラス・C・エンゲルバート(1962), "ヒトの知能を補強増大させるための概念フレームワーク(A Conceptual Framework For The Augmentation Of Man's Intellect)", 西垣通訳, NTT出版
  原文:https://www.dougengelbart.org/content/view/382/
[3] M.マクルーハン(1986), "グーテンベルクの銀河系 :哲学人間の形成", 森常治訳, みすず書房
    - Marshall McLuhan(1962), "The Gutenberg Galaxy: The Making of Typographic Man", University of Toronto Press
[4] シーモア・パパート(1982), "マインドストーム :子供, コンピュータ, そして強力なアイデア", 奥村貴世子, 未来社
    - Seymour Papert(1980), "Mindstorms :Children, Computers, and Powerfull Ideas", Basic Books, Inc
[5] アラン・ケイ(1992), "アラン・ケイ", 浜野保樹監修, 鶴岡雄二訳, アスキー出版局
 [5-1] アラン・ケイ, アデル・ゴールドバーグ(1977), "パーソナル・ダイナミック・メディア", 浜野保樹監修, 鶴岡雄二訳, アスキー出版局
  原文:26-kay-4web (newmediareader.com)

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「ミクロ・マクロ・ネットワーク」のリズムで「過去の物語」を読み解く

 前編(過去編)は、ミクロ・マクロ・ネットワーク」のリズムで未来を読み解く「イメージ」を構築できるよう、過去を物語りとして読み解きます。


●「ミクロ・マクロ・ネットワーク」のリズム


 過去・現在・未来を読み解き、物語の構築に使う道具がミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルです。

 ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルとはどういうものでしょう。「細胞(ミクロ)」の動的ネットワークが集まって「人間(マクロ)」を構成し、「人間」のまわりには「地球環境」や「社会環境」などの「環境」があってその影響を受けて生活をしています。その「人間(ミクロ)」もまた動的ネットワークをつくって「社会、経済(マクロ)」を構成している。同様な視点で、原子、分子、生命、脳、メディア、社会、経済をとらえ直してみると、より小さいネットワークが「ベース(プラットフォーム)」となって、より大きなネットワークをつくって「複雑化」していく、そして次の「複雑化」のフェーズに入る直前に「大きなストレス」が溜って雪崩がおきるという「リズム」を繰り返していることが分かります。

ミクロ・マクロ・ネットワーク2

図1. ミクロ・マクロ・ネットワークのイメージ


ヒトネットワーク

図2.ヒト・ネットワークのイメージ


●「均衡状態」と「適応変化」


 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」では、周囲の「環境」が大きく変化しネットワークに「ストレス」がかかると、最もエネルギーを少なく維持できる「均衡状態」となるよう「ネットワーク構造」を「適応変化」させます。一旦、「均衡状態」にネットワークが落ち着くとその状態を「記憶」し、わずかな環境変化ではネットワーク構造を変えない「維持する力(保守性)」が働くようになります。この「均衡状態」・「記憶」・「維持する力」⇒「大きなストレス」⇒「適応変化」が、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」の「複雑化」の「リズム」を刻みます。

 恒星や超新星爆発での原子の誕生、生命進化、社会の構造変化、メディアとヒト(脳)の共進化などです。

 

●「プラットフォーム」の上に新たなネットワークをつくる


 環境変化の度合いによりますが、通常、一旦構築してしまった「ミクロ・ネットワーク」の状態を維持して「プラットフォーム」とし、それをプラットフォームとして「マクロ・ネットワーク」が「適応変化」する傾向があります。

 例えば、光合成生物が誕生して酸素が増えるという急激な「ストレス」がかかり、窒素などを呼吸していた嫌気性生物は猛毒の酸素に囲まれ絶滅の危機に瀕します。絶滅の直前にあった嫌気性生物は、呼吸によりエネルギーを得るという「プラットフォーム」を維持しつつ、酸素によりエネルギーを得る仕組みに細胞のネットワーク構造を「適応変化」させることにより新たな「均衡状態」をつくり、酸素により膨大なエネルギーを生産できるようになった生命が多細胞生物などのあらたな「複雑化」の道のりを歩むことになります。

 

●前編執筆にあたって


 前編では、過去の物語を「ミクロ・マクロ・ネットワーク」のモデルの視点で再編集することにより、

 ・「ミクロ・マクロ・ネットワーク」の営みを理解する

 ・「韻」・「リズム」を自分なりに体感する

ことを狙っています。脳内に未来を読み解くための「イメージ」を構築するためです。

 全部を読まなければ理解できないというわけではないので、気になったテーマについて参考書籍を深掘りし、広げてみるというのも良いかと思います。

 

 前編を執筆するにあたって同じリズムで理解するため、以下を執筆方針としています。

 ・縦横ネットワークを記述

 部分(ミクロ)の相互作用(コミュニケーション)、それによって生じたマクロな実体・事象、それを発生させた環境条件や環境変化(ストレス)について時間軸のシナリオ、それが次の時代に与える影響を記述。

 ・冗長な表現を避ける

 「~と思う、考える」「~と言われている」「~という仮説がある」といった表現を排除。

(大抵は、解明困難な事象をテーマにしているので、過去に遡るほど仮説の度合いが強くなる)

 ・独立したコンテンツ

 把握しやすいように時間軸に沿って記述するが、どの順序で読んでも良いように1000文字前後の単位で完結。


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プロフィール

佐藤基

Author:佐藤基
『フューチャー・リテラシー -- 過去・現在・未来、複雑系の未来を読み解く』
を執筆中。

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