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生命のネットワークと「脳」の共進化

<ポイント>生命のネットワークの歴史をたどることにより,ヒトにいたる根源的な性質を見きわめる。生命は,先祖が環境に適応するために獲得した連携ネットワークの性質・能力を遺伝子に記憶しプラットフォームとして引き継ぎ,その上に新たなネットワーク構造を積みあげる。38億年かけて進化したヒトにおいても,原初の単細胞の性質を忘れずに継承している。やがて生命は,後天的に外部環境に適応するためのネットワーク組織=「」をつくり,新たな共進化の構造を組み上げる。の歴史を読み解くことは、未来に向けたテクノロジーとの共進化のロードマップを読み解くことにつながる。

1.微生物のコミュニティ

38億年前,核のない単細胞の細菌(古細菌,真正細菌)が誕生した。最も単純な生命である細菌はコロニーをつくり,細菌間のコミュニケーションにより協調して環境に適応しながら生存競争を生きのびたのだった。

●細胞間での最初の情報交換=遺伝子交換

生命初のコミュニケーションは,細菌間での遺伝子の交換だ。細菌は,細胞分裂により増え続ける。細胞核が存在しないため,細菌間での遺伝子の交換が発生しやすく短期間に遺伝子が伝搬する。遺伝子の交換は細菌の接触による交換だけでなく,死によっても拡散する。群生するコロニーが遺伝子組み換えの実験場となり,1種類の細菌から膨大な種類の細菌を派生させる進化の原動力となる。

●細菌のコロニー内でのコミュニケーション

原初の細胞間での化学物質による情報交換は,栄養の乏しい場所でエネルギーを効率よく取得するために細菌のコロニーにおいて発生した。細菌の生存戦略は,ニッチな栄養源と場所を開拓し,他の細菌を抗生物質により抑制し,それを防ぐ防護壁(細胞壁,粘液性の皮膜)を構築することにある。戦略選択の繰り返しは,自律的に共生する複数種類の細菌による群生=コロニーの形成をうながす

初期のコロニーは,ある細菌の排泄物を別の生物が再利用ことにより発生する。これをつなげることによりエネルギー摂取の連鎖ができ,電子をやりとりする電子市場が構築される。例えば,メタン菌が水素と二酸化炭素からメタンを発生させ,別の菌がそのメタンを食べて二酸化炭素と水素を排出する。異なるコロニーどうしが闘いあうこともあるが長期的には均衡状態を探りあうことになる

二酸化炭素,メタン,二酸化硫黄,硫化水素,窒素などの生産-消費連鎖をつくるが,再利用の環を完璧に均衡することは難しく,電子市場の効率的な均衡を探索し続けることにより複雑化する。さらに,外部環境に適応した細菌からの遺伝子の供給により,コロニー全体が外部環境に適応するよう進化する。

●微生物の社会

現代の微生物のコロニーでは,微生物どうしで神経細胞のようなイオンチャネルによる電気信号伝達を利用してコミュニケーションをおこなっている。血管や神経路の代わりに浮遊する分子によって情報伝達することによりコロニー内の位置を把握し,周囲の環境の情報(浸透圧,pH,湿度など)を処理し,他の生物との競争に役立つ物質を合成してコロニーを防衛して,養分の再利用の効率を上げるように空間分布を修正する。微生物のコロニーとしては,腸内や口内フローラや,免疫や抗生物質に抵抗する細菌のバイオフィルムなどが知られている。

2.メッセージ物質のネットワークがヒトの身体をつくる

単細胞生物の化学物質によるコミュニケーション・ネットワークは,多細胞生物にも継承され,より複雑で自律分散で会話する細胞・臓器ネットワークとして進化した。

●胎児をつくる細胞間の自律分散ネットワーク

ヒトの身体は,たったひとつの受精卵が細胞分裂することにより形成される。細胞分裂して数が増えていくにつれて内側と外側の立体構造がつくられ,ついに最初の分化がおこる。1つの細胞が他の未分化の細胞に向けて,違う細胞に分化するようメッセージ物質(化学物質)を送るとつぎの分化がはじまる。

新しくできた細胞が他の細胞に向けてメッセージ物質を送るという相互作用の連鎖が,次々と発動して身体を形成する。やがて,神経と皮膚をつくる部分,消化器や肺をつくる部分,骨・筋肉・血液をつくる部分の3層構造ができる。

最初の臓器=心臓をつくりはじめると,形成途中の心臓からメッセージ物質を送って肝臓の細胞形成のきっかけをつくる。そして,形成途中の肝臓から心臓に向けて成熟を助けるメッセージ物質が送られる。

相互に同期をとりながらタイミングを合わせて成長し,血管をつくり,血管を伝って臓器どうしのメッセージ物質の伝達ネットワークが構築され,遠い臓器,近くの臓器で相互にコミュニケーションしながら,ヒトという身体を形づくっていく。

●臓器どうしの自律分散ネットワーク

ヒトの身体は,が集中制御をおこなうトップダウンの命令系統だけでなく,臓器どうしのコミュニケーションにより自律分散制御をおこなっている。血管が全身の細胞にメッセージ物質をブロードキャスト(一斉送信)する情報通信網となり,メッセージを受診した臓器や細胞はリツイートもするし炎上することもある

臓器間でかわされるメッセージ:
・心臓が疲れた
 心臓: 一斉メッセージ(心臓が疲れた!)
  ⇒腎臓: 尿を出して血圧を下げる
  ⇒血管: 血管を広げて,内側をきれいにして血液を流れやすくする
・血圧が低いかな?: 投票してね
 腎臓: 一斉メッセージ(血圧が低いんじゃないかな?)
  ⇒肝臓: 一斉メッセージ(いいね!)
  ⇒肺:  一斉メッセージ(いいね!)
  ⇒血管: 血管を収縮して血圧を下げる
・おなかがすいた: への要請
 胃:  一斉メッセージ(おなかがすいた!)
   個別メッセージ(成長ホルモンを出して!)
・運動をすると: 健康になる
 筋肉:
 一斉メッセージ(病気を防いで!)
 骨:  一斉メッセージ(若さを保って!)
・酸素がたりない:連鎖するメッセージ
 腎臓: 一斉メッセージ(酸素が足りない!)
  ⇒骨: 骨髄で赤血球を増産する
      一斉メッセージ(鉄が欲しい!)
   ⇒肝臓: 貯蔵していた鉄を放出
        一斉メッセージ(鉄の吸収抑制をゆるめて!)
    ⇒腸: 鉄分の吸収促進

体内の相互作用のネットワークは,細胞,臓器,共生細菌が多重に絡み合ったメタネットワークとフィードバックループを構築して動的に恒常性を保つ,それがヒトというネットワーク総合体だ。さらに,神経細胞は電気信号と化学物質を組み合わせた高速通信を行い,マイクロRNAを含む大量のメッセージ物質をパッケージにして送り届けるエクソソームという宅配便まで存在する。

3.五感と脳の共進化

6.3億年前,浅瀬の大陸棚が広がり大量の光と栄養塩と酸素が海中にあふれたとき,豊富な素材を活用して繁殖する生命たちの生存競争が新たなステージをむかえる。

●神経組織の誕生

6.3億年前のエディアカラ紀の大陸棚で,急増した太陽光と栄養塩を背景に光合成を行う微生物が大量増殖して酸素を急増させる。

豊富な素材を活用する多細胞生物の最初の戦略は,捕食されない大きな身体を得ることだ。大型化のためには,それを維持するエネルギーが必要となる。「多細胞組織」を使って「エネルギー獲得手段」を構築し,生産したエネルギーをもとにさらに大きな身体をつくる「大型化-エネルギー獲得手段」共進化サイクルがうまれる

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図2.3.1 「大型化-エネルギー獲得手段」の共進化 

「大型化-エネルギー獲得手段」共進化サイクルは,長い年月をかけてさまざまな戦略をうみ環境に適応して選択されてプラットフォーム化し,プラットフォームの上に新たな戦略を構築する。

スポンジのような海水と一体になる形態から,皮膚で外側と内側を分ける戦略への転換が新たな分岐点となる。皮膚を改造して,エネルギーを効率よく獲得する窪みをつくり繊毛により積極的にエサをとりこみ,外側と内側の収縮による移動手段を得る。

やがて,エサに反応して行動するために,「触覚センサー」の入力信号を「行動信号」に変換して「高速通信路=神経組織」により複数の「運動組織」に伝達する連携システムを構築し,新たな構造をボディプランとして改良を加え続ける神経系進化サイクルがうまれる。例えば,口の周辺の触覚を食べる行動につなげ,眼点を使って光を検知し,皮膚刺激に反応して退避する方向への収縮運動を誘発する。

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図2.3.2 「センサー」から「運動組織」への高速信号路

●肉食動物と淘汰圧が「脳」をつくる

カンブリア紀(5.41~4.95億年前)直前に起こった大型生物を捕食する肉食動物の登場が,生存戦略の大幅な変更を余儀なくさせる。

ふりそそぐ大量の光と大陸から流れてくる豊富な栄養塩をもとに,新たな進化を試みる生物たちの壮大な実験場=大陸棚が舞台となる

それまで数十種だった大型の生物がいっきに1万種以上に広がり,現代につながるボディプラン35門に属する生物だけが次の時代に生き残る壮絶な生存競争=「カンブリア爆発」が幕を開ける。

多くの種を絶滅させる淘汰圧は,生物の急激な進化をうながす。肉食動物の一方的な繁殖は,被捕食側を絶滅の危機に追い込む。そしてエサをたべつくしてしまえば肉食動物もまた絶滅してしまう。肉食動物の誕生がきっかけとなり,生態系全体を巻き込んで大幅な戦略変更と新たな均衡の模索がはじまる。

最新の技術を使って個別の部位を革新するだけでは,激しい生存競争を生きのびることはできない。複数の革新的な組織を効率よく連動させることに成功したものだけが,獲物を捕食し,捕食されない身体を獲得して生き残ることができる

膨大なボディプランの改造と生存競争を繰り返し,ついに複数の体組織を連動する「情報統合組織」として「神経集合体=脳」を口近くに形成する

新たなボディプランは「センサー」や「運動組織」の高度な連携を可能とし,さらに生物進化を加速する。そして,移動するエサや脅威をとらえる「眼」,高速に移動する「筋肉」をうみだしたとき大陸棚の軍拡競争がさらに激化する。

●「眼」と「脳」の共進化

あるとき,散在する光受容組織を集め,脳の一部を触覚から視覚に転用してつくりあげた「眼」による狩りがはじまる。最初に「狩りをする眼=鉱物の複眼」を獲得したのは節足動物であり,脊椎動物の祖先はもっぱら逃げるための戦略として「眼」を活用する。

「複眼」は移動するエサを識別するのに有利な構造だ。節足動物は,多数の「複眼」から得た膨大な視覚情報を統合して「移動するエサ情報」を構築し,それをもとに「追尾行動命令」を生成して高速通信路で「筋肉」に伝え,素早くエサを獲得することにより優位となる。

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図2.3.3 初期の「脳」の基本プラン


一方,被捕食動物は移動する物体を検知することよりも,最小限のエネルギーで巨大な生物の接近を明暗で検知して逃げることを優先する。皮膚全体に配置した数個の「点眼」を使って全方位から近づく脅威を検知し,海底や岩場への高速移動するための「脳」と「筋肉」の連携を得たものが生き残る。

カンブリア紀の動物たちは,さらに「神経組織」を改良,脂質による絶縁膜とナトリウムイオンによるデジタル高速通信網を整備し,カルシウムイオンによる終端制御や筋収縮により瞬時の行動を可能とする。「神経系」制御の高速化は俊敏な移動を可能として,追われる側に大きなプレッシャーをかける。

●「カメラ眼」と「空間情報(マップ)」の共進化

カンブリア紀(5.41~4.95億年前)からシルル紀(4.44~4.19億年前)をへてデボン紀(4.19~3.59億年前)に入るころ,脊椎動物の魚類が丈夫な顎と遺伝子重複により「カメラ眼」を手にいれて,活発な肉食をおこなうようになる。

「カメラ眼」は,レンズを使って鮮明な像をとらえる眼であり,海底の地形やエサ・脅威の正確な空間情報を取得可能となる。「カメラ眼」から入ってくる膨大な情報を使いこなすためには「脳」の進化も必要となる。「カメラ眼」と「脳」の共進化により,眼・耳・皮膚から得た情報を統合して「空間情報(マップ)」を形成し,より正確にエサ・脅威の情報を得て行動できるようになる

「カメラ眼」と「空間情報(マップ)」処理の共進化は眼を巨大化するとともに,それぞれの感覚からの入力情報を統合処理して「感情・本能」に変換し,刻々と変化する環境に素早く反応する即応連携シーケンスを構築する

脳の「感情・本能」による即応連携シーケンス:
1)視覚運動:眼を動かし,ピントを合わせ
2)感覚:対象の形や動きを認識してエサと脅威を区別し
3)注意:エサ・脅威に選択的に注意を向けて
4)感情:対象を評価,「喜び」や「恐れ」の感情に変換して,
5)統合行動:対象に身体を向けて,もしくは対象から避けるよう移動する

脳による即応連携シーケンスを構築した魚類は,「顎の強化-大型化」共進化サイクルを進め,節足動物を凌駕するようになる。

●「嗅覚」と「本能・記憶」の共進化

魚類が「嗅覚」を得たことが次の転換点となる。「嗅覚」はエサや脅威のまきちらした化学物資の痕跡を識別・記憶し,過去の記憶にもとづいて思い出し,その場所をエサ場としたり避けたりするために有効だ。

このため,嗅覚は他のセンサーとは異なるルートで脳と連携し,嗅覚とともに行動シーケンスを誘発する「感情・本能」と「記憶」をつかさどる脳の部位が共進化することで,より狡猾に生き残ることに成功する

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図2.3.4 脊椎動物の「脳」の基本構造

太古にうまれた「感情」は,ヒトの「意識」のベースとなり,同時に発生する五感・内感とその「相互作用」を評価し即時の対処をうながす即応装置として発動する


これにより,ヒトにつながる外部情報統合にかかわる脳のボディプランはおおむね完成した。以降,生活環境を陸上に移し,環境との相互作用により五感・内感の情報統合組織として大脳を発達させてゆくこととなる。

陸に上がった多細胞生物もまた,体内組織間の共進化を繰り返すことにより新たな連携ネットワークをつくり生存に有利なものをボディプラン=プラットフォームとして残し,その上に新たな仕組みを組み上げ,必要ならば別の用途に転用して体組織の複雑なネットワーク構造を編み上げてゆく

4.コミュニケーションするサルへの「脳」進化

生命が誕生して以降,急激な環境変化によりほとんどの生命が絶滅する大量絶滅が5回発生した。大災害が急激な進化を促進し,環境に適応した生物種が勢力図を書き換える。

●上陸にせまられる魚類

3億7000万年前の海洋生物の大量絶滅は海からの脱出=上陸を加速し,魚類から両生類への進化をうながす。使わなくなった浮き袋を肺に転用し,ヒレを手足に代える。

上陸して一気に広がる視界,匂い,音,そして地面の感触を活用したものが生き残る。陸環境に適応して,五感による空間情報形成と記憶・学習と感情・本能による情報の統合制御を徐々に複雑化・高度化し,多様な生命デザインを地上に広げる

●恐竜を避けて生きのびる哺乳類

2億5000万年前,生命史上最大の大量絶滅が発生する。太陽系が暗黒星雲と衝突したことをきっかけに発生した極寒期により動植物が絶滅し,続いて酸素濃度が大幅に低下する。ほとんどの生命が死滅し,大量の酸素に適応した肺をもつ哺乳類の祖先たちに大打撃を与える。

恐竜が低酸素濃度でも生きのび大繁殖したのは,現代の鳥に継承される常に新鮮な酸素で満たされ循環する肺構造を進化させていたからだ。残念ながら,哺乳類の肺は,酸素を吸う経路と吐き出す経路が同じ気管を共有しているため低酸素濃度に弱い。

恐竜が繁栄する時代,哺乳類の祖先は小型のトガリネズミのような外見の夜行性となり,肉食の恐竜たちを避けてかろうじて生きのびる。かつて,昼間の光のなかで視力を活用して構築した「空間情報(マップ)」の生成脳力は嗅覚に置き換えられ,匂いの記憶と明暗や触覚というわずかな情報からエサと脅威を感知する脳と五感と「記憶・感情」を研ぎ澄まして「空間イメージ」を組み立てる

●恐竜絶滅と哺乳類の広がり

6600万年前,再び起こった太陽系と暗黒星雲の衝突をきかっけとする極寒期により恐竜などの絶滅が進み,続く巨大隕石の落下が残ったものたちにとどめをさす。そしてわずかに生き残った生命にふりそそぐ宇宙線が,新たな種の進化を加速する。

大量絶滅の後に世界に広がる哺乳類の最大の特徴は,体内外での子育てと,環境変化に合わせて脳を拡張する柔軟性だ。子育てと脳を共進化させることにより,妊娠期間・育児期間が長くなるほど巨大化できる脳構造=大脳皮質のしわ・層構造を獲得する。

脳を巨大化して維持するためには生涯にわたる大量のエネルギー供給が必要となる。効率の良いエサの獲得・体内外育児の負担と,巨大な大脳を活用した賢い行動・体内コントロールがトレードオフとなり共進化し,あらゆる環境に適応して戦略を変えて苛烈な生存競争に生き残り広がっていく

脳をささえる体内機構も共進化する,赤血球の核を除いて脳へのエネルギー運搬を高効率化したのは哺乳類だけだ。学習能力と判断能力を強化し,出産後の環境に合わせて脳回路を編集して,忍び足で近づき俊敏に襲うもの,遠距離の脅威を感知してジャンプして逃げるもの,樹上で木々を飛び移るものなど賢い脳を活用してさまざまな環境に適応して広がっていく

●樹上で進化する霊長類

○フルカラー視覚がコミュニケーション能力を強化する
6300万年前,ゴンドワナ大陸が分裂し,南米大陸とアフリカ大陸,インド大陸などに分かれ,リフト帯で噴出する放射性マグマの活動が突然変異を誘発し,各大陸での個別の進化を加速してさまざまな生態をもつ生物が広がっていく。

温暖化が広葉樹を広げ,それに適応したサルの祖先が樹上での生活を選び,枝やエサをつかむ手を進化させる。樹上での生活は手足を器用にあやつり,果物の食べごろと腐敗を識別する必要があり,指先の触覚,視覚,嗅覚情報を統合して指・手足の繊細な制御を行うために「学習・判断・制御」脳力,センサー,手足を共進化させる。

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図2.4.1 「学習・判断・制御」する脳の獲得

4000万年前以降,何度も寒冷化と温暖化の波が繰り返す。寒冷化時には飢餓よる闘争が激化し,共同でエサ場を確保して脅威を排除するものたちが生き残る。より多数で連携した集団が優位となるが,そのためには個体を連携するための「コミュニケーション能力」が必要となる

個体数の増加が「コミュニケーション能力」の強化をうながし,声やジェスチャーによる「コミュニケーション能力」の強化が集団の規模を増やす。集団規模の限界をさぐる「集団規模-コミュニケーション能力」の共進化がはじまる

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図2.4.2 「集団規模-コミュニケーション能力」の共進化

3000万年前,樹上でより多くの新鮮な食料を獲得するために赤・橙の識別能力を加えてカラーの眼を獲得した旧世界サル=ヒトの祖先は,肌の色を識別できるようになり顔の肌を露出させて感情変化をよみとる新たな「コミュニケーション」手段を獲得する

○高精細視覚センサーが推論能力を高める
やがて,遠くに熟れた果実を発見し,飛び移る枝を見きわめるために網膜の一部に高精細なセンサーを搭載するサルがあらわれる。眼球とともに高精細視覚センサーを縦横に動かすことにより,注力した部分をはっきりと認識する。以降,高精細センサーの範囲を広げるのではなく,生きるために有効な情報をフィルタリングするために,立体視などとともに脳力により全体像を推論する「錯視」を強化する方向に進化したものが生き残っていく

高精細な視覚はより詳細に表情を認識することを可能とし,より繊細な「コミュニケーション」を可能とする。


「錯視」は脳の暗黙の推論能力を強化し,脳内に「仮想イメージ」と「仮想物語」をつくる脳力を構築して,コミュニケーション・社会行動などの統合制御を強化していく


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図4.4.3 仮想的なイメージと物語をつくる脳

シャープな視覚,両眼による立体視,フルカラー画像,そして錯視を得たサルは,高いコミュニケーション能力により集団を維持・運用し,推論により「仮想イメージ」と「仮想物語」を構築する賢いサルへと進化してゆく



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【参考書籍】
[1]ポール・G・フォーコウスキー(2015), "微生物が地球をつくった :生命40年億年の主人公", 松浦俊輔訳, 青土社
[2]ベンジャミン・マクファーランド(2017), “星屑から生まれた世界 :進化と元素をめぐる生命38億年史“, 渡辺正訳, 化学同人
[3]アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社
[4]中西直人編(2017), "微生物の驚異 :マイクロバイオームから多剤耐性まで:細菌も電気通信で会話", 別冊日経サイエンス, p47, 日系サイエンス
[5] 丸山優ニ; NHKスペシャル「人体」取材班(2019), "人体 神秘の巨大ネットワーク 臓器たちは語り合う", NHK出版
[6] 大隈典子(2017), "脳の誕生 :発生・発達・進化の謎を解く", ちくま書房
[7] 植田和貴(2021), "[日系BPムック] ダーウィンが来た! 生命大進化 :第1集 生き物の原型が作られた(古生代から中生代 三畳紀)", 日経ナショナルジオグラフィック社
[8] アンドリュー・パーカー(2006), "眼の誕生 :カンブリア紀大進化の謎を解く", 渡辺政隆, 今西康子訳, 草思社
[9] 坂井建夫, 久光正監修(2011), "ぜんぶわかる 脳の事典", 成美堂出版
[10] トッド・E・ファインバーグ, ジョン・M・マラット(2017), "意識の進化的起源 :カンブリア爆発で心は生まれた", 鈴木大地訳, 勁草書房
[11] 丸山茂徳(2018), "地球史を読み解く", 放送大学教育振興会
[12] 丸山茂樹(2020),"最新 地球と生命の誕生と進化:[全地球史アトラス]ガイドブック", 清水書院
[13] 大森聡一(2021), "改訂版 ダイナミックな地球", 放送大学教育振興

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相互作用の連鎖の重なりが宇宙をつくる


1章 相互作用の連鎖の重なりが宇宙をつくる

<ポイント>本章では,初期のネットワーク形成とそのリズムの繰り返しを感じることに注目する。現代そして未来につながるネットワークの歴史は,より軽い元素の相互作用による原子ネットワークへの記憶と,元素の集団がつくる圧力の変化,離合集散による新たな元素の創造の繰り返しとして描かれる。やがて,さまざまな元素がでそろうタイミングと場所で誕生した地球が分子ネットワークの実験場となり,最初に岩石が集まり,次に水が加わると分子の相互作用の活性化により複雑な分子ネットワークの形成を加速して,ついに自己複製する高分子化合物を誕生させる。


1.ビッグバンとともに誕生した4つの相互作用

138億年前,宇宙は超高温高密度のエネルギーの塊から一瞬にして膨張して火の玉宇宙の膨張=「ビックバン」が始まる

膨張とともに冷えていくなかで,集合-分散を繰り返しながら少しずつ宇宙の物理法則とそのかたちをつくっていく。宇宙の膨張・冷却という環境変化とともに質量をもつ素粒子(陽子,中性子,電子)や重力・電磁気力などの相互作用がつくられる。

過去から未来に向けて連鎖するネットワークのもとは4つの相互作用であり,138億年のときをかけて宇宙を,星を,生命を,ヒトを,社会をつくりあげていく。

学生のころに習った「力」や「相互作用」は,この世界を説明するものとしてすでに存在していた。宇宙誕生からの歴史をひもとくと4つの相互作用によって集散を繰り返し,創造のもととなる環境を,互いに影響をおよぼす相互作用を,自身を構成する仕組みを創りながら徐々に世界を組み立てていく様子が見えてくる。

【解説】宇宙をつくる4つの相互作用
我々の知覚する宇宙は4つの相互作用によりネットワークを形成し,断片化,連結・再集合を繰り返すことにより,宇宙の構造をそして生命をより複雑な仕組みへと導いていく。

1)重力相互作用(宇宙創生から10-44秒後)
リンゴが落ちるときにはたらいている相互作用。あらゆる粒子にはたらくけれど力は非常に弱いが,マクロなレベルでは重力だけで語られる。質量に比例するので,極端に小さい原子や分子のレベルではほとんど影響しない。

2)強い相互作用(宇宙創生から10-44秒後)
陽子,中性子,原子核を形づくる相互作用。「電磁気相互作用」より強いが,原子核程度のきわめて狭い範囲にしか働かない。「強い相互作用」がなければ,2つ以上の陽子が核内に共存できない。つまり,原子核は「電磁気相互作用」の反発力と「強い相互作用」の引力の均衡の上になりたっている。

3)弱い相互作用(宇宙創生から10-11秒後)
原子核の種類を変えてしまう錬金術な相互作用。原水爆,原発,恒星内の核反応に関係する。水素の原子核=陽子からヘリウムの原子核,逆に中性子となるときに働く。「弱い相互作用」がなければ,周期表に記載される元素のバリエーションは存在しない,すべての元素のもとは水素ということ。

4)電磁気相互作用(宇宙創生から10-11秒後)
我々が普段経験する重力以外のすべてにはたらいている相互作用。地震,雷,磁石,化学反応,物を移動する,木を折る,ボールを投げる,そして電子と原子核を結びつけて原子をつくる。我々が体験できる重力以外のすべては,電磁気相互作用によっているという万能・ビックリな相互作用。

2.初めての元素の作り方

最初の元素が誕生するまでの宇宙はあまりに熱く,水素とヘリウムの原子核,光子と電子が激しく暴れる荒ぶる宇宙が広がる。

●水素とヘリウムの原子核が広がる暗黒の宇宙

ビックバンからおよそ3分後,宇宙の温度が10億度に近づくにつれて陽子や中性子に作用する「強い相互作用」「弱い相互作用」の影響が強まり水素とヘリウムの原子核が合成されはじめたころ,宇宙が急速に広がり冷えていきそれ以上の核合成が進む前に水素原子核(75%)とヘリウム原子核(25%)が宇宙空間に拡散する

この広がっていけば,ただ水素・ヘリウムガスが何百光年も穏やかに広がる空間が宇宙となるはずだった。しかし,光子が直進できない暗黒の宇宙の中で,光子と陽子と電子がぶつかり合う激しい運動を繰り返していた。

●初めての原子の誕生

ビックバンの後3000度に冷えた38万年後,陽子と電子の運動がおだやかになり「電磁相互作用」が働くようになると,原子核と電子とがお互いに引きあい,最初の元素である水素原子とヘリウム原子が誕生する。

元素といえば「すいへいりーべー」で覚えた周期表が思い浮かぶ。周期表記載されている元素は最初から宇宙に存在していたわけではなく,ビックバンから38万年後の宇宙に広がる水素とヘリウムをもとに生成されたのだ。原子の誕生とともに,ようやく光子が直進できるようになる。

3.鉄までの元素のつくり方

今私たちがあるのは,初期の宇宙のわずかなゆらぎが水素とヘリウムのネットワーク=ファーストスターを編みだし,離散集合のリズムをきざんで元素の連鎖をつくりだしたからだ

●ファーストスターのつくり方

水素とヘリウムで満たされた宇宙では銀河を作る材料もなく,薄いガスが静かに広がるだけのはずだった。しかし,実際には水素を超える大量のダークマターが宇宙に広がり,重力により影響を与え合っていた。

最初の原子から1億年の時をかけてダークマターの塊にガス(水素とヘリウム)が引き寄せられ,密度の差が濃くなり編み目模様をつくりはじめる。

密度の濃い部分は高温の乱流状態となり,分子どうしが近接して「電磁気相互作用」によって集まり「重力」による収縮が始まる。わずかに回転していた「分子雲」は収縮にともない高速に回転する円盤となり,中央部は「重力」により中央に向かって落下を続ける。やがて重力による「落下する力」と,落下のぶつかり合いがおこした熱による「膨張する力」が均衡して収縮が止まり,内部の熱により輝く「原始星」が誕生し宇宙にかすかな光りをともす

「原始星」へ向けて高速のガスが流れ込み続け,太陽質量の20倍の重さになったときに1500万度を超えて「核融合反応」を繰り返すようになり,太陽の10万倍もの明るさで輝く。この光がまわりのガスを暖め,星にふりつもるガスにブレーキがかかる。さらに7万年後,太陽質量の42倍,表面温度10万度の高温で燃えさかるとき,核融合による大規模な爆発による「膨張する力」と重力による「落下する力」が均衡し,ついにその成長を止めてファーストスターの輝きを宇宙に広げる

●ファーストスター内部で鉄までの元素をつくろう!

周期表の水素とヘリウム以外の元素はどのように創造されるのだろうか。

水素(陽子1),ヘリウム(陽子2),順に陽子を足していけば水素をもとに他の元素をつくることができそうだが,反発し合う陽子どうしは近づくことができない(電磁気相互作用)。かの錬金術師たちが,どのように頑張っても他の元素から金をつくることができなかったわけだ。

ところが恒星内において原子核が超高温・超高圧状態にさらされると,電子と原子がばらばらになり,陽子どうしが衝突できるようになる。陽子どうしがぶつかると陽子過剰となって陽子から陽電子とニュートリノが飛びだして中性子となり(弱い相互作用),陽子と中性子が結合することにより水素原子核(陽子1)⇒重水素原子核(陽子1+中性子1)⇒ヘリウム原子核(陽子2+中性子2)へと形を変えていく(強い相互作用)。いったん,ヘリウム原子核が構成されると,低温低圧状態にもどっても結合がほどかれて水素にもどることはない(強い相互作用)

恒星内の中心にヘリウムが蓄積され,さらに高温・高圧状態がすすむと,炭素,酸素,ネオン,マグネシウム,ケイ素,硫黄,カルシウムなどが連鎖的に生成される。より大きな元素番号へと核融合反応が進むにつれてエネルギーを放出して軽くなり結合力が強く働くようになる(強い相互作用)。一方で鉄よりも陽子が多くなると反発が強まり(電磁気相互作用)最も安定した元素=鉄を生成したところで核融合反応が終了する。ファーストスターが誕生してから数百万年かけてようやく鉄までの元素を創造することができた

鉄より重い元素を生成するためには,巨大な恒星内の核融合よりも莫大なエネルギーが必要だ。離散融合を繰り返す宇宙はさらなる元素生成の実験場を誕生させる

4.鉄より重い元素のつくり方

恒星の中での核融合反応が止まると,核融合による「膨張する力」と重力による「落下する力」の均衡がくずれ,鉄の層は中心部に向かって光速の2割ものスピードで落下しはじめる(重力崩壊)。中心部は超高圧のため鉄原子に電子が押し込められ,陽子が中性子に変わり(弱い相互作用)中性子のコアができる。中性子のコアに鉄の層が落下し跳ね返り,激しい高密度の衝撃波が発生する。さらに,中心部のコアの重力崩壊が進み,やがて回転する巨大なブラックホールとなり,周囲を巻き込みながらジェット流にのせて元素をまきちらす極超新星爆発をおこす

この極超新星爆発によってケイ素層や酸素層下部では,衝撃波が通過するときの高温高密度下で鉄を中心とした元素を生成し,重い原子核は大量に生成された中性子を捕獲してさらに重い原子核となる。陽子と中性子の均衡がとれる数に達すると電子を放射して安定した元素となり(弱い相互作用),さらに中性子を捕獲してより重い元素を生成し,鉄より重い元素を生成する連鎖が続く。このようにして元素表にあるさまざまな元素が巨大なブラックホールの周囲から,ジェット流にのって宇宙空間に広がる

ファーストスターのサイズはダークマターの密度の偏りにより異なり,大きなものは太陽質量の6万倍にも巨大化し,最後の超新星爆発とともに中心核からモンスターブラックホールを形成,さらにモンスターブラックホールどうしが合体して太陽質量の10億倍もの超巨大ブラックホールとなり,ファーストスターからまき散らされた元素=星間ガスをもとに数千億の恒星を生みだす「銀河」へと成長してゆく

「銀河」の中では,ばらまかれた星間ガスが集まってさまざまなサイズの恒星が誕生と死を繰り返す。コアが中性子星となり超新星爆発をおこすもの,ゆっくりとした中性子核融合によりプラチナよりも重い元素を生成するもの,中性子星の連星の衝突・合体により金やプラチナなどの重金属を大量に生成するものなど,地球にある豊富な元素が恒星の生と死の振り子のリズムによって徐々に生成されていく

5.元素に富んだ岩石惑星「地球」誕生(45億6000万年前)

豊富な元素を含む「地球」が誕生したのは,宇宙誕生から130億年の銀河の辺境で銀河の衝突が発生したという絶妙なタイミングだった。

●ナイスタイミングで誕生した太陽系

ビッグバン直後からやや減速しつつ膨張し続け,ファーストスターの爆発後に大量の「銀河」が誕生・衝突・統合を繰り返して「天の川銀河」を形成する。やがて,「銀河」の統合により宇宙全体に広がっている銀河どうしの距離が遠くなると宇宙の「膨張する力」と「銀河」の重力により「減速する力」の均衡点を超えて,約60億年前から加速度的な膨張に転じる。そして46億6700万年前,天の川銀河の辺境に生命を誕生させるためにちょうどいい塩梅の元素を集めた「太陽系」が誕生する

●物質大循環と衝突の繰り返しが岩石惑星「地球」を形成

46億6700万年前,「天の川銀河」が矮小銀河と衝突した衝撃波が「分子雲」に到達したことをきっかけに,「核融合反応」により高温で燃え輝き続ける恒星=太陽が誕生する

太陽を形成する「分子雲」は水素やヘリウムを主成分とし,超新星爆発などによって生成されたさまざまな物質(炭素,窒素,酸素,マグネシウム,ケイ素,鉄など)で構成されたガス状の集まりだ。その0.2%が太陽への落下を免れて,太陽の周囲に高速に回転する環を形成する。

円盤から垂直方向にエネルギーが放出されて,徐々に回転を緩め,環の中心面に向かって塵や氷が「沈殿」する。沈殿した塵や氷は乱流の中で「電磁気相互作用」や「重力相互作用」によって集積し合いながら大きくなり,数10Km程度の「微惑星」となって分離する。「微惑星」どうしが衝突・合体を繰り返して巨大化し,同一軌道上の「微惑星」を取り込み終えると太陽を中心として長期にわたり公転する「惑星」となる

太陽に近い軌道では,氷の粒子が蒸発したため微惑星が少なく小型化し「岩石惑星」を,木星の軌道よりも外側では大量の氷の粒子を集めて微惑星がぶつかり合い「太陽風」により飛ばされてきたガスを巻き込み巨大な「ガス惑星」を,天王星の外側の軌道では回転力が弱いため微惑星の衝突がほとんどおきず小さな「氷惑星」を形成する。そして,45億6000万年前に,鉄(32.1%),酸素(30.1%),シリコン(15.1%),マグネシウム(13.9%),硫黄(2.9%),ニッケル(1.8%),カルシウム(1.5%),アルミニウム(1.4%),金銀プラチナなどの重金属,レアアース,ウランなどの元素で構成される岩石石惑星「地球」が誕生する

ウランまでの豊富な元素材料をそろえる「地球」は,分子の実験場としてさまざまな物資を生みだしてゆくこととなる。

6.分子生成の連鎖が,循環する地球システムをつる

水のないドライな「地球」に降り注いだ大量のウェットな隕石がきっかけとなり,化学反応の連鎖がはじまる。分子生成の連鎖はやがて,循環するダイナミックな地球システムをつくっていく。

●ドライな岩石惑星「地球」と月の誕生

45億5000万年前,大気も水もない鉄とケイ酸塩を主成分とするドライな岩石惑星「地球」が誕生し,その直後の微惑星との衝突により月が生成され,やがて鉄などが重力で沈み込み表面を固い地核で覆われる。

●ウェットな隕石が降り注ぎ分子反応を加速する

43億7000万~42億年前,木星と土星の軌道移動の余波で水と炭素を含む大量の隕石が地球に降り注ぎ,地球は灼熱状態となる。地球が冷えてくると大量の二酸化炭素を含む酸性の雨(炭酸水)が降り注ぎ,還元状態の地表と激しく化学反応をおこし,地表の岩と結合してケイ酸塩が流れだし,硫酸,硝酸,塩酸などが溶け込んだ超酸性・超高塩分・重金属元素を大量に含んだ猛毒の海が誕生する。

●地球の急冷が地核の循環系をつくる

40億年前~38億年前,原始海洋が大気中の二酸化炭素を大量に吸収して,地球が急速に冷え始める。地球の冷却と原始海洋の増加の相互連鎖が加速し,1000度から130度までいっきに冷却する。

地球の冷却の影響で,海洋地核の下のマントルが上昇して裂け目(海嶺)をつくり吹きだしたマグマにより海洋地核を形成,マントルがプレートを押し上げプレートの自重で大陸地殻の下にプレートが沈み込むプレートテクトニクスによりプレートの循環が始まる。海中の溶岩がつくる含水鉱物は潤滑油として働くとともに,岩石が溶融する温度を極端に低下させて,酸性のマグマ(二酸化ケイ素)を生じ,地表へと上昇して地球特有の岩石=生命素材を含む花こう岩をつくる

●プレートテクトニクスが海を浄化

38億年前~35億年前,風化によって陸上から中性の砂や泥が海中に堆積して超酸性の海水と反応して中和し,海底の裂け目(海嶺)から噴出する熱水と岩石の反応により重金属鉱床となり,プレートテクトニクスによりマントルの地下深くに運ばれて重金属イオンが除去され,海がしだいに浄化されていく。海の浄化とともに,温泉や海嶺近くに自己複製する高分子ネットワーク(生命)が誕生する

●磁場バリアが太陽風から地上を守る

32億年前,鉄などの重い物質は重力によりコアを形成,プレートテクトニクスが原初大陸を破壊してコアの上部に運んだウランの発熱により液体化した金属がコアの周りを対流して地球磁場を発生させる。しだいに強くなる磁場がバリアとなり,ふりそそぐ宇宙線,太陽風,紫外線から地表を守る

海面に降り注ぐ太陽風や紫外線の減少にともない,海面近くの太陽光を使った光合成により海中の二酸化炭素を吸収し酸素を放出する生命=シアノバクテリアが誕生する

●冷却と秩序化の営みが循環する地球ネットワークを構築する

27億年前,海底の冷たいプレートがマントルに沈みこむことにより,地球がしだいに冷えていくとマントルの対流が激しくなり,地球磁場が急激に強くなる。有害な光線が減った海面近くでシアノバクテリアが大量発生して,海中の二酸化炭素を大量に消費し,放出した酸素が磁鉄鉱となり海中に大量に沈殿して黒い海は「青い海」へと変化する。


地球の冷却と秩序化の営みが,新たなプラットフォームとメタな秩序化の営みを生みだす


シアノバクテリアが地球上に大量の酸素をもたらし,酸素を呼吸する巨大生命を生み,オゾン層が宇宙線から地球を守り,生命が地上に広がる。プレートテクトニクスの活動が大陸を,そして超大陸をつくり,大陸移動,山の生成,火山,地震につながる地球システムの活動がスタートする。大陸の離合集散,風化の増減,雨の増減,生物死骸の地下への移動と火山噴火,生命と地球が相互に連鎖しあいながら地球システムの恒常性を形成して,酸素濃度と気温を一定の範囲に保つこととなる。



【参考書籍】

[1] 佐藤勝彦(2015), "宇宙137億年の歴史 :佐藤勝彦 最終講義", KADOKAWA
[2] 吉田直紀(2018), "地球一やさしい宇宙の話 :巨大ブラックホールの謎に挑む!", 小学館
[3] 和南城伸也(2019), "なぞとき 宇宙と元素の歴史", 講談社
[4] 谷口義明(2019), "宇宙はなぜブラックホールを造ったのか", 光文社
[5] 谷口義明(2019), "宇宙の誕生と進化", 放送大学市教育振興会
[6] 丸山茂樹(2020), "最新 地球と生命の誕生と進化 :[全地球史アトラス]ガイドブック", 清水書院
[7] 丸山茂徳, 磯崎行雄(1998), "生命と地球の歴史", 岩波書店
[8] 丸山茂徳(2018), "地球史を読み解く", 放送大学教育振興会
[9] デイヴィッド・クリスチャン監(2017), "ビッグヒストリー大図鑑 :宇宙と人類 138億年の物語", 秋山淑子, 竹田純子, 中川泉, 森富美子訳, 河出書房新社
[10] 大森聡一, 鳥海光弘(2016), "ダイナミックな地球", 放送大学教育振興会
[11] 森山茂(1998), "自己創成するガイア -- 生命と地球は強制によって進化する--", 学習研究社

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未来を読み解くための「ヒトー文化共進化」モデル

「ヒトー文化の共進化」のモデルを、未来を読み解くために利用しようというお話し。


●「ヒトと文化」の共進化モデル



ヒトと文化、集団規模とコミュニケーション能力は相互に影響し合い、その複合的な共進化のサイクルがヒトを世界中に拡散し、さまざまな文明を誕生させた。



ヒトが集団で獲得し継承するものを総称して「文化」と呼ぶ。

文化の対象: 道具、技術、知識、ノウハウ、社会習慣・規範、宗教、芸術


詳細はこちら。


・「ヒト」は内外の環境に適応するために、新たな「文化」を創造する

「文化」が進化すると、それに依存する「ヒト」も進化する

生存競争に優位な「文化」を持つ「集団」は、ヒトが集まりそれを維持できることから「集団規模」を拡大する

「集団の規模」が大きく、「コミュニケーション能力」が高いほど確率的に高度な「文化」をうみ、それを伝搬して維持できる

「集団の規模」が大きく高度な「文化」を持つ集団は、より高度な「コミュニケーション」能力を獲得する


モデル化すると以下のように記述できる。


     「ヒトー文化の共進化」モデル



「集団規模」を拡大する「文化」の創造、

「コミュニケーション能力」を高める「文化」の創造が、「ヒトー文化の共進化」サイクルを加速してヒトの生活を激変させる



●文化遺伝子(ミーム)による共進化


そして、ヒトは遺伝子によらない、後天的な進化の手段を獲得した



文化に能力や脳力をアウトソースして文化遺伝子(ミーム[2])として継承することで、10年、100年単位での急速な進化を可能とした

ヒトは「文化」へと能力や脳力をアウトソースすることにより、当該「文化」に依存することとなり、


「文化」にアウトソースした能力や脳力を失う(減じる)
とともに
「ヒトと文化の協調」により、新たな能力や脳力を獲得する



この表裏一体の能力・脳力の変化を念頭において、何を失い、何を獲得し、それによって今後何が変化するのかを明らかにしながら、未来を読み進めることが肝心だ。



●サンプル:ヒトと「言葉」との共進化


「ヒトー文化の共進化」モデルを使って、ヒトと「言葉」との共進化について、過去、現在、未来を読み解いてみる。

〇「声の言葉」と「書く言葉」への転換

ヒトと文化の共進化においてヒトの思考に大きく影響を与えたのは「言葉」であり、「声の言葉」から「書く言葉」への転換だ。

表音文字であるアルファベットが登場した直後から、哲学や数学に代表される論理的な思考法が誕生する。


「声の言葉」と「書く言葉」の転換期に論理的な思考法を手に入れたが、同時に多くの能力を失った。

「書く言葉」によって失ったもの
・暗唱的な「記憶」能力
美意識による「直感」
論理的に記述しがたいアーティストとしてのバランス感覚


さらに「活版印刷」により文字を読む習慣が大衆のものとなり、多くのヒトが近代的な思考法を手に入れた。

近代的な思考法:
・中立で均質、客観的で論理的な視点
・分断、分化、専門化、断片化
・単一化、均質化、画一化を促し



〇未来の思考法と支援サービス


WebやSNSという新しいメディアの創造によってヒトは長い文字を読むことが困難となり、ヒトの思考法が未来に向かって大きく転換しつつある。


その先にある未来を読み解き、新しい思考法=非線形思考をささえる「文化」の創造が思考の変化を加速する。



「ヒトー文化の共進化」モデルは、過去から現在への共進化の流れから、現在おきている変化に気づき、そこから生まれる未来を読み解く際に活躍する。「小さな流れ」と「大きな流れ」を読み解き、統合して、未来を見定めることを意識するようにしたい。


参考書籍:
[1] ジョセフ・ヘンリック(2019), "文化がヒトを進化させた :人類の繁栄と<文化-遺伝子革命>", 今西康子, 白揚社
[2] リチャード・ドーキンス(2006), "利己的な遺伝子", 日高敏隆, 岸由二, 羽田節子, 垂水雄二訳, 紀伊国屋書店
- Richard Dawkins(1976/1989), "THE SELFISH GENE(30th anniversaty edition", Oxford University Press
[3] M.マクルーハン(1986), "グーテンベルクの銀河系 :哲学人間の形成", 森常治訳, みすず書房
- Marshall McLuhan(1962), "The Gutenberg Galaxy: The Making of Typographic Man", University of Toronto Press


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