正確な計算を行う機械(1):歯車で稼働する苦難のオートマタ

 ヒトの営みが複雑化するに伴い、高速に、正しく演算することの需要 -- 数学・物理学・天文学などの科学演算、収穫を予測し、正しい航路を導き、商業を営む必要 --が、計算装置を生み出した。


●歯車で稼働する苦難のオートマタ


 農業によって巨大化した王国を統治する必要が、初期の計算装置を創らせる。納税を計算し、それを予測するための河川の測量、天体観測、また巨大建造物を建築するために小石や算木を並べ、計算結果を数表として使い、さらに算盤「アバカス(ソロバン)」が使われる。以降、長きにわたり計算器具と数表による演算の時代が続く。


 17世紀、大航海と重商主義のただ中で、デカルト、ニュートン、ライプニッツなどの哲学・数学者が互いに影響しあい、確実で不可分のアトムの数理による基盤となる論理を開拓していたころ。銀行や株式会社が発足するなど大量・複雑化する銀行、貿易、税の計算、そして航海のための精度の高い演算の需要に技術が追いつかず、歯車を使った機械式の計算器の開発は困難を極める。パスカルの加算マシン1642年)は減算が行えず製品販売に失敗し、記号による数理推論法を展開するライプニッツの段差式計算器1673年)は加減乗除ができたがコストが高く、19世紀にはいってようやく改良型の量産販売に成功する。


 19世紀、紡績機、蒸気機関などの革新技術と大量生産のいきおいに乗り鉄道を開通した産業革命の中心地イギリスで、バベッジは数表における計算と印刷の人為的なミスを正す計算エンジンの開発に取り組む。ディファレンス・エンジンは、モランドの桁上がり機構(1660年)やジャカールのパンチカード式紋織機(1833年)などをバックボーンに、パンチカードを入力とし、足し算だけの階差演算を使って多項式を解き、記憶装置にストアし、数表の印刷原板を出力するという画期的なマシンだったが、開発費が蒸気船17隻分の17000ポンド、開発期間が10年余りにおよび、経験のない巨大なシステム開発の渦に巻き込まれ未完となった。後に、バベッジの生誕200年のイベントとしてロンドンの科学博物館が、当時の技術で稼働するマシンを完成することとなる(1991年)。さらに、蒸気機関を動力として「プログラムに従って自動的に計算する機械」であるアナリティカル・エンジンを考案・設計したがこれも未完で終わっている。バベッジのスチームコンピュータが完成していればと考えるファンも多く[3]、「コンピュータの父」と呼ばれることもある。


 ライプニッツの段差式計算器をもとに改良が重ねられた手回しの機械式計算機は、電卓が普及するまでの長期間にわたり世界中で利用されることとなる。


参考書籍:

[1] スコット・マッカートニー(2001), "エニアック :世界最初のコンピュータ開発秘話", 日暮雅通訳, パーソナルメディア

[2] 新戸雅章(1996), "バベッジのコンピュータ", 筑摩書房

[3] ウィリアム・ギブスン, ブルース・スターリング (1991), "ディファレンス・エンジン", 黒丸尚訳, 早川書房



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年表(前1500年~2020年)

執筆記事の位置を横通しで確認できるように
西暦(世紀)と社会情勢、書籍、技術・分化・科学イベントを一覧しました。
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インデックスから確認できるようにします。
年表(前1500年~2020年)

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研究は「文字」を書くことによってのみ成立する(3)活版印刷と近代的思考法の確立

 言葉は発せられてしまえば後になにも残らず、書きとめることができなければ、その内容について研究することはできない、活版印刷の発明が「書」をつくり近代的な思考法を確立してゆく。


活版印刷の発明と論理的な思考法


 1445年、イギリスでの活版印刷の発明が、「書く言葉」の影響を爆走させる。「印刷された言葉」は「手書きされた言葉」より読みやすく、一つの「印刷書籍」が多くの読者に読まれるようになる。16世紀イギリス人男性の25%程度だった識字率が、18世紀に60%、そして19世紀後半には90%に達する[3]


 デカルトの方法論序説1637年)を境に、近代的な論文的で要素還元的な思考方法が「書」に乗って広がる。「書」の様式はプラットフォームとして刻まれ、論理と科学の文法、思考言語の様式として定式化する。①中立で均質、客観的で論理的な視点②分断、分化、専門化、断片化③単一化、均質化、画一化を促し、断片を連続的につなぎ合わせ、単一平面上の線形事象としてコード化し、「原因」と「結果」の連鎖と単線的な階層的秩序[4]をつくり、断片を論理により編集して全体を構成する。科学者や研究者だけでなく、多くの企業人たちの常識を書き換える。


●「印刷書籍」の商業化が近代化を進める


 商品として販売する「印刷書籍」は、「書」のあり方も変える。「印刷書籍」の書き手は、完成した商品として出版するまでに何度も推考を繰り返し、さらに編集者が、校正者が、何人もの人々が一つの製品にかかわり、修正を加えて出版される。「独自性」「創造性」が問われるようになり、「正確さ」や「正当性」が求められる。


 「印刷書籍」はさらに近代化をおしすすめる。産業革命の300年前に組み立てラインによる大量生産製品として広がり、識字と均質な教育を普及し、数量的正確さの追求、商業社会の規格製品化、市場や価格システムをつくり、機械化、大量生産へと導いてゆく。

参考書籍:
[1] M.マクルーハン(1986), "グーテンベルクの銀河系 :哲学人間の形成", 森常治訳, みすず書房
    - Marshall McLuhan(1962), "The Gutenberg Galaxy: The Making of Typographic Man", University of Toronto Press
[2]  M.マクルーハン(1987), "メディア論 :人間の拡張の諸相", 栗原裕, 河本仲聖訳, みすず書房
    - Marshall McLuhan(1964), "Understanding Media :The Extension of Man", McGraw-Hill Book Company
[3] グレゴリー・クラーク(2009), "10万年の世界経済史", 久保恵美子訳, 日経BP社
    - Gregory Clark(2007), "A Farewell to ALMS", Princeton University Press
[4]  ジェイ・デイヴィッド・ポルター(1996), "ライティング スペース :電子テキスト時代のエクリチュール ", 黒崎正男, 下野正俊, 井古田理訳, 産業図書
    - Jay Favid Bolter(), "Writing Spase - The Computer, Hypertext, and the History of Writing - ", Lawrence Erlbaum Associates, Inc.

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「書く言葉」で得たこと、失ったこと

 ヒトは「書く言葉」を発明したことにより、要素に分解して再構築する論理的な思考法=科学的な思考法を手に入れた。


●「声の言葉」の語り手と聞き手の思考


 「声の言葉」を操る語り手は、過去の常套句や慣用句、ことわざ、語りを用いるためにあらゆる知識を記憶する。さらに聴衆を惹きつけるアーティストとしての感性をもって、劇的な手法(抑揚・身振り・表情・言い回し)を効果的なタイミングで使い分ける技能を訓練し語りかける。


 「声の言葉」の聞き手は、周囲の環境、聴衆の雰囲気、劇的な音響や視覚的刺激を「視聴覚」からの「イメージ」、情動的な感情として受け取り、それに乗った「声の言葉」の「認識(意識)」と過去の演説の「経験」の「想起(意識)」のすべての相互作用を統合してひとつの全体として「暗唱」し、新たな「経験」として「記憶」する


●「書く言葉」の書き手と読み手の思考


 新しい「道具」が利用される時、五感と脳内の相互作用に乱れが生じる、これを補うためにホメオスタシス(恒常性)が働き、脳内のバランスを整える新たな相互作用のパターンを編み出す


 「書く言葉」の書き手は、周囲の環境、聴衆の雰囲気、劇的な効果のすべてを「言葉」として表現する必要があり、聴衆のいな沈黙の環境で「書」との孤独な対話を行う。自己の内なる「語る言葉」を、「論理的」な「思考(意識)」で等質な単位に分解し、その分解した部分を「編集」して全体として「書」に配置する。「書」に配置した「書く言葉」を客観的な読み手として読み返し「認識(意識)」し、「論理的」な「思考(意識)」により矛盾がないか、重複した記述がないかを吟味し、「再編集」して配置する。


 「書く言葉」の読み手は、語り手のいない沈黙の環境で、何ら音響装置もないままに「書」との孤独な対話を行う。「書」を黙読し静寂を聞き、「書」の「文字」のみを見て直接「認識(意識)」した後に、「論理的」な「思考(意識)」により意味を翻訳・理解するとともに、必要に応じて「感情」や「イメージ」に翻訳する。これらの理解、感情、イメージの相互作用を統合してひとつの全体として「認識(意識)」し、新たな「経験」として「記憶」する。視覚に翻訳された「経験」は、等質的な単位に分解し「再構成」でき、それらを編集して合理的に理解することができる。「書く言葉」に「暗唱」としての「記憶」をアウトソースすることにより、感情の一体化、記憶のための心的エネルギー消費を抑えることができる。


 「書く言葉」は、論理的で記述的な思考方法を我々の「脳」にきざむとともに、それと気づかないうちに、「声の言葉」の劇的な表現とともに、暗唱的な「記憶」能力美意識による「直感」、論理的に記述しがたいアーティストとしてのバランス感覚をも抑圧してゆく。


参考書籍:

[1] エリック・A・ハヴロク(1997), "プラトン序説", 村岡晋一訳, 新書館

    - Eric A.Havelock(1963), "PREFACE TO PLATO", Harard University Press

[2] M.マクルーハン(1986), "グーテンベルクの銀河系 :哲学人間の形成", 森常治訳, みすず書房

    - Marshall McLuhan(1962), "The Gutenberg Galaxy: The Making of Typographic Man", University of Toronto Press

[3] アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社

  - Antonio Damasio(2018), "The Strange Order of Things: Life, Feeling, and the Making of Cultures", Pantheon


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研究は「文字」を書くことによってのみ成立する(1)「声の言葉」と「書く言葉」、哲学と数学の誕生

 「書く言葉」と「書」の登場は、劇の手法で言葉をあやつる「声の言葉」の記憶・思考法に大きな影響を与え論理的な思考法を徐々に生み出していくが、過渡期のそれは特殊な専門家があやつる異質なものでしかなかった。


●声の言葉と劇的表現


 「文字」が発明された後も「書記」たちは統治のための「言葉」を綴り、エリートに属さない民衆とそれに語りかけるものたちは「声の言葉」を使っていた。「声の言葉」は、聴衆を対象とし、周囲の環境に影響を受け、発するとすぐに消えてしまい、保存することができない。このため、「声の言葉」を記憶に残し、語りついでいくための工夫がこらされる。話し手と聞き手をつなぎとめておくために劇の手法を用い、韻律形式で、リズミカルに、表情と声の抑揚と身振りを使い、常套句と慣用句により理解を容易にし、冗長で多弁な言い回し、クライマックスに向かってすすむひとすじの長いプロットにより人々の記憶にきざみ経験を共有する。

 

●アルファベットと哲学・数学の誕生

  

 紀元前8世紀頃、ギリシアにおける母音を持つ表音文字=アルファベットの発明が、「書く言葉」の大きな分岐点となる24文字しか使わない母音を持つアルファベットは、それまで利用されていた表意文字や子音だけの表音文字に比べて「声の言葉」との対応をとりやすく、急速に識字の裾野を広げる。当初、アルファベットは、「声の言葉」を書き写し、記録して、再演するために使われる。やがて、「声の言葉」をより効果的に演出するために、「書かれた言葉」を加筆、修正するようになる。そして、語り手なしで、「書く言葉」だけで読むための「書」が密かに生まれ、浸透してゆく

 

 「書く言葉」の「書」のなかで語り手と聞き手は、外部の環境や、相手、集団から切り離されて孤立する。「書く言葉」で語りかけるために、外部の環境、抑揚・身振り・表情に代わる語彙・文法が、さらに理性的・批判的に訂正を繰り返し、その題材を項目に分け、反復を控え、曖昧な統一性のない記述を切り詰め、単一の表現に還元する論述的な記述手法が徐々に編み出される。

 

 紀元前64世紀の古代ギリシアはなお、「声の言葉」から「書く言葉」への移行の過渡期であり、民衆を魅了する社会操作術としての弁論術、そのための筆記が政治や教育の場で活躍していたが、それと相対して理性・論理を追求するピタゴラス(紀元前582年~496年)やプラトン(紀元前427年~347年)などによる本格的な数学や哲学、その教育機関が誕生する。

 

 「書く言葉」と「書」は、論述的な記述の変化とそれに伴う思考構造の変化が相互に影響しあいながら、近代的な思考法を、新たな哲学・数学・科学を、新たな発見と創造を生み出してゆく

 


参考書籍:

[1] ウォルター・J・オング(1991), "声の文化と文字の文化", 桜井直文, 林仁正寛, 糟谷啓介訳, 藤原書店

[2] エリック・A・ハヴロク(1997), "プラトン序説", 村岡晋一訳, 新書館



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道具との共進化への道(5):ヒトと道具が紡ぐメタ進化

 ヒトは知識・ノウハウを創造・改良して「道具」に写し、身体機能をアウトソースする。「道具」は継承され、子供から大人に成長するにつれて「道具」を通じて「知識・ノウハウ」を習得し、より良く使える遺伝子を持ったものが優位となる。そして、ヒトと「道具」は共進化していく。


●ヒトと道具が紡ぐメタ進化[1]


「石器」は「牙」をアウトソースする。

 死体の皮を切り裂き、固い骨から滋養に富んだ骨髄を手に入れ、地中からは炭水化物の豊富な芋を掘り、木の実を砕き、滋養に富んだ栄養を確保する。「石器」の利用は、犬歯を縮小し、脳を拡大し、手先の器用なもの、多彩な活用方法を生み出したものを優位にした。


「衣類」は「体毛」をアウトソースする。

 長距離走で獲物を追い詰める際の発汗のため「縮小した体毛」を補い、寒暖の変化に「服を着替える」ことにより臨機応変に対応できる。「衣類」の利用は、巨大化した「脳」を冷却するためさらに体毛を縮小し、太陽光の強弱に皮膚の色素で対応するものを優位にした。


「火」は「消化器」をアウトソースする[2]

 繊維質で筋がある肉を柔らかくし、芋や実の加熱調理により食べる量を増やし、栄養を吸収しやすくする。有毒な植物の毒を消し、寄生虫や菌を退治し、肉食動物を遠ざけ、極寒の季節に暖を提供する魔法まで備えている。「火」の利用は、犬歯と顎の筋肉と消化器を縮小し、毒や菌に対する抵抗力を弱め、吸収した豊富な栄養を使って周囲の環境変化にうまく対処できるよう「脳」を進化させたものを優位にした。さらに、火を保持する場所で共同体がひとつにまとまって食事をし、社会性を強化し、「コミュニケーション」能力を高めたものを優位にした。


「言葉」は「知性と論理」をアウトソースする[3]

 内外情報や「感情」、「愛情」、「創造と美意識」「知性と論理」「記憶」を統合・翻訳・編集・フィードバックし、対処を判断し、フィードバックするための手段を提供する。「言葉」は、「知性と論理」の思考様式を提供し、世代を超えて記憶し、大人から子供へ受け継がれ、また「言葉」を利用するものによって「再構築」し、他者とのコミュニケーションにより「改良」する。「言葉」の利用は、本能による瞬時の行動に割り込み遅延をもたらすが、舌、顎、喉頭、気道の利用をチューニングし、「知性と論理」により適当な行動を選択する、「感情」、「愛情」、「創造と美意識」「記憶」そして「知性と論理」をも「知性と論理」により適当にコントロールする「脳」を進化させたものを優位にした


 やがて「道具」は20万年前ホモ・サピエンスという器をつくった。6万年前にアフリカから世界各地に広がったその時、「道具」と「脳」の連鎖の爆発により想像力と創造力を開花したを「ヒトと道具の共進化は、互いに影響を及ぼし合いながら、驚異的な適応速度を獲得し、現代、そして未来につながるメタ進化の道を紡いでゆく


フューチャー・リテラシー:インデックス

考えるって、どういうこと?

「コミュニケーション」とともに進化する「言葉」


参考書籍:

[1] ジャレド・ダイアモンド(2015), "若い読者のための第三のチンパンジー :人間という動物の進化と未来", 秋山勝訳, 草思社

[2] リチャード・ランガム(2010), "火の賜物 :ヒトは料理で進化した", 依田卓巳訳, NTT出版株式会社

[3] アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社


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社会と思考を激変させた「文字」(2)

 文字」は、統治者が再分配する作物を管理するための記号として創られ、やがて「声の言葉」をアウトソースする「道具」となり、自身を含むヒトとヒトの距離と時間を越えてつなぎ伝達する「広域情報ネットワーク・プラットフォーム」に転じてゆく


●広域情報ネットワーク・プラットフォーム「文字」が生み出したもの


 古代エジプトにおいて「文字」は王国運営の「道具」であると同時に、その上で様々なアプリケーションを動作させる広域ネットワーク・プラットフォームとして機能する[1]

 

【新たな職業】

 王国の運営にかかわる神官、中央/地方の役人、宮殿や神殿の建築家、医者は、「文字」によってのみ成立する職業だ。この他、王宮や神殿の壁面にヒエログリフ(神聖文字)を刻むためのデザイナー、彫刻家、画家が専門職として新たに生みだしていく。


【教育機関と教科の拡大】

 「文書」を媒介とする統治機構が整えられると、その維持のために「文字の読み書き」に熟達した多数の「書記」が必要となる。「書記」の能力向上は、王国の統治能力を向上する。「文字の読み書き」を訓練し、書記や神官や行政にかかわる役人たちを養成し、「書記」としての肩書きを確かなものとする機関として神殿内に「学校」が整備される。「学校」はやがて「文字」だけでなく、エリートとしての姿勢、作法、王宮や神殿の建築や測量にかかわる計算、管理・監督法にいたるさまざまな教育を行う機関となっていく。

 

【エリート階級の区画化】

 難解な「文字」の読み書きを学ぶためには、裕福な家庭に生まれ「学校」に通う必要がある。結果、「書記」という肩書きをもって仕事つくことができるのは1%のエリートに限られ、生産に従事する国民との間に極端な貧富の差を生んでいくという連鎖が始まる。また、エリートのなかでも、より優秀なものがより高い地位を獲得する序列が生まれ、遺産の継承によりさらに越えられない壁をつくる。神の言葉であるヒエログリフ(神聖文字)はさらに難解であり、それを扱える王や神官を神と等しい地位に高める。

 

【技術開発:算術、医術の誕生】

 川の氾濫規模・時期の予測、建築や測量、税の帳簿管理などの計算法、医術が発明され、「文字」によりそのレシピを継承し、学び、新たな技術を生み出すというサイクルが構築される。

 

【道具の発明】

 技術の発展は、「文字」をプラットフォームとするアプリケーション(道具)の発明を促す。

「暦」[2]

 1年を365日とする「太陽暦」は、シリウスとナイル川の氾濫の関係の観測から生まれる。シリウスがひときわ輝く周期が365日であり、ナイル川の氾濫を予測し、税の計画をたて、また神託を下すための「時」の基準を定式化。

・十進法

 帳簿の作成や記録。税の徴収や分配、その帳簿の作成や記録、川の測量や予測などの算術を筆算で行うため数字の扱いを定式化。

 

 部族が集まり小規模な王国となり徐々に拡大するにつれて、「職業」⇒「教育」⇒「エリート化」⇒「技術開発」⇒「道具の発明」というサイクルを回しながら、「文字」のネットワーク・プラットフォームを拡大し、王国を巨大化し、その運営を複雑化してゆくこととなる。


参考文献:

[1] ペネロペ・ウィルソン(2004), "聖なる文字ヒエログリフ", 森夏樹訳, 青土社

[2] 宮崎正勝(2002), "モノの世界史 --刻み込まれた人類の歩み", 原書房


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社会と思考を激変させた「文字」(1)

 農耕の始まりが作物の管理と防衛のための都市と支配者をつくり、支配者が作物を再配分するための伝達・記録の必要から「記号」としての「文字」を編み出した。


●伝達と記憶のアウトソースする「文字」


 狩猟採集民の社会では、「文字」は発達しなかった。小規模な部族を越える交流が少なく、採った食料は部族内で分配するという生活では、記録に残す必要性がなかったからだ。


 肥沃な三日月地帯、メキシコ、中国といった大河の周辺で定住して農耕を営むものたちの集落が巨大化し部族となり、首長が調停者となり作物を集め再配分するための「記号」として粘土製のトークンを利用し、やがて品物の絵を刻むだけとなり最初の「絵文字」が生まれた。紀元前4000年のメソポタミアではシュメールの「絵文字」が、ついで紀元前3000年には「楔形文字」が粘土板に筆記され、紀元前3300年のエジプトでは神との対話のためのヒエログリフ(神聖文字)が神殿の壁面に、王国運営のためのヒエラティック(神官文字)がパピルスに筆記された。


 食料の蓄積と略奪と防衛の歴史をへて部族が統合し軍隊をもつ王国へと巨大化していく過程において、「文字」を媒介とする統治機構が整えられ共進化を繰り返しながら、王国運営のためのコミュニケーション手段としての形を整える。「文字」は、交換、統治、管理といった抽象的な概念を表現する「情報」の「伝搬」と「保存」の必要から編み出され、「語彙」と「文法」を複雑化してゆく。


 【文字の機能】

  1)時を越えて伝達する

  2)距離を超えて伝達する

  3)「保存」して再利用する

 

 【文字の機能】の有用性・応用性から幅広い用途に伝搬し、王国運営に欠かすことのできない「道具」として浸透する。始めは、王の命令を伝え、儀式を行い、神の言葉を唱え、税収支の年度計画を行うために、そして建築、軍隊、行政官の管理・監督・運営・計算、さらには調査記録、レシート、遺言書、薬のレシピ、教科書、宗教文学、手紙など様々な用途に広がってゆく。


参考文献:

[1] - ジャレド・ダイアモンド(2000), "銃・病原菌・鉄",倉骨彰訳 , 草思社

    - Jared Diamond(1997), "GUNS, GERMS, AND STEEL: The Fates of Human Societies", W.W.Norton & Company.

[2] ペネロペ・ウィルソン(2004), "聖なる文字ヒエログリフ", 森夏樹訳, 青土社


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閑話休題:「メディアとヒトの誕生」つらつらと考える

 複雑系な話しをそのまま記述できて、そのまま理解してもらえればいいのだが、そうもいかない。n次元空間を2次元に投影する「ゲルニカ」さながらの日々。過去から現在に向けて直線で書いていると、方向性を見失うので、軸になる空間に碁の石を置くように書き進めている。

 で、調査もしないで放置していた「コンピュータの誕生からアランケイ」あたりを書いてみようと思い立ち、となるとメディア論あたりも整理しなきゃいけなくて、だとすると「活版印刷」と「西洋思想」あたりか、いやいや「言葉」ってそもそも、だとすると「ヒトが言葉を使うようになった経緯が」とたどることになったのが、今回の「ヒトの誕生」から「道具としての言葉」についてだった。「言葉」について語り出すと関係してくる「コミュニケーション」や「神経誕生から脳への進化」については別ルートで書くことにした。「脳」についてだって、「心の社会」や「思考のための道具」を読み返しておかないとコンピュータは語れないよなーと思いつつ。。。。。

 ヒトの誕生を探っていくと、「オルドヴァイ渓谷」という東アフリカの一箇所にヒトの祖先となるものたちが閉じ込められ、常にそこから類人猿たちが変異し旅立っていることに気づく。しかもそこは放射能にさらされ突然変異が起きやすい環境だった。これからも、いろいろなところに飛び火をしながら同じ韻をふみながらまとめることになるのだが、ここでも集中的に集められた実験場で、膨大な数の試行錯誤を繰り返して新たな複雑系を構築している。じゃあなぜ「オルドヴァイ渓谷」に閉じ込められるなんてはめになったのか?と当時の状況を調べてみると、地下マントルの上昇でアルプス山脈やらオルドヴァイ渓谷やら地質学的な異変が連続的に発生している時期だったこと、オルドヴァイ渓谷の火山爆発はリンなどの植物にとって豊富な栄養だったことなどが見えてくる。そこに我々の祖先は引き寄せられて、閉じ込められちゃったわけだ。地図を掲載しておいたけども周りを谷と火山に完全に囲まれてしまっている。つまり、ここから出てアフリカや中東、ヨーロッパに旅立って生き残るためには、相当に冒険精神とサバイバル能力にたけた進化をとげたものだけに限られるという強力な制約がかけられていたことになる。さて、この後、「ヒトは道具と共進化した」という仮説を検証しつつ、話しを進めることになる。チンパンジーだって道具を使う、じゃあヒトは何が違ったの?、加速度的な進化の原因は?と。仮説をたてて、書籍や論文を探して、仮説をたてなおしてという。未来を読み解くのと、過去を読み解くのはよく似ている。何かが発生するには、それにいたる原因、外部環境の変化や相互作用がある。幹となる仮説をもとに、周辺の仮説をたて、その時期の外部環境を調べ、書籍やネットに意見を求め、仮説を修正してたてなおして、ということを何度も繰り返す。

 よく、未来を読み解くのに、なぜこんな過去を掘り返すのかと意見をもらうのだが、過去の連鎖で続く未来を語るのに、過去を読み解いておかないと何も語れないというのが本書の主題。現在、ごくごくわずかな読者も離れてしまいそうな遠大な話に、今後ともおつきあいいただければ幸いです。

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「言葉」が変わると考え方も変わるということ(3)

 ヒトは生まれた後に何年もかけて「言葉」を覚え「意識」し、自身に問いかけ、そして他者とのかかわりの中でしだいに「語彙」と「文法」を増やし、社会生活の中で「言葉」と「意識」を作り変えてゆく。


●「言葉」使いとともに成長するヒトの「意識」


 ヒトは、誕生から3年、10年、20年以上かけて、「言葉」の扱い方を学習・習熟する。最初は親に自分の欲求を伝えるために、しだいに他者と協調生活をするために「言葉」使いを覚える。「言葉」の扱い方が変わるということは、脳内での意識(認識・想起・思考)の扱い方も変わるということだ。子供のころの高い感受性と好奇心は、「言葉」の習熟とともに論理と慎重さに置き換えられていく。「言葉」は、後天的に直接「脳」の働き方を変える特別な「道具」なのだ。


 「言語」「意識」して認識・想起・思考するための体内の仕組みであるにもかかわらず、ヒトが人口的に創り、改造し、世代を超えて伝えることができる「道具」でもある。「言葉」が変わると、脳内の均衡を保つためにヒトの「意識」の仕方も変わる


●「言葉」と「意識」の相互作用


 「石器」を創るためには「ヒラメキ」を「意識」する必要があり、その「ヒラメキ」を具体的な「段取り」に落とし込んで形にする「論理的な思考」が必要となる。大人が「道具」を作っているのを子が真似る際にも失敗しては学ぶ「論理的な思考」が必要だ。狩りにおいても、最初は家族、親類などの小集団だったものが、しだいに大集団で連携して獲物を追い立てるようになる。それぞれの必要に応じて「言葉」の「語彙」と「文法」が変化し、変化した「言葉」を使うヒトの「意識」の仕方も変わってゆく「言葉」は、「意識」というソフトウェアをのせて表現するための「プラットフォーム」なのだ。


 6万年前に発生した「言葉」の進化とともに、最初はゆっくりと、そして「言葉」と「意識」「社会生活」の相互作用により、加速度的にヒトの「意識」を、「道具」を、「社会」を変化させてゆくこととなる。

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「言葉」が変わると考え方も変わるということ(2)

 ヒトは、脳内の「イメージ」「感情」「意識」「経験」を「声の言葉」に乗せて相手とコミュニケーションをとりながら、「分業」とそれをつなぐ「言葉」を共進化させてゆく。


●「言葉」を相手に伝えるということ


 「言葉」は「思考」の「道具」であるとともに、他者・集団との「コミュニケーション」の「道具」でもある。


 「言葉」は、「音声」に翻訳することにより脳内にある「イメージ」「感情」「意識」「経験」外在化し、ヒトからヒトに伝えることができる。最初の「声の言葉」は「感情」の認識(意識)を外在化し、危険を知らせ、所有を主張し、愛情を伝えるものであった。「声の言葉」を発し、自分の発した「声の言葉」を聞き、相手の「声の言葉」を聞く。「脳内の言葉」と「音声の言葉」を関係づけるフィードバックループが外界と脳内との間で共鳴し、脳内の「意識」を再構築し続ける。


 話者は脳内の「イメージ」「感情」「意識」を「言葉」に翻訳し、「音声」に変換して発声する。聞き手は「音声」を受け取り、「言葉」に翻訳して、自分の脳内に話者の「イメージ」「感情」「意識」の近似品を再構築する。例えば、話者の頭の中に「棚の上のリンゴ」「相手」「自分のところに持ってくる」という「イメージ」があり、“棚の上のリンゴをとってくれ”という「言葉」に翻訳し、それを「音声」にのせて相手に伝える。それを聞いた聞き手は、「音声」から「言葉」に、「言葉」から自分の脳内の「イメージ」に翻訳する。そして、「棚」「リンゴ」を眼で認識し、「相手に渡す」ことを「イメージ」し、次に手を伸ばして「リンゴ」をとる動作に「意識」をうつす。


●「言葉」と「分業」の共進化


 一人で考えているだけならば「言葉」使いが曖昧でも問題ないが、相手に自分の考えていることを正確に伝えるためには困難な作業をともなう。「言葉」で表現できることの限界が、共同作業=分業の限界となる。「言葉」を覚えたばかりのヒトにとっては、「いっしょに狩りに行こう」と誘うだけでも難しい。身体的な能力や技能は個体の生死により進化するが、「言葉」は集団で世代を超えて伝えられ、人為的に改良され続ける。最初は家族内で、そして集団で狩りをする際の連携のため、そして火を囲み仲間と語らうため、徐々に複雑な内容を相手に伝えられるよう、話者は今使える「言葉」を組み合わせてなんとか伝えようと努力し、聞き手はその意図を理解するよう推論する。その繰り返しが、「言葉」と「分業」の進化を促す。


 ヒトは、「分業」を円滑に行うために「言葉」の「語彙」を増やし、新たな「文法」を構築し、「言葉」の進化がより多人数での細分化された高度な「分業」を促し、さらなる「言葉」の進化を進めるというサイクルを回す。そして、近代の複雑な役割と階層構造をもった「言葉」とともに、より高度に専門分化した「分業」が国家の文明・文化の発展を進めてゆく。


参考書籍:

[1]ガイ・ドイッチャー(2012), "言語が違えば、世界も違って見えるわけ", 椋田直子訳, インターシフト

[2]マイケル・トマセロ(2013), "コミュニケーションの起源を探る", 松井智子, 岩田彩志訳, 勁草書房


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考えるって、どういうこと?

 ヒトは、外界や体内からの入力、「言葉」と「イメージ」の「記憶」をもとに、「感情」で即応し、「言葉=論理」で判断して行動する。


●情報統合のための「イメージ」


 「五感(外界)」「内臓」「骨・筋肉」で受けた刺激は情報として「脳」に運ばれ、大脳皮質で統合・抽象化し「イメージ」として脳内で再構成される。同時に発生する「イメージ」には、「感情」「意識」や「記憶」している「経験」から再構成されるもの、「イメージ」の相互作用により新たに構成される「イメージ」もある。「経験」は「イメージ」そのものや、それにともなって発生した「感情」「意識・非意識」「対処」などの組み合わせの「記憶」であり、必要に応じて「想起」される。


●即応装置としての「感情」


 「感情」は、「非言語」による「暗黙の意識(非意識)」であり、社会的なコミュニケーション手段であるとともに、同時に発生する複数の「イメージ」とその「相互作用」を評価し即時の対処をうながす即応装置だ。例えば、「傷」が発生すると、まず免疫系・内分泌系が反応し、次に「痛み」から形成された「イメージ」を評価し、非意識の「想起」から「恐れ」「嫌悪」などの「感情」を誘発し、傷口を押さえるなどでの止血の動作を即時に実行する。


 それと並行して逐次翻訳した「言葉」を使って「意識」して状況分的と対処にあたる。「感情」の危険信号を「言葉」として翻訳し、「これはカッターで切った怪我」であること「傷は浅い」ことを「認識(意識)」し、過去の「経験」を「想起(意識)」し、「論理的な思考(意識)」により「水でよく洗って、絆創膏をきつくはる」という行動を選択、実行する。


 「意識」は「非意識」と連結して「イメージ」を形成し、「記憶」し、必要応じて「想起(非意識)」して「感情」の誘発や、「論理的」な「思考(意識)」をサポートする

 これらの一連の反応は「ホメオスタシス(恒常性)」:一定の状態を保とうとする働きであり、「傷」によってくずれたバランスをもどし均衡を保とうとする一連の反応だ。


●「言葉」による「論理的判断」


 「言葉」は、「イメージ」や「感情」や「経験の想起」などの相互作用を「認識(意識)」するための翻訳手段であり、「論理的」に思考(意識)するための道具だ。「イメージ」や「感情」を契機とする即時反応に比べて、翻訳や論理的思考の処理に時間がかかるが、より適切な反応を選択・実行することができる。


●「知識」と「暗黙知」の記憶


 「言葉」に翻訳された「経験」は「知識」として「記憶」され、「言葉」に翻訳されない「イメージ」は「暗黙知」として「記憶」され、必要に応じて「想起」し脳内の思考の連鎖に組み込んで活用する。


 そして、私たちは、「感情」と「思考」「暗黙知」と「知識」「非意識」と「意識」、「イメージ」と「言葉」のネットワークの連鎖のなかで考える。


フューチャー・リテラシー :インデックス


参考書籍:

[1] アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社

  - Antonio Damasio(2018), "The Strange Order of Things: Life, Feeling, and the Making of Cultures", Pantheon



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道具との共進化への道(4):「脳」と「道具」の共進化

 生命は環境変化に対処し、世代を超えて記憶する手段として「遺伝子」「進化」の仕組みを構築した。そして、ヒトは環境変化に対処し、世代を超えて記憶する手段として「道具」「道具とヒトの共進化」の仕組みを構築した。


●「脳」と「道具」の共進化


 「好奇心」が新たな環境への進出を促し、変化する環境に「道具」を使って適応する。「道具」環境変化に適応する手段としてだけでなく、世代を超えて受け継ぐ記憶手段でもある。「道具」の利用方法は、「道具」を介して大人から子供に受け継がれ、また「道具」を利用するものによって「再構築」「改良」される。


 「道具」はヒトの能力を拡張するとともに、エネルギーを効率的に利用するために「身体」の進化を促す。特に、「道具」をより良く活用し、新しい「道具」を生み出す「脳」の仕組みを獲得したものが、新しい地域で豊富な栄養を獲得して生存する。「脳」は生存のために有益な、内外情報の統合・翻訳・編集・フィードバックのための「感情」、「知性と論理」、「愛情」、「創造と美意識」「記憶」を徐々に獲得し、「道具」を使って得たエネルギーがそれを支える。


 「脳」が獲得した能力は、新たな「好奇心」を生み行動領域を拡大し、新たな「道具」を生み出す。「愛情」・「感情」がそれを欲し、「創造と美意識」がそれを発想し、「知性と論理」がそれを構築し、それの利用方法を「記憶」する。「道具」と「脳」の共進化がやがて家族への愛情を深め集団での狩りを効率化し、ついには宗教や音楽や会話によって団結力することとなる。

 

参考書籍:

[1] アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社



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道具との共進化への道(3):残念な進化と脳の発達

 生物において生き残る確率を高めた能力がプラットフォームに組み込まれ、その上に様々な能力をつみあげ、時に辻褄合わせを繰り返しながら生き残ったものが今にいたる。


●「直立二足歩行」の辻褄合わせと「脳」の進化


 ヒトの「直立二足歩行」は、サバンナ化する環境で家族を養うために優位だが、その選択が様々な課題をうみだした。その典型的な例が、他の哺乳類にはみられない「難産」だ。「直立二足歩行」のために、産道がS字に曲がり、内臓を支え歩くために発達した筋肉が出産のじゃまをし、死の危険をおかす難産となる。脳容量の増加にともなって、胎児の頭が大きくなり難産に拍車をかける。難産を乗り越えるために、頭も体も未熟なうちに出産するようになり誕生後に脳を大きくする、親がいつまでも子供の面倒をみることで家族の絆がさらに強まり、長い期間をかけて学習できるようになる。


 両手で食料を運べるようになったことは、家族を養うために優位に働く。そして、見知らぬ食べ物を開拓する「好奇心」が優位となり、チームで協力して獲物を追い詰めるなどサバンナでの狩猟採集のテクニックを高め、さらに「直立二足歩行」を鍛えることが優位となる。二足歩行とヒトのチーム連携が「サバンナでの長距離走」に役立つ遺伝子、「脱毛」、「脳の冷却」、さらに「水筒」の発明が「発汗で冷却」するものを優位にする。


肉食などにより豊富な栄養を取得できるようになり、内臓に脂肪を蓄積し、大量にエネルギーを消費する「脳」を成長させる戦略を支える。一方で、「二足歩行」で走ること、「脳」の発達を優先したことにより、サバンナにおいて脆弱すぎる個体となり、集団での狩りが必須となる。高度なコミュニケーションを発達させる必要にせまられ、さらに「脳」「二足歩行」を発達させることになる。


 さらに、「二足歩行」は、性器を隠してしまった。性器が隠れてしまうと、発情期を検出しにくくなり、結果的に発情期を喪失する。発情期がわからない状態で、パートナーを探さなければならなくなり、双方の「コミュニケーション」によって交尾の意思表示ができたものが生き残る。こうした、「二足歩行」「栄養確保」「コミュニケーション」「脳」の共進化サイクルがぐるぐると回った結果「脳」が巨大化していくこととなる。


 「脳容量」は、440万年前のラミダスが300ccでチンパンジーの400ccよりも少ない。さらに250万年かけて2に(ハビリス)、次の100万年で3に(エレクトス)、それからわずか80万年後の20万年前に現代人=ホモ・サピエンスが5の(サピエンス)脳を獲得する。長い辻褄合わせの旅をへて、脆弱な体を補う特殊な「脳」を獲得したのがヒトという動物なのだ。


脳の容量

          「脳容量」の変化



「フューチャー・リテラシー インデックス」

参考書籍:

[1] NHKスペシャル「人類誕生」制作班(2018), "NHK スペシャル 人類誕生", 馬場悠男監修, 学研プラス

[2] NHKスペシャル「人類誕生」制作班(2018), "大逆転! 奇跡の人類史", 馬場悠男, 海部陽介監修, NHK出版

[3] 更科功(2019), "残酷な進化論 :なぜ私たちは「不完全」なのか", NHK出版

[4]デズモンド・モリス(1999), "裸のサル :動物学的人間像", 日高敏隆訳, 角川文庫



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道具との共進化への道(2):弱点だらけの草原進出

●家族、二足歩行、チャレンジ精神、コミュニティの共進化


 ゆっくりと乾燥に向かう熱帯雨林において果物や木の実などが減り、森で食物を獲得することが難しくなり、森林での食物獲得競争が激化する。長期の乾期を生きるものたちにとっては、なおさら果物の獲得が困難になってゆく。


 440万年前、果物の獲得量が減少する時代での生存戦略として、一人の妻と少人数の家族を養って子孫を残すという選択をしたラミダスは、特定の妻と子を守り確実に自身の子を残すという戦略のもと、強靱な体や犬歯をもったものよりも食物の採集能力をもったものがより多くの子孫を残すこととなる。


 やがて、住処からはなれた木々から、そして地面を越えた先にある森林から果物を採取するため、両手でかかえて果物を持ち帰るものたちが現れる。両手で果物をかかえて持ち移動し、地面に置き、またかかえて移動する。その繰り返しの中で、二足歩行を活用してより多くの食料を運ぶことができるものたちの子孫が増え、直立二足歩行をより確実にしていった。そして、370万年前にはサバンナ化が進むが、季節によって茂る疎林や、川辺に残る森などが湿在する環境において、居住地から草原に進出し、豆や草の種、葉や茎のほか、地中の根や球根、昆虫、動物の腐肉など、さまざまな食べ物にチャレンジしてゆく。


 それにしても、食物の採集を優先し、強靱な体を捨て、足の遅い直立二足歩行を選択し、草原に進出をめざすとはずいぶん無謀な選択をしたもので、早々に絶滅してしまっても不思議はなかった。草原に出ることで肉食獣に襲われる危険が増え、二足歩行で目立つにもかかわらず、足が遅く戦うこともできない。ヒトの草原への進出は、複数の家族が集まって数十人の集団で行動するというコミュニティとコミュニケーションとの共進化とともに100万年以上の長いときをかけて徐々に進められていったのだった


「フューチャー・リテラシー インデックス」


参考書籍:

[1] NHKスペシャル「人類誕生」制作班(2018), "NHK スペシャル 人類誕生", 馬場悠男監修, 学研プラス

[2] NHKスペシャル「人類誕生」制作班(2018), "大逆転! 奇跡の人類史", 馬場悠男, 海部陽介監修, NHK出版

[3] 松沢哲郎(2018), "分かち合う心の進化", 岩波書店



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道具との共進化への道(1):人類の源泉

●人類進化の源泉、オルドヴァイ渓谷[1][2]


 今も続く進化のホットスポットの一つ「アフリカ/グレート・リフト・バレー[3]、多くの哺乳類の進化を促し、そして類人猿からヒトへの分岐は西リフト・バレーと東リフト・バレーに囲まれたヴィクトリア湖の東、オルドヴァイ渓谷に始まった。


 1000500万年前、地下マントルの上昇によってアフリカ大陸を引き裂くように、南北7000kmにもおよぶグレート・リフト・バレーの巨大な谷を形成し、谷の両側にいくつもの高い火山が生まれ、そのいくつかからは放射性元素を含むマグマが間欠的に噴出していた。ヒトの祖先たちは、溶岩由来の栄養に富む土壌で繁殖する熱帯雨林に惹かれてオルドヴァイ渓谷に集まり、気づくと周囲を谷と火山に囲まれ、谷を越え他の地域に広がっていったのは冒険精神とサバイバル能力にたけた一部のものたちだけだった。グレート・リフト・バレーは、ヒトの越えるべき壁として立ちはだかったのだ。そして、ほとんどは渓谷周辺にとどまり、地形の変化による湿潤な気候の時代と半砂漠化した時代の繰り返し、火山の爆発の脅威にさらされ、ゆっくりとサバンナ化する環境変化とともに生活様式と身体を適応させる。そして、オルドヴァイ渓谷周辺が人類進化の源泉となった。


ウィキペディア(Wikipedia)大地溝帯より(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%9C%B0%E6%BA%9D%E5%B8%AF)

                ウィキペディア(Wikipedia)大地溝帯より



参考書籍:

[1] 丸山茂徳(2018), "地球史を読み解く", 放送大学教育振興会

[2] 丸山茂樹(2020),"最新 地球と生命の誕生と進化:[全地球史アトラス]ガイドブック", 清水書院

[3] ティス・ゴールドシュミット(1999), "ダーウィンの箱庭 ヴィクトリア湖", 草思社


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ゲームという仮想世界(2)-- オンラインRPGという自由物語世界(1997年)

●とある冒険者の日々


 冒険者を夢見るエルフの少女がいた、名をClariceという。厳つい甲冑に身を固めた戦士たちが、鍛錬のために危険な地下のカタコンベに潜り戦っている中を、場違いな緑の布服と弓という軽装で死人(シビト)たちを狩っていた。なぜ重装をしないのかと問われると、汗臭くて重い甲冑が嫌いなのだという。

 いつものように狩りをしていると、呪文とともに突然ゲートが開き中から存在するはずのない上位死霊魔法使いリッチーが現れた。プレイヤー狩りをする盗賊たちの仕業だ。逃げ惑う戦士たち。喧噪の中突然黒い風がはしりぬけた。黒い甲冑に深紅のマントのその集団は、リッチーを切り捨てて走り抜けていった。団の名をScVScarlet colored Vampaireという、強い団があれば善悪の区別なく宣戦布告する、受けなければ汚く罵るマスターLapisはいかれていると評判だった。街でも安息が得られない戦争は2つの団どうしで行うのが普通だが、常に複数の団と敵対しているのが狂戦士集団ScVだ。その姿に魅了されてしまったClariceにとっては、その出会いがその後の人生を変える決定的なものとなった。


 その後、ScVを退役した居酒屋の主人との出会い。給仕をしつつ、そこで出会った友人と特訓を受ける日々。家を手に入れ、ホッキョクグマを飼い。大量発生したモンスターにやられそうになった時には、カタコンベで出会った名も知らぬ戦士たちが助けてくれた。ついにはScVに入団。チートを使う中国マフィアなどありとあらゆる強敵たちとの闘い、Yamato大戦とよばれるサーバ全体を巻き込む雌雄を決する死闘に勝利した後、ScVは姿を消した。


MMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)という自由物語世界


 1997年ゲーム界に激震を起こしたウルティマオンラインが登場した。リチャード・ギャリオットが、ファンタジーな世界での生活を実現することを夢見て提供し続けたRPGウルティマの剣と魔法の世界をプラットフォームとして、オンラインで接続して自由に生活できる環境をついに提供した。プレイヤーは、木こり、採掘、釣りなどの素材を売る一次産業、素材を加工して料理、武器防具、家具などとして販売する二次産業、需要と供給により価格が変動する商店を営むことができる。地下迷宮にはモンスターが存在し、アイテムを収集することもできる。システムで用意されたクエストなどなく、リアルな生活がそこにはある。あらかじめ職業を選択するという概念はなく、剣士となるか、魔法使いとなるか、生産者となるか、加工者となるかは関連する技能を繰り返し使うことにより鍛えるることにより選択する。1人で冒険することも、チームを結成して集団で商業や探検や戦争を行うことも可能だ。鍛えていなければ鹿にも勝てない現実、リアルな世界がまさにそこにある。100人を超える戦争では、集団戦ならではの戦法が編み出され、少数精鋭による奇襲の有効性を体感し、集団による用兵の難しさを実感する。そこにはコミュニケーションがあり社会がある。プレイヤーたちには、そこでの生活が学業や仕事の合間の数年間でしかなかったとしても、それぞれの濃い記憶と体験と物語が残るのだ。


フューチャー・リテラシー:インデックス

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ヒトを魅了するゲームという仮想世界:ロールプレイングゲーム

 ゲームは、人と人の知的コミュニケーションとイマジネーションのツールとして紀元前より深くかかわりを持ってきた。現代の花形、ロールプレイングゲームは、なぜヒトを魅了し続けるのだろうか。


ロールプレイングゲームという世界


 最も古い時代の遊戯盤は紀元前3000年頃のものが残されている。例えば、古代エジプトで遊ばれたツタンカーメンのゲーム盤として有名な「セネト」は、11で対戦する双六、バックギャモンのルーツであり、相手の移動を阻むことができることから、偶然だけではない戦略性がプレイヤーを魅了した[1]。そして、5000年後。


 競争、運、模倣、眩暈、努力、技能習得[2]といった遊びの要素を備える総合遊戯ロール・プレイングゲーム(RPGは、1974年に発売されたダンジョンズ&ドラゴンズ(D&Dを源流とする。ロール・プレイングを直訳すると「役割を演じる」となり、要するに「ごっこ遊び」を詳細にルール化したプラットフォーム上で遊ぶのがRPGだ。


 D&Dでは、指輪物語(ロードオブザリング/1954年に大きく影響を受けたファンタジーの世界で戦士、僧侶、盗賊、魔法使いなどの職業、人間、エルフ、ドワーフなどの種族を選び、能力を決め、キャラクターの名前をつけてごっこが始まる。コンピュータゲームのコンピュータ側を担当するのがマスター、ごっこを演じるのがプレイヤーで、4,6,8,10面ダイスを降りながら確率表をもとにシナリオを進める。80年代アメリカの少年たちを夢中にさせ、ETNetflixのストレンジャーシングスでその様子を垣間見ることができる。マスターは、シナリオから逸脱しすぎるとストーリーが破綻するため、プレイヤーをシナリオ上で動くよう自然な誘導が必要となる。どれだけ役になりきって演じられるかはプレイヤーの妄想力しだいだが、「神と英霊の名に命じるイグゾーダス」などと唱えるところを恥ずかしがり屋の日本人は「左のモンスターにファイアーアロー(炎の矢)をキャスト(詠唱)」という具合に淡々と進めることとなる。


 本家D&Dは日本の少年たちを魅了することはなかったが、ゲームマスターの煩雑な役割をコンピュータが行い、声を出して演じる必要がないコンピュータRPG(ゲーム機、スマホを含む)には夢中になった。古くはアメリカのウィザードリー(1981年)、ウルティマ(1981年)、日本ではドラゴンクエスト(1986年)、ファイナルファンタジー(1987年)が有名だ。ウィザードリー地下迷宮での探検を、ウルティマはファンタジー小説世界での生活を、ドラゴンクエストは漫画世界への参加を、ファイナルファンタジーは映画世界への参加を目指し、シナリオへの参加・インタラクションを提供した。


 コンピュータRPGは、フィクション世界の体験手段を読書からコンピュータ操作へと移行し、頭の中でのイマジネーション体験をディスプレイ描画との共体験へとシフトさせた。ソクラテスは、文字と書物を使うことを記憶力の喪失とし、書物を語り掛けても応えないもの、読者を選ばないものとして批判した。読書の物語がゲームの物語への急激に移行する過渡期に立つ現代、それを嘆き批判するのではなく、何を失い、何を得ることになるのかを見極める視点が必要となる


フューチャー・リテラシー:インデックス


参考書籍:

[1] 増川宏一(2006), "遊戯 :その歴史と研究の歩み", 法政大学出版局

[2] ロジェ・カイヨワ(1973), "遊びと人間", 多田道太郎・塚崎幹夫訳, 講談社学術文庫


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【閑話休題】「脈動する宇宙」を「ミクロ・マクロ・ネットワーク」の視点で読み解く

 無限の多元宇宙(マルチバース)の中で138億年間続いたこの宇宙は、4つの相互作用の絶妙なバランスにより、停滞・霧散することなく複雑化しながら新たな構造をつくり続ける。


●ミクロ・マクロな宇宙のネットワーク


 陽子(+)と電子(-)が出合ってゼロにならず、水素をつくるだけでは終わらず、中性子を介して反発する複数の陽子をつなぎとめ、弾け散り、集まり、燃え、新たな元素を生成し、爆発し、さらに多くの元素をまき散らし、恒星を、惑星をつくり、ブラックホールとなり、銀河を銀河団の誕生と死と再生を繰り返す。安定することのない宇宙環境と、それに適応して均衡状態のバランスを探りながら新たな構造をつくり、永遠の均衡が存在しないがゆえに新たな均衡を模索し続ける。


 本書は、複雑系の過去・現在・未来を「ミクロ・マクロ・ネットワーク」というモデルを通して、物語として読み解く宇宙環境の変化への元素の適応をミクロ・マクロ・ネットワークの視点から整理すると3つの仕組みとして俯瞰できる。


宇宙環境適応の仕組み】

 ①ネットワーク適応:

  ③の相互作用の安定する均衡状態(ex.元素、恒星)をさぐる仕組み。

 ②ネットワーク構造の記憶・維持:

  均衡状態(ex.元素)を記憶し保持しようとする仕組み。

 ③ミクロ・マクロ相互作用:

  ①②で構築された均衡状態を構成単位(ex. 元素、恒星)とした、構成単位毎および宇宙環境との相互作用。


ミクロ・マクロ・ネットワーク(宇宙)


 宇宙の専門家ではない読者が、ビッグバンから銀河・惑星誕生までの仕組みを読み解くとき、宇宙の環境変化に対して、どのような相互作用が働き、どのようなエネルギーなどの均衡=安定状態をとり、またその状態はどのような環境において安定・不安定であるかという視点で探ると、様々な宇宙論の中からバランスの良いものを選び、理解し、物語を組みたてることができる。次々に浮かぶ疑問をそのまま放置しておかないことが肝心だ。調べてみると、それが以外と今ホットな話題だったりする。そして、誰か一人の言だけを信じず、なにかを直感したら、なぜそう思うのかをネットや他の書籍を散策して確認することだ。


例えば、

・電子はなぜ原子核の引力によって原子核に落ちないのか

・超新星爆発の際に恒星内でつくられた元素は破壊されてないのか

・地球にはなぜこれほど多くの元素が存在するのか。その存在比は宇宙において一定のものなのか

・生命が誕生するために適切な元素比はあるのか、あるとしたらなぜそれが地球に集まったのか

・60億年前に始まった宇宙の加速膨張と、46億年前の地球や生命誕生との関係は


 元素というプラットフォームを得て、地球という惑星をつくった宇宙は、地球を実験場として新たな相互作用を創造しながらメタな構造を次々とを組み立てていくことになる。


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元素に富んだ岩石惑星「地球」誕生(45億6000万年前)

 豊富な元素を含む「地球」が誕生したのは、宇宙誕生から130億年の銀河の辺境で超新星爆発が発生したという絶妙なタイミングだったからだ。


●ナイスタイミングで誕生した太陽系[1]


 宇宙は、膨張が進みすぎれば銀河を形成する間もなく膨張し続け、逆に収縮に転じる速度が早ければつぶれてしまう。ビッグバン直後からやや減速しつつ膨張し続け、ファーストスター爆発の後、大量の銀河が誕生・衝突・統合を繰り返し、太陽系が存在する「おとめ座超銀河団」の「天の川銀河」を形成した。そして、銀河の統合により宇宙全体に広がっている銀河同士の距離が遠くなると「膨張する宇宙」と銀河の重力により「減速する力」の均衡点を超え、約60億年前から加速度的な膨張に転じた。そして、天の川銀河の辺境に、ウランまでの元素を集め、岩石惑星をそして生命を誕生させるためにちょうどいい塩梅の46億6700万年前というときに「太陽系」を生み出す。

 

●物質大循環と衝突の繰り返しが岩石惑星「地球」を形成[1][2][3]


 456700万年前が矮小銀河と衝突し、爆発的に星が形成される「スターバースト」の騒乱が渦状腕の近くに分布する「分子雲」に到達し、周囲にあった「星間物質」に濃淡をつくる。重力と恒星内の爆発の均衡のなかで「核融合反応」により高温で燃え輝き続ける恒星=太陽が誕生した。


 太陽を形成した「分子雲」は、水素(97%)やヘリウム(8.9%)を主成分とし、超新星爆発などによって生成された様々な物質(炭素、窒素、酸素、マグネシウム、ケイ素、鉄など:0.1)で構成されたガス状の集まりだ。「太陽」にその99.8%が吸収され、残りの0.2%が太陽を中心として「回転する力」と重力により「落下する力」の均衡により太陽への落下を免れ、太陽の周囲に高速に回転する環を形成する。太陽の近くでは、太陽の高温にさらされて水分が蒸発し、ドライな物質だけが残った。太陽風に吹き飛ばされた水分などの揮発成分は、火星と木星の間を境界線とする「スノーライン」の内側には水蒸気を、外側には氷や有機物などのより低温で安定な物質とともに残留した。


 円盤から垂直方向にエネルギーが放出され、徐々に回転を緩め、環の中心面に向かって固体分子(塵や氷)が「沈殿」する。沈殿した固体分子は乱流の中で静電気力や重力相互作用によって集積し合いながら大きくなり、数10Km程度の「微惑星」となって分離する。100億の「微惑星」どうしは、さらに衝突・合体を繰り返して巨大化し、同一軌道上の「微惑星」を取り込み終えると、太陽を中心として長期にわたり公転する「惑星」を形成する。


 太陽に近い軌道では、氷の粒子が蒸発したため微惑星が少なく小型化し「岩石惑星」を、木星の軌道よりも外側では大量の氷の粒子を集めて微惑星がぶつかり合い「太陽風」により飛ばされてきたガスを巻き込み巨大な「ガス惑星」を、天王星の外側の軌道では回転力が弱いため微惑星の衝突がほとんどおきず小さな「氷惑星」を形成する。そして、456000万年前、(32.1%)、酸素(30.1%)、シリコン(15.1%)、マグネシウム(13.9%)、硫黄(2.9%)、ニッケル(1.8%)、カルシウム(1.5%)、アルミニウム(1.4%)[4]、金銀プラチナなどの重金属、レアアース、ウランなどの元素で構成される岩石石惑星「地球」が誕生した。


 ウランまでの豊富な元素材料をそろえる地球は、分子の実験場として様々な物資を生み出してゆくこととなる。


フューチャー・リテラシー:インデックス


参考書籍:

[1] 佐藤勝彦(2015, "宇宙137億年の歴史 :佐藤勝彦最終講義", 角川学芸出版

[2] 吉岡一男(2017, "初歩からの宇宙の科学", 放送大学教育振興会

[3] 丸山茂樹(2020,"最新 地球と生命の誕生と進化:[全地球史アトラス]ガイドブック", 清水書院

[4] 英語版Wikipedia, "Earth", Earth - Wikipedia



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恒星の生と死の繰り返しのなかでつくられた豊富な元素 -- 鉄より重い元素をつくろう!

●恒星の生と死の繰り返しのなかでつくられた豊富な元素  -- 鉄より重い元素をつくろう!


 元素表の元素を生成するためには、巨大な恒星内の核融合よりも莫大なエネルギーが必要だ、離散融合を繰り返す宇宙は、さらなる元素生成の実験場を誕生させた。

 恒星の中での核融合反応が止まると、核融合による「膨張する力」と重力による「落下する力」の均衡がくずれ、鉄の層は中心部に向かって光速の2割ものスピードで落下しはじめる(重力崩壊)。中心部は超高圧のため鉄原子に電子が押し込められ、陽子が中性子に変わり(弱い相互作用)中性子のコアができる。中性子のコアに鉄の層が落下し跳ね返り、激しい高密度の衝撃波が発生する。さらに、中心部のコアの重力崩壊が進み、やがて回転する巨大なブラックホールとなり、周囲を巻き込みながらジェット流にのせて元素をまきちらす極超新星爆発をおこす。


 この極超新星爆発において、ケイ素層や酸素層下部では、衝撃波が通過するときの高温高密度下で鉄を中心とした元素を生成、重い原子核は大量に生成された中性子を捕獲し、さらに重い原子核となる。陽子と中性子の均衡がとれる数に達すると電子を放射して安定した元素となり(弱い相互作用)、さらに中性子を捕獲してより重い元素を生成し、鉄より重い元素を生成する連鎖が続く。このようにして元素表にあるさまざまな元素が巨大なブラックホールの周囲から、ジェット流にのって宇宙空間に広がった。


 ファーストスターのサイズは、ダークマターの密度の偏りにより異なり、先に示した太陽質量の40倍程度のものから、大きなものは短期間に6万倍にも巨大化し、その最後に超新星爆発とともに中心核からモンスターブラックホールを形成、さらに周囲の星間ガスをとりこみ、モンスターブラックホールどうしが合体し太陽質量の10億倍もの超巨大ブラックホールとなり、ファーストスターからまき散らされた元素=星間ガスをもとに数千億の恒星を生み出す銀河へと成長してゆく。

 銀河の中では、ばらまかれた星間ガスが集まってさまざまなサイズの恒星が誕生と死を繰り返す。コアが中性子星となり恒星表面に到達した衝撃波により超新星爆発をおこすもの、超新星爆発をおこさずゆっくりとした中性子核融合によりプラチナよりも重い元素を生成するもの、連星系による核爆発型の超新星爆発により炭素、酸素、ケイ素そして鉄を大量に生成するもの、中性子星の連星の衝突・合体により金やプラチナなどの重金属を大量に生成するものなど、現在に地球にある豊富な元素は恒星の生と死の振り子のリズムから徐々に生成されていったのだった。


フューチャー・リテラシー:インデックス


参考書籍:

[1] 佐藤勝彦(2015, "宇宙137億年の歴史 -佐藤勝彦 最終講義-", KADOKAWA

[2] 和南城伸也(2019, "なぞとき 宇宙と元素の歴史", 講談社

[3] 谷口義明(2019, "宇宙はなぜブラックホールを造ったのか", 光文社

[4] 谷口義明(2019), "宇宙の誕生と進化", 放送大学市教育振興会


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ファーストスターが銀河の種をまきちらした --- 鉄までの元素をつくろう!

●ファーストスター内部で鉄までの元素をつくろう!


 周期表の水素とヘリウム以外の元素はどのように創造されたのだろうか。水素(陽子1)、ヘリウム(陽子2)、順に陽子を足していけば水素をもとに他の元素をつくることができそうだが、お互いにプラスのため反発し合う陽子同士は近づくことができない(電磁気相互作用)。かの錬金術師たちが、どのように頑張っても他の元素から金をつくることができなかったわけだ。

 ところが恒星内において原子核が超高温・超高圧状態にさらされると、電子と原子がばらばらになり、陽子同士が衝突することができるようになる。陽子どうしがぶつかると陽子過剰となって陽子から陽電子(プラスの電荷)とニュートリノが飛び出して中性子となり(弱い相互作用)、陽子と中性子が結合することにより水素原子核(陽子1)⇒重水素原子核(陽子1+中性子1)⇒ヘリウム原子核(陽子2+中性子2)へと形を変えていく(強い相互作用)。いったん、ヘリウム原子核が構成されると、低温低圧状態にもどっても結合がほどかれ水素にもどることはない(強い相互作用)。恒星内の反応としては、水素からヘリウムへの核融合の期間がもっとも長い。

 恒星内の中心にヘリウムが蓄積され、さらに高温・高圧状態がすすむと、炭素、酸素、ネオン、マグネシウム、ケイ素、硫黄、カルシウムなどが連鎖的に生成される。より大きな元素番号へと核融合反応が進むにつれてエネルギーを放出しているため軽くなり結合力が強く働くようになる(強い相互作用)、一方で鉄よりも陽子が多くなると反発が強まり(電磁気相互作用)、最も安定した元素=鉄を生成したところで核融合反応が終了する。ファーストスターが誕生してから数百万年かけてようやく鉄(元素番号26)までの元素が創造することができた。


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参考書籍:

[1] 佐藤勝彦(2015), "宇宙137億年の歴史 :佐藤勝彦 最終講義-", KADOKAWA



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ファーストスターが銀河の種をまきちらした --- 水素のとヘリウムのネットワークが光をともす


●ファーストスターが宇宙空間に光りをもたらした


 今私たちがあるのは、初期の宇宙のわずかなゆらぎが水素とヘリウムのネットワーク=ファーストスターを編み出し、集散離合のリズムの中から今ある元素を生み出したからだ。


 水素とヘリウムで満たされた宇宙では銀河を作る材料もなく、薄いガスが静かにただ広がるだけのはずだった。しかし、実際には水素を超える大量のダークマターが宇宙に広がり、重力により影響を与え合っていた。

 「宇宙の晴れ上がり」から1億年の時をかけて、太陽質量の100万倍のダークマターの塊の重力に20万倍のガス(水素とヘリウム)が引き寄せられ、最初にあった密度の差が濃くなり編み目のような模様をつくりはじめる。

 さらに、密度の濃い部分では1000度の高温の乱流状態となり、分子同士が近接し、「電磁気相互作用」によって集まり、一部は化学反応により合体し、さらに「重力」による収縮が始まる。わずかに回転していた「分子雲」は、収縮にともない高速に回転する円盤となり、中央部は「重力」によりさらに中央に向かって落下を続ける。やがて、重力による「落下する力」と、落下のぶつかり合いがおこした熱による「膨張する力」が均衡し収縮が止まり、内部の熱により輝く「原始星」が誕生した。この時の大きさは太陽の直径の5倍、太陽質量の100分の1ほどと軽く、宇宙に初めてかすかな光りをともした。

 「原始星」へ向けて高速のガスが流れ込み続け、太陽質量の20の重さになったときに1500万度を超え、「核融合反応」を繰り返すようになり、太陽の10万倍もの明るさで輝き照らす。この光がまわりのガスを暖め、ガスが星にふりつもるのにブレーキがかかる。さらに7万年後太陽質量の42、表面温度10万度の高温で燃えさかったとき、核融合による大規模な爆発「膨張する力」と重力による「落下する力」が均衡し、ついにその成長を止めた。


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参考書籍:

[1] 佐藤勝彦(2015), "宇宙137億年の歴史 :佐藤勝彦 最終講義-", KADOKAWA

[2] 吉田直紀(2018, "地球一やさしい宇宙の話 :巨大ブラックホールの謎に挑む! - ", 小学館



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ビックバンの冷却とともに徐々に形づくられる宇宙(2) -- 初めての元素の作り方

 最初の元素が誕生するまでの宇宙はあまりに熱く、水素とヘリウムの原子核、光子と電子が激しく暴れる荒ぶる宇宙が広がっていた。


●水素とヘリウムの原子核が広がる暗黒の宇宙[1]


 ビックバンからおよそ3分後宇宙の温度が10億度に近づくにつれて陽子や中性子に作用する「強い相互作用」「弱い相互作用」の影響が強まり、ビックバン原子核合成がはじまり、水素とヘリウムの原子核が合成されはじめる。宇宙が急速に広がり冷えていき、それ以上の核合成が進む前に、水素の原子核(75%ヘリウムの原子核(25%(と極極微量のリチウムなど)だけが宇宙空間に広がる。このまま穏やかに広がっていけば、水素・ヘリウムガスが何百光年も広がった空間が宇宙となるはずだった。実際、最初の元素が誕生するまでは、原子核と電子が宇宙空間に散乱し光子が直進できない「宇宙の暗黒時代」とよばれる真っ暗な空間が広がっていた。暗黒の宇宙というと穏やかなイメージだが、今よりも狭い宇宙空間の中で光子と陽子、電子ぶつかり合う激しい運動を繰り返していた。


●原子の誕生とともに晴れ上がる宇宙[1]


 ビックバンの後、3000に冷えた38万年後、陽子と電子の運動がおだやかになり「電磁相互作用」が働くようになると、原子核+と電子-とがお互いに引きあい、最初の元素である水素原子とヘリウム原子が誕生する。元素といえば「すいへいりーべー」で覚えた周期表が思い浮かぶ。周期表に記載されている元素は最初から宇宙に存在していたわけではなく、ビックバンから38万年後の宇宙に広がる元素の99.9%が水素(75%)とヘリウム(25%)、と極々微量のリチウムなどしか存在しなかったということに驚く。現在の宇宙全体の元素の比率も大きく変わらず、99.9%は水素とヘリウムで満たされており、残りの0.1%に他の元素がひしめき合っている。原子が生成されるようになると、ようやく光子が直進できるようになり「宇宙の晴れ上がり」をむかえる。我々が137億年先に宇宙の光をみるとき、それはようやく直進しだした光子の光なのだ。


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参考文献:

[1] 佐藤勝彦(2015, "宇宙137億年の歴史 :佐藤勝彦 最終講義", 角川学芸出版



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ビックバンの冷却とともに徐々に形づくられる宇宙(1) -- 4つの相互作用の均衡が宇宙を作る

●ビッグバンとともに誕生した大元の4つの相互作用[1][2]

 138億年前、宇宙は超高温高密度のエネルギーの塊から一瞬にして体積が指数関数的に膨張し熱エネルギーが解放され、1000キロメートルほどの火の玉宇宙の膨張=「ビックバン」が始まる。膨張とともに冷えていくなかで、集合-分散を繰り返しながら少しずつ宇宙の物理法則とそのかたちを創っていく。ビッグバンの直後は1000兆度を超え超高温高圧であったため原子すら存在できなかったが、宇宙の膨張・冷却という環境変化とともに質量をもつ素粒子(陽子、中性子、電子)や重力・電磁気力などの相互作用がつくられた。

 本書でいう、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」のもとは4つの相互作用であり、138億年のときをかけて、宇宙を、星を、生命を、人間を、社会をつくりあげてゆくことになる。学生のころに習った「力」や「相互作用」は、この世界を説明するものとして存在したわけだが、宇宙誕生から歴史をひもとくと4つの相互作用によって集散を繰り返し、あるときは創造のもととなる環境を、あるときは互いに影響をおよぼす相互作用を、あるときは自身を構成する仕組を創りながら徐々に今ある世界を組み立てる。

 

●宇宙は4つの相互作用の均衡で創られている[1][2]

 我々の知覚する宇宙は宇宙創生の直後、宇宙の冷却とともに段階的に発生した4つの相互作用によって形成されている。4つの相互作用は、宇宙環境の中で物質が断片化、連結・再集合を繰り返すことにより、宇宙の構造そして生命をより複雑な仕組みへと導いていく。

 

1)重力相互作用(宇宙創生から10-44秒後)

 リンゴが落ちるときにはたらいている相互作用。あらゆる粒子にはたらくけれど力は非常に弱い、が、宇宙のマクロなレベルでは重力だけで語られる。「重力子」の交換により伝わる。無限遠まで作用して、距離の自乗に反比例し、質量に比例する。質量が極端に小さい原子、分子のレベルでは、ほとんど影響しない。

 

2)強い相互作用(宇宙創生から10-44秒後)

 陽子、中性子、原子核を形づくる相互作用。「グルーオン」の交換により伝わる。電磁気相互作用より強いが、原子核程度のきわめて狭い範囲にしか働かない。「強い相互作用」がなければ電荷がプラスの陽子どうしは反発して2つ以上の陽子が核内に存在することはできない。中性子が核内にあると「強い相互作用」の方が強く働くようになって2つ以上の(元素表の)陽子が核内に存在できるようになる(例えば、ヘリウムは陽子2+中性子2)。つまり、原子核は「電磁気相互作用」の反発力と「強い相互作用」の引力の均衡の上になりたっている。

 

3)弱い相互作用(宇宙創生から10-11秒後)

 原子核の種類を変えてしまう錬金術な相互作用、太陽のエネルギー、原水爆、原発、星の内部の核反応に関係する。「ウィーク・ボソン」の交換により伝わる。水素の原子核(電荷+1)からヘリウムの原子核(電荷+2)となるとき、逆に水素の原子核(電荷+1)=陽子が中性子(電荷0)となるときに働く。もちろん、この連鎖で水素が金となる際にも働く。この相互作用がなければ、周期表に記載される原子のバリエーションは存在しなかった。こうやってみると、陽子と中性子って状況により姿を変えるだけのものなんだなーと。だが、そう言ってしまうと、元素は皆水素になってしまうわけで。


4)電磁気相互作用(宇宙創生から10-11秒後)

 我々が普段経験する重力以外のすべてにはたらいている相互作用。地震、雷、磁石、化学反応、物を押して移動する、木を折る、ボールを投げる、飛行機が飛ぶ、そして電子と原子核を結びつけて原子をつくるときにはたらいている。「光子(フォトン)」の交換により伝わる。無限遠まで作用し、距離の自乗に反比例し、電荷の積に比例する。我々が体験できる重力以外のすべては、電磁気相互作用によっているという万能・ビックリな相互作用

 

フューチャー・リテラシー:インデックス


参考書籍:
[1] 佐藤勝彦(2015), "宇宙137億年の歴史 -佐藤勝彦 最終講義-", 角川学芸出版
[2] 吉田直紀(2018), "地球一やさしい宇宙の話 - 巨大ブラックホールの謎に挑む! - ", 小学館


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産業革命はなぜ18世紀にイギリスで始まったのか(2)


【壁の手前で広がりプラットフォームを形成するネットワーク】[1][2][3][4][5]

大多数の停滞と倦怠、そして少数の活気のある点がまばらに発生しては消える。封建国家という制度を形成するに至り、その中であがきながら複数ネットワークを構築し、次の大爆発の時代を迎える準備を進めていた。封建制度、重商主義を基盤プラットフォームとし、交通ネットワークを商業ネットワークが、商業ネットワークが貨幣・信用取引経済ネットワークを支え、初期の情報ネットワークが各ネットワークをつなぎ、相互作用しながら拡大し、産業革命を支える開かれたネットワークプラットフォームを形成していった。

 

●封建制度が資本主義への下地をつくった

・農業から始まった人の集まりが、内外の相互作用と集散を繰り返しながら、部族、首長社会から国家へと巨大化し、限られた資産である土地や金銀にモノの価値を代替させる封建社会、重商主義を生み出した。

・人口を増やし、戦争により領土を広げる時代において、土地を分配する仕組みとしての封建制度は、社会的な平穏を支え、財産と社会的特権を保護し、世代を超えた大量の富の蓄積を可能とし、貨幣経済との連携により17世紀までのさまざまなネットワークのベースとなるプラットフォームを形成した。

・分配の基盤となる土地に限界が生じてもなお制度を維持するためには領土を広げる必要があった。各国は、報酬となる土地がないままに戦いつづけ疲弊し、次の時代にバトンを渡すときを待っていた。

 

●農民の低賃金スパイラルと中産階級の誕生

 農業におけるさまざまな道具や農法との共進化の結果、1万年をかけて徐々に生産性を高め人口を増やしたが、農民の生活はいっこうに楽にならなかった。生産性があがると、人口が増え、人口が増えると土地一人当たりの賃金が下がり、生存率が下るという低賃金のスパイラルから抜け出せずにいた。

 一方で、農民たちから搾取される余剰生産物は分業をうながし、貴族・大地主ではないが、さまざまな手段で富を蓄積する中産階級が経済活動になっていった。17世紀におけるイギリスでは、中産階級の増加が顕著であり、次の時代をつくる原動力となっていった。

 

●交通ネットワーク

アジアからヨーロッパまでの南北の交易を東西につなぐシルクロード。15世紀以降の大航海時代をささえた海の道。主要な交通路を軸に、都市と街を繋ぐ支線をひろげ、文化や商品、情報が大陸を縦横にかけめぐった。異なる思想や文化をもつ国々の技術に着想をえて発明・改良を繰り返すことにより、アジア・中東・ヨーロッパ各国の文化・技術は加速度的な進化をとげた。さらに、15世紀半ばから17世紀までの大航海時代を迎え、市場の巨大化、グローバル化に拍車がかかり、巨大な富を信用取引によって生み出すベースプラットフォームとしての役割を担うこととなった。イギリスとオランダとの間で繰り返し行われた海上での覇権争いは、18世紀の第四次英蘭戦争によりイギリスがトップに立つことで決着した。

 

●商業ネットワーク

商業ネットワークは、生産と消費をつなぎ、経済の原動力となり、刺激、活力、革新、発見、成長をうながし、階層・分業化を進めつつ商取引のネットワークを巨大化させていった。

1)農民など大多数を占める自給自足、それをつなぐ行商人のネットワーク

自給自足の生活をおくる農民は物々交換を基本としており、1万年を経てなお貧困で余剰資産を蓄えることが困難だった。わずかに発生した余剰資産を貨幣と交換し、税の支払いや「市」での買い出しにあてていた。

2)「市」を中心とする市場経済ネットワーク

町や都市における「市」を中心に、輸送、保管、牽引、各種商人、高利貸し、卸売りなど新たな階層化・分業を生み出し、「市」は生成、消滅、再生を繰り返しながら、市場経済ネットワークを広げていった。「市」は本来開放系であり、売手と買手の競争原理が働く、ある程度予測可能な経済ネットワークを形成し、市民の需要を満たし、都市を拡大し、そしてより大きな需要をつくりあげていった。イギリスにおける「高賃金化」は「国民市場」を活性化させた。

3)大市、取引所から広がった資本主義ネットワーク

資本家たちは大市や取引所に大量の資本を投入して、軍隊や大都市の巨大な食料需要を賄うことによって大きな利益を蓄積していった。大航海時代を迎え、グローバルな交易において、広範囲な情報や知識、債券操作の技術を駆使した、投機的な資本主義経済ネットワークを構築した。市場の独占権を得た資本家たちは、投資がさらなる収益を生む新たな市場、新たな仕組みを探し続け、産業革命を推進するパワーを蓄え続けた。

 

●貨幣・信用取引経済ネットワーク

異なる商品価値を仲介する必要から生み出された貨幣は、重商主義を経て交易で得た富を蓄積することにより世代を超えた大資本を生み出す手段として活躍し、交換を大規模化し、商人間の信用取引、海洋取引の保険、「オランダ東インド会社」に始まる株式会社への投資、アムステルダム銀行、イングランド銀行などの巨大銀行により貨幣の利子が膨大な富を生み出す仮想ネットワーク上での取引を加速させた。産業革命においては、生産性への投資が新たな利益を生む仕組みを構築することになる。

 

●情報通信ネットワークハブとしてのコーヒーハウス[6][7]

 初期の情報メディアとして大きな役割をはたしたのが17世紀末のロンドンやオックスフォードに大量発生したコーヒーハウスだった。そこにはさまざまな人々が集まり、商売、政治、生活、ファッション、貿易、船舶、文学、ゴシップなどなどあらゆる情報が交換された。

ここで交わされた会話が、産業革命の進展とともに保険会社、株式会社、政党政治、新聞、広告、電信ネットワークなどへと発展してゆく。

 

●読み書き、計算能力の向上、科学革命

18世紀の産業革命をささえる数々の発明は、15世紀の活版印刷の発明に始まる。活版印刷は、書籍を安価に手に入れられるものとした。書籍の普及は、情報を流通し、市民の教育(文字の読み書き、計算、技能教育)を推進するきっかけとなり、中産階級の増加、徒弟制度などとの相互作用により開発・発明家を生み出す下地をつくった。

産業革命直前の17世紀に、ケプラー、ガリレオ、ニュートンなど科学革命とも呼ばれる科学の大きな変革があった。ひとつの発見・発明は続く発見・発明に連鎖する。たとえば、デカルトの機械論的思想(1637年)に始まり、ゲーリケの真空ポンプ(1650年)、ボイルの法則(1660年)、ホイヘンスの火薬を使った往復エンジン(1660年)そしてついには、鉱山での配水のためのニューコメンの蒸気機関(1710年)を生み出すに至り、以降数々の蒸気機関の発明が世界を変える。

 

【急激な環境変化が引き金となる】

●黒死病による人口減少

黒死病によりヨーロッパの人口の1/3を死に至らしめた。ヨーロッパの多くの地域では、15世紀までに人口は回復し始めていたが、イギリスでは16世紀半ばまで人口は極めて低い状態を維持したままだった。

 

【大爆発の噴火口イギリス】

●人口減少によるロンドンの活性化と高賃金化

黒死病後に生み出された穀物用地の空き地をもとに、広大で肥沃な牧草地へと転換し、健康で毛の長い羊=新種毛織物を生み出した。17世紀ロンドンは、新種毛織物の海外航路での輸出により活気づき、高賃金にわいた。農民たちは、黒死病で空き地となった空き地を集め農地を拡大し、濃奴からヨーマン(独立自営農民)へと転身するなど、高賃金化の波が農地へもおしよせた。

 

●中産階級(ブルジョワジー)の拡大と封建社会の崩壊、民主主義の成立

 ロンドンの活性化は、貴族や大資本家たちと、雇われ農民を含む労働者たちとの中間で大小の富を蓄積する中産階級(ブルジョワジー)を増加させた。彼らは、市民革命の主体となり、イギリスの名誉革命により立憲民主主義を成立させる原動力となった。民主主義は、「自由な取引」を行う資本主義を成立させるための必要条件だった。


●安価な無機エネルギー(石炭)への移行

 都市の急激な拡大は森林の急激な消費を促し、イギリスにおける木炭は高騰し15世紀には石炭価格の2倍となっていた。17世紀までにロンドンを中心とするエネルギー需要は激増し、急増する新築家屋では家庭で石炭を利用できるようになっていった。

豊富な石炭への転換は、炭鉱からの無尽蔵で安価な燃料を供給を可能とし、イギリスにおけるエネルギーを極めて安価なものとした。


[1] フェルナン・ブローデル(2009), "歴史入門" , 金塚貞文訳, 中央文庫

Fernand Braudel(1988), "LA DYNAMIQUE DU CAPITALISME", Flammarion

[2] フェルナン・ブローデル(1985), "交換のはたらき --物質文明・経済・資本主義15-18世紀", 村上光彦訳, みすず書房

Fernand Braudel(1979), "LA Civilisation matérielle, économie et capitalisme, XVe-XVIIIe siècle, Tome 2 : Les Jeux de L'écghange", Armand Colin

[3] フェルナン・ブローデル(1995), "世界時間 --物質文明・経済・資本主義15-18世紀Ⅲ", 村上光彦訳, みすず書房

Fernand Braudel(1979), "LA Civilisation matérielle, économie et capitalisme, XVe-XVIIIe siècle, Tome 3 :Le Temps du Monde", Armand Colin

[4] R.C.アレン(2017), "世界史のなかの産業革命 - 資源・人的資本・グローバル経済 - ",眞嶋史叙, 中野忠, 安元稔, 湯沢威訳 , 名古屋大学出版

Rovert C. Allen(2009), "The British Industrial Revolution in Global Perspective", Cambridge University Press

[5] グレゴリー・クラーク(2009), "10万年の世界経済史", 久保恵美子訳, 日経BP

Gregory Clark(2007), "A Farewell to ALMS", Princeton University Press

 Johon H.Ratey Md(2001), "A User's Guide to the Brain", Vintage

[6] 宮崎正勝(1019), "ユダヤ商人と貨幣・金融の世界史", 原書房

[7] 今井賢一, 金子郁容(1988), "ネットワーク組織論", 岩波書店


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産業革命はなぜ18世紀にイギリスで始まったのか(1)

上下水道や舗装道路など進んだ技術を利用していた古代ローマが産業革命を起こさず、18世紀のイギリスでなぜ産業革命という急激な変化が起こったのだろう。[1]

 

【産業革命による変革】

 産業革命は、それぞれの立場の人間に変革をもたらした。

・資本家

 生産性への投資が、新たな収益を生むという仕組みを構築。

・労働者

 資本家と労働者という関係が生まれ、過酷な労働条件で働く労働者が増加。

・技術者

 労働力を資本やエネルギーに代替する技術を開発。

・農業

 地主から土地を借り農民を労働者として雇って働かせる資本主義的な農場経営。

 

【ミクロ・マクロ・ネットワークと革新的な変化】

 環境に適応すべくさまざまなネットワークを広げるうちに超えることのできない【大きな壁】につきあたる。【大きな壁】の内側でネットワークは集散、拡大、刈り込みを繰り返しながら、環境変化に適応するための【プラットフォーム】を形成してゆく。あるとき発生した【急激な変化】をきっかけとして、【プラットフォーム】をベースにネットワークの形を変え、【突破口】を捉えいっきに【壁】をつきやぶり爆発的な速度で新たなネットワークを形成し始める。革新的変化の幕開けである。

 

【大爆発の突破口イギリス】

 古代ローマや旧世界18世紀においても奴隷などの安価な労働力を有する国々は、機械による自動化という発想すらなかった。一方、18世紀の世界の中心だったイギリスは「高賃金の労働者」と「低コストのエネルギー(石炭)」を保有していたため、蒸気機関などを使った機械による自動化のメリットがあり、後に産業革命と呼ばれる急激な発展をとげた。


 産業革命直前では、封建制度と重商主義を背景に、異なる複数のネットワークが網の目のように縦横に張り巡らし、それがマグマのようなうねりとなり集散を繰り返しながら、出口のない壁にぶつかり、ついにはイギリス(高賃金、安価な石炭)という突破口から産業革命というかたちで爆発的な変化を発生させ、ときをおいて世界に広がった。

 

【大きな壁】

17世紀までヒトは、その発展とともに集団の規模と居住区域を広げ、国家を形成し、より肥沃な土地を手に入れるための陣取り合戦を繰り返していた。土地の分配を基盤とする封建社会にとっての巨大な壁は、居住し、繁殖するために有利な土地に限りがあることだった。


参考文献:

[1] R.C.アレン(2017), "世界史のなかの産業革命 - 資源・人的資本・グローバル経済 - ",眞嶋史叙, 中野忠, 安元稔, 湯沢威訳 , 名古屋大学出版

Rovert C. Allen(2009), "The British Industrial Revolution in Global Perspective", Cambridge University Press


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生理心理学:脳の仕組みの入門書

 本書の扱う範囲が広いので、ある分野においての基礎理解しを全体を俯瞰する、または書籍を探す手助けとなる羅針盤が欲しくなる。が、なかなかに見つけるのは難しい。高校の教科書では、用語の羅列でしかなく手助けとならず、一般向けの教養書は筆者の見解や、興味のある部分に偏っていることが多く、とりあえず全体を把握したいという用途には向かない。
 ミクロ・マクロ・ネットワークをとらえるにあたって、「脳」内の神経ネットワークは避けることができない。が、例にもえず、なかなかに難物だ。結局のところ何の準備もないままに、「脳の誕生[1]」、「脳の進化[2]」、エンドコンテンツの一つである「進化の以外な順序[3]」、「脳のはたらきのすべてがわかる本[4]」と逆順に格闘することになったりする。
 そんな時にたよりになるのが、放送大学だ。「生理心理学[5]」と聞くと、心理学よりかと思いきや、「脳の仕組み」「神経細胞における信号伝達」「外界の認識」「記憶、学習、情動」と非常に幅広く神経ネットワークの概要を把握することができる。心理学といえど、生体の構造や化学的なイオンのやりとりなど、各分野横断的な視点を避けて通ることはできないということなのだ。
 ヒトがインターネットを創る6億年以上の昔から、生体における神経回路のネットワークは重要な役割をになってきた。特に生物が捕食によりエネルギーを獲得する戦略をとるようになってからは、餌を探すためや、捕食されないために外界からの情報を判断し分析することが必要となり急激な進化をとげた。軸索小丘におけるアナログ-デジタル変換、髄鞘を絶縁体とした高速デジタル通信、活動電位を改めて生成する中継器を備えた高速ネットワーク網がはりめぐらされている。神経ネットワークだけに着目しても生物の進化の創造力は我々をはるかに超えていことがわかる。

岡田隆(2018), "生理心理学", 放送大学出版
  • 難易度:★★
  • おすすめ入門書:★★★★
  • ネットワーク参考書:★

参考文献:

[1] 大隈典子(2017), "脳の誕生 -- 発生・発達・進化の謎を解く", ちくま書房

[2] ジョン・C・エックルス(1990), "脳の進化", 伊藤正男訳, 東京大学出版会

 J.C.Eccles(1989), "Evolution of Brain: Creation of the Self", Routledge, London 

[3] アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社

 Antonio Damasio(2018), "The Strange Order of Things: Life, Feeling, and the Making of Cultures", Pantheon

[4] ジョン・J・レイティ(2002), "脳のはたらきのすべてがわかる本", 堀千恵子訳, 角川書店

 Johon H.Ratey Md(2001), "A User's Guide to the Brain", Vintage

[5] 岡田隆(2018), "生理心理学", 放送大学出版




放送大学教材の勧め

放送大学教材

 今回書籍を執筆にあたって、物理、化学、生命、社会、経済など幅広い分野の知識が必要となる。専門分野以外の場合、そもそもどこから手をつければいいかが悩むのだが、そんな方にお勧めなのが「放送大学教材」
 大学、大学院レベルの講座が複数開設されており、それぞれに現代に合わせた最新の話題を工夫して掲載している。何より、各学問分野にまたがったものも多く、非常に参考になる。気になる講座を観てみることをお勧めしたい。

放送大学教材

「美しい」と感じる能力

ヒトには「美しい」と感じる能力があります。自然のなかで様々な色が交じり合う風景、昆虫や鉱物の模様、さらにヒトが表現する芸術(絵画・音楽・文芸など)が奏でる旋律の中に「美しさ」を見出します。

一方で、芸術作品だけでなく、多くの研究者や技術者、プログラマー、学生たちが、新しい発想や道筋を得た時に「美しい」と感じる瞬間(エウレカ!、Ahaなどの感嘆)を体験しており[1]、暗黙知を活用して正しさを「直感」する能力にもかかわっています。

ヒトの「感情」は、言葉に翻訳していては間に合わない事象に、少ないエネルギーで即座に対応ためのイメージの分類装置として機能します[2]。「感情」の一つである「美しい」もまた、自然から分泌される諸法則を発見する[3]分類装置として進化してきたと考えられます。一方で、その基準は、時代や地域、文化などの周囲の環境に影響を受け、適応し、変化と安定を繰り返しています。

本書のテーマである「ヒラメキ」において、「美しい」と感じる能力は、個人においては、暗黙知というイメージの集合をもとに「問題解決の道筋を見出す」「発見の正当性を感知する」際の直感的な分類装置=発見的評価フィルタとして機能し、「美しさ」の基準を共有する集団においては、新たな発想を受け容れる際にその有用性を選別するための保守的評価フィルタとして機能すると考えられます。

 

今後、「ヒラメキ」における、「美しい」と感じる能力の役割についても整理してゆきたいと思います。


参考文献:

[1] アーサー・ケストラー(1967), "創造活動の理論", 吉村鎮夫訳, ラティス

    Arthur Koestler(1964), "The Act of Creation", Hutchinson 

[2] - アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社

    Antonio Damasio(2018), "The Strange Order of Things: Life, Feeling, and the Making of Cultures", Pantheon

[3] ロジェ・カイヨワ(1972), "自然と美学 --形体・美・芸術--", 山口三夫訳, 法政大学出版局

    "Roger Caillois(1962), "Esthétique généralisée", Gallimard



目次(案)

フューチャー・リテラシー

-- 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」で読み解く過去・現在・未来 --


前編:「相互作用」の歴史に学ぶ

一章 【範・縁】 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」138億年

 物理世界では「相互作用」、生命世界では「コミュニケーション」が「個」を繋ぎ、ネットワークのパターンを描く。「ミクロ・マクロ・ネットワーク」の視点から宇宙・生命・社会のビッグストーリーを俯瞰する。

 1.1 「宇宙」の形成
 1.2 大量絶滅のたびに急激に進化する「生命」
 1.3 激動の波に適応する「社会・経済」
 1.4 ヒトと共進化する「人工メディアとネットワーク」


後編:【ミクロ・マクロ・ネットワーク】で織る未来 

 「ひらめき」は未来を形成する最初の一歩だ、その一歩を踏み出すからこそ未来が描かれてゆく。「ミクロ・マクロ・ネットワーク」で読み解く「未来の種」の発想法と具体例について示す。

二章 【型・編】 未来を読み解くための散策法 

 2.1 「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデル
 2.2 フィールドワークと情報編集
 2.3 アイデアプロセッシングの道具

三章 【顧・紡】 1990年から観た未来

 3.1  ジャスト・シード

 3.2 「未来の種」を育てる

四章 【活・織】 2010年から描く未来 

 4.1 計画されている「未来の種」
 4.2 コミュニケーション・インフレーション 
 -- 「知」の断片化がもたらすヒトの「未来」--

五章 【環・綾】 螺旋:知の淵を渦巻く振り子


「ヒラメキ」を誘発する「暗黙知」

「暗黙知」は、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」同様に、本書の主題となります。


暗黙知とは

 経験的に使っている知識だが簡単に言葉で説明できない知識[1]


「暗黙知」の分類

「暗黙知」は、その活用方法から以下に分類されます。

1)身体知

 例えば、顔の識別、自転車の運転

2)経験知(ノウハウ)

 例えば、職業的な技術の習得

3)発明を促す知識

 日本においては、野中郁次郎の影響もあり暗黙知=経験値ととらえる方も多のですが、本書ではマイケル・ポランニーが主題とする「発明を促す知識」としての「暗黙知」に着目します[2]
 ポランニーは、問題の探究における3つの段階に「暗黙知」が活用されるとします。
1)問題を妥当に認識する
2)問題解決の道筋を見出す
3)発見の正当性を感知する

脳内での「暗黙知」

 「暗黙知」が脳内でどのように蓄積され、活用されるかについては、アントニオ・ダマシオの「進化の意外な順序」で詳細化に記述しています[3]。「暗黙知の次元」「進化の意外な順序」ともに読み解くのが難しい書籍ですが、本書を通してこれらの意図することを理解できるようにしたいと思います。


参考文献:

[1] ウィキペディア, "暗黙知", 2020/4/11

[2] マイケル・ポランニー(2003), "暗黙知の次元", 高橋勇夫, ちくま文芸文庫

        Michael Polanyi(1966), "The Tacit Dimension", London, Routledge

[3] アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社

       Antonio Damasio(2018), "The Strange Order of Things: Life, Feeling, and the Making of Cultures", Pantheon


小さな書斎1

執筆スペースを整理しました
なんでも形から入るところがあって、まずは執筆環境を整えるところから。
といってもデスク周りだけなんですが。
・必要な本がすぐに取れる
・PC、iPadで編集できる
・立ち/座りがスイッチできる
(本当は、資料を立体的に空中に置けるスペースが欲しいんですがおいおいDIYで)

当面はこんな感じ

1)椅子での執筆
書斎パノラマ


2)立って執筆
書斎立ち2

【閑話】ミクロ・マクロ・ネットワークとは

ミクロ・マクロ・ネットワークとは


「ミクロ・マクロ・ネットワーク」を説明する際に、「ミクロ経済」「マクロ経済」のこと?と聞かれることがあるのですが、とりあえずは、そのようにとらえていただいて結構です。

もう少し説明すると、分子のミクロな(部分の)動的ネットワークが、物質としてのマクロな(全体としての)性質を持ち、また物質どうしのマクロな動的ネットワークを形成します。同様に、物質のネットワークが生命を、生命のネットワークが社会を、社会のネットワークが経済や国家を形成するようなミクロ・マクロな階層構造をなすネットワークを総称して「ミクロ・マクロ・ネットワーク」と呼びます。

ミクロ・ネットワークを構成する「部分」をつなぐ「リンク」は、物質世界では「相互作用」、生命世界では「コミュニケーション」と呼ばれます。また、「ミクロ・マクロ・ネットワーク」では「創発[1]」という性質が現れます。

「ミクロ・マクロ・ネットワーク」は、今井賢一、金子郁容の「ネットワーク組織論[2]」において用いられた「ミクロ・マクロ・ループ」に、さらに源流をたどると清水博の「フィードバック・ループ[3]」、アーサー・ケストラーの「ホロン[4]」に影響を受けています。


ミクロマクロネットイメージ

   「ミクロ・マクロ・ネットワーク」のイメージ



用語: 

創発[1]
創発(そうはつ、英語:emergence)とは、部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が、全体として現れることである。局所的な複数の相互作用が複雑に組織化することで、個別の要素の振る舞いからは予測できないようなシステムが構成される。

 


参考文献:

[1] ウィキペディア, "創発", 2020/4/5

[2] 今井賢一, 金子郁容(1998), "ネットワーク組織論", 岩波書店

[3] 清水博(1990), "生命を捉えなおす", 中公新書

[4] アーサー・ケストラー(1983), "ホロン革命", 田中光彦, 吉岡桂子訳, 工作舎




はじめに

blog目的:

 本blogは、書籍『フューチャー・リテラシー --「ミクロ・マクロ・ネットワーク」で読み解く過去・現在・未来--』の準備から自費出版までの記録・整理、出版後のフォローのために2020.4月1日に開設しました。
2021.10月31日を目標に段階的に内容の充実を図ってゆきます。

出版の目的:

 物理的な相互作用、生命におけるコミュニケーションの歴史の俯瞰を通して、読者の皆様が各分野で過去・現在・未来を読み解くためのお手伝いをすることを目的としています。

当面のゴール:

 より多くの読者の役に立てるよう、以下のいずれかのを当面の達成目標とします。
 1)1,000人の読者に読んでいただく
 2)商業出版

作業フェーズ:

・2020年度

 4月~9月:参考書籍の調査・整理
 10月~12月:執筆

・2021年度

   1月~10月:執筆
 11月~1月:POD出版
 2月:電子出版
 3月~5月:商業出版化のための活動

その他:

・2021.10月には安定すると思いますが、それまでの間、内容の書き換えを頻繁に行います。ご容赦下さい。
・コメントは当面可能としておきますが、手に負えなくなってきた際には非表示とさせていただきます。

プロフィール

佐藤基

Author:佐藤基
『フューチャー・リテラシー -- 過去・現在・未来、複雑系の未来を読み解く』
を執筆中。

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