【閑話】:喩えて考える:「メタファー」と「アナロジー」
ヒトは「未知」のものを発見したときに、足りない「語彙」を補うために「類似」を探し「喩え」により理解する。
●喩えるということ
「未知の未来」を読み解く際に「喩え」は強力な道具となる。「フューチャー・リテラシー」は「未来」を読書に喩えてイメージする試みで、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルはメタファー構築のためのガイドライン(補助器具)、前編は過去の物語を「イメージ」に落とし込むための読書だ。本書そのものが「喩え」でできている。
「喩え」には、「アナロジー(類推・直喩)」と「メタファー(暗喩)」があると考えたところで、ちょっとした迷路に迷い込んでしまったので整理。どちらも、じっと見つめすぎると焦点が合わなくなってくる。
●「アナロジー」で喩える
「アナロジー」は直接喩えることで、「AはBのように~だ」という具合に使う。AとBの構成要素と対応関係が明確な場合に使い、よく私たちが使う「喩え」はアナロジーで、似たものどうしを見比べて、連想により考えを深める。例えば、電流と水流のアナロジーでは次のように対応づけられる。
【電流は水流のように流れる】
A:水源、貯水、水流、水圧、水力、漏水
B:電源、蓄電、電流、電圧、電力、漏電
「アナロジー」の組み立てるときの思考を追うと次のようになる。
【アナロジー構築のステップ】[1]
1.何かと何かが「似てる」と思う
2.(似ているものの構造を)「借りてくる」
3.(借りてきた構造を)「当てはめる」
「似ている」と思うにも、「借りてくる」ためにもそれぞれの知識がベースとなる。「当てはめる」際に、すべての要素が具体的に対応づけられるときもあれば、一部だけ対応することもある。例えば、『植物が水を吸い上げる水流を電流に対応させると何になるだろう?』と連想を続けていくと対応関係がゆらぐ一方で「イメージ」がふくらみ、新しい発想を生み出すこともある。
●「メタファー」で喩える
「メタファー」は暗喩であり「イメージ」との対応で喩える。「人生とは旅だ」という喩えで「旅」は具体的な何かをさすのではなく、「旅」にいだく「イメージ」を共有する。
【メタファーの種類】[2]
1.発言の装飾としてのメタファー
「人生とは旅だ」と言うとイメージが膨らんで含意があり、格好いいよねという言い回し。
2.言語の先取りとしての不正確な思考形式としてのメタファー
言葉=論理として意識する前に不確かなままに「イメージ」を膨らませておく考え方。
3.絶対的メタファー
「イメージ」のまま言葉=論理にもどさずに、思考を続けていく考え方。
通常の言葉はすでに知っていることしか表現できない、アイデア発想のためには「言語の先取りとしてのメタファー」や「絶対的なメタファー」を飼い慣らすことが有効だ。「喩え」を道具として「未知の未来」を読み解くときに、「絶対的メタファー」のまま「イメージ」を膨らませ、言葉=論理におとして「実体」を与え、「メタファー」と「アナロジー」と「実体」とのあいだを行き来し散策しながら考えをまとめることで、飛躍的に発想を広げることができる。
●喩えの罠
「喩え」に頼りすぎると、誤った解釈に陥る危険がある。「社会を進化」のメタファーとしてとらえることが人種差別を生んだり、「ソフトウェア開発を建築」のメタファーとしてとらえることが工数問題を生んだりするのはメタファーの誤用だとも言われている。「喩え」は論拠にはなり得ないので、あくまでも発想を展開するための道具として扱うようにしたい。
[1] 安藤昭子(2020), "才能をひらく編集工学 :世界の見方を変える10の思考法", Discover
[2] ハンス・ブルーメンベルク(2005), "世界の読解可能性", 山本尤, 伊藤秀一訳, 法政大学出版局
- Hans Blumenverg(1981), "Die Lesbarkeit Der Welt", Suhrkamp Verlag