気づきのあるネットワーク・サービス:アイデア編集
第三章 1990年から観た未来
本章では「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルとアイデア・プロセッシングのサンプルとして、1990年代に読み解いた未来(現代ではあたりまえとなったサービス・コンセプト)を例として紹介する。
今あるコミュニケーション、ネットワークをベースとして次のメタ・コミュニケーション、メタ・ネットワークを問い続けることにより、次の時代のサービスに気づくことができる。
3.1 商品として具体化したもの
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インターネット普及前夜の1990年代に未来を読み解き商用化まで展開した事例について3Stepに分けて紹介する。漠然としたイメージを具体化していく際に、当初のイメージから形をかえることが多い、それはアイデアが現実環境に適応していく過程として自然な変化である。
Step1:アイデアの整理
Step1:アイデア編集
●背景(1995年):
○環境条件
楽天が発足する5年前、googleが発足する2年前の1995年、通信速度は現在の1万分の1にもみたない、個人や企業の情報発信がこれほど大量となるとは想定できず、Webページへのアクセスも1万件もあればヒットサイトだった。通販やCMがネットでビジネスになるかはまだ皆半信半疑、新聞やTVを超えるのは夢物語だった時代。
研究所では、通信速度が1Mビット/秒となる光回線を各家庭に配線するという(当事としては)とんでもない目標にむけ、電話に代る通信サービスはどのような変化を迎えるのかを模索していた。
○他の研究動向
・多地点臨場感TV会議、ビデオオンデマンド(Netflixの原型)など高速=動画という発想に注意が向けられている。医療用のレントゲンなどを利用した遠隔医療も考えられているが、1M程度ではまだ実用的ではない。
・オフィス電話や一般の電話交換はすでにディジタル化されていて、1Mビットとなった際にはインターネット上での電話通信も想定する必要がある。
●お題(テーマ): NTT研究所にて
⇒最終到達フェーズ: レコメンデーション・エンジンの商品販売
通信速度は、1Mビット/秒(現在の1000分の1)となり、インターネット普及した将来、電話に代る新しいコミュニケーションサービスを創る。
●材料・素材:
○現状把握
・インターネットの通信速度は、早くても128kbpsが限界。
・利用者は極一部のコアユーザのみ。サイトのアクセス数は最大でも1万人に届かない。
・ネット通販のサイトはamazonなど一部で運用されはじめたが普及するかどうか怪しい。
・サイト毎のアクセス数が多くても1万人程度なため、ネット広告の有効性を疑問視する意見が多い。
・企業からの情報発信もされているがあまり閲覧されていない。
○想定するプラットフォーム
・とりあえず電話網を想定
●着想:
○電話における「バーチャルなリアル」とは?
「バーチャル・リアリティ」をやりたいという声が出発点だった。電話ネットワークにおける「バーチャルなリアル」とは何なのか。現実に置き換えてみて足りない視点はないか、我々は電話網を使って遠隔で世界中の指定した人と通話できているが、それは現実空間のように周囲の雰囲気は伝わってこない。
○「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルで考えてみる
ネットワークのつながり:
・ミクロ: 人
・コミュニケーション: 指定した相手との通話による情報交換
・マクロ: 交換機によって繋がった通話(線)の集まり
・メタ・ネットワーク: 電話網をプラットフォームとした、メタな通話※とは何か?
・環境: ?電話をしている時の周囲の環境ってなんだろう?
・技術・社会的背景: 通信速度が1Mビット/秒となった時代に人々の生活はどうなるのだろうか?
メタな通話への問い:
・多次元性・多重所属: 個人が多重に所属する交友関係は電話帳だけで表現できているのか?
・フィードバック・ループ: メタ通話におけるフィードバック・ループとは?
・適応・動的特性:
- その時々に繋がる通話が動的に変化しているが、動的に変化する周囲の交友関係、興味は表現できているのか?
・可塑性と学習:
- 動的な繋がりを記憶して活用できていない。通話履歴を記憶して学習して応用できないか?
- 動的に変化する人の交友関係、興味を学習できるメタ通話とは?
・恒常性・保守性:
- 通話履歴のサービス利用に対する反発
- 通話している周囲の情報をフィードバックすることのわずらわしさ
※メタな通話: 電話網の上で実現されるより高次元の通話
●言葉で表現する:
○やりたいことをクレーム(短文)とネーム(呼称)で表現する
電話における通話では、既知の指定した相手とだけし話しをすることしかできない。現実世界では、知り合いが近くを通れば声をかけたり、子供と遊んでいる姿、仲の良い老夫婦などとの出会いがある。電話による通話はリアルではなく、不自然なコミュニケーションだということに気づく。近くにいる人と出会うことはできないか?それが次の発想の分岐点となる。
ネーム(呼称): AwarenessNet(アウェアネスネット: 気づきのあるネットワーク)
クレーム(短文): 通話している時に周囲いる人に気づくことができるネットワークサービス
周囲の人たちと出会う、気づきのあるネットワーク
⇒気づきのあるネットワーク・サービス:アイデアの整理
参考文献:
[1] 市川裕介(2000), "~ECサイトのパーソナライズ化とサービスレベルの向上でOne-to-Oneマーケティングを実現~ :純国産のパーソナライズエンジンAwarenessNet", ITmediaエンタープライズ, 2000年12月19日
[2] 高木浩則, 市川裕介, 木原洋一(2003), "書籍ECサイトにおけるレコメンデーションシステム", NTT技術ジャーナル, 2003.11, p30-33
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