アイデア・プロセッシング実施方法(3):本に意見を求める読書

-------------------------------------
アイデア・プロセッシング:
--------------------------------------
Step2: 情報散策
--------------------------------------

 未来を読み解くとき、基礎知識として多くの本を読むことは避けられない。大量の書籍の中から良書を探し、効率よく読み進めるためには読書のテクニックが必要となる。

Step2: 情報散策


●本に意見を求める読書


○効率よく本を読むということ


 読書は「始めから終わりまでじっくりと読む」、「何度も読み返す」ことが必要だという考え方がある。本と向き合い、著者の伝えたい内容を理解するために、自身の中で熟成するために必要なプロセスだ。

 一方で、世の中に大量の本が存在し、良書も悪書も混在している状況で、まずは数をこなすことから始めみるのは悪くない。そして、時間がなくてなかなか本を読むことができない方に、本によって読み方を変える読書をお勧めしたい。最初から最後まで熟読しなお何度も読み返す本もあれば、必要な部分を参考意見として流し読みする本がある。途中でダメだと思えば「つん読」や「捨読」に回してしまっていい。自分なりの強弱をつけて、取捨選択する読書だ。

 読む姿勢を変えてみることも必要だ。「自身の問いと仮説をもって主体的に本に意見を求め、考えを掘り下げることを目的とする」読書では、主体的に「問い」や「仮説」をたて、意見、解説、反論を求めて著者と議論を繰り返し、「気になる」情報を積極的に収集して、自身の思考を拡張する

 本の読み方を、「読前」「読中」「読後」「再読」という4つのフェーズに分けて解説する。「読前」で本の内容の仮説をたて、「読中」で議論を繰り返し、「読後」にふりかえり切り貼りしてノートに落とし込み、ときをおいて「再読」する。

○「読前」フェーズ (拾い読み、下読み、読書エネルギーの最小化)


 「読前」は、本の概要をつかみ「読後に得られるもの」の仮説を描いて、「読中」の読み方に強弱をつけてテンポ良く読み進めるためのフェーズだ。面倒なようだが、全体的な読書のスピードと理解が圧倒的に変わってくる。さらに、amazonの書評を拾い読んでおくのも、複数の感想・要約によってポイントがつかめるのでお勧めしたい。

1)時間: 30分以内

2)目的: 著者との間に関係を築く、「読中」に向けた感覚をつかむ

3)視点
・自分
 - 自分が期待する内容、何をつかみたいと思っているかを探索
 - 面白そうだと思った目次やキーワードを確認
・著者
 - 著者が執筆した狙いや動機を推測
 - 何について書いたものであるか、構成、部分とのつながり(ネットワーク)を把握

4)組織的な拾い読み
・タイトル、目次
 - 大見出し、中、小の順に確認する
 - 本の構造と概要、関係を把握する

・索引
 - キーワード、専門用語を確認する

・まえがき、あとがき、各章の最初や最後
 - 気になった部分を拾い読む

5)気になった部分をノートに記入
・キーワード: 内容を代表する言葉
・補足: 「キーワード」の言い換え・補足、概要説明
・連想: 自分の解釈から生じる新たな言葉・概念・連想(末尾に「(自)」などの記号をつけておく)

6)仮説を描く: 「読後に得られるもの」の仮説を書き出しておく


○「読中」フェーズ


  「読前」に全体の構成を理解しているのでサクサクと読み通せる。

1)時間: 30分~1時間(徐々に30分に近づくように)、熟読する場合でも数時間で終わらせる。

2)ざっと一読
・好みと直感でテキストを選び、ざっと一読
・気になったテキストにマーカー、キーワードに○、重要な段落の上に横線を記入
・メモを記入; 重要なポイントの要約、疑問、思いついたこと、意見、用語説明など
・「読み返し方」を決める
 - つん読: 「読前」で中断
 - 速読: 流し読み、必要なポイントを切り貼る(30~1時間)
 - 抜読: 重要な個所を熟読
 - 熟読: 全体を熟読

3)読み返し
・ラインやメモ、目次を羅針盤にして読み返す
・重要なテキストや図をノートに切り貼る(必要なら数ページにわたるボリュームでもいい)
・構造(見出し、概説)をつかみノートに記述する
・キーワードの理解を深め説明、補足、意見をノートに記述する
・自身で追加してノートに記述する
 - 疑問、分かったこと、意見
 - 類推する、連想する、仮説をたてる
・6W1H+Rをノートに記述する
 - Where,When:どのような環境や背景か、発生条件はなにか、いつ、どこで
 - Who:誰が、何が
 -  Whom:誰に、何に
 - What:何を(する)
 - Why:なぜ
 - How:どのように
 - Result:どうなるのか、どうなったか
                
4)あえて寄り道をする
 本を読んでいると、何かを思いついたり、他の本が気になったりすることがある。そういうときは我慢せずに、寄り道を積極的にすると発想が広がる。

○ 「読後」フェーズ


 「読中」を振り返り、気がついたことをノートにメモする。

1)時間: 適宜

2)読前・読後比較
 「読前」の仮説を振り返り、自分の問題意識を読前、読後で比較する。

3)自分のテーマへの置き換え
・アナロジーによる連想、似たものを探す
・自分のテーマを振り返り、得られたことをノートに記述する
・他の本との関係を俯瞰し、必要に応じてリンク、コピーを付け加える
・新たに生まれたアイデアの断片の周辺に範囲を広げ、もしくは深くもぐるため、情報探索範囲を横に、縦に、斜めに広げ収集する

4)書籍情報の記録
 読んだ本は、引用書式で記録しておく。
    ex. 著者名(出版年), "タイトル", 翻訳者, 出版社

5)新たな「本の散策」へ
・ 関連する本を探す
・ 新たな疑問、新たな仮説をたてて、新たな「本の散策」へ

○「再読」フェーズ


 読んでいるときの状況や得られた知識によって、まったく違った感想、示唆が得られることが多い。都度、再読し、ノートを再整理するといい。

・1ヵ月、半年、1年後に読み返す
・何回も読み返す
 自分のテーマに重要な影響を与える本は何回も読み直すことが多い。特に含蓄の深い本は、再読のたびに見え方が変わってくる。本書でいえば、「銃・鉄・病原菌」「グーテンベルクの銀河系」「進化の意外な順序」「知の編集工学」などがそれだ。

 本の読み方を工夫することにより、本の散策を効率化するだけでなく、理解を深め、そしてなにより本に興味がわいてくる。本書を執筆するにあたり、「本を読む本[1]」、「探究型読書[2]」を再確認すること、特に「読前」フェーズを見直すことが非常に役にたった。面倒でも、できるところから少しづつトライしてみることをお勧めしたい。




参考書籍:
[1] M.J.アドラー, C.V.ドーレン(1997), "本を読む本", 外山滋比古, 槇未知子訳, 講談社
[2] 編集工学研究(2020), "探究型読書", インプレス
[3] 松岡正剛(2001), "知の編集工学", 朝日文庫


tag : フューチャーリテラシ, 複雑系, メディア, 未来, ミクロ・マクロ・ネットワーク, 発想法, 読書法

アイデア・プロセッシング実施方法(2):情報散策における「本の探し方」

-------------------------------------
アイデア・プロセッシング:
--------------------------------------
Step2: 情報散策
--------------------------------------

 未来を読み解くとき、異なる知識をベースにして「類推」と「連想」、「アブダクション(仮説推論)」により仮説を設定して読み解いていく。アスリートにおける基礎体力と同様に、「知識」・「暗黙知」の質と量をバランス良く鍛え続けることが必要となる。そのための手段が「書く言葉」である本との対話だ。

Step2: 情報散策


●本の散策


 「本の散策」では、「著者の意図を理解し、知識を吸収する」のではなく、自身の問いと仮説をもって主体的に本に意見を求め、考えを掘り下げることを目的とする。本書では、複雑な世界に対応するヒトの能力を「ヒトエンジン」と呼び、ヒトエンジンを活用する方法の一つが「本の散策」だ。何かそこにヒントがあると直感した本を手にとり、「発見」のための触媒として本を利用し、積極的にヒトエンジンを活用する。

○「本」における「ヒトエンジン」の活用


 個人で取得できる知識には限界がある、そうかといって自分だけの調査チームを編成することや、おかかえのシンクタンクを用意することは難しい「本」には、筆写や編集チームがついやしたデータ収集、編集、構成の時間、ヒトエンジンのフィルタを通して体型づけられた情報がつめこまれている。自身の表現能力よりも、著者が悩んで選び出した言葉の方が適切で分かりやすい場合も多い。表現したいもの、実現したいものを見極め、それを具体化するためならば他人の力を積極的に利用する。それにより、限られた時間の中で自分の限界を大きく広げることが可能となる。

 「本の散策」で得た知識や知恵や発想を「ノート」にスクラップすることにより、仮想的にヒトエンジン・チームを編成して、複数の視点で議論させたり意見を聞くことが可能となる。「本を散策」している時々の視点、立場を切り替えて、分身をつくり意見を交わす。

ヒトエンジンを活用する「本の散策」:

・著者の言葉や考え方を借りながら、自分の中にある問題意識を発見する
・著者の言葉や思考を「仮の器」として使わせてもらう
・自身の仮説に対する意見を求める

○本の探し方


 過去から現在までの様々な分野の本に、広く編集的に意見を求める。個々の専門分野はもちろんだが物理や生命などの自然科学、社会・経済、未来予測や複雑系の捉え方(ときに哲学、宗教、芸術)などの幅広いジャンルに意見を求めるといい

 「何か気になる」、「好みだ」、「ピン!とくる」という直感をもとに、本を散策し選んでいく

1)手にとって確認する
 本を散策する際には、実際に手にとって確認できる図書館や書店を利用できるといい。図書館にない場合でも、大抵は市内・県内のネットワークから取り寄せてくれるので活用したい。

2)散策するための軸をたてる
 積極的に自分で「本の散策」の「軸」をたてて、その周辺を探る

 ・「問い」を探る
  教科書では、見逃しがちなテーマにあえて「なぜ」と問うてみる。

  例えば:
   - なぜ、共産主義よりも資本主義の方が経済的に優位にたてたのか
   - なぜ、農業は1万年前というタイミングで始まったのか
   - なぜ、産業革命は18世紀イギリスから発生したのか

 ・「ルーツ」を探る
  何かをテーマとして定め、それが起きたもととなる歴史を探る。

  例えば:
   - 知的生産性のためのコンピュータのルーツ
   - ヒトと道具・メディアとの関係のルーツ

 ・「仮説」を探る
  自身で「仮説」をたて、それを補強し、解説し、反証して広げてくれる本を探る。

  例えば:
   - 産業革命の背景には、「大きな壁」、壁の内側で広がる「ネットワーク」、「急激な変化」と「突破口」となる要因があったのではないか。

3)キュレーターに聴く
 本を探すときには、ヒトエンジンのフィルタをぜひ活用したい

 ・気に入った本の参考書籍
 ・Webページ
  - 千夜千冊、松岡正剛の千夜千冊 (isis.ne.jp)
  - Wikipediaの参考文献
  - 自分が良書であると思う本を紹介しているWebページ
 ・amazonのお勧め、書評
  - あなたへのおすすめタイトル、この商品に関連する商品
  - amazonの書評内での別本の紹介
 ・推薦本
  気に入った著者のお勧め本など、紹介者の概説などを参考に

  例えば:
   - 本書の「お勧めの10冊」
   - 池上彰の「世界を変えた10冊の本」

4)自身の直感に聞く
 ある程度、本を読み込んでいくと、タイトル、概要や目次を見るだけで、自分が探している本かどうかということが直感で分かるようになってくる。そうなればしめたもので、自分の感性に従ってピン!とくるものを泳ぐように散策できる。

5)評価を参考にする
 amazonの商品説明、書評を事前に確認しておくと参考になる。

 ・書評は★5つが必ずしもいいわけではないが3.5以下で良書に出会える確率は低い、また★3や★1~2の書評を参考になぜ低評価をするのかを確認する。
 ・可能ならば、学術的にどのような欠陥があるか、どのように期待外れだったか確認しておくといい。




参考書籍:
[1] M.J.アドラー, C.V.ドーレン(1997), "本を読む本", 外山滋比古, 槇未知子訳, 講談社
[2] 編集工学研究(2020), "探究型読書", インプレス
[3] 松岡正剛(2001), "知の編集工学", 朝日文庫

tag : フューチャーリテラシ, 複雑系, 未来, ネット, ミクロ・マクロ・ネットワーク, 発想法, 読書法

アイデア・プロセッシング実施方法(1):課題設定・情報散策

 ここから、5回にわたって、アイデア・プロセッシング実施方法の詳細について解説する。

-------------------------------------
アイデア・プロセッシング:
--------------------------------------
Step2: 情報散策
--------------------------------------
アイデア・プロセッシング用語解説:
・ノート: ノートツール
・ページ: ノートツール上のページ、分類の単位
・階層構造: アウトライン構造、分類を階層的に表示
・情報素材: 段落などのを単位とする文章で文節、区分けしたテキスト。1枚の画像。1枚の絵。
・1行見出し: グループ、情報素材、分類を1文で表現したタイトル。
 ※「内容」の意味のエッセンスをとらえて圧縮し、できるだけ柔らかい言葉で表現する、過度に抽象化しないこと。
・内容: 「1行見出し」に配置した「情報素材」群
--------------------------------------

 「課題」を自身で設定する場合には、今何を優先して考えるべきか、日ごろ気になっていることなど、問題を整理することから始まる。すでに「課題」が与えられている場合でも、さらにブレークダウンするための「課題」の見直しが必要となる。

●Step1: 課題抽出・課題設定


⇒アウトプット:課題

 創造的に「課題」を設定するフェーズ。「何か問題を感じる」ことを始点として、「課題候補」を書き出し、編集して「仮課題」を設定し、最後に上位課題がないかを確認した後に「課題」を設定する。

〇直感的に「感じる」ことを探す


 本書における「課題設定」は、未来を読み解くためのとっかかりとなるスタート地点を決めることだ。例えば、「情報資本主義が現代の資本主義に置き換わる時代の職業について考える」という課題を設定するときに、この段階で、なぜそれを解決しなければならないのかといった問題解決型の理由を掘り下げて問う必要はない。直感的に何かを解決したいと「感じる」ことに重点をおく

○課題抽出・課題設定の進め方


1)「なにか問題を感じる」ことが始点となる
 「感じている」ことにヒントがあり、課題探索のためにその「感性」を使って情報を散策して、何かを「感じた」こと、それに関係がありそうな「課題候補」を収集する

2)課題候補を書き出す
 「1行見出し」+「内容」を1セットとして、1ページ内に書きだす。

3)課題候補を編集して「仮課題」を設定する
 ・列挙した「課題候補」の関係図(テキスト、図、絵)をつくり、「仮課題」を設定する
 ・「課題候補」の編集が複雑な場合にはStep3の方法を適用する。

4)設定した「仮課題」の上位課題を確認する⇒「課題設定」
 「仮課題」の上位課題を確認し、適切な「課題」を設定する。
  ex. レンガを積む→壁を作る→大聖堂を作る

------------------------------
 常にアンテナを張りながら情報収集するための「情報散策」が、新しいアイデアやコンセプトを具体化するための下地となる。まずは、メモやノートに整理する、本の散策をする習慣づくりが必要となる。

●Step2: 情報散策


・アウトプット: 情報素材
 情報を散策して、「情報素材」を生成するフェーズ。書籍などの情報を散策し、メモ・書籍などから情報を収集、文節・区分けして「情報素材」を生成する

○閃き!のメモを習慣化する


 ヒトは普段から考えている課題や問題への対処について、頻繁に閃いたり気がついたりを繰り返しているが、すぐに活用できないイメージは言葉にする前に消えてしまう。限られた脳の容量を有効活用するための能力だが、メモに外部記憶する習慣はアブダクション(仮説推論)を活用する機会を大幅に増やす

 スマホの「メモアプリ」を利用して、いつでも(人と話しているとき、業務中、目覚めた時、散歩時、読書時、テレビを見ている時など)、気になったこと、思いついたことをメモに記録する。メモの種類はテキストだけではない、音声、写真、手書きの絵など、その発想にあった楽な手段を使えばいい。

 メモに記録するメリットは、すぐに忘れるられるということだ。書いたメモは、時間をおいて、その日のうちにノートに書き写す。この時に、すばらしいと思っていたメモが大した意味を持たないこともある、それならそれで捨ててしまってもいいし、とりあえず書きとめておいてもいい。

 メモを記録する際には、後で役に立つかどうか、誤字や文章化を意識せずとりあえず放り込んでおく。筆者は、スマホの音声認識を使って片手で操作し、文字を確認することなくOneNoteで即座にパソコンと共有している。なるべくメモの手間を減らして、習慣化することだ。

○ノートに「情報素材」を収集する

 
 設定した課題に関係あるかもしれない情報を多面的な角度から、なんとなく関心をひくもの、直感でピンとくるものを、新しい発想を広げるように拡散的に、また広げた発想を補強するように情報を散策して収集して、「情報素材」としてノートに記録する。

□ノートに収集する「情報素材」例:


 ・メモ
 ・書籍、Webページなどからの切り貼り、要約
  ⇒「本の散策」については後述
 ・自分の意見、気づき、アイデアなど
 ・後から検討したいテーマ

□ノートへの記録方法:

 1ページを分類の単位とし、ページ内に「情報素材」を記録する。

1)ページ作成
 新しくページを作成して記入。分類の粒度にこだわらず作成する。
 ⇒「1行見出し、概要、内容」を1セットで記入

2)ページ内への記入
 すでに作成してあるページ内に記入
 ⇒「1行見出し、概要、内容」を1セットで記入

3)「情報素材」の記入要領
・情報収集の段階では、ページ・ページ内の階層・分類にこだわらず適当に配置する。
・文字数を特に気にする必要はない。
・後から考えたいと思うテーマは、「ページ」に「1行見出し」だけをつけて作成しておく。
自分の意見、アイデアなどは末尾に(自)などのタグを付け、後から区別・検索できるようにする
・情報素材の文節化・区分けする
 後から編集しやすいよう、段落などの意味のある情報素材を単位として、文節化・区分けする。




参考書籍:
[1] 川喜多二郎, "発想法 -- 創造性開発のために --", 中央公論新社, 1976(改)
[2] 梅棹忠夫(1969), "知的生産の技術", 岩波書店
[3] 外山滋比古(1986), "思考の整理学", 筑摩書房
[4] 松岡正剛(2001), "知の編集工学", 朝日文庫

tag : フューチャーリテラシ, 複雑系, メディア, 未来, ミクロ・マクロ・ネットワーク, 発想法

アイデア・プロセッシング:概要

 アイデア・プロセッシングは、「情報素材」からアイデアを得るための手続き、「脳の外化」であり、脳の外に記述したテキストやコンテキスト、構造を含めて脳の一部として連携し、思考をまとめるプロセス
 「脳」は「断片化された情報」と関連するものどうしを関係づけし、「意味ネットワーク」を構築する基本的な機構をもつ。このヒトエンジンの能力を活用して、情報を関連づけ、編集することにより「意味ネットワーク」を構築し、アイデアを整理する。このプロセスを通じて我々の脳は、情報間に関係とパターン=妥当な道筋 を見出す。時にそれらは論理的な帰結であり、エネルギーを最小化する最短路であり、仮説を、そして妥当な解であるという「閃き」をもたらす。
 

●ビジョンドリブンな思考法


 アイデア・プロセッシングは、理想状態(仮説)を先にうみだすビジョンドリブンな思考法だ

例えばiPhoneを創造するとき:

 「数年後には、誰もが片手に携帯端末のような手軽さで、情報端末を使っている」

というビジョン(仮説)が先に立ち、皆が情報端末を持つような時代には、どのような生活をしているのかを考える。

 問題解決型のアプローチや論理的な思考プロセスに慣れている人ほど、ビジョンが生み出される理由を問わずにはいられない。どんなに不安でも、論理的な問いや、現在からの積み上げ式の思考をいったん捨てることが肝心で、問題の積み上げでは見えてこないジャンプする発想が必要だ。ヒトには未来のビジョンを見通す能力がある、目隠しをして論理だけで進むよりも、先にゴールがわかっている方がより短距離を選んで進むことができるのだらから。

●アイデア・プロセッシングの原則


 ・アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない[1]
 ・30年未来、新しいサービスのもととなる技術は今ここに必ずある

●準備するツール


 アイデア・プロセッシングの手法を開拓してきた先人たちが、大きなカードを持ち歩いてまで解決したかった情報の整理と検索。現代では、全文検索でページを串刺しして散策できる「ノートツール」、思いついた時にすぐパソコンの「ノートツール」とメモを共有するスマホの「メモツール」、電子的な切り貼りを可能とするスマホの「OCRツール」で、脳と外部記憶との連携を実現することができる。

1)メモツール
・スマホなど常時持ち歩き、すぐにメモをできること
・メモをすぐにパソコンと連動できること
・音声認識で入力できるとよい

2)ノートツール
・全ページにわたっての全文検索ができること
・パソコン上で利用でき、OneNoteやアウトラインプロセッサなど、ページやページ内での階層構造(アウトライン)を表現できること
・下位階層ごとまとめて移動できること
 ex. 大項目をドラッグして移動すると、その下の中小項目もいっしょに移動する
・スマホやiPadなどと連動できること

3)OCRスキャナ
・必要に応じて書籍などから文字をスキャンしてテキスト化してできること
・手軽さからスマホアプリがよい
・スキャンしたテキストをノートにコピペできること

4)画像共有
・Googleドライブなど、スマホで撮った写真を手軽にパソコンに共有できること

●アイデア・プロセッシングの進め方


 アイデア・プロセッシングでは情報の収集、分解、再構築というStepによりアイデアの形をつくっていく。特に、Step2とStep3は順番に進めるのではなく、ユーザニーズは?、収益性は?といった問題解決型のしがらみに縛られず、自由に泳ぎ、行き来し、しだいに形づくっていく。
 適当なタイミングで具体化が必要となることから、Step4と5を通して具体的なアウトプットに繋げていけばいい。
 余裕を残し、常にアイデア・プロセッシングを回すことが肝要だ。
 
--------------------------------------
アイデア・プロセッシング用語解説:
・ノート: ノートツール
・ページ: ノートツール上のページ、分類の単位
・階層構造: アウトライン構造、分類を階層的に表示
・情報素材: 段落などのを単位とする文章で文節、区分けしたテキスト。1枚の画像。1枚の絵。
・1行見出し: グループ、情報素材、分類を1文で表現したタイトル。
 ※「内容」の意味のエッセンスをとらえて圧縮し、できるだけ柔らかい言葉で表現する、過度に抽象化しないこと。
・内容: 「1行見出し」に配置した「情報素材」群
--------------------------------------

Step1: 課題抽出・課題設定

・アウトプット: 課題
 創造的に「課題」を設定するフェーズ。「何か問題を感じる」ことを始点として、「課題候補」を書き出し、編集して「仮課題」を設定し、最後に上位課題がないかを検討してた後に「課題」を設定する。

Step2: 情報散策

 ⇒アウトプット: 情報素材
 情報を散策して、「情報素材」を生成するフェーズ。書籍などの情報を散策し、メモ・書籍などから情報を収集、文節・区分けして「情報素材」を生成する。
 

Step3: グループ編集、離合集散、分類と階層化

 ⇒アウトプット: 分類・階層化した情報素材
 ページ・情報素材を編集して分類・階層化するフェーズ。関係の近いページ・情報素材を集め、グループ化し、「1行見出し」と「概要」をつけて分類、階層化、俯瞰して再編集する。

Step4: シナリオ・物語編集

4-1)「情報素材」を言葉にする

 ⇒アウトプット: 文章化した情報素材
 図、絵、テキストを用いて小規模な文と文脈を具体化するフェーズ。文章として記述することにより、アイデアを整理し、論理的に意味を持つ「情報素材」を生成する。

4-2)アイデア編集

 ⇒アウトプット: アイデアのクレーム(短文)、ネーム(呼称)
 「情報素材」をもとに、アイデアを形成するフェーズ。背景、テーマ、材料・素材を書き出し、着想を「ミクロ・マクロ・ネットワーク」で整理して、クレーム(短文)とネーム(呼称)を生成する。

4-3)コンセプト編集

 ⇒アウトプット: コンセプトの説明文
 アイデアの「クレーム(短文」と「ネーム(呼称)」を起点にコンセプトを具体化するフェーズ。6W1Hで表現し、曖昧な言葉を具体化し、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」で表現して、コンセプトのクレーム(短文)としてまとめる。

Step5: ビジネス展開

・アウトプット: 製品開発企画書、販売可能な製品
 製品の特徴となる技術・エンジンやビジネスモデルの具体化、投資計画としてマーケティング分析、投資対効果の算出、保守運用計画、撤退条件、予算の獲得、プロトタイプ開発、製品の開発、試行運用、販売などを行うフェーズ。

 常にメモを記録し、情報散策してノートに記録し、編集することを自然に繰り返すようになるといい。本書ではStep4までを扱う。



参考書籍:
[1] ジェームズ・W・ヤング(1988), "アイデアのつくり方", 今井茂雄訳, 阪急コミュニケーションズ
[2] 川喜多二郎(1976), "発想法 改版 -- 創造性開発のために --", 中央公論新社
[3] 梅棹忠夫(1969), "知的生産の技術", 岩波書店
[4] 外山滋比古(1986), "思考の整理学", 筑摩書房
[5] 松岡正剛(2001), "知の編集工学", 朝日文庫


--------------------------------------
アイデア・プロセッシング:
Step1: 課題抽出・課題設定
Step2: 情報散策
・情報散策
・本の探し方
・本に意見を求める読書
Step3: グループ編集:情報の素材化、分類と階層化
Step4: シナリオ・物語編集
--------------------------------------

tag : フューチャーリテラシ, 複雑系, メディア, 未来, ミクロ・マクロ・ネットワーク, 発想法

産業革命はなぜ18世紀にイギリスで始まったのか【後編】:情報ネットワーク・黒死病・イギリス

 領土の限界という【巨大な壁】の内側であがきながら、封建制度、重商主義を基盤とする交通ネットワークが商業ネットワークを、商業ネットワークが情報貨幣ネットワークを支え、初期の情報ネットワークが各ネットワークをつなぎ、相互作用しながら拡大して、産業革命を支える統合ネットワーク・プラットフォームを準備する


●壁の内側で広がる情報ネットワーク


〇膨大な利益を生む錬金術、情報貨幣ネットワーク


 異なる商品価値を仲介する必要から生み出された貨幣は、重商主義を経て交換を大規模化し、交易で得た富を蓄積することにより世代を超えた大資本を生み出す手段として活躍する。商人間の信用取引が海洋取引の保険が、「オランダ東インド会社」に始まる株式会社への投資が、アムステルダム銀行、イングランド銀行などの巨大銀行の利子が膨大な富を生み出す貨幣情報ネットワーク上での取引を加速させる。さらに、産業革命においては、生産性への投資が新たな利益を生む仕組みを構築することになる。


〇書籍を介した情報ネットワークによる読み書き、計算能力の向上、科学革命


 18世紀の産業革命をささえる数々の発明は、15世紀の活版印刷の発明に始まる。活版印刷は、書籍を安価に手に入れられるものとする。書籍の普及は、情報を流通し、市民の教育(文字の読み書き、計算、技能教育)を推進するきっかけとなり、中産階級の増加、徒弟制度などとの相互作用により開発・発明家を生み出す下地をつくる。

 産業革命直前の17世紀に、ケプラー、ガリレオ、ニュートンなど科学革命とも呼ばれる科学の大きな変革があった。ひとつの発見・発明は続く発見・発明に連鎖する。たとえば、デカルトの機械論的思想(1637年)に始まり、ゲーリケの真空ポンプ(1650年)、ボイルの法則(1660年)、ホイヘンスの火薬を使った往復エンジン(1660年)そしてついには、鉱山での配水のためのニューコメンの蒸気機関(1710年)を生み出すに至り、以降数々の蒸気機関の発明が世界を変える。


〇情報通信ネットワークハブとしてのコーヒーハウス


 初期の情報メディアとして大きな役割をはたしたのが17世紀末のロンドンやオックスフォードに大量発生したコーヒーハウスだ。そこにはさまざまな人々が集まり、オーナーの「好み」により商売、政治、生活、ファッション、貿易、船舶、文学、ゴシップなどなどあらゆる情報が集められ、交換される。コーヒーハウスで交わされた会話をメンバーが編集して活用し、産業革命の進展とともに保険会社、株式会社、政党政治、新聞、広告、電信ネットワークなどへと発展してゆく


 分配の基盤となる土地に限界が生じてもなお、封建制度を維持するためには領土を広げる必要があった。各国は、報酬となる土地がないままに戦いつづけ疲弊しつつ、ネットワーク・プラットフォームを広げ、次の時代にバトンを渡すときを待っていた


●【急激な変化】黒死病・【突破口】イギリス


〇黒死病による人口減少


 黒死病によりヨーロッパの人口の1/3を死に至らしめる。ヨーロッパの多くの地域では、15世紀までに人口は回復し始めていたが、イギリスでは16世紀半ばまで人口は極めて低い状態を維持したままだった


〇人口減少によるロンドンの活性化と高賃金化


 黒死病後に生み出されたイギリスの穀物用地の空き地をもとに、広大で肥沃な牧草地へと転換し、健康で毛の長い羊=新種毛織物を生み出す。17世紀ロンドンは、新種毛織物の海外航路での輸出により活気づき、高賃金にわいた。農民たちは、黒死病で空き地となった空き地を集め農地を拡大し、濃奴からヨーマン(独立自営農民)へと転身するなど、高賃金化の波が農地へもおしよせる


〇中産階級(ブルジョワジー)の拡大と封建社会の崩壊、民主主義の成立


 ロンドンの活性化が、貴族や大資本家たちと、雇われ農民を含む労働者たちとの中間で大小の富を蓄積する中産階級(ブルジョワジー)を増加させる。彼らは、市民革命の主体となり、イギリスの名誉革命が立憲民主主義を成立させる原動力となり、民主主義が「自由な取引」を行う資本主義をけん引する


〇安価なエネルギー:石炭への移行


 都市の急激な拡大は森林の急激な消費を促し、イギリスにおける木炭は高騰し15世紀には石炭価格の2倍となる。17世紀までにロンドンを中心とするエネルギー需要は激増し、急増する新築家屋では家庭で石炭を利用できるようになっていく。豊富な石炭への転換は、炭鉱からの無尽蔵で安価な燃料を供給を可能とし、イギリスにおけるエネルギーを極めて安価なものとした


●18世紀のイギリスに集約して爆発する


 ペストという【急激な変化】が【巨大な壁】をつきやぶるきっかけとなる。ペストからの復旧の遅れがイギリスの高賃金と石炭の低コスト化を生み、それに続く自動機械の発明と導入のメリットを高め、自動機械による大量生産が資本家たちの新たな投資先となり、そして海上の覇権争いを制したイギリスが【突破口】となり統合ネットワーク・プラットフォーム上で産業革命のスパイラルを回してゆく


ーーーーーーーーー


 産業革命を調査するにつれ、今日と17世紀が重なって見えてくる。グローバル化に資本主義が喘ぎ、インターネットとiPhoneが情報暴走と読書離れを引き起こした。大きな壁の内側で様々なネットワークを広げ何を準備し、脳の変化の先でどのような革新的な時代を迎えようとしているのか。



参考書籍:

[1] フェルナン・ブローデル(2009), "歴史入門" , 金塚貞文訳, 中央文庫

Fernand Braudel(1988), "LA DYNAMIQUE DU CAPITALISME", Flammarion

[2] フェルナン・ブローデル(1985), "交換のはたらき --物質文明・経済・資本主義15-18世紀", 村上光彦訳, みすず書房

Fernand Braudel(1979), "LA Civilisation materielle, economie et capitalisme, XVe-XVIIIe siecle, Tome 2 : Les Jeux de L'ecghange", Armand Colin

[3] フェルナン・ブローデル(1995), "世界時間 --物質文明・経済・資本主義15-18世紀Ⅲ", 村上光彦訳, みすず書房

Fernand Braudel(1979), "LA Civilisation materielle, economie et capitalisme, XVe-XVIIIe siecle, Tome 3 :Le Temps du Monde", Armand Colin

[4] R.C.アレン(2017), "世界史のなかの産業革命 - 資源・人的資本・グローバル経済 - ",眞嶋史叙, 中野忠, 安元稔, 湯沢威訳 , 名古屋大学出版

Rovert C. Allen(2009), "The British Industrial Revolution in Global Perspective", Cambridge University Press

[5] グレゴリー・クラーク(2009), "10万年の世界経済史", 久保恵美子訳, 日経BP

Gregory Clark(2007), "A Farewell to ALMS", Princeton University Press

Johon H.Ratey Md(2001), "A User's Guide to the Brain", Vintage

[6] 宮崎正勝(1019), "ユダヤ商人と貨幣・金融の世界史", 原書房

[7] 松岡正剛(2001), "知の編集工学", 朝日文庫


tag : フューチャーリテラシ, 複雑系, 社会, ミクロ・マクロ・ネットワーク, 産業革命, 歴史

産業革命はなぜ18世紀にイギリスで始まったのか【前編】:封建社会の壁と交通・経済のネットワーク

 上下水道や舗装道路など進んだ技術を利用していた古代ローマが産業革命を起こさず、18世紀のイギリスでなぜ産業革命という急激な変化が起こったのだろう

 

 古代ローマや18世紀のヨーロッパ諸国においても奴隷などの安価な労働力を有する国々は、機械による自動化という発想すらなかった。一方、18世紀の世界の中心だったイギリスは「高賃金の労働者」と「低コストのエネルギー(石炭)」を保有していたため、蒸気機関などを使った機械による自動化のメリットがあり、後に産業革命と呼ばれる急激な発展をとげることとなる


●革新的変化の視点

 

 環境に適応すべくさまざまなネットワークを広げるうちに超えることのできない巨大な壁】につきあたる。巨大な壁】内側でネットワークは集散、拡大、刈り込みを繰り返しながら、環境変化に適応しながらネットワーク・プラットフォーム】を形成する。あるとき発生した【急激な変化】をきっかけとして、プラットフォームをベースにネットワークの形を変え、【突破口】を捉えいっきに【巨大な壁】をつきやぶり爆発的な速度で新たなネットワークを形成し始め革新的変化が爆発する 


 【巨大な壁】、【ネットワー・プラットフォーム】、【急激な変化】、【突破口】という視点で産業革命をとらえなおす。



●17世紀にたちはだかる【巨大な壁】


  17世紀までヒトは、その発展とともに集団の規模と居住区域を広げ、国家を形成しより肥沃な土地を手に入れるための陣取り合戦を繰り返していた。土地の分配を基盤とする封建社会にとっての【巨大な壁】は、居住し、繁殖するために有利な土地に限りがあることだった

 

封建制度が資本主義への基盤をつく

 

 農業から始まった人の集まりが、内外の相互作用と集散を繰り返しながら部族、首長社会から国家へと巨大化し、限られた資産である土地や金銀にモノの価値を代替させる封建社会重商主義を生み出した

 

 人口を増やし戦争により領土を広げる時代において、土地を分配する仕組みとしての封建制度は、社会的な平穏を支え、財産と社会的特権を保護し、世代を超えた大量の富の蓄積を可能とし、貨幣経済との連携によりさまざまなネットワーク・基盤プラットフォームを形成する


●壁の内側で広がる交通・経済ネットワーク


 交通ネットワーク

 

 アジアからヨーロッパまでの南北の交易を東西につなぐシルクロード15世紀以降の大航海時代をささえた海の道。主要な交通路を軸に、都市と街を繋ぐ支線をひろげ、文化や商品、情報が大陸を縦横にかけめぐった。異なる思想や文化をもつ国々の技術に着想をえて発明・改良を繰り返すことにより、アジア・中東・ヨーロッパ各国の文化・技術は加速度的な進化をとげ

 

 さらに、15世紀半ばから17世紀までの大航海時代を迎え、市場の巨大化、グローバル化に拍車がかかり、交通ネットワークは巨大な富を信用取引によって生み出す基盤プラットフォームとしての役割を担うこととな。イギリスとオランダとの間で繰り返し行われた海上での覇権争いは、18世紀の第四次英蘭戦争によりイギリスがトップに立つことで決着する

 

商業ネットワーク

 

 商業ネットワークは、生産と消費をつなぎ、経済の原動力となり、刺激、活力、革新、発見、成長をうながし、階層・分業化を進めつつ商取引のネットワークを巨大化させていく

 

1)農民など大多数を占める自給自足、それをつなぐ行商人のネットワーク

 自給自足の生活をおくる農民は物々交換を基本としており、1万年を経てなお貧困で余剰資産を蓄えることが困難だった。わずかに発生した余剰資産を貨幣と交換し、税の支払いや「市」での買い出しにあてる

 

2)「市」を中心とする市場経済ネットワーク

 町や都市における「市」を中心に、輸送、保管、牽引、各種商人、高利貸し、卸売りなど新たな階層化・分業を生み出し、「市」は生成、消滅、再生を繰り返しながら、市場経済ネットワークを広げていった。「市」は売手と買手の競争原理が働く経済ネットワークを形成し、市民の需要を満たし、都市を拡大し、そしてより大きな需要をつくりあげていそして、イギリスにおける「高賃金化」「国民市場」を活性化させ

 
3)大市、取引所から広がった資本主義ネットワーク

 資本家たちは大市や取引所に大量の資本を投入して、軍隊や大都市の巨大な食料需要を賄うことによって大きな利益を蓄積してい。大航海時代を迎え、グローバルな交易において、広範囲な情報や知識、債券操作の技術を駆使した投機的な資本主義経済ネットワークを構築する。市場の独占権を得た資本家たちは、投資がさらなる収益を生む新たな市場、新たな仕組みを探し続け、産業革命を推進するパワーを蓄え続け新たな投資先の不在が、資本家たちにとっての巨大な壁】となる


フューチャー・リテラシー:インデックス 
産業革命はなぜ18世紀にイギリスで始まったのか【後編】:情報ネットワーク・黒死病・イギリス

参考書籍:
[1] フェルナン・ブローデル(2009), "歴史入門" , 金塚貞文訳, 中央文庫
Fernand Braudel(1988), "LA DYNAMIQUE DU CAPITALISME", Flammarion
[2] フェルナン・ブローデル(1985), "交換のはたらき --物質文明・経済・資本主義15-18世紀", 村上光彦訳, みすず書房
Fernand Braudel(1979), "LA Civilisation materielle, economie et capitalisme, XVe-XVIIIe siecle, Tome 2 : Les Jeux de L'ecghange", Armand Colin
[3] フェルナン・ブローデル(1995), "世界時間 --物質文明・経済・資本主義15-18世紀Ⅲ", 村上光彦訳, みすず書房
Fernand Braudel(1979), "LA Civilisation materielle, economie et capitalisme, XVe-XVIIIe siecle, Tome 3 :Le Temps du Monde", Armand Colin
[4] R.C.アレン(2017), "世界史のなかの産業革命 - 資源・人的資本・グローバル経済 - ",眞嶋史叙, 中野忠, 安元稔, 湯沢威訳 , 名古屋大学出版
Rovert C. Allen(2009), "The British Industrial Revolution in Global Perspective", Cambridge University Press

tag : フューチャーリテラシ, 複雑系, メディア, 未来, 社会, ミクロ・マクロ・ネットワーク, 産業革命

未来を読み解くための類推

 「類推」とは、「類似」にもとづく思考であり、知っていることを知らないことに「喩えて」考えることだ。それ以前には全く気づかれることのなかった構造が創発する認知メカニズムであり、創造的活動の源泉となる。

●類推


 類推を形式的に説明すると次のようになる。

「類推」は「対象」と「類似したもの」の持つ要素を、「対象」に「対応づける(写像する)」認知活動である

 そして、脳内での「類推」のプロセスは次のように進められる。

 類推のプロセス:
 1.ターゲット(喩えられるモノ)の表現: ターゲットの問題を理解する
 2.ベース(喩えるもの)の検索: ターゲットと類似するベースを長期記憶から検索する
 3.対応づけ(写像): ベースとターゲットの要素の対応づけ
 4.正当化: 行われた「対応づけ」の妥当性の検証
 5.学習: 必要に応じてターゲットとベースの対応づけを学習

 「類推」は、ヒトの生活のさまざまな場面で、経験を再利用することにより、新たな知識の獲得や発見、仮説の生成、物事の再吟味などにおいて、強力なパワーを持つメカニズムだ。喩えて「対応づけ」られる「ターゲット」の理解、解決、学習で利用され、文学、哲学、科学などの学問、教育、法律、政治、ビジネスなどの社会生活の中でも用いられる。

●「喩え」て考える


 「アナロジーとメタファー」は、学問としては修辞学に分類されるが、本書では、「類推」において「喩えて」考える際の、喩え方として扱う。

 ヒトは「未知」のものを発見したときに、足りない「語彙」を補うために「類似」を探し「喩え」により理解する


〇「アナロジー」で喩える


 「アナロジー」は直接喩えることで、「AはBのように~だ」という具合に使う。AとBの構成要素と対応関係が明確な場合に使い、よく私たちが使う「喩え」はアナロジーで、似たものどうしを見比べて、連想により考えを深める。例えば、電流と水流のアナロジーでは次のように対応づけられる。

電流は水流のように流れる:
 A:水源、貯水、水流、水圧、水力、漏水
 B:電源、蓄電、電流、電圧、電力、漏電

 「アナロジー」の組み立てるときの思考を追うと次のようになる。 

アナロジー構築のステップ:[1]
 1.何かと何かが「似てる」と思う
 2.(似ているものの構造を)「借りてくる」
 3.(借りてきた構造を)「当てはめる」

 「似ている」と思うにも、「借りてくる」ためにもそれぞれの知識がベースとなる。「当てはめる」際に、すべての要素が具体的に対応づけられるときもあれば、一部だけ対応することもある。例えば、『植物が水を吸い上げる水流を電流に対応させると何になるだろう?』と連想を続けていくと対応関係がゆらぐ一方で「イメージ」がふくらみ、新しい発想を生み出すこともある。

〇「メタファー」で喩える


 「メタファー」は暗喩であり「イメージ」との対応で喩える。「人生とは旅だ」という喩えで「旅」は具体的な何かをさすのではなく、「旅」にいだく「イメージ」を共有する。

【メタファーの種類】[2]
1.発言の装飾としてのメタファー
 「人生とは旅だ」と言うとイメージが膨らんで含意があり、格好いいよねという言い回し。
2.言語の先取りとしての不正確な思考形式としてのメタファー
 言葉=論理として意識する前に不確かなままに「イメージ」を膨らませておく考え方。
3.絶対的メタファー
 「イメージ」のまま言葉=論理にもどさずに、思考を続けていく考え方。

 普段使っている言葉はすでに知っていることしか表現できない、アイデア発想のためには「言語の先取りとしてのメタファー」や「絶対的なメタファー」を飼い慣らすことが有効だ。「喩え」を道具として「未知の未来」を読み解くときに、「絶対的メタファー」のまま「イメージ」を膨らませ、言葉=論理におとして「実体」を与え、「メタファー」と「アナロジー」と「実体」とのあいだを行き来し散策しながら考えをまとめることで、飛躍的に発想を広げることができる

〇連想

 
 「類推」に似たものとして「連想」がある、「連想」は複数のカテゴリーを意識せずに渡り歩く。

 例えば、「カレー」からの連想は、次のようになる。
  ・ハンバーグ、スパゲティ: 子供の好きなモノ
  ・シチュー、肉じゃが: 煮込み料理
  ・人参、ジャガイモ: 食材
  ・インド人、ターバン: インド料理、昔見たCM

 ヒトは、「連想」により、一瞬にして知識の中からカテゴリーを意識せずに関連するモノを検索する能力がある。

〇ヒトエンジンの活用


 ヒトは、経験の中から、導き出すときに都合のいい特徴だけ抜き出してくるフィルタリング能力をもっている。この曖昧さを発揮するのが生活の場であり、曖昧性を排除しようとするのが数学や科学だ。フューチャーリテラシーでは、ヒトエンジンのフィルタリング能力を積極的に活用して未来を読み解き、後に科学的なロジカル思考によりその道筋を確かなものとする。(後者は、本書の主題ではなく、ビジネス本なりですでに習得している、もしくは習得することを前提とする)

 「未知の未来」を読み解く際に「喩え」や「連想」は強力な道具となる。「喩え」の能力が実世界で生存戦略として選択される前提には、ヒトが住む世界が類推可能なほど同じリズムを刻んでいるということだ

 「フューチャー・リテラシー」は「未来」を読書に喩えてイメージする試みであり、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルは喩えて考えるためののためのガイドライン(補助器具)、前編は過去の物語を「イメージ」に落とし込み「喩え」の語彙を増やすためのサンプル、そして「ミクロ・マクロ・ネットワーク」に喩えて「驚くべき事実」と「仮説」を設定して未来を読み解く。本書そのものが「喩え」で構築している。


参考書籍:
[1] 鈴木宏昭(2020), "類似と思考 改訂版", 筑摩書房
[2] 松岡正剛(2019), "先夜千冊エディション 編集力", 角川ソフィア文庫


tag : フューチャーリテラシ, 複雑系, メディア, 未来, ミクロ・マクロ・ネットワーク, 脳, 発想法

未来を読み解くためのアブダクション(仮説推論)

 ヒトの脳は、意識下で様々な判断を行い行動している、アブダクション(仮説推論)を用いて未来を読み解く際に役立つのが、ヒトの「美意識」と「ヒラメキ」そして「暗黙知」だ。

●美意識とヒラメキ、アブダクション(仮説推論)


 アブダクションの「仮説」を設定する際には、次のような条件を意識するといいだろう[1][2]

 1)「もっともらしさ」(plausibility)
  ぴったりくる、うまくあてはまりそう、似合っている、いい具合だ
 2)「検証的可能性」(verifiability)
  証明もしくは反証しやすいこと
 3)「取り扱い単純性」(simplicity)
  単純なものを選ぶこと
 4)「思考の経済性」(economy)
  3)に関連して、思考の複雑性をとりのぞくこと

 そして、ちょうどいい「仮説」を思いついたときに、「気持ちがいい」「すっきりした!」「単純で美しい!」と思える瞬間がおとずれ、ヒラメキの警笛が鳴る。

 この条件判断に、ヒトの美しいと感じる感情、「美意識」が活躍する。

 ヒトは「感情」を利用して、言葉に翻訳していては間に合わない事象に対して、意識する前に瞬時に判断して行動することができる[3]。この「感情」という即応装置の一つが「美しい」と感じる能力であり、自然が発する諸法則を発見する即応装置として働き[4]、自然のなかで様々な色が交じり合う風景、昆虫や鉱物の模様、さらにヒトが表現する芸術(絵画・音楽・文芸など)が奏でる旋律の中に「美しさ」を見出す。

 さらに、芸術作品だけでなく、多くの研究者や技術者、プログラマー、学生たちが、新しい発想や道筋を得た時に「美しい」と感じる「ヒラメキ」の瞬間を、すっきり!、Ahaなどの感嘆とともに体験しており[5]、「暗黙知」を活用して正しさを「直感」する能力にも関係する。「美意識」の基準は、時代や地域、文化などの周囲の環境に影響を受け、適応し、変化と安定を繰り返している。

●ヒラメキを誘発する暗黙知


「暗黙知」とは、

「経験的に使っている知識だが簡単に言葉で説明できない知識」[6]

と定義される。

 社内でドキュメント化されておらず社員に共有されていない技能を「暗黙知」と表現し、マニュアルを作成することにより「形式知」とするといった表現で使われる。

「暗黙知」は、その活用方法から次のように分類される。

【暗黙知の分類】

 1.身体知
  例えば、顔の識別、自転車の運転
 2.経験知(ノウハウ)
  例えば、職業的な技術の習得
 3.発明を促す知識

 一般に、暗黙知=経験値ととらえる傾向にあるが、本書ではマイケル・ポランニーが主題とする「発明を促す知識」としての「暗黙知」に着目する[7]

 ポランニーによると、問題の探究における3つの段階に「暗黙知」が活用されるという。

【問題の探求における3つの段階】

(1)問題を妥当に認識する  ⇒仮説の問題設定
(2)問題解決の道筋を見出す ⇒仮説までの道筋の導出
(3)発見の正当性を感知する ⇒美意識、仮説設定

 未来を読み解くための問題設定、「仮説設定」において発見の正当性を感知する「美意識」、「仮説」に至る道筋を見出す際に「暗黙知」が活用される

●未来を読み解くためのアブダクション(仮説推論)


 「未来を読み解く」ときにアブダクション(仮説推論)が有効だが、未来の事象であるため「驚くべき事実C」が不確かな場合がほとんどだ。このため、解くべき課題に含まれる「ゆきずまり」に気づき、おや?と思う「意外性」や「例外性」を早めに発見して「驚くべき事実」として設定するアプローチをとることとなる。

【未来を読み解くためのアブダクション】

・現状のゆきずまり: 解くべき課題に含まれる「ゆきずまり」
・驚くべき事実C: 未来の事実を発見的に設定
・仮説H: 「仮説H」が真であれば「事実C」が当然のこととなる仮説

例えば、スマートフォンを片手に利用する未来を30年前に読み解くときに、

 現状のゆきずまり:パソコンは便利な知的生産のための装置だが机の上に拘束されている
 驚くべき事実C:30年後には片手でパソコンを持ち歩いて使っている。
 仮説H:そのような端末は、メモ帳サイズで、軽量で、パソコンで使える様々なアプリケーションを片手で操作できる端末に違いない。

という具合に、「事実C」を発見的に設定する。

 アブダクションは、帰納と違い「われわれが直接に観察したこととは違う種類の何ものか」を推論でき、「飛躍」がある。一方で、「仮説H」を設定する際に誤りをおかしやすい。「仮説」を設定し、ある程度具体化した段階で、「仮説」がどのぐらい経験的な観測にあてはまるかを帰納し、適当なタイミングで「仮説」と「帰納」の間を演繹的な実証説明で論理立てアプローチが必要だ。

●未来を読み解くための美意識と暗黙知


 「未来を読み解く」ために1)命題を設定する、2)命題に含まれる「驚くべき事実C」を導出する、3)「仮説」を設定する、4)「仮説」への道筋を導出するときに美しいと感じる能力=「美意識」が活躍する。「美意識」は、個人においては「暗黙知」というイメージの集合をもとに直感的な分類装置=発見的評価フィルタとして機能し、「美しさ」の基準を共有する集団においては新たな発想を受け容れその有用性を選別するための保守的評価フィルタとして機能する。

 「仮説」を設定し「美しい」と感じる能力を有効に活用するためには、その前提となる「暗黙知」の質と量を増やす必要がある。業務における技術、マーケティング、企画立案などに関する専門知識は大前提だが、テーマとは少し距離のありそうな本、自然科学や社会組織・経済(ときに哲学、芸術、宗教)などのテーマでピン!とくる、何かひっかかる書籍からの知識の収集が広い発想の基盤となる。書籍の散策については後述する。


参考書籍:
[1] 米盛裕二(2007), "アブダクション - 仮説と発見の論理", 頸草書房
[2] 松岡正剛(2019), "先夜千冊エディション 編集力", 角川ソフィア文庫
[3] アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社
[4] ロジェ・カイヨワ(1972), "自然と美学 --形体・美・芸術--", 山口三夫訳, 法政大学出版局
    "Roger Caillois(1962), "Esthetique generalisee", Gallimard
[5] アーサー・ケストラー(1967), "創造活動の理論", 吉村鎮夫訳, ラティス
    Arthur Koestler(1964), "The Act of Creation", Hutchinson 
[7] マイケル・ポランニー(2003), "暗黙知の次元", 高橋勇夫, ちくま文芸文庫
    Michael Polanyi(1966), "The Tacit Dimension", London, Routledge

tag : フューチャーリテラシ, 複雑系, メディア, 未来, ミクロ・マクロ・ネットワーク, 技術, 科学, 発想法

仮説推論と類推で紡ぐ「未来の物語」:仮説推論という考え方

 ヒトは、生存確率を高めるための戦略として複雑な世界から収集した情報を統合して「イメージ」として記憶し、認知できないものを想像して行動する能力を獲得した。より多くの経験を記憶したものの生存が有利になるが、記憶の、検索の、判断の経済性、エネルギー最小化の戦略が生死を分けた。

 大脳皮質は司令塔となるが、そこに統合され「イメージ」する情報は「氷山の一角」であり、大半の情報は「暗黙知」として意識されることなく処理され、脳内にバーチャルな「イメージ世界」をつくり解釈する。例えば、目に向かって何かが飛んできたときに、まず目をつむり、後から何が起きたかを「推論」し行動を決定する。「類推」や「喩え」も常時行われている意識外の情報圧縮操作だ。情報を「イメージ」として圧縮して記憶し、検索と判断を即時に行うために獲得した能力が「仮説設定」と「類推」だ[1]

●仮説設定による推論


〇思考のための前処理:カテゴリー分け


 ヒトは、「思考」のエネルギーを最小化するための前処理として、性質や構造的に似たものを探し「カテゴリー分け」して考慮すべき情報の範囲を限定し、思考をより確実なものへと絞り込む。「カテゴリー分け」は、対象が持つ特徴を一つ以上取り除くということであり、対象となるモノの特徴を見失うことにもつながるため、複数のカテゴリーを使い分けるなどの工夫が必要となる。

〇推論


 「推論」は、ヒトの思考を論理学的として定式化した考え方であり、

「既知の事柄を元にして未知の事柄について予想し、論じる事」

と定義される。「推論」には、演繹、帰納、アブダクション(仮説推論)がある。

ヒトの「思考」は、次のようにモデル化できる。

 思考: 推論⇒問題解決⇒意思決定

 ヒトが実生活で思考する際には明確に演繹、帰納、アブダクション(仮説推論)に区別しているわけではなく、状況に応じて、使い分け、混合して使い、行き来しながら意識することなく利用している。

【演繹】


 段階的で、分析的で、三段論法のように「ロジックの連鎖により順序だてていく推論」であり、論理的な帰結を示すのみで新しい仮説を生み出すことはない。「演繹」は与えられた観察データを説明するための論理を形成する方法であり、最初の前提となる定理に間違いがないことが前提となる。

 ヒトが純粋に「演繹」で考える場面は希であり、大抵は不確実な状況にもとづいて「思考」を行わなければならない。不確実なものに出会った時、カテゴリー分けを行い、これをもとに「推論」を進め、不確実性が全て取り払われたときに、推論ははじめて「演繹」可能となる。つまり演繹は「推論」の特殊ケースということだ。

【帰納】

 「複数の事例から一般的法則を引き出す方法」であり、事実にないものを生み出すことはできない。「帰納」は観察データにもとづいて一般化をするための方法で、ロジックの中から外に広がっていこうとする推論だが、ある特定の時空間だけなりたつ法則もあり極所解におちいりやすい。

 ヒトの経験に基づく行動は、帰納にもとづくといえる。

【アブダクション(仮説推論)】

 新しい仮説を設定する新たな発見の論理であり、「驚くべき事実C」を説明できる「仮説H」を導出する推論

次のような例では、

 「ある化石がいくつも発見された。それは魚の化石であったが、発見場所はかなりの内陸地だった(驚くべき事実C)。この現象を説明するためには、この陸地がかつて海洋であったと仮説するしかない(仮説H)。」

 「仮説H」が真であれば「事実C」が当然のこととなる、という方向に考えて「事実C」から「仮説H」を導出している。「仮説H」から「事実C」にもどってくるように推論を重ねるということだ。

 「アブダクション」は、複雑な自然のなかでヒトが生きていくために獲得した「未知の事実から仮説をたてて推測する」能力を活用する推論であり、科学者はもちろん、ビジネスにおいても、演繹や帰納を用いる際にも、「仮説」をたてながら思考をすすめる行為を自然に行っている。そして、Aha!、エウレカ、天啓を得た!という、発明のヒラメキ瞬間にもアブダクティブな思考が働いている。

フューチャー・リテラシー:インデックス 
未来を読み解くアブダクション(仮説推論)
未来を読み解く類推

参考書籍:
[1] アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社
[2] 米盛裕二(2007), "アブダクション - 仮説と発見の論理", 頸草書房
[3] 松岡正剛(2019), "先夜千冊エディション 編集力", 角川ソフィア文庫

tag : フューチャーリテラシ, 複雑系, メディア, 未来, ネット, 社会, ミクロ・マクロ・ネットワーク, 脳, 発想法, 技術,

気づきのあるネットワーク・サービス:ビジネスの具体化

 コンセプトもとに、収益性のあるビジネスを見定め、商品を具体化する。


コンセプト:
 アクセス数や購買数で定義した「距離」をもとに、「友人候補」「お勧めの商品(Webページ)」「お勧めの人」を紹介するネットワークサービス。

●Step3: ビジネスの具体化


●ビジネスモデルの作成


 開発・現場への営業期間を早急に収益化できるプランが必要であるため、ネット通販でのレコメンデーション(商品紹介)エンジンを軸に、その他のビジネスに展開するビジネスシナリオを構築し、投資にみあう収益があげられるかを検証する。
(実際には投資計画としてマーケティング分析、5年間の投資対効果の算出、保守運用計画、撤退条件などの稟議、予算の獲得を行うが割愛)

1)ターゲティングCM: 顧客を識別して興味のある広告を表示するエンジンとして販売
 ※現代のGoogleの検索広告(AddSense)や街角広告(ディジタル・サイネージ)と同様
2)マーケティング分析ツール: 顧客の興味を分析するためのツールとして販売
3)ビジネス支援: 販促ツールなど
・商品紹介: レコメンデーション・エンジンとして販売、
 ※ネット通販だけでなくスーパー、CDショップ、レンタルショップなど実店舗も視野に、顧客に合わせた商品を提案する。
・検索エンジン補助ツール: 
 - Webページを閲覧している時に関連ページを紹介
 - 検索のキーワードの代わりに複数のWebページを指定して、関連ページを絞り込み
・友人紹介: (SNSが普及していなかった時代だったので見合わせ)

Webレコメンドイメージ
               おすすめ商品の紹介イメージ[2]


●商用化:

〇商用化エンジン開発:


・スペック
 - 100万人、100万商品、1000万履歴で複数アクセスに対してリアルタイムにレスポンス
・超高速ソートアルゴリズム
 前述のスペックを満足するため、2回のループで距離ソーティングできるアルゴリズムを搭載
・高アクセス・ノイズカット
 アクセス履歴のべき乗特性を利用して、人気の商品を自動抽出してノイズとしてカット
 ※「アナ雪」のように皆が購入する商品はあえて紹介する必要がない、今でいうロングテール商品を提案できる。

○反対意見:


 第三者に意見をもらい、ビジネス計画に問題がないかを検証する。これまでにないビジネスを展開する際には反対がつきものでありここで挫けてしまうのは禁物だが、真摯に問題点と向き合うチャンスでもある。

・アクセス履歴を利用するのはプライバシー侵害であるためビジネス化するのは問題がある
 ⇒現代: やりすぎて問題になっているが、当時よりはるかに敷居は低い。人の習慣は変えられるものなので最初からくじけてはいけない。
・サイトの最高アクセス数が1万人であるのに100万人を想定するのはオーバースペック
 ⇒現代: ネット通販は数千万人を超えている。当時で100万はあり得ない数字だったが、1億人の未来を視野に入れていたので、そのギャップに苦労した。

○派生サービス:


 ビジネスとして具体化していくときには、ビジネスモデルや機能をぐーっと絞り込んでいくことになる。一方で、それが普及するような未来には別の展開が見えてくる。

■行動履歴統合ベース・サービスの提供コンセプト(1997年):
・インターネットを多くの人が普通に利用するようになった将来、ネットとリアルを横断した大量の「人の行動履歴」を取得可能という未曽有の世界が構築される。
・行動履歴を活用するビジネスは、プライバシー問題だけでなく一部の企業が独占して全世界に展開される危険がある
行動履歴データをネット/リアルを横断で皆が活用できるよう、安全安心に共有/取引できる場として、公共性をもった「行動履歴統合ベース」の構築が急務
・「行動履歴」というと積分的な分析に目がいきがちだが、瞬時にデータを取得できる将来には「微分行動」の把握と次の行動の予測という視点も必要となってくる(1999年)。

全国行動履歴統合ベース


 全国行動履歴統合ベース・サービスのイメージ


〇サービスの試行運用:


 1998年にポータルサイト上でおこなった試行運用サービス「MagicPocket」は、キーワードで検索した結果から「おすすめページのリスト」を表示する。1年間の試行運用を終えて終了。
 複数のページを選んで絞り込んだり、紹介されたページからさらに「おすすめページリスト」を表示して、どんどん関連ページをたどったりできるので、キーワード検索にはないワクワク体験ができる。特に3つ興味のあるものを選んで、それらを見ている人たちが何を見ているのかという散策方法が秀逸だということがわかる。それなりにリピータもいたのだが継続はされなかった。Googleは、別のアプローチで動的に変化するWebページへのアクセスをもとに、検索エンジンを実現している。

〇商用化(顛末):


 通販サイトはもちろんコンビニなどの実店舗への営業も含めて全国を回り、ICタグを使ってスーパのカゴに商品を入れたとたんに他の商品をお薦めするデモがTVKで紹介されたが、通販サイトなど数本しか売れなかった。

●現代の類似サービス:


・SNSの友達紹介
・amazonやNetflixの「よく一緒に購入されている商品」、購買履歴からの「おすすめ商品」
・GAFA、Netflixはもちろん、ホームコントロール、スマートカー、スマートシティ、ゲーム、バーチャル、通信などあらゆる分野のビジネスが行動履歴を重要な資本財として奪い合いしのぎを削っている。
・周囲の人の会話に気づくという意味では、FacebookやLineグループなどのSNSでの他人の会話もある。

●まとめ:


 AwarenessNetは、知り合いどうしがコミュニケーションするという、電話網の偏在したコミュニケーションを疑問視し、興味の近いものどうしが知り合うというコミュニケーションの拡大を予見することろから出発した。インターネットは人々のコミュニケーションを促すだけでなく、情報や商品とのつながりも拡大すると考えたところから発想はさらに広がる。

 購買も含むアクセス情報空間はN次元に人の興味がからみあう魅惑的な宇宙を形成する。AwarenessNetは、人と情報、人と商品、人と人をミクロな単位とし、相互コミュニケーションを「距離」という値に置換する。その時々の人の興味により「距離」は変化し、動的な「距離」が形成するN次元な「距離」に置換されたコミュニケーションが、マクロな「興味のコミュニケーション集団」を形成し、情報として記憶される。レコメンデーション(興味の紹介)は、興味の視点と、関連情報の提示によるフィードバック・ループを形成するきっかけとなる。「ヒト」がその時々の興味に合わせて複数の「人」「情報」「商品」に注目(指定)すると、そのコミュニケーション関係が変化し、「興味のコミュニケーション集団」の形を変え、「興味の情報空間」が動的に変化する

 AwarenessNetは、興味のコミュニケーションを疑似写像する場を提供することにより、観察可能な「動的に変化する市場(場)」という人類史上初めての領域に踏み込んだとも言えるだろう。商品としてのとしてのAwarenessNetは広大な構想の暫定解だった。後に示す「行動履歴プラットフォーム」「情報を3次元に写像する:InfoLead」とセットとらえると面白い未来が見えてくる。


気づきのあるネットワーク・サービス:アイデアの整理
気づきのあるネットワーク・サービス:コンセプトの具体化
気づきのあるネットワーク・サービス:ビジネスの具体化


参考文献:
[1] 市川裕介(2000), "~ECサイトのパーソナライズ化とサービスレベルの向上でOne-to-Oneマーケティングを実現~ :純国産のパーソナライズエンジンAwarenessNet", ITmediaエンタープライズ, 2000年12月19日
~ECサイトのパーソナライズ化とサービスレベルの向上で   One-to-Oneマーケティングを実現!~:【特集】One-to-Oneマーケティングツール(3/5 ページ) - ITmedia エンタープライズ[2] 高木浩則, 市川裕介, 木原洋一(2003), "書籍ECサイトにおけるレコメンデーションシステム", NTT技術ジャーナル, 2003.11, p30-33
jn200311030.pdf (ntt.co.jp)

tag : フューチャーリテラシ, 複雑系, ミクロ・マクロ・ネットワーク, 未来, 社会, ネットワーク, 技術, 科学

プロフィール

佐藤基

Author:佐藤基
『フューチャー・リテラシー -- 過去・現在・未来、複雑系の未来を読み解く』
を執筆中。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
ブロとも一覧
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR